(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電子ビーム装置では、ビーム源となる電子銃が用いられる。電子ビーム装置には、例えば、電子ビーム描画装置、電子顕微鏡といった種々も装置が存在する。例えば、電子ビーム描画について言えば、本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。電子ビーム描画装置は、かかる高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0004】
図18は、可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0005】
電子ビーム描画では、集積回路の微細化に伴い、ショットサイズが小さくなると共にショット数が増大している。その結果、描画時間も長くなってしまう。そのため、描画時間の短縮、言い換えれば描画装置のスループットの向上が望まれている。描画装置のスループットを向上させるためには電子ビームの電流密度を増大させる必要がある。電流密度を増大させるためには、ビーム源となる電子銃のカソードの高輝度化が必要となる。カソードは、例えば、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶が用いられる(例えば、特許文献1参照)。熱電子放出カソードの輝度を上げるためには、カソード温度を増大させる方法がある。しかしながら、カソード温度を増大させるとカソード材料の蒸発速度が大きくなるため、カソード寿命が短くなってしまう。例えば、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶を材料とするカソードでは、カソード温度を例えば1800Kよりも大幅に上げることは困難である。そのため、使用するカソードの温度を上げることで高輝度化を達成しようとしても限界がある。
【0006】
一方、ゾーンメルティング法等で製作される例えばLaB
6結晶では、ランタン(La)とホウ素(B)との組成比、及び不純物の濃度等が結晶内の位置によって異なっている。そのため、同じ結晶の塊から複数のカソードを製作しても、完成したカソードによって得られる輝度にばらつきが生じてしまう。よって、複数のカソードを製作しても、電子ビーム装置で使用する際に所望する輝度が得られないカソードが多く含まれてしまうといった問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
例えば、六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶等を用いた熱電子放出型のカソードの輝度Bは、電子放出面の電流密度J、カソード温度T、ボルツマン定数k、素電荷e、及び加速電圧Vを用いて、ラングミュラーの式(1)で定義できる。
【0018】
よって、輝度を高めるためには、電子放出面の電流密度Jを増大させればよいことがわかる。また、式(1)における電子放出面の電流密度Jは、仕事関数φ、リチャードソン定数A、カソード温度T、及びボルツマン定数kを用いて、次のリチャードソン・ダッシマンの式(2)で定義できる。
【0020】
リチャードソン定数Aは、例えばLaB
6結晶について、理論的には120A/cm
2K
2であるが、実際には、80A/cm
2K
2程度が妥当であることがわかっている。式(2)から電子放出面の電流密度Jを大きくするためには、言い換えれば、輝度を高めるためには、仕事関数φを小さくできればよいことがわかる。しかしながら、仕事関数φを小さくすることは容易ではない。従来、実用化レベルでカソード製造に適用できる仕事関数低減法は見当たらない。また、上述したように、ゾーンメルティング法等で製作される例えばLaB
6結晶では、ランタン(La)とホウ素(B)との組成比、及び不純物の濃度等が結晶内の位置によって異なっている。そのため、同じ結晶の塊から複数のカソードを製作しても、完成したカソードによって得られる仕事関数にばらつきが生じてしまう。また、電子放出面の電流密度Jは、全放出電流Iを電子放出面の面積Sで割った値として定義できるので、式(2)を変形することによって、仕事関数φは、次のリチャードソン・ダッシマンの変形式である式(3)で定義できる。
【0022】
そこで、実施の形態1では、かかる仕事関数のばらつきに着目し、仕事関数の値によって、カソードを選別する。
【0023】
図1は、実施の形態1におけるカソード選別方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図1において、実施の形態1におけるカソード選別方法は、カソード製作工程(S102)と、放出面積測定工程(S104)と、電子放出工程(S106)と、仕事関数演算工程(S112)と、許容値演算工程(S120)と、判定工程(S122)と、選別工程(S124)と、判定工程(S126)という一連の工程を実施する。また、電子放出工程(S106)の際に、全放出電流測定工程(S108)と、温度測定工程(S110)とを実施する。
【0024】
カソード製作工程(S102)として、まず、選別対象となるカソードを製作する。製作されるカソードは、電子放出面が平面であって放出面積が限定された形状に形成する。言い換えれば、電子放出面が平面の放出面積限定型カソードを製作する。カソード製作は、ゾーンメルティング法等で例えばLaB
6結晶の塊を製作する。そして、かかる塊を加工して、複数のカソードを製作する。ここで、製作されるカソードは、同じ結晶から形成されてもよいし、異なる結晶から形成されてもよい。
【0025】
図2は、実施の形態1におけるカソードの一例を示す断面図である。
図2において、カソード10は、例えば円柱状のLaB
6結晶20の上部をテーパ状に先細りさせ、また、上面11を平面に加工する。そして、テーパ状の上部側面全体には例えば炭素(カーボン)膜30を配置する。後述するように、LaB
6結晶20の下部はヒータ等で覆われてしまうので、加熱した際に露出するのは、平面に形成された上面11のみとなり、かかる露出した上面11を電子の放出面に限定できる。よって、電子の放出面積は、かかる上面11の面積Sに限定できる。
【0026】
図3は、実施の形態1におけるカソードの他の一例を示す断面図である。
図3において、カソード10は、断面が例え6角形のLaB
6結晶21の上面11を平面に加工する。そして、側面全体にはカーボン膜31を配置する。かかる構成でも加熱した際に露出するのは、平面に形成された上面12のみとなり、かかる露出した上面12を電子の放出面に限定できる。よって、電子の放出面積は、かかる上面12の面積Sに限定できる。
【0027】
図4は、実施の形態1におけるカソードの他の一例を示す断面図である。
図4において、カソード10は、LaB
6結晶22の上部の中心部に凸部を設け、凸部上面13以外の面全体にはカーボン膜32を配置する。凸部上面13は、平面に加工される。かかる構成でも加熱した際に露出するのは、平面に形成された上面13のみとなり、かかる露出した上面13を電子の放出面に限定できる。よって、電子の放出面積は、かかる上面13の面積Sに限定できる。
【0028】
図5は、実施の形態1におけるカソードの電子放出面の一例と比較例とを示す概念図である。式(3)において、高精度に仕事関数φを演算するためには、電子放出面の面積Sを高精度に測定する必要がある。
図5(a)に示すように、LaB
6結晶の露出面に制限がない構造のカソードでは、カソード温度とウェネルト電圧(バイアス電圧)によって、電子放出面の面積が変化してしまう。そのため、仕事関数φを正確に求めることはできない。これに対して、
図5(b)に示すように、LaB
6結晶の露出面が平面の上面だけに限定された構造のカソードでは、カソード温度とウェネルト電圧(バイアス電圧)にかかわらず、電子は放出面からほぼ一様に放出される。実際には放出面の電界分布が完全に一様にはならないので、電流密度分布が完全に一様にならないかもしれない。しかし、全放出電流と放出面積を高精度に測定できれば、実効的な高精度の仕事関数φの比較ができることが実験等によりわかっている。
【0029】
そこで、実施の形態1では、上述したように、電子放出面が平面であって放出面積が限定された形状のカソード10を用いる。
【0030】
放出面積測定工程(S104)として、製作された複数のカソードについて、光学顕微鏡を用いて、電子放出面となる上面11(12,13)の放出面積を測定する。
【0031】
図6は、実施の形態1における電子放出面を光学顕微鏡で撮像した一例を示す図である。軸となるLaB
6結晶20の周囲に炭素30が配置されている。かかるLaB
6結晶20の直径或いは半径を測定することで、放出面積Sを算出できる。さらに、上面が平面なので、面積も高精度に算出が可能となる。
【0032】
電子放出工程(S106)として、製作されたカソードについてそれぞれ電子を放出させて仕事関数を求めるためのパラメータを測定する。
【0033】
図7は、実施の形態1における仕事関数取得用パラメータ測定装置の装置構成を示す概念図である。
図7において、測定装置300は、真空容器50と電子銃電源60と電流計70とを備えている。電子銃電源60内では、加速電圧電源62とウェネルト用電源64とヒータ用電源66とが配置される。加速電圧電源62の陰極(−)側が真空容器50内のカソード10に接続される。加速電圧電源62の陽極(+)側は、真空容器50内のアノード電極54に接続されると共に接地されている。また、加速電圧電源62の陽極(+)とアノード電極54との間に電流計70が直列に接続されている。また、加速電圧電源62の陰極(−)は、ウェネルト用電源64の陽極(+)にも分岐して接続され、ウェネルト用電源64の陰極(−)は、カソード10とアノード電極54との間に配置されたウェネルト56に接続される。また、真空容器50内では、カソード10の電子放出面とは反対側の周囲が炭素膜で覆われていない部分がヒータ59に覆われている。そして、ヒータ用電源66は、ヒータ59に接続される。ウェネルト56には、カソード10の電子放出面から放出された電子がアノード電極54側へと通過するための開口部が形成されている。ウェネルト56にウェネルト用電源64から一定の負のウェネルト電圧(バイアス電圧)が印加され、カソード10に加速電圧電源62から一定の負の加速電圧が印加された状態で、ヒータ59によりカソード10を加熱すると、カソード10から電子(電子群)が放出され、放出電子(電子群)は加速電圧によって加速されて電子ビームとなってアノード電極54に向かって進む。ここでは、加速電圧とウェネルト電圧とをそれぞれ一定値に設定した状態で、カソード温度Tを変化させて全放出電流Iを測定する。
【0034】
全放出電流測定工程(S108)として、測定装置300を用いて、カソード10からアノード電極54に向かって電子ビームが放出される際の全放出電流を電流計70により測定する。加速電圧電源62、カソード10、アノード電極54、そして加速電圧電源62に繋がる直列回路間の電流を電流計70により測定することでカソード10から放出される全放出電流を測定できる。かかる回路の電流値を電流計70により測定する方が、電子ビームそのものの電流をファラディカップ等の検出器で測定するよりも簡易かつ高精度に測定が可能となる。
【0035】
温度測定工程(S110)として、カソード10からの電子放出時に、カソード10の電子放出面の温度を測定する。真空容器50には、外部から内部を直視できる窓58(ビューイングポート)が配置される。かかる窓58は、カソード10の電子放出面を直視できる位置に配置されると好適である。これにより、電子放出時の電子放出面の温度を測定できる。
図7の例では、ウェネルト56の側面に開口部を形成して、かかるウェネルト56の開口部を介して、窓58からカソード10の電子放出面を直視できる。真空容器50の外部では、窓58の近傍にパイロメータ72(温度測定器)を配置する。これにより、真空容器50の外から、パイロメータ72によってカソード10の電子放出面の温度を測定する。カソードの温度は、温度制限領域内の温度にて測定される。
【0036】
図8は、実施の形態1における全放出電流とカソード温度との関係を示すグラフである。縦軸に電子の全放出電流Iを、横軸にカソード温度Tを示す。電流密度Jを全放出電流Iと電子放出面の面積Sで置き換えて、リチャードソン・ダッシマンの式(2)を変形させると、全放出電流Iは、次のリチャードソン・ダッシマンの変形式である式(4)で定義できる。
【0038】
ある仕事関数φを持ったカソード10では、電子放出面の面積Sが固定されているので、カソード温度Tを上昇させていくと、全放出電流Iは、
図8に示すように、リチャードソン・ダッシマンの式(4)に従って増加する。しかし、カソード温度Tをさらに増加させると、温度制限領域から空間電荷領域へと移行し、空間電荷領域では、全放出電流Iは、一定値となる。
【0039】
図9は、実施の形態1における温度制限領域と空間電荷領域とを説明するための概念図である。カソード温度がある制限値より低い場合、
図9(a)に示すように、カソード52から放出された電子はすべてアノード電極54方向に進む。かかる状態では、放出される電子数はカソード温度の関数となる。すなわち、リチャードソン・ダッシマンの式が成り立つ。かかる状態のカソード温度領域が温度制限領域となる。これに対して、カソード温度が高くなり、制限値を超えると、カソード52から放出された電子の数が増え、カソード52の前面に空間電荷82と呼ばれる電子雲が形成される。空間電荷82はカソード52からの電子放出現象に負のフィードバック効果をもたらす。かかる状態では、放出される電子数はカソード温度に依存しなくなる。かかる状態のカソード温度領域が空間電荷領域となる。実施の形態1では、リチャードソン・ダッシマンの式が成り立つ温度制限領域内のカソード温度にて測定される。
【0040】
図10は、実施の形態1における全放出電流とカソード温度との測定結果の一例とその関係を示すグラフである。縦軸に電子の全放出電流Iを、横軸にカソード温度Tを示す。ここでは、加速電圧電源の出力を例えば10kV、ウェネルト電圧を0.5kVに設定した場合の結果の一例を示している。
図10に示すように、カソード温度Tを1650K、1700K、1750K、1800K、及び1850Kに可変した際の全放出電流Iをそれぞれ測定した。その結果、全放出電流Iは徐々に上昇し、1750Kを過ぎたあたりから一定値となった。よって、1750K以下での全放出電流Iの測定結果を仕事関数の演算に使用する。
【0041】
仕事関数演算工程(S112)として、測定された全放出電流Iの値を用いて、リチャードソン・ダッシマンの式から仕事関数を演算する。ここでは、上述した式(3)を用いればよい。
【0042】
図11は、実施の形態1における仕事関数とカソード温度との関係を示すグラフである。縦軸にカソードの仕事関数φを、横軸にカソード温度Tを示す。リチャードソン・ダッシマンの変形式である式(3)に、測定された、電子放出面の面積Sとカソード温度Tと全放出電流Iを代入して、測定対象のカソードの仕事関数φを演算すればよい。
図11に示すように、温度制限領域内では、測定誤差の範囲内で仕事関数φは一定となる。一方、空間電荷領域内では、リチャードソン・ダッシマンの式に従わなくなるので、見かけ上、カソード温度の上昇と共に仕事関数φは上昇する。よって、実施の形態1では、温度制限領域内での一定値を、かかるカソードの仕事関数φとすればよい。
【0043】
図12は、実施の形態1における仕事関数とカソード温度との測定結果の一例とその関係を示すグラフである。縦軸にカソードの仕事関数φを、横軸にカソード温度Tを示す。
図12では、
図10で示した測定結果から演算された仕事関数φの一例を示している。
図12に示すように、カソード温度Tを1650K、1700K、1750K、1800K、及び1850Kに可変した際の仕事関数φをそれぞれ演算した。その結果、仕事関数φは誤差範囲で一定値を示し、1750Kを過ぎたあたりから上昇に転じた。よって、実施の形態1では、1750K以下での仕事関数φの演算結果を使用する。
【0044】
実施の形態1では、温度制限領域内での仕事関数φの複数の演算結果の平均値を、かかるカソードの仕事関数φの値とする。これにより、誤差を小さくできる。但し、これに限るものではなく、誤差が許容範囲内であれば、温度制限領域内でのカソード温度1点の全放出電流Iから演算されるカソードの仕事関数φの値を用いても構わない。
【0045】
許容値演算工程(S120)として、所望の輝度Bが得られるための仕事関数φの許容値φmを演算する。許容値φmは、ラングミュラーの式(1)を満たす所望の輝度Bが得られるための仕事関数値を用いる。
【0046】
図13は、実施の形態1における輝度と仕事関数との関係の一例を示す図である。
図13において、縦軸に輝度Bを、横軸に仕事関数φを示している。例えば、電子ビーム描画装置等で使用する際に所望する輝度Bについて、ラングミュラーの式(1)を満たす仕事関数値を演算する。式(2)を変形することによって、仕事関数φは、次のリチャードソン・ダッシマンの変形式である式(5)で定義できる。
【0048】
一方、ラングミュラーの式(1)を変形することによって、電流密度Jは、次の式(6)で定義できる。
【0050】
式(5)に式(6)を代入すれば、ラングミュラーの式(1)による輝度Bを満たす仕事関数φの上限を取得できる。例えば、輝度Bが1.2×10
6A/cm
2sr以上必要である場合、仕事関数φの上限は2.628eVとなる。よって、かかる条件での許容値φmは2.628eVとなる。
【0051】
判定工程(S122)として、測定対象となるカソードの仕事関数φが許容値φm以下の小さいカソードかどうかを判定する。
【0052】
選別工程(S124)として、判定の結果、測定対象となるカソードの仕事関数φが許容値φm以下のカソードの場合、使用可能なカソード(ok)として選別する。判定の結果、仕事関数φが許容値φmより大きい場合には、使用不可なカソード(NG)として選別する。
【0053】
判定工程(S126)として、製作されたすべてのカソードに対して選別されたかどうかを判定する。製作されたすべてのカソードに対して選別されていない場合には、放出面積測定工程(S104)に戻り、製作されたすべてのカソードに対して選別されるまで、放出面積測定工程(S104)から判定工程(S126)までを繰り返す。製作されたすべてのカソードに対して選別された場合には終了する。
【0054】
ここで、放出面積測定工程(S104)と、電子放出工程(S106)と、仕事関数演算工程(S112)と、判定工程(S122)と、選別工程(S124)とは、製作されたすべてのカソードに対してそれぞれ実施された後に、次の工程に進むようにしても構わない。
【0055】
図14は、実施の形態1における全カソードに占める割合と仕事関数との関係の一例を示す図である。製作されたすべてのカソードに対して、上述した仕事関数を演算した結果の一例を示す。
図14に示すように、製作されるカソードが特性としてもつ仕事関数の値にはばらつきが生じることがわかる。例えば、上述した仕事関数φが2.628eV以下となるカソードは、製作されたすべてのカソードのうち数%に過ぎないことがわかる。よって、多数のカソードを製作しても、昨今のパターンの微細化に伴って高輝度を求められる電子ビーム描画装置に使用できるカソードの割合は小さい。よって、かかる少数のカソードを効率的に選別する必要がある。そのため、実施の形態1の選別方法で選別する意義は大きい。
【0056】
以上のように、実施の形態1によれば、所望の輝度Bが得られるカソードを選別できる。よって、高輝度化に対応するカソードが得られる。
【0057】
図15は、実施の形態1における選別されたカソードを搭載した描画装置の構成を示す概念図である。ここでは、選別されたカソードを搭載する電子ビーム装置の一例として、電子ビーム描画装置を示している。
図15において、描画装置100は、描画部150と制御回路160を備えている。描画装置100は、電子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスクが含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。電子銃201に、実施の形態1における選別されたカソード10が搭載される。
【0058】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形させる)ことができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望する位置に照射される。
図1では、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いた場合を示している。かかる場合には、主偏向器208でストライプ領域をさらに仮想分割したサブフィールド(SF)の基準位置にステージ移動に追従しながら該当ショットの電子ビーム200を偏向し、副偏向器209でSF内の各照射位置にかかる該当ショットのビームを偏向すればよい。
【0059】
選別された高輝度のカソードを搭載しているので、所望の輝度で描画処理を行うことができる。
【0060】
実施の形態2.
実施の形態1では、カソードからアノードへと向かう光軸の側面方向からカソードの電子放出面の温度を測定するための窓を配置したが、これに限るものではない。以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。
【0061】
図16は、実施の形態2における仕事関数取得用パラメータ測定装置の装置構成を示す概念図である。
図16において、窓58の配置位置と、窓58からカソード10の電子放出面までの間の遮蔽物を避けるための開口部を形成する部材と、が異なる点以外は、
図7と同様である。
図16において、窓58は、アノード電極54の裏面側の真空容器50の壁面に配置される。アノード電極54に開口部を形成して、アノード電極54の開口部を介して、窓58からカソード10の電子放出面を直視できる。真空容器50の外部では、窓58の近傍にパイロメータ72(温度測定器)を配置する。これにより、真空容器50の外から、パイロメータ72によってカソード10の電子放出面の温度を測定する。
【0062】
以上のように構成しても、実施の形態1と同様の効果を発揮できる。
【0063】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、仕事関数取得用パラメータ測定装置300に1つのカソード10しか配置できない構成であったが、これに限るものではない。実施の形態3では、複数のカソードを同時に配置する例について説明する。以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1或いは2と同様である。
【0064】
図17は、実施の形態3における仕事関数取得用パラメータ測定装置の装置構成を示す概念図である。
図17において、実施の形態3における測定装置300は、真空容器50内に、複数のカソード10を同時に配置する。ウェネルト56は、カソード10毎にそれぞれ配置する。また、アノード電極54は、共通でよい。電子銃電源60と電流計70は、カソード10毎にそれぞれ配置するとよい。電子銃電源60内の図示しない加速電圧電源とカソード10とを、共通のアノード電極54に対して、並列に接続する。電子銃電源60内の図示しない加速電圧電源、カソード10、アノード電極54、そしてかかる加速電圧電源に繋がる直列回路間の電流をそれぞれの電流計70により測定することで各カソード10から放出される全放出電流Iを同時に測定できる。なお、
図17に例では、各カソード温度測定用の窓58が、アノード電極54の裏面側の真空容器50の壁面にそれぞれ配置される。そして、対応する窓58とカソード10間を遮蔽するアノード電極54にそれぞれ開口部を形成する。そして、真空容器50の外部に、共通のパイロメータ72(温度測定器)を配置する。カソード温度の測定については、共通のパイロメータ72を移動させることにより、各カソード10の電子放出時に、真空容器50の外から、パイロメータ72によってカソード10の電子放出面の温度を順に測定すればよい。
【0065】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。選別されたカソードを搭載する電子ビーム装置は、描画装置に限るものではなく、電子顕微鏡等のその他の電子ビーム装置にも適用できる。また、カソード材料として、LaB
6結晶を例に説明したが、タングステン(W)、六ホウ化セリウム(CeB
6)等、その他の熱電子放出材料にも適用できる。また、カソードの電子放出面を限定するためにカーボン膜を使用したが、カーボンに限定されるものではない。その他、レニウム(Re)等、電子放出材料よりも高い仕事関数を持つ材料であればよい。
【0066】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0067】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのカソード選別方法、カソード選別用の測定装置、電子ビーム描画装置、及び方法は、本発明の範囲に包含される。