(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼業における廃棄物である鉄鋼ダストを、亜鉛製錬における粗酸化亜鉛等の原料として再利用することは広く行われている(特許文献1参照)。鉄鋼ダストは、還元焙焼処理によって不純物を除去し、所定の亜鉛品位を有する粗酸化亜鉛とされるが、この工程において、鉄原材料として再利用可能な還元鉄ペレット等の鉄原材料も副次的に産出される。
【0003】
又、そのような鉄原材料の残留亜鉛品位の変動を抑制して、鉄品位の高い還元鉄ペレットを得るために、還元焙焼炉に投入する炭素質還元剤の添加比率を最適化する還元焙焼炉の操業方法も開示されている(特許文献2参照)。
【0004】
ここで、酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスに粗酸化亜鉛材料として搬入されてくる鉄鋼ダストについては、鉄鋼ダストが基本的には鉄鋼製造プロセスにおける産業廃棄物であることから、所定の品位に精製された一般的な製品原材料とは異なり、亜鉛や鉄の品位が異なる種々雑多な品位の鉄鋼ダストが混在する状態で搬入されてくるという状況が一般的である。
【0005】
又、近年においては、鉄鋼製造プロセスから排出される鉄鋼ダストそのものの発生量を抑制する動きもり、鉄鋼ダスト産出者である鉄鋼メーカーにおいて、鉄鋼ダストより鉄を回収し、亜鉛を濃縮してから排出する傾向がある。そのため、酸化亜鉛製造の全体プロセスには、鉄含有量が相対的に低い高亜鉛の鉄鋼ダストがより多く投入される傾向にある。
【0006】
一方、そのような種々雑多な品位の鉄鋼ダストから得る還元鉄原材料の品位を安定的に所定以上の鉄品位とするためには、鉄鋼ダストをその鉄品位毎に分別ストックし、一定の鉄品位毎に別途に還元条件を最適化して、別途個別に還元焙焼処理を行うことが好ましい。鉄鋼ダストの品位のばらつきが大きい場合には、そのような個別処理を行わない限り、例えば、特許文献2に記載の方法によったとしても、還元鉄原材料の鉄品位を安定的に所定以上の品位とすることは困難であった。特に、上述したような鉄含有量が相対的に低い鉄鋼ダストの割合が高い場合において、再利用可能な高い鉄品位を有する良質な還元鉄原材料の産出することは極めて困難であった。
【0007】
しかしながら、上記の分別ストックを前提とする操業は、還元焙焼炉の焙焼温度や、CaO源の添加量の大幅な調整を必要とする特殊な操業を、同一炉で間断的に繰返すことになる。このような操業方法によることとすれば、酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスの生産性が著しく低下することは免れ得ない。又、鉄鋼ダストは、不法投棄を防止するための法的要請もあり、例えば、鉄鋼ダストメーカーからの出荷後2ヶ月以内の処理等、所定の期間中に速やかにその処理を完了させることが求められている。
【0008】
このため、従来、粗酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスにおいては、種々雑多な品位のものが混在する鉄鋼ダストを、敢えて分別ストックすることはせず、それらが混在する状態のまま、入荷順に連続的に還元焙焼炉に投入する操業を採用せざるを得ないのが現状であった。
【0009】
このような操業方法においては、粗酸化亜鉛から分離された還元鉄原材料の鉄品位を安定的に所望の品位以上に保つことは現実的には極めて困難であり、結果的に再利用が不可能な低鉄品位の還元鉄原材料が随時混在する状態で還元鉄原材料が産出されてしまい、多額の処理費用を投じてそれらの再利用不能な大量の還元鉄原材料を最終処分場において廃棄処分に処することを余儀なくされているのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、鉄鋼ダストを原材料の一部として用いる酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスにおいて、当該鉄鋼ダストから副次的に産出される還元鉄原材料について、その鉄品位を、従来の操業方法よりも安定的に所定の好ましい品位にまで向上させることができる還元焙焼炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、試行錯誤の末、亜鉛及び鉄を含有する鉄鋼ダストを還元焙焼処理する還元焙焼炉の操業方法を、種々雑多の品位の鉄鋼ダストを、複数の還元焙焼炉を用いた複数の処理経路において、それぞれ別途個別に分割処理する事に想到した。そして、この方法によれば、産業廃棄物としての側面も有する鉄鋼ダストを随時速やかに処理するという法的要請には十分に対応しつつ、再利用可能な鉄品位を有する還元鉄原材料をより安定的に産出することができること、及び、酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスにおける総コストも低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。より、具体的には、本発明は以下の方法及びものを提供する。
【0013】
(1) 亜鉛及び鉄を含有する鉄鋼ダストを還元焙焼処理する還元焙焼炉の操業方法であって、少なくとも2基以上の還元焙焼炉を用いて、下記のR1系列及びR2系列の分別操業を行うことを特徴とする還元焙焼炉の操業方法。
R1系列:亜鉛品位30%未満の鉄鋼ダストを含む低亜鉛原料を用いて、該低亜鉛原料から製造される還元鉄原材料中のCaO/SiO
2比が2.0以下となる条件で操業
R2系列:亜鉛品位30%以上の鉄鋼ダストを含む高亜鉛原料を用いて、該高亜鉛原料から製造される還元鉄原材料中のCaO/SiO
2比が2.5以上となる条件で操業
【0014】
(2) 前記R1系列の操業によって製造される還元鉄原材料中の鉄品位が42%以上である(1)に記載の還元焙焼炉の操業方法。
【0015】
(3) 前記R2系列の操業によって製造される還元鉄原材料中の鉄品位が、38%以下である(1)又は(2)に記載の還元焙焼炉の操業方法。
【0016】
(4) 前記還元焙焼炉の焙焼温度を、前記R1系列、及び、前記R2系列のいずれにおいても、1100℃以上1300℃以下とする、(1)から(3)のいずれかに記載の還元焙焼炉の操業方法。
【0017】
(5) 前記還元焙焼炉の焙焼温度を、前記R1系列においては、1200℃以下とする、(4)に記載の還元焙焼炉の操業方法。
【0018】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の還元焙焼炉の操業方法による還元焙焼工程を含む還元鉄原材料の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉄鋼ダストを原材料の一部又は全部として用いる酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスにおいて、当該鉄鋼ダストから副次的に産出される還元鉄原材料について、その鉄品位を、従来の操業方法よりも安定的に所定の好ましい品位にまで向上させることができる還元焙焼炉の操業方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の還元焙焼炉の操業方法を好ましく用いることのできる酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスの概要と、当該プロセスにおける本発明の還元焙焼炉の操業方法の好ましい実施態様について詳述する。
【0022】
<酸化亜鉛鉱製造の全体プロセス>
図1に示すように、酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスは、鉄鋼ダストを還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S10、還元焙焼工程S10で得た粗酸化亜鉛から、ハロゲン等を処理液中に分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S20、及び、湿式工程S20で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S30、乾燥加熱工程S30で発生した排ガスダストを洗浄する排ガスダスト洗浄工程S40と、を備える全体プロセスである。
【0023】
本発明の還元焙焼炉の操業方法は、還元焙焼工程S10を、R1系列及びR2系列からなる複数の系列による分別操業とするものである。これにより、還元焙焼工程S10に投入される鉄鋼ダストの亜鉛や鉄の品位に大きなバラツキがある場合においても、副次的に産出される還元鉄原材料である還元鉄ペレットの鉄品位を安定的に所定以上の品位とすることができる。尚、以下、還元鉄原材料の最も一般的な形態として同材料がペレット状の還元鉄ペレットである場合について説明するが、本発明の還元鉄原材料は必ずしもこれに限られるものではない。
【0024】
<還元焙焼工程S10>
還元焙焼工程S10においては、先ず、亜鉛及び鉄を含有する鉄鋼ダストを少なくともその一部として含む粗酸化亜鉛の原料を、予め大きさ5〜10mm程度のペレットに成形し、石炭、コークス等の炭素質還元剤と、石灰石等とともに還元焙焼炉に投入する。還元焙焼炉としては、従来公知の還元焙焼ロータリーキルン(RRK)を好ましく用いることができる。本発明の還元焙焼炉の操業方法は、このRRKを2基以上用いることにより、複数系列における分別操業を異なる処理条件の下で同時平行的に行うことを特徴とする操業方法である。還元焙焼炉の操業方法の詳細については後述する。
【0025】
還元焙焼工程S10において還元焙焼処理を行う際には、1100〜1300℃の範囲に焙焼温度をコントロールすることが好ましい。焙焼温度が1100℃未満であると、分離回収の対象である亜鉛の揮発率が不十分となる。一方焙焼温度が1300℃を超えると、還元焙焼処理による反応生成物が軟化・溶融してRRK内壁に付着し、操業時間の経過とともに付着物が内壁においてリング状に成長し増大する。そして、その付着物が、炉内における被焙焼物の円滑な移動を阻害する障害物となるという問題が発生する。尚、本明細書における焙焼温度とは、被焙焼物が、焙焼炉での加熱処理を経て焙焼炉の排出口側の炉端部付近における温度のことを言うものとする。
【0026】
又、還元焙焼工程S10においては、RRK内における被焙焼物の軟化・溶融抑制のために、石灰石等のCaO源を添加する。この添加量については、従来の一般的操業においては、反応生成物である還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比が概ね1.8程度となるように管理されていた。しかし、例えば、焙焼温度が1300℃を超えるような高温操業を行う場合には、反応生成物の軟化・溶融を抑制し付着物の成長を防止するため、通常より更に石灰石等のCaO源を添加し、還元鉄ペレットのCaO/SiO
2比を2.7程度で管理することが必要となる。しかし、その場合、結果として、還元鉄ペレット中の鉄含有量が再利用不可能な低い品位にまで低下してしまう。そこで、本発明の還元焙焼炉の操業方法においては、このCaO/SiO
2比については、複数の系列毎に別途の最適範囲を設定して、それぞれの系列内で別途の条件範囲内に最適化することとした。
【0027】
鉄鋼ダストは、上記の諸条件の下で、RRK内で還元焙焼される。そして、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。尚、例えばハロゲンが多量に存在する場合は一部の金属亜鉛はハロゲン化合物として揮発する。粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛として回収される。そして、揮発せずに炉内に残った還元焙焼残渣が、キルン排出端より回収され、還元された鉄分を所定以上の割合で含有する還元鉄ペレットとして鉄鋼メーカー等に鉄原材料として払いだされる。尚、上記の含有鉄分の「所定以上の割合」とは、一般的には40〜42%程度以上とされている。
【0028】
[還元焙焼炉の操業方法]
次に本発明の還元焙焼炉の操業方法の詳細について説明する。本発明の還元焙焼炉の操業方法は、鉄鋼ダストから酸化亜鉛鉱を分離回収し、副次的な産出物として鉄原材料として再利用可能な還元鉄ペレットを産出する酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスに好ましく用いることができる還元焙焼炉の操業方法である。
【0029】
この還元焙焼炉の操業方法は、酸化亜鉛鉱の製造施設内に、RRK等の還元焙焼炉を2基以上設置し、これらを用いる複数の焙焼処理系列を設けることによって実施することができる。そして、この還元焙焼炉の操業方法は、亜鉛品位に応じて分別した鉄鋼ダストを、上記の各系列にそれぞれ分配し、複数系列を同時に稼働させつつ分別操業を行うことにより、良質な酸化亜鉛鉱と良質な還元鉄ペレットを、全体プロセスの総コストを抑制しつつ安定的に産出することができる方法である。
【0030】
この還元焙焼炉の操業方法では、亜鉛等の品位が異なるものが種々雑多に混在する状態で搬入される鉄鋼ダストを、還元焙焼工程S10へと投入する前に、下記に定義する低亜鉛原料と高亜鉛原料とに分別する。尚、この亜鉛品位毎の鉄鋼ダストの分別は、具体的には、搬入されてくる鉄鋼ダストを入船ロット毎に分析基準に従いサンプリング及び分析することによって行うことができる。又、納入品の亜鉛品位が不明な場合、或いは確認が必要な場合は、従来公知の測定方法で適宜亜鉛品位を分析測定することができる。
【0031】
下記表1は、酸化亜鉛鉱製造の全体プロセスに投入される一般的な鉄鋼ダストの化学組成の代表的な具体例を示すものである。
【0033】
表1に示されるように、鉄鋼ダストAは、相対的に亜鉛品位が低く鉄品位が高い。本明細書においては、このように亜鉛品位が30%未満の鉄鋼ダストを含む原料を「低亜鉛原料」と言うものとする。本発明の還元焙焼炉の操業方法では、この低亜鉛原料を資源リサイクルの対象として、主に還元鉄ペレットAを産出するための原料とする。
【0034】
還元鉄ペレットを、鉄原材料として再利用するためには、鉄品位を42%以上とすることが求められる。鉄品位が42%未満のものは、一般的に鉄原材料とすることが困難であり、再利用されずに埋立処理等によって廃棄されることとなる。
【0035】
鉄鋼ダストBは、鉄含有量が相対的に低い鉄鋼ダストの一例であり、表1に示される通り、鉄以外に多量の亜鉛を含有している鉄鋼ダストである。本明細書においては、このように亜鉛品位が30%以上である鉄鋼ダストを含む原料を「高亜鉛原料」と言うものとする。この高亜鉛原料からは、資源リサイクルの対象として、主に亜鉛を回収する。
【0036】
上記分別処理により分別された鉄鋼ダストのうち、亜鉛品位が30%未満の鉄鋼ダストAを含む低亜鉛原料を、上記複数の系列のうちの一の系列であるR1系列内のRRKに投入して還元焙焼処理を施す。
【0037】
R1系列においては、炉内の原料中のCaO/SiO
2比が2.0以下となるように炉内の組成物の配分比に係る条件を調整し、又、焙焼を行う温度が1100℃以上1300℃以下、好ましくは1100℃以上1200℃以下となるように焙焼温度を調整する。このように炉内条件を調整したR1系列の焙焼炉に、上記の低亜鉛原料だけを分別して投入することにより、R1系列においては十分に亜鉛を揮発させることが可能であり、産出される還元鉄ペレットの亜鉛品位を4%以下とし、且つ、鉄品位を42%以上とし、再利用可能な良質な還元鉄ペレットAを安定的に産出することができる。
【0038】
尚、上記分別処理により分別された鉄鋼ダストのうち、亜鉛品位が30%以上の鉄鋼ダストBを含む高亜鉛原料を、上記複数の系列のうちの他の系列であるR2系列内のRRKに投入して還元焙焼処理を施す。
【0039】
R2系列においては、投入する原料中のCaO/SiO
2比が2.5以上となるように炉内の組成物の配分比に係る条件を調整し、又、焙焼を行う温度が、1100℃以上1300℃以下、好ましくは1200℃以上1300℃以下となるように焙焼温度を調整する。このように炉内条件を調整したR2系列の焙焼炉に、上記の高亜鉛原料だけを分別して投入することにより、R2系列においては、高比率で含有される金属亜鉛を十分に揮発させることが可能となる。これにより、特にR2系列から回収される粗酸化亜鉛については、原材料に高品位で含有される金属亜鉛を十分に高い回収率で回収することができる。
【0040】
尚、このR2系列において産出される還元鉄ペレットBについては、十分な鉄品位を有するものとすることは難しいため、基本的には、従来の方法によって不可避的に産出されていた不良還元鉄ペレットと同様、埋立処分等に処すこととなる。
【0041】
しかし、亜鉛品位の異なる鉄鋼ダストが混在する態様のままで、還元焙焼処理を行っていた従来方法と比較すると、本発明の還元焙焼炉の操業方法の採用によれば、再利用可能な良質な還元鉄ペレットと再利用不可能な不良還元鉄ペレットの混在を排し、不良還元鉄ペレットが混入することによって廃棄処分にせざるをえないペレットの量を最小化して、良質な還元鉄ペレットの産出量を最大化することができる。
【0042】
加えて、本発明の還元焙焼炉の操業方法は、単一のRRKにおいて、作業を分断して、品位の異なる鉄鋼ダストを逐次処理するよりも、全体プロセスにおける総コストを十分に低減できることも分かっている。上記のように単一のRRKで分別処理を伴う操業を行う場合には、原材料の変更に伴う炉内条件の変更の作業負荷のみならず、炉内条件の変更の都度、炉内滞留物を減らし、且つ、その後の変更した原料により炉内環境が好ましい態様に安定するまでの間、不安定な操業を余儀なくされ、それによっても著しく生産性が低下する。しかし、本発明の還元焙焼炉の操業方法によれば、2基のRRKそれぞれにおいて一定の操業条件で安定した操業を行うことができるため、全体プロセスとしての生産性が大きく高まる。
【0043】
尚、以上において、2基の還元焙焼炉を用いて、2系列における分別操業を行う還元焙焼炉の操業方法について説明した。しかし、例えば、亜鉛品位毎に鉄鋼ダストを分別するという同一の技術的思想の下に、更に細かく鉄鋼ダストをその亜鉛品位毎に分別して、3系列以上で同様の還元焙焼を行うことも考えられる。このような方法も全て本発明と均等の範囲である。但し、必要な品質を保持しつつ全体プロセスの総コストを抑えるという立場にたつ限り、現状では、2系列による操業が最も生産性が高いものとなることも本発明者らの研究により分かっている。
【0044】
<湿式工程>
粗酸化亜鉛に含有されるフッ素等の不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛から不純物を水洗浄法により除去して酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理は、以下の処理工程によって行うことができる。
【0045】
還元焙焼工程S10により鉄鋼ダストから回収された粗酸化亜鉛は、工業用水等でレパルプされる。回収は、電気集塵機等で行うことができる。スラリーとなった粗酸化亜鉛はpH調整及び凝集処理を行い、その後1次脱水を行う。pHは6〜7程度の弱酸性溶液に調整してカドミウムを溶離、凝集は凝集剤等を利用して沈降性を高める。この1次脱水後、工業用水で希釈し、更に2次脱水を行う。この2度の洗浄脱水により、酸化亜鉛ケーキのハロゲン濃度は、フッ素濃度について0.6質量%未満、塩素濃度については、1.0質量%未満にまで低減することが好ましい。
【0046】
フッ素等の不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛スラリーが高濃度の酸化亜鉛ケーキとなる。
【0047】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S20で得た酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の加熱炉に装入して焼成・造粒する乾燥加熱工程S30により、フッ素濃度を更に低減させつつ、酸化亜鉛鉱を造粒することができる。
【0048】
還元焙焼工程を本発明の還元焙焼炉の操業方法、即ち上記の分別処理によって行う本発明に係る酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、例えば、表1に記載の組成からなる鉄鋼ダストA及びBを原材料として酸化亜鉛を製造した場合、この乾燥過熱工程を経て得られる酸化亜鉛の亜鉛品位を概ね55%以上の品位に安定的に保つことが可能である。このように、本発明の還元焙焼炉の操業方法を用いることによって、良質な還元鉄原材料を産出しつつ、主たる生産物である酸化亜鉛焼鉱の亜鉛品位についても、十分に好ましい品位を安定的に保持することができる。
【0049】
<排ガスダスト洗浄工程>
乾燥加熱工程S30で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得るための排ガスダスト洗浄工程S40を行う。尚、回収された洗浄後の排ガスダストケーキを、乾燥加熱工程S30のDRK等の上流工程に繰り返して循環投入することにより、金属資源の有効利用を図る処理も行われている。
【0050】
<排水処理工程>
排水処理工程S50は、湿式工程S20において粗酸化亜鉛から分離された廃液から、フッ素及びカドミウム等を除去し、更に、廃液中に微量含まれる重金属を中和処理により抽出し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
上記表1における鉄鋼ダストAを含む低亜鉛原料を、下記条件で操業する還元焙焼工程R1に投入して得た還元鉄ペレットを還元鉄ペレットAとした。
還元焙焼工程R1:焙焼を行う温度が1200℃、還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比が1.8となるようにCaO源としての石灰石の添加量を調整した。
【0053】
上記表1における鉄鋼ダストBを含む高亜鉛原料を、下記条件で操業する還元焙焼工程R2に投入して得た還元鉄ペレットを還元鉄ペレットBとした。
還元焙焼工程R2:焙焼を行う温度が1250℃、還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比が2.5となるようにCaO源としての石灰石の添加量を調整した。
【0054】
上記それぞれの工程により製造された、還元鉄ペレットA、Bの組成を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
鉄原材料として再利用可能な還元鉄ペレットとするためには、鉄品位を42%以上、好ましくは44%以上とすることが必要とされている。表2に示す通り、R1系列の操業によって製造された還元鉄ペレットAはこの条件を十分に満たすものとなっている。
【0057】
次に、上記R1系列の操業における、還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比のみを、1.7〜2.8の範囲で変動させた場合における還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比と、各CaO/SiO
2比の条件毎における、各還元鉄ペレット中の鉄品位を測定した。両者の相関関係をグラフ化したものを
図2に示す。尚、同図中に、R2系列においてCaO/SiO
2比を2.75とした場合の還元鉄ペレット中の鉄品位の値を参考として併せてプロットした。
【0058】
鉄鋼ダストの分別を行わない従来の還元焙焼炉の操業方法による場合には、高亜鉛材料についても十分な亜鉛の揮発率を保持するために、還元鉄ペレット中のCaO/SiO
2比が2.8程度となる条件で還元焙焼工程を実施せざるを得なかった。その場合、単一系列の還元焙焼工程で製造される還元鉄ペレットの平均鉄品位は、通常、全体として40%を下回ることとなる。よって、鉄鋼ダストの亜鉛品位にバラツキがある場合に、単一系列の焙焼工程によっては、鉄原材料として再利用可能な還元鉄ペレットを産出することは極めて困難であった。
【0059】
しかし、
図2より、本発明の還元焙焼炉の操業方法を採用することにより、少なくとも、R1系列において産出される低亜鉛材料由来の還元鉄ペレットAについては、安定的に鉄品位を42%以上とすることができることが分かる。又、同操業方法によれば、鉄原材料としての再利用ができないために廃棄処理を行わざるを得ない鉄品位の低いペレットの産出量を低減して、鉄原材料として再利用可能な良質の還元鉄ペレットの産出量を増大できることも明らかである。
【0060】
又、本発明の還元焙焼炉の操業方法を採用することにより、R1系列におけるCaO源とする石灰石等の添加量を大幅に削減することができる。又、焙焼温度を1200℃以下程度とすることも十分に可能であり、重油等の燃料費を大きく削減することができる。一方、R2系列においては、還元鉄ペレットの鉄品位に制約されることなくCaO源の添加量を最適化することができるため、高亜鉛材料を投入する工程でありながら、1300℃以下の焙焼温度で十分な亜鉛の揮発率を保持することができる。これにより、過度な加熱による操業高率の低下を避けて、高い生産性の下で高品位の粗酸化亜鉛を安定的に得ることができる。