(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090213
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】結着剤組成物、電極用スラリー、電極および非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20170227BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20170227BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20170227BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-52353(P2014-52353)
(22)【出願日】2014年3月14日
(62)【分割の表示】特願2008-554050(P2008-554050)の分割
【原出願日】2008年1月16日
(65)【公開番号】特開2014-146600(P2014-146600A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2007-6536(P2007-6536)
(32)【優先日】2007年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 文明
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 康尋
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−107958(JP,A)
【文献】
特開平11−214011(JP,A)
【文献】
特開2001−283855(JP,A)
【文献】
特開昭62−257902(JP,A)
【文献】
特開平06−167639(JP,A)
【文献】
特開平11−297328(JP,A)
【文献】
特開2006−260782(JP,A)
【文献】
特開2002−319403(JP,A)
【文献】
特開平06−157639(JP,A)
【文献】
特開2002−110169(JP,A)
【文献】
国際公開第1998/014519(WO,A1)
【文献】
特開2002−319402(JP,A)
【文献】
特開2002−260667(JP,A)
【文献】
特開2000−007727(JP,A)
【文献】
特開2006−052350(JP,A)
【文献】
国際公開第2001/029917(WO,A1)
【文献】
特開2002−329496(JP,A)
【文献】
特開平05−097913(JP,A)
【文献】
特開2000−260470(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/040196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の製造に用いられる電極用スラリーに用いられる結着剤組成物であって、重合体が有機溶媒または水に、溶解または分散してなり、かつ、
下記(A)および(B)の含有率の合計が、該結着剤組成物に対して300ppm以下であり、
前記重合体は、アクリル系重合体であり、
前記結着剤組成物中の前記重合体の含有量は、
前記重合体が、有機溶媒に溶解または分散している場合、該結着剤組成物に対して4〜13質量%であり、
前記重合体が、水に溶解または分散している場合、該結着剤組成物に対して20〜60質量%である、ことを特徴とする結着剤組成物。
(A)前記重合体に含まれる繰り返し構造を、重合により形成するための単量体
(B)前記単量体が反応してなる重量平均分子量3,000以下のオリゴマー
【請求項2】
前記重合体が、有機溶媒に溶解または分散してなることを特徴とする請求項1記載の結着剤組成物。
【請求項3】
前記単量体(A)の含有率が50ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の結着剤組成物。
【請求項4】
前記重合体の破断伸びが、100〜3000%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の結着剤組成物。
【請求項5】
前記重合体の破断強度が、2MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の結着剤組成物。
【請求項6】
前記重合体の重量平均分子量は、50,000〜1,000,000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の結着剤組成物。
【請求項7】
電極用スラリーの濃度が、不揮発分の体積分率として60〜90%となるように用いられる請求項1〜6の何れか1項に記載の結着剤組成物。
【請求項8】
活物質と混合され電極用スラリーを調製するための結着剤組成物であって、電極用スラリー中における活物質量に対し、単量体(A)およびオリゴマー(B)の合計量の比((A+B)/活物質)が1.0773×10−6以上2.6334×10−6以下となるように用いられる請求項1〜7の何れか1項に記載の結着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の結着剤組成物および活物質を含む電極用スラリー。
【請求項10】
請求項9記載の電極用スラリーの固形分からなる活物質層および集電体を有する電極。
【請求項11】
請求項10記載の電極を正極および負極の少なくとも一方の電極として具えてなる非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の製造に用いることができる結着剤組成物、および電極用スラリーに関する。また、本発明は、該電極用スラリーを用いてなる活物質層を有する電極、および該電極を具えてなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、電力密度が高いため、鉛二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池等の従来の二次電池に代わって、エレクトロニクス用小型二次電池の主役を担っている。
【0003】
非水電解質二次電池は、携帯電話などにおいて単独で使用される場合と、ノート型パソコンや自動車用などにおいて複数で使用される場合がある。複数で使用される場合において、電池間で充電容量や放電容量などの特性のばらつきが発生すると、一部の電池に多くの充電負荷や放電負荷がかかり、寿命が著しく低下するといった問題を招く。
【0004】
非水電解質二次電池の電極は、有機溶媒または水に、活物質および結着剤、さらに必要に応じて、導電材および増粘剤を分散混合させたスラリー(以下、「電極用スラリー」という。)を集電体に塗布・乾燥した後、加圧処理することにより得られる。電極用スラリーの安定性が不十分であると、保存時もしくは塗工時において活物質の凝集や沈降が起き、電極の厚さや密度が不均一となる。このような電極の不均一性はそれを用いて製造した電池間での充電容量や放電容量などの特性のばらつきの原因となる。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1には、特定の分散剤を添加して表面改質した導電材を用いて混練分散した正極用ペースト(電極用スラリー)が提案されている。また、特許文献2には、予め可塑剤、活物質および導電材を混練したペースト(電極用スラリー)を製造した後、結着剤を分散媒に分散させた結着剤組成物を添加し、さらに混練することによる電極用スラリーの製造方法が提案されている。いずれの方法も、安定性の優れた電極用スラリーを得ることが出来るが、製造工程が繁雑となり、生産性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2001−23613号公報
【特許文献2】特開2000−12001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、均質で安定性に優れた電極用スラリー、厚さおよび密度の均一性に優れた電極、さらには電池特性のばらつきの少ない非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意検討した結果、以下のように、結着剤組成物中の単量体およびオリゴマーが、電極用スラリーの安定性に影響することを見出した。
【0008】
すなわち、電極用スラリーにおいて、重合体が活物質表面に吸着することにより、活物質は分散安定化する。しかし、結着剤組成物中に単量体やオリゴマーが存在すると、それらが活物質表面に吸着することにより、重合体の吸着を阻害する。単量体やオリゴマーが吸着した活物質は、重合体が吸着したものと比較して分散安定性に劣るため、電極スラリーの安定性は低下する。
【0009】
そして、さらに鋭意検討した結果、結着剤組成物中の単量体およびオリゴマーの含有率の合計を300ppm以下にすることで、簡便に均質で安定性に優れた電極用スラリーが得られることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに到った。
【0010】
かくして本発明の第一によれば、非水電解質二次電池の製造に用いられる結着剤組成物であって、活物質どうしを結着させるための重合体が有機溶媒または水に、溶解または分散してなり、かつ、
下記(A)および(B)の含有率の合計が、300ppm以下であることを特徴とする結着剤組成物が提供される。
【0011】
(A)前記重合体に含まれる繰り返し構造を、重合により形成するための単量体
(B)前記単量体が反応してなる重量平均分子量3,000以下のオリゴマー
前記重合体は、有機溶媒に溶解または分散しており、かつ、その含有量は4〜13質量%であることが好ましい。
前記単量体(A)の含有率は50ppm以下であることが好ましい。
前記重合体の破断伸びが100〜3000%であることが好ましい。
前記重合体の破断強度が2MPa以上であることが好ましい。
前記重合体がアクリル系重合体であることが好ましい。
前記重合体の重量平均分子量が50,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0012】
本発明の第二によれば、前記結着剤組成物および活物質を含む電極用スラリーが提供される。
【0013】
本発明の第三によれば、前記電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層、および集電体を有する電極が提供される。
【0014】
本発明の第四によれば、前記電極を正極および負極の少なくとも一方の電極として具えてなる非水電解質二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、均質で安定性に優れた電極用スラリー、厚さおよび密度の均一性に優れた電極、さらには電池特性のばらつきの少ない非水電解質二次電池が提供される。本発明で提供される電池は、エレクトロニクス用小型二次電池、および自動車用などの動力用二次電池として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(結着剤組成物)
本発明の結着剤組成物は、活物質どうしを結着させるための重合体が有機溶媒または水に、溶解または分散してなるものである。
【0017】
(重合体)
本発明で用いる重合体は、活物質どうしを結着させる重合体であればよく、アクリル系重合体、ジエン系重合体、スチレン系重合体、オレフィン系重合体、エーテル系重合体、ポリイミド系重合体、ポリエステル系重合体およびウレタン系重合体などを用いることが出来る。活物質の分散安定性および結着力に優れるため、アクリル系重合体、およびジエン系重合体が好ましく、アクリル系重合体がさらに好ましい。
【0018】
また、活物質の結着性および得られる電極の柔軟性に優れるため、重合体の破断伸びは100〜3000%が好ましく、200〜2500%がさらに好ましい。また、重合体の破断強度は2MPa以上が好ましく、3MPa以上がさらに好ましい。
【0019】
本発明において、破断伸びおよび破断強度は以下の方法で測定する。
【0020】
重合体を、有機溶媒または水に、溶解または分散してなる結着剤組成物から、縦10cm、横10cm、厚さ1mmのシートをキャスト法で製造する。水に分散または溶解してなる結着剤組成物においては、キャストフィルムを風乾後、50kPa、120℃にて1時間乾燥する。溶剤に分散または溶解してなる結着剤組成物においては、キャストフィルムをイナートオーブンを用いて、溶剤が揮発可能な温度で17時間乾燥する。例えば、N−メチルピロリドンを溶剤として使用する場合、120℃で乾燥する。得られたシートから2号形ダンベルで打ち抜いた試験片を用いて日本工業規格JIS K6251:2004準拠の引張試験で測定する。
【0021】
重合体は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
アクリル系重合体とは、アクリル酸、メタクリル酸もしくはクロトン酸、またはこれらの誘導体、または以上のものの混合物を重合してなる繰り返し単位を、重合体中50モル%以上有する単独重合体または共重合体である。
【0023】
アクリル酸誘導体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ラウリル、アクリロニトリル、およびポリエチレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。メタクリル酸誘導体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、およびテトラエチレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。クロトン酸誘導体としては、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、クロトン酸プロピル、クロトン酸ブチル、クロトン酸イソブチル、クロトン酸n−アミル、クロトン酸イソアミル、クロトン酸n−ヘキシル、クロトン酸2−エチルヘキシル、およびクロトン酸ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
【0024】
アクリル系重合体の具体例としては、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリロニトリル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリロニトリル−テトラエチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリロニトリル−メトキシポリエチレングリコール−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−ジエチレングリコールジメタクリレート共重合体、メタクリル酸2−エチルヘキシル−アクリル酸エチル−アクリルニトリル−ポリエチレングリコールジアクリレート共重合体、アクリル酸エチル−アクリルニトリル−イタコン酸共重合体などが挙げられる。
【0025】
ジエン系重合体とは、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエンなどの共役ジエンおよびこれらの混合物を重合してなる繰り返し単位を、重合体中50モル%以上有する単独重合体または共重合体である。
【0026】
ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、およびスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0027】
本発明で用いる重合体の電解液に対する膨潤度は、2〜10倍が好ましく、2〜5倍がさらに好ましい。膨潤度が上記範囲であると電池のサイクル寿命が良好である。膨潤度とは重合体を電解液(LiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(質量比)1M溶液)に60℃において72時間浸漬したときの重合体の質量変化率(倍)を示す。
【0028】
本発明で用いる重合体は、ゲルの有無については特に限定されないが、耐電解液性に優れるため、ゲルを含むものが好ましい。ゲル含有量は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。本発明においてゲルとは、テトラヒドロフランに不溶である重合体をいい、ゲル含有量は重合体中のゲルの割合を質量%で表したものである。
【0029】
ゲルを含む重合体としては、架橋性基を有する単量体、または2官能性以上の多官能性単量体を共重合させた重合体が挙げられる。
【0030】
架橋性基とは、加熱や紫外線照射により、架橋する基である。架橋させるために、開始剤または促進剤などを用いても良い。架橋性基としては、エポキシ基、ヒドロキシル基、N−メチロールアミド基およびオキサゾリル基などが挙げられ、この中でも、エポキシ基およびヒドロキシル基が好ましい。架橋性基を有する単量体は1種類用いてもいいし、複数種類用いても良い。
【0031】
架橋性基を有する単量体を共重合させたアクリル系重合体としては、アクリル酸ブチル−アクリル酸−2−ビニル−2−オキサゾリン共重合体、アクリル酸エチル−アクリロニトリル−アリルグリシジルエーテル共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸共重合体、アクリル酸エチル−アクリル酸2−エチルヘキシル−メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0032】
多官能性単量体としては、エチレングリコールジメタクリレートやジビニルベンゼンが挙げられ、多官能性単量体を共重合させたアクリル系重合体としては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル−アクリロニトリル−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、スチレン−ブタジエン−ジビニルベンゼン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリルニトリル−ジメタクリル酸エチレン共重合体などが挙げられる。
【0033】
テトラヒドロフラン可溶分、あるいはゲルを含まない重合体の重量平均分子量は、5,000〜5,000,000が好ましく、10,000〜2,000,000がさらに好ましく、50,000〜1000,000が特に好ましい。分子量がこの範囲であると、活物質の分散性が良好であり、また、これを用いて製造した電極用スラリーの塗工性も良好である。重量平均分子量はゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算値として測定することが出来る。
【0034】
本発明の結着剤組成物中の重合体の含有量は、有機溶剤に溶解または分散する場合、該結着剤組成物に対して4〜13質量%が好ましく、6〜11質量%がさらに好ましく、7〜10質量%が特に好ましい。また、水に溶解または分散する場合は、20〜60質量%が好ましく、30〜50質量%がさらに好ましい。重合体の濃度がこれらの範囲であると、これを用いて製造した電極用スラリーの粘度が適正となり、塗工性に優れたものとなる。
【0035】
(水・有機溶媒)
本発明の結着剤組成物は、重合体を有機溶媒または水に、溶解または分散してなる。リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池の製造に用いられる場合、製造中に使用した水が電池内に混入すると電解液の劣化を引き起こし、電池の寿命、安全性が低下する。前述の観点から、水よりも有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0036】
水としては、イオン交換樹脂で処理された水(イオン交換水)および逆浸透膜浄水システムにより処理された水(超純水)などが挙げられる。
【0037】
有機溶媒としては、シクロペンタン、およびシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、およびキシレンなどの芳香族炭化水素類;エチルメチルケトン、およびシクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、およびε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、およびプロピオニトリルなどのニトリル類;テトラヒドロフラン、およびエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、およびエチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、およびN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。集電体への塗布性や結着剤の分散性が良好なのでN−メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)が、特に好ましい。
【0038】
(溶解・分散方法)
前記重合体を前記有機溶媒または水に、溶解または分散させる方法は特に限定されない。例えば、溶解する方法としては、撹拌式、振とう式、および回転式などの溶解装置を使用した方法が挙げられる。また、分散させる方法としては、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0039】
本発明の結着剤組成物は、下記(A)および(B)の含有率の合計が300ppm以下であることを特徴とする。
【0040】
(A)前記重合体に含まれる繰り返し構造を、重合により形成するための単量体(以下、単に「単量体」という。)
(B)前記単量体が反応してなる重量平均分子量3,000以下のオリゴマー(以下、単に「オリゴマー」という。)
(単量体及びオリゴマー)
本発明の結着剤組成物中の単量体は、重合体を製造(すなわち重合)する際に未反応で残存した単量体である。また、本発明の結着剤組成物中のオリゴマーは、重合における副生成物であり、重合に用いた単量体が反応してなる重量平均分子量が3、000以下の化合物である。本発明において、オリゴマーの重量平均分子量とは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0041】
(単量体及びオリゴマーの含有率)
本発明の結着剤組成物中の単量体及びオリゴマーの含有率の合計は、該結着剤組成物に対して300ppm以下であり、200ppm以下が好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。また、単量体の含有率は50ppm以下が好ましく、30ppm以下がさらに好ましい。含有率が、上記の範囲の場合、均質性および安定性に優れた電極用スラリーの製造が可能である。本発明の目的を達成する上では、結着剤組成物に含まれる単量体及びオリゴマーの合計含有率は低いほど好ましいと考えられるが、これらの合計含有率があまりに低すぎる場合には、固体電解質界面(SEI:Surface−Electrolyte Interface)が均一に形成されず電池の寿命特性が低下するおそれがあることが見いだされた。したがって、結着剤組成物に含まれる単量体及びオリゴマーの合計含有率は、0.1ppm以上であることが好ましい。
【0042】
本発明の結着剤組成物に界面活性剤が含有される場合は、その含有率が、該結着剤組成物に対して300ppm以下であることが好ましい。含有率が、上記の範囲の場合、さらに均質性および安定性に優れた電極用スラリーの製造が可能となる。本発明の結着剤組成物に含有される界面活性剤としては、重合体を乳化重合で得る場合に使用した界面活性剤が挙げられる。乳化重合で使用される界面活性剤の具体例は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩などである。
【0043】
単量体、オリゴマーおよび界面活性剤の含有率の合計(以下、単量体、オリゴマーおよび界面活性剤を総じて「低分子量成分」、それらの含有率の合計を「低分子量成分含有率」という。)の少ない結着剤組成物を製造する方法は、特に限定されないが、低分子量成分含有率の少ない重合体または重合体溶液を得て、それを用いる方法、および結着剤組成物の製造段階で低分子量成分を除去する方法などがある。
【0044】
低分子量成分含有率の少ない重合体または重合体溶液を得る方法としては、重合時の条件を適正化させる方法、および重合体を精製する方法がある。具体例としては、重合温度や重合時間を適正化して、単量体の重合反応率を向上させる方法、開始剤や連鎖移動剤の量を適正化して、オリゴマーの副生成量を低減させる方法、単量体組成や撹拌速度を適正化して、界面活性剤の使用量を削減する方法、および重合体を再沈殿などにより精製する方法などが挙げられる。
【0045】
結着剤組成物の製造段階で低分子量成分を除去する方法としては、以下の方法などが挙げられる。第1の方法は、例えば、乳化重合により製造した重合体エマルジョンと、有機溶媒としてNMPとを用いて結着剤組成物を製造する場合(すなわち、水をNMPに置換する場合)、該エマルジョンと大量のNMPとを混合した後、減圧下で水および低分子量成分を除去する方法である。第2の方法は、例えば、乳化重合により製造した重合体エマルジョンに大量の水を加えて、水蒸気蒸留により低分子量成分を除去しながら、濃度調整を行う方法である。第3の方法は、例えば、結着剤溶液をモレキュラーシーブスなどの吸着剤と接触させ、低分子量成分を吸着除去する方法である。第4の方法は、例えば、結着剤組成物がNMPなどの溶媒に溶解または分散されてなる場合、結着剤組成物を水と接触させ、水溶性単量体などの低分子量成分を水層に抽出し、その後分液することにより除去する方法である。これらの方法は単独で用いても良く、複数組み合わせても良い。
【0046】
これらの中でも低分子量成分を効率的に除去するためには第1の方法が好ましい。この時の低分子量成分を除去する条件は、例えば圧力は大気圧以下であり、好ましくは95kPa以下であり、温度は30〜150℃、好ましくは80〜120℃である。また、界面活性剤を効率的に除去するためには第4の方法が好ましい。
【0047】
(測定方法)
結着剤組成物中のオリゴマーの含有率、および単量体の含有率の測定方法は、特に限定されないが、例えば、オリゴマーの含有率はゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)、単量体の含有率はガス・クロマトグラフィー(GC)の方法で測定できる。
【0048】
(電極用スラリー)
本発明の電極用スラリーは、本発明の結着剤組成物および活物質を含む電極用スラリーであり、正極および負極のいずれにも用いることが出来る。
【0049】
電極用スラリーの調製方法は特に限定されないが、通常は、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、およびホバートミキサーなどの混合機を用いて混合する。混合時間は特に限定されないが、日本工業規格JIS K5600−2−5:1999に準拠したゲージ(粒ゲージ)により測定される凝集物の粒子径が100μm以下となるまで混合することが好ましい。電極用スラリーの濃度は、不揮発分の体積分率として60%〜90%が好ましい。電極用スラリーの濃度がこの範囲であると、活物質層中の空隙率を小さくできるので好適である。
【0050】
活物質層の空隙とは、活物質間に生じる空洞をいい、空隙率は活物質を構成する材料の密度と配合量から求められる理論密度と実測密度との差から算出できる。
【0051】
電極用スラリーに用いられる分散媒は、活物質を分散する液体であれば特に限定されないが、例えば、前記結着剤組成物に用いる有機溶媒および水が挙げられる。分散媒は、結着剤組成物の製造に用いたものと同一でもよく、異なってもよい。また、分散媒は、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
(活物質)
本発明で用いる活物質は、電解質中で電位をかける事により可逆的にリチウムイオンを挿入放出できるものであれば良く、無機化合物でも有機化合物でも用いることが出来る。
【0053】
正極用の活物質としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFeVO
4、Li
xNi
yCo
zMn
wO
2(ただし、x+y+z+w=2である)などのリチウム含有複合金属酸化物;LiFePO
4、LiMnPO
4、LiCoPO
4などのリチウム含有複合金属オキソ酸化物塩;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
3などの遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O‐P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13などの遷移金属酸化物;および、これらの化合物中の遷移金属の一部を他の金属で置換した化合物などが例示される。さらに、ポリアセチレン、ポリ‐p‐フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。また、これらの表面の一部または全面に、炭素材料や無機化合物を被覆させたものも用いられる。
【0054】
また、負極用の電極活物質としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などの炭素材料、ポリアセン等の導電性高分子などが挙げられる。また、リチウムと合金化可能なSi、Sn、Sb、Al、ZnおよびWなどの金属も挙げられる。電極活物質は、機械的改質法により表面に導電材を付着させたものも使用できる。
【0055】
これらのうち、高い容量を得やすく、高温で安定であり、リチウムイオンの挿入放出に伴う体積変化が小さく、電極厚み変化率を小さくし易いという点から、正極活物質としてリチウム含有複合金属酸化物およびリチウム含有複合金属オキソ酸化物、負極活物質としては炭素材料が好ましい。
【0056】
活物質の粒子形状は活物質層中の空隙率を小さくできるため、球形に整粒されたものが好ましい。また、粒子径については体積平均粒子径が0.8〜2μmである細かな粒子と体積平均粒子径が3〜8μmである比較的大きな粒子の混合物、および0.5〜8μmにブロードな粒径分布を持つ粒子が好ましい。粒子径が50μm以上の粒子が含まれる場合は、篩い掛けなどによりこれを除去して用いるのが好ましい。電極活物質のタップ密度が正極で2g/cm
3以上、負極で0.8g/cm
3以上であればさらに好ましい。
【0057】
(導電材)
本発明の電極用スラリーは、導電材を含有してもよい。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、非水電解質二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電材の使用量は、活物質100質量部に対して通常0〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0058】
(増粘剤)
本発明の電極用スラリーは、前記重合体以外の増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系増粘剤、エチレンとビニルアルコールとの共重合体などが挙げられる。増粘剤の配合量は、活物質100質量部に対して、0.5〜1.5質量部が好ましい。増粘剤の配合量がこの範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。
【0059】
(電極)
本発明の電極は、本発明の電極用スラリーを塗布、乾燥してなる活物質層および集電体を有する電極である。本発明の電極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記電極用スラリーを集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布、加熱乾燥して活物質層を形成する方法である。電極用スラリーを集電体へ塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。乾燥方法としては例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0060】
次いで、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により活物質層の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難かったり、活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。
【0061】
さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0062】
本発明の電極の活物質層の厚さは、通常5μm以上、300μm以下であり好ましくは30μm以上250μm以下である。
【0063】
(集電体)
本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、非水電解質二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、合剤の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0064】
(非水電解質二次電池)
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の電極を正極および負極の少なくとも一方の電極として具えてなる非水電解質二次電池である。本発明の効果をより良好に奏するためには、正極あるいは負極のいずれか一方の厚い方に用いることが好ましく、正極および負極の両方に用いていることがさらに好ましい。
【0065】
(電解液)
本発明に用いられる電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0066】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、Li
3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0068】
(セパレータ)
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂;など公知のものを用いることができる。
【0069】
(電池の製造方法)
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特に断りがない限り質量基準である。
【0071】
実施例及び比較例中の試験は以下の方法で行った。
【0072】
(評価方法)
(1)結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量
結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は、結着剤組成物をテトラヒドロフランにて容積比で3倍に希釈し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定したピーク位置より、予め作成した検量線を用いて算出した。なお、重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算値である。
【0073】
(2)単量体の含有率
単量体の含有率は、結着剤組成物をNMPにて重量比で9倍に希釈し、ガス・クロマトグラフィー(GC)で測定したピーク面積より、予め作成した検量線を用いて算出した。
【0074】
(3)オリゴマーの含有率
オリゴマーの含有率は、結着剤組成物をテトラヒドロフランにて容積比で3倍に希釈し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定したピーク面積より、予め作成した検量線を用いて算出した。なお、重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算値である。
【0075】
(4)電極用スラリー安定性
電極用スラリー安定性は、以下の方法により評価した。電極用スラリー30ccを内径15mmの円筒状のガラス瓶に採取し、室温で静置後、24時間後および72時間後に、沈降物の有無を目視で確認した。安定性を以下の基準で判定した。ここにおいて、沈降するまでの日数が長いほど、安定性に優れる。
A: 72時間後に沈降物が確認されなかった。
B: 24時間後に沈降物が確認されず、72時間後に沈降が確認された。
C: 24時間後に沈降物が確認された。
【0076】
(5)電極の厚み精度
電極の厚み精度は表面粗さにより評価した。電極を10mm×50mmの短冊に裁断し、試料片を5枚製造した。測定は日本工業規格JIS B0651:2001に準拠した触針式表面粗さ測定機(触針先端の半径=0.5μm)で行った。日本工業規格JIS B0601:2001)に準じ、得られた輪郭曲線より、算術平均粗さRaを測定した。5枚の試料片で測定を行い、平均値を算出し、下記の基準で判断した。値が小さいほど電極表面が平滑であることを示す。
A+: <0.10μm
A: 0.10〜0.50μm
A−: 0.50〜1.00μm
B: 1.00〜3.00μm
C: >3.00μm
【0077】
(6)電極密度のばらつき
電極密度のばらつきの評価は、以下の方法で評価した。電極を直径30mmの円盤状に打ち抜き、これをサンプルとした。50個のサンプルについてその質量および厚さを測定し、集電体を除いた密度を求めた。その標準偏差(σ
n-1)を算出し、下記の基準で判断した。値が小さいほど、電極構造が均質な構造であることを示す。
A+: <0.005
A: 0.005〜0.01
A−: 0.01〜0.05
B: 0.05〜0.1
C: >0.1
【0078】
(7)電池性能のばらつき
電池セル50個を20℃で0.1Cの定電流で4.3Vまで充電し、次いで0.1Cの定電流で3.0Vまで放電した。この充放電を1サイクルとして、100サイクル充放電を繰り返した。100サイクル目の放電容量を測定し、その標準偏差(σ
n-1)を算出し、下記の基準で判定した。値が小さいほど製造した電池の性能のばらつきが少ないことを示す。
A+: <0.5
A: 0.5〜1.0
A−: 1.0〜2.0
B: 2.0〜5.0
C: >5.0
【0079】
<負極用電極の製造例>
メゾカーボンマイクロビーズ(MCMB:大阪ガスケミカル社製、グレード10・28、粒径(D50)9〜15μm)500部およびポリフッ化ビニリデン(PVDF:呉羽化学工業社製、KF1300)の12%NMP溶液125部をプラネタリーミキサーに入れた。NMPを加えて固形分濃度70.5%に調製した後、60rpmで60分混合した。次いで、混合しながらNMPを添加して固形分濃度63.5%とした後に、減圧下で脱泡処理して艶のある流動性の良い負極用スラリーを得た。この負極用スラリーをコンマコーターで厚さ18μmの銅箔上に乾燥後の膜厚が100μm程度になるように両面に塗布し、60℃で20分乾燥後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延して厚さ170μmの負極用電極を得た。
【0080】
(実施例1)
イオン交換水300部、アクリル酸エチル50部、アクリル酸2−エチルヘキシル40部、メタクリル酸グリシジル8部、メタクリル酸2部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部および過硫酸カリウム1.0部を反応器に入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体水分散液a(固形分濃度20%)を得た。重合体水分散液a中の固形分に対して、10倍量の酢酸エチル、3倍量の水を加え、分液することにより、未反応の単量体を抽出除去した。これに10倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃にて水を除去することにより、結着剤組成物(重合体のNMP分散液、固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は350,000であった。
【0081】
アセチレンブラック(電気化学工業社製、「デンカブラック」粉状品)20部と、のLiCoO
2(平均粒子径3.8μm、タップ密度2.7g/cm
3)1,000部をプラネタリーミキサーに入れ、結着剤組成物の9質量%NMP分散液133部とNMPを加えて固形分濃度を81%とし、60rpmで60分混合した。ついでNMPを混合しながら添加して固形分濃度を77%とし、減圧下で脱泡処理して艶のある流動性の良いスラリーを得た。電極用スラリーの安定性の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0082】
このスラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミニウム箔上に乾燥後の膜厚が110μm程度になるように両面に塗布し、120℃で10分乾燥させた後に合剤の密度が3.6×10
3kg/m
3、となるようにロールプレスでプレスさせた。次いで、60℃17時間760mmHgで乾燥処理させ、厚さ190μmの正極用電極を得た。表面粗さ、電極密度のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0083】
得られた正極用電極を幅54mm×長さ480mmに裁断し、片面のみ端部より長さ方向に10mmまで電極層を除去して集電体を露出させた。また負極用電極を幅56mm×長さ510mmに裁断し、正極用電極と同様にして片面のみ10mm幅で集電体を露出させた。
【0084】
次いで上記正極用電極と負極用電極を用い、両極の集電体を露出させていない面が対向し、かつ集電体を露出させた部分が長さ方向で逆側になるように配置してセパレータを挟み、さらに負極用電極の集電体を露出させた面の活物質層上にセパレータを積層した。なお、セパレータとしては、厚さ20μmの多孔性ポリエチレン製シートを用いた。
【0085】
これを正極用電極の集電体露出面を起点にして直径3mmのアルミ製集電棒に渦巻状に巻きつけて、最外面が負極用電極である電極積層体を得た。この電極積層体を外径18mmで高さ67mmの有底円筒状のステンレス鋼製電池ケース内に挿入し、正極リード体および負極リード体の溶接を行った。ついで電極タブを接合し脱気し、電解液を注入した後、封口板を取り付けて筒形リチウムイオン二次電池を製造した。なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPF
6を1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2)
イオン交換水300部、アクリル酸エチル72部、アクリルニトリル25部、イタコン酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部および過硫酸カリウム1.0部を反応器に入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体水分散液b(固形分濃度20%)を得た。重合体水分散液b中の固形分に対して、8倍量の酢酸エチル、2倍量の水を加え、分液することにより、未反応の単量体を抽出除去した。これに10倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃にて水を除去することにより、結着剤組成物(重合体のNMP分散液、固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は280,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極およびリチウムイオン二次電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0087】
(実施例3)
イオン交換水300部、アクリル酸ブチル65部、アクリルニトリル30部、ジメタクリル酸エチレン5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部および過硫酸カリウム1.0部を反応器に入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合し、重合体水分散液c(固形分濃度20%)を得た。重合体水分散液c中の固形分に対して、18倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃に加熱して、水を除去し、低分子量成分含有率を低減させた結着剤組成物(固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は530,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極およびリチウムイオン二次電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例4)
重合体水分散液a中の固形分に対して、18倍量のNMPを加え、該混合溶液を攪拌しながら真空ポンプにて減圧し、80℃に加熱して、水分を除去し、結着剤組成物(固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は350,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極およびリチウムイオン二次電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
重合体水分散液aを−20℃に冷却し凍結させることにより、重合体粒子を肥大化させた。次いで、常温にし水を除去し、篩い分けすることで該重合体粒子を取り出した。取り出した重合体粒子を大量の水で3回洗浄し、120℃5時間乾燥した後、NMPに溶解させ、結着剤組成物(固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は350,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極およびリチウムイオン二次電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
重合体水分散液aの代わりに重合体水分散液bを用いた外は比較例1と同様にして、結着剤組成物(固形分濃度10%)を得た。単量体およびオリゴマーの含有率の測定結果を表1に示す。得られた結着剤組成物中の重合体の重量平均分子量は280,000であった。この結着剤組成物を用いた外は実施例1と同じ方法で電極用スラリー、正極用電極および電池を製造した。電極用スラリーの安定性、電極の表面粗さ、電極密度のばらつき、および電池性能のばらつきの評価結果を表1に示す。
【0091】
表1に示したとおり、本発明の結着剤組成物(実施例1〜4)は、安定性に優れており、これを用いて製造した電極は膜厚および密度のばらつきの小さいものであった。さらにこの電極を具えたリチウムイオン二次電池は電池特性のばらつきの小さい良好な結果を示した。これに対して、比較例1〜2の結着剤組成物は沈降が早く、これを用いて製造した電極および電極は、劣った結果を示した。