特許第6089484号(P6089484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089484
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ウェーハの片面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   H01L21/304 622J
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-175255(P2012-175255)
(22)【出願日】2012年8月7日
(65)【公開番号】特開2014-36054(P2014-36054A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】福原 史也
(72)【発明者】
【氏名】諸岩 広大
【審査官】 梶尾 誠哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−122942(JP,A)
【文献】 特開平4−111314(JP,A)
【文献】 特開2000−265151(JP,A)
【文献】 特開2000−212540(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0121618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤によってプレートに固定したウェーハの片面を、定盤に設けられた研磨布に接触させて、前記プレートおよび前記定盤を回転させることによって前記ウェーハの片面を研磨するウェーハの片面研磨方法であって、
前記接着剤の固形分は、軟化点が70〜76℃の範囲内であり、100℃における流動粘度が20000〜35000cPの範囲内である(ただし、軟化点が72.8℃であり、かつ、流動粘度が110℃において10000cP超え、120℃において3850cP、130℃において1850cP、及び140℃において900cPである場合を除く)ことを特徴とするウェーハの片面研磨方法。
【請求項2】
前記ウェーハの他面に前記接着剤を塗布し、加熱した前記プレートに前記接着剤を接触させて、前記接着剤の固形分を溶融させた後、前記プレートを冷却することにより、前記接着剤の固形分を固化し、前記ウェーハを前記プレートに固定する請求項1に記載のウェーハの片面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤によってプレートに固定したシリコン等の半導体ウェーハの片面を鏡面研磨するウェーハの片面研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶インゴットをスライスしたシリコン等の半導体ウェーハは、平面研削(ラッピング)工程、エッチング工程、鏡面研磨(ポリッシング)工程を経て、最終洗浄されることにより、ポリッシュドウェーハに加工される。このうち、エッチング工程後の鏡面研磨工程の一態様として、接着剤によってプレートに固定したウェーハの片面を、定盤に設けられた研磨布に接触させて、プレートおよび定盤を回転させることによってウェーハの片面を研磨する方法がある。
【0003】
この際用いられる接着剤には、グリコールフタレート系樹脂、エポキシ系樹脂、ケトン系樹脂などの非パラフィン系樹脂が知られており、中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂が多く用いられている。また、特許文献1には、軟化点が65〜95℃の範囲にあるノボラック型エポキシ樹脂および溶剤からなる接着剤を用いることにより、片面研磨後にウェーハをプレートから容易に剥離でき、かつ、剥離後のプレートの洗浄(接着剤の除去)を容易に行なうことができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−111314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に片面研磨を行うと、ウェーハの面内中心部に比べて外周部の研磨量が大きくなる、いわゆる外周ダレが生じる傾向にある。しかし、一枚のウェーハからより多くのデバイスを作製する観点から、この外周ダレを抑制し、ウェーハ外周部でも高い平坦度を維持するように研磨することが求められている。
【0006】
しかしながら、本発明者らは、従来の接着剤を用いてウェーハをプレートに固定して片面研磨を行った場合、片面研磨後のウェーハ外周部の平坦度は十分ではなく、これを改善できる余地があるとの認識を持つに至った。
【0007】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、ウェーハ外周部の平坦度を改善することが可能なウェーハの片面研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、ウェーハをプレートに固定する接着剤の物性と、研磨後のウェーハ外周部の平坦度との関係は知られておらず、ウェーハ外周部の平坦度を改善するという観点からの接着剤の選定は行なわれてこなかった。特許文献1でも、片面研磨後の剥離性および洗浄性に着目しているに過ぎない。そこで、本発明者らは、接着剤の物性に着目して、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、軟化点および100℃における流動粘度がそれぞれ所定の条件を満たす固形分を有する接着剤を用いてウェーハをプレートに固定して片面研磨を行った場合に、ウェーハ外周部の平坦度が特に改善されることを見出した。
【0009】
以上の知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
本発明のウェーハの片面研磨方法は、接着剤によってプレートに固定したウェーハの片面を、定盤に設けられた研磨布に接触させて、前記プレートおよび前記定盤を回転させることによって前記ウェーハの片面を研磨するウェーハの片面研磨方法であって、前記接着剤の固形分は、軟化点が70〜76℃の範囲内であり、100℃における流動粘度が20000〜35000cPの範囲内である(ただし、軟化点が72.8℃であり、かつ、流動粘度が110℃において10000cP超え、120℃において3850cP、130℃において1850cP、及び140℃において900cPである場合を除く)ことを特徴とする。
【0010】
また本発明では、前記ウェーハの他面に前記接着剤を塗布し、加熱した前記プレートに前記接着剤を接触させて、前記接着剤の固形分を溶融させた後、前記プレートを冷却することにより、前記接着剤の固形分を固化し、前記ウェーハを前記プレートに固定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウェーハの片面研磨方法によれば、ウェーハをプレートに固定する接着剤として、所定の軟化点および流動粘度の固形分を有する接着剤を用いたので、ウェーハ外周部の平坦度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従うウェーハの片面研磨方法を実施する片面研磨装置の模式斜視図である。
図2】(A)〜(C)は、本発明に従うウェーハの片面研磨方法の工程を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明に従うウェーハの片面研磨方法を実施する片面研磨装置の模式斜視図である。片面研磨装置は、ウェーハを固定する例えばセラミック製のプレート12と、このプレート12を保持するヘッド20とを有する。図1では見えないが、各プレート12には、例えば5枚といった複数枚のウェーハが固定される。また、片面研磨装置は、プレート12と対向して、表面に研磨布18を設けた定盤16を有する。プレート12に固定したウェーハを研磨布18に接触させて、ヘッド20およびプレート12と、定盤16とをともに回転させ、研磨布上に研磨液を供給しながら、ウェーハの片面を研磨する。1つの定盤20内に複数(図1では4つ)のプレート12を配することにより、一度に多数のウェーハを同時に片面研磨することができる。
【0015】
図2を用いて、本発明に従うウェーハの片面研磨方法の工程を説明する。図2では、ウェーハ10の両面のうち、研磨面を片面(おもて面)10A、接着剤塗布面を他面(裏面)10Bとする。まず、図2(A)右図に示すように、スピンコーティング法により、ウェーハの他面10Bに接着剤を塗布する。塗布する段階での接着剤は、固形成分となる樹脂と、溶剤とを少なくとも含む。一方で、図2(A)左図に示すように、プレート12は例えばホットプレートによって約100℃に加熱される。そして、図2(A)中央図に示すように、加熱したプレート12に接着剤14を接触させる。すると、プレート12から接着剤14に伝わる熱によって、溶剤が蒸発するとともに樹脂は溶融する。その後、プレート12を冷却することにより、樹脂が固化し、ウェーハ10がプレート12に固定される。接着剤14の厚さは特に限定されないが、0.5〜2μm程度とすることができる。
【0016】
なお、ウェーハの他面10Bに接着剤を塗布後、ウェーハ10を加熱することにより接着剤の溶媒を蒸発させ、その後、加熱したプレート12に接着剤14を接触させて、樹脂(固形分)を溶融させてもよい。
【0017】
続いて図2(B)に示すように、接着剤14によってプレート12に固定したウェーハの片面10Aを、定盤16に設けられた研磨布18に接触させて、プレート12および定盤16を回転させることによって、ウェーハの片面10Aを研磨する。その後、図2(C)に示すように、プレート12をヘッド20から取り外し、水洗、水切りを行なう。その後は図示しないが、剃刀などによってプレート12からウェーハ10を剥離し、ウェーハ10は洗浄後、平坦度測定に供される。プレート12には接着剤を除去する洗浄を行い、プレート12は乾燥後、再度ウェーハの片面研磨に用いられる。
【0018】
ここで、本発明に従う片面研磨方法の特徴は、固形分の軟化点が70〜76℃の範囲内であり、固形分の100℃における流動粘度が20000〜35000cPの範囲内である接着剤を用いることである。本発明者らは、このような接着剤を用いてウェーハ10をプレート12に固定して片面研磨を行った場合に、ウェーハ外周部の平坦度が特に改善されることを見出した。このような顕著な効果が奏される作用は必ずしも明らかではないが、固形分となる樹脂がプレート12の熱により溶融する際の流動性が適正化されて、ウェーハの他面10Bの外周部への接着剤の局在が抑制され、ウェーハの他面10Bに均一な厚さの接着剤の層を形成できるためと考えられる。すなわち、本発明は、単に軟化点のみに着目するのではなく、固形分の100℃における流動粘度にも着目し、その両者を最適化するという新たな着想に基づき完成された発明である。固形分の軟化点または固形分の100℃における流動粘度が上記範囲を外れた接着剤を用いた場合、接着剤の固形分となる樹脂が溶融する際の流動性が適正でないため、ウェーハ外周部の平坦度が劣る。なお、本発明は固形分の100℃における流動粘度を特徴とするものであり、プレート12が必ずしも100℃に加熱されることに限定されず、例えば120℃に加熱してもよい。
【0019】
本明細書において、接着剤の固形分の「軟化点」とは、JIS K2207(環球法)に従い試料を規定条件下で加熱したとき、試料が規定距離まで垂れ下がるときの温度を意味する。また、接着剤の固形分の「流動粘度」とは、フローテスター定温法にて設定温度(例えば100℃)・設定圧力下(例えば大気圧)で試料がノズルを通過する速度から算出した粘度を意味する。そして、例えば、島津製作所の流動特性評価装置(フローテスター)により求めることができる。これらの軟化点および流動粘度は、塗布する段階での接着剤から溶剤を蒸発・除去し、固形分のみとした状態で測定する。
【0020】
本発明の片面研磨方法の結果、ウェーハ外周部の平坦度はSFQRで0.100μm以下、さらには0.080μm以下とすることができる。ここで、SFQR(Site Front least sQuares Range)とは、SEMI規格にかかる、ウェーハ外周部の平坦度を示す指標である。このSFQRは、具体的にはウェーハから所定寸法の矩形状のサンプルを複数取得し、取得した各サンプルについて最小二乗法により求められた基準面からの+側および−側のそれぞれの最大変位量の絶対値の和を算出することにより求めるものである。本明細書におけるSFQRは、ウェーハ外周端から2mmの領域内において、22mm×22mmのサイトを、ADE社製平坦度測定器(UltraScan9800)により測定した値とする。
【0021】
接着剤の固形成分となる樹脂は特に限定されないが、天然樹脂のロジン系(例えばアクリル化ロジン)や、合成樹脂のウレタン系やエポキシ系などの1種または複数種を挙げることができる。また、これらの樹脂は周知の任意の合成法により得ることができる。
【0022】
また、使用する樹脂の数平均分子量が大きい樹脂ほど、軟化点および流動粘度が高くなる傾向もあるため、各樹脂の配合割合を変えるだけでなく、数平均分子量を調整することによって、接着剤の固形分の軟化点や流動粘度を適宜調整することができる。
【0023】
塗布する段階での接着剤に含まれる溶剤の種類は特に限定されず、例えばアセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、トルエンなどの有機溶媒、あるいは、これらとエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒との混合溶媒とすることができる。
【0024】
塗布する段階での接着剤に占める固形成分となる樹脂の割合は、10〜35%とすることが好ましい。10%未満の場合、ウェーハへの塗布時に膜厚が薄く、膜切れが発生するおそれがあり、35%超えの場合、固形分が結晶化したり、ウェーハへの塗布時に膜厚が大きくなり、膜厚むらが発生しやすくなるおそれがあるからである。
【0025】
接着剤は、樹脂および溶剤に加えて、随意に他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、変性ロジン、ノニオン界面活性剤などが挙げられる。その場合、塗布する段階での接着剤に占める添加剤の合計含有量は、接着剤としての機能を阻害しない範囲であればよく、例えば1%以内とすることが好ましい。
【0026】
本発明で用いる塗布する段階での接着剤は、上記の溶剤に各種樹脂および添加剤を加え、加熱することにより樹脂を溶剤に溶解させて、得ることができる。
【0027】
本発明においては、図2(A)でウェーハ10をプレート12に固定するに先立ち、ウェーハの他面10B、すなわち図2(A)右図に示す接着剤塗布面を研磨することが好ましい。研磨によりウェーハの他面10Bの表面粗さを低減することで、接着剤の固形分となる樹脂がプレート12の熱により溶融する際の流動性がより適正化されて、ウェーハ外周部の平坦度をより改善することができるからである。
【0028】
通常、エッチング工程後のウェーハの他面10Bの表面粗さ(二乗平均平方根Rq)は、4000〜4500Å程度となる。そのため、ウェーハの他面10Bを鏡面研磨することにより、その表面粗さ(Rq)を、好ましくは2000Å以下、より好ましくは1500Å以下とする。
【0029】
プレート12の材質や寸法は特に限定されないが、材質は、例えばセラミック、などとすることができ、寸法は、例えば直径576mmの円盤状とすることができる。また、研磨布18の種類は限定されない。例えば、単層式の研磨布でもよいし、研磨布層の裏面にスポンジ層が形成された2層式の研磨布でもよい。単層式における研磨布および2層式における研磨布層としては、例えば、ウレタンフォームなどの合成樹脂発泡体からなる研磨布、ポリエステル繊維製の不織布にウレタン樹脂を含浸させた硬質なベロアタイプの研磨布、不織布の基布の上にウレタン樹脂を発泡させたスエードパッドなどを採用することができる。研磨圧力、定盤およびプレートの回転速度、研磨液の種類などの、その他の研磨条件も特に限定されず、任意の条件とすることができる。
【実施例】
【0030】
(実験例1)
エッチング工程後のRqが4500Å程度のシリコンウェーハ(直径:200mm)を用意し、ウェーハの裏面を研磨してRqを1500Åとした。シリコンウェーハの裏面に後述の接着剤を塗布した。100℃に加熱したセラミック製のプレートにシリコンウェーハを押しつけ、その後冷却し、接着剤によりシリコンウェーハをプレートに固定した。その後、不織布の研磨布を定盤の表面に設置した、図1に示す片面研磨装置によりシリコンウェーハのおもて面に対して鏡面研磨を行った。なお、1枚のプレートには5枚のシリコンウェーハを固定し、1回の片面研磨により5枚×4プレートのシリコンウェーハを加工した。研磨条件は以下のとおりとした。
研磨圧力:300g/cm
研磨時間:300秒
研磨液:アルカリ研磨液(コロイダルシリカ含有)
【0031】
用いた接着剤について説明する。接着剤の固形分としては、天然樹脂であるロジン係剤を用い、添加する誘導体割合や樹脂の数平均分子量などを調整して、表1に示すような固形分の軟化点および流動粘度が異なる接着剤を用意した。なお、いずれの接着剤も溶剤(メタノール、メチルイソブチルケトン、トルエンの混合液)に溶解し、接着剤に占める樹脂の割合は20%としたものである。
【0032】
それぞれの接着剤を用いた場合について、シリコンウェーハのおもて面の外周部のSFQRを既述の方法により測定した。5枚×4プレートの平均値を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、軟化点および100℃における流動粘度がともに本発明の規定する範囲内の場合には、SFQRが0.100μm以下という高平坦度を得ることができ、SFQRが0.090μm以下となる特に好ましい場合もあった。一方、軟化点および100℃における流動粘度の少なくとも片方が本発明の規定する範囲を外れる場合、SFQRが0.100μm超えとなり平坦度に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、ウェーハ外周部の平坦度を改善することが可能なウェーハの片面研磨方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
10 ウェーハ
10A ウェーハの片面(研磨面)
10B ウェーハの他面(接着剤塗布面)
12 プレート
14 接着剤
16 定盤
18 研磨布
20 ヘッド
図1
図2