特許第6089678号(P6089678)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089678
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ストロンチウム交換クリノプチロライト
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/02 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   C01B39/02
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-277280(P2012-277280)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-147415(P2013-147415A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-277930(P2011-277930)
(32)【優先日】2011年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
(72)【発明者】
【氏名】清水 要樹
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05116793(US,A)
【文献】 特開2011−231007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20−39/54
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換サイトにストロンチウムイオンを有し、イオン交換サイトにおけるイオンの少なくとも79.7mol%がストロンチウムイオンであり、細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積が0.5mL/g以上である合成クリノプチロライト。
【請求項2】
平均細孔直径が200nm以上である請求項1に記載の合成クリノプチロライト。
【請求項3】
ストロンチウムを含有する溶液と合成クリノプチロライトとを常圧下で接触させてイオン交換することを含み、前記合成クリノプチロライトが、
ケイ酸アルカリとアルミニウム塩から得られた無定形アルミノシリケートゲル、水、およびアルカリ金属水酸化物を混合し、モル比で、
SiO/Al=8〜20
OH/SiO=0.25〜0.5
K/(K+Na)=0.5〜0.9
O/SiO=10〜100
である混合物を得、
得られた混合物を種晶の存在下で攪拌しながら100〜200℃で結晶化して得られたクリノプチロライトである、請求項1又は2に記載の合成クリノプチロライトの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の合成クリノプチロライトを含む窒素吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウムイオン交換クリノプチロライトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリノプチロライトは天然ゼオライトの一種として広く産出されるゼオライトであり、これはガス吸着剤として工業的に使用されている。ガス吸着剤として使用する場合、クリノプチロライトはそのイオン交換サイトを適当なイオンに交換した状態で使用される。このようなクリノプチロライトとして、例えば、カルシウム交換クリノプチロライト(例えば、特許文献1参照)、マグネシウム交換クリノプチロライト(例えば、特許文献2参照)、及びストロンチウム交換クリノプチロライト(例えば、非特許文献1参照)など、天然に産出されたクリノプチロライトを各種のイオンでイオン交換して得られたイオン交換クリノプチロライトが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−107941号公報
【特許文献2】米国特許第4,964,889号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ind.Eng.Chem.Res,vol.44,p5184−5192,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、窒素の吸着特性が向上したストロンチウムイオン交換クリノプチロライト及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討した結果、イオン交換サイトにストロンチウムを有する合成クリノプチロライトが窒素の吸着特性に優れることを見出した。さらには、このようなクリノプチロライトは吸着特性のみならず、操作性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本願は以下に記載の態様を包含する。
(1) イオン交換サイトにストロンチウムイオンを有する合成クリノプチロライト。
(2) イオン交換サイトにおけるイオンの少なくとも35mol%がストロンチウムイオンである(1)に記載の合成クリノプチロライト。
(3) 細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積が0.5mL/g以上である(1)又は(2)に記載の合成クリノプチロライト。
(4) 平均細孔直径が200nm以上である(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の合成クリノプチロライト。
(5) ストロンチウムを含有する溶液と合成クリノプチロライトとを常圧下で接触させてイオン交換することを含む(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の合成クリノプチロライトの製造方法。
(6) 前記合成クリノプチロライトが、
ケイ酸アルカリとアルミニウム塩から得られた無定形アルミノシリケートゲル、水、およびアルカリ金属水酸化物を混合し、モル比で、
SiO/Al=8〜20
OH/SiO=0.25〜0.5
K/(K+Na)=0.5〜0.9
O/SiO=10〜100
である混合物を得、
得られた混合物を種晶の存在下で攪拌しながら100〜200℃で結晶化して得られたクリノプチロライトである(5)に記載の合成クリノプチロライトの製造方法。
(7) (1)乃至(4)のいずれか1つに記載の合成クリノプチロライトを含む合成クリノプチロライト成形体。
(8) (1)乃至(4)のいずれか1つに記載の合成クリノプチロライトを含む窒素吸着剤。
【発明の実施の形態】
【0008】
本実施形態は、イオン交換サイトにストロンチウムイオンを有する合成クリノプチロライト(以下、「ストロンチウム交換クリノプチロライト」とする)に関する。
【0009】
ここで、イオン交換サイトとは、クリノプチロライトを構成する負に帯電したアルミニウム上に存在するサイトであり、アルミニウムの負電荷を補償するため、水素、アルカリ金属、アルカリ土金属、遷移金属などの陽イオンが存在するサイトをいう。
【0010】
以下、本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトについて説明する。
【0011】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは合成クリノプチロライトである。クリノプチロライトは天然にも産出されるゼオライトではあるが、天然に産出されたクリノプチロライト(以下、「天然クリノプチロライト」という)を用いると、窒素平衡吸着量が低くなる。合成クリノプチロライトとは、天然クチノプチロライトとは区別され、出発原料から合成されたクリノプチロライトをいう。
【0012】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、イオン交換サイトにストロンチウムイオン(Sr2+)を有する。イオン交換サイトにストロンチウムイオンを有することで、窒素の吸着特性が向上する。
【0013】
合成クリノプチロライトのイオン交換サイトに存在するイオンにおけるストロンチウムイオンの割合(以下、「ストロンチウム交換率」とする)が多いほど、窒素の吸着特性は向上する。本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトのストロンチウム交換率は、クリノプチロライトのイオン交換サイトに存在するイオンの量に対して、少なくとも35mol%である。ストロンチウム交換率は、クリノプチロライトのイオン交換サイトに存在するイオンの量に対して少なくとも40mol%であることが好ましく、少なくとも65mol%であることがより好ましく、少なくとも70mol%であることがさらに好ましく、少なくとも75mol%であることがさらにより好ましい。
【0014】
また、イオン交換サイトに存在するストロンチウムイオン以外のイオン種としては、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)などのアルカリ金属イオンや、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)などのアルカリ土金属イオンなどが例示できる。
【0015】
なお、ストロンチウム交換率は、例えば組成分析を行うことによりCa2+、Sr2+、Mg2+、Na、K(以下、「カチオン」とする)の量(モル数)を得、カチオンの全量におけるストロンチウムイオンの量の割合をmol%で算出することにより得ることができる。
【0016】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトのSiO/Alのモル比は特に限定されない。SiO/Alのモル比としては、例えば、10未満(Si/Alの原子比で5未満)を挙げることができる。
【0017】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積が0.5mL/g以上であることが好ましく、0.7mL/g以上であることがより好ましく、0.8mL/g以上であることがさらに好ましい。細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積が0.5mL/g以上であると、吸脱着特性が向上しやすい。
【0018】
ここで、本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、一次粒子が凝集した二次粒子からなるように構成することができる。細孔直径3〜10,000nmの細孔容積は、例えば一次粒子間に形成された細孔であり、細孔直径10,000nmを超えた細孔容積は、例えば二次粒子間に形成される粉末粒子間空隙である。
【0019】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは平均細孔直径が200nm以上であることが好ましく、400nm以上であることがより好ましい。平均細孔直径が200nm以上であると、適度な充填性及び強度を有する。これにより、本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトが操作性に優れた粉末となりやすい。
【0020】
なお、細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積および平均細孔直径は、例えば水銀圧入法に基づき測定することができる。
【0021】
次に、本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトの製造方法について説明する。
【0022】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、ストロンチウムイオンを含有する溶液と合成クリノプチロライトとを常圧下で接触させてイオン交換(以下、「ストロンチウム交換」ともいう)することで製造することができる。
【0023】
ここで、常圧とは、特に減圧や加圧等をしない状態をいい、約1気圧(約101325Pa)程度のことをいう。
【0024】
ストロンチウムイオンを含有する溶液(以下、「ストロンチウム溶液」とする)と接触させるクリノプチロライトは、合成クリノプチロライトであることが好ましい。より好ましい合成クリノプチロライトとして、ケイ酸アルカリとアルミニウム塩から得られた無定形アルミノシリケートゲル、水、アルカリ金属水酸化物を混合し、モル比で、
SiO/Al=8〜20
OH/SiO=0.25〜0.5
K/(K+Na)=0.5〜0.9
O/SiO=10〜100
である混合物(以下、「原料混合物」という)を得、得られた原料混合物を種晶の存在下で攪拌しながら100〜200℃で結晶化して得られる合成クリノプチロライトを挙げることができる。
【0025】
この場合、ケイ酸アルカリとしては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム又はシリカゾルなどの水溶液を用いることが好ましい。さらに、固体状のシリカ源である無定形シリカ、シリカゲル、カオリナイト又は珪藻土などは、アルカリ成分で溶解してケイ酸アルカリとして用いることが好ましい。
【0026】
アルミニウム塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミニウムの塩化物、硝酸塩又は硫酸塩などの水溶液を用いることが好ましい。さらに、水酸化アルミニウム等の固体状のアルミニウム源は、鉱酸やアルカリ成分で溶解してアルミニウム塩として使用することが好ましい。
【0027】
ケイ酸アルカリの水溶液とアルミニウム塩の水溶液とを混合して得られる無定形アルミノシリケートゲルを用いることが好ましい。混合時の温度は室温〜100℃の範囲が例示できる。
【0028】
また、必要に応じて水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのアルカリ成分、若しくは、硫酸、塩酸等の酸成分をケイ酸アルカリの水溶液とアルミニウム塩の水溶液との混合液に加えることができる。
【0029】
得られた無定形アルミノシリケートゲルは、必要に応じて濾過洗浄等を行い、副生塩を除去することが好ましい。
【0030】
次に、水、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム若しくはその両者、得られた無定形アルミノシリケートゲルから原料混合物を得ることが好ましい。
【0031】
原料混合物の組成は、モル比で
SiO/Al=8〜20
OH/SiO=0.25〜0.5
K/(K+Na)=0.5〜0.9
O/SiO=10〜100
であることが好ましい。
【0032】
OH/SiOモル比をこの範囲内にすることで、クリノプチロライト以外のゼオライト、またはゼオライト以外の鉱物(副生物)が生成しにくくなる。同様に、K/(K+Na)モル比を0.5以上0.9以下とすることで、クリノプチロライト以外のゼオライトの生成を抑制することができる。
【0033】
得られた原料混合物は、加熱して結晶化する。
【0034】
結晶化温度は、100〜200℃であることが好ましい。結晶化温度が100℃以上であると、結晶化の進行が促進されやすい。また、結晶化温度が高いほど結晶化速度は速くなりやすいが、200℃以下であれば高温高圧型の反応容器等を必要とせずに結晶化できるため、結晶化温度は200℃以下であることが好ましい。
【0035】
結晶化時間は、結晶化が十分に進行する時間として、例えば、1日から15日間程度とすることが挙げられる。
【0036】
結晶化は、撹拌下で行うことが好ましい。攪拌下で結晶化を行った場合、結晶化速度が速くなるだけでなく、クリノプチロライトの単一相が得られやすくなる。
【0037】
また、結晶化においては、原料混合物に種晶を添加することが好ましい。原料混合物に種晶を添加して結晶化を行なうことによって結晶化時間を大幅に短縮することができる。種晶は、クリノプチロライトであることが好ましく、天然クリノプチロライト、合成クリノプチロライトのいずれをも使用することができる。種晶の量は、原料混合物に対して1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。種晶の量が1重量%以上であれば結晶化時間の短縮効果が得られる。また、種晶の量が20重量%であれば結晶化時間の短縮効果が十分に得られるので、種晶の量は例えば20重量%以下とすることができる。
【0038】
結晶化が終了した後、生成した結晶を母液と分離し、水洗し、乾燥して結晶粉末を得ることで、Na,K型のクリノプチロライト(以下、「Na,K型クリノプチロライト」という)が得られる。
【0039】
得られるNa,K型クリノプチロライトは、以下の式で表されることが好ましい。
【0040】
x(K,Na)O・Al・ySiO・zH
(但し、x=0.8〜1.2,y=7.0〜12.0,z≧0,K/(K+Na)=0.50〜0.98)
上記一般式において、y(SiO/Alモル比)は7.0〜12.0である。7.0以上であるとクリノプチロライトの耐熱性が向上し、12.0以下であれば、クリノプチロライトの単一相が得られやすい。結晶相の含有率は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
クリノプチロライトは、上記一般式において、K/(K+Na)=0.50〜0.98であることが好ましい。
【0042】
本実施形態の合成クリノプチロライトの製造方法は、ストロンチウム溶液と合成クリノプチロライトとを常圧下で接触させることを特徴とする。これにより、クリノプチロライトのイオン交換サイトのイオンがストロンチウムイオンにイオン交換される。
【0043】
ストロンチウム溶液としては、例えば、SrCl、Sr(NOなどの溶解性のストロンチウム塩を水に溶解させた水溶液を挙げることができる。
【0044】
ストロンチウム溶液と合成クリノプチロライトとを常圧下で接触させる限り、ストロンチウム交換の方法は任意の方法を使用することができる。ストロンチウム交換の方法としては、例えば、回分式、流通式などの方法を挙げることができ、それにより目的とするストロンチウム交換率を有するストロンチウム交換クリノプチロライトを得ることができる。しかしながら、高圧下(例えば、2気圧以上)でのイオン交換方法では、クリノプチロライトの紛体物性が変化するため好ましくない。
【0045】
ストロンチウム交換を行う温度は40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。一方、温度が高くなりすぎるとストロンチウム溶液の濃度が安定しにくくなる。したがって、ストロンチウム交換は100℃以下の温度で行うことが好ましい。
【0046】
ストロンチウム交換後のクリノプチロライトはイオン交換水で洗浄、乾燥することが好ましい。これにより、クリノプチロライトの表面に付着した不純物などを除去することができる。
【0047】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、窒素吸着剤として使用することができる。本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトを吸着分離剤として使用する場合は、400℃から600℃程度の温度で加熱し、脱水処理を行うことが好ましい。また、本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは成形体とした後に吸着分離剤として使用することもできる。
【発明の効果】
【0048】
本実施形態のストロンチウム交換クリノプチロライトは、窒素の吸脱着特性に優れる。そのため、ガス分離剤として使用することができる。さらには、粉末形状が変形しにくく、操作性にも優れたストロンチウム交換クリノプチロライトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】クロマトグラフィーによる吸脱着特性を評価する装置の概略図である。
図2】実施例3で得られた窒素のクロマトグラムである。
図3】比較例1で得られた窒素のクロマトグラムである。
図4】実施例1〜5の、窒素とメタンの保持時間の差とストロンチウム交換率との関係についてのグラフである。ストロンチウム交換率は、表1に示した各実施例のストロンチウム交換率と対応している。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
(組成分析)
試料をフッ酸溶液及び硝酸を用いて溶解し、ICP−AES(使用装置 PERKIN ELMER社製,OPTIMA3000DV)で試料の組成を測定した。Ca2+、Sr2+、Mg2+、Na、K(以下、「カチオン」とする)を測定し、これらの全量に対する各カチオンの割合をmol%で算出した。
(クリノプチロライトの結晶含有率)
クリノプチロライトの結晶含有率の測定は、X線回折により行った。測定は、X線回折装置(マックサイエンス社製 MXP3)を使用して2θ=3〜40°の回折ピークを測定した。得られたX線回折図から、クリノプチロライトのピークと不純物相のピークの比を求め、当該ピークの比に基づき結晶含有率を算出した。なお、クリノプチロライトの同定は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITES 、Fifth Revised Edition 2007、ELSEVIA の206〜207頁に記載されているHEU型ゼオライトのX線回折データを使用して行った。
(細孔容積)
実施例および比較例のクリノプチロライトを350℃で脱水処理した後に、水銀圧入法で評価した。評価装置はMicromeritics社製のオートポア9510を使用した。
【0051】
細孔容積は、細孔直径3〜10,000nmの範囲で求め、平均細孔直径は前記細孔直径範囲の50%細孔容積に相当する細孔直径とした。
(窒素平衡吸着量)
窒素平衡吸着量はBELLSORP HP(日本ベル株式会社製)を用いた。試料は0.5〜1mmに整粒した。前処理として、350℃で2時間、真空下で加熱処理した。吸着温度25℃において、760mmHgにおける窒素平衡吸着量を測定した。
(クロマトグラフィーによる窒素の吸脱着特性の評価)
実施例および比較例のクリノプチロライトを0.35〜0.5mmに成形整粒し、約4.5mLを500℃で1.5時間、空気中で脱水処理後、25℃に保持した内径4.35mm×長さ30cmのステンレスカラムにヘリウムを流通しながら充填した。キャリアガスとしてヘリウムを50NmL/minの流量でカラムに流通させて、六方ガスサンプラーの流路を切り替えて、窒素の純ガスをカラムに1ccパルス注入して、出口ガスにおける窒素をTCD検出器で検出してクロマトグラムを得た。
【0052】
装置の概略図を図1に示す。図1中、11が流量計であり、12が六方ガスサンプラー(1mL)であり、13がカラムであり、14がTCD検出器であり、15がマスフローコントローラーである。
【0053】
実施例1
純水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、ケイ酸ソーダと硫酸アルミニウムから調製した無定形アルミノシリケートゲルを下記の組成となるように混合し、原料混合物を得た。
【0054】
SiO/Al=11.7
OH/SiO=0.34
K/(K+Na)=0.70
O/SiO=15
得られた原料混合物に、原料混合物の重量に対して2重量%の天然クリノプチロライトを種晶として加え、攪拌しながら150℃で72時間加熱して結晶化させた。結晶化後、冷却、濾過、洗浄、及び乾燥して粉末状のNa,K型クリノプチロライトを得た。
【0055】
得られたNa,K型クリノプチロライトは、SiO/Al=9.6、(Na,K)O/Al=0.99、K/(K+Na)=0.90であった。
【0056】
得られたNa,K型クリノプチロライトは、X線回折測定においてクリノプチロライト以外に帰属できるピークはなく、そのクリノプチロライトの結晶含有率は100%であった。また、得られた合成クリノプチロライトの細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積は0.88mL/g、平均細孔直径は410nmであった。
【0057】
得られたNa,K型クリノプチロライト37gを1mol/LのSrCl、0.28mol/LのNaClを含む1000mLのストロンチウムイオンの水溶液(以下、「イオン交換水溶液」という)に添加し、60℃で2時間攪拌する操作を2回行ってストロンチウム交換を行った。ストロンチウム交換後、大気中、110℃で12時間で乾燥して実施例1のストロンチウム交換クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。
【0058】
実施例2
1mol/LのSrCl、0.14mol/LのNaClを含む1000mLイオン交換水溶液を使用してストロンチウム交換したこと以外は実施例1と同様な方法で、実施例2のストロンチウム交換クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。
【0059】
実施例3
1mol/LのSrCl、0.12mol/LのNaClを含む1000mLイオン交換水溶液を使用してストロンチウム交換したこと以外は実施例1と同様な方法で、実施例3のストロンチウム交換クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。また、実施例3のストロンチウム交換クリノプチロライトを用いた窒素のクロマトグラムを図2に示した。
【0060】
実施例4
2mol/LのSrCl、0.28mol/LのNaClを含む1000mLイオン交換水溶液を使用してストロンチウム交換したこと以外は実施例1と同様な方法で、実施例4のストロンチウム交換クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。
【0061】
実施例5
0.05mol/LのSrCl、0.14mol/LのNaClを含む1000mLイオン交換水溶液を使用してストロンチウム交換したこと以外は実施例1と同様な方法で、実施例5のストロンチウム交換クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。
【0062】
以上の様に、本発明のストロンチウム交換クリノプチロライトは細孔容積が大きく、同じイオン交換条件でもイオン交換率を高くでき、イオン交換特性に優れていることがわかる。また、クリノプチロライトの純度が高く、例えば窒素平衡吸着量が多い。さらに、本発明のクリノプチロライトは細孔容積が大きいため、窒素のクロマトグラムのピーク幅が小さいことから、吸脱着速度が速く、ガス分離特性に優れることがわかる。
【0063】
比較例1
日本産の天然クリノプチロライトを用いてストロンチウム交換を行った。用いたクリノプチロライトの組成は、Na29.5mol%,K13.1mol%,Mg14.5mol%,Ca41.9mol%であった。細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積は0.33mL/g、平均細孔直径は139nmであった。
【0064】
得られたクリノプチロライトを用いて、イオン交換サイトに存在するイオンをカリウムイオンに置換するイオン交換を行なった(以下、「カリウム交換」という)。カリウム交換は0.355〜0.5mmに整粒した天然クリノプチロライトをカラムに充填し、1.05mol/LのKCl溶液を80℃で25mL/minの条件で流通させることで行った。カリウム交換後のクリノプチロライトの組成は、Na17.0mol%,K47.9mol%,Mg7.7mol%,Ca27.4mol%であった。これにより、ストロンチウム交換前のクリノプチロライトの組成を実施例と同様の組成とした。
【0065】
カリウム交換した天然クリノプチロライトを用いて、実施例1と同様のストロンチウム交換操作を行い、ストロンチウムで交換した天然クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。また、また、比較例1のクリノプチロライトを用いた窒素のクロマトグラムを図3に示す。
【0066】
比較例2
米国産の天然クリノプチロライトを使用して比較例1と同じカリウム交換処理を行った。カリウム交換前の組成はNa7.6mol%,K24.4mol%,Mg25.1mol%,Ca42.8mol%であり、細孔直径3〜10,000nmの範囲の細孔容積は0.21mL/g、平均細孔直径は144nmであった。
【0067】
また、カリウム交換処理後の組成はNa6.9mol%,K62.5mol%,Mg15.9mol%,Ca14.7mol%であった。
【0068】
このカリウム交換した天然クリノプチロライトを用いて、実施例1と同様のストロンチウム交換操作を行い、ストロンチウムで交換した天然クリノプチロライトを得た。組成分析および窒素平衡吸着量の測定結果を表1に示した。
【0069】
比較例1で得られたクリノプチロライトは、実施例5のストロンチウム交換クリノプチロライトよりもストロンチウム交換率が高かった。しかしながら、比較例1の窒素平衡吸着量は実施例5の窒素平衡吸着量に対し6割程度しかなかった。
【0070】
また、比較例1及び比較例2より、天然クリノプチロライトでは、ストロンチウム交換率が低いだけでなく、ストロンチウム交換率の増加に伴い窒素平衡吸着量が低下することがわかった。
【0071】
比較例3
実施例1で得られたNa,K型クリノプチロライト37gを1mol/LのCaCl、0.14mol/LのNaClを含む1000mLイオン交換水溶液に添加し、60℃で2時間攪拌する操作を2回行って、イオン交換サイトに存在するイオンをカルシウムイオンに置換するイオン交換を行なった(以下、「カルシウム交換」という)。カルシウム交換後、大気中、110℃で12時間乾燥して比較例3のカルシウム交換クリノプチロライトを得た。結果を表1に示した。
【0072】
比較例4
0.1mol/LのCaCl、0.14mol/LのNaClを含む1000mLのイオン交換水溶液を用いたこと以外は比較例3と同様な方法で、比較例4のカルシウム交換クリノプチロライトを得た。結果を表1に示した。
【0073】
比較例5
2mol/LのCaCl、0.14mol/LのNaClを含む1000mLのイオン交換水溶液を用いたこと以外は比較例3と同様な方法で、比較例5のカルシウム交換クリノプチロライトを得た。結果を表1に示した。
【0074】
比較例3〜5の結果、ストロンチウムイオンの代わりにカルシウムイオンでイオン交換を行って得られたイオン交換クリノプチロライトは、本発明のクリノプチロライトと比較して窒素平衡吸着量が低いことがわかった。
【0075】
【表1】
(クロマトグラフィーによる窒素の吸着分離特性の評価)
実施例及び比較例のクリノプチロライトを0.35〜0.5mmに成形整粒し、約4.5mLを500℃で1.5時間、空気中で脱水処理後、25℃に保持した内径4.35mm×長さ30cmのステンレスカラムにヘリウム(純度99.999%以上)を流通しながら充填した。キャリアガスとしてヘリウム(純度99.999%以上)を50NmL/minの流量でカラムに流通させて、六方ガスサンプラーの流路を切り替えて、入口ガス(CH濃度90体積%、N濃度10体積%)をカラムに1ccパルス注入して、出口ガスにおける窒素とメタンをTCD検出器で検出して、得られたクロマトグラムから窒素とメタンの保持時間を分析し、窒素とメタンの保持時間の差を算出した。なお、測定に用いた装置の構成は図1に概略を示した装置と同一である。結果を表2に示した。また、窒素とメタンの保持時間の差とストロンチウム交換率との関係についてのグラフを図4として示す。
【0076】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のクリノプチロライトは窒素の吸着特性に優れるため、窒素吸着剤として使用することが可能である。さらには、操作性に優れるため工業的にも容易に扱うことができる。
図1
図2
図3
図4