(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トリプレート線路は、前記アンテナ素子が固定された第1グランド板、及び前記第1グランド板に対して所定の間隔を有して平行に配置された第2グランド板を前記一対の外部導体として有する、
請求項4に記載のアンテナ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る携帯電話基地局用アンテナ装置1の概略の構成例を示すブロック図である。この携帯電話基地局用アンテナ装置1は、高周波信号送受信端子10、分配器用トリプレート線路11、誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12、給電線用トリプレート線路13、及びアレイ状にアンテナ素子を配置したアンテナ素子アレイ14を含んでいる。
【0010】
この構成において、高周波信号送受信端子10に高周波送信信号としての励振電力を入力すると、この励振電力が分配部としての分配器用トリプレート線路11によって分配される。この分配された励振電力は、それぞれに対応する移相部としての誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12によって所定の移相量を与えられ、それぞれに対応する給電部としての給電線路用トリプレート線路13に入力される。このようにして複数の給電線路用トリプレート線路13に供給された励振電力は、アンテナ素子アレイ14のそれぞれに対応するアンテナ素子に給電され、このアンテナ素子から所定の指向性を有して輻射される。
【0011】
図1(b)は、
図1(a)のブロック図をより具体的に示した携帯電話基地局用アンテナ装置1の構成例を示す図である。この携帯電話基地局用アンテナ装置1は、図示しない高周波回路等から出力される高周波信号が入力される高周波信号送受信端子10と、高周波信号送受信端子10に入力された高周波信号を分配する分配器用トリプレート線路11と、誘電体挿入型移相器12a〜12fが形成された誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12と、複数のアンテナ素子14a〜14hが形成されたアンテナ素子アレイ14とを有する。
【0012】
なお、
図1(b)には、一例として、6個の移相器および8個のアンテナ素子が図示されているが、移相器およびアンテナ素子の個数は図示されている個数に限定されるものではない。また、
図1(a)では、便宜上、分配器用トリプレート線路11と誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12とを分けて説明しているが、本実施の形態では、
図1(b)に示すように、分配器用トリプレート線路11が誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12を含む態様で構成されている。
【0013】
図2は、携帯電話基地局用アンテナ装置1の外観を示す斜視図である。携帯電話基地局用アンテナ装置1は、上記の高周波信号送受信端子10、分配器用トリプレート線路11、誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12、給電線路用トリプレート線路13、アンテナ素子アレイ14等を円筒状のリドーム22に収容して構成されている。
【0014】
リドーム22は、両端をアンテナキャップ23a,23bによって閉塞されており、その長手方向が鉛直方向となるように取り付け金具21a,21bによってアンテナ塔等に取り付けられる。アンテナキャップ23bは、後述する直動モータユニット(
図5において符号53で示す)に外部電源を供給するためのコネクタ24と、
図1(a),(b)のアンテナ素子アレイ14を構成する後述するアンテナ素子(
図3において符号32で示す)に励振電力を供給するための同軸ケーブルアダプタ25a,25bとを有する。この同軸ケーブルアダプタ25a,25bは、高周波信号送受信端子10として機能する。
【0015】
図3は、リドーム22内において、第1グランド板30上に配置されたアンテナ素子32を示す斜視図である。
【0016】
このアンテナ素子32は、水平偏波アンテナ素子32aと垂直偏波アンテナ素子32bとを有し、水平偏波アンテナ素子32aは、同軸ケーブルアダプタ25aに接続された後述する水平偏波用同軸ケーブル(
図5において、符号55aで示す)に対応し、垂直偏波アンテナ素子32bは、同軸ケーブルアダプタ25bに接続された後述する垂直偏波用同軸ケーブル(
図5において、符号55bで示す)に対応する。また、第1グランド板30は、その長手方向に直交する幅方向の両側に、側板33a,33bを有している。
【0017】
図4は、第1グランド板30上に配置されたアンテナ素子32を拡大して示す斜視図である。
【0018】
平偏波アンテナ素子32aは、ボルト・ナット42aによってL字状の取り付け金具41aを介して第1グランド板30に取り付けられている。垂直偏波アンテナ素子32bは、ボルト・ナット42bによってL字状の取り付け金具41bを介して第1グランド板30に取り付けられている。水平偏波アンテナ素子32a及び垂直偏波アンテナ素子32bには、誘電体基板上に図略の導体パターンが形成され、この導体パターンに給電線用トリプレート線路13が図略の導線によって接続されている。
【0019】
第1グランド板30は、水平偏波アンテナ素子32a及び垂直偏波アンテナ素子32bから放射される電波を反射する反射板として機能する。この第1グランド板30には、後述する誘電体支持ピン61をガイドする長穴としての複数のスリット43が形成されている。
【0020】
図5は、リドーム22を取り外した携帯電話基地局用アンテナ装置1を
図3とは反対側から見た状態を示す斜視図である。
【0021】
図5に示すように、携帯電話基地局用アンテナ装置1は、アンテナ素子32が配列された第1グランド板30に対して所定の間隔を有して平行に配置された第2グランド板50と、連結棒ガイド51a,51bによってガイドされ、後述する誘電体支持ピン61に連結されてこの支持ピン61を第1グランド板30の長手方向に移動させる連結棒52a,52bと、モータユニット用ケーブル53によって駆動電源が供給される直動モータユニット54と、第1グランド板30と第2グランド板50をトリプレート線路の一対の外部導体とし、その間に位置する後述する中心導体(
図6において符号40で示す)に信号を供給する水平偏波用同軸ケーブル55a及び垂直偏波用同軸ケーブル55bと、台座57上に配置され、チルト角を設定するためのチルト設定基板56とを有している。
【0022】
図6は、
図5においてさらに第2グランド板50を取り外し、第1グランド板30と第2グランド板50との間に挟まれた部分の構成を示す斜視図である。
【0023】
第1グランド板30と第2グランド板50との間には、
図1(a),(b)で説明した分配器用トリプレート線路11、誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12、及び給電線路用トリプレート線路13の中心導体40が配置されている。
図6に示すように、本実施の形態では、分配器用トリプレート線路11、誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12、及び給電線路用トリプレート線路13が、一連のトリプレート線路によって構成されている。
【0024】
中心導体40は、後述するインピーダンス整合用の誘電体スペーサ60(
図10(a),(b)において符号60で示す)によって第1グランド板30と第2グランド板50との間に平行に配置されている。中心導体40は、例えば銅などの金属材料から構成される。
【0025】
また、中心導体40は、その一部が前述の移相器12a〜12fを構成する第1誘電体板71及び第2誘電体板72を有する誘電体組立体62における第1及び第2誘電体板71,72の間に挟まれている。この誘電体組立体62は、誘電体支持ピン61を介して連結棒52a,52bによって第1グランド板30の長手方向に移動可能である。
【0026】
図7は、
図1(b)で示した移相器12a〜12fのうち、移相器12aの構成例を示す斜視図である。なお、移相器12b〜12fも、移相器12aと同様に構成されている。
【0027】
この移相器12aは、中心導体40と、第1誘電体板71及び第2誘電体板72と、第1グランド板30及び第2グランド板50とを構成要素として有している。第1誘電体板71は中心導体40の第1主面に対向して配置され、第2誘電体板72は中心導体40の第2主面に対向して配置されている。以下の説明では、便宜上、中心導体40の第1主面を“表面”(おもてめん)、第2主面を“裏面”と呼んで区別する場合がある。
【0028】
第1誘電体板71及び第2誘電体板72は、移相器12aの長手方向に一体的に移動可能である。第1グランド板30は、第1誘電体板71を挟んで中心導体40の表面側に配置され、第2グランド板50は、第2誘電体板72を挟んで中心導体40の裏面側に配置されている。すなわち、第1誘電体板71及び第2誘電体板72は、中心導体40を挟んで第1グランド板30と第2グランド板50との間に配置されている。なお、
図7では、説明のために第1グランド板30を図面上方に移動した状態を図示している。
【0029】
図8は、移相器12aを第2グラント50上で平面的に示す平面図である。
【0030】
中心導体40は、移相器12aの長手方向一端側に信号入力端40aを有し、移相器12aの長手方向他端側に信号出力端40iを有し、かつ信号入力端40aと信号出力端40iとの間を繋ぐ導体線路を有している。この導体線路上には、移相器12aの長手方向(
図8に示す移相回路長手方向)に対して交差する方向(例えば本実施の形態では移相器12aの長手方向に直交する方向)に延在する複数の交差部と、移相器12aの長手方向に対して平行な方向に延在する複数の接続部とが設けられている。換言すれば、導体線路は、複数の交差部とそれら交差部同士を繋ぐ接続部とから構成されている。本実施の形態における中心導体40は、第1交差部40c、第2交差部40e、及び第3交差部40g、ならびに第1接続部40b、第2接続部40d、第3接続部40f、及び第4接続部40hを含んでいる。
【0031】
第1交差部40cの一端は、第1接続部40bを通じて、信号入力端40aに繋がっている。第1交差部40cの他端は、第2接続部40dを通じて、第2交差部40eの一端に繋がっている。第2交差部40eの他端は、第3接続部40fを通じて、第3交差部40gの一端に繋がっている。第3交差部40gの他端は、第4接続部40hを通じて、信号出力端40iに繋がっている。
【0032】
換言すれば、第1接続部40bと第1交差部40cは、平面視においてL字状に繋がっている。第1交差部40c、第2接続部40d、及び第2交差部40eは、平面視においてコ字状(U字状)に繋がっている。第2交差部40e、第3接続部40f、及び第3交差部40gは、平面視においてコ宇状(U字状)に繋がっている。第3交差部40gと第4接続部40hは、平面視においてL字状に繋がっている。
【0033】
なお、L字状とは、L字の他、おおよそL字に近い形状なども含むものとする。同様に、コ字状(U字状)とは、コ字(U字)の他、おおよそコ字(U字)に近い形状なども含むものとする。
【0034】
以上のように、中心導体40は、信号入力端40aから、第1接続部40b、第1交差部40c、第2接続部40d、第2交差部40e、第3接続部40f、第3交差部40g、および第4接続部40hを経て、信号出力端40iまで繋がった線路構造となっている。すなわち、中心導体40は、ミアンダ状に繋がる第1接続部40b、第1交差部40c、第2接続部40d、第2交差部40e、第3接続部40f、第3交差部40g、及び第4接続部40hから構成される導体線路を含み、この導体線路上には2つのコ宇状(U字状)の部分が設けられている。また、各接続部の外側の角は、面取りされている。
【0035】
第1誘電体板71及び第2誘電体板72は、中心導体40を表面および裏面から挟んでいる。すなわち、第1誘電体板71および第2誘電体板72は、中心導体40の交差部に部分的に重なり合うように配置されている。具体的には、第1誘電体板71は、中心導体40の表面側に、この中心導体40に対向して、中心導体40の第1〜第3交差部40c,40e,40gに一部が重なり合うように配置されている。また、第2誘電体板72は、中心導体40の裏面側に、この中心導体40に対向して、中心導体40の第1〜第3交差部40c,40e,40gに一部が重なり合うように配置されている。
【0036】
そして、第1誘電体板71及び第2誘電体板72は、移相器12aの長手方向に移動可能である。すなわち、第1誘電体板71及び第2誘電体板72は、中心導体40の第1〜第3交差部40c,40e,40gが延在する方向に対して直交する方向に移動可能である。また、第1誘電体板71と第2誘電体板72とは、互いに一方の端部である第1支持部71a,72aと他方の端部である第2支持部71e,72eとでそれぞれ結合され、同一方向に一体的に移動するように構成されている。
【0037】
第1及び第2誘電体板71,72は、第1交差部40cに部分的に重なり合う第1重複部71b,72bと、第2交差部40eに部分的に重なり合う第2重複部71c,72cと、第3交差部40gに部分的に重なり合う第3重複部71d,72dとを有している。これらの第1〜第3重複部71b,72b,71c,72c,71d,72dは、それぞれ、例えば、平面視において三角形ないし略三角形の形状を有する。
【0038】
より具体的には、第1重複部71b,72bの平面形状は、
図8に示すように、頂点A,B,Cを有する直角三角形状である。以下の説明では、頂点Aと頂点Cとを結ぶ辺を斜辺、頂点Aと頂点Bとを結ぶ辺を長い隣辺、頂点Bと頂点Cとを結ぶ辺を短い隣辺と呼ぶ。第2重複部71c,72cの平面形状は、頂点D,E,Fを有する二等辺三角形状である。以下の説明では、頂点Eと頂点Fとを結ぶ辺を底辺、頂点Dと頂点Eとを結ぶ辺を一方の等辺、頂点Dと頂点Fとを結ぶ辺を他方の等辺と呼ぶ。第3重複部71d,72dの平面形状は、頂点G,H,Iを有する直角三角形状である。以下の説明では、頂点Gと頂点Iとを結ぶ辺を斜辺、頂点Gと頂点Hとを結ぶ辺を長い隣辺、頂点Hと頂点Iとを結ぶ辺を短い隣辺と呼ぶ。
【0039】
なお、直角三角形状とは、直角三角形の他、おおよそ直角三角形に近い形状なども含むものとする。同様に二等辺三角形状とは、二等辺三角形の他、おおよそ二等辺三角形に近い形状なども含むものとする。また、直角三角形の長い隣辺、短い隣辺とは、2つの隣辺のうち、それぞれ長さが長い方を長い隣辺、短い方を短い隣辺とする。同様に、二等辺三角形の一方の等辺、他方の等辺とは、2つの等辺のうち、それぞれ1つの方を一方の等辺、もう1つの方を他方の等辺とする。
【0040】
さらに、第1重複部71b,72bの頂点Aは、第1支持部71a,72aに繋がっている。第1重複部71b,72bの頂点Bは、第2重複部71c,72cの頂点Dに繋がっている。第2重複部71c,72cの頂点Eと頂点Fを結ぶ底辺の中間部は、第3重複部71d,72dの頂点Gに繋がっている。第3重複部71d,72dの頂点Hは、第2支持部71e,72eに繋がっている。これらの各部の問は、それぞれ、互いに連結を可能にする形状の連結部を介して繋がっている。第1支持部71a,72a及び第2支持部71e,72eは、例えば、平面視において正方形の形状を有する。
【0041】
そして、第1及び第2誘電体板71,72において、第1支持部71a,72a及び第2支持部71e,72eを移相器12aの長手方向に移動させることにより、第1重複部71b,72b、第2重複部71c,72c、及び第3重複部71d,72dを移相器12aの長手方向に移動させることができる。
【0042】
第1及び第2誘電体板71,72は、中心導体40に対して以下のような配置となっている。すなわち、第1重複部71b,72bの頂点Aと頂点Bとを結ぶ長い隣辺は、第1交差部40cの延びる方向に対して直交する。第1重複部71b,72bの頂点Aと頂点Cとを結ぶ斜辺は、第1交差部40cの延びる方向に対して90°未満の第1角度(例えば65°)で交差する。第2重複部71c,72cの頂点Dと頂点Fとを結ぶ他方の等辺は、第2交差部40eの延びる方向に対して、90°未満の第2角度(例えば65°)で交差する。
【0043】
また、第2重複部71c,72cの頂点Dと頂点Eとを結ぶ一方の等辺は、第2交差部40eの延びる方向に対して、90°未満の第3角度(例えば65°)で交差する。第3重複部71d,72dの頂点Gと頂点Iとを結ぶ斜辺は、第3交差部40gの延びる方向に対して、90°未満の第4角度(例えば65°)で交差する。第3重複部71d,72dの頂点Gと頂点Hとを結ぶ長い隣辺は、第3交差部40gの延びる方向に対して直交する。
【0044】
またさらに、第1および第2誘電体板71,72は、第1重複部71b,72bの頂点Aと頂点Bとを結ぶ長い隣辺と、第3重複部71d,72dの頂点Gと頂点Hとを結ぶ長い隣辺とが同一の直線上に配置されている。なお、この頂点Aと頂点Bとを結ぶ長い隣辺と、頂点Gと頂点Hとを結ぶ長い隣辺の配置は、直線に限らず、隣辺同士が平行に配置される構成でも良い。
【0045】
以上のように、第1及び第2誘電体板71,72は、第1支持部71a,72aから、第1重複部71b,72b、第2重複部71c,72c、及び第3重複部71d,72dを経て、第2支持部70e,70eまで繋がった板状体である。
【0046】
以上のように構成される移相器12aにおいては、第1および第2誘電体板71,72を移相器12aの長手方向に移動させると、この第1及び第2誘電体板71,72の第1〜第3重複部71b,72b,71c,72c,71d,72dと中心導体40の第1〜第3交差部40c,40e,40gとが重なり合う面積(重複面積)が変化し、中心導体40の信号入力端40aから入力される信号の位相が制御される。すなわち、中心導体40の信号入力端40aに入力された信号に対して位相が進められた信号、又は位相が遅らされた信号が信号出力端40iから出力される。
【0047】
図8に示される第1及び第2誘電体板71,72は、これら第1及び第2誘電体板71,72の可動範囲の中間位置にある。この中間位置を基準とすると、第1及び第2誘電体板71,72が
図8の紙面下方向の可動範囲端まで移動したときに、第1〜第3重複部71b,72b,71c,72c,71d,72dと第1〜第3交差部40c,40e,40gとの重複面積が最小になり、第1及び第2誘電体板71,72が
図8の紙面上方向の可動範囲端まで移動したときに、第1〜第3重複部71b,72b,71c,72c,71d,72dと第1〜第3交差部40c,40e,40gとの重複面積が最大となる。
【0048】
図7及び
図8に示した移相器12aは、例えば
図9に示すような断面構造を有している。
図9は、
図8に示すx−x’切断線に沿って切断された移相器12aの断面を示している。このx−x’切断線は、中心導体40の第2交差部40eと第1及び第2誘電体板71,72の第2重複部71c,72cとが重なり合っている部分を横断している。かかる重複部分では、
図9に示すように、第2交差部40eは第2重複部71c,72cにより挟まれている。
【0049】
なお、図示は省略するが、他の第1交差部40cと第1重複部71b,72bとが重なり合っている部分、第3交差部40gと第3重複部71d,72dとが重なり合っている部分も、同様の断面構造を有する。すなわち、第1及び第3交差部40c,40gは、第1及び第3重複部71b,72,71d,72dにより挟まれている。ただし、
図9に示すように、第2交差部40eと第2重複部71c,72cとは接触していない。また他の第1交差部40cと第1重複部71b,72bも接触しておらず、第3重複部71d,72dも接触していない。
【0050】
第1及び第2誘電体板71,72は、第1誘電体板71の第1支持部71aと第2誘電体板72の第1支持部72a、及び第1誘電体板71の第2支持部72eと第2誘電体板72の第2支持部72eが、それぞれ誘電体支持ピン61で結合されている。誘電体支持ピン61は、その両端部が第1グランド板30及び第2グランド板50に設けられたスリット43からそれぞれ突出し、前述した連結棒52a,52bの動きによってスリット43に沿って移動する。
【0051】
第1及び第2誘電体板71,72は、例えばガラスエポキシなどの樹脂材料からなる板状の誘電体により構成される。第1及び第2グランド板30,50は、例えば銅やアルミニウム、あるいはステンレスなどの板状の金属材料から構成される。なお、以下の説明において、第1グランド板30及び第2グランド板50がトリプレート線路の外部導体として機能する場合には、それぞれのグランド板を第1外部導体30及び第2外部導体50という場合がある。
【0052】
分配器用、誘電体挿入型移相器用、及び給電線路用の一連のトリプレート線路100は、
図10(a)に示すように、所定間隔を隔てて平行に配置された第1外部導体30及び第2外部導体50、ならびに第1外部導体30と第2外部導体50との間の空間内に配置された中心導体40からなる。また、第1外部導体30及び第2外部導体50と中心導体40との間には、中心導体40を支持する誘電体からなる誘電体スペーサ60が介在している。
【0053】
なお、ここで「一連の」とは、各部のトリプレート線路がコネクタや同軸ケーブル等によって相互に接続されることなく、分配器用トリプレート線路11、誘電体挿入型移相器用トリプレート線路12、及び給電線路用トリプレート線路13が連続したものとして構成されていることをいう。本実施の形態では、トリプレート線路100は、アンテナ素子32が固定された第1グランド板30、及び第1グランド板30に対して所定の間隔を有して平行に配置された第2グランド板50を一対の外部導体30,50として有している。
【0054】
また、本実施の形態では、第1外部導体30及び第2外部導体50ならびに中心導体40として、銅や真鍮などの導電性を有する金属からなる板状体を用いた場合について説明するが、第1外部導体30及び第2外部導体50ならびに中心導体40としては、例えば樹脂からなる板状部材の一面あるいは両面に金属箔を形成したものを用いてもよい。
【0055】
中心導体40は、その延伸方向に直交する断面が矩形状であり、その厚さは、例えば1mmである。また、第1外部導体30と第2外部導体50との間隔は、例えば5mmである。ただし、中心導体40の断面形状や厚さ、及び第1外部導体30と第2外部導体50との間隔は、トリプレート線路100の特性インピーダンスの目標値などを考慮して適宜設定することができる。
【0056】
図10(b)は誘電体スペーサ60によって支持された部分の周辺部における中心導体40を示す。中心導体40は、誘電体スペーサ60によって支持される被支持部122と、中心導体40の延伸方向に沿って被支持部122の一側(入力側)に形成された第1高インピーダンス部121と、中心導体40の延伸方向に沿って被支持部122の他側(出力側)に形成された第2高インピーダンス部123とを有している。また、以下の説明では、中心導体40のうち、第1高インピーダンス部121、被支持部122、及び第2高インピーダンス部123以外の部分を本体部120とする。被支持部122には、その中央部に中心導体40を厚さ方向に貫通する貫通孔122aが形成されている。
【0057】
中心導体40の延伸方向(
図10(a)及び(b)の左右方向)に直交する幅方向における線路幅の寸法は、第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123において被支持部122及び本体部120よりも狭く形成されている。被支持部122の線路幅W
2は、例えば、4〜6mmであり、第1高インピーダンス部121の線路幅W
1及び第2高インピーダンス部123の線路幅W
3は、例えば、2〜3mmである。また、被支持部122に形成された貫通孔122aの直径は、例えば、2〜3mmである。
【0058】
誘電体スペーサ60は、
図10(a)に示すように、第1スペーサ部材101と、第2スペーサ部材102とを組み合わせてなる。第1スペーサ部材101は、円板状の基部210と、基部210に突設された円柱状の突部211とを一体に有している。基部210の直径は、被支持部122の線路幅W
2よりも大きく、例えば、5〜7mmである。また、基部210の厚さは、例えば、2mmである。
【0059】
第2スペーサ部材102は、第1スペーサ部材101の突部211が嵌合する嵌合孔102aを中心部に有する円板状である。第2スペーサ部材102の直径(外径)及び厚さは、第1スペーサ部材101の基部210の直径及び厚さと同じである。嵌合孔102aは、第2スペーサ部材102を厚さ方向に貫通している。
【0060】
第1スペーサ部材101の突部211は、中心導体40の被支持部122における貫通孔122aを挿通して第2スペーサ蔀材102の嵌合孔102aに嵌合する。第1スペーサ部材101の基部210は、第2外部導体50と中心導体40との間に配置される。第2スペーサ部材102は、第1外部導体30と中心導体40との間に配置される。誘電体スペーサ60は、第1スペーサ部材101と第2スペーサ部材102とが、中心導体40の被支持部122を挟み込むように一体化されることで、中心導体40を被支持部122において支持する。
【0061】
トリプレート線路100の被支持部122における特性インピーダンスは、誘電体スペーサ60によって支持されることで、被支持部122自体の特性インピーダンス(誘電体スペーサ60が存在しない場合の被支持部122における特性インピーダンス)よりも低くなる。以下の説明において、被支持部122における特性インピーダンスとは、誘電体スペーサ60によって支持された状態の被支持部122における特性インピーダンスをいうものとする。
【0062】
なお、誘電体スペーサ60は、第1外部導体30及び第2外部導体50と中心導体40との間に介在し、中心導体40を被支持部122において支持可能であれば、
図10に示した状態及び構造に限定されない。例えば、第1スペーサ部材101の基部210及び第2スペーサ部材102は、円形状に限らず、例えば矩形状であってもよい。また、誘電体スペーサ60は、それ自体が誘電体であれば、その素材について特に限定されず、例えばポリエチレン等の樹脂を好適に使用できる。
【0063】
第1高インピーダンス部121の特性インピーダンスZ
1及び第2高インピーダンス部123の特性インピーダンスZ
3は、誘電体スペーサ60によって支持された被支持部122における特性インピーダンスZ
2よりも高い値である(Z
1>Z
2かつZ
3>Z
2)。好ましくは、第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123の特性インピーダンスZ
1,Z
3は、中心導体40の本体部120の特性インピーダンスZ
0よりも高い。この場合、被支持部122における特性インピーダンスZ
2は本体部120の特性インピーダンスZ
0と同じもしくは特性インピーダンスZ
0よりも低く、Z
1>Z
0≧Z
2かつZ
3>Z
0≧Z
2となる。なお、第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123の特性インピーダンスZ
1,Z
3は同じ値であってもよく(Z
1=Z
3)、異なる値であってもよい(Z
1>Z
3又はZ
1<Z
3)。
【0064】
第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123のインピーダンス調整は、特性インピーダンスZ
1,Z
3の設定値に応じて、これらの線路長L
1,L
3及び線路幅W
1,W
3を設定することで行うことができる。
【0065】
このように、誘電体スペーサ60によって支持されることにより特性インピーダンスが低下する被支持部122の入力側および出力側に、被支持部122における特性インピーダンスZ
2よりもインピーダンスの高い第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123を設けてトリプレート線路100の全体のインピーダンスを整合させることで、高周波信号の反射を抑制できる。
【0066】
また、被支持部122の線路幅W
2を第1高インピーダンス部121及び第2高インピーダンス部123の線路幅W
1,W
3よりも大きくすることができるので、貫通孔122aを形成しても、被支持部122の強度を確保することができる。つまり、被支持部122における強度を確保しながら、トリプレート線路100における反射を抑制することが可能となる。
【0067】
次に、上記したインピーダンス整合の基本的な考え方に関し、スミスチャートを用いて説明する。
【0068】
図11は、トリプレート線路100のインピーダンス整合について説明する図であり、(a)は第1高インピーダンス部121を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、(b)は被支持部122を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、(c)は第2高インピーダンス部123を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、それぞれスミスチャート上に示したものである。なお、スミスチャートには、正規化インピーダンスをプロットするのが通常であるが、以下では説明の便宜上、トリプレート線路100の各部の特性インピーダンスをそのままプロットしている。
【0069】
図11(a)に示すように、第1高インピーダンス部121(特性インピーダンスZ
1)を設けた場合、その線路長L
1分だけ、特性インピーダンスがZ
0からZ
4に移動する。続いて第1高インピーダンス部121の出力側に被支持部122(特性インピーダンスZ
2)が設けられていることで、被支持部122の線路長L
2に応じて、'特性インピーダンスZ
4はスミスチャートにおける複素反射係数の実数部を示す水平軸に対して対称な位置の特性インピーダンスZ
5に移動する。さらに、被支持部122の出力側に第2高インピーダンス部123(特性インピーダンスZ
3)が設けられていることで、その線路長L
3分で特性インピーダンスZ
5がトリプレート線路100の本体部の特性インピーダンスZ
0に戻り、入力側から見てトリプレート線路100におけるインピーダンス整合が確保される。この結果、信号の反射が抑制される。
【0070】
次に、被支持部122の機械的強度を考慮し、被支持部122の線路幅を拡大して設定する場合のインピーダンス整合について説明する。
【0071】
図12は、トリプレート線路100において、被支持部122の線路幅を拡大設定する場合のインピーダンス整合を説明する図であり、(a)は第1高インピーダンス部121を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、(b)は被支持部122を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、(c)は第2高インピーダンス部123を設けたことによる特性インピーダンスの変化を、それぞれスミスチャート上に示したものである。
【0072】
被支持部122の線路幅W
2及び線路長L
2を設定すると、被支持部122の特性インピーダンスZ
2が定まり、
図12(b)におけるZ
4からZ
5へのインピーダンスの移動量及び角度θ
2が定まる。そして、第1高インピーダンス部121の特性インピーダンスZ
1及び第2高インピーダンス部123の特性インピーダンスZ
3を、
図12(b)におけるZ
4及びZ
5に適合するように調整する。
【0073】
具体的には、
図12(a)に示すように、スミスチャートの水平軸に対して角度θ
1(θ
1=θ
2/2)をもって傾斜してZ
4を通過する直線が水平軸と交差する点に第1高インピーダンス部121の特性インピーダンスZ
1が一致するように、第1高インピーダンス部121の線路長L
1及び線路幅W
1を設定する。
【0074】
また、
図12(c)に示すように、スミスチャートの水平軸に対して角度θ
3(θ
3=θ
2/2)をもって傾斜してZ
5を通過する直線が水平軸と交差する点に第2高インピーダンス部123の特性インピーダンスZ
3が一致するように、第2高インピーダンス部123の線路長L
3及び線路幅W
3を設定する。これにより、インピーダンス整合が確保されて信号の反射が抑制されるとともに、被支持部の機械的強度の確保も可能となる。
【0075】
以上説明した
図2〜
図10に示される構成、つまり、高周波信号送受信端子10から、アンテナ素子32(
図1(a)、(b)のアンテナ素子アレイ14のアンテナ素子14a〜14hに対応する)に至るまでの伝送線路として、第1及び第2の外部導体としての第1グランド板30と第2グランド板50の間に中心導体40を配置したトリプレート線路100を用いた構成において、水平偏波高周波信号が同軸ケーブル55aから、また、垂直偏波高周波信号が同軸ケーブル55bから、それぞれ、分配器用トリプレート線路11としてのトリプレート線路の中心導体40と第1及び第2の外部導体30,50との間に供給されると、8本の給電線路用トリプレート線路13(
図1(a)、(b))としてのトリプレート線路100に分配される。
【0076】
トリプレート線路100は、第1及び第2の誘電体板71,72によって、移相器12a〜12f(
図1(b))としての誘電体挿入型移相器(
図7〜
図9)を構成しているので、所定の移相量を有した水平偏波及び垂直偏波の高周波信号が給電線路用トリプレート線路13としてのトリプレート線路100から8個のアンテナ素子32に供給される。これによって、アンテナ素子32の水平偏波アンテナ素子32aは、水平偏波信号を輻射し、その垂直偏波アンテナ素子32bは、垂直偏波信号を輻射する。
【0077】
ここで、分配器用、誘電体挿入型移相器用、及び給電線路用のそれぞれのトリプレート線路100は、所定の間隔で、誘電体スペーサ60を有し、また、中心導体40の幅がW
1、W
2、W
3として所定の幅に設定されているので(
図6、
図10(a)、(b))、トリプレート線路100の全長にわたってインピーダンスの不整合による反射が低く抑えられている。
【0078】
なお、分配器用、誘電体挿入型移相器用のトリプレート線路100(
図1(a)、(b)のトリプレート線路11、12)の損失は以下の表1の通りである。
【0080】
上記の表1の損失(1.4GHz以上2.2GHz以下の周波数帯において0.5以上0.7dB以下)は、入力用の同軸ケーブル55a〜55bを含めた分配器用及び誘電体挿入型移相器用トリプレート線路100の損失(dB)から、入力用の同軸ケーブル55a〜55bの損失(dB)を減算して得られた値である。
【0081】
(実施の形態の作用及び効果)
以上述べた本発明の実施の形態における携帯電話基地用アンテナ装置1によれば、以下の効果を奏することができる。
【0082】
(1)給電線路用伝送線路13がトリプレート線路100から構成されているので、移相器12a〜12fからアンテナ素子32までの損失の発生を抑えることができ、それによって、携帯電話基地用アンテナ装置1の高効率化を図ることができる。なお、トリプレート線路100は、切れ目のない金属板形線路あるいは金属パイプ型線路であってもよい。
【0083】
(2)分配器用、誘電体挿入型移相器用、及び給電線路用のトリプレート線路100を例えばコネクタ等の接続部を介さずに連続して構成することができるので、損失の発生をさらに抑えることができる。
【0084】
(3)移相器12a〜12fは、トリプレート線路100に第1及び第2誘電体板71,72を部分的に設けた構造であるため、構成が簡素であり、また、表1に示したように1.4GHz以上2.2GHz以下の周波数帯における損失を0.7dB以下の小さいレベルに抑えることができる。
【0085】
(4)トリプレート線路100は、インピーダンス整合用の構造になっているため、信号の反射による損失を抑えることができる。
【0086】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0087】
[1]高周波信号が入力あるいは出力される入出力部(10)と、前記入出力部(10)に入力された前記高周波信号を複数の高周波信号に分配する分配部(11)と、前記複数の高周波信号に所定の移相量を付与する移相部(12)と、前記所定の移相量を付与された前記複数の高周波信号を複数のアンテナ素子(32)に給電して前記複数のアンテナ素子(32)に前記複数の高周波信号を輻射させる給電部(13)とを備え、前記給電部(13)は、一対の平行な板状の外部導体(30,50)の間に中心導体(40)を配置したトリプレート線路(100)によって構成されるアンテナ装置(1)。
【0088】
[2]前記移相部(12)は、一対の平行な板状の外部導体(30,50)の間に中心導体(40)を配置したトリプレート線路(100)であって、前記中心導体(40)を挟んでその部分的に前記中心導体の長手方向に沿って移動可能に設けられた第1及び第2の誘電体(71,72)を備え、前記第1及び第2の誘電体(71,72)は前記長手方向に沿って変化する幅を有する誘電体挿入型移相器(12a〜12f)によって構成される、[1]に記載のアンテナ装置(1)。
【0089】
[3]前記分配部(11)は、一対の平行な板状の外部導体(30,50)の間に中心導体(40)を配置したトリプレート線路(100)によって構成される、[1]又は[2]2に記載のアンテナ装置(1)。
【0090】
[4]前記分配部(11)は、前記移相部(12)を含む構成である、[3]に記載のアンテナ装置(1)。
【0091】
[5]前記分配部(11)、前記移相部(12)、及び前記給電部(13)は、一対の平行な板状の外部導体(30,50)の間に中心導体(40)を配置した一連のトリプレート線路(100)によって構成されている、[1]に記載のアンテナ装置(1)。
【0092】
[6]前記トリプレート線路(100)は、前記アンテナ素子(32)が固定された第1グランド板(30)、及び前記第1グランド板(30)に対して所定の間隔を有して平行に配置された第2グランド板(50)を前記一対の外部導体(30,50)として有する、[5]に記載のアンテナ装置(1)。
【0093】
[7]前記移相部(12)の損失は、1.4GHz以上2.2GHz以下の周波数帯において、0.7dB以下である、[1]乃至[6]の何れか1つに記載のアンテナ装置(1)。
【0094】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0095】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、携帯電話基地局用アンテナ装置1が送信用に用いられる場合について説明したが、この携帯電話基地局用アンテナ装置1を受信用としても用いることが可能である。また、携帯電話基地局用に限らず、様々な用途のアンテナ装置に本発明を適用することが可能である。