(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0015】
実施形態を説明する前に、基礎となる予備的事項について説明する。静電チャックには、ヒータで加熱した状態で使用する高温タイプのものがある。
【0016】
図1には、高温タイプの静電チャックの載置台100にシリコンウェハ200が載置された様子が部分的に示されている。載置台100が150℃程度に加熱された状態で、その上にシリコンウェハ200が載置される。
【0017】
載置台100の中には静電電極120が配置されている。載置台100は酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスから形成される。
【0018】
そして、静電電極120にプラス(+)電圧が印加されると、静電電極120がプラス(+)電荷に帯電し、シリコンウェハ200にマイナス(−)電荷が誘起される。これにより、シリコンウェハ200がクーロン力によって載置台100に吸着する。
【0019】
シリコンウェハ200と静電電極120とその間に配置される載置台100のセラミックス部Cをコンデンサとみなした場合、セラミックス部Cが誘電層に相当する。誘電層としてのセラミックス部Cの電気特性、特に体積抵抗率は、シリコンウェハ200の吸着及び脱離の特性に大きな影響を与える。
【0020】
一般的に、セラミックスは温度が上昇すると体積抵抗率が低下する電気特性を有する。
図1において、加熱によってセラミックス部Cの体積抵抗率が低下すると、シリコンウェハ200と静電電極120との間で帯電しやすくなるため、より強いクーロン力によってシリコンウェハ200が載置台100に吸着する。
【0021】
このため、静電電極120に印加した電圧をオフしてもシリコンウェハ200に電荷が残留した状態となり、すぐにはシリコンウェハ200を脱離することが困難になる。
【0022】
このとき、リフトピンによって無理やりシリコンウェハ200を脱離させると、シリコンウェハ200の飛び跳ねや割れが発生して搬送エラーとなりやすい。このため、シリコンウェハ200の処理する毎に、静電チャックに印加した電圧をオフにしてから吸着力が弱くなるまで一定時間待つ必要があるため、ウェハ処理のスループットが低下する。
【0023】
以下に説明する実施形態の静電チャックは、前述した不具合を解消することができる。
【0024】
(実施の形態)
図2及び
図3は実施形態の静電チャックを示す図である。
図2に示すように、実施形態の静電チャック1では、アルミニウムベース10の上に載置台20が配置されている。載置台20の中には静電電極22及びヒータ24が配置されている。載置台20は酸化アルミニウム(Al
2O
3)を主成分とするセラミックスから形成される。
【0025】
載置台20を作成する方法としては、グリーンシートで静電電極22用の金属材料及びヒータ24用の電熱材料をそれぞれ挟み、その積層体を焼結することにより、静電電極22及びヒータ24が内蔵された載置台20を得ることができる。静電電極22及びヒータ24の材料としては、タングステンペーストなどが使用される。
【0026】
アルミニウムベース10は、アルミニウムのみから形成されていてもよいし、あるいは、アルミニウム合金から形成されていてもよい。また、アルミニウムベース10の代わりに、他の金属材料からなる金属ベースを使用してもよい。
【0027】
そして、載置台20の上に基板としてウェハ5が載置される。ウェハ5としては、シリコンウェハなどの半導体ウェハが使用される。
【0028】
アルミニウムベース10と載置台20とは、接着層(不図示)で固定されていてもよいし、あるいは、ねじ止め(不図示)によって固定されていてもよい。
【0029】
図3の平面図に示すように、
図2の静電チャック1を上側からみると、円盤状のアルミニウムベース10の上にその周縁部が露出するようにそれより小さな面積の円盤状の載置台20が配置されている。
【0030】
アルミニウムベース10の露出する周縁部には、半導体製造装置のチャンバに取り付けるための取り付け穴12がリング状に並んで設けられている。また、載置台20及びアルミニウムベース10の中央部には、ウェハ5を上下に移動するためのリフトピンが挿通されるリフトピン用開口部14が3つ設けられている。リフトピンでウェハ5を上下に移動させることにより、搬送ロボットによってウェハ5を自動搬送することができる。
【0031】
また、リフトピン用開口部14からヘリウム(He)などの不活性ガスを載置台20の上側に供給してもよい。載置台20とウェハ5との間に不活性ガスを流すことにより、加熱された静電チャック1の熱を効率よくウェハ5に伝導することができる。あるいは、不活性ガスを供給するガス用開口部を別途設けるようにしてもよい。
【0032】
図2及び
図3の例では、載置台20に内蔵される静電電極22は双極タイプのものであり、第1静電電極22a及び第2静電電極22bに分割されている。あるいは、静電電極22は、一つの静電電極からなる単極タイプのものを使用してもよい。
【0033】
また、第1静電電極22a及び第2静電電極22bの下にヒータ24が配置されている。ヒータ24は、1つのヒータ電極として設けてもよいし、ヒータゾーンを複数に分割して加熱を独立して制御できるようにしてもよい。
【0034】
そして、
図2に示すように、実施形態の静電チャック1では、載置台20の上にウェハ5が載置され、第1静電電極22aにプラス(+)の電圧が印加され、第2静電電極22bにマイナス(−)の電圧がそれぞれ印加される。
【0035】
これにより、第1静電電極22aがプラス(+)電荷に帯電し、第2静電電極22bがマイナス(−)電荷に帯電する。これに伴って、第1静電電極22aに対応する部分のウェハ5にマイナス(−)電荷が誘起され、第2静電電極22bに対応する部分のウェハ5にプラス(+)電荷が誘起される。
【0036】
このようにして、静電電極22とウェハ5との間にセラミックス部Cを介して発生したクーロン力によってウェハ5が載置台20の上に静電吸着される。
【0037】
このとき、ヒータ24に所定の電圧が印加されて載置台20から熱が発生しており、ウェハ5が加熱されて所定の温度に制御される。静電チャック1の加熱温度は、100℃〜200℃、例えば150℃に設定される。
【0038】
前述した予備的事項で説明したように、加熱によって体積抵抗率が大きく低下するセラミックスから製造される高温タイプの静電チャックでは、印加した電圧をオフにしても、すぐにはウェハを脱離できない問題がある。
【0039】
そこで、本願発明者は、静電チャック1を150℃程度に加熱しても、体積抵抗率が大きく低下せずに、スペック内の体積抵抗率が得られるセラミックス材料を見出した。
【0040】
静電チャックの使用時に、セラミックスの体積抵抗率が1E+16Ωcm〜1E+17Ωcmの範囲であれば、ウェハ5が載置台20に十分な吸着力で吸着すると共に、電圧をオフにした後にすぐにウェハ5を安定して脱離することができる。
【0041】
本願発明者は、
図4に示すように、酸化アルミニウムを主成分とするセラミックスにおいて、酸化イットリウム(Y
2O
3)の含有率を0wt%〜2.5wt%まで変化させてセラミックスのサンプル1〜7を作成した。
【0042】
そして、各サンプル1〜7を150℃に加熱したときのセラミックスの体積抵抗率について調査した。また、各サンプル1〜7を100℃に加熱したときのセラミックスの体積抵抗率についても同様に調査した。
【0043】
各サンプル1〜7を作成する際に、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、及び酸化カルシウム(CaO)の各含有率を以下のように設定した。
【0044】
Al
2O
3:94.2wt%〜96.1wt%
SiO
2:2.6wt%
MgO:1.0wt%〜1.1wt%
CaO:0.2wt%に固定
また、全てのサンプル1〜7において、それらの相対密度が95.5%以上になるように作成した。なお、加熱時に、ウェハの脱離が問題にならないセラミックスの体積抵抗率のスペックは、1E+16Ωcm〜1E+17Ωcmの範囲とする。
【0045】
図5は
図4の各サンプル1〜7の体積抵抗率のデータをグラフ化したものである。最初に、各サンプル1〜7を150℃で加熱した結果について説明する。その結果によれば、
図4のサンプル1、2、及び
図5に示すように、酸化イットリウムの含有率が0wt%〜0.3wt%の範囲では、セラミックスの体積抵抗率は2.89E+15Ωcm〜5.14E+15Ωcmであった。
【0046】
これは、スペックの体積抵抗率(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)よりもかなり低く、高温タイプの静電チャックのセラミックス材料としては好ましくないことが分かった。
【0047】
サンプル3のように、酸化イットリウムの含有率をさらに上げて0.5wt%とすると、セラミックスの体積抵抗率も1.03E+16Ωcmに上昇した。さらに、サンプル4のように、酸化イットリウムの含有率をさらに上げて1.0wt%とすると、セラミックスの体積抵抗率も2.0E+16Ωcmに上昇した。
【0048】
また、サンプル5のように、酸化イットリウムの含有率をさらに上げて1.5wt%とすると、セラミックスの体積抵抗率も5.82E+16Ωcmに上昇した。また、サンプル6のように、酸化イットリウムの含有率をさらに上げて2.0wt%とすると、体積抵抗率も8.67E+16Ωcmに上昇した。
【0049】
このように、酸化イットリウムの含有率が0.5wt%〜2.0wt%の範囲では、セラミックスの体積抵抗率が1.03E+16Ωcm〜8.67E+16Ωcmであり、スペックの体積抵抗率(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)の範囲に収まることが分かった。
【0050】
また、酸化イットリウムの含有率をさらに上げて2.5wt%とすると、セラミックスの体積抵抗率は7.99E+15Ωcmとなり、スペックの体積抵抗率(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)から外れて逆に低下することが分かった。
【0051】
図5を参照すると、酸化イットリウムの含有率が0wt%〜2.0wt%に上がるにつれて、セラミックスの体積抵抗率が直線状に上がることが分かった。この特性を利用することにより、酸化イットリウムの含有率を変えることによって、150℃でのセラミックスの体積抵抗率をスペック(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)内で狙い値に精度よく調整することができる。
【0052】
また、上記した150℃でのセラミックスの体積抵抗率の結果を得るためには、各サンプル1〜7のセラミックの相対密度が95.5%以上に設定されることが望ましい。
【0053】
このように、150℃で加熱する場合は、酸化イットリウムの含有率が0.5wt%〜2.0wt%の範囲でスペック内のセラミックスの体積抵抗率が得られる。この条件でセラミックスから前述した載置台20を作成することにより、電圧をオフした後に、すぐにウェハを安定して脱離できる高温タイプの静電チャックを得ることができる。
【0054】
次に、各サンプル1〜7を100℃で加熱した結果について説明する。その結果によれば、酸化イットリウムの含有率が0wt%〜2.5wt%の範囲で、セラミックスの体積抵抗率は2.32E+16Ωcm〜6.17E+16Ωcmであった。つまり、100℃で加熱する条件では、全てのサンプル1〜7においてスペック内の体積抵抗率(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)の範囲に収まっていた。
【0055】
100℃で加熱する条件では、酸化イットリウムの含有率に対するセラミックスの体積抵抗率が直線状に増加する特性は得られなかった。酸化イットリウムの含有率が2.5wt%のときに体積抵抗率が最小の2.32E+16Ωcmとなり、酸化イットリウムの含有率が1、5wt%のときに体積抵抗率が最大の6.17E+16Ωcmとなった。
【0056】
また、特にデータとしては示されていないが、200℃程度で加熱する場合は、150℃で加熱する場合よりもセラミックスの体積抵抗率が低下する。
図5において、酸化イットリウムの含有率が1.0wt%〜2.0wt%の範囲では、150℃でのデータよりも体積抵抗率が低下するとしても、スペック内(1E+16Ωcm〜1E+17Ωcm)に収まるため、200℃程度で加熱する場合も使用可能である。
【0057】
従って、静電チャックを150℃〜200℃程度で加熱する場合は、酸化イットリウムの含有率を1.0wt%〜2.0wt%の範囲に設定することが好ましい。
【0058】
以上のように、酸化イットリウムの含有率を0.5wt%〜2.0wt%の範囲に設定することにより、静電チャックが100℃〜200℃の温度で加熱されてもウェハを容易に脱離することができる。
【0059】
図6には、実施形態の第1変形例の静電チャック1aが示されている。
図6の第1変形例の静電チャック1aのように、アルミニウムベース10と載置台20との間にヒータ24aを配置してもよい。
【0060】
あるいは、
図7の第2変形例の静電チャック1bのように、アルミニウムベース10内にヒータ24bを内蔵させることも可能である。さらには、特に図示しないが、静電チャックのアルミニウムベースの下にヒータが外付けされていてもよい。
【0061】
また、静電チャックがヒータを備えておらず、半導体製造装置のチャンバ内のステージにランプヒータなどからなるヒータ部材を設け、その上に静電チャックを取り付けてもよい。
【0062】
次に、本実施形態の静電チャック1をドライエッチング装置に適用する例について説明する。
図8は実施形態のドライエッチング装置を示す断面図である。
図8に示すように、ドライエッチング装置2として平行平板型RIE装置が例示されている。
【0063】
ドライエッチング装置2はチャンバ30を備え、チャンバ30の下側に下部電極40が配置されている。下部電極40の表面側には前述した実施形態の静電チャック1が取り付けられており、静電チャック1の上に半導体ウェハ50が載置される。静電チャック1の周囲には保護用の石英リング42が配置されている。
【0064】
下部電極40及び静電チャック1にはRF電力を印加するための高周波電源44が接続されている。高周波電源44にはRF電力の出力のマッチングをとるためのRFマッチャ(不図示)が接続されている。
【0065】
チャンバ30の上側には下部電極40の対向電極となる上部電極60が配置されており、上部電極60は接地されている。上部電極60にはガス導入管62が連結されており、所定のエッチングガスがチャンバ30内に導入される。
【0066】
チャンバ30の下部には排気管46が接続され、排気管46の末端には真空ポンプが取り付けられている。これにより、エッチングにより生成した反応生成物などが排気管46を通して外部の排ガス処理装置に排気されるようになっている。チャンバ30の近傍の排気管46にはAPCバルブ48(自動圧力コントロールバルブ)が設けられており、チャンバ30内が設定圧力になるようにAPC
バルブ48の開度が自動調整される。
【0067】
本実施形態のドライエッチング装置2では、静電チャック1はヒータ24(
図2)によって150℃程度に加熱されており、その上に半導体ウェハ50が搬送されて配置される。
【0068】
そして、静電チャック1の第1、第2静電電極22a,22b(
図2)に最大で±3000Vの電圧を印加することにより、半導体ウェハ50を静電チャック1に吸着させる。これにより、半導体ウェハ50が150℃の温度で加熱された状態となる。
【0069】
その後に、ガス導入管62から塩素系やフッ素系などのハロゲンガスがチャンバ30に導入され、チャンバ30内がAPCバルブ48の機能によって所定の圧力に設定される。そして、高周波電源44から下部電極40及び静電チャック1にRF電力が印加されることにより、チャンバ30内にプラズマが生成される。
【0070】
静電チャック1にRF電力を印加することにより静電チャック1側に負のセルフバイアスが形成され、その結果プラズマ中の正イオンが静電チャック1側に加速される。これに基づいて、半導体ウェハ50に形成された被エッチング層が150℃以上の高温雰囲気で異方性エッチングされてパターン化される。
【0071】
高温エッチングが適用される被エッチング層としては、銅(Cu)層などがある。銅の塩化物は揮発性が低いため、高温にすることで揮発しやすくなり、エッチングが容易に進むようになる。
【0072】
前述したように、本実施形態の静電チャック1では150℃程度に加熱された状態でも、セラミックス部C(
図2)の体積抵抗率が大きく低下せずにスペック内の体積抵抗率が得られるようになっている。
【0073】
このため、エッチングが終了し、静電チャック1に印加した電圧をオフした後に、すぐにリフトピン(不図示)を上昇させることで、半導体ウェハ50を静電チャック1から安定して脱離することができる。本実施形態では、静電チャック1に印加した電圧をオフした後に、半導体ウェハ50の吸着力が弱くなるまで一定時間待つ必要がないので、ウェハ処理のスループットを向上させることができる。
【0074】
また、半導体ウェハ50の飛び跳ねや割れによる搬送エラーも発生しずらくなるため、半導体デバイスの製造歩留りを向上させることができる。
【0075】
図8では、本実施形態の静電チャック1をドライエッチング装置に適用したが、プラズマCVD装置又はスパッタ装置などの半導体ウェハプロセスで使用される各種の半導体製造装置に適用してもよい。