【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
本発明にかかるアスベスト検出方法は、被検物に、蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質を接触させる、接触工程と、
上記接触工程を経た後に、上記被検物中に含まれている繊維状の物質を、位相差顕微鏡を用いて検出する、第1検出工程と、
上記第1検出工程において検出した上記繊維状の物質と結合した上記アスベスト結合タンパク質を、蛍光顕微鏡を用いて検出する、第2検出工程とを含み、
上記第1検出工程と上記第2検出工程とは、同一視野において行なわれる構成である。
上記「被検物」は、アスベストが含まれているか否かを検出する対象物を意味する。被検物としては、モルタル、ロックウールなどの建材、蛇紋石などの鉱石、アスベストを検出しようとする環境中の空気をサンプリングしたもの等が挙げられる。
空気(大気)中の被検物は、測定環境中の空気をフィルターでろ過することによって捕集することができる。被検物をフィルターに捕集する方法は、測定環境中の空気をフィルターでろ過して被検物を捕集することができる限り特に限定されない。例えば、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)に記載された方法に従って、被検物の捕集を行なうことができる。上記「フィルター」としては、特に限定されないが、通常、セルロースエステル製メンブランフィルターやポリカーボネートフィルター等が用いられる。
このように、上記被検物はフィルターに捕集されたものであってもよい。この場合は、接触工程を経た後の上記フィルターを透明化する、透明化工程をさらに含み、第1検出工程を、上記透明化工程を経た後に行うことが好ましい。
すなわち、フィルターに捕集された被検物についてアスベストを検出する場合、本発明に係るアスベスト検出方法は、フィルターに捕集された被検物に、蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質を接触させる、接触工程と、
上記接触工程を経た後の上記フィルターを透明化する、透明化工程と、
上記透明化工程を経た後に、上記被検物中に含まれている繊維状の物質を、位相差顕微鏡を用いて検出する、第1検出工程と、
上記第1検出工程において検出した上記繊維状の物質と結合した上記アスベスト結合タンパク質を、蛍光顕微鏡を用いて検出する、第2検出工程とを含み、
上記第1検出工程と上記第2検出工程とは、同一視野において行なわれる構成であるといえる。
なお、本明細書において使用される「アスベスト」は「石綿」と同義である。
この新規のアスベスト検出方法を、本発明者らは、「位相差蛍光法」と命名した。
〔1.接触工程〕
「接触工程」は、被検物(またはフィルターに捕集された被検物)に、蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質を接触させる工程である。
上記「蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質」は、蛍光物質によって修飾されたアスベスト結合タンパク質であってもよく、蛍光タンパク質とアスベスト結合タンパク質との融合タンパク質であってもよい。なお、本明細書では、上記「蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質」を、単に「アスベスト結合タンパク質」と称する場合がある。「蛍光標識」および「アスベスト結合タンパク質」については、後述する。
アスベスト結合タンパク質と被検物とを接触させる方法は特に限定されるものではないが、両者を効率よく接触させることができることから液体中でアスベスト結合タンパク質と被検物とを接触させることが好ましい。例えば、アスベスト結合タンパク質を含む溶液に被検物を添加し、それを十分に混和してもよいし、逆に被検物を含む懸濁液にアスベスト結合タンパク質を添加し、それを十分に混和してもよい。また、アスベスト結合タンパク質を含む溶液と被検物を含む懸濁液とを混合し、それを十分に混和してもよい。被検物がフィルターに捕集されている場合は、アスベスト結合タンパク質を含む溶液を、フィルターの被検物を捕集した面(捕捉面)に滴下することによって、被検物とアスベスト結合タンパク質とを液体中で接触させることができる。なお、アスベスト結合タンパク質と被検物とを接触させる条件(例えば、温度、時間等)については、両者が充分に接触できる条件であれば特に限定されるものではなく、適宜検討の上、好ましい条件を採用すればよい。
被検物に接触させるアスベスト結合タンパク質の量は特に限定されるものではないが、被検物の量に対してアスベスト結合タンパク質の量が少なすぎると、被検物中に含まれているアスベストを十分に検出できないおそれがある。一方、被検物の量に対してアスベスト結合タンパク質の量が過剰であると、アスベスト以外の物質とアスベスト結合タンパク質との非特異的な結合が生じ、精度が低下するおそれがある。従って、アスベスト以外の物質と非特異的な結合を生じ難く、且つ被検物に対して十分に接触し得る量のアスベスト結合タンパク質を、被検物に対して接触させることが好ましい。例えば、アスベスト結合タンパク質を含む溶液を、フィルターの捕集面に滴下する場合、アスベスト結合タンパク質を0.5nM〜5μM、好ましくは5nM〜500nMの濃度で含有している溶液を、フィルターの捕集面に対して33〜98μl/cm
2、好ましくは33〜49μl/cm
2となるように滴下することが好ましい。
上記「液体」としては、アスベスト結合タンパク質と被検物との結合を阻害または低下させたり、アスベスト結合タンパク質の被検物に対する結合の特異性を低下させたりするものでない限り、特に限定されない。このような液体としては、例えば、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、トリス緩衝液等を挙げることができる。
また、接触工程において、アスベスト結合タンパク質と被検物とを液体中で接触させる場合、非特異的な結合を回避するために、当該液体に界面活性剤(Tween20(登録商標)、Triton X−100等)が含まれていてもよい。後述する実施例においては、液体として、0.3M リン酸緩衝液(pH8.0)、0.3M NaCl、0.5% Tween80(登録商標)の組成の緩衝液を用いて接触工程を行っている。
本発明に係るアスベスト検出方法では、接触工程では、アスベスト結合タンパク質として、2種類以上の異なるアスベスト結合タンパク質を、被検物と接触させてもよい。この場合、上記2種類以上の異なるアスベスト結合タンパク質は、互いに異なる種類のアスベストと特異的に結合するタンパク質であり、且つ互いに異なる波長の蛍光を発する蛍光標識を有していることが好ましい。かかる構成であれば、続く第2検出工程において、異なる種類のアスベストを、蛍光の色の違いに基づいて容易に判別することが可能となる。
具体的に説明すると、アスベスト結合タンパク質として、例えば、クリソタイルに特異的に結合するタンパク質(例えば、DksAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73256))と、角閃石系アスベストに特異的に結合するタンパク質(例えば、H−NS
60−90タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC74319))とを組み合わせて用い、且つそれぞれのアスベスト結合タンパク質に、互いに異なる波長の蛍光を発する蛍光標識を有させる(例えば、一方のアスベスト結合タンパク質をCy3で標識し、他方のアスベスト結合タンパク質をDyLight488で標識する)ことによって、続く第2検出工程において、クリソタイルと角閃石系アスベストとを、蛍光色の違いに基づいて別々に検出することができる。なお、2種類以上の異なるアスベスト結合タンパク質の組合せ、および互いに異なる波長の蛍光を発する蛍光標識の組合せは上記に限定されず、検出したいアスベストの種類等に応じて、あらゆるアスベスト結合タンパク質および蛍光標識の中から適切な組合せを選択することができる。
例えば、一方のアスベスト結合タンパク質を緑色蛍光色素で標識し、他方のアスベスト結合タンパク質を赤色蛍光色素で標識すれば、クリソタイルと角閃石系アスベストとを、蛍光色の違いに基づいて別々に検出することができる。上記「緑色蛍光色素」として、例えば、フルオロセイン、DyLight488、Alexa488、ATTO488、CF488A等を挙げることができる。また、上記「赤色蛍光色素」として、例えば、Cy3、DyLight550、CF555等を挙げることができる。こららの「緑色蛍光色素」と「赤色蛍光色素」との中からそれぞれ一種類ずつ選択して組み合わせればよい。
ここで、「アスベスト結合タンパク質」および「蛍光標識」について以下に具体的に説明する。
(1−1.アスベスト結合タンパク質)
本明細書において、「アスベスト結合タンパク質」とは、アスベストと特異的に結合する性質を有しているタンパク質を意味する。タンパク質がアスベストと特異的に結合しているか否かについては、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中で、検討対象のタンパク質とアスベストとが結合するか否かを検討することによって判断することができる。つまり、0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中でタンパク質とアスベストとを混合し、アスベストに結合したタンパク質を溶出した後に、SDS−PAGE等の方法でタンパク質を検出する。もし、タンパク質が検出されれば、そのタンパク質はアスベストと特異的に結合するタンパク質(アスベスト結合タンパク質)であるといえる(具体的には、特許文献1を参照)。なお、少なくとも0.1M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中でアスベストと結合すれば、アスベストに特異的に結合するタンパク質であるといえるが、0.3M以上の塩化ナトリウムを含む溶液中では、タンパク質がアスベストと結合することが難しくなるため、0.1M〜0.3M、好ましくは0.2M〜0.3Mの塩化ナトリウムを含む溶液中で、検討対象のタンパク質とアスベストとが結合するか否かを検討することが好ましい。勿論、0.3M以上の塩化ナトリウム(例えば、0.3M〜0.5M、0.3M〜1M、0.5M〜1M、または、1M以上)を含む溶液中で、検討対象のタンパク質とアスベストとが結合するか否かを検討することも可能である。塩化ナトリウムの濃度が高ければ高いほど、アスベストに対するタンパク質の結合特異性は高いといえる。
このようなアスベスト結合タンパク質としては、例えば、H−NSタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC74319)、DksAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73256)、GatZタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNO.:AAC75156)、DnaKタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73125)、HlpAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73289)、YgiWタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC76060)、CspAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAN68075)、Cgl0974タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:BAB98367)、OmpCタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC75275)、OmpAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC74043)、S1タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73997)、S4タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC76321)、L1タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC76958)、L5タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC76333)
L7タンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC76960)、TTC0984タンパク質(データベース名:NCBI、アクセッションNo.:YP_004953)等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。これらのアスベスト結合タンパク質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
上記「H−NSタンパク質」の第1番目〜第57番目のアミノ酸領域(配列番号7)は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。また、第60番目〜第90番目のアミノ酸領域(配列番号8)は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトに特異的に結合し得る。
上記「DksAタンパク質」は、アスベストの中でも、クリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「GatZタンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトに特異的に結合し得る。
上記「DnaKタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「HlpAタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「YgiWタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「CspAタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「Cgl0974タンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)に特異的に結合し得る。
上記「S4タンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「L1タンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「L5タンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「L7タンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「OmpCタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「OmpAタンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「S1タンパク質」は、アスベストの中でもクリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に特異的に結合し得る。
上記「TTC0984タンパク質」は、アスベストの中でもアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)に結合し得る。
フィルターに捕集された被検物についてアスベストを検出する場合、フィルターを透明化する必要があるので、この場合に用いられるアスベスト結合タンパク質は、後述する透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されるタンパク質であることが好ましい。アスベスト結合タンパク質がかかる性質を有することによって、透明化工程を経た後であってもアスベストを検出することができる。ここで、上記「透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持される」とは、透明化工程前後におけるアスベスト結合タンパク質のアスベスト上における結合量の変化を検討することによって判断することができる。例えば、アスベストに結合している蛍光標識タンパク質(蛍光標識を有するアスベスト結合タンパク質)の蛍光の強度(蛍光強度)を基準として、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上維持されていれば、透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されていると言える。蛍光強度は、蛍光顕微鏡等を用いて、公知の方法によって測定することができる。
なお、後述するように、蛍光標識の種類によっては、透明化工程を経ることによって蛍光強度に影響を受ける場合があるので、アスベスト結合タンパク質のアスベストに対する結合量を検討するために用いる蛍光標識は、透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できるものを用いればよい。そして、蛍光標識の蛍光強度が透明化工程を経ることによってどの程度影響を受けるのかを勘案して、アスベスト結合タンパク質のアスベストに対する結合量を最終的に判断すればよい。
透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されるアスベスト結合タンパク質としては、例えば、H−NSタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC74319)、DksAタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNo.:AAC73256)、GatZタンパク質(データベース名:GenBank、アクセッションNO.:AAC75156)等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。これらのアスベスト結合タンパク質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
アスベスト結合タンパク質の由来は、特に限定されず、細菌、酵母、植物、動物等、いずれの生物に由来するタンパク質であってもよい。
なお、本明細書において、用語「タンパク質」は、「ポリペプチド」または「ペプチド」と交換可能に使用される。「タンパク質」には、タンパク質の部分断片(フラグメント)が含まれるものとする。また、「タンパク質」には、融合タンパク質が含まれるものとする。「融合タンパク質」は、2つ以上の異種タンパク質の一部(フラグメント)または全部が結合したタンパク質である。
また、本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質としては、上記に例示したタンパク質のアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなり、且つアスベストと結合し得るタンパク質も利用可能である。
ここで、上記「1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換および/または付加できる程度の数(例えば、総アミノ酸数の5%以下)のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されることを意味する。1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加される数は、総アミノ酸数の5%以下であって、且つアミノ酸が欠失、置換および/または付加された後のタンパク質が、アスベストと結合する活性を有している限り、いくつであってもよい。
1または数個のアミノ酸が欠失、置換および/または付加される部位は、アミノ酸が欠失、置換および/または付加された後のタンパク質が、アスベストと結合する活性を有していれば、当該アミノ酸配列中のどの部位であってもよい。
このような変異ポリペプチドは、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在する同様の変異ポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。好ましくは、サイレント置換、付加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
また、本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、付加的なペプチドを含むものであってもよい。付加的なペプチドとしては、例えば、ポリアルギニンタグ(Arg−tag)やポリヒスチジンタグ(His−tag)やMyc、Flag等のエピトープ標識ペプチドが挙げられる。
本発明において用いられるアスベスト結合タンパク質としては、アスベストに対して特異的に結合し得るものであればよいので、上記例示した以外のタンパク質であっても、当業者であれば、アスベストに対して特異的に結合し得るか否かを確認することによって、そのタンパク質が本発明において用いられるものであるか否かを容易に理解することができる。
同様に、透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されるタンパク質についても、上記例示した以外のタンパク質であっても、当業者であれば、透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持され得るか否かを確認することによって、その透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されるタンパク質であるか否かを容易に理解することができる。
本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、アスベスト結合タンパク質のアミノ酸配列全長の内、アスベストとの結合に寄与する部分のアミノ酸配列を含む部分ペプチドであってもよい。例えば、後述する実施例では、H−NSタンパク質の第60番目〜90番目のアミノ酸領域の部分ペプチドを用いている。このような部分ペプチドを用いることによって、アスベスト(特にアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト)に対するアスベスト結合タンパク質の結合の特異性を向上させることができる。
また、本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合をより強くする観点から、多量体化されたものであることが好ましい。すなわち、本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、多量体タンパク質であることが好ましい。
ここで、上記「多量体タンパク質」とは、2以上のタンパク質(ポリペプチド)が、ジスルフィド結合等の共有結合、または非共有結合によって結合しているタンパク質をいう。タンパク質が2量体以上の多量体であることによって、複数のタンパク質を介してアスベストに結合することができるので、1つのタンパク質を介してアスベストに結合する場合と比較して、アスベスト結合タンパク質とアスベストとの間の結合力が高くなる。
多量体タンパク質の作製方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、後述する実施例では、H−NSタンパク質の第60番目〜90番目のアミノ酸領域の部分ペプチドとストレプトアビジンとの融合タンパク質を作製し、ストレプトアビジンが4量体を形成する性質を利用して、これらの融合タンパク質を4量体化している。
本発明に用いられるアスベスト結合タンパク質は、その供給源となる細胞を培養し、単離、精製することにより生産することができる。また、公知の遺伝子工学的手法により組み換え発現ベクター構築し、これを適当な宿主細胞に導入して組み換えタンパク質として発現させることにより生産することができる。また、アミノ酸合成機などを用いて化学合成することもできる。
(1−2.蛍光標識)
本明細書において「蛍光標識」とは、アスベスト結合タンパク質を用いてアスベストを検出する際に、アスベストに結合したタンパク質を、蛍光を指標として検出するための物質のことを意味する。蛍光標識は、それが存在することで蛍光を示すので、蛍光顕微鏡下で観察することによって簡単にアスベスト結合タンパク質の有無を判定することができる。よって、簡単にアスベストを検出することができる。
上記「蛍光標識」は、蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できるものであれば特に限定されなく、既存の蛍光物質、蛍光タンパク質等の中から適宜選択することができる。
本明細書において、上記「蛍光物質」とは、特に、非タンパク質の低分子の蛍光化合物を意味する。蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できるものであれば、蛍光物質の種類は特に限定されるものではなく、例えば、Cy3、DyLight488、フルオロセイン、Alexa488、ATTO488、CF488A、DyLight550、CF555、等を挙げることができる。これらの他にも、緑色蛍光色素(例えば、Cy2、ローダミングリーン)、赤色蛍光色素(例えば、ローダミン、Cy5、Alexa546、Alexa555、Alexa568、Alexa594、CF568、CF594、DY547)等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。これらの蛍光物質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
また、上記「蛍光タンパク質」としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)等を挙げることができる。なお、上記「蛍光タンパク質」の由来は特に限定されない。
フィルターに捕集された被検物についてアスベストを検出する場合、フィルターを透明化する必要があるので、この場合に用いられる「蛍光標識」は、後述する透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できるものであれば特に限定されない。アスベストの検出感度を向上させる観点から、透明化工程前の蛍光標識が発する蛍光の強度(蛍光強度)を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光標識が発する蛍光強度が、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上維持されるものを用いることが好ましい。
蛍光標識の蛍光強度は、公知の方法を用いて測定することができる。例えば、輝度を測定することで、蛍光強度を評価することができる。具体的には、画像解析ソフトVH Analyzer(KEYENCE)を用いて輝度を測定し、蛍光強度の維持率を算出することができる。かかる蛍光強度を有する蛍光標識を用いることによって透明化工程を経た後であっても精度高くアスベストを検出することが可能となる。
透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できる蛍光標識は、既存の蛍光物質、蛍光タンパク質等の中から適宜選択することができる。例えば、Cy3、DyLight488、フルオロセイン、Alexa488、ATTO488、CF488A、DyLight550、CF555等を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。これらの蛍光物質は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
上記例示した以外の蛍光標識であっても、当業者であれば、透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光を検出できるか否かを確認することによって、その蛍光標識が透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できる蛍光標識であるか否かを容易に理解することができる。
上記蛍光標識は、その物質に応じた標識方法でアスベスト結合タンパクに結合させればよい。例えば、タンパク質を標識するための市販キット等を用いて、アスベスト結合タンパク質を標識することができる。
アスベスト結合タンパク質を蛍光物質で標識する場合は、化学結合を利用してアスベスト結合タンパク質に蛍光物質を標識してもよい。
アスベスト結合タンパク質を蛍光タンパク質で標識する場合は、公知の遺伝子工学的手法を用いることにより蛍光タンパク質とアスベスト結合タンパク質との融合タンパク質を組み換えタンパク質として発現させてもよい。この場合、アスベスト結合タンパク質をコードする遺伝子と蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを人工的に連結した融合遺伝子を作製し、当該融合遺伝子を、発現ベクターのプロモーターの下流に挿入し、大腸菌などの宿主細胞に導入して発現させる方法が適用され得る。
アスベスト結合タンパク質によっては、蛍光標識されたアスベスト結合タンパク質が不溶性になってしまう場合がある。これはおそらく分子量が大きくなりすぎることがその原因の一つとして考えられる。この場合には、蛍光標識として分子量の比較的小さい蛍光物質を用いることが有効である。
アスベストの検出感度をより向上させるために、蛍光標識としては、蛍光強度が強く、安定性の高い物質が好ましい。このような蛍光標識を利用することによって、アスベストの検出感度を向上させることができるので、被検物中に含まれているアスベストの量が少ない場合であってもアスベストの検出を行なうことができる。
〔2.検出工程〕
本発明に係るアスベストの検出方法では、検出工程として、
(i)接触工程を経た後に(場合によっては、透明化工程を経た後に)、被検物中に含まれている繊維状の物質を、位相差顕微鏡を用いて検出する第1検出工程、および、
(ii)第1検出工程において検出した繊維状の物質と結合したアスベスト結合タンパク質を、蛍光顕微鏡を用いて検出する第2検出工程
を含む構成である。
本明細書では、これら、第1検出工程および第2検出工程をまとめて「検出工程」と称する。本発明に係るアスベスト検出方法は、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを必要に応じて何度でも切り換えて検出対象を確認することができるものである。このため、本発明に係るアスベスト検出方法では、第1検出工程および第2検出工程を少なくとも1度繰り返し行なってもよい。すなわち、第1検出工程の後に第2検出工程を行ない、再び第1検出工程を行ってもよい。
具体的には、例えば、第2検出工程の後に、第1検出工程をもう一度行ない、蛍光顕微鏡によってアスベスト結合タンパク質の結合が検出された繊維状の物質の形状(長さ、幅、および長さと幅との比)を再度確認してもよい。このように、第1検出工程および第2検出工程を少なくとも1度繰り返し行なうことによって、より確実にアスベストを検出することができる。
また、例えば、被検物に含まれている繊維状の物質を1つ検出する毎に第2検出工程を行ない、その繊維状の物質と結合したアスベスト結合タンパク質を検出し、再び第1検出工程に戻って、被検物に含まれている別の繊維状の物質を検出してもよい。このように、第1検出工程において繊維状の物質を1つ検出する毎に第2検出工程を行なうことによって、同一視野においてアスベストを効率よく検出することができる。
当然のことながら、第1検出工程において、被検物に含まれている繊維状の物質を一通り検出し終わった後で、検出された繊維状の物質について第2検出工程を行ってもよい。
このように、本発明に係るアスベスト検出方法では、蛍光顕微鏡下での検出の後に、もう一度位相差顕微鏡下で検出するというように、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを必要に応じて何度でも切り換えて検出対象を確認できるので、より確実にアスベストを検出することができる。
但し、第2検出工程は、必ず第1検出工程の後に行う必要がある。第1検出工程の後に第2検出工程を行うことによって、位相差顕微鏡では検出できない微細なアスベスト繊維は第1検出工程においてまず除外されるため、このようなアスベスト繊維が第2検出工程においてアスベストとして観察されるおそれがない。すなわち、本発明に係るアスベスト検出方法によって最終的に検出されるアスベストの総数は、同一試料を、位相差顕微鏡によって検出した場合に検出されるアスベストの総数よりも多くなるおそれがない。
また、本発明に係るアスベスト検出方法では、上記第1検出工程と上記第2検出工程とは、同一視野において行なわれる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、顕微鏡として、位相差/蛍光顕微鏡等を用いることによって、位相差観察用の透通光から落射蛍光へと光路を切り換えるだけで、視野を変えることなく第1検出工程と第2検出工程とを行なうことができる。従って、第1検出工程と第2検出工程とを、同一視野において行なうことによって、すなわち、第1検出工程において、位相差顕微鏡下で検出対象物を絞り込んだ後に、そのままの状態で、顕微鏡の光路を位相差モードから蛍光モードに切り換えるだけで、視野を変えずに第2検出工程を行なうことが可能となる。これにより、第1検出工程において検出した繊維状の物質がアスベストであるか否かを、個々の繊維状の物質ごとに即座に判別することができる。
ここで、「第1検出工程」および「第2検出工程」について、以下に説明する。
(2−1.第1検出工程)
「第1検出工程」は、接触工程を経た後に(場合によっては、透明化工程を経た後に)、被検物中に含まれている繊維状の物質を、位相差顕微鏡を用いて検出する工程である。
ここで、上記「繊維状の物質」とは、繊維状の部分を有する物質であればよく、繊維状の部分が枝分かれしているものであってもよく、繊維状の部分に粒子が付着していているものであってもよい。上記「繊維状の物質」の判断基準の詳細は、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)に記載されている。
第1検出工程では、上記「繊維状の物質」を、位相差顕微鏡法における繊維状の物質の検出基準に基づいて検出すればよい。位相差顕微鏡法における検出基準に一致する繊維状の物質とは、例えば、長さ5μm以上、幅3μm未満、かつ長さと幅との比が3:1以上の条件を満たす繊維状の物質である(「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)を参照)。すなわち、本発明に係るアスベストの検出方法では、現行の位相差顕微鏡法における検出基準に準拠して、第1検出工程では、長さ5μm以上、幅3μm未満、かつ長さと幅との比が3:1以上の繊維状の物質を検出することが好ましい。
ここで、繊維状の物質の「長さ」は、例えば、接眼レンズに装着されたアイピースグレイティクルの目盛を利用すれば比較的容易に判断できるが、繊維状の物質の「長さ」の判定方法はこれに限定されない。
繊維状の物質の「幅」は、繊維状の物質の「直径」とも言い換えることができる。上記「直径」とは、繊維状の物質が内接する円の直径をいう。繊維状の物質の「幅」は、例えば、接眼レンズに装着されたアイピースグレイティクルの目盛を利用すれば比較的容易に判断できるが、繊維状の物質の「幅」の判定方法はこれに限定されない。
繊維状の物質の「長さと幅との比」は、繊維状の物質の「アスペクト比」とも言い換えることができる。
繊維状の物質の「長さ」、「幅」および「長さと幅との比」については、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)に詳細に規定されており、当該文献において規定された方法に従って、繊維状の物質の「長さ」、「幅」および「長さと幅との比」の判定を行なうことができる。
但し、本発明に係るアスベストの検出方法における繊維状の物質の検出基準は上記の基準に限定されるものではない。位相差顕微鏡法における繊維状の物質の検出基準が変更された場合は、本発明に係るアスベストの検出方法においても、変更後の位相差顕微鏡法における繊維状の物質の検出基準に基づいて繊維状の物質を検出すればよい。このように、本発明に係るアスベストの検出方法では、第1検出工程において、位相差顕微鏡法における繊維状の物質の検出基準に基づいて繊維状の物質を検出するので、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法によるアスベストの検出基準を変えることなくアスベストを検出することができる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、まず、第1検出工程において、フィルターに捕集された被検物の中から位相差顕微鏡下で所定の繊維状の物質を検出することによって、続く第2検出工程で検出する対象物を絞り込むので、バイオ蛍光法を用いる第2検出工程において、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法では検出できない微細なアスベスト繊維を検出するおそれがない。すなわち、本発明に係るアスベスト検出方法によって最終的に検出されるアスベストの総数は、同一試料を、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法によって検出した場合に検出されるアスベストの総数よりも多くなるおそれがない。よって、従来法によるアスベストの検出基準を変えることなくアスベストを検出することができる。
(2−2.第2検出工程)
「第2検出工程」は、第1検出工程において検出した繊維状の物質と結合したアスベスト結合タンパク質を、蛍光顕微鏡を用いて検出する工程である。
第2検出工程では、アスベスト結合タンパク質が有している蛍光標識を、蛍光顕微鏡を用いて検出することによって、第1検出工程において検出した繊維状の物質と結合したアスベスト結合タンパク質を容易に検出することができる。すなわち、第1検出工程において検出した繊維状の物質において、蛍光顕微鏡下で蛍光が確認できれば、その繊維状の物質にはアスベスト結合タンパク質が結合していると判断でき、蛍光が確認できなければ、その繊維状の物質にはアスベスト結合タンパク質が結合していないと判断できる。そして、アスベスト結合タンパク質が結合している繊維状の物質は、アスベストであると判断でき、アスベスト結合タンパク質が結合していない繊維状の物質は、アスベストではないと判断できる。
蛍光顕微鏡を用いた蛍光標識の検出方法については、特に限定されるものではなく、その蛍光標識に応じた検出方法(励起波長等)を適宜検討の上、好ましい条件を採用すればよい。
各検出工程を行なうために用いられる位相差顕微鏡および蛍光顕微鏡の構成は特に制限されないが、例えば、顕微鏡として、位相差顕微鏡用コンデンサおよび落射蛍光装置を備えた顕微鏡(位相差/蛍光顕微鏡)または両者を備えた偏光顕微鏡を用いることによって、位相差観察用の透通光から落射蛍光へと光路を切り換えるだけで、視野を変えることなく各検出工程を行なうことができる。すなわち、位相差/蛍光顕微鏡のような顕微鏡を用いることによって、第1検出工程において、位相差顕微鏡下で検出対象物を絞り込んだ後に、そのままの状態で、顕微鏡の光路を位相差モードから蛍光モードに切り換えるだけで、第2検出工程を行なうことが可能となる。これにより、第1検出工程において検出した繊維状の物質がアスベストであるか否かを、第2検出工程において、個々の繊維状の物質ごとに即座に判別することができる。
〔3.透明化工程〕
「透明化工程」は、接触工程を経た後のフィルターを透明化する工程である。透明化工程においてフィルターを透明化することによって、被検物がフィルターに捕集されている場合に、続く第1検出工程において、位相差顕微鏡下で被検物中に含まれている繊維状の物質を検出することが可能となる。よって、フィルターの透明化(無色化)の方法は、続く第1検出工程において、位相差顕微鏡下において繊維状の物質を検出可能な程度にフィルターを透明化し得る方法である限り特に限定されるものではない。例えば、フィルターが透明になるまでアセトン蒸気をフィルターに噴霧する方法を挙げることができる。この方法は、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)に具体的に記載されている。その他の透明化方法としては、DMF溶液[DMF(Dimethyl formamide)35%、水50%、酢酸15%]を用いる方法を挙げることができる。この方法は、「アスベストモニタリングマニュアル(第4.0版)」(非特許文献1)に具体的に記載されている。
なお、透明化工程を経た後には、フィルターに捕集された被検物が、アスベスト結合タンパク質と接触できない状態になるため、透明化工程を行う場合には、必ず接触工程の後に透明化工程が行なわれる。
〔4.その他〕
本発明に係るアスベストの検出方法は、上記の工程以外の工程を含んでいてもよい。例えば、接触工程の前に、測定環境中の空気をフィルターでろ過して被検物を捕集する捕集工程を含んでいてもよい。また、一連の検出工程によって得られた結果に基づいて、被検物中のアスベスト濃度を算出する工程または測定環境中のアスベスト濃度を算出する工程を含んでいてもよい。
以上のように、本発明に係るアスベストの検出方法によれば、従来法によるアスベストの検出基準を変えることなく、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法と比較して、より効率的で、簡便で、且つ精度高くアスベストを検出することができる。
本発明は、以下のように構成することも可能である。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記被検物はフィルターに捕集されており、上記接触工程を経た後の上記フィルターを透明化する、透明化工程をさらに含み、上記第1検出工程を、上記透明化工程を経た後に行うことが好ましい。
上述したように、本発明に係るアスベスト検出方法では、アスベストを検出するために位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを組み合わせて使用することであり、より具体的には、第1検出工程において、まず、位相差顕微鏡下で所定の繊維状の物質を検出した上で、かかる繊維状の物質について第2検出工程においてバイオ蛍光法を行うことが特徴であるが、大気中のアスベストを検出する場合等、被検物がフィルターに捕集されている場合は、透明化工程において被検物が捕集されたフィルターを透明化することによって、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを組み合わせて使用することが可能となる。かかる透明化工程は、上記接触工程の後に行なう必要がある。これは、透明化工程を経た後のフィルターは溶液を通過させることができなくなり、フィルターの洗浄を行うことができなくなるため、接触工程を十分に行えなくなるためである。
よって、上記構成であれば、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法によるアスベストの検出基準を変えることなく、位相差顕微鏡・電子顕微鏡法と比較して、より効率的で、簡便で、且つ精度高く大気中のアスベストを検出することが可能となる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記第1検出工程および上記第2検出工程を少なくとも1度繰り返し行うことが好ましい。
本発明に係るアスベスト検出方法では、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを必要に応じて何度でも切り換えて検出対象を確認することができる。このため、蛍光顕微鏡下での検出の後に、もう一度位相差顕微鏡下で検出するというように、位相差顕微鏡と蛍光顕微鏡とを必要に応じて何度でも切り換えて検出対象を確認することができる。その結果、より確実にアスベストを検出することができる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記第1検出工程では、長さ5μm以上、幅3μm未満、かつ長さと幅との比が3:1以上の繊維状の物質を検出することが好ましい。
上記構成であれば、現行の位相差顕微鏡法の基準に従って、長さ5μm以上、幅3μm未満、かつ長さと幅との比が3:1以上の繊維状の物質を第1検出工程において検出するので、本発明に係るアスベスト検出方法によって最終的に検出されるアスベストの総数は、同一試料を、位相差顕微鏡によって検出した場合に検出されるアスベストの総数よりも多くなるおそれがない。よって、現行の位相差顕微鏡・電子顕微鏡法によるアスベストの検出基準を変えることなくアスベストを検出することができる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記アスベスト結合タンパク質は、上記透明化工程を経た後にアスベストに対する結合が維持されるタンパク質であり、上記蛍光標識は、上記透明化工程を経た後に蛍光顕微鏡によって蛍光が検出できるものであることが好ましい。
上記構成であれば、透明化工程を経た後であっても精度高くアスベストを検出することが可能となる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記アスベスト結合タンパク質は、H−NSタンパク質、DksAタンパク質およびGatZタンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質であり得る。
上記構成であれば、透明化工程を経た後であっても精度高くアスベストを検出することが可能となる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記蛍光標識は、Cy3、DyLight488、フルオロセイン、Alexa488、ATTO488、CF488A、DyLight550、CF555からなる群より選択される1以上の蛍光物質であり得る。
上記構成であれば、透明化工程を経た後であっても精度高くアスベストを検出することが可能となる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記アスベスト結合タンパク質は、H−NSタンパク質、DksAタンパク質およびGatZタンパク質からなる群より選択される1以上のタンパク質の多量体であることが好ましい。
アスベスト結合タンパク質が、多量体タンパク質であることにより、1つのタンパク質を介してアスベストに結合する場合と比較して、アスベストとアスベスト結合タンパク質との結合力をより強くすることが可能となる。よって、上記構成であれば、透明化工程を経た後であっても高感度にてアスベストを検出することが可能となる。
本発明に係るアスベスト検出方法では、上記接触工程では、上記アスベスト結合タンパク質として、2種類以上の異なるアスベスト結合タンパク質を、被検物とを接触させ、上記2種類以上の異なるアスベスト結合タンパク質は、互いに異なる種類のアスベストと特異的に結合するタンパク質であり、且つ互いに異なる波長の蛍光を発する蛍光標識を有している構成であってもよい。
上記構成であれば、異なる種類のアスベストを、蛍光の色の違いに基づいて容易に判別することが可能となる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
〔実施例1:アスベスト結合タンパク質H−NS
60−90の調製と蛍光標識〕
ビオチン−ストレプトアビジン相互作用を用いて、ビオチン修飾したアスベスト結合タンパク質を、蛍光標識したストレプトアビジンに結合させて、蛍光標識したアスベスト結合タンパク質を作製した。
まず、ビオチン化したアスベスト結合タンパク質を作製した。タンパク質発現ベクターpET21−b(Novagen社)を鋳型として、オリゴヌクレオチドプライマーP1(GCTCAGAAAATCGAATGGCACGAACACCACCACCACCACCACTGAACTA:配列番号1)およびオリゴヌクレオチドプライマーP2(CTCGAAGATGTCGTTCAGACCGCCACCCTCGAGTGCGGCCGCAAGCTTGTC:配列番号2)を用いてインバースPCRを行なうことで、pET21−bのHisTagの前にビオチン化Tagを挿入した。インバースPCR反応は、KOD−plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコールに従って行なった。このビオチン化タンパク質発現ベクターを「pET21−AviTag−C」と命名した。
次いで、大腸菌K−12株(Escherichia coli K12,ATCC 700926)のゲノムDNAを鋳型として、オリゴヌクレオチドプライマーP3(CATATGCAATATCGCGAAATGCTGATC:配列番号3)およびオリゴヌクレオチドプライマーP4(GGATCCAAACAACGTTTAGCTTTGGTGCC:配列番号4)を用いてPCRを行なうことによって、アスベスト結合タンパク質であるH−NSタンパク質(データベース名:GenBank, アクセッションNo.:AAC74319)の第60番目〜90番目のアミノ酸領域(配列番号8)をコードする遺伝子を増幅した。PCR反応は、KOD−plus Neo DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコールに従って行った。
PCR増幅産物およびビオチン化タンパク質発現ベクターpET21−AviTag−Cを、制限酵素NdeIおよびBamHIにより37℃で1時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行なった。ゲルから切り出されたDNA断片を、Ligation High(TOYOBO社)を用い、16℃、30分間ライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pET−H−NS
60−90−AviTag−C」と命名した。
pET−H−NS
60−90−AviTag−Cプラスミドを用いて形質転換した大腸菌BL21(DE3)pBirA(Novagen社)を、2×YT培地を用いて37℃にて一晩培養し、200mlのTYH培地[20g/l トリプトン、10g/l 酵母エキス、11g/l HEPES、5g/l NaCl、1g/l 硫酸マグネシウム、0.5% グルコース、水酸化カリウムでpH7.2〜7.4に調整]に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで37℃で培養後、IPTG(isopropyl−β−D−thioglactopyranoside)(終濃度0.5mM)とD−ビオチン(終濃度100μM)とを添加し、28℃で4時間培養を行なった。培養液を遠心分離することで集菌した。
得られた菌体ペレットに10mlの緩衝液A[0.05M Tris−HCl(pH8.3)、0.05M NaCl、10% グリセロール]を加えて懸濁し、超音波により破砕した。得られた細胞破砕液をHistrap FF column(GE Healthcare Bioscience社)に供し、C末端にヒスチジンを有するビオチン化H−NS
60−90タンパク質を当該カラムに吸着させ、緩衝液B[0.05M Tris−HCl(pH8.3)、0.05M NaCl、10% グリセロール、0.5M イミダゾール]を用いて溶出させた。取得したビオチン化H−NS
60−90タンパク質について、ポリアクリルアミド電気泳動により精製度を確認したところ、精製度は95%以上であった。
次に、アスベスト結合タンパク質(H−NS
60−90タンパク質)の蛍光標識を行なった。蛍光修飾には、ビオチン−ストレプトアビジンの相互作用を用いて、ビオチン修飾したアスベスト結合タンパク質に蛍光標識したストレプトアビジンを結合させた。2.7μlのビオチン化H−NS
60−90タンパク質(495μM)と4μlの蛍光修飾ストレプトアビジン溶液(1mg/ml)とを混合し、室温で1時間インキュベートして結合させ、H−NS
60−90タンパク質を蛍光標識した。この操作によりH−NS
60−90タンパク質と蛍光標識ストレプトアビジンとの複合体を得た。蛍光色素Cy3で標識したストレプトアビジン(invitrogen社)を使用して蛍光修飾したH−NS
60−90タンパク質を、「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」と命名し、蛍光色素DyLight488で標識したストレプトアビジン(Thermo Scientific社)を使用して蛍光修飾したH−NS
60−90タンパク質を、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488」と命名し、蛍光色素DyLight550で標識したストレプトアビジン(Thermo Scientific社)を使用して蛍光修飾したH−NS
60−90タンパク質を、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight550」と命名し、蛍光色素CF555で標識したストレプトアビジン(Biotium社)を使用して蛍光修飾したH−NS
60−90タンパク質を、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF555」と命名し、蛍光色素CF488Aで標識したストレプトアビジン(Biotium社)を使用して蛍光修飾したH−NS
60−90タンパク質を、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF488A」と命名した。
なお、「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488」、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight550」、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF555」および「H−NS
60−90−Streptavidin−CF488A」は、ストレプトアビジンとアスベスト結合タンパク質との融合タンパク質を利用しているので、ストレプトアビジンの働きにより4量体となっている。すなわち、「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488」、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight550」、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF555」および「H−NS
60−90−Streptavidin−CF488A」は、4つのH−NS
60−90タンパク質が重合した4量体タンパク質が、蛍光色素によって標識されている。
〔実施例2:位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察(1)〕
被検物としてのアモサイト(茶石綿)(JAWE231)を捕集したメンブレンフィルターを、1/8片に切り取り、捕集面を上に向けて、20μlの緩衝液C[0.3M リン酸緩衝液(pH8.0)、0.3M NaCl、0.5% Tween80(登録商標)]を3回滴下した。
次いで、蛍光タンパク質として、H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3(12.5nM)、H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488(50nM)、H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight550(12.5nM)、H−NS
60−90−Streptavidin−CF555(12.5nM)またはH−NS
60−90−Streptavidin−CF488A(50nM)を含んだ緩衝液C(20μl)を5回滴下して、アモサイトに蛍光タンパク質を結合させた。その後、20μlの緩衝液Cを3回滴下して未結合の蛍光タンパク質を取り除いた。最後に、20μlの水を3回滴下して緩衝液由来の界面活性剤や塩を取り除いた。
次いで、フィルターを、捕集面を上にしてスライドグラス(MATSUNAMI製、MICRO SLIDE GLASS 白縁磨 1mm厚)の上に乗せ、よく乾燥させた。乾燥後に、捕集面を上にしてアセトン蒸気をあててフィルターを透明化した後、封入液をカバーガラス(MATSUNAMI製、18×18mm)とフィルターとの間に挟み込んで、観察用のプラパラートを得た。
得られたプレパラートを、位相差/蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX−60、オリンパス社製)にて観察した。まず、位相差顕微鏡で観察を行ない、アモサイト繊維を確認した後に、光路を蛍光モードに切り換えて同じ視野を観察した。
図1は、位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察の結果を示す図である。
図1の(A)は、蛍光タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」を用いた場合の結果を表し、
図1の(B)は、蛍光タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488」を用いた場合の結果を表し、
図1の(C)は、蛍光タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight550」を用いた場合の結果を表し、
図1の(D)は、蛍光タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−CF555」を用いた場合の結果を表し、
図1の(E)は、蛍光タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−CF488A」を用いた場合の結果を表している。
図1の(A)〜(E)では、それぞれ、左図が位相差顕微鏡画像を表し、右図が位相差顕微鏡画像と同一視野における蛍光顕微鏡画像を表している。
図1に示すように、位相差顕微鏡下で観察したアモサイト繊維において、蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合を確認することができた。
なお、蛍光色素Cy3、DyLight550およびCF555の観察にはU−MNGキューブ(ダイクロイックミラー:DM570、励起フィルター:BP530−550、吸収フィルター:BA590)を用い、蛍光色素DyLight488およびCF488Aの観察には、U−NIBAキューブ(ダイクロイックミラー:DM505、励起フィルター:BP470−490、吸収フィルター:BA515−550)を用いた。画像の取り込みには、顕微鏡デジタルカメラDP−70(オリンパス社製)を使用した。
なお、透明化工程前後の繊維の蛍光強度(=タンパク質結合量+蛍光物質強度)は、輝度を測定することで評価した。具体的には、透明化工程の前後で画像中の繊維の輝度を画像解析ソフトVH Analyzer(KEYENCE)を用いて測定し、蛍光強度の維持率を算出した。その結果、「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」は、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が90%維持されていた。また、「H−NS
60−90−Streptavidin−DyLight488」は、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が90%維持されていた。また、「H−NS
60−90−Neutravidin−DyLight550」は、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が80%維持されていた。また、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF555」は、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が80%維持されていた。また、「H−NS
60−90−Streptavidin−CF488A」は、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が90%維持されていた。
以上のことから、アスベスト結合タンパク質として、H−NS
60−90タンパク質を用い、蛍光標識としてCy3、DyLight488、DyLight550、CF555またはCF488Aを用いることによって、位相差蛍光法においてアモサイトを検出し得ることが確認された。
〔実施例3:位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察(2)〕
被検物としてのアモサイト(茶石綿)(JAWE231)とロックウール(JFM標準繊維試料)とを捕集したメンブレンフィルターを用い、蛍光法タンパク質として「H−NS
60−90−Streptavidin−Cy3」のみを用いた以外は、実施例2と同じ方法でプレパラートを作製した。
得られたプレパラートを、位相差/蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX−60、オリンパス社製)にて観察した。まず、位相差顕微鏡で観察を行ない、繊維状の物質を確認した後に、光路を蛍光モードに切り換えて同じ視野を観察した。
図2は、位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察の結果を示す図である。
図2の(A)は位相差顕微鏡画像を表し、(B)は(A)の位相差顕微鏡画像と同一視野における蛍光顕微鏡画像を表し、(C)は(A)の位相差顕微鏡画像と(B)の蛍光顕微鏡画像とを重ね合わせた図である。
図2に示すように、位相差顕微鏡下で観察した繊維状の物質2および3において、蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合を確認することができた。一方、位相差顕微鏡下で観察した繊維状の物質1および4においては、蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合を確認することができなかった。この結果、繊維状の物質2および3は、アスベストであると判定し、繊維状の物質1および4は、アスベストではないと判定した。
以上のことから、位相差蛍光法を用いれば、位相差顕微鏡下で観察した繊維状の物質がアスベストであるか否かを、非常に効率よく、簡便に、且つ精度高く判定し得ることが確認された。
〔実施例4:アスベスト結合タンパク質DksAの調製と蛍光標識〕
次いで、大腸菌K−12株(Escherichia coli K12,ATCC 700926)のゲノムDNAを鋳型として、オリゴヌクレオチドプライマーP5(GGAATTCGCTAGCATGCAAGAAGGGCAAAACCG:配列番号5)およびオリゴヌクレオチドプライマーP6(GTTGGATCCCCGCAGCCAGCCATCTGTTTTTCGC:配列番号6)を用いてPCRを行なうことによって、アスベスト結合タンパク質であるDksAタンパク質(データベース名:GenBank, アクセッションNo.:AAC73256)をコードする遺伝子を増幅した。PCR反応は、KOD−plus DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用い、同社のプロトコールに従って行った。
PCR増幅産物およびタンパク質発現ベクターpET21−bを制限酵素NheIとBamHIにより37℃で1時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行なった。ゲルから切り出されたDNA断片をLigation Highを用い、16℃、30分間ライゲーションし、大腸菌JM109株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、これを「pET−DksA」と命名した。
pET−DksAで形質転換したRosetta
TM(DE3)pLysS(Novagen社)を2×YT培地で37℃一晩培養し、200mlのLB培地[10g/l トリプトン、5g/l 酵母エキス、5g/l NaCl]に1%(v/v)植菌した。OD
600が0.6になるまで37℃で培養後、終濃度が0.5mMになるようにIPTG(isopropyl−β−D−thioglactopyranoside)を添加し、28℃で4時間培養を行なった。培養液を遠心分離することで集菌した。得られた菌体ペレットに10mlの緩衝液A[0.05M Tris−HCl(pH8.3)、0.05M NaCl、10% glycerol]を加えて懸濁し、超音波により破砕した。
得られた細胞破砕液をHistrap FF columnに供し、C末端にヒスチジンを有するDksAタンパク質を当該カラムに吸着させ、緩衝液B[0.05M Tris−HCl(pH8.3)、0.05M NaCl、10% glycerol、 0.5M イミダゾール]で溶出させた。取得したDksAタンパク質についてポリアクリルアミド電気泳動により精製度を確認したところ、95%以上であった。
次に、DksAタンパク質の蛍光標識を行なった。まず、DksAタンパク質をフルオロセインで標識をした。5nmolのDksAタンパク質を400μlの50mM NaClおよび10%グリセロールを含む25mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7.4)に溶解した。4.3μlの10mg/mlのフルオロセイン−5−マレイイミド(Thermo Scientfic社)/ジメチルホルムアミドを前記溶液に添加後、暗所、室温で2時間静置した。前記の反応溶液はゲル濾過にて未結合のフルオロセインを除去する事によって精製された。このフルオロセインで標識されたDksAを「DksA−Fluorescein」と命名した。
次に、DksAをAlexa488で標識をした。5nmolのDksAタンパク質を400μlの50mM NaClおよび10%グリセロールを含む25mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7.4)に溶解した。6.4μlの10mg/mlのAlexa488−5−マレイイミド(invitrogen社)/ジメチルホルムアミドを前記溶液に添加後、暗所、室温で2時間静置した。前記の反応溶液はゲル濾過にて未結合のAlexa488を除去する事によって精製された。このAlexa488で標識されたDksAタンパク質を「DksA−Alexa488」と命名した。
〔実施例5:位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察(3)〕
被検物としてのクリソタイル(白石綿)(JAWE111)を捕集したメンブレンフィルターを用い、蛍光法タンパク質としてDksA−Fluorescein(350nM)またはDksA−Alexa488(200nM)を用い、緩衝液として緩衝液D[0.1M 炭酸緩衝液(pH9.4)、1.0% Tween80(登録商標)]を用いた以外は、実施例2と同じ方法でプレパラートを作製した。
得られたプレパラートを、位相差/蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡BX−60、オリンパス社製)にて観察した。まず、位相差顕微鏡で観察を行ない、クリソタイル繊維を確認した後に、光路を蛍光モードに切り換えて同じ視野を観察した。
図3は、位相差蛍光法によるアスベストの顕微鏡観察の結果を示す図である。
図3の(A)は、蛍光タンパク質として「DksA−Fluorescein」を用いた場合の結果を表し、
図3の(B)は、蛍光タンパク質として「DksA−Alexa488」を用いた場合の結果を表している。
図3の(A)および(B)では、それぞれ、左図が位相差顕微鏡画像を表し、右図が位相差顕微鏡画像と同一視野における蛍光顕微鏡画像を表している。
図3に示すように、位相差顕微鏡下で観察したクリソタイル繊維において、蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合を確認することができた。
物質1については、
図3の(A)に示すように、位相差顕微鏡下で繊維が確認でき、さらに蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合が確認できる。一方、物質2については、
図3の(A)に示すように、蛍光顕微鏡下で蛍光タンパク質の結合が確認できるが、幅(直径)が0.25μm未満の微細な繊維であるため、通常、位相差顕微鏡ではアスベストとして検出されない。位相差蛍光法では、このような微細なアスベスト繊維を、位相差顕微鏡下で所定の繊維状の物質を検出する第1検出工程において除外するため、物質2のような位相差顕微鏡でアスベストとして検出されない繊維が最終的に検出されるアスベストの総数に含められるおそれがない。
なお、蛍光色素フルオロセインと蛍光色素Alexa488の観察には、U−NIBAキューブ(ダイクロイックミラー:DM505、励起フィルター:BP470−490、吸収フィルター:BA515−550)を用いた。画像の取り込みには、顕微鏡デジタルカメラDP−70(オリンパス社製)を使用した。
なお、実施例2と同様の方法によって透明化工程前後の繊維の蛍光強度(=タンパク質結合量+蛍光物質強度)を評価したところ、「DksA−Fluorescein」では、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が80%維持されていた。また、「DksA−Alexa488」では、透明化工程前の蛍光強度を100%とした場合に、透明化工程を経た後の蛍光強度が80%維持されていた。
以上のことから、アスベスト結合タンパク質として、DksAタンパク質を用い、蛍光標識としてフルオロセインとAlexa488を用いることによって、位相差蛍光法においてクリソタイルを検出し得ることが確認された。