特許第6090183号(P6090183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090183気相成長装置の清掃又は点検方法及びエピタキシャルウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090183
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】気相成長装置の清掃又は点検方法及びエピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170227BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/44 J
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-10037(P2014-10037)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-138897(P2015-138897A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岩本 亮輔
【審査官】 正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−283139(JP,A)
【文献】 特開2009−181972(JP,A)
【文献】 特開2002−105644(JP,A)
【文献】 実開平07−036440(JP,U)
【文献】 特開2013−115189(JP,A)
【文献】 特開2005−236093(JP,A)
【文献】 実開昭63−051432(JP,U)
【文献】 特開2007−208096(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0263895(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャルウェーハを製造する気相成長装置の反応容器内を清掃又は点検する準備のために前記反応容器の蓋状部材を取り外して前記反応容器を開放する準備工程を有する気相成長装置の清掃又は点検方法において、
取り外される前の前記蓋状部材を覆うとともに前記蓋状部材が二重蓋となるように前記蓋状部材の上から更に前記反応容器を閉じるように位置し、内側と外側の雰囲気を隔離可能、かつ、内側の雰囲気を調整可能なパージボックスを前記反応容器に取り付ける取付工程と、
前記反応容器に取り付けられた前記パージボックスの内側の酸素濃度を外側の大気雰囲気の酸素濃度より低減させる調整工程と、を備え、
前記調整工程後に前記準備工程を実施することを特徴とする気相成長装置の清掃又は点検方法。
【請求項2】
前記調整工程は前記パージボックスの内側の酸素濃度を100ppm以下にする請求項に記載の気相成長装置の清掃又は点検方法。
【請求項3】
前記パージボックスはグローブボックス構造である請求項又はに記載の気相成長装置の清掃又は点検方法。
【請求項4】
エピタキシャルウェーハを製造する気相成長装置の反応容器内を清掃又は点検する準備のために前記反応容器の蓋状部材を取り外して前記反応容器を開放する準備工程と、
取り外される前の前記蓋状部材を覆うとともに前記蓋状部材が二重蓋となるように前記蓋状部材の上から更に前記反応容器を閉じるように位置し、内側と外側の雰囲気を隔離可能、かつ、内側の雰囲気を調整可能なパージボックスを前記反応容器に取り付ける取付工程と、
前記反応容器に取り付けられた前記パージボックスの内側の酸素濃度を外側の大気雰囲気の酸素濃度より低減させる調整工程と、を備え、
前記調整工程後に前記準備工程を実施し、
前記準備工程後に前記反応容器内を点検又は清掃する工程と、
前記点検又は清掃する工程後に前記気相成長装置を用いてエピタキシャルウェーハを製造する工程と、
を備えるエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置の清掃又は点検方法及びエピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハ等の半導体基板の製造工程に用いられる基板処理装置として、CVD(Chemical Vapour Deposition)装置(気相成長装置)が知られ、シリコンウェーハのエピタキシャル処理の一例としてシリコンウェーハの表面に単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜を気相エピタキシャル成長させる製造方法が開発されている。
【0003】
その製造方法として、気相成長装置のエピタキシャル成長用チャンバー(反応容器)内に収納されたサセプタに、シリコンウェーハを水平配置し、その後、垂直な回転軸を中心にしてサセプタを回転させながらシリコンウェーハをハロゲンランプ等の熱源で高温加熱(1000〜1200℃)し、プロセスガスを流す。これによりウェーハ表面に反応ガスの熱分解、還元により生成されたシリコンが析出し、ウェーハ表面に単結晶シリコンからなるエピタキシャル膜が成長する。
【0004】
このように気相成長装置により操業を続けているうちにプロセスガス(シラン系ガスや塩酸ガス)による反応副生成物等の汚れが反応容器内に堆積するため、気相成長装置の保守、安全管理の観点から定期的に反応容器を大気開放して反応容器内や反応容器に接続される配管の清掃(洗浄)、点検等のメンテナンス作業が実施される。
【0005】
しかし、一般に反応容器の大気開放を伴う清掃、点検作業直後に製造されたエピタキシャルウェーハ中の金属不純物(重金属汚染)のレベルは、気相成長装置のメンテナンス時に付着した金属不純物、反応容器を構成する素材に含まれる金属不純物、気相成長装置及びその配管系に通常用いられるステンレス成分等を汚染源とするため、清掃、点検作業直前に製造されたエピタキシャルウェーハよりも重金属汚染が増加する。
【0006】
一方で、近年、CCD(Charge Coupled Device)やCIS(CMOS Image Sensor)等の撮像素子用基板として、シリコンウェーハ上にシリコン膜を気相成長させたシリコンエピタキシャルウェーハが使用され、このような撮像素子用のエピタキシャルウェーハでは、ウェーハ内に金属不純物が存在すると白キズ(白点)と呼ばれる不良が発生するため、ウェーハ中の金属不純物(重金属汚染)のレベルを低くすることが重要となっている。
【0007】
そこで、エピタキシャルウェーハ中の不純物(金属不純物)を低減する対策として、反応容器の構成材料を変更することが考えられるが、大規模な改修が必要となることや従来材料に代わる材料の探索が困難なことから実施が難しい。
【0008】
また、別の観点からエピタキシャルウェーハ中の不純物を抑制する方法が特許文献1〜3に開示される。例えば、特許文献1には薄膜中に取り込まれる酸素量を低減させるため、酸素濃度を10−21Pa以下に制御した雰囲気下で基板上に薄膜を堆積する方法が提案される。特許文献2、3にはロードロック室内の酸素濃度を所定の値に制御し、ロードロック室中でウェーハ表面に不適正な自然酸化膜が形成され、ウェーハが汚染されるのを防止する方法が提案される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−200158号公報
【特許文献2】特開平9−45597号公報
【特許文献3】特開2000−58619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3の方法は、通常の操業時にウェーハへの水分汚染、酸素汚染、自然酸化膜汚染の低減を図る方法であり、気相成長装置の清掃又は点検(以下、メンテナンスという)に起因した重金属汚染の低減を図る方法ではない。
【0011】
本発明の課題は、気相成長装置のメンテナンスを起因とする重金属汚染を低減できる気相成長装置の清掃又は点検方法及びエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0012】
本発明に関連する気相成長装置の清掃又は点検方法は、
気密にされた気相成長装置の反応容器の開放をともなう清掃又は点検時に、反応容器内の酸素濃度を大気雰囲気よりも低減することが想定される。
【0013】
また、本発明の気相成長装置の清掃又は点検方法は、
エピタキシャルウェーハを製造する気相成長装置の反応容器内を清掃又は点検する準備のために反応容器の蓋状部材を取り外して反応容器を開放する準備工程を有する気相成長装置の清掃又は点検方法において、
取り外される前の蓋状部材を覆うとともに蓋状部材が二重蓋となるように蓋状部材の上から更に反応容器を閉じるように位置し、内側と外側の雰囲気を隔離可能、かつ、内側の雰囲気を調整可能なパージボックスを反応容器に取り付ける取付工程と、
反応容器に取り付けられたパージボックスの内側の酸素濃度を外側の大気雰囲気の酸素濃度より低減させる調整工程と、を備え、
調整工程後に準備工程を実施することを特徴とする。
【0014】
本発明者はメンテナンスに起因する気相成長装置の汚染について、メンテナンス時に反応容器を大気開放する点に着眼し、鋭意検討を重ねる中で、反応容器内に酸素が混入するとエピタキシャルウェーハ中の重金属汚染が増加することを見出し、この知見に基づきメンテナンス時に大気開放された反応容器を精査した結果、大気開放された反応容器内の酸素濃度が大気中の酸素濃度と同程度の200000ppm程度まで上昇することを確認した。
【0015】
その結果、メンテナンスに起因する気相成長装置の重金属の汚染増加は、反応容器を構成する素材等を汚染源とする以外にも、反応容器の大気開放により反応容器内に混入した酸素の反応によっても重金属の汚染が増加するとの結論に至った。
【0016】
そこで、気密にされた気相成長装置の反応容器内の開放をともなう清掃又は点検時に、反応容器内の酸素濃度を大気雰囲気よりも低減することで、気相成長装置のメンテナンスに起因する重金属汚染の増加を抑制できる。このとき、反応容器内の酸素濃度を100ppm以下にすることで重金属汚染をより効果的に防止することができる。本発明の実施態様では、清掃又は点検の準備のために予めパージボックスを反応容器に取り付け、パージボックス内の酸素濃度を外側(大気雰囲気)の酸素濃度より低く調整し、気相成長装置のメンテナンスに起因する重金属汚染の増加を抑制できる。また、本発明は、特にメンテナンス作業直後に製造されたエピタキシャルウェーハにおける金属不純物の増加の抑制に対して効果的である。
【0017】
なお、パージボックスはグローブボックス構造とすることで、反応容器内の清掃又は点検作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の清掃又は点検方法に用いる、パージボックスを取り付けた気相成長装置の一例を示す模式側面断面図。
図2】比較例において用いた、気相成長装置の一例を示す模式側面断面図。
図3】比較例における反応容器のメンテナンス汚染度の評価方法の概要を示すフローチャート。
図4】実施例における反応容器のメンテナンス汚染度の評価方法の概要を示すフローチャート。
図5】実施例と比較例においてメンテナンス前後に作製したウェーハのMo濃度比を示したグラフ。
図6】メンテナンス前後に作製したウェーハのMo濃度比とメンテナンス時の反応容器内の酸素濃度の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明で使用される一例の枚葉式の気相成長装置1と内部が気相成長装置1の清掃又は点検するための作業領域となり、その作業領域内の酸素濃度を調整できるパージボックス2を示す。気相成長装置1は、シリコン単結晶基板の主表面上にシリコン単結晶膜(エピタキシャル層)を気相成長させて、例えば、CCDやCIS等の撮像素子用基板に用いられるシリコンエピタキシャルウェーハを製造する装置である。
【0020】
気相成長装置1は、透明石英部材やステンレス等の金属部材等から構成された気相成長炉である反応容器3を備える。反応容器3(チャンバー、反応炉)は、ステンレス(SUS)からなるベースリング4と、ベースリング4の下側に連なるように位置し、反応容器3の底部を構成するように逆さドーム状に形成されたロワードーム5と、ベースリング4の上側に位置し、ロワードーム5とともにベースリング4を挟むようにして反応容器3の天井を構成する天井部材6を備え、ロワードーム5及び天井部材6はそれぞれ透明石英部材から構成される。
【0021】
反応容器3は外部から反応容器3内に不純物が混入しないように気密に構成(大気から隔離)され、大気雰囲気から隔離された反応容器3の内部には、ベースリング4をカバーするように位置する石英部材(図示省略)と、シリコンエピタキシャルウェーハの基材基板であるシリコン単結晶基板(以下、単にウェーハWという)を水平に支持するサセプタ7(例えば黒鉛製)と、サセプタ7を支持する支持部8と、支持部8を介してサセプタ7を中心軸O回りに回転させる回転駆動部9と、酸素濃度計測部(図示省略)を備える。
【0022】
反応容器3の一端側には、反応容器3内に原料ガス(例えばトリクロロシラン)、原料ガスを希釈するキャリアガス(例えば水素)及びエピタキシャル層に導電型を付与するドーパントガスを含む気相成長ガスGを、サセプタ7の上側の領域に導入するとともに、サセプタ7上のウェーハWの主表面上に供給するガス導入管10が接続される。また、ガス導入管10の反対側に反応容器3内のガスを排出するガス排出管11が接続される。
【0023】
図示省略するが、反応容器3の周囲(例えば、反応容器3の上下)には、気相成長時にウェーハWをエピタキシャル成長温度(例えば、900〜1200℃)に加熱するハロゲンランプなどのランプが設けられる。
【0024】
一方、図1に示すように気相成長装置1に取り付けられるパージボックス2は、天井部材6を覆うとともに天井部材6が二重蓋となるように天井部材6の上から更に反応容器3を閉じるように反応容器3の外側に突出して位置し、天井部材6の外面等とパージボックス2の内面により空間(内部)が区画され、その内部が反応容器3の清掃又は点検するための作業領域となる。反応容器3内での作業を容易にするために、パージボックス2はグローブボックス状に構成される。
【0025】
また、パージボックス2には、パージボックス2内の雰囲気を窒素等の不活性ガスPの導入により置換するパージガス導入管2aと、導入される大気量を調整できる大気導入バルブ2b´を有してパージボックス2内に大気Aを導入可能な大気導入管2bと、パージボックス2内の酸素濃度を検出する酸素濃度計2cと、ガスパージ時にパージボックス2内の酸素等をパージボックス2(気相成長装置1)外に排出するパージ用排気管(図示省略)が備わり、パージボックス2の内部と外部の雰囲気を隔離でき、外部から内部に不純物が混入しないように気密に構成され、かつ、内部の雰囲気も調整できる。具体的には、酸素濃度計2cで確認し、パージガス導入管2aにより導入される窒素ガス等の不活性ガスPの導入量と大気導入管2bにより導入される大気ガスの導入量を調整することで、パージボックス2内の雰囲気の酸素濃度を例えば1ppmから200000ppmの範囲の間で制御することができる。
【0026】
以上の構成を有した気相成長装置1(パージボックス2は除く)によりシリコンエピタキシャルウェーハが製造される。操業中はガス導入管10から気相成長ガスGが導入され、サセプタ7上を通過してガス排出管11から気相成長ガスGが排出され、ウェーハWを反応容器3内に搬送する以外は完全に大気から隔離された環境となる。また、ウェーハWを搬送する際に反応容器3を開放する場合でもウェーハWは大気環境から直接搬送されず、窒素でガス置換された環境下で搬送される。
【0027】
気相成長装置1により気相成長を繰り返していくと反応容器3内には次第にシリコンエピタキシャルウェーハを構成するシリコンの副生成物等が反応容器3の内側のベースリング4及びロワードーム5等に堆積し、その副生成物等がエピタキシャルウェーハの品質に悪影響を及ぼす。そのため、定期的に反応容器3から天井部材6を取り外し、反応容器3内を大気に開放した状態でサセプタ7及び支持部8を交換するとともに、反応容器3内のベースリング4及びロワードーム5並びにガス導入管10及びガス排出管11等に対し、堆積した副生成物を除去する清掃を行う。また、反応容器3の保守点検として反応容器3内を大気に開放した状態で反応容器3の内部の点検を実施する。
【0028】
このような清掃、点検時に天井部材6を取り外し、反応容器3内を大気に開放した状態にすると大気中の酸素が反応容器3内に混入し、反応容器3を構成する部材の腐食を促進し、反応容器3内の金属汚染を増加させる。そのため、清掃、点検のために天井部材6を取り外し、反応容器3を開放した際に反応容器3内に混入する酸素濃度を大気中の酸素濃度よりも低減させることで、反応容器3内の金属汚染を低減できる。
【0029】
そこで、次に、図1の気相成長装置1及びパージボックス2を用いて、気相成長装置1を清掃又は点検する方法の詳細を説明する。先ず、気相成長装置1の清掃又は点検に先立ち、天井部材6を覆うとともに天井部材6が二重蓋になるように天井部材6の上から更に反応容器3を閉じるようにパージボックス2を気相成長装置1に取り付ける(取付工程)。取り付けられたパージボックス2は、パージボックス2内が大気から隔離され、パージボックス2内に外部から不純物が混入しないように気密にされた状態で気相成長装置1に取り付けられる。
【0030】
次に、取り付けられたパージボックス2の内側の酸素濃度をパージボックス2の外側の大気雰囲気の酸素濃度よりも低減させる(調整工程)。具体的には、大気導入バルブ2b´を閉鎖し、パージボックス2内の酸素等を窒素の不活性ガスPでパージし、酸素濃度計2cによりパージボックス2内の酸素濃度が100ppm以下になるまで、パージを実施する。
【0031】
パージボックス2内の酸素濃度が100ppm以下に調整されると反応容器3内は清掃又は点検する作業に適した作業雰囲気に調整され、反応容器3内の清掃又は点検する準備のためにパージボックス2内で天井部材6を取り外して反応容器3を開放する(準備工程)。天井部材6が取り外されるとパージボックス2と反応容器3が連通して一体となり、新たな容器状の空間が形成される。なお、パージボックス2はグローブボックス構造であるため、作業雰囲気内で天井部材6を容易に取り外すことができる。
【0032】
反応容器3を開放した後、予めパージボックス2内に準備した交換用のサセプタ及び支持部と、反応容器3内のサセプタ7及び支持部8を交換し、反応容器3内のベースリング4及びロワードーム5並びにガス導入管10及びガス排出管11に堆積した副生成物等の清掃を実施し、清掃の実施後に天井部材6を再度、取り付けた後、パージボックス2を取り外すことで気相成長装置1の清掃及び点検が終了する。
【0033】
このように本実施形態では、パージボックス2内の酸素濃度を調整し、反応容器3内を清掃又は点検するのに適した作業雰囲気(パージボックス2と反応容器3が連通して一体となった容器状の空間内)で反応容器3を清掃又は点検作業をすることで、反応容器3を開放しても反応容器3内に混入する酸素濃度を抑えることができる。その結果、下記実施例に示すようにエピタキシャルウェーハに取り込まれる金属汚染を大幅に低減させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。先ず、清掃又は点検(メンテナンス)前の金属汚染が同程度である図1の気相成長装置1と、気相成長装置1と同様の気相成長装置100(図2参照)を用意し、気相成長装置1では実施例として本発明の清掃又は点検方法を実施し、気相成長装置100では比較例として従来の手法で清掃又は点検を実施した。なお、図2で気相成長装置1と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0035】
また、気相成長装置1、100の反応容器3の金属汚染を評価する方法として、メンテナンスの前後にサンプルとしてエピタキシャルウェーハを作製し、その作製したウェーハをICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometry)(誘導結合プラズマ質量分析法)によって金属定量値を比較し、その値をメンテナンスによる汚染度とした。具体的には、メンテナンス後のMo(モリブデン)濃度をメンテナンス前のMo濃度で除法した除法値(濃度増加比)をメンテナンス汚染度として定義する。これにより、簡便かつ高感度に異なるメンテナンス環境における反応容器3のメンテナンス汚染度に関する相関を得ることができる。
【0036】
(比較例)
図3に示すようにメンテナンスを実施する前にサンプルとして直径200mmのシリコンエピタキシャルウェーハを作製し、メンテナンス前のウェーハからICP−MSによりMoの金属定量値を得た(S1)。次に従来のように天井部材6を取り外し、反応容器3を大気開放状態にした後(S2)、反応容器3内のサセプタ7及び支持部8を交換し、反応容器3内のベースリング4及びロワードーム5に堆積した副生成物等の清掃を実施した(S3)。この時の反応容器3内の酸素濃度を酸素濃度計測部で測定したところ、100000ppm以上であった。
【0037】
清掃作業後に、再度、天井部材6を取り付け、メンテナンス後のサンプルとしてシリコンエピタキシャルウェーハを作製し、メンテナンス後のウェーハからICP−MSによりMoの金属定量値を得て、反応容器3のメンテナンス汚染度を評価したところ、メンテナンス前後のMo濃度比は6.3と金属汚染が増加した(図5参照)。これは、ベースリング4、回転駆動部9、ガス導入管10及びガス排出管11等は一般的にステンレス部材で作製されており、ステンレスに含有されるMoと大気中の酸素が反応したためと考えられる。
【0038】
(実施例)
次に実施例について説明する。図4に示すように比較例と同様にメンテナンスを実施する前にサンプルとして直径200mmのシリコンエピタキシャルウェーハを作製し、メンテナンス前のウェーハからICP−MSによりMoの金属定量値を得た(S101)。そして、比較例と異なり、天井部材6を取り外す前に、メンテナンスをする作業領域となり、その作業領域内が大気雰囲気と隔離され、メンテナンス作業に適した作業雰囲気(酸素濃度)に調整できるパージボックス2を気相成長装置1に取り付けた(S102)。
【0039】
次にパージボックス2内の雰囲気を置換するために大気導入バルブ2b´を完全に閉鎖し(S103)、パージガス導入管2aから窒素ガスを導入してパージを実施し、酸素濃度計2cによりパージボックス2内の酸素濃度が100ppm以下になるまでパージを実施した。
【0040】
パージボックス2内の酸素濃度が100ppm以下になったら、天井部材6を取り外して(S104)、反応容器3を開放状態にする。反応容器3を開放した後、反応容器3内のサセプタ7及び支持部8を交換し、反応容器3内のベースリング4及びロワードーム5に堆積した副生成物等の清掃を実施する(S105)。この際、清掃作業中の反応容器3内の酸素濃度を酸素濃度計測部で常時モニタリングしたところ、反応容器3内の酸素濃度が100ppmを超えることはなかった。
【0041】
清掃作業後、再度、天井部材6を取り付け、メンテナンス後のサンプルとしてウェーハを作製してICP−MSによりMoの金属定量値を得て、反応容器3のメンテナンス汚染度の評価をしたところ、メンテナンス前後のMo濃度比は0.96と金属汚染の増加はなかった(図5参照)。このことから反応容器3の開放作業中の酸素濃度を100ppm以下の環境で作業を実施することで、特にMo汚染の増加が抑制できることが示された。
【0042】
上記実施例では大気導入バルブ2b´を閉鎖して酸素濃度を100ppm以下でメンテナンスを実施した。別途、大気導入バルブ2b´を開放し、パージボックス2内(メンテナンスを実施するための作業雰囲気)の酸素濃度を1ppmから200000ppmの範囲で制御し、実施例と同様にメンテナンス作業を実施して反応容器3のメンテナンス汚染度を評価した。図6に示すようにメンテナンス時の反応容器3内の酸素濃度が低いほどMo濃度比が小さくなり、特に、酸素濃度が100ppm以下でMo濃度比は1程度となり、メンテナンス汚染度の増加が抑制されることが示された。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
例えば、気相成長装置は枚様式に限らず、縦型(パンケーキ型)、バレル型(シリンダー型)など各種気相成長装置のメンテナンスの場合にも本発明は適用できる。また、反応容器3の大気開放作業には、ガス導入管10及びガス排出管11も含まれる。更に、本実施例ではパージボックス2を用いてパージボックス2の内部(作業雰囲気)と外部(大気雰囲気)の隔離、及び、パージボックス2の内部の酸素濃度の低減を行っているが、同様の効果が得られれば、パージボックス2を用いなくてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 気相成長装置 2 パージボックス
2a パージガス導入管 2b 大気導入管
2c 酸素濃度計 3 反応容器
4 ベースリング 5 ロワードーム
6 天井部材(蓋状部材) 7 サセプタ
8 支持部 9 回転駆動部
10 ガス導入管 11 ガス排出管
O 中心軸 G 気相成長ガス
A 大気 P 不活性ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6