(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生物由来物質が農産廃棄物、畜産廃棄物、水産廃棄物、食品加工廃棄物、及び厨房系廃棄物からなる群から選択される少なくとも1種の廃棄物である請求項1〜4のいずれか記載の生物由来物質の分解方法。
【背景技術】
【0002】
二十世紀の人類は、再生不可能な化石資源を多用して現代文明を築いてきた。しかしながら、こうした生活様式は、人類の生活の均一化に伴い、資源コストの高騰や資源の供給の逼迫等の問題を生じさせるとともに、副産物で地球環境を悪化させる要因となっている。そのため、リサイクル可能な資源を有効に活用することのできる技術の開発が強く求められている。
【0003】
特に、生物由来物質(以下、バイオマスと称すことがある)は再生可能な地球最大の資源で、これを有効にリサイクリングすることが望まれている。これまで、家庭生ゴミ(以下、単に生ゴミと称す)、食品加工廃棄物、農業廃棄物などのバイオマスを処理する技術は、微生物の機能を利用してバイオマスを部分分解して肥料化するインドール法と呼ばれる技術を基盤とするものである。そして、この目的に使用する機器も多数開発されている。
【0004】
しかしながら、従来の、固体のバイオマスに微生物を添加して発酵分解させる方法(固相発酵)では、原料であるバイオマスの体積に比べて微生物の量が少ない。そのため、分解の初期段階で、バイオマスに添加した微生物による分解よりもバイオマス自体が持ち込んでくる常在性の微生物による分解が優先する現象が起こるという問題がある。これによって、発酵過程での異臭(臭気)の発生や腐敗などが生じることが多い。したがって、固相発酵でバイオマスを効率よく分解するには、特殊な性格の微生物(例えば高温性の細菌)を用いて、常在性の微生物の活動を抑圧しつつ発酵を行うなどの工夫がなされている。
【0005】
しかしながら、そうした方法でも、バイオマスを完全に液状にまで分解する方法はなく、分解に適した高密度の微生物環境を造成することは容易ではない。このような状況において、微生物とともに処理槽に充填剤を添加して分解処理する装置や、バインダーを用いて基材上に微生物を固着させた微生物徐放剤が提案されている。
【0006】
特許文献1には、生ごみと充填材とを混合し、処理槽内で微生物の作用で生ごみを分解処理する生ごみ処理装置が開示されている。ここで用いられる充填材として、発泡樹脂の小粒を使用することが記載されている。発泡樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタンなどの合成樹脂の発泡体が適当であることが記載されている。また、発泡体の発泡形式としては独立発泡でも連続発泡でも差支えないが、発泡体内部に生ごみの小片が侵入することがないことや、表面のスキン層を通じて水や空気が生ごみに接触し易いことから、独立発泡のほうが好ましいことが記載されている。これにより、生ごみとともに充填材自体が分解されることがなく、充填材と生ゴミとが混合することにより、生ゴミと水分や空気との接触が円滑に行われ分解が促進されるとされている。しかしながら、その分解能は未だ十分であるとはいえない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、微生物を担持させる担体として含水ポリビニルアルコール担体を用いることが重要である。ポリビニルアルコールは、多数の水酸基を有しているために親水性が高く、生体との親和性も高いことから微生物担体として好適である。含水ポリビニルアルコール担体としては、ポリビニルアルコール含水ゲルを用いることが好ましく、アセタール化されたポリビニルアルコール含水ゲルを用いることがより好ましい。これにより微生物の保持量をより増大させることができると共に、繰り返し使用における耐久性を確保することもできる。また、本発明で用いられる含水ポリビニルアルコール担体は保水性に優れている。そのため、担体に外力が加わり変形したとしても容易には水分が放出されず微生物の棲息に適した環境を維持することができる。一方、微生物を担持させる担体としてポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタンなどの合成樹脂の独立発泡体を用いた場合、気泡が各々独立して連続していないため水や空気を通し難く、微生物を担持させる担体として好ましくない。微生物を担持させる担体として合成樹脂の連続発泡体を用いた場合、本発明で用いられる含水ポリビニルアルコール担体と異なり、外力が加わり変形すると容易に水分が放出されるので微生物の棲息に適した環境を維持することができず微生物の棲息性が劣る。
【0017】
中でも、ポリビニルアルコールと、アルギン酸塩のような水溶性高分子多糖類とが溶解した水溶液を、塩化カルシウム水溶液のような多価金属イオンを含む水溶液中に滴下することによって球状に成形し、次いでホルマリンなどを用いてアセタール化処理した球状含水ゲルを用いることが好ましい。こうすることによって、均一な球状ゲルが得られるので、微生物を保持した球状ゲル担体の表面とバイオマスとの接触効率が高くなり分解効率が向上すると共に、繰り返し使用における耐久性も向上する。
【0018】
本発明の含水ポリビニルアルコール担体に用いられるポリビニルアルコールは、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルを重合し、ケン化することによって得られる。強度、耐水性等の点から平均重合度1000以上、とくに1500以上のポリビニルアルコールがより好ましい。また、耐水性等の点からケン化度95モル%以上、さらに98モル%以上、とくに99.8モル%以上とするのが好ましい。本発明においては無変性ポリビニルアルコールを用いればよいが、本発明の効果を損なわない範囲で種々の変性ポリビニルアルコールを用いてもよい。
【0019】
上記平均重合度は下記式により算出される。
平均重合度=([η]×103/7.94)(1/0.62)
[η]は極限粘度を示し、該極限粘度の測定は以下のようにして行った。すなわち、ポリビニルアルコール系重合体を完全けん化後、再酢化した重合体について、ウベローデ型の粘度計を用いて、アセトン中、30℃で極限粘度[η]を測定した。
【0020】
本発明で用いられる含水ポリビニルアルコール担体は、連続孔のある三次元立体網目構造を有するものであるのが好ましい。このような構造とすることで含水ポリビニルアルコール担体の表面積を飛躍的に増大させて、微生物保持性及びバイオマスとの接触効率を一層増大させることができ、バイオマスの分解効率を向上させることができる。含水ポリビニルアルコール担体の含水率は、好適には50〜95重量%である。含水率が50重量%未満の場合には、微生物の保持量が不十分になるおそれがあり、より好適には70重量%以上である。一方、含水率が95重量%を超える場合には、担体の強度が低下するおそれがあり、より好適には92重量%以下である。
【0021】
含水ポリビニルアルコール担体の球相当径が、0.5〜6mmであることが好ましい。担体の大きさをこのような範囲とすることで、担体の取り扱い性を向上させつつ、担体の単位重量当たりの表面積を増大させることができる。これによって微生物保持性及びバイオマスとの接触効率を一層増大させることができ、バイオマスの分解効率が向上する。
【0022】
本発明において、含水ポリビニルアルコール担体に担持される微生物は、バイオマスを分解できるものであれば特に制限はないが、バチルス属の細菌であることが好ましい。バチルス属の細菌としては、バチルス・アミノリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)IFO14141、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)IFO3329、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)IFO12583、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)IFO12195、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)IFO AKU212、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)IFO3134、バチルス・サブチリスTS−A(FERM P−18351)、などが挙げられる。その中でも、本発明において担体に担持させる微生物は、ナットウ菌(Bacillus subtilis:バチルス・サブチリス)および/またはその同属細菌であることがより好ましい。また、担体には1種類のバチルス属の細菌が担持されてもよいし、2種類以上のバチルス属の細菌が担持されてもよい。
【0023】
本発明において、含水ポリビニルアルコール担体に担持される微生物は常法によって培養して得ることができる。その培養条件は微生物の種類によって異なるが、微生物の量が最大になる条件を適宜選んで培養すればよい。微生物を培養するときの培地として、デンプン、ペプトン、カゼイン加水分解物、デキストリン、酵母エキス、ブドウ糖などの天然有機物質を含むものが用いられる。また、場合によってはリン酸塩、カリウム塩などの無機塩類も培地に適量添加することが出来る。さらに、小麦フスマ、米ヌカ、大豆粉、モミガラなどの栄養源を培地に適量添加してもよい。培養条件に関しても、特に制限はなく、通気液体培養、固体培養など通常の微生物を増殖させるに好都合な条件を適宜選択すればよい。
【0024】
含水ポリビニルアルコール担体に微生物を担持させる方法としては、特に制限はないが、例えば以下に記載する方法で担持させることができる。
【0025】
含水ポリビニルアルコール担体を水に分散させた分散液を調整し、これに天然有機物質等で構成される培地を添加して十分に混合する。このとき含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して培地を1〜5重量部添加することが好ましい。そして、これに微生物を添加して十分に混合することにより、微生物を培養させて微生物が担体に担持される。微生物の培養条件は特に制限されないが、微生物がバチルス菌の場合で20〜30℃、10〜40時間である。上記温度範囲とすることで、培養の増殖速度を長時間維持できるので好ましい。また、上記時間範囲とすることで、バイオマスを分解するために十分な量の微生物を担体に担持できるので好ましい。このような培養条件とすることでバチルス菌は投入した菌数の10倍〜100倍程度に増殖する。また、担体を含む培養液を4〜8時間間隔で撹拌することが好ましい。このようにすることで、含水ポリビニルアルコール担体に微生物を効率的に担持させることができる。
【0026】
含水ポリビニルアルコール担体に微生物を担持させる方法として、特に製法の簡素化の観点から、培地を予め水に溶解し、この培地溶液と含水ポリビニルアルコール担体とを混合し、これに微生物を混合する方法も好ましい。このときの微生物の培養条件は特に制限されないが、微生物がバチルス菌の場合、室温〜28℃で培養することが好ましい。また、天然有機物質等で構成される培地に微生物を添加して微生物を培養させた後に、含水ポリビニルアルコール担体を投入し、該担体に微生物を担持させる方法を選択してもよい。担体を含む培養液を4〜8時間間隔で撹拌することが好ましい。このようにすることで、含水ポリビニルアルコール担体に微生物を効率的に担持させることができる。
【0027】
本発明において分解される生物由来物質は、微生物が分解することのできる有機物であれば特に制限はないが、農産廃棄物、畜産廃棄物、水産廃棄物、食品加工廃棄物、及び厨房系廃棄物からなる群から選択される少なくとも1種の廃棄物であることが好ましい。中でも、本発明において分解される生物由来物質として好適なものは、厨房系廃棄物、特に家庭生ゴミである。
【0028】
また、生物由来物質を効率よく分解するには、上記廃棄物のうち1種の廃棄物であることがより好ましく、単一の植物種又は単一の動物種からなる廃棄物であることがさらに好ましい。ここで生物由来物質が単一の植物種である場合の例として、芝草を挙げることができる。一般的に、ゴルフ場、サッカー場、校庭などの芝草が生えている場所では定期的に芝草を刈り込む必要がある。このとき刈り取った芝草をそのまま放置すれば芝草の生育に悪影響をおよぼすおそれがある。また、刈り取った芝草を処分するにしても手間やコストがかかるといった問題もある。そこで、本発明の分解方法により、刈り取った芝草を分解すれば手間やコストをかけることなく効率よく処理することができる。さらに、芝草が分解処理されることで得られる分解生産物を含む水溶液は、液体肥料として用いることもできる。つまり、刈り取った芝草が再び芝草が生育するための肥料となり循環型リサイクルシステムを構築することができる。
【0029】
本発明の分解方法では、微生物を担持した含水ポリビニルアルコール担体、生物由来物質及び水を反応容器内で混合し、撹拌する。このとき、混合される生物由来物質の量は、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して20〜500重量部である。反応容器内の生物由来物質の量が、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して20重量部未満であると、生物由来物質の量に対して微生物の量が多くなり非効率である。反応容器内の生物由来物質の量は、30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましい。一方、反応容器内の生物由来物質の量が、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して500重量部を超えると、生物由来物質の量に対して微生物の量が少なく、分解効率が悪くなるおそれがある。反応容器内の生物由来物質の量は、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して、300重量部以下が好ましく、200重量部以下がより好ましい。
【0030】
混合される水の量は、微生物を担持した含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して、5〜70重量部である。水の量がこの範囲内であることによって、バイオマスを効率的に分解することができる。反応容器内の水の量は、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して10重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。
【0031】
反応容器内には、微生物を担持した含水ポリビニルアルコール担体、生物由来物質及び水に加えて、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して硬質担体20〜300重量部をさらに加えて混合し撹拌してもよい。上記硬質担体の素材としては、硬質樹脂、セラミックス、金属片、木片等の含水ポリビニルアルコール担体に比べて硬いものを用いることが好ましい。生物由来物質と硬質担体とが反応容器内で撹拌されることで、硬質担体によって生物由来物質が砕かれ、生物由来物質の分解が促進される。反応容器内の硬質担体の量が、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して20重量部未満であると、破砕力が十分に得られない。反応容器内の硬質担体の量は、30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましい。一方、反応容器内の硬質担体の量が、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して300重量部を超えると、硬質担体の量が多すぎて分解効率が悪くなる。反応容器内の硬質担体の量は、200重量部以上が好ましく、250重量部以上がより好ましい。また、硬質担体の球相当径が0.5〜15mmであることが好ましい。
【0032】
そして、上記の割合で微生物を担持した含水ポリビニルアルコール担体、生物由来物質及び水を反応容器内で混合し撹拌することによって、担体に担持された微生物が生物由来物質を分解する。混合方法や撹拌方法に特に制限はなく、所定の大きさの反応容器に含水ポリビニルアルコール担体、生物由来物質及び水を投入し、公知の撹拌装置を用いて反応容器内の内容物を撹拌すればよい。
【0033】
また、本発明の分解方法において、上記反応容器から分解生産物を含む水溶液を取り出すことが好ましい。具体的には、微生物担持担体、生物由来物質及び水を反応容器内で混合して、所定時間経過後又は生物由来物質が所定量分解された後に、反応容器から分解生産物を含む水溶液を取り出す。このようにすることで分解生産物を含む水溶液が反応容器内に溜まることがなくなる。
【0034】
また、反応容器に連続的あるいは間欠的に水を供給しながら反応容器から分解生産物を含む水溶液を連続的に取り出すことが好ましい。このようにすることで、反応容器内の水の量が、微生物担持担体100重量部に対して5〜70重量部となるように調整することができる。また、分解処理で減少した分だけ生物由来物質を逐次反応容器に投入すれば連続的に分解処理を行うこともできる。
【0035】
本発明において、担体に担持された微生物によって生物由来物質を分解して、反応容器から分解生産物を含む水溶液を取り出すことによって、効率よく液体肥料を製造することができる。
【0036】
本発明の分解装置は、微生物が担持された含水ポリビニルアルコール担体を収容した反応容器と、上記反応容器に水を供給する手段と、上記反応容器内の生物由来物質を撹拌する手段と、上記反応容器から分解生産物を含む水溶液を取り出す手段とを備える。
【0037】
図1は、本発明の分解装置の一例を示した図である。この分解装置は、反応容器1と、反応容器1に水を供給する撒水パイプ2と、反応容器1内の内容物を撹拌するための撹拌スクレイパー3及び撹拌スクレイパーが取り付けられたシャフト4、及び分解生産物を含む水溶液を取り出す水溶液取り出しパイプ5を備える。
【0038】
分解装置の反応容器1には、微生物が担持された含水ポリビニルアルコール担体が収容される。このとき反応容器1に収容される含水ポリビニルアルコール担体は、上述した微生物担持担体であることが好ましい。
【0039】
撒水パイプ2は、反応容器1内に水を供給するためのパイプである。水の供給方法に特に制限はないが、
図1に示すように、撒水パイプ2に適度な間隔で穴を設け、反応容器1の上部に取り付け、反応容器1の上部から散水するのが好ましい。また、撒水パイプ2の本数、穴の大きさ、穴の個数等についても特に制限はなく、反応容器1内の内容物全体に水が供給されるように適宜調整すればよい。この方法で撒水することによって、適当な水分量を維持することができる。
【0040】
撹拌スクレイパー3は、反応容器1内の内容物を混合し撹拌する。撹拌スクレイパー3の本数や大きさについて特に制限はなく、反応容器1内の内容物が十分に混合、撹拌される本数、大きさを適宜設定すればよい。
【0041】
また、シャフト4は手動または電動で回転させてもよいが、
図1に示すようにモーター7を用いることが好ましい。シャフト4の回転数に特に制限はなく、反応容器1内の生物担持担体、生物由来物質及び水が十分に混合、撹拌される程度の回転数であればよい。
【0042】
水溶液取り出しパイプ5は、反応容器1内の水、すなわち分解生産物を含む水溶液を反応容器1から取り出すためのパイプである。具体的には、
図1に示すように、分解生産物を含む水溶液は、反応容器1の下部に備わった口径1〜2mmの篩板6によって濾別して水溶液取り出しパイプ5によって取り出されることが好ましい。
【0043】
この分解装置を用いて生物由来物質の分解を行う場合の好ましい実施形態は、含水ポリビニルアルコール担体100重量部に対して、生物由来物質20〜500重量部及び水5〜70重量部を反応容器1内に入れ、混合し、撹拌する。反応容器1に投入する順序に制限はなく、生物由来物質を反応容器1に投入した後に撒水パイプ2によって水を供給してもよいし、撒水パイプ2によって水を供給した後に生物由来物質を反応容器1に投入してもよいし、撒水パイプ2によって水を供給しながら生物由来物質を反応容器1に投入してもよい。また、反応容器1内に存在する水の量が生物担持担体100重量部に対して5〜70重量部となるように、撒水パイプ2から水を供給することが好ましい。
【0044】
そして、反応容器1内に生物由来物質が投入され、撒水パイプ2によって水が供給され、撹拌スクレイパー3によって内容物が混合、撹拌されることで、生物由来物質が分解処理される。また、撒水パイプ2によって供給された水は、反応容器1内の内容物を洗浄して、分解生産物を含む水溶液を抽出し、水溶液取り出しパイプ5によって分解装置外に取り出される。これによって、分解生産物を含む溶液が、投入したバイオマス原料の重量の約20倍量得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の説明において、分解生産物を含む水溶液のことをBDS(Biomass Digested Solution)と称すことがある。
【0046】
以下の実施例では担体として含水ポリビニルアルコール担体(以下、担体Aと称す)、ポリプロピレン担体(以下、担体Bと称す)、及び低含水ポリビニルアルコール担体(以下、担体Cと称す)を用いた。ここで、担体Aは、ポリビニルアルコールとアルギン酸塩とが溶解した水溶液を、塩化カルシウム水溶液を含む水溶液中に滴下してからホルマリンでホルマール化することによって得た多孔質構造の球状ポリビニルアルコール系含水ゲルである。この担体Aの球相当径は4mmであり、含水率は89重量%である。また、担体Bは無孔の立方体(一辺約5mm)であり、含水率は0重量%である。担体Cは、担体Aの製造においてホルマール化の反応温度を高く変更することによって得た多孔質構造の球状ポリビニルアルコール系含水ゲルである。この担体Cの球相当径は4mmであり、含水率は45重量%である。
【0047】
[微生物担持担体の調整]
バチルス菌を液体培地(グルコース5%、ペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、pH6.8)に接種し、28℃で48時間、バチルス菌を培養した。このようにして作製したバチルス菌培養液に湿重量で1.5倍量の担体A、担体Bまたは担体Cを投入し、十分に撹拌して室温(22℃)で静置して菌体を担体に担持させた。
【0048】
[担持されている細菌数の測定]
微生物を担持させた担体A〜Cの担体1mLをそれぞれ粉砕し、殺菌水に懸濁して各担体に担持されている細菌を栄養培地寒天平板上で72時間培養した後の細菌数、168時間培養した後の細菌数をそれぞれ計測した。結果を表1に示す。以下、微生物が担持された担体Aのことを微生物担持担体A、微生物が担持された担体Bのことを微生物担持担体B、微生物が担持された担体Cのことを微生物担持担体Cとそれぞれ称する。
【0049】
【表1】
【0050】
[生物由来物質分解率(液化度合い)の測定]
バチルス菌によって生物由来物質が分解された割合を示す方法として、分解生産物を含む水溶液の可溶化全糖質量を測定した。具体的には、分解生産物を含む水溶液を遠心分離し、上清を取り、該上清の可溶化全糖質量を測定した。ここで、可溶化全糖質量とは、水に溶解する糖質の総称である。バイオマスが植物体である場合、該植物体を構成する物質は、セルロースやヘミセルロースなど水に不溶性の多糖類で構成される生体表層物質で囲まれた構造体の中に存在する。この生体外皮が分解して水溶性になると生体成分は水溶液となる。したがって、水溶性の糖質(可溶化全糖質)の量を測定することによって、植物体の分解の度合いを知ることができ、バイオマス分解率を量るパラメータとなる。可溶化全糖質量は、「食品分析の実際」(真部孝明著、幸書房、2003年)に記載のフェノール−硫酸法により測定した。
【0051】
[微生物担持担体を用いた生物由来物質の分解効果の実証]
実施例1
芝草25gを500mLの容器に入れ、これに微生物担持担体A25mL(25.8g、総担持菌数:550億個)と、該微生物担持担体A100重量部に対して水50重量部を加えて28℃で72時間撹拌した。その後、容器から分解生産物を含む水溶液を取り出し、可溶化全糖質量を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
比較例1
微生物担持担体Aに代えてバチルス菌(菌数:550億個)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0053】
比較例2
微生物担持担体Aを担体Aに代え、バチルス菌(菌数:550億個)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0054】
比較例3
微生物担持担体Aを微生物担持担体B(総担持菌数:200億個)に代えた以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0055】
比較例4
容器に微生物担持担体Aを加えなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例2
紫キャベツ色素抽出残渣(紫キャベツから色素を抽出した際の残渣)25gを500mLの容器に入れ、これに微生物担持担体A25mL(25.8g、総担持菌数:550億個)と、該微生物担持担体A100重量部に対して水50重量部を加えて28℃で72時間撹拌した。その後、容器から分解生産物を含む水溶液を取り出し、可溶化全糖質量を測定した。結果を表3に示す。
【0058】
比較例5
微生物担持担体Aに代え、バチルス菌(菌数:550億個)を使用した以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
【0059】
比較例6
微生物担持担体Aを担体Aに代え、バチルス菌(菌数:550億個)を使用した以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
【0060】
比較例7
微生物担持担体Aを微生物担持担体B(総担持菌数:200億個)に代えた以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
【0061】
比較例8
容器に微生物担持担体Aを加えなかった以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例3、4、比較例9、10
芝草2kgを分解装置(容器の容量:3L)に入れ、これに微生物担持担体A(総担持菌数:22,000億個)1Lと、微生物担持担体B(総担持菌数:4,000億個)1Lと、微生物担持担体A100重量部に対して表4に示す量の水を加えて28℃で36時間撹拌した。撹拌開始から24時間経過した時点で分解装置の容器から分解生産物を含む水溶液を取り出した。そして、該水溶液を遠心分離して上澄み液を採取し、上澄み液の可溶化全糖質量を測定した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示す結果から、装置の運転中の水分量がバイオマスの分解に影響を与えることが見出された。
【0066】
[肥料として有用であることの実証]
実施例5
BDSの実用的な有用性を検証する目的で、小松菜種子の発芽に及ぼす効果を以下の方法で調べた。
【0067】
実施例3で得たBDS10mLを蒸留水で表5に記載の割合でそれぞれ希釈した。そして、シャーレ上に敷き詰めた脱脂綿上に小松菜の種子(株式会社トーホク製)を撒き、表5に記載の溶液をそれぞれ脱脂綿に10mL吸収させた。その後、室温(平均気温23℃)で小松菜の種子を発芽させた。結果を
図2及び表5にそれぞれ示す。
【0068】
【表5】
【0069】
この結果から、実施例3のBDSには小松菜の成長を促進する効果があり、その効果はBDSの濃度に依存することが明らかとなった。BDS原液では、無添加の場合の約1.3倍の促進効果が認められ、約30%の増収となった。このように、実施例3のBDSは、種子発芽時の肥料としての効果があることが示された。
【0070】
実施例6
BDSの実用的な有用性を検証する目的で、小松菜種子の発芽後の成長に及ぼす効果を以下の方法で調べた。
【0071】
園芸用プランターに約10cmの深さになるように鹿沼土を入れ、その上部に、15gの苦土石灰を混合した畑土を15cmの厚さになるように重層した。このようなプランターを2つ準備し、一方のプランター(プランターA)には実施例3で得たBDSを1m
2当たり2Lの割合で撒布した。もう一方のプランター(プランターB)には、水を1m
2当たり2Lの割合で撒布した。この状態で5日間放置した後、同様の撒布処理をし、さらに2日放置した後、これらプランターに小松菜の種子(株式会社トーホク製)を蒔いた。
【0072】
そして、4〜5日間隔で1m
2当たり2Lの割合で、プランターAには実施例3のBDSを、プランターBには水をそれぞれ撒水した。発芽後、20日経過時点のプランターAおよびBにおける小松菜の重量(g)を計測し、10株の平均値を各プランターの小松菜の重量とした。その結果、プランターAの小松菜の重量は29.5gであったのに対し、プランターBの小松菜の重量は18.9gであった。結果を
図3に示す。
【0073】
この結果から、実施例3のBDSを撒布した場合、水のみを撒布した場合のおよそ2倍の成長を示し、実施例3のBDSは、小松菜成長時の肥料としての効果があることが示された。
【0074】
実施例7
本発明に係る分解方法の実用的な有用性を検証する目的で、該分解方法により生ゴミの分解を行った。
【0075】
一般的な生ゴミは、野菜類、肉類、穀物類、加工食品など起源の異なるバイオマスの混合物である。本実施例では、一般的な生ゴミの組成を参考にして、表6に示すような組成の混合バイオマスを調製した。
【0076】
【表6】
【0077】
上記混合バイオマス(50kg)と微生物担持担体A(20L)を反応容器に投入し、25℃で、30分間隔で該微生物担持担体A100重量部に対して水40重量部を供給し、分解処理しBDSを採取した。分解処理72時間で得られたBDSの組成を分析したところ、表7に示す結果が得られた。
【0078】
【表7】
【0079】
上記の結果より、生ゴミを分解した分解生産物は肥料として適した組成であることがわかった。
【0080】
以上の結果より、従来困難であった固体のバイオマス資源の液化が容易になり、バイオマス中の成分を溶解、抽出することが可能となった。これにより、バイオマス成分の利用が容易になった。バイオマス成分には、肥料などの原料になり得る成分が含まれており、それらの利用が容易になるので、本発明は価値が極めて高いものである。