(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
20℃/分の昇温速度で求められる示差熱分析の融解ピーク温度がTm(℃)であるポリプロピレン予備成形体を、Tm(℃)からTm+6(℃)までの範囲の温度に昇温し、加熱して熱処理する第1熱処理工程と、
第1熱処理工程により熱処理したポリプロピレン予備成形体を、Tm−30(℃)からTm−12(℃)までの範囲の温度にて0.5分以上加熱して熱処理する第2熱処理工程とを有し、
第1熱処理工程から第2熱処理工程に移行する際の降温速度または冷却速度を300℃/分以上にする、ポリプロピレン成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<ポリプロピレン成形体の製造方法>
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法は、ポリプロピレン製の予備成形体に加熱処理を施す方法である。
本製造方法で使用するポリプロピレンとしては、例えば、プロピレン単独重合体、またはプロピレンと他のα−オレフィン(炭素数は多くとも12)とのブロック共重合体またはランダム共重合体が挙げられる。α−オレフィンの具体例としては、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサンなどが挙げられ、中でも、エチレン、1−ブテンが好ましい。
【0009】
ポリプロピレンの分子量分布(M
w/M
n)は2〜40であることが好ましい。ポリプロピレンの分子量分布(M
w/M
n)が2以上であれば、得られる成形体の剛性をより高くできる。なお、実用的な手法では、ポリプロピレンの分子量分布(M
w/M
n)を40より大きくすることは困難である。
ポリプロピレンの流動性の指標であるMFRは0.01〜1,000g/10分であることが好ましい。ここで、MFRは、JIS K6921−2に準拠し、温度230℃、荷重21.6Nの条件で測定した値である。
【0010】
予備成形体の成形方法としては特に制限されず、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、インフレーション成形等、公知の成形方法を適用できる。
予備成形体の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、パイプ状、あるいは、用途に応じた立体形状などが挙げられるが、形状を保持しやすい点では、シート状またはフィルム状が好ましい。
さらに、シート状またはフィルム状の予備成形体は、加熱時の昇温速度及び冷却時の降温速度を容易に速くできることから、薄くすることが好ましく、具体的には、厚さが300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。ただし、薄すぎると、破断しやすくなるため、厚さは1μm以上であることが好ましい。
また、予備成形体は、できるだけ配向が小さいことが好ましい。配向が大きいと、見かけ上、予備成形体の融解ピーク温度Tmが上昇するため、適切な熱処理温度を定めることが困難になる。
【0011】
また、予備成形体には、例えば、造核剤、充填剤、塩酸吸収剤、耐熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、内部滑剤、外部滑剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、可塑剤、発泡剤、気泡防止剤、架橋剤、過酸化物などの添加剤が含まれてもよい。
【0012】
本発明のポリプロピレン成形体の製造方法は、融解ピーク温度がTm(℃)のポリプロピレン予備成形体に第1熱処理を施す第1熱処理工程と、第1熱処理を施した成形体に第2熱処理を施す第2熱処理工程とを有する。
本発明におけるTmは、予備成形体について20℃/分の昇温速度で求められる示差熱分析(DSC)の融解ピーク温度のことである。具体的に、予備成形体のTmは、以下の測定方法で求められる。
すなわち、熱補償型DSC(パーキンエルマー社製のダイヤモンドDSC)を用い、ポリプロピレン予備成形体を30℃で5分間保持し、昇温速度20℃/分で230℃まで加熱する。その際に得られる融解曲線のピーク位置によりTmを求める。なお、予備成形体のTmは、昇温中のアニール効果による結晶ラメラの厚みの増加による融点の上昇の影響を含んでいる。
【0013】
第1熱処理工程では、ポリプロピレン予備成形体を、Tm(℃)からTm+6(℃)までの範囲の温度に昇温して熱処理(第1熱処理)する(
図1参照)。すなわち、第1熱処理工程は、昇温開始から、予備成形体の温度がピーク温度に達した後にTm(℃)未満になるまでの範囲である。本製造方法では、全熱処理にわたって熱処理温度がTm+6(℃)を超えることはない。
第1熱処理工程においては、Tm+1(℃)からTm+5(℃)までの範囲の温度に昇温することが好ましい。
第1熱処理工程において、予備成形体の熱処理温度が前記下限値未満であると、得られる成形体の均一性が低下し、前記上限値を超えると、剛性が低くなる。
第1熱処理における加熱方法としては、例えば、一対の金属ブロックに予備成形体を挟んだ後に加熱する方法、予め所定温度に加熱した一対の金属ブロックに予備成形体を挟んで加熱する方法、予備成形体自体を熱風や赤外線により加熱する方法等が挙げられる。
【0014】
第1熱処理工程における昇温速度または加熱速度は300℃/分以上であることが好ましい。昇温速度は、{(昇温後の温度)−(昇温前の温度)}/(予めT
1に昇温した加熱装置への予備成形体の移動に要する時間)、加熱速度は、{(昇温後の温度)−(昇温前の温度)}/(予備成形体を装着した加熱装置の温度がT
1に達するまでの時間)で求められる。ここで、「昇温前の温度」とは、予備成形体の近傍温度、あるいは、予備加熱を行った場合には、予備加熱工程に用いた加熱装置において、予備成形体が直接または間接的に接触する部分の温度である。また、「昇温後の温度」とは、上記の第1熱処理工程におけるピーク温度T
1である。
昇温速度または加熱速度が300℃/分以上であれば、アニール効果による融点の上昇が抑えられ、熱処理による融解と再結晶化がより進む結果、得られる成形体の均一性と結晶シードの性能がより高くなる。また、昇温速度または加熱速度は、容易に実現できることから、100,000℃/分以下であることが好ましい。
昇温速度または加熱速度を300℃/分以上にする方法としては、例えば、熱風加熱機や赤外線加熱機等を用いて予備加熱して、加熱処理温度の下限の近傍まで昇温させておき、その後、さらに加熱する方法が挙げられる。この加熱方法における予備加熱は、アニール効果が生じない程度の温度で行うことが好ましく、具体的には、予備加熱温度は140℃以下であることが好ましい。
また、レーザー光による加熱、マイクロ波による加熱でも急速加熱を実現でき、昇温速度を速くすることができる。さらに、予め所定温度に加熱した一対の金属ブロックに予備成形体を挟んで加熱する方法も好ましい。
【0015】
予備成形体をTm(℃)からTm+6(℃)までの範囲の温度でしばらく加熱してもよい。その加熱時間、すなわち、第1熱処理の熱処理時間は、剛性、耐熱性及び均質性がより向上することから、0.5分以上が好ましく、1分以上がより好ましく、生産性の点から、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましい。
【0016】
第2熱処理工程では、第1熱処理工程を経たポリプロピレン予備成形体を、Tm−30(℃)からTm−12(℃)までの範囲の温度に降温して熱処理(第2熱処理)する(
図1参照)。すなわち、第2熱処理工程は、予備成形体温度が、Tm−12(℃)に達したときから、降温してTm−30(℃)に達するまでの範囲である。第2熱処理工程における熱処理温度は、Tm−25(℃)からTm−12(℃)までの範囲であることが好ましい。
第2熱処理工程の加熱温度が前記下限値未満であると、得られる成形体の剛性が低下することがあり、加熱温度が前記上限値を超えた場合も、剛性が低下することがある。
第1熱処理後から第2熱処理に移行する際の降温方法としては、例えば、一対の金属ブロックに予備成形体を挟んだ後に降温する方法、予め所定温度に調整した一対の金属ブロックに予備成形体を挟んで降温する方法、予備成形体の加熱を停止し、放置して降温する方法等が挙げられる。
【0017】
第1熱処理後から第2熱処理に移行する際の降温速度または冷却速度は300℃/分以上であり、500℃/分以上であることが好ましい。降温速度または冷却速度が300℃/分未満であると、望ましくない結晶が形成されて、得られる成形体の剛性及び耐熱性が低くなることがある。降温速度は、{(降温前の温度)−(降温後の温度)}/(第1熱処理工程の温度領域から第2熱処理工程の温度領域への移動に要した時間)で求められる。冷却速度は、{(降温前の温度)−(降温後の温度)}/(予備成形体を装着した第1熱処理工程の加熱装置の温度がT
1から第2熱処理工程の温度領域に達するまでの時間)で求められる。ここで、「降温前の温度」とは、上述の第1熱処理工程のピーク温度T
1であり、「降温後の温度」とは、第2熱処理工程の平均熱処理温度T
2である。
一方、容易に実現できることから、第1熱処理後から第2熱処理に移行する際の降温速度または冷却速度は、100,000℃/分以下であることが好ましい。
【0018】
第2熱処理工程においては、前記温度範囲でしばらく加熱する。加熱時間、すなわち、第2熱処理の熱処理時間は、剛性、耐熱性及び均質性がより高くなることから、0.5分以上であり、1分以上が好ましく、2分以上がより好ましく、3分以上が最も好ましい。
しかし、生産性の点からは、加熱時間が短いことが好ましく、具体的には、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましい。
【0019】
本製造方法では、ポリプロピレン成形体の剛性及び耐熱性がより高くなることから、第1熱処理工程におけるピーク温度T
1と第2熱処理工程における平均熱処理温度T
2との差(T
1−T
2)を10℃以上にすることが好ましい。ここでの温度は、それぞれの熱処理工程に用いた加熱装置において、予備成形体が直接または間接的に接触する部分の温度である。
第1熱処理工程におけるピーク温度T
1は、上記と同様に、第1熱処理工程における温度の最高値である。
本発明における第2熱処理工程の平均熱処理温度T
2は、以下のように求める。
すなわち、第2熱処理の時間をt(分)とし、第2熱処理開始から、0.1t(分)、0.2t(分)、0.3t(分)、0.4t(分)、0.5t(分)、0.6t(分)、0.7t(分)、0.8t(分)、0.9t(分)のときの熱処理温度Txを温度チャートより読み取る。そして、(T
0.1t+T
0.2t+・・・+T
0.9t)/9の式より求めた値を平均熱処理温度とする。
一方、(T
1−T
2)は、温度を容易に調節できる点では、30℃以下にすることが好ましい。
【0020】
第2熱処理工程後には、第2熱処理工程を施した成形体を冷却する冷却工程を有することが好ましい。その冷却工程の際の降温速度は300℃/分未満にすることが好ましく、100℃/分未満であることがより好ましい。ここで、降温速度は、{(降温前の温度)−(降温後の温度)}/(温度変化に要した時間)で求められる。降温速度を300℃/分未満にすれば、得られる成形体の均質性がより高くなる。
一方、降温速度は、生産性の点から、0.1℃/分以上、また、容易に実現できることから、100℃/分未満であることが好ましい。
冷却方法としては特に制限されず、水やアセトン等の有機溶媒を冷媒として、得られた成形体を直接的にまたは間接的に冷却する方法、空気中に成形体を放置して冷却する方法、成形体に冷風を当てて冷却する方法等が挙げられる。
【0021】
上記製造方法の第1熱処理では、ポリプロピレンの結晶のシードが形成し、第2熱処理では、そのシードがポリプロピレンの核剤として機能するため、比較的高温においても短時間に結晶化が進行する。そのため、上記ポリプロピレン成形体の製造方法では、結晶化度が高くなって剛性が高くなる。また、上記第2熱処理工程の温度領域においてはα2型結晶が形成しやすく、後述するように、α2型結晶の含有割合が多くなって、耐熱性が高くなる。
さらに、上記ポリプロピレン成形体の製造方法では、第1熱処理においてTm以上の高温で熱処理することにより、予備成形体の未溶融部分が残存しないため、均質性が高くなる。なお、均質性が高くなると、透明性も高くなる傾向にある。
【0022】
<ポリプロピレン成形体>
本発明の
製造方法により得られるポリプロピレン成形体は
、剛性及び耐熱性に優れ、しかもポリプロピレンの均質性が充分に高い。
本発明の
製造方法により得られるポリプロピレン成形体は、20℃/分の昇温速度で求められる示差熱分析の融解曲線(
図2参照)において、予備成形体の融解ピーク温度Tm(℃)よりも6℃以上高い融解ピーク温度を有することが好ましい。さらには、予備成形体の融解ピーク温度Tm(℃)よりも7℃以上高い融解ピーク温度を有することがより好ましく、8℃以上高い融解ピーク温度を有することが最も好ましい。
なお、
図2における示差熱分析の融解曲線において少量存在する高い融解ピーク温度T
Aを示す成分は結晶シードに相当し、融点の高い程、核剤としての効果が高い。一方、ポリプロピレン成形体の主体は低温側の融解ピーク温度T
Bを示す成分であり、低温側の融解ピーク温度T
Bが、予備成形体の融解ピーク温度Tmよりも高ければ、耐熱性がより高いものとなる。
【0023】
また、上記製造方法により得たポリプロピレン成形体を構成するポリプロピレンはα型結晶構造を主体とする。ポリプロピレンのα型結晶構造にはα1型結晶とα2型結晶が存在するが、上記製造方法により得たポリプロピレン成形体にはα2型結晶が多く含まれる。ここで、α1型結晶では結晶内で隣接するポリプロピレン鎖間のメチル基の方向がランダムであるが、α2型結晶では秩序性を有する。
一般に、α2型結晶の生成にはポリプロピレンラメラ(厚みが5〜80nmの板状の結晶)の厚みの増加を伴うと考えられている(T.Miyoshi et al.,Journal Physical Chemistry B,114(1),92(2010)参照)。ラメラ厚みが増加すると、剛性及び耐熱性が高くなりやすい。
本発明の
製造方法により得られるポリプロピレン成形体においては、α2型結晶に基づく−231と−161反射のピーク強度I(α2)の、α1及びα2型結晶の両方に基づく散乱のピーク強度I(α1+α2)に対する比I(α2)/I(α1+α2)が0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。I(α2)/I(α1+α2)が前記下限値以上であれば、剛性及び耐熱性がより高くなる。
α2型結晶の存在は、X線回折における−231と−161反射により確認することができる(M.Hikosaka and T.Seto,Polymer Journal,5(2),111(1973)参照)。
上記のピーク強度比を求める際に使用するX線源としてはシンクロトロン放射によるものが好ましい。−231と−161反射の強度は微弱であるので、強い輝度を持つシンクロトロン放射光を利用すれば、S/N比を高めることができ、高精度の結果が得られる。
【0024】
上記のポリプロピレン成形体は、例えば、自動車用材料、電気製品用材料、日用雑貨用材料、包装用材料等として好適に使用できる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の例で使用したポリプロピレン樹脂組成物は、以下の方法で製造した。
ポリプロピレン樹脂組成物の原料となる重合体は、フタレート系の固体触媒を用いてプロピレンを重合させて得た。使用した固体触媒は、欧州特許第674991号に記載された方法により得られるものである。具体的には以下の通り製造した:
重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。該固体触媒は、MgCl
2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。
上記固体触媒と、TEAL及びジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が11であり、TEAL/DCPMSの質量比が3となるような量で、−5℃において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行った。得られた予備重合物を、重合反応器に導入し、水素0.135mol%とプロピレンをフィードし、重合温度80℃で、重合圧力を調整することによって、プロピレン単独重合体を得た。
得られた重合体に、酸化防止剤として、BASF社製B255を0.2質量部、中和剤として、淡南化学社製カルシウムステアレートを0.05質量部配合し、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合した。得られた混合物を、シリンダー温度を230℃に調整した単軸押出機(ナカタニ機械製、NVC、スクリュー直径50mm)を用いて溶融し、ダイスから吐出させた。これにより得たストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を得て、以下の例で使用した。
得られたポリプロピレン樹脂組成物は、立体規則性(mmmm):97.8mol%、質量平均分子量(M
w):362,000、分子量分布(M
w/M
n):6.8であった。また、MFRは4.3g/10分であった。
なお、ポリプロピレンのmmmmは、1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解したサンプルについて、日本電子社製JNM LA−400(
13C共鳴周波数 100MHz)を用い
13C−NMR法で測定したスペクトルから、プロピレンモノマーのメソ(m)結合シークエンスが4つ連続したペンタッドに相当するピークの強度の割合を、A.Zambelli,Macromolecules,6,925(1973)に記載された方法に従って求めた。
質量平均分子量(M
w)及び分子量分布(M
w/M
n)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリマーラボラトリーズ社製PL−GPC220)により測定した。
【0026】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂組成物を簡易的にホットプレスしたシートを230℃、1分間加熱した後、115℃で5分間保持して結晶化させ、次いで、室温環境下に放置することにより冷却して、ポリプロピレン予備成形体を得た。予備成形体のTmは162.7℃であった。
次いで、室温のシート状の予備成形体を、予め加熱した2枚の加熱ブロックに薄い金属板を介して挟んで、7分間、第1熱処理を施した。その際の昇温速度を34,600℃/分とし、第1熱処理ピーク温度T
1を166.8℃とした。
次いで、第1熱処理を施した成形体を、金属板が付いた状態で、予め加熱した別の2枚の加熱ブロックに挟んで、3分間、第2熱処理を施した。第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を8,900℃/分とし、平均熱処理温度T
2は149.8℃とした。
その後、第2熱処理を施した成形体を、金属板が付いた状態で、約−90℃(融点近傍)のアセトンに浸漬し、急冷した。室温環境に取り出した後、金属板から剥離してポリプロピレン成形体を得た。
【0027】
(実施例2)
第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を11,500℃/分にし、第2熱処理の平均熱処理温度を144.8℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0028】
(実施例3)
第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を12,500℃/分にし、第2熱処理の平均熱処理温度を142.8℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0029】
(実施例4)
第2熱処理後に急冷する代わりに、室温環境下に放置して冷却したこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0030】
(実施例5)
第1熱処理の処理時間を1分間に、第2熱処理の処理時間を9分間に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0031】
(実施例6)
第1熱処理のピーク温度を164.8℃に変更し、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を10,400℃/分にしたこと以外は実施例5と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0032】
(実施例7)
薄い金属板に挟んだ予備成形体を、ホットプレスを用いて10℃/分の加熱速度で加熱し、第1熱処理の処理時間を11分にしたこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0033】
(比較例1)
実施例1における予備成形体をそのままポリプロピレン成形体として使用した。なお、比較例1のポリプロピレン成形体の融解ピーク温度が各実施例及び各比較例におけるTmとなる。
【0034】
(比較例2)
第1熱処理の昇温速度を32,700℃/分に、第1熱処理のピーク温度を159.8℃、処理時間を1分間に、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を1,000℃/分に、第2熱処理の平均熱処理温度を157.8℃、処理時間を2分間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0035】
(比較例3)
第2熱処理を省略した以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。なお、比較例3の成形体は昇温中の構造変化が大きいと予想されるため、DSCの測定は実施しなかった。
【0036】
(比較例4)
第2熱処理を省略した以外は実施例4と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0037】
(比較例5)
第1熱処理の昇温速度を35,100℃/分に、第1熱処理のピーク温度を168.8℃に、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を12,500℃/分に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0038】
(比較例6)
第1熱処理の昇温速度を32,900℃/分に、第1熱処理のピーク温度を160.8℃に、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を8,300℃/分に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0039】
(比較例7)
第2熱処理の平均熱処理温度を157.8℃に、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を4,700℃/分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0040】
(比較例8)
第2熱処理の平均熱処理温度を144.8℃に、第1熱処理から第2熱処理に移行する際の降温速度を7,800℃/分に変更したこと以外は比較例2と同様にして、ポリプロピレン成形体を得た。
【0041】
<評価>
得られたポリプロピレン成形体について、透明性、均質性、剛性、耐熱性及びα2型結晶の割合指標を以下の様に評価した。評価結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。
【0042】
[透明性・均質性]東洋精機製作所製視覚透明度試験機を用いて、拡散透過光値(LSI値)及び狭い角度での透過光値(NAS値)を測定した。LSI値及びNAS値が小さい程、透明性が高い。また、NAS値が小さい程、均質性が高い。
【0043】
[剛性]東洋ボールドウィン社製レオバイブロン DOV−II−EAを用い、JIS K7198に従って測定周波数110Hzで複素弾性率を求めた。この複素弾性率が高い程、剛性が高い。
【0044】
[耐熱性]パーキンエルマー社製のダイヤモンドDSCを用い、ポリプロピレン成形体を30℃で5分間保持した後、昇温速度20℃/分で230℃まで加熱した際に得られる融解曲線のピーク位置により、ポリプロピレン成形体の融解ピーク温度を求め、耐熱性の指標とした。融解ピーク温度が高い程、耐熱性に優れる傾向にあるが、高い融解ピーク温度を有しても、低い融解ピーク温度も有すると、耐熱性は低くなる。
【0045】
[α2型結晶の割合]
財団法人高輝度光科学研究センター運営SPring−8のBL03XUビームラインを使用し、波長0.1nm、露光時間5秒の条件にて広角X線散乱(WAXD)を測定した。そのX線散乱のプロファイル(
図3参照)より、α2型結晶の割合の指標を求めることができる。
すなわち、広角X線散乱のプロファイルにおいて、2θ=20.0度付近(CuKα線では2θ=31度付近)に観察されるα2型結晶に特有な-231と-161反射のピーク強度I(α2)と、2θ=21.2度付近に観察されるα1型結晶及びα2型結晶の両方に基づく散乱のピーク強度I(α1+α2)とを測定する。そして、I(α2)/I(α1+α2)を求めて、これをα2型結晶の割合の指標とした。なお、ピーク強度は、それぞれの散乱が無くなる極小値(2θ=20度より低角度側と2θ=21.2度より高角度側)を結んだベースラインからそれぞれピークの極大までの間のカウント数とした。I(α2)/I(α1+α2)の値が大きい程、全α型結晶(α1型結晶とα2型結晶の総和)中のα2型結晶の割合が多いことを意味する。ただし、求められた値は、α2型結晶の割合そのものを示しているのではなく、α2型結晶の割合に相関する指標である。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜7のポリプロピレン成形体は、ポリプロピレンがα型結晶になっていると共にα2型結晶を多く含み、剛性及び耐熱性に優れていた。また、透明性・均質性も維持されていた。
これに対し、115℃で結晶化させて得た比較例1のポリプロピレン予備成形体は、剛性及び耐熱性が共に低かった。また、均質性も不充分であった。
第1熱処理のピーク温度を所定範囲よりも低く、第2熱処理の平均熱処理温度を所定範囲よりも高くして得た比較例2のポリプロピレン成形体は、均質性が低かった。
第2熱処理を省略し、急冷して得た比較例3のポリプロピレン成形体は、剛性が低かった。
第2熱処理を省略し、放冷して得た比較例4のポリプロピレン成形体は、均質性が低く、剛性の向上も充分でなかった。
第1熱処理のピーク温度を所定範囲よりも高くして得た比較例5のポリプロピレン成形体は、剛性及び耐熱性が低かった。
第1熱処理のピーク温度を所定範囲よりも低くした比較例6のポリプロピレン成形体は、均質性が低かった。
第1熱処理のピーク温度は請求項1の範囲を満たすが、第2熱処理の平均熱処理温度は請求項1の範囲を超える比較例7は、剛性と耐熱性の向上が充分でなかった。
第1熱処理のピーク温度が請求項1の範囲より低い比較例8は、第2熱処理の平均熱処理温度は請求項1の範囲を満たしているが、剛性の向上が充分でなかった。