(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤ内に車両走行時のタイヤの変形状態を検知するセンサーを配置し、前記センサーで検知された当該タイヤの変形状態から、当該タイヤの接地状態を推定するタイヤ接地状態推定装置であって、
前記センサーとして電荷発生型パッシブセンサーを用いるとともに、
車体における金属部位の表面に配置される検出電極と、
前記車体の外側表面から空間を隔てて配置されるリファレンス電極と、
前記検出電極と前記リファレンス電極との間の電位である車体に分布する帯電電位の時間変化波形を検出する帯電電位検出手段と、
前記検出された帯電電位の時間変化波形から当該タイヤの接地状態を推定するタイヤ接地状態推定手段とを備え、
前記電荷発生型パッシブセンサーの一方の電極をホイールと電気的に結合させ、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とするタイヤ接地状態推定装置。
前記電荷発生型パッシブセンサーを、タイヤ接地面に対応するタイヤ内面に配置される圧電素子と、前記圧電素子に接続される素子用電極とを備えた圧電センサーとするとともに、
前記素子用電極のうちの一方の電極を前記タイヤのビード部近傍まで延在させ、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とする請求項3に記載のタイヤ接地状態推定装置。
前記電荷発生型パッシブセンサーを、タイヤ接地面に対応するタイヤ内面に配置される圧電素子と、前記圧電素子に接続される素子用電極とを備えた圧電センサーとするとともに、
前記素子用電極のうちの一方の電極を前記タイヤのホイールに接続させ、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とする請求項3に記載のタイヤ接地状態推定装置。
【背景技術】
【0002】
従来、路面状態を推定する装置としては、タイヤの内面に加速度センサーを取付けて、タイヤの接地時に生じるタイヤの振動を検出し、この検出されたタイヤの振動のデータ(加速度のデータ)を、タイヤ内に設けられた送信機から車体側に送信するとともに、車体側に路面状態推定手段を設け、車体側にて、前記送信された加速度のデータを用いて路面状態を推定する構成のものが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。
なお、タイヤ側に路面状態推定手段を設けて路面状態を推定する構成の路面状態推定装置も提案されているが、このような構成であっても、路面状態の推定結果は無線通信によって車体側に送られる。
【0003】
また、車体の帯電電位を検出して路面状態を推定する方法も提案されている(例えば、特願2011−282858)。
一般に、タイヤと路面との接触、剥離及び摩擦によってタイヤと路面との間に静電気による帯電電位が生じること自体は、例えば、特開2011−225023号公報の背景技術などに記載されていることからも分かるように、周知事項である。
一方、車体とタイヤとは容量結合されているので、車体外表面には、タイヤと路面との間に生じた帯電電位に対応する電位が発生する。
タイヤ表面や車体外表面に分布する電界は、以下の式(1)に示す電磁界を構成する3つの要素(1/rに比例する放射電磁界、1/r
2に比例する誘導電磁界、1/r
3に比例する準静電界)のうちの準静電界であり、車両の走行に伴うタイヤの転動よりに時間的に変化する。
【数1】
準静電界は磁界成分を含まず、また、電波のように伝搬する性質がないので、人や車両、物質の周りに静電気帯電電界のように分布し、その極性またはレベルが変化する。
したがって、車体の帯電電位を検出すれば、タイヤと路面との間に生じた帯電電位に対応する電位を検出することができるので、路面状態などのタイヤの状態を精度よく推定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加速度のデータ等を無線にて車体に送信するためには、多くの電気エネルギーを必要とするので、タイヤに発電装置や電池を設置する必要がある。
また、車体の帯電電位を検出して路面状態を推定する方法では、発電装置や電池は不要であるが、S/N比が十分でないため、複数回転のデータを取得しそれを平均化する必要がある。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、無線通信を用いることなく、タイヤ内に配置されたセンサーの変形状態を車体側にて安定して検知する方法、及び、検知されたセンサーの変形状態からタイヤの接地状態を推定する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、電荷発生型パッシブセンサーの一方の電極とホイールとを直接接続し他方の電極をフローティングさせるか、もしくは、一方の電極とホイールとを容量結合し他方の電極をフローティングさせて、車体に分布する帯電電位を検出すれば、車体の帯電電位の時間変化波形に出現する電荷発生型パッシブセンサーの変形状態を車体側にて精度良く検知できることを見出し、本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、タイヤ内に配置された電荷発生型パッシブセンサーの変形状態を車体側にて検知する方法であって、車体側に、車体における金属部位の表面に配置される検出電極と、前記車体の外側表面から空間を隔てて配置されるリファレンス電極とを設けるとともに、前記電荷発生型パッシブセンサーの一方の電極をホイールと電気的に結合させ、他方の電極をフローティングさせた状態で、前記検出電極と前記リファレンス電極との間の電位である車体に分布する帯電電位の時間変化波形を検出し、前記検出された帯電電位の時間変化波形から前記電荷発生型パッシブセンサーの変形状態を検知することを特徴とする。
これにより、無線通信を用いることなく、タイヤ内に配置された電荷発生型パッシブセンサーの変形状態を車体側にて精度良く検知することができる。
また、前記検知された電荷発生型パッシブセンサーの変形により発生する帯電電位の変化に基づいて当該タイヤの接地状態を推定するようにしたので、タイヤ内に電力供給手段を設けることなく、路面状態や横力などのタイヤの接地状態を安定して推定することができる。
ここで、電荷発生型パッシブセンサーとは、センサーに応力等の外力が作用すると伸縮して電荷を発生するセンサーであり、PZTなどの圧電センサーなどが挙げられる。
電荷発生型パッシブセンサーは、タイヤのトレッドの変形に伴い変形して電荷を発生する。タイヤのトレッドの変形状態は、走行時におけるタイヤの接地状態(タイヤと路面との摩擦状態やタイヤに作用する横力など)により変化する。したがって、電荷発生型パッシブセンサーの変形により発生する帯電電位の変化を、車体に分布する帯電電位の変化として検出すれば、当該タイヤの接地状態を推定することができる。
なお、電荷発生型パッシブセンサーの一方の電極をホイールと「電気的に結合させる」とは、上記電極とホイールとを導線で直接接続して結合する場合だけでなく、上記電極とホイールとを容量結合させる場合も含む。
また、電極を「フローティングさせた状態」とは、電極が、電圧源,グランド,グランド基準信号源のいずれにも接続されていないことをいう。
【0008】
また、本発明は、タイヤ内に車両走行時のタイヤの変形状態を検知するセンサーを配置し、前記センサーで検知された当該タイヤの変形状態から、当該タイヤの接地状態を推定するタイヤ接地状態推定装置であって、前記センサーとして電荷発生型パッシブセンサーを用いるとともに、車体における金属部位の表面に配置される検出電極と、前記車体の外側表面から空間を隔てて配置されるリファレンス電極と、前記検出電極と前記リファレンス電極との間の電位である車体に分布する帯電電位の時間変化波形を検出する帯電電位検出手段と、前記検出された帯電電位の時間変化波形から当該タイヤの接地状態を推定するタイヤ接地状態推定手段とを備え、前記電荷発生型パッシブセンサーの一方の電極をホイールと電気的に結合させ、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とする。
このような構成を採ることにより、タイヤに電池や蓄電回路、発電素子などの電力供給手段を設けることなく、タイヤの接地状態を確実に推定することのできるタイヤ接地状態推定装置を実現することができる。
【0009】
また、本発明は、前記電荷発生型パッシブセンサーを、タイヤ接地面に対応するタイヤ内面に配置される圧電素子と、前記圧電素子に接続される素子用電極とを備えた圧電センサーとするとともに、前記素子用電極のうちの一方の電極を前記タイヤのビード部近傍まで延在させ、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とする。
なお、ビード部近傍とは、インナーライナーの内側で、タイヤ内のビード部に対向する範囲を指すものとする。これにより、ホイールと圧電素子とを確実に容量結合させて、ホイールの帯電電位を圧電素子の変形状態に応じた電位にすることができるので、車体に分布する帯電電位の時間変化波形に重畳される前記圧電素子の出力波形を精度よく検出できる。
また、本発明は、前記電荷発生型パッシブセンサーを、タイヤ接地面に対応するタイヤ内面に配置される圧電素子と、前記圧電素子に接続される素子用電極とを備えた圧電センサーとするとともに、前記素子用電極のうちの一方の電極を前記タイヤのホイールに接続し、他方の電極をフローティングさせたことを特徴とする。
このように、一方の電極をホイールに直接接続すれば、車体に分布する帯電電位の時間変化波形に重畳される前記圧電素子の出力波形を精度よく検出できる。
また、前記電荷発生型パッシブセンサーをタイヤの変形の大きなタイヤ赤道面に配置したので、タイヤの変形状態を更に精度よく検知できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る路面状態推定装置10の構成を示すブロック図である。
路面状態推定装置10は、電荷発生型パッシブセンサーとしての圧電センサー11と、帯電電位検知手段12と、帯電波形抽出手段13と、記憶手段14と、路面状態推定手段15とを備える。帯電電位検知手段12は、検知電極12aとリファレンス電極12bと増幅器12cとを備える。
図2に示すように、圧電センサー11はタイヤ3の内面に設置され、帯電電位検知手段12は車体2に設置される。また、帯電波形抽出手段13〜路面状態推定手段15までの各手段は、ROMやRAMなどの記憶装置とマイクロコンピュータのプログラムとから構成され、車両1の走行状態を制御する車両制御装置(図示せず)とともに電子ユニットに組み込まれて車体側(例えば、車体2のフレーム上など)に配置される。
【0012】
圧電センサー11は、
図3(a)に示すように、圧電素子11aと、素子用電極11b,11cとを備えた電荷発生型パッシブセンサーで、
図3(b)に示すように、タイヤ3の内面であるインナーライナー3cの内面に取付けられる。
圧電素子11aを構成する材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT;商品名)などの圧電セラミックスやポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの圧電ポリマーが好適に用いられる。本例では、圧電素子11aとして、PVDFから成る圧電フィルムを用いるとともに、圧電フィルムの両面にそれぞれ素子用電極11b,11cが形成された構成の圧電センサー11を用いている。
また、本例では、
図3(c)に示すように、圧電フィルムの長手方向がタイヤ周方向を向くように圧電センサー11をインナーライナー3cのタイヤ径方向内側に配置している。これは、圧電フィルムが、長手方向に伸縮した場合に分極が大きくなるためと、フィルムを用いた方が、円環状であるタイヤ内面に貼付けやすいためである。なお、本例のように、圧電素子11aの長さをタイヤ3の接地長よりも短くしている場合には、圧電素子11aとして圧電セラミックスを用いても特に問題はない。
また、圧電センサー11の取付位置としては、タイヤ走行時の変形が最も大きな位置である、トレッド3aの接地面の幅方向中央に対応する位置(タイヤ赤道面)とすることが発生する電荷量が大きくなるので好ましい。
【0013】
また、本例では、圧電センサー11を、エポキシ樹脂などの絶縁性接着剤を用いてインナーライナー3cの内面側に貼付けている。このとき、インナーライナー3cの内面側を予めバフ研磨して接着面に小さな凹凸をつけてから圧電センサー11を貼付けることが好ましい。これにより、圧電センサー11をタイヤ内面に強固に接着できるので、圧電素子11aを、トレッド3aの変形状態に応じて変形させることができる。また、接着面に小さな凹凸をつけることで、接着層の厚さを均一にできるので、接着状態のバラつきに起因する不要なノイズの発生を防止することができる。
【0014】
本例では、圧電素子11aの変形状態を精度よく検知するため、圧電センサー11の一方の素子用電極(ここでは、タイヤ気室3sの素子用電極)11bを、リード線11dを介して、タイヤ3のホイール3bに直接接続させるとともに、他方の素子用電極(タイヤ内面側の素子用電極)11cをフローティングさせるようにしている。これに対して、素子用電極11b,11cをそれぞれホイール3bとタイヤ内面とに接続した場合には、圧電素子11aそのものが準静電的には電極として作用するので圧電素子11aがタイヤ3を介して路面4と電気的に結合してしまう。その結果、ホイール3bと路面4とが短絡するので、検知電極12aで検知する帯電電位が低下するだけでなく、不要なノイズが発生してしまい、十分かつ安定したセンサー出力(圧電素子11aの変形状態に起因する帯電電位)を検知することが困難となる。
本例では、圧電素子11aの配線をホイール3b側のみとすることで、ホイール3bに電気的に接続される素子用電極11bを接地側電極とし、他方の電極である素子用電極11cを配線しないようにしている。したがって、ホイール3bに、圧電素子11aのタイヤ3の周方向の伸縮に応じた電荷を効果的に帯電させることができる。
【0015】
なお、タイヤ3のホイール3bと電気的に接続させるためには、必ずしも素子用電極11bとホイール3bとを直接リード線11dで結合する必要はなく、例えば、素子用電極11bをビード部3d近傍まで延在させた構成としてもよい。これにより、素子用電極11cとホイール3bとを確実に容量結合させることができるので、ホイール3bに、圧電素子11aのタイヤの周方向の伸縮に応じた電荷を帯電させることができる。
素子用電極11cをフローティングさせるには、例えば、他方の電極である素子用電極11cとインナーライナー3cの内面側との間に高抵抗の絶縁体を配置するなどすればよい。また、素子用電極11cを省略してもよい。
本例では、前述したように、圧電センサー11をタイヤ内面に装着する際に、接着剤として、エポキシ樹脂などの絶縁性接着剤を使用しているので、素子用電極11cはフローティング状態にある。なお、本例のように、圧電素子11aの長さがタイヤ3の接地長よりも短く、素子用電極11b,11cの面積が小さい場合には、素子用電極11cとタイヤ3とが直接接続している部分があっても、素子用電極11cはほぼフローティング状態にあると見做すことができる。
【0016】
帯電電位検知手段12の検知電極12aは平板状の電極で、車体2の外側表面に対して所定の空隙を隔てて配置され、車体2と容量結合される。本例では、車体2の外側表面と検知電極12aとの間の空隙に厚さが一定の板状の誘電体を介挿することで、車体2との間の静電容量を大きくするとともに、前記空隙を確保するようにしている。
一方、リファレンス電極12bも平板状の電極から構成され、支持部材5により、車体2と電気的に絶縁した状態で車体2の外側表面に取付けられる。
図2に示すように、支持部材5は、車体2の外表面に設けられた防振台5aと、防振台5a上に設けられた筒状の支持台5bと、支持台5bの上端から突出するように取付けられたアクリル,ウレタン等の樹脂から成る棒状の支持棒5cとを備えており、リファレンス電極12bは支持棒5cの先端に取付けられる。これにより、リファレンス電極12bを帯電している車体2から遠くに離す(例えば、100[mm]以上)ことができるとともに、リファレンス電極12bと車体2とを電気的に絶縁できるので、リファレンス電極12bを安定的に零電位に保つことができる。
増幅器12cは、FET(Field Effect Transistor)等の検知素子及びアンプを有しており、検知電極12aとリファレンス電極12bとの間の電位である帯電電位を検知して増幅する。
【0017】
車体2とタイヤ3とは容量結合しているので、車体2の外表面には、タイヤ3と路面4との間の静電容量の変化に起因する帯電電位(以下、ベース電位という)に、タイヤ1回転毎に出現するタイヤの変形に起因する帯電電位(以下、圧電電位という)が重畳された帯電電位が発生する。したがって、検知電極12aとリファレンス電極12bとの間には、タイヤ3と路面4との接触によりトレッド3aに帯電した電荷を発生源として車体2全体に分布したベース電位と、圧電素子11aの伸縮に応じて発生しホイール3bに帯電した電荷とを発生源とした圧電電位とを含む帯電電位の信号が連続的に出力される。
圧電電位は、路面状態によらず、ベース電位に比較して大きく、かつ、ベース電位の周波数は圧電電位の周波数よりも高いので、帯電電圧の時間変化波形は、
図4に示すように、ベース電位に圧電電位が重畳されたものとなる。これは、車体側に設けられた検知電極12aが、タイヤ側に設けられた圧電素子11aの出力を検出していることを意味している。つまり、タイヤ側で発生した圧電素子11aの変形状態に対応する信号は、送信機などの通信手段を用いることなく、車体2側に送られる。
【0018】
帯電波形抽出手段13は、増幅器12cで増幅されて連続的に出力される帯電電位の信号をA/D変換するとともに、帯電電位のタイヤ1回転分の長さの時間変化波形(以下、帯電波形という)を抽出する。なお、抽出する帯電波形としては、タイヤ2回転分あるいは3回転分以上の長さであってもよい。これにより、複数回転での平均を採ることができるので、路面状態の推定精度が向上する。
このとき、フィルタを用いて高周波成分を除去するとともに、圧電素子11aの接着状態に起因する低周波ノイズを除去するようにすれば、ベース電位も小さくなるので、車体2側にて、圧電電位の時間変化波形(センサーの出力波形)に近い帯電波形を抽出することができる。
【0019】
記憶手段14は、予め様々な路面状態を走行させて作成した帯電波形に出現する蹴り出し点E
kにおけるピーク値である基準ピーク値V
k(R)と、そのときの路面状態Rとを対応させたR−Vテーブル14Tと、路面状態の判定に用いる閾値Kとを記憶する。
路面状態推定手段15は、ピーク値算出部15aと判定部15bとを備え、帯電波形抽出手段13で抽出した帯電波形からタイヤ3の走行している路面4の状態を推定する。具体的には、ピーク値算出部15aにて、帯電波形に出現する蹴り出し点E
kにおけるピーク値V
kを算出し、判定部15bにて、前記算出されたピーク値V
kとR−Vテーブル14Tに記憶された基準ピーク値V
k(R)とを比較して路面状態を推定する。
例えば、路面状態が乾燥路面であるかWET路面であるかを判定する場合には、記憶手段14に、乾燥路面での基準ピーク値V
k(R
D)とWET路面での基準ピーク値V
k(R
W)とを、それぞれ乾燥路面及びWET路面に対応させたR−Vテーブル14Tを記憶させておき、帯電波形から算出された蹴り出し点E
kにおけるピーク値V
kと乾燥路面での基準ピーク値V
k(R
D)及びWET路面での基準ピーク値V
k(R
W)とを比較して路面状態を推定する。乾燥路面での基準ピーク値V
k(R
D)はWET路面での基準ピーク値V
k(R
W)よりも大きいので、算出されたピーク値V
kの大きさと基準ピーク値V
k(R
D),V
k(R
W)との大小関係を調べれば、路面状態を容易に推定できる。
【0020】
次に、路面状態推定装置10の動作について説明する。
インナーライナー3cの内側に圧電センサー11を取付けたタイヤ3を装着した車両を走行させて、車体2側に設けられた検知電極12aにてタイヤ3と路面4との間の静電容量の変化に起因するベース電位に、圧電素子11aの変形状態に応じて変化する圧電電位が重畳された帯電電位を検出する。
ベース電位は、タイヤ3と路面4との接触によりトレッド3aに帯電した電荷を発生源として車体2全体に分布した帯電電位で、その振幅は路面状態により変化する。なお、WET路面におけるベース電位の振幅の平均値は乾燥路面におけるベース電位の振幅の平均値の約1/5程度の大きさである。
一方、圧電電位も、タイヤ3の接地状態(ここでは、タイヤ3に作用する路面4からの摩擦力)により変化する。また、
図4に示すように、ベース電位が時間的に正負に変化するのに対して、圧電電位は、踏み込み点と蹴り出し点とに大きなピークを有する波形がタイヤ1回転毎に出現する。これら2つのピークは、WET路面においても乾燥路面においてもベース電位よりもはるかに大きな振幅を有する。
【0021】
図5(a)は、走行時のタイヤ3の変形状態と圧電素子11aに作用する力を示す模式図で、同図の左右方向が車両1の前後方向、紙面に垂直な方向が車軸方向である。同図に示すように、タイヤ3が接地している箇所では円弧状であったタイヤ3の形状は荷重により引き伸ばされる。すなわち、タイヤ3の接地している領域(接地領域)では、タイヤ3には車両前後方向の引張応力が作用する。これに対して、接地する前の領域(踏み込み点E
fよりも前の領域;踏み込み前領域)と接地面から離れた後の領域(蹴り出し点E
kよりも後の領域;蹴り出し後領域)では、圧縮応力が作用する。圧電素子11aが周方向の圧縮応力を受けたときにはタイヤ気室3s側が(+)に帯電し、引張応力を受けたときには(−)に帯電するように分極されているとすると、圧電素子11aの両端には、
図5(b)に示すような、踏み込み点E
fに(+)のピークを有し蹴り出し点E
kに(−)のピークを有する帯電電位が発生する。
【0022】
本例では、圧電センサー11のタイヤ気室3s側の素子用電極11bを、リード線11dを介して、タイヤ3のホイール3bと電気的に接続させるとともに、タイヤ内面側の素子用電極11cはフローティングされているので、素子用電極11bにはホイール3bから電荷が流れ込んで蓄積されるとともに、ホイール3bが帯電する。このとき、ホイール3bの帯電電位は、圧電素子11aの帯電電位、すなわち、圧電素子11aのタイヤ3の周方向の伸縮に応じた帯電電位となる。
したがって、車体2側に帯電電位検知手段12として検知電極12aとリファレンス電極12bとを設けて、車体2の帯電電位を検知すれば、タイヤ3と路面4との間の静電容量の変化に起因するベース電位と、圧電素子11aの変形状態に応じて変化する圧電電位とを同時に検知することができる。なお、帯電電位は増幅器12cで増幅されて帯電波形抽出手段13に送られる。
【0023】
次に、帯電波形抽出手段13にて、帯電電位のタイヤ1回転の長さの時間変化波形である帯電波形を抽出する。
次に、この抽出された帯電波形から蹴り出し点E
kにおけるピーク値V
kを算出し、この算出されたピーク値V
kと乾燥路面での基準ピーク値V
k(R
D)とWET路面での基準ピーク値V
k(R
W)とを比較し、|V
k(R
D)−V
k|<K
Dであれば路面は乾燥路面であると推定し、|V
k(R
W)−V
k|<K
WであればWET路面であると推定する。いずれでもない場合には、再度ピーク値V
kを算出して基準ピーク値V
k(R)と比較する。
なお、算出されたピーク値V
kの大きさと基準ピーク値V
k(R
D),V
k(R
W)との大小関係から路面状態を推定してもよい。
【0024】
このように、実施の形態では、タイヤ3内に配置された圧電センサー11のタイヤ気室3s側の素子用電極11bをホイール3bと電気的に結合させ、タイヤ内面側の素子用電極11cをフローティングさせるとともに、車体2側に検知電極12aとリファレンス電極12bとを設けて、車体2に分布する帯電電位を検知することで、タイヤ3と路面4との接触によりトレッド3aに帯電した電荷を発生源として車体2全体に分布した帯電電位とこの帯電電位に重畳される圧電センサー11の変形状態に起因する帯電電位を車体2側で検知するようにしたので、無線通信を用いることなく、圧電センサー11の変形状態を検知することが可能となる。また、検知された帯電電位の時間変化波形である帯電波形から当該タイヤの接地状態を推定するようにしたので、タイヤに電池や蓄電回路、発電素子などの電力供給手段を設けることなく、タイヤの接地状態を確実に推定することができる。
【0025】
なお、前記実施の形態では、圧電フィルムの長手方向がタイヤ周方向を向くように配置して路面状態を推定したが、
図6(a)に示すように、圧電フィルムの長手方向がタイヤ幅方向を向くように配置したり、タイヤ周方向とタイヤ幅方向とに交差するように配置することで、横力や前後力などのタイヤ接地面に作用する多方向の力を求めることができる。
図6(b)に示すように、タイヤ3の接地面に踏面に路面摩擦力が作用した場合には、圧電フィルムの長手方向がタイヤ周方向を向いている圧電センサー11Aのピーク値が最も大きく、長手方向がタイヤ幅方向を向いている圧電センサー11Bのピーク値が最も小さくなり、長手方向がタイヤ周方向に対して45°傾いている圧電センサー11C,11Dのピーク値はその中間の大きさになる。一方、タイヤ3に横力が作用すると、圧電センサー11Aのピーク値は変わらないが、圧電センサー11B〜11Dのピーク値は大きくなる。したがって、圧電センサー11A〜11Dのピーク値を比較することでタイヤ3に作用する横力の大きさを推定することができる。
また、タイヤ3の周方向に沿って、長手方向の向きが互いに異なる複数の圧電フィルムを貼着すると、
図6(c)に示すように、タイヤ1周分の周期Tで、長手方向の向きが異なる複数の圧電センサー11A〜11Dの帯電電位が所定の時間間隔で出現するので、タイヤ接地面に作用する多方向の力を時限で切り分けてタイヤ3に作用する力の成分を分離して取り出すことができる。
また、タイヤ接地面に作用する多方向の力を分離することで、スリップ角やキャンバー角などのタイヤの姿勢角も推定できる。
【0026】
また、前記実施の形態では、帯電波形に出現する蹴り出し点E
kにおけるピーク値V
kから路面状態を推定したが、記憶手段14に、踏み込み点E
fにおけるピーク値と路面状態との関係を示すテーブルと、蹴り出し点E
kにおけるピーク値と路面状態との関係を示すテーブルの両方を記憶させておき、路面状態推定手段15では踏み込み点E
fにおけるピーク値と蹴り出し点E
kにおけるピーク値との両方を用いて路面状態を推定してもよい。あるいは、記憶手段14に、帯電波形そのものを路面状態毎に記憶させておき、検出した帯電波形と記憶手段14に記憶しておいた路面状態毎の帯電波形とを比較して路面状態を推定してもよい。
なお、本例では、圧電センサー11を1個としているが、複数個の圧電センサー11をタイヤ周方向に所定距離離隔して取付け、帯電波形に出現する蹴り出し点E
kにおけるピーク値V
kの平均値と基準ピーク値V
k(R
D),V
k(R
W)とを比較して路面状態を推定してもよい。
【0027】
また、前記実施の形態では、帯電波形抽出手段13にて、タイヤ1回転分の帯電波形を抽出したが、2回転あるいは3回転以上の長さの帯電波形を抽出してもよい。これにより、複数回転での圧電電位の平均を採ることができるので、路面状態の推定精度を向上させることができる。
また、少なくとも2つ以上の時間的に前後する圧電波形が含まれる帯電波形を求めれば、タイヤ3が1回転に要する時間である回転時間を求めることが可能となる。具体的には、タイヤ3の径と2つの時間変化波形に重畳された圧電波形の踏み込み点E
fのピーク間の時間もしくは蹴り出し点E
kのピーク間の時間が回転時間となる。
【0028】
<実験例>
図7(a)は、圧電センサー11の一方の電極(素子用電極11b)をホイールに導通させ、他方の電極(素子用電極11c)をフローティング状態にした場合の帯電波形で、
図7(b)は、素子用電極11cを、タイヤ3のインナーライナー3cの内面側に設けた銅箔(タイヤ側リファレンス電極)に導通させた場合の帯電波形である。このように、圧電センサーの素子用電極11cをフローティングした方が、大きな信号電圧を得ることができることが実験的に確認された。
また、このような傾向について、
図8(a),(b)に示すような、電気的等価モデルを作成して、静電界シミュレーション(EEM-STF)による裏付けを行った。
具体的には、圧電素子11aを点電荷21とし、素子用電極11bを面電極(ホイール側電極22)とし、素子用電極11cとタイヤ側リファレンス電極とを面電極(タイヤ側電極23)とした。また、ホイール3bとリード線11dとを導体24とし、タイヤ3を誘電率がε=2.4である直方体状の誘電体25とした。符号26は路面である。
ここで、圧電素子11aの長さ方向をX方向、幅方向をY方向、厚み方向をZ方向とし、ホイール側電極22の長さを30mm、幅を10mmとした。また、タイヤ側電極23の幅を10mmとし長さを可変とすることでタイヤ側電極23の電極面積を可変とした。なお、誘電体25の厚さは10mmであり、素子用電極11cがフローティングされている場合には、タイヤ側電極23の面積は零として計算した。
【0029】
図9(a),(b)は、静電界シミュレーションにより求めた電圧分布を示す図で、(a)図が素子用電極11cをフローティング状態にした場合、(b)図がタイヤ側リファレンス電極の面積を1000mm
2としたときの電圧分布である。なお、路面26の電位を0Vとした。
素子用電極11cをフローティング状態にした方が、ホイール側電極22と導体24の周りの電位が高くなっている。すなわち、素子用電極11cをフローティングした方がホイール3bに帯電する電荷量が多いことが分かる。
図10は、タイヤ側電極23の面積と測定点(導体24先端)の電圧値との関係を示す図である。同図に示すように、タイヤ側電極23の面積が大きいほど測定電圧値が低下することが分かる。これにより、圧電センサーの素子用電極11cをフローティングした方が、大きな信号電圧を得ることができることが静電界シミュレーションによっても確認された。
【0030】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。