(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維布帛は、第一の熱可塑性樹脂の軟化点(Ts)よりも75℃以上高い軟化点(Tk)を有する、第二の熱可塑性樹脂の繊維から形成されている請求項3に記載の皮革様シートの製造方法。
前記熱可塑性樹脂シートは、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレンとを含む熱可塑性樹脂を含む請求項1〜5の何れか1項に記載の皮革様シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る一実施形態の皮革様シートを製造方法の一例に沿って図面を参照しながら説明する。
【0018】
本製造方法は、繊維布帛の表面に、積層数の異なる少なくとも2つの領域が形成されるように複数枚の熱可塑性樹脂シートを重ねた積重体を準備する工程と、積重体を熱プレスにより融着させることにより、繊維布帛の表面に樹脂層を形成する工程と、を備える。すなわち、基材となる繊維布帛の表面に、複数枚の熱可塑性樹脂シートをそれらが完全には重ならないように積層する。このように複数枚の熱可塑性樹脂シートを積層することにより、例えば、熱可塑性樹脂シートが1層だけ積層された領域、2層積層された領域、3層積層された領域等のように、積層数が異なる領域を混在させることができる。そして、このような積層数が異なる領域を有する積層体を熱融着させて樹脂層を形成することにより、目付または厚みが異なる複数の領域を有する樹脂層が形成される。なお、繊維布帛の表面に熱可塑性樹脂シートが積層されていない領域も形成した場合には、その部分に繊維布帛の特性をそのまま残すこともできる。以下、例を挙げながら、本製造方法を説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る皮革様シートの具体的な一例である、皮革様シート10の製造方法を説明するための模式図である。
図1(a)は、皮革様シート10の製造に用いられる積重体9の斜視模式図であり、
図1(b)は積重体9を熱プレスする工程を説明するための斜視模式図である。
図1中、1は繊維布帛、2は第1の熱可塑性樹脂シート、3は第2の熱可塑性樹脂シート、4は第3の熱可塑性樹脂シートであり、5は下金型5a及び上金型5bを備える熱プレス金型である。
【0020】
皮革様シート10の製造においては、はじめに、
図1(a)に示すような積重体9を準備する。積重体9は、繊維布帛1の表面に、第1の熱可塑性樹脂シート2、第2の熱可塑性樹脂シート3、及び第3の熱可塑性樹脂シート4を積層配置して形成されている。第1の熱可塑性樹脂シート2、第2の熱可塑性樹脂シート3、第3の熱可塑性樹脂シート4はその順に徐々に外周及び面積が小さくなるように積層されており、1層のみ積層された領域、2層積層された領域、及び3層積層された領域が混在している。
【0021】
本例においては、第1の熱可塑性樹脂シート2、第2の熱可塑性樹脂シート3、及び第3の熱可塑性樹脂シート4は、互いに同色同素材の熱可塑性樹脂から形成された繊維構造体を用いている。熱可塑性樹脂シートとして繊維構造体を用いた場合には、複数枚を積層させて熱プレスするときに内部の気泡が抜けやすく、得られる樹脂層に気泡が残留しにくくなる点から好ましい。また、繊維構造体が、熱プレスにより溶融または軟化することにより繊維構造を失ってフィルム化し、目付または厚みが異なる領域間の段差がなだらかになり、一様な外観が得られやすくなる。なお、繊維構造が残っている場合は、その部分が乱反射により白くくすんだ状態となる傾向がある。さらに、繊維構造体を用いた場合には、表面の繊維の凹凸が滑り止めとなり、積重体の層間の位置ズレも抑制しやすい。
【0022】
また、第1の熱可塑性樹脂シート2、第2の熱可塑性樹脂シート3、及び第3の熱可塑性樹脂シート4を同色同素材で形成することにより、一様な外観を備えた樹脂層を形成することができる。
【0023】
皮革様シート10の製造においては、
図1(b)に示すように、熱プレス金型5の下金型5aと上金型5bとの間に、積重体9を配置し、熱プレスすることにより繊維布帛1の表面に、第1の熱可塑性樹脂シート2、第2の熱可塑性樹脂シート3及び第3の熱可塑性樹脂シート4を軟化または溶融させながら融着させる。このように繊維布帛1の表面に、熱可塑性樹脂シートを融着させて樹脂層を形成することにより、接着剤やホットメルトタイプのフィルム等を用いて接着層を形成させて貼り合せるような工程も省略できる。
【0024】
熱プレスに用いられる熱プレス装置の種類は特に限定されず、複数の熱可塑性樹脂シートを溶融させながら融着させることにより、樹脂層を形成できる装置であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、エンボス装置、平板プレス装置、高周波融着装置等が挙げられる。
【0025】
図2は上述したような製造方法により得られた皮革様シート10の模式図であり、
図2(a)は皮革様シート10の斜視模式図、
図2(b)は
図2(a)のA−A'断面における断面模式図である。皮革様シート10は、複数の熱可塑性樹脂シートを溶融または軟化させながら一体化させて、繊維布帛1の表面に融着されて形成された樹脂層6を備える。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、樹脂層6は目付または厚みの異なる3つの領域6a,6b,6cを有する。領域6aは第1の熱可塑性樹脂シート2,第2の熱可塑性樹脂シート3及び第3の熱可塑性樹脂シート4の3層が融着により一体化されて形成された、目付または厚みが最も大きな領域である。また、領域6bは第1の熱可塑性樹脂シート2及び第2の熱可塑性樹脂シート3の2層が融着により一体化されて形成された、目付または厚みが中間的な領域である。そして、領域6cは第1の熱可塑性樹脂シート2の1層のみが繊維布帛1の表面に融着されて形成された、目付または厚みが最も小さい領域である。
【0026】
皮革様シート10においては、
図2(b)に示すように、領域6a,領域6b,及び領域6cは、それぞれ隣接する領域に大きな段差がなく、なだらかに連接するように形成されていることが好ましい。このような場合には、一様な外観が得られやすくなるために、皮革様素材の表面を加飾する場合において、デザインの自由度が高くなる。
【0027】
次に、
図3は、本発明に係る皮革様シートの他の一例である、皮革様シート20の製造方法を説明するための模式図である。なお、
図1及び
図2で示した符号と同様の符号で示した要素は、同様の要素を示している。
図3(a)は、皮革様シート20の製造に用いられる積重体19の斜視模式図であり、
図3(b)は、積重体19を熱プレスすることにより得られた皮革様シート20の斜視模式図を示す。
【0028】
図3(a)に示すように、積重体19は、繊維布帛1の表面に、面積の最も大きい長方形の第1の熱可塑性樹脂シート12と、面積が中間的な長方形の第2の熱可塑性樹脂シート13と、面積が最も小さい短冊状の第3の熱可塑性樹脂シート14を順に、長軸が直交するように配置して形成されている。そして、第1の熱可塑性樹脂シート12と第2の熱可塑性樹脂シート13とは重ならない部分を有し、第2の熱可塑性樹脂シート13と第3の熱可塑性樹脂シート14とも重ならない部分を有し、1層のみ積層された領域、2層積層された領域、及び3層積層された領域が混在している。具体的には、中心付近には3層が積層されている領域を有し、その周囲に2層が積層されている領域及び1層のみが積層されている領域を有する。
【0029】
図3(b)は、積重体19を熱プレスすることにより得られた皮革様シート20の斜視模式図を示す。皮革様シート20は、繊維布帛1の表面に形成された樹脂層16を備える。
図3(b)に示すように、樹脂層16は目付または厚みの異なる3つの領域16a,16b,16cを有する。領域16aは第1の熱可塑性樹脂シート12,第2の熱可塑性樹脂シート13及び第3の熱可塑性樹脂シート14の3層が融着により一体化されて形成された、目付または厚みが最も大きい領域である。また、領域16bは第1の熱可塑性樹脂シート12と、第2の熱可塑性樹脂シート13または第3の熱可塑性樹脂シート14とが2層になるように積層された領域が融着により一体化されて形成された、目付または厚みが中間的な領域である。そして、領域16cは第1の熱可塑性樹脂シート12の1層のみが繊維布帛1の表面に融着されて形成された、目付または厚みが最も小さい領域である。
【0030】
図4は、本発明に係る皮革様シートの具体的な他の一例である、皮革様シート30の製造方法を説明するための模式図である。なお、
図1及び
図2で示した符号と同様の符号で示した要素は、同様の要素を示している。
図4(a)は、皮革様シート30の製造に用いられる積重体29の斜視模式図であり、
図4(b)は、積重体29を熱プレスすることにより得られた皮革様シート30の斜視模式図を示す。
【0031】
図4(a)に示すように、積重体29は、繊維布帛1の表面に、面積の大きい長方形の第1の熱可塑性樹脂シート22と短冊状の小さい面積の長方形の第2の熱可塑性樹脂シート23を積層した領域を形成し、さらに、前記領域から間隔を保持して、繊維布帛1の表面に第3の熱可塑性樹脂シート24を1層だけ配置して積重体を形成している。
【0032】
図4(b)は、積重体29を熱プレスすることにより得られた皮革様シート30の斜視模式図を示す。皮革様シート30は、繊維布帛1の表面に形成された、樹脂層26と、樹脂層26と間隔を保持して形成された樹脂層27とを備える。
図4(b)に示すように、樹脂層26は目付または厚みの異なる2つの領域26a,26bを有する。領域26aは第1の熱可塑性樹脂シート22及び第2の熱可塑性樹脂シート23の2層が融着により一体化されて形成された、目付または厚みが最も大きい領域である。また、領域26bは第1の熱可塑性樹脂シート22の1層のみが繊維布帛1の表面に積層されて融着されて形成された目付または厚みが領域26aよりも小さい領域である。一方、樹脂層27は第3の熱可塑性樹脂シート24の1層のみが繊維布帛1の表面に積層されて融着されて形成された目付または厚みが領域26aよりも小さい領域である。
【0033】
図1〜
図4を参照して説明した例で示したように、複数枚の熱可塑性樹脂シートを重ねた積重体を、繊維布帛の表面に配置し、熱プレスにより、積重体を融着させて繊維布帛の表面に樹脂層を形成する場合において、積層数の異なる少なくとも2つの領域を有するように複数の熱可塑性樹脂シートを重ねた積重体を用いることにより、所望のパターンの目付または厚みが異なるような皮革様シートを得ることができる。そして、このように皮革様シートの樹脂層の目付比を変化させることにより、機械的特性や風合いを局所的に変化させることができる。
【0034】
積重体を形成するための熱可塑性樹脂シートについて詳しく説明する。
【0035】
積重体を形成するための熱可塑性樹脂シートとしては、上述したように、繊維布帛の表面に複数枚重ねて配置し、熱プレスすることにより繊維布帛の表面に融着した樹脂層を形成することができる熱可塑性樹脂のシートであれば、特に限定なく用いられる。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー,ポリアミド系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,ポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、弾性ポリウレタン系樹脂、弾性ポリスチレン系樹脂、弾性ポリオレフィン系樹脂、弾性アクリル系樹脂等の弾性材料が好ましく用いられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、スチレン系熱可塑性エラストマーが伸縮性と耐摩耗性等の特性バランスに優れている点から好ましい。また、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、とくに、スチレン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレンとを含むポリマーブレンド(アロイ)樹脂であることが、配合比率を調整することにより、軟化温度を調整することにより熱プレスの加工性を調整できる点から好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂としては、軟化点が80〜180℃、さらには、105〜160℃、とくには110〜140℃であることが好ましい。軟化点が高すぎる場合は、熱プレスの温度を高く設定する必要があり、その場合には繊維布帛が硬くなる等して劣化する傾向がある。また、軟化点が低すぎる場合には、熱可塑性樹脂シートの耐熱性が低くなり、商品を二次加工する際の耐熱性や、製品の耐熱性が低下する傾向がある。
【0037】
また、熱可塑性樹脂シートの1枚当たりの目付は特に限定されないが、20〜250g/m
2、さらには25〜200g/m
2、とくには30〜150g/m
2あることが好ましい。目付が低すぎる場合には、積層数が少ない場合には充分な厚みの樹脂層を形成できなくなる傾向がある。また、目付が高すぎる場合には、樹脂層の目付または厚みの異なる隣接する領域に段差や境目ができやすくなる傾向があり、一様な外観が得られにくくなる傾向がある。なお、複数の熱可塑性樹脂シート間の目付は、互いに同じであっても異なっていてもよく、目的とする目付や厚みやデザインに応じて適宜選択できる。
【0038】
熱可塑性樹脂シートの形態としては、不織布、織布、編物等の繊維構造体やフィルム等が挙げられる。これらの中では繊維構造体が、複数枚を積層させて熱プレスしたときに内部の気泡が抜けやすいために樹脂層に気泡が残留しにくくなる点から好ましい。なお、フィルム同士を積層した場合には、気泡が残留しやすくなる傾向があるために、少なくとも1層は繊維構造体を用いることが好ましい。また、繊維構造体を用いた場合には、表面の繊維の凹凸が滑り止めとなり、積重体の層間の位置ズレを抑制できる点からも好ましい。さらに、繊維構造体を用いた場合には、フィルムを用いた場合に比べて機械的特性の縦方向と横方向の異方性も制御しやすい点からも好ましい。具体的には、不織布は、機械的特性の異方性を小さくしやすく、織物や編物は、その配向を制御して配置した場合には異方性を大きくできる。
【0039】
熱可塑性樹脂シートに用いられる不織布の製造方法は特に限定されず、例えば、スパンボンド法、メルトブローン法、エアレイド法、カーディング法、湿式法等が挙げられる。これらの中では、コスト面及び樹脂選択の自由度が高い点からメルトブローン法が好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂シートは、互いに完全に重ならないように複数枚重ねることにより積層数の異なる部分を形成するように配置される。積層数の上限は、求める特性や一枚当たりの目付に応じて適宜選択されるが、10層以下、さらに7層以下程度であることが生産性の点から好ましい。
【0041】
なお、複数枚の熱可塑性樹脂シートとして、同色同素材のものを選択した場合には、一様な外観の樹脂層が得られる。そのために、特性の違う複数の領域が混在しているにも関わらず、各領域の外観に差が出ないような一様な外観の皮革様シートが得られる。一方、互いに、着色や樹脂特性を異なるような複数枚の熱可塑性樹脂シートを積層した場合には、色や機械的特性や風合いが異なる領域を部分的に配置したような樹脂層を備えた皮革様シートを得ることもできる。
【0042】
次に、積重体を形成するための繊維布帛について詳しく説明する。
【0043】
繊維布帛を形成する繊維の種類は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂等のポリエステル繊維;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6−12等のポリアミド系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、塩素系ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、などのポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等から形成される変性ポリビニルアルコール系樹脂;及び、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの結晶性エラストマー等が挙げられる。これらの中では、芳香族ポリエステル系樹脂が各種特性のバランスに優れる点から好ましい。
【0044】
なお、繊維布帛を形成する繊維は、加工性の観点から軟化点が130℃以上、さらには
150℃以上になるように選択することが好ましい。繊維布帛を形成する繊維の軟化点が低すぎる場合には、熱プレス工程において軟化することにより繊維布帛が硬くなることにより良好な風合いを失う傾向がある。
【0045】
また、繊維布帛を形成する繊維は、熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂の軟化点(Ts)よりも75℃以上、さらには90℃以上高い軟化点(Tk)を有するように選択することが加熱プレス条件の選択の幅が大きい点から好ましい。また、このような場合には、Ts+15(℃)〜Tk−50(℃)の範囲の温度
で熱プレスを行うことが好ましい。熱プレスの温度が、Ts+15(℃)未満の場合には熱可塑性樹脂シートが十分に融着されず機械的物性が低くなる傾向があり、Tk−50(℃)を超える場合には熱可塑性樹脂シートの沈み込みや、繊維布帛の軟化に起因して風合いが硬化する傾向がある。
【0046】
さらに、繊維布帛を形成する繊維の軟化点(Tk)と熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂の軟化点(Ts)との差Tk−Tsは、40℃以上、さらには50℃以上、とくには75℃以上であることが、得られる皮革様シートの優れた機械的特性や風合いと外観とを兼ね備える点から好ましい。なお、Tk−Tsの上限としては、150℃、さらには100℃であることが好ましい。
【0047】
繊維布帛の形態は特に限定されず、例えば、不織布、織布、編物等が用いられる。また、繊維布帛はバフィング処理されて表面の繊維が立毛されたスエード調の外観を有するものであることが意匠性に優れる点から特に好ましい。さらに、繊維布帛は、染色、グラビアプリント、スプレー等によって意匠性が付与されていてもよい。これらの中では、皮革様シートとしての風合いや品位に優れている点から不織布を用いることが特に好ましい。
【0048】
不織布を用いる場合、不織布を形成する繊維の単繊維繊度は0.9dtex超のようなレギュラー繊維であっても、0.9dtex以下のような極細繊維であってもよいが、腰があり且つしなやかな風合いの人工皮革を製造する場合には、極細繊維であることが好ましい。極細繊維の単繊維繊度は0.9dtex以下、さらには0.01〜0.8dtex、とくには0.05〜0.5dtex、ことには0.07〜0.1dtexであることが風合いに優れた緻密な皮革様シートが得られる点から好ましい。このような極細繊維の不織布は、例えば、混合紡糸法や複合紡糸法等を用いて得られる海島型断面繊維や多層積層型断面繊維等の極細繊維発生型繊維を極細化処理して得られる極細繊維の絡合体であることが好ましい。
【0049】
極細繊維の不織布の見掛け密度は0.45g/cm
3以上、さらには0.45〜0.70g/cm
3、とくには0.50〜0.65g/cm
3であることが好ましい。極細繊維の不織布が、このように高い見掛け密度を有する場合には、腰のあるしなやかな風合いの皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0050】
また、不織布は、形態安定性を付与すること等の目的で高分子弾性体を含有することが好ましい。高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂,ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂,弾性ポリスチレン系樹脂,弾性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が、柔軟性と充実感に優れる皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0051】
このような皮革様シートは、上述のように、繊維布帛と、繊維布帛の少なくとも一面に積層された樹脂層とを含み、樹脂層は、異なる目付比または厚み比を有する少なくとも2つの連接する領域を有する皮革様シートである。このような皮革様シートに形成された樹脂層は、例えば、1.2倍以上、さらには1.5倍以上、とくには2.0倍以上のような目付比または厚み比を互いに有するような複数の領域を有する。
【0052】
樹脂層の厚みは特に限定されないが、各領域が、15〜200μm、さらには25〜150μmの範囲に含まれる場合には、充分な銀付調の外観が得られる点から好ましい。
【0053】
このような皮革様シートは、部分的な補強や伸縮性が求められるような製品、具体的には、例えば、靴甲皮材、衣料、雑貨等の製品の製造に好ましく用いられる。以下に一例として、靴の甲皮材として用いる例について説明する。
【0054】
図5を参照しながら、上述したような皮革様シートを用いて得られる製品の一例を、靴を例示して説明する。
図5は、本実施形態の皮革様シート10を靴の甲皮材として用いて得られた靴50の側面模式図である。
【0055】
靴50はスポーツ靴であり、皮革様シート10における、熱可塑性樹脂シートを3枚積層して形成された領域6aがつま先部分51に配され、熱可塑性樹脂シートを1枚積層して形成された領域6cが側面部52に配されている。そして、熱可塑性樹脂シートを2枚積層して形成された領域6bがつま先部分51と側面部52とに連接する緩衝部53に配されている。
【0056】
靴50においては、熱可塑性樹脂シートを3枚積層して形成された領域6aをつま先部分51に配することにより、耐久性や耐摩耗性が特に要求されるつま先部分を補強するとともに、伸びを抑制している。また、熱可塑性樹脂シートを1枚積層して形成された領域6cを側面部52に配することにより、耐久性や耐摩耗性の要求が低い部分において軽量化が図れるとともに、この部分のストレッチ性を確保できる。さらに、つま先部51と側面部52との間に、熱可塑性樹脂シートを2枚積層して形成された緩衝部53を配することにより、特性の急激な変化による使用時の屈曲等を抑制することができる。そして、このような靴は、皮革様シートの製造工程において各領域の特性を調整して製造されているために、靴の製造工程による二次加工のように、一つ一つの製品ごとに加工することが要求されない。また、複数の同じ熱可塑性樹脂シートを用いて皮革様シートを製造した場合には、つま先部分51、側面部52、及び緩衝部53のような異なる特性を有する部分において、一様な外観を得ることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
はじめに、本実施例で用いた繊維布帛である不織布、及び熱可塑性樹脂シートである不織布の製造について説明する。
【0059】
<繊維布帛である不織布の製造>
水溶性熱可塑性PVA系樹脂を海成分とし、イソフタル酸変性度6モル%のPET(軟化点(Tk)255℃)を島成分とし、繊維1本あたりの島数が25島で、海成分/島成分が25/75(重量比)となるような溶融複合紡糸用口金を用い、260℃で海島型のフィラメントを口金より吐出した。そして、紡糸速度が4000m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.5デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集し、目付30g/m
2の長繊維ウェブを得た。
【0060】
そして、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングすることにより8枚重ね、これに、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、6バーブのニードル針で2000パンチ/cm
2のパンチ密度でニードルパンチングすることにより、絡合された長繊維ウェブを得た。
【0061】
そして、絡合された長繊維ウェブを水蒸気により熱収縮させた。水蒸気による熱収縮処理は、はじめに、絡合された長繊維ウェブ中の海成分の量に対して30質量%の水分を付与し、次いで、相対湿度が90%、温度が110℃の加熱水蒸気雰囲気下で80秒間加熱処理した。このときの面積収縮率は45%であった。
【0062】
次に、熱収縮処理により得られたウェブ絡合シートに、アニオン性自己乳化型の水性ポリウレタン(100%モジュラス 3.0MPa)と感熱ゲル化剤である硫酸アンモニウムを含浸させた。なお、水性ポリウレタンの濃度は、水性ポリウレタンの固形分量/島成分の量の質量比が15/85となるように濃度を調整した。そして、マイグレーションを防止するために水蒸気雰囲気下で水性ポリウレタン分散液をゲル化処理した後、120℃で10分間乾燥した。
【0063】
そして、ポリウレタンを含浸させたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に10分間浸漬することにより海成分を除去して極細繊維を形成した後、120℃の温度で10分間乾燥することにより、厚み1.1mmの中間体シートが得られた。
【0064】
得られた中間体シートをその表面と平行な面でスライス処理し、次いで#320のサンドペーパーでバフィング処理することにより、厚み0.5mm、目付252g/cm
3の繊維布帛である不織布を得た。
【0065】
<熱可塑性樹脂シートである不織布の製造>
メルトブローン不織布製造装置を用いて、表1に示す熱可塑性エラストマーをそれぞれ用いて表2に示すような不織布を製造した。
【0066】
【表1】
【0067】
具体的には、表1に示した何れかの熱可塑性樹脂をエクストルーダーで所定の温度で溶融押出しした後、孔径が0.3mm、孔間隔が0.75mmである紡糸ノズルへ供給し、単孔吐出量0.03g/孔・分の割合で吐出すると同時に、紡糸ノズル近傍に設けられたスリットよりエアー圧0.14kg/cm
2で熱風を噴出させ、吐出した繊維を細化し、それを紡糸ノズル下12cm下方に位置するベルトにて捕集した。その際、吸引サクションロールの速度を調整することにより、1枚当たりの目付が15g/m
2、45g/m
2、220g/m
2、または270g/m
2になるように調整した。このようにして、複数種の熱可塑性樹脂シートである不織布を製造した。なお、軟化点は、プレス成型にて1mm厚のポリマー測定サンプルを作成し、動的粘弾性測定装置(DVEレオスペクトラー、(株)レオロジー社製)を用いて、周波数1Hz、初期ゆがみ0.05%、昇温速度3℃/分の条件で動的粘弾性率を測定することにより、軟化点を算出した。
【0068】
[実施例1]
繊維布帛である不織布の一面に、軟化点125℃のTPS1から形成され、目付45g/m
2の不織布から切り出した、異なる形状の3枚のTPS1の不織布を、
図1で示したようにして積層することにより積重体を製造した。なお、繊維布帛の形状は、縦300mm×横400mmであり、3枚のTPS1の不織布の形状はそれぞれ、縦250mm×横300mm、縦200mm×横200mm、縦150mm×横150mmであった。
【0069】
そして、得られた積重体を、面圧40kg/cm
2、温度150℃×30秒間の条件で平板プレス機を用いて熱プレスした。そして冷却することにより、表面に銀面調の樹脂層が形成された皮革様シートを得た。得られた銀面調の樹脂層は、3枚を積層して形成された領域の中央部の目付が約140g/m
2であり、2枚を積層して形成された領域の中央部の目付が約85g/m
2であり、1枚を積層して形成された領域の中央部の目付が約42g/m
2であった。なお、樹脂層の目付は、皮革様シート全体の目付から不織布の目付を引いて算出した。
【0070】
このようにして得られた皮革様シートを以下の方法により評価した。
【0071】
〈外観〉
皮革様シートの外観を目視及び触感で観察し、以下の基準で判定した。
(樹脂層の形成状態)
A:一様な銀面調の樹脂層であった。
B:表面は一様な銀面調の樹脂層であったが、内部を観察するとボイドが残留していた。
C:銀面調の一部分にかすれたように、繊維布帛表面が露出している部分があった。
(段差の有無)
A:樹脂層表面の全面において、明らかな外観の違いは観察されず、一様な表面であった。
B:樹脂層表面に部分的に明らかな段差が形成されていた。
(融着状態)
A:積層された複数の熱可塑性樹脂シート間の界面が消失しており、また、繊維布帛に強く接着していた。
B:積層された熱可塑性樹脂シートの界面または未溶融の繊維構造の存在により部分的に白濁し、また、繊維布帛との接着性が低かった。
C:繊維布帛の一部分が熱により劣化して、または樹脂層が沈み込んで硬くなっていた。
【0072】
<20%強力の測定>
皮革様シートを0〜3枚を重ねて形成された各領域から縦方向の2.5cm×15.0cmのサンプルを切り出し、引張試験機を用いてそれぞれのサンプルのS−S曲線を得た。そして、得られたS−S曲線から20%強力を算出した。
【0073】
<二次加工性>
一般的な靴の二次加工で用いられる手法として高周波融着加工を選択し、その加工適性を評価した。具体的には、皮革様シート上に対し熱可塑性ポリウレタンフィルム(ポリエステル系、厚み200μm、軟化点120℃、A硬度70)を高周波融着装置を用いて、型の予熱温度50℃、面圧4kg/cm
2、電流値0.35A、処理時間2.5秒×2回の条件にて処理を行い、処理部の外観を目視で観察し、以下の基準で判定した。
A:処理部に、熱可塑性ポリウレタンフィルムが融着され、外観品質上問題となるような欠点が認められなかった。
B:処理部に、熱可塑性ポリウレタンフィルムが融着されていたが、銀面調の樹脂層との境界部分で、樹脂が過度に溶融して変形し、基材が一部露出していた。
【0074】
以上の評価結果を表2にまとめて示す。
【0075】
【表2】
【0076】
[実施例2]
実施例1において、軟化点125℃のTPS1から形成され、目付45g/m
2の不織布を用いた代わりに、軟化点120℃のTPU1から形成され、目付45g/m
2の不織布を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例3]
実施例1において、目付45g/m
2の不織布を用いた代わりに、目付220g/m
2の不織布を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0078】
[実施例4]
実施例1において、目付45g/m
2の不織布を用いた代わりに、目付270g/m
2の不織布を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0079】
[実施例5]
実施例1において、目付45g/m
2の不織布を用いた代わりに、目付15g/m
2の不織布を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0080】
[実施例6]
実施例1において、得られた積重体を、温度150℃×30秒間の条件で熱プレスする代わりに、温度130℃×30秒間の条件で熱プレスした以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0081】
[実施例7]
実施例1において、目付45g/m
2の不織布を用いた代わりに、目付45g/m
2の無孔のフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0082】
[実施例8]
実施例1において、軟化点125℃のTPS1から形成され、目付45g/m
2の不織布を用い、得られた積重体を、温度150℃×30秒間の条件で熱プレスする代わりに、軟化点70℃のTPU2から形成され、目付45g/m
2の不織布を用い、得られた積重体を、温度120℃×30秒間の条件で熱プレスした以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0083】
[実施例9]
実施例1において、軟化点125℃のTPS1から形成され、目付45g/m
2の不織布を用い、得られた積重体を、温度150℃×30秒間の条件で熱プレスする代わりに、軟化点190℃のTPU3から形成され、目付45g/m
2の不織布を用い、得られた積重体を、温度220℃×30秒間の条件で熱プレスした以外は実施例1と同様にして皮革様シートを製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0084】
実施例1〜9で得られた皮革様シートは、いずれも、互いに目付の異なる領域を有する樹脂層を表面に備えていた。その結果、異なる領域において、20%強力も異なっていた。なお、TPSのフィルムを融着させた実施例7で得られた皮革様シートの樹脂層は、内部を観察するとボイドが残留しており、また、わずかに段差が観察され、融着状態がやや劣っていた。また、TPSの軟化温度(Ts)である130℃で熱プレスした実施例6は繊維の融着がやや不充分であった。