(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記タングステン混合物に含まれるタングステン量を、前記リチウム金属複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、0.05〜2.0原子%とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
一般式:LizNi1−x−yCoxMyWaO2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有し、前記タングステン酸リチウムに含まれるLi4WO5の存在比率が50〜90mol%であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
前記リチウム金属複合酸化物の表面に存在するタングステン酸リチウム以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量が、正極活物質全量に対して0.08質量%以下であることを特徴とする請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
前記タングステン酸リチウムに含有されるタングステン量が、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.05〜2.0原子%であることを特徴とする請求項10及び11に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
前記タングステン酸リチウムが、粒子径1〜200nmの微粒子及び膜厚1〜150nmの被膜の両形態として前記リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について、まず本発明の正極活物質について説明した後、その製造方法と本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。
【0035】
(1)正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一次粒子、および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、正極活物質の組成が一般式:Li
zNi
1−x−yCo
xM
yW
aO
2+α(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、0<a≦0.03、0≦α≦0.15、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、そのリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有し、前記タングステン酸リチウム中に含まれるLi
4WO
5の存在比率が50〜90mol%であることを特徴とするものである。
【0036】
本発明においては、母材として一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.30、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物を用いることにより、高い充放電容量を得るものである。より高い充放電容量を得るためには、上記一般式において、x+y≦0.2、0.95≦z≦1.10とすることが好ましい。高い熱的安定性が要求される場合には、x+y>0.2とすることが好ましい。
さらに、その母材が一次粒子と一次粒子が凝集して形成された二次粒子とから構成されたリチウム金属複合酸化物粉末(以下、二次粒子と単独で存在する一次粒子を合わせて「リチウム金属複合酸化物粒子」ということがある。)の形態を採り、その一次粒子表面に形成されたタングステン酸リチウム中に含まれるLi
4WO
5の存在比率(以下、Li
4WO
5存在比率という)が50〜90mol%であることにより、ガス発生量の増加を抑制するとともに充放電容量を維持しながら出力特性を向上させるものである。
【0037】
一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
対して、本発明においては、リチウム金属複合酸化物粒子の表面及び内部の一次粒子表面にタングステン酸リチウムを形成させているが、このタングステン酸リチウムは、リチウムイオン伝導性が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粒子の一次粒子表面に上記タングステン酸リチウムを形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、正極抵抗ということがある。)を低減して電池の出力特性を向上させるものである。
すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印加される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印加電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池の充放電容量(以下、「電池容量」ということがある。)も向上するものである。
【0038】
ここで、このタングステン酸リチウムの中で、Li
4WO
5存在比率を50〜90mol%とすることが重要である。
即ち、タングステン酸リチウムはLi
2WO
4、Li
4WO
5、Li
6W
2O
9など多くの存在形態を有するが、Li
4WO
5は、リチウムイオン伝導性が高く、一次粒子の表面にLi
4WO
5を存在させることで、正極活物質の反応抵抗がより大きく低減されるため、より大きな出力特性向上の効果が得られる。さらに、正極抵抗の低減により、電池容量の向上も可能となる。
【0039】
しかしながら、タングステン酸リチウムをLi
4WO
5のみとすると電池の高温保存時におけるガス発生量が増加するため、安全性上の問題が生じる。ガス発生量が増加する原因の詳細は不明であるが、Li
4WO
5はLiが溶媒、特に水分によって解離しやすいためと考えられる。
【0040】
したがって、本発明においては、このLi
4WO
5存在比率を50〜90mol%、好ましくは50〜80mol%とすることで、ガス発生量の増加を抑制しながら、反応抵抗の大きな低減効果を得ている。
一方、Li
2WO
4は、Li
4WO
5ほどは高くないが、高いリチウムイオン伝導率を有し、かつ水分によって解離しにくいため、電池の高温保存時におけるガス発生量の抑制効果が高い。
【0041】
したがって、一次粒子の表面に形成させたタングステン酸リチウム中に含まれるLi
2WO
4の存在比率(以下、Li
2WO
4存在比率という)を10〜50mol%とし、かつLi
4WO
5とLi
2WO
4の合計の存在比率を90mol%以上とすることが好ましい。この状況により、ガス発生量の増加をさらに抑制しながら、反応抵抗の大きな低減効果が得られる。
【0042】
タングステン酸リチウムの存在形態の測定は、存在形態がモル比で特定可能であればよく、X線や電子線を用いた機器分析により可能である。また、塩酸によるpH滴定分析によって算出してもよい。
【0043】
さらに、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面にタングステン酸リチウム(以下、「LWO」ということがある。)が形成されていることが重要である。ここで、本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子の表面と二次粒子の外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子の表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
【0044】
この電解液との接触は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の外面のみでなく、上記二次粒子の表面近傍および内部の一次粒子間の空隙、さらには上記不完全な粒界でも生じるため、上記一次粒子表面にもLWOを形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。したがって、電解液との接触が可能な一次粒子表面のより多くにLWOを形成させることで、正極活物質の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0045】
さらに、LWOの一次粒子表面上における形態は、一次粒子表面を層状物で被覆した場合には、電解液との接触面積が小さくなってしまう、また、層状物を形成すると、化合物の形成が特定の一次粒子表面に集中するという結果になり易い。即ち、被覆物としての層状物が高いリチウムイオン伝導性を持っていることにより、充放電容量の向上、正極抵抗の低減という効果が得られるものの、十分ではなく改善の余地がある。
【0046】
したがって、より高い効果を得るため、LWOは、粒子径1〜200nmの微粒子としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
このような形態を採ることにより、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導性を効果的に向上できるため、充放電容量を向上させるとともに正極抵抗をより効果的に低減させることができる。その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、粒子径が200nmを超えると、微粒子の一次粒子表面における形成が不均一になり、正極抵抗低減のより高い効果が得られない場合がある。
【0047】
ここで、微粒子は完全に一次粒子表面の全面において形成されている必要はなく、点在している状態でもよい。点在している状態でも、リチウム金属複合酸化物粒子の外面および内部の一次粒子表面に微粒子が形成されていれば、正極の反応抵抗の低減効果が得られる。
【0048】
また、微粒子は、全てが粒子径1〜200nmの微粒子として存在する必要がなく、好ましくは一次粒子表面に形成された微粒子の個数で50%以上が、1〜200nmの粒子径範囲で形成されていれば高い効果が得られる。
【0049】
一方、一次粒子表面を薄膜で被覆すると、比表面積の低下を抑制しながら、電解液との界面でLiの伝導パスを形成させることができ、より高い充放電容量の向上、正極抵抗の低減という効果が得られる。このような薄膜状のLWOにより一次粒子表面を被覆する場合には、膜厚1〜150nmの被膜としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
その膜厚が1nm未満では、被膜が十分なリチウムイオン伝導性を有しない場合がある。また、膜厚が150nmを超えると、リチウムイオン伝導性が低下し、正極抵抗低減のより高い効果が得られない場合がある。
【0050】
しかし、この被膜は、一次粒子表面上で部分的に形成されていてもよく、全ての被膜の膜厚範囲が1〜150nmでなくてもよい。一次粒子表面に少なくとも部分的に膜厚が1〜150nmの被膜が形成されていれば、高い効果が得られる。
さらに、微粒子形態と薄膜の被膜形態が混在して一次粒子表面にLWOが形成されている場合にも、電池特性に対する高い効果が得られる。
【0051】
一方、リチウム金属複合酸化物粒子間で不均一にタングステン酸リチウムが形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性や出力特性の悪化を招きやすい。
したがって、リチウム金属複合酸化物粒子間においても均一にタングステン酸リチウムが形成されていることが好ましい。
【0052】
このようなリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面の性状は、例えば、電界放射型走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより判断でき、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質については、リチウム金属複合酸化物からなる一次粒子表面にタングステン酸リチウムが形成されていることを確認している。
したがって、このタングステン酸リチウムの形成量は、反応抵抗を低減させるために十分な量であって、かつ電解液との接触が可能な一次粒子表面を十分に確保できる量とすることが必要である。
【0053】
このようなリチウム金属複合酸化物粒子の表面に存在するタングステン酸リチウム以外のリチウム化合物に含有されるリチウム量(以下、余剰リチウム量という。)は、正極活物質の全量に対して0.08質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
余剰リチウム量を0.08質量%以下とすることで、高温時のガス発生をより効果的に抑制することを可能としている。
即ち、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面には、タングステン酸リチウム以外にも水酸化リチウムおよび炭酸リチウムが存在し、リチウム金属複合酸化物表面に存在する余剰リチウム量を制御することで、水酸化リチウムおよび炭酸リチウムが原因として生じる電池の高温保存時のガス発生をより効果的に抑制することができる。
【0054】
さらに、タングステン酸リチウムに含まれるタングステン量は、リチウム金属複合酸化物に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、3.0原子%以下、好ましくは0.05〜2.0原子%である。これにより、出力特性の改善効果が得られる。さらに、0.05〜2.0原子%とすることで、LWOの形成量を正極抵抗を低減させるために十分な量とするとともに、電解液との接触が可能な一次粒子表面を十分に確保できる量とすることができ、高い充放電容量と出力特性をさらに両立することができる。
タングステン量が0.05原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合があり、タングステン量が3.0原子%を超えると、形成されるタングステン酸リチウムが多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物と電解液のリチウム伝導が阻害され、充放電容量が低下することがある。
【0055】
また、正極活物質全体のリチウム量は、タングステン酸リチウムに含まれるリチウム分だけ増加するが、正極活物質中のNi、CoおよびMの原子数の和(Me)とLiの原子数との比「Li/Me」が、0.95〜1.30であり、0.97〜1.25であることが好ましく、0.97〜1.20であることがより好ましい。これにより、芯材としてのリチウム金属複合酸化物粒子のLi/Meを好ましくは0.95〜1.25、より好ましくは0.95〜1.20として高い電池容量を得るとともに、LW化合物の形成に十分な量のリチウムを確保することができる。より高い電池容量を得るためには、正極活物質全体のLi/Meを0.95〜1.15、リチウム金属複合酸化物粒子のLi/Meを0.95〜1.10とすることがさらに好ましい。ここで、芯材とはLW化合物を含まないリチウム金属複合酸化物粒子であり、リチウム金属複合酸化物粒子の一次粒子表面にLW化合物が形成されることで正極活物質となる。
そのLi/Meが0.95未満であると、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。また、Li/Meが1.30を超えると、正極活物質の初期放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。
【0056】
本発明の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子表面にタングステン酸リチウム形成させて出力特性を改善したものであり、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0057】
(2)正極活物質の製造方法
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法を工程ごとに詳細に説明する。
【0058】
[混合工程]
混合工程は、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成された層状構造の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物粉末と、そのリチウム金属複合酸化物粉末に対して2質量%以上の水分と、タングステン化合物、若しくはタングステン化合物およびリチウム化合物との混合物であり、含有されるタングステン(W)量に対するその水分と固体分のタングステン化合物、もしくはその水分と固体分のタングステン化合物およびリチウム化合物に含有される合計のリチウム(Li)量のモル比(以下、Liモル比という。)が3〜5であるタングステン混合物を得る工程である。
【0059】
タングステン混合物(以下、単に混合物という。)におけるリチウム金属複合酸化物粉末に対する水分は2質量%以上である。これにより、二次粒子外部と通じている一次粒子間の空隙や不完全な粒界まで水分とともにタングステン化合物に含まれるタングステンが浸透し、一次粒子表面に十分な量のWを分散させることができる。この水分の量は、2質量%以上であればよいが、過度に水分が多いと後工程の熱処理の効率が低下する、あるいは、リチウム金属複合酸化物粒子からのリチウムの溶出が増加して混合物中のLiモル比が高くなり過ぎるとともに、得られる正極活物質を電池の正極に用いた際の電池特性が悪化することがあるため、水分の量は20質量%以下とすることが好ましく、3〜15質量%とすることがより好ましく、3〜10質量%とすることがさらに好ましい。
水分の量を上記範囲とすることで、水分中に溶出したリチウム分によりpHが上昇して、過剰なリチウムの溶出を抑制する効果を示す。なお、リチウム金属複合酸化物粉末におけるCoおよびMのモル比は、正極活物質まで維持される。
【0060】
使用するタングステン化合物は、二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させるため、混合物に含有される水分に溶解する水溶性であることが好ましい。即ち、使用するタングステン化合物には、水溶液の状態のタングステン化合物も含むものである。
【0061】
この水溶液の状態で存在するタングステン化合物は、二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透できる量があればよいため、一部は固体の状態で混合されていてもよい。また、常温では、水に溶解させることが困難であっても、熱処理時の加温で水に溶解する化合物であればよい。さらに、混合物中の水分は含有されるリチウムによってアルカリ性となるため、アルカリ性において溶解可能な化合物であってもよい。
【0062】
このように、タングステン化合物は水に溶解可能であれば限定されるものではないが、酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどが好ましく、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン、タングステン酸リチウム、タングステン酸アンモニウムがより好ましく、酸化タングステン、タングステン酸リチウムがさらに好ましい。
【0063】
この混合物のLiモル比は、3.0以上5.0以下とする。
これにより、得られる正極活物質のLi
4WO
5存在比率を50〜90mol%とすることができる。Liモル比が3.0未満になると、Li
4WO
5存在比率が50mol%未満になり、Liモル比が5.0を超えると、Li
4WO
5存在比率が90mol%を超えるとともに、余剰リチウム量が、正極活物質の全量に対して0.08質量%を超えてしまう。
そこで、Li
4WO
5存在比率の制御と余剰リチウム量低減の観点から、Liモル比は4.5未満であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。なお、添加するタングステン化合物によっては、Liモル比が3.0未満になる場合があるが、その場合には、リチウム化合物を添加して不足分を補えばよく、リチウム化合物としては水酸化リチウム(LiOH)などの水溶性化合物が好ましい。
【0064】
さらに、この混合物中に含まれるタングステン量を、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対して、3.0原子%以下とすることが好ましく、0.05〜2.0原子%とすることがより好ましい。これにより、正極活物質中におけるタングステン酸リチウムに含まれるタングステン量を好ましい範囲とすることができ、正極活物質の高い充放電容量と出力特性をさらに両立することができる。
【0065】
この混合工程においては、混合物の水分が2質量%以上となるようにタングステン化合物とともに水分を供給して混合すればよく、タングステン化合物の水溶液やタングステン化合物と水を個別に供給してもよい。
一方、金属複合水酸化物、もしくは金属複合酸化物とリチウム化合物を焼成して得られたリチウム金属複合酸化物粉末は、二次粒子や一次粒子の表面に未反応のリチウム化合物が存在している。このため、この混合物を構成する水分に存在するリチウム量が多くなり過ぎ、Liモル比を制御することが困難になることがある。
【0066】
したがって、混合物を得る前に、リチウム金属複合酸化物粉末を水と混合しスラリー化して水洗する水洗工程を備えることが好ましく、水分量を調整するため、水洗後に固液分離する固液分離工程を備えることが好ましい。
この水洗工程を備えることにより、混合物中の水分中に存在するリチウム量を低減してLiモル比の制御を容易にすることができる。
【0067】
水洗工程における水洗条件は、未反応のリチウム化合物を十分に低減、例えば、リチウム金属複合酸化物粒子の全量に対して好ましくは0.08質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下に低減できればよく、スラリー化する際には、スラリーに含まれるリチウム金属複合酸化物粉末の濃度を、水1Lに対して200〜5000gとして撹拌することが好ましい。
リチウム金属複合酸化物粉末の濃度をこの範囲とすることで、リチウム金属複合酸化物粒子からのリチウムの溶出による劣化を抑制しながら、未反応のリチウム化合物をより十分に低減することができる。
水洗時間、水洗温度も未反応のリチウム化合物を十分に低減可能な範囲とすればよく、例えば、水洗時間は5〜60分間、水洗温度は10〜40℃の範囲とすることが好ましい。
【0068】
本発明においては、上記のような混合物が得られれば、タングステン化合物を添加する工程は制限されないが、水洗工程を備える場合、水洗工程後に混合工程を完了させることが好ましい。水洗工程前に混合物を得てしまうと、水洗によってタングステン化合物が洗い流されるため、混合物中のタングステン量が不足してしまうことがある。
したがって、水洗工程を備える場合、少なくとも水洗工程中、固液分離工程後のいずれかにおいてタングステン化合物を添加して、所定の混合物を得ることが好ましい。
【0069】
そこで、タングステン化合物を水洗工程において添加する場合、予めリチウム金属複合酸化物粉末と混合する水にタングステン化合物を加えて水溶液や懸濁液としてもよく、スラリー化後に添加してもよい。また、合計リチウム量の制御を容易にするため、タングステン化合物は、水洗時のスラリーに全溶解するタングステン化合物が好ましい。また、水に難溶性のタングステン化合物、あるいはリチウムを含まない化合物を用いることが好ましい。
これらにより、混合物中の固体分のタングステン化合物から溶解するリチウムによる影響を小さくし、容易に混合物中の合計リチウム量を制御することが可能となる。
【0070】
一方、固液分離工程後にタングステン化合物を添加する場合においても、タングステン化合物は水溶液の状態でも、粉末の状態のいずれでもよい。固液分離工程後に添加する場合は、液成分とともに除去されるリチウムやタングステンがなく、タングステン化合物が全て混合物中に残留するため、Liモル比の制御が容易になる。
【0071】
さらに、水洗工程中にタングステン化合物を添加する際には、タングステン化合物は水溶液の状態でも、粉末の状態のいずれでもよく、タングステン化合物をスラリーに添加して撹拌することにより、均一な混合物が得られる。
使用するタングステン化合物に、水溶液の状態、あるいは水溶性化合物を用いると、水洗後の固液分離工程でスラリー中に溶解したタングステン化合物がスラリーの液成分とともに除去される。しかしながら、混合物中の水分に溶解しているタングステンにより、混合物中のタングステン量を充分なものとすることができる。
【0072】
混合物中のタングステン量は、水洗条件や固液分離条件により、水分量とともに安定したものとなるので、予備試験により、タングステン化合物の種類、添加量とともにこれらの条件を決定すればよい。
混合物中のタングステンに対する前記水分中とタングステン化合物中に含有される合計のリチウム量(以下、合計リチウム量という。)もタングステン量と同様に予備試験によって決定することができる。
【0073】
水洗工程においてタングステン化合物を添加した際の混合物中のタングステン量は、ICP発光分光法によって求めることができる。また、混合物の水分に含まれるリチウム量は、水洗後に固液分離した液成分中のICP発光分光法によるリチウムの分析値と水分量から求めることができる。
一方、混合物の固体分のタングステン化合物に含有されるリチウム量は、水洗後の液成分と同濃度の水酸化リチウム水溶液中にタングステン化合物を加えて水洗時と同条件で撹拌し、残渣として残るタングステン化合物の比率から混合物に固体分として残る量を算出し、固体分として残るタングステン化合物から求めることができる。
【0074】
また、固液分離工程後にタングステン化合物を添加した際の混合物に含まれるタングステン量は、添加するタングステン化合物量から求めることができる。一方、混合物の合計リチウム量は、水洗後に固液分離した液成分のICP発光分光法によるリチウムの分析値と水分量から求めた水分に含まれるリチウム量と、添加するタングステン化合物、もしくはタングステン化合物量およびリチウム化合物量から求めたリチウム量の和として算出すればよい。
【0075】
固液分離工程後にタングステン化合物を水溶液として添加した際、水分量は今まで述べてきたように好ましくは20質量%を超えることがないように、水溶液を調整する必要があり、タングステン濃度を0.05〜2mol/Lとすることが好ましい。
これにより、混合物の水分を抑制しながら、必要なタングステン量を添加することができる。水分量が20質量%を超えた場合には、再度、固液分離して水分を調整すればよいが、除去した液成分のタングステン量とリチウム量を求め、混合物のLiモル比を確認することが必要となる。
【0076】
混合物に含まれる水分量を2質量%以上とするため、固液分離工程後の混合は、50℃以下の温度で行うことが好ましい。50℃を超える温度とすると、混合中の乾燥により水分量が2質量%未満となることがある。
【0077】
タングステン化合物との混合は、均一に混合可能な装置であれば限定されず、一般的な混合機を使用することができる。例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度でタングステン化合物と十分に混合してやればよい。
【0078】
本発明の製造方法においては、得られる正極活物質の組成は、母材とするリチウム金属複合酸化物から混合工程において添加して増加するタングステンと必要に応じて添加されるリチウム分のみであるため、母材のリチウム金属複合酸化物は、高容量と低反応抵抗の観点より、公知である組成が一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0<x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦z≦1.25、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物を用いる。
【0079】
一方で、水洗する場合には、水洗時のリチウム溶出により、Li/Me(一般式におけるzに相当)が減少するため、予め予備試験によって減少量を確認しておき、水洗前の材料としてLi/Meを調整したリチウム金属複合酸化物を用いればよい。一般的な水洗条件によるLi/Meの減少量は0.03〜0.08程度である。
また、混合工程で水分を供給した際にも少量であるがリチウムが溶出する。したがって、母材のリチウム金属複合酸化物のLi/Meを示すzは、0.95≦z≦1.30とし、0.97≦z≦1.20とすることが好ましい。
【0080】
さらに、電解液との接触面積を多くすることが、出力特性の向上に有利であることから、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、二次粒子に電解液の浸透可能な空隙および粒界を有するリチウム金属複合酸化物粉末を用いることが好ましい。
【0081】
[熱処理工程]
熱処理工程は、作製した混合物を熱処理する工程である。
これにより、混合物の水分に含まれるリチウムとタングステンからタングステン酸リチウムがリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に形成され、非水系電解質二次電池用正極活物質が得られる。
LWOが形成されれば、その熱処理方法は特に限定されないが、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いたときの電気特性の劣化を防止するため、雰囲気中の水分や炭酸との反応を避け、酸素雰囲気などのような酸化性雰囲気、あるいは真空雰囲気中で100〜600℃の温度で熱処理することが好ましい。
【0082】
熱処理温度が100℃未満では、水分の蒸発が十分ではなく、LWOが十分に形成されない場合がある。一方、熱処理温度が600℃を超えると、リチウム金属複合酸化物の一次粒子が焼結を起こすとともに一部のタングステンがリチウム金属複合酸化物の層状構造に固溶してしまうために、電池の充放電容量が低下することがある。
【0083】
一方、混合物に含まれるタングステン化合物が固形物として残存している場合、特に固液分離工程後にタングステン化合物を粉末として添加した場合は、溶解が十分に行われる間、例えば90℃を超えるまでは昇温速度を0.8〜1.2℃/分とすることが好ましい。混合工程においてもタングステン化合物の粉末は混合物中の水分に溶解されるが、このような昇温速度とすることで、昇温中に固体のタングステン化合物を十分に溶解させ、二次粒子内部の一次粒子表面まで浸透させることができる。
【0084】
固体のタングステン化合物を溶解させる場合には、溶解が十分に行われる間は水分が揮発しないよう密閉された容器内で熱処理することが好ましい。
熱処理時間は、特に限定されないが、混合物中の水分を十分に蒸発させてLWOを形成するために3〜20時間とすることが好ましく、5〜15時間とすることがより好ましい。
【0085】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0086】
(a)正極
先に述べた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
【0087】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。
このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0088】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また
【0089】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
その負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0090】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0091】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
その有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0092】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0093】
(e)電池の形状、構成
以上、説明した正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0094】
(f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。
特により好ましい形態で得られた本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0095】
なお、本発明における正極抵抗の測定方法は、電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、および正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が
図1のように得られる。
【0096】
電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。
以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【実施例】
【0097】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、正極抵抗)を測定した。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0098】
(電池の製造および評価)
正極活物質の初期放電容量および正極抵抗の評価には、
図2に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。
図2に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0099】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0100】
図2に示すコイン型電池1は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。その作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、
図2に示すコイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0101】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。
電解液には、1MのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0102】
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0103】
正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン社製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、
図1に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0104】
また、正極活物質のガス発生量の評価には、
図4の概略説明図に示すラミネートセル4を使用した。
ラミネートセル4の作製は、アルミニウム製集電箔(厚さ0.02mm)に、正極活物質をペースト化し、外部と接続する導電部を残して塗布し、乾燥させ、正極活物質の目付が7mg/cm
2の正極活物質層が形成された正極シート5を作製した。
また、銅製集電箔(厚さ0.02mm)に負極活物質としてカーボン粉(アセチレンブラック)をペースト化し、同様にして負極活物質の目付が5mg/cm
2の負極活物質層が形成された負極シート6を作製した。
【0105】
作製された正極シート5および負極シート6の間に、ポリプロピレン製微多孔膜(厚さ20.7μm、空孔率密度43.9%)からなるセパレータ7を介挿して積層シートを形成した。そして、この積層シートを2枚のアルミラミネートシート8(厚さ0.05mm)によって挟み、アルミラミネートシートの3辺を熱融着して密封し、
図4に示すような構成のラミネートセルを組み立てた。
【0106】
その後、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒(容量比3:3:4)にLiPF
6(1mol/L)とシクロヘキシルベンゼン(2wt%)を溶解した宇部興産株式会社製の電解液を260μl注入し、残りの一辺を熱融着して、
図4に示すガス発生量を評価するガス発生試験用のラミネートセル4を作製した。作製したラミネートセル4のサイズは、縦60mm、幅90mmであった。
【0107】
(ガス発生試験)
作製したラミネートセル4を25℃に設定された日立アプライアンス株式会社製の恒温槽(コスモピア)に12時間保存した。
12時間保存した後、恒温槽内に収容した状態のまま、充放電装置(北斗電工株式会社製:HJ1001SD8)を用いて、3.0−4.3Vの範囲で、0.2Cの一定電流モードで3回充放電させた。充放電の後に、4.6Vまで1Cの一定電流モードで充電したのち、恒温槽内に72時間放置して、ガスをラミネートセル4内に発生させた。
この際、ラミネートセル4は一対の板状部材(ステンレス製)の間に挟んで保持し、一対の板状部材からラミネートセルの端から幅1cm分を露出させて露出部とした。
【0108】
(発生したガス量の評価)
ガス発生試験を終えたガス発生試験済ラミネートセル(以下、試験済ラミネートセルと称す)4aを恒温槽から取り出して、試験済ラミネートセル4aの端から幅1cm分の所に油性マジックでマーキングを行った。
その後、
図5のガス発生量の評価方法の概略説明図に示すように試験済ラミネートセル4aを、手動油圧プレス機PA4(エヌピーエーシステム株式会社製:型番TB−50H)のテーブルT上に載せて、この試験済ラミネートセル4aの上に、その端から幅1cm分(マーキングした部分から試験済ラミネートセル4aの端までの部分、幅L
1の非加圧部UPA)を残して、加圧部材PPとなる直方体の押さえ板(ステンレス製)を置いた。
また、非加圧部UPAには、載置部材MPとして直方体の測定板(ステンレス製)を配置し、測定板における一端部(非加圧部に載せられている部分)の上面にダイヤルゲージGa(CITIZEN社製:2A−104)を設置した。
【0109】
その後、
図5示すように手動油圧プレス機PAによって加圧部材PPをプレスして4kNの圧力を試験済ラミネートセル4aに掛け、試験済ラミネートセル4a内のガスは非加圧部UPAに集められ、集められたガスにより非加圧部UPAが膨らみ、載置部材MPにおける一端部が上方に移動した。
最後に、ダイヤルゲージGaの値を読んで、載置部材MPの一端部の移動量を測定し、発生ガス量を評価した。
【0110】
なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質および二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【実施例1】
【0111】
Niを主成分とする酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られたLi
1.030Ni
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表されるリチウム金属複合酸化物粒子の粉末を母材とした。このリチウム金属複合酸化物粉末の平均粒径は12.4μmであり、比表面積は0.3m
2/gであった。なお、平均粒径はレーザー回折散乱法における体積積算平均値を用い、比表面積は窒素ガス吸着によるBET法を用いて評価した。
【0112】
100mlの純水に5.6gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、15.6gの酸化タングステン(WO
3)を添加して撹拌することにより、タングステン化合物の水溶液を得た。
【0113】
次に、母材とするリチウム金属複合酸化物粉末75gを前記水溶液に浸漬し、さらに10分間攪拌することで十分に混合すると同時にリチウム金属複合酸化物粉末を水洗した。その後、ヌッチェを用いて吸引ろ過することで固液分離し、リチウム金属複合酸化物粒子と、液成分と、タングステン化合物からなるタングステン混合物を得た。
【0114】
この混合物を乾燥させ、乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.6質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は2.62mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0039molであり、Liモル比は3.9であった。
【0115】
得られた混合物を、ステンレス(SUS)製焼成容器に入れ、真空雰囲気中において、昇温速度2.8℃/分で210℃まで昇温して13時間熱処理し、その後室温まで炉冷した。
最後に目開き38μmの篩にかけ解砕することにより、一次粒子表面にタングステン酸リチウムを有する正極活物質を得た。
【0116】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Ni:Co:Alは、原子数比で82:15:3であり、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.994であり、芯材のLi/Meは0.992であった。
Li/Meは、水洗時と同濃度のLiを含む水酸化リチウム溶液を用い、同条件で水洗したリチウム金属複合酸化物粉末をICP発光分光法により分析することにより求めた。
【0117】
[タングステン酸リチウムおよび余剰リチウム分析]
得られた正極活物質中のタングステン酸リチウムの存在状態について、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。得られた正極活物質に純水を加えて一定時間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、60mol%であった。
【0118】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(3.9)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は60mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は40mol%であると考えられた。また、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.03質量%であった。
【0119】
[タングステン酸リチウムの形態分析]
得られた正極活物質を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行い観察用試料を作製した。その試料を用いて倍率を5000倍としたSEMによる断面観察を行ったところ、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなり、一次粒子表面にタングステン酸リチウムの微粒子が形成されていることが確認され、微粒子の粒子径は20〜145nmであった。
また、一次粒子表面にタングステン酸リチウムが形成されている二次粒子は、観察した二次粒子数の90%であり、二次粒子間で均一にタングステン酸リチウムが形成されていることが確認された。
【0120】
さらに、得られた正極活物質の一次粒子の表面付近を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、一次粒子の表面に膜厚2〜85nmのタングステン酸リチウムの被膜が形成され、被覆はタングステン酸リチウムであることを確認した。
【0121】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する
図2に示すコイン型電池1の電池特性を評価した。なお、正極抵抗は実施例1を100とした相対値を評価値とした。初期放電容量は204.6mAh/gであった。
【0122】
[ガス発生量の評価]
得られた正極活物質を正極材として用いてラミネートセル4を作製し、ガス発生試験を行い、そのガス発生量を評価した。評価は、実施例1を100とした相対値にて、ガスの発生量を評価した。
【0123】
以下、実施例2〜6および比較例1〜5については、上記実施例1と変更した物質、条件のみを示す。
測定した実施例1〜6および比較例1〜5のタングステン酸リチウムの形態分析結果及び初期放電容量および正極抵抗の評価値を表1に示す。
【実施例2】
【0124】
用いたLiOHを3.5g、WO
3を10.5gとした以外は実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
固液分離後のタングステン混合物を乾燥後、その乾燥前後における質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は6.8質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は1.74mol/L、タングステン混合物のタングステン含有量は0.0023molであり、Liモル比は3.8であった。
【0125】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.3原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.994であり、芯材のLi/Meは0.992であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、60mol%であった。
【0126】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(3.8)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は60mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は40mol%であると考えられた。
さらに、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【実施例3】
【0127】
用いたLiOHを7.0g、WO
3を19.3gとした以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
固液分離後のタングステン混合物を乾燥後、その乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.3質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は3.19mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0046molであり、Liモル比は3.8であった。
【0128】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.6原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.995であり、芯材のLi/Meは0.993であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、60mol%であった。
【0129】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(3.8)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は60mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は40mol%であると考えられた。
さらに、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.04質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【実施例4】
【0130】
400mlの純水に母材とするリチウム金属複合酸化物粉末300gを浸漬して水洗したこと、固液分離後、水酸化リチウム(LiOH)4.6g、酸化タングステン(WO
3)
14.4gを添加してシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて30℃で十分に混合し、タングステン混合物を得たこと、及び熱処理工程において混合物の温度が90℃になるまで1℃/分で昇温したこと以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
【0131】
タングステン混合物を乾燥させ、乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.5質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、固液分離時の液成分のLi濃度は0.31mol/L、混合物のタングステン含有量は0.062molであり、Liモル比は3.2であった。
【0132】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して2.0原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは0.990であり、芯材のLi/Meは0.988であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、55mol%であった。
【0133】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(3.2)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は55mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は45mol%であると考えられた。また、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.03質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【実施例5】
【0134】
400mlの純水に母材とするリチウム金属複合酸化物粉末300gを浸漬して水洗したこと、固液分離後、そのまま吸引ろ過しながら400mlの純水に31.2gのタングステン酸リチウム(Li
4WO
5)を溶解した水溶液を添加し、タングステン混合物を得たこと以外は実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
【0135】
タングステン混合物を乾燥させ、乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は6.4質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、タングステン酸リチウムを添加した後の固液分離時の液成分のLi濃度は1.36mol/L、その混合物のタングステン含有量は0.0065molであり、Liモル比は4.0であった。
【0136】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.2原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.992であり、芯材のLi/Meは0.989であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、75mol%であった。
【0137】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(4.0)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は75mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は25mol%であると考えられた。
さらに、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【実施例6】
【0138】
NiとCoおよびMnからなる酸化物粉末と水酸化リチウムを混合して焼成する公知技術で得られた平均粒径が5.6μmであり、比表面積が0.7m
2/gであり、Li
1.175Ni
0.34Co
0.33Mn
0.33O
2で表されるリチウム金属複合酸化物粒子の粉末を母材とした以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。固液分離後の混合物を乾燥させ、乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.8質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は
2.62mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0039molであり、Liモル比は3.8であった。
【0139】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることが確認され、そのLi/Meは1.146であり、芯材のLi/Meは1.144であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5とLi
2WO
4の存在が確認され、タングステン酸リチウム中に含まれるLi
2WO
4の存在比率を算出したところ、Li
4WO
5の存在比率は60mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は40mol%であると考えられた。
さらに、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0140】
(比較例1)
タングステン化合物の水溶液を純水に変更して水洗したこと以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
得られた正極活物質のLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Li/Meは0.991であった。余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.03質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0141】
(比較例2)
用いたLiOHを9.5g、WO
3を15.6gとした以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
固液分離後のタングステン混合物を乾燥後、その乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.6質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は4.22mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0039molであり、Liモル比は6.3であった。
【0142】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.996であり、芯材のLi/Meは0.993であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、95mol%であった。
【0143】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(6.3)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は95mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は0mol%であると考えられた。
さらに、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.08質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0144】
(比較例3)
用いたLiOHを4.0g、WO
3を15.6gとした以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
固液分離後のタングステン混合物を乾燥後、その乾燥前後の質量から求めたリチウム金属複合酸化物粒子に対する水分量は7.6質量%であった。
また、ICP発光分光法により分析したところ、液成分のLi濃度は1.95mol/L、混合物のタングステン含有量は0.0039molであり、Liモル比は2.9であった。
【0145】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.994であり、芯材のLi/Meは0.992であった。
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、そのタングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、35mol%であった。
【0146】
一方、酸化タングステン中のWと水酸化リチウム中のLiが同じLiモル比(2.9)になるように混合してタングステン酸リチウムを生成させ、X線回折で生成したタングステン酸リチウムを確認したところ、Li
4WO
5とLi
2WO
4のみが確認されたことから、正極活物質中のタングステン酸リチウムは、Li
4WO
5の存在比率は35mol%であり、Li
2WO
4の存在比率は65mol%であると考えられた。
また、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.02質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0147】
(比較例4)
タングステン化合物の水溶液を純水に変更して水洗し、固液分離し、乾燥させたこと、乾燥後に15.1gのタングステン酸リチウム(Li
4WO
5)を添加してシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し撹拌し、熱処理したこと以外は、実施例1と同様の条件にて、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。固液分離し、乾燥した後の水分量は1.0質量%未満であった。
【0148】
得られた正極活物質のタングステン含有量およびLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、タングステン含有量はNi、CoおよびMの原子数の合計に対して0.5原子%の組成であることを確認し、そのLi/Meは0.992であり、芯材のLi/Meは0.991であった。
【0149】
また、得られた正極活物質について滴定分析したところ、タングステン酸リチウム中にはLi
4WO
5の存在が確認され、タングステン酸リチウムに含まれるLi
4WO
5の存在比率を算出したところ、98mol%であり、余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.03質量%であった。
【0150】
SEMおよびTEMの観察により、タングステン酸リチウムは、正極活物質粒子の表面のみに付着しており、内部の一次粒子表面には存在しないことが確認された。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0151】
(比較例5)
タングステン化合物の水溶液を使用せずに、純水に変更して水洗したこと以外は、実施例6と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得た。
得られた正極活物質のLi/MeをICP発光分光法により分析したところ、Li/Meは1.138であった。
余剰リチウムは、正極活物質の全量に対して0.04質量%であった。
実施例1と同様にタングステン酸リチウムの形態分析や評価を行い、その評価結果を電池特性とともに表1に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
[評価]
表1から明らかなように、実施例1〜6の正極活物質は、本発明に従って製造されたため、正極抵抗が低く、タングステン酸リチウムが形成されていない比較例1および5に比べて初期放電容量も高いものとなっており、優れた特性を有した電池となっている。
また、
図3に本発明の実施例で得られた正極活物質の走査顕微鏡による断面観察結果の一例を示すが、得られた正極活物質は一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、一次粒子表面にタングステン酸リチウムを含む微粒子が形成されていることが確認された。タングステン酸リチウムを含む微粒子を
図3において矢印で示す。
【0154】
比較例1は、一次粒子表面にタングステン酸リチウムが形成されていないため、正極抵抗が大幅に高く、高出力化の要求に対応することは困難である。
比較例2および3では、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数に対するタングステンの量が実施例1と同程度であるが、比較例2はLi
4WO
5の割合が多いため、正極抵抗は実施例と同程度であるが、ガス発生量が多くなっている。一方、比較例3はLi
4WO
5の割合少ないため、ガス発生量は少ないが、正極抵抗が高くなっている。
比較例4は、乾燥状態でタングステン化合物と混合したため、タングステン酸リチウムが二次粒子内部の一次粒子表面に形成されず、正極抵抗が高く、また、タングステン酸リチウムがLi
4WO
5であるため、ガス発生量も多くなっているのが判る。
比較例5は、一次粒子表面にタングステン酸リチウムが形成されていないため、正極抵抗が大幅に高く、高出力化の要求に対応することは困難である。