特許第6089888号(P6089888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089888
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】混床イオン交換樹脂の分離再生方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/09 20170101AFI20170227BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20170227BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20170227BHJP
   B01J 49/57 20170101ALI20170227BHJP
   B01J 49/60 20170101ALI20170227BHJP
【FI】
   B01J49/00 114
   C02F1/42 B
   B01J49/00 161
   B01J49/00 162
   B01J49/00 170
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-74164(P2013-74164)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198287(P2014-198287A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】安達 恒康
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−099244(JP,A)
【文献】 特開平10−128128(JP,A)
【文献】 特開昭62−269756(JP,A)
【文献】 特開昭51−018981(JP,A)
【文献】 特開2002−263506(JP,A)
【文献】 特開2006−089371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 39/00 − 49/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混床を形成しているイオン交換樹脂を分離して再生する方法において、
混合状態のイオン交換樹脂を炭酸水素アンモニウムと接触させた後、逆洗によりカチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層に分離し、それぞれの樹脂層を再生剤と接触させて再生することを特徴とするイオン交換樹脂の分離再生方法。
【請求項2】
請求項1において、炭酸水素アンモニウムの使用量が炭酸水素当量換算でアニオン交換樹脂の交換容量の0.5〜1当量であることを特徴とする混床イオン交換樹脂の分離再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混床を形成しているイオン交換樹脂を分離して再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
復水脱塩装置や純水のポリツシャー等で使用される混床塔の混床イオン交換樹脂を再生するには、まず、混床イオン交換樹脂のカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを分離し、分離したカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂をそれぞれ再生薬品と接触させて再生することが行われている。
再生に先立ち、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを十分に分離しないと逆再生が起こる。逆再生とは、アニオン交換樹脂の混入したカチオン交換樹脂を塩酸や硫酸などの酸溶液で再生する際、混入したアニオン交換樹脂がCl形やSO形などに再生され、またカチオン交換樹脂の混入したアニオン交換樹脂を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液で再生する際、混入したカチオン交換樹脂がNa形などに再生されることである。逆再生樹脂は、これを用いて得られる処理水の水質悪化の要因となる。
【0003】
従って、逆再生を生じさせないためには、混床を形成しているイオン交換樹脂を再生するに先立ち、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とをできるだけ完全に近い状態に分離し、カチオン交換樹脂中へのアニオン交換樹脂の混入、およびアニオン交換樹脂中へのカチオン交換樹脂の混入を極力少なくする必要がある。
【0004】
混床を形成するイオン交換樹脂の分離は、一般に逆洗と呼ばれる上向流通水により樹脂層を展開し、比重差および粒径差によってカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を分離することで行われる。
【0005】
しかし、使用時のイオン負荷が少ない、或いは、未使用の混床イオン交換樹脂の分離は非常に困難である。これは、使用時のイオン負荷が少ない或いは未使用の混床イオン交換樹脂中のカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とは、それぞれ、表面に強い電荷を持つため、電荷の強い吸引力によりカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが互いに引き合って凝集していることによる。
【0006】
混床イオン交換樹脂の凝集を破壊して分離性を高めるためには、分離に先立ち樹脂にイオン負荷を付与して電荷を中和すればよい。
しかしながら、イオン交換樹脂への吸着力が大きく、再生率の悪いイオン負荷を行うと、その後の再生時の再生薬品の使用量の増大につながり、好ましくない。
【0007】
この問題を解決するものとして、特許文献1では、混床イオン交換樹脂に炭酸ガスを接触させてアニオン交換樹脂をHCO形とする方法が、また、特許文献2では、混床イオン交換樹脂にアンモニアを接触させてカチオン交換樹脂をNH形とする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−99244号公報
【特許文献2】特開平10−128128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2で用いる炭酸ガスやアンモニアは、吸着力が弱く、再生薬品量を増大させるものではないが、炭酸ガスを供給するためには、特別なガス供給設備を設ける必要があり、また、アンモニアは、その取り扱い上臭気が問題となる。
【0010】
本発明は上記従来の問題点を解決し、再生薬品量を増大させることなく、また、特別な設備や操作を必要とすることなく、更には臭気などの問題を引き起こすことなく、混床イオン交換樹脂を効率的に分離して再生する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、炭酸水素アンモニウムを用いることにより、特別な設備や操作を必要とすることなく、また再生薬品を増大させることなく、混床イオン交換樹脂の分離性を高め、効率的な分離、再生を行うことができることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 混床を形成しているイオン交換樹脂を分離して再生する方法において、混合状態のイオン交換樹脂を炭酸水素アンモニウムと接触させた後、逆洗によりカチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層に分離し、それぞれの樹脂層を再生剤と接触させて再生することを特徴とするイオン交換樹脂の分離再生方法。
【0013】
[2] [1]において、炭酸水素アンモニウムの使用量が炭酸水素当量換算でアニオン交換樹脂の交換容量の0.5〜1当量であることを特徴とする混床イオン交換樹脂の分離再生方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭酸水素アンモニウムを接触させてイオン負荷を与えることで混床イオン交換樹脂の分離性を改善することができる。
本発明で用いる炭酸水素アンモニウムから生成するアンモニウムイオンも重炭酸イオンも共に、再生しやすいイオンであるため、分離後は、再生薬品量を増やすことなく再生することができる。しかも、炭酸水素アンモニウムであれば、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂のそれぞれに、同時にイオン負荷を行うことができる。
また、炭酸水素アンモニウムは、炭酸ガスのように特別な設備を必要とすることがなく、水溶液として容易に混床イオン交換樹脂に接触させることができ、取り扱い性に優れ、また、臭気も殆どないため、特別な換気操作も不要である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の混床イオン交換樹脂の分離再生方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明においては、混床を形成しているイオン交換樹脂を分離して再生する方法において、混合状態のイオン交換樹脂を炭酸水素アンモニウムと接触させ、逆洗によりカチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層に分離し、それぞれの樹脂層を再生剤と接触させて再生する。
【0017】
本発明の方法は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合されて混床を形成しているイオン交換樹脂の再生であれば、どのようなイオン交換樹脂の分離、再生にも適用でき、例えば2床3塔混床型の最終段の混床式イオン交換装置などにも適用でき、特に復水脱塩装置や純水製造装置に使用されている混床イオン交換樹脂の分離、再生に適用することが好ましい。また、例えば、これらの装置の長期停止した後の再起動時には水質安定化のために、起動前に混床イオン交換樹脂を再生することが望ましいが、このような混床イオン交換樹脂の再生時にも本発明は好適である。
【0018】
復水脱塩装置では塔外再生する場合が多く、他の混床式イオン交換装置ではイオン交換塔内で再生される場合が多いが、本発明の方法はそのいずれの方法にも適用できる。また分離性を上げるために、中間比重の樹脂を混入する方法、または分離界面付近の中間樹脂を再生工程から抜き出して次回の再生時に同時に再生したり、あるいは中間樹脂を再生することなく再生後の樹脂と混合して脱塩工程に移送する方法などが採用される場合があるが、本発明の方法はこれらいずれの場合にも適用できる。
【0019】
混床イオン交換樹脂と炭酸水素アンモニウムとの接触は、通常、混床イオン交換樹脂が充填された混床イオン交換樹脂塔、分離塔又は再生塔に、炭酸水素アンモニウム水溶液を通水することにより行われる。この場合、炭酸水素アンモニウムは、10〜20重量%程度の濃度の水溶液として用いることが好ましく、また、炭酸水素アンモニウムの使用量は、炭酸水素当量換算で、分離する混床イオン交換樹脂中のアニオン交換樹脂の交換容量に対して0.5〜1当量の範囲とすることが好ましい。この範囲よりも炭酸水素アンモニウム使用量が少ないと、混床イオン交換樹脂に十分なイオン負荷を行って分離性を高めることができない場合があり、この範囲よりも炭酸水素アンモニウム使用量が多くても使用量に見合う効果の向上は得られず、徒に薬品使用量が増えて経済的に不利である。
【0020】
混床イオン交換樹脂を炭酸水素アンモニウムと接触させることにより、炭酸水素アンモニウムが水に溶解して解離することにより生成した重炭酸イオンとアンモニウムイオンのうち、重炭酸イオンが下記式〔I〕に従ってアニオン交換樹脂にイオン交換により吸着されて、アニオン交換樹脂がHCO形となる。アニオン交換樹脂に吸着した重炭酸イオンはアニオン樹脂の表面電荷を中和する作用があると考えられ、樹脂の凝集を破壊する。
一方、アンモニウムイオンは、下記式〔II〕に従って、カチオン交換樹脂にイオン交換により吸着されてカチオン交換樹脂がNH形となる。カチオン交換樹脂に吸着したアンモニウムイオンはカチオン樹脂の表面電荷を中和する作用があると考えられ、樹脂の凝集が破壊される。
+HCO+R−OH→R−HCO+HO 〔I〕
NH+OH+R−H→R−NH+HO 〔II〕
【0021】
炭酸水素アンモニウム水溶液による処理は、混床イオン交換樹脂の逆洗分離前の混合状態のときに行うこともでき、また逆洗分離後に炭酸水素アンモニウム水溶液による処理を行ってもよい。いずれの場合においても、炭酸水素アンモニウム水溶液をイオン交換樹脂が充填された塔に通水した後、逆洗を行って静置することにより、イオン交換樹脂の比重差によりカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂が分離され、比重の重いカチオン交換樹脂層上に比重の軽いアニオン交換樹脂層が形成される。
【0022】
なお、逆洗前の混床イオン交換樹脂に炭酸水素アンモニウム水溶液を通水する場合、空気混合機能のある逆洗設備を用いる場合は、空気混合逆洗を行うことが好ましい。また、炭酸水素アンモニウム水溶液は、再生剤の注入ラインから注入してもよいが、逆洗により、粗分離されたイオン交換樹脂層に炭酸水素アンモニウム水溶液を通水する場合は、アニオン交換樹脂層側からカチオン交換樹脂層側へ向けて炭酸水素アンモニウム水溶液を通水することが炭酸ガスの発生を抑制する点において好ましい。
【0023】
炭酸水素アンモニウム水溶液の通水及びその後の逆洗又は空気逆洗により樹脂を分離した後は、常法に従って、各イオン交換樹脂に再生剤を接触させて再生を行う。
【0024】
再生剤はカチオン交換樹脂の場合は、2〜10重量%程度の硫酸、塩酸等の酸水溶液を用い、アニオン交換樹脂の場合は、2〜10重量%程度の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を用いる。復水脱塩装置の場合は、塩酸もしくは硫酸および水酸化ナトリウムを用い、別々の塔で塔外再生を行うのが好ましい。それ以外の一般の混床式イオン交換装置の場合は、塩酸および水酸化ナトリウムを用いる場合が多い。再生剤の通液速度、押出、水洗等の条件は通常の再生の場合と同様である。
【0025】
本発明では炭酸水素アンモニウムとの接触により、アニオン交換樹脂はHCO形となっており、このHCO形の樹脂は水酸化ナトリウムにより容易に再生される。即ち、アニオン交換樹脂に吸着された重炭酸イオンは水酸化ナトリウムにより容易に脱着され、再生が容易であり、また、Cl形から直接アルカリで再生する場合よりも再生効率がよく、少ない再生剤使用量での再生が可能である。
一方、カチオン交換樹脂はNH形となっており、このNH形の樹脂は塩酸、硫酸等の酸により容易に再生される。即ち、カチオン交換樹脂に吸着されたアンモニウムイオンは酸により容易に脱着され、再生が容易であり、また、Na形から直接酸で再生する場合よりも再生効率がよく、少ない再生剤使用量での再生が可能である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0027】
[実施例1]
<実験条件>
未使用の復水脱塩装置の混床イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂8m、アニオン交換樹脂4m)をカチオン交換樹脂再生塔に移送し、このカチオン交換樹脂再生塔に炭酸水素アンモニウム300kgを2mの再生用水で溶解させた炭酸水素アンモニウム水溶液を供給した。次いで、分離塔下部から空気スクラビングを行い、塔内のイオン交換樹脂と十分に混合した。用いた炭酸水素アンモニウム量は、炭酸水素当量換算でアニオン交換樹脂の交換容量の0.9当量である。その後、静置してカチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層とに分離し、上層のアニオン交換樹脂をアニオン樹脂再生塔に移送し、カチオン交換樹脂層とアニオン交換樹脂層との間の中間層は別の塔に移送した。
アニオン交換樹脂再生塔に水酸化ナトリウム水溶液及び純水を順次通水して再生、洗浄を行い、一方、カチオン交換樹脂再生塔に硫酸水溶液及び純水を順次通水して再生、洗浄を行った。
【0028】
上記の分離、再生処理後、各々の再生イオン交換樹脂をサンプリングして、他のイオン交換樹脂の混入率を調べたところ、カチオン交換樹脂層内のアニオン交換樹脂の混入率は0.1%未満、アニオン交換樹脂層内のカチオン交換樹脂の混入率は0.1%未満であり、良好に分離、再生を行うことができた。
【0029】
[比較例1]
実施例1において、炭酸水素アンモニウム水溶液の代りに炭酸水素アンモニウムを含まない再生用水をカチオン交換樹脂再生塔に供給したこと以外は同様に混床イオン交換樹脂の分離、再生を行ったところ、カチオン交換樹脂層内のアニオン交換樹脂の混入率は15%で、アニオン交換樹脂層内のカチオン交換樹脂混入率は4%であり、分離不良を起こしていた。