特許第6090982号(P6090982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090982パルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090982
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】パルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20060101AFI20170227BHJP
   G01R 31/02 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   G01R31/12 B
   G01R31/02
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-263483(P2012-263483)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-109475(P2014-109475A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) IEEE(アイ・トリプル・イー)、2012年 IEEE インターナショナル カンファレンス オン コンディション モニタリング アンド ダイアグノーシス、第84−87頁、発行日 2012年8月(詳細日は不明:学会開催日は2012年9月23日から27日、開催日当日に発表論文配布) (2)一般社団法人電気学会 電力・エネルギー部門、平成24年 電気学会 電力・エネルギー部門大会 講演論文集、第55−11〜55−12頁、発行日 平成24年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 隆史
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達希
(72)【発明者】
【氏名】辻 泰三
(72)【発明者】
【氏名】内田 克己
【審査官】 菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−271542(JP,A)
【文献】 特開昭56−77768(JP,A)
【文献】 特開2005−338005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルにパルス幅が0.1ms以上の第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積すると共に、接地により蓄積された電荷を放出させ、
電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、パルス幅が0.1ms以上の第2パルス電圧を印加して初期残留電荷を放出させ、
初期残留電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、前記第1パルス電圧とは極性が逆で同一波形の第3パルス電圧を印加して残留電荷を放出させ、
前記第3パルス電圧を印加して残留電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、前記第2パルス電圧と同一波形かつ同一極性の参照パルス電圧を印加するに際し、
水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルに、前記第1パルス電圧、前記第2パルス電圧、前記第3パルス電圧、前記参照パルス電圧を印加して、前記第2パルス電圧を印加した際の第2電流値と前記参照パルス電圧を印加した際の参照電流値の差の値に相当する電流値を計測する一方、
水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルと静電容量が等しく水トリー劣化が存在していない電力ケーブルに、前記第1パルス電圧、前記第2パルス電圧、前記第3パルス電圧、前記参照パルス電圧を印加して、前記第2電流値と前記参照電流値の差の値に相当する電流値の逆向きの電流値を検出し、
水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルの電流値の波形と、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルと静電容量が等しく水トリー劣化が存在していない電力ケーブルの電流値の波形を相殺し、
電流値の波形が出現した際に、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルに蓄積された電荷の放出に基づいた電流値の波形が出現したとして、水トリー劣化を検出する
ことを特徴とするパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電圧を用いて電力ケーブルの水トリー劣化の検出を行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用ケーブルとして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(CVケーブル)が実用化されている。CVケーブルは潤湿下で長期使用すると、水トリーと呼ばれる劣化現象が絶縁体内に発生して絶縁性能の低下を引き起こす原因となる。水トリーによる絶縁劣化(水トリー劣化)を検出する方法として、従来から残留電荷法が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示された技術は、電力ケーブルに商用周波数よりも高い周波数のパルス電圧を印加して接地し、電力ケーブル全体への電荷の蓄積と、正常部位の電荷の放出を行い、その後、交流電圧を印加することで劣化部位に蓄積された電荷を放出し、劣化部位から放出された電荷に基づいて劣化を診断する技術である。
【0004】
本技術を用いることで、ガス絶縁開閉装置(GIS)に接続されたCVケーブルであっても、的確に残留電荷を放出して劣化を診断することができる。しかしながら、交流電圧を発生する大型の試験装置(交流電源)が必要となり、試験装置自体や移送にコストがかかる。また、パルス電圧から交流電圧への段取り替えのための時間や交流電圧の昇降圧の時間が必要となり、診断測定時間がかかる。
【0005】
近年、電力ケーブルの劣化を診断する際には、GISへの接続の有無に関係なく的確な信号出力が維持される状態で、装置の小型化や診断測定時間の短縮化が望まれている。このため、高価な装置を使用してコストを増加させることなく、極めて短い時間で電力ケーブルの劣化を的確に測定することができるパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出装置及びパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−186335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、コストを増加させることなく、極めて短い時間で電力ケーブルの水トリー劣化を的確に判断することができるパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明のパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施するための検出装置は、電力ケーブルにパルス幅が0.1ms以上の第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積し、接地により蓄積された電荷を放出させる第1電圧印加手段と、前記第1電圧印加手段により電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、パルス幅が0.1ms以上の第2パルス電圧を印加して初期残留電荷を放出させる第2電圧印加手段と、前記第2電圧印加手段により初期残留電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、前記第2パルス電圧と同一波形かつ同一極性の参照パルス電圧を印加する参照パルス電圧印加手段と、前記第2電圧印加手段により初期残留電荷を放出させた際の第2電流値を計測すると共に、前記参照パルス電圧印加手段により参照パルス電圧を印加した際の参照電流値を計測し、前記第2電流値と前記参照電流値に基づいて前記電力ケーブルの劣化を判断する判断手段とを備え、前記第1電圧印加手段、及び、前記第2電圧印加手段は、2本の電力ケーブルのそれぞれに前記判断手段を介して接続され、前記判断手段では、前記第2電流値と前記参照電流値の差の信号だけが出力されることを特徴とする。
【0009】
これにより、第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積し、接地により蓄積された電荷を放出した後に、第2パルス電圧を印加することで、劣化が生じていれば劣化部位に蓄積された残留電荷のうちの初期残留電荷が放出され、第2電流値が計測される。その後、参照パルス電圧を印加することで参照電流値が計測される。そして、パルス電圧を印加して電荷の蓄積、電荷の放出を行っているので、交流電圧を印加する場合に比べて信号の強度が大きくなる。
【0010】
尚、第1パルス電圧、第2パルス電圧のパルス幅は、0.1msから10msに設定することが好ましい。また、10msを超えるパルス幅に設定することも可能である。
【0011】
第1電圧印加手段、及び、第2電圧印加手段と、いずれかの電力ケーブルとの間に、開閉スイッチを設けることができる。開閉スイッチを開いた状態で第1パルス電圧を加することで、電力ケーブルの劣化状態に拘わらず、劣化部位に電荷が蓄積されず、その後、開閉スイッチを閉じて第2パルス電圧を印加しても、初期残留電荷が存在しないため放出信号は出されない。このため、電力ケーブルの劣化状況が判らない場合でも、開閉スイッチの操作により、劣化が生じていない状態の電力ケーブルとして適用することができる。
【0012】
第2電流値と参照電流値とに差があれば、初期残留電荷が存在して電力ケーブルに劣化が生じていることが判断され、第2電流値と参照電流値とに差がなければ、初期残留電荷が存在しておらずに電力ケーブルには水トリー劣化が生じていないことが判断される。
【0013】
このため、コストを増加させることなく、第2電流値と参照電流値との差を計測するだけの処理で、極めて短い時間で電力ケーブルの水トリー劣化を的確に判断することが可能なパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出装置になる。
【0014】
そして、前記第2電圧印加手段により初期残留電荷が放出された後で、前記参照パルス電圧印加手段による参照パルス電圧を印加する前の前記電力ケーブルに、前記第1電圧印加手段による前記第1パルス電圧とは極性が逆で同一波形の第3パルス電圧を印加して残留電荷を放出させる第3電圧印加手段を備え、前記判断手段は、前記第2電流値と前記第3電圧印加手段により残留電荷を放出させた後の前記参照電流値に基づいて前記電力ケーブルの劣化を判断することを特徴とする。
【0015】
これにより、第3パルス電圧の印加により、残留電荷(多くの電荷)が放出された後の参照電流値と、第2電流値との差の信号により劣化を判断するので、電流値の差が大きくなって信号出力を大きくすることができ、劣化の判断を容易に行うことができる。
【0016】
また、前記第1電圧印加手段、前記第2電圧印加手段、前記参照パルス電圧印加手段、前記第3電圧印加手段は、スイッチを閉じることによりコンデンサに蓄電された電力をパルス電圧として前記電力ケーブルに印加することを特徴とする。
【0017】
また、パルス電圧のパルス幅の上限値を、商用交流電圧の半周期である10msとしたことを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明のパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法は、電力ケーブルにパルス幅が0.1ms以上の第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積すると共に、接地により蓄積された電荷を放出させ、電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、パルス幅が0.1ms以上の第2パルス電圧を印加して初期残留電荷を放出させ、初期残留電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、前記第1パルス電圧とは極性が逆で同一波形の第3パルス電圧を印加して残留電荷を放出させ、前記第3パルス電圧を印加して残留電荷が放出された後の前記電力ケーブルに、前記第2パルス電圧と同一波形かつ同一極性の参照パルス電圧を印加するに際し、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルに、前記第1パルス電圧、前記第2パルス電圧、前記第3パルス電圧、前記参照パルス電圧を印加して、前記第2パルス電圧を印加した際の第2電流値と前記参照パルス電圧を印加した際の参照電流値の差の値に相当する電流値を計測する一方、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルと静電容量が等しく水トリー劣化が存在していない電力ケーブルに、前記第1パルス電圧、前記第2パルス電圧、前記第3パルス電圧、前記参照パルス電圧を印加して、前記第2電流値と前記参照電流値の差の値に相当する電流値の逆向きの電流値を検出し、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルの電流値の波形と、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルと静電容量が等しく水トリー劣化が存在していない電力ケーブルの電流値の波形を相殺し、電流値の波形が出現した際に、水トリー劣化を検出する必要がある電力ケーブルに蓄積された電荷の放出に基づいた電流値の波形が出現したとして、水トリー劣化を検出することを特徴とする。
【0019】
このため、コストを増加させることなく、第2電流値と参照電流値との差を計測するだけの処理で、極めて短い時間で電力ケーブルの劣化を的確に判断することが可能なパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法は、コストを増加させることなく、極めて短い時間で電力ケーブルの水トリー劣化を的確に判断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施する装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法の課電状況の経時変化を表す図である。
図3】電荷放出の概念図である。
図4】スイッチ動作の経時変化を表す図である。
図5】パルス幅と検出電荷量との関係を表すグラフである。
図6】電流検出状況の概念図である。
図7】電流検出状況の概念図である。
図8】本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施する装置の具体的な構成図である。
図9】電流検出状況の概念図である。
図10】電流検出状況の概念図である。
図11】電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施する装置の参考例の要部構成図である。
図12】使用例の一例を説明する概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
電力用ケーブルとして、架橋ポリエチレン絶縁ケーブル(CVケーブル)は、潤湿下で長期使用すると、水トリーと呼ばれる劣化現象(水トリー劣化)が絶縁体内に発生する。本実施例の劣化検出方法を実施する装置は、CVケーブルに水トリー劣化が発生しているか否かを判断する装置である。
【0023】
本発明のパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施する装置は、以下の構成を特徴としている。
【0024】
電力ケーブルにパルス幅が0.1ms以上(0.1msから10msが好ましい)の第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積すると共に、接地により蓄積された電荷を放出させ(第1電圧印加手段)、電荷が放出された後の電力ケーブルに、パルス幅が0.1ms以上(0.1msから10msが好ましい)の第2パルス電圧を印加して初期残留電荷を放出させる(第2電圧印加手段)。
【0025】
尚、第1パルス電圧、第2パルス電圧のパルス幅を、10msを超えるパルス幅に設定することも可能である。
【0026】
その後、電力ケーブルに、第1パルス電圧とは極性が逆で同一波形の第3パルス電圧を印加して残留電荷を放出させ(第3電圧印加手段)、残留電荷が放出された後の電力ケーブルに、第2パルス電圧と同一波形かつ同一極性の参照パルス電圧を印加する(参照パルス電圧印加手段)。
【0027】
そして、初期残留電荷を放出させた際の第2電流値と、参照パルス電圧を印加した際の参照電流値との値に差があった場合に、劣化部位に電荷が残留しているとして電力ケーブルに劣化が生じていると判断する。つまり、第2電流値と参照電流値に基づいて電力ケーブルの劣化を判断する(判断手段)。
【0028】
図1に基づいて電力ケーブルの水トリー劣化検出装置を説明する。図1には本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出装置の概略構成(回路構成)を示してある。
【0029】
図に示すように、水トリー劣化検出装置(劣化検出装置)11は、第1電圧印加手段及び第3電圧印加手段が構成される第1印加機構12と、第2電圧印加手段及び参照パルス電圧印加手段が構成される第2印加機構13により構築されている。
【0030】
第1印加機構12は、第1スイッチ21、第2スイッチ22、第3スイッチ23、第4スイッチ24を有し、第4スイッチ24が試料としてのCVケーブル6側に備えられている。第1スイッチ21は第1抵抗25a、負極側が接地される第1電源25bに接続され、第2スイッチ22は第2抵抗26a、正極側が設置される第2電源26bに接続され、第1電源25bと第2電源26bは正極と負極が逆極に接続された直流電源となっている。
【0031】
また、第3スイッチ23の反接地側には第3抵抗27が設けられ、第4スイッチ24のCVケーブル6と反対側は第4抵抗28を介して接地されている。そして、第3抵抗27と第4抵抗28の間には第1コンデンサ29が備えられている。
【0032】
一方、第2印加機構13は、第5スイッチ15、第6スイッチ16、第7スイッチ17を有し、第7スイッチ17がCVケーブル6側に備えられている。第5スイッチ15は第5抵抗18a、正極側が接地される第5電源18bに接続され、第6スイッチ16の反接地側には第6抵抗19が設けられている。第7スイッチ17のCVケーブル6と反対側は第7抵抗20を介して接地されている。そして、第6抵抗19と第7抵抗20の間には第2コンデンサ30が備えられている。
【0033】
図2図3に基づいて劣化検出装置11の基本動作と電荷の状況を説明する。図2には本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの劣化検出方法の課電状況の経時変化、図3には電荷放出の概念を示してある。
【0034】
図2に示すように、CVケーブル6に、パルス幅が0.1msから10ms(上限は10msを超えることも可能)の第1パルス電圧(負極性の電荷蓄積用パルス)を印加して電荷を蓄積すると共に、接地により蓄積された電荷を放出させる(第1電圧印加手段)。CVケーブル6に水トリー劣化が生じていれば、劣化部位に電荷が蓄積されたままとなる。
【0035】
図3に示すように、第1パルス電圧の印加により、CVケーブル6の劣化していない部位7(点線)と水トリー劣化の部位8に電荷が蓄積され、接地により部位7に蓄積された電荷7aが放出される。水トリー劣化の部位8の電荷8a、8bは蓄積されたままとなる。
【0036】
図2に示すように、接地により蓄積された電荷が放出された後、CVケーブル6に、パルス幅が0.1msから10ms(上限は10msを超えることも可能)の第2パルス電圧(正極性脱分極パルス)を印加し、劣化部位に蓄積された電荷の一部である初期残留電荷を放出させる(第2電圧印加手段)。第2パルス電圧の印加により初期残留電荷を放出させる時の電流値が計測される(第2電流値:判断手段)。
【0037】
図3に示すように、第2パルス電圧の印加により、水トリー劣化の部位8に蓄積された電荷8aの一部、即ち、劣化していない部位7に隣接している部位の初期残留電荷(一点鎖線)が放出される。そして、この時の電流値が計測される。
【0038】
その後、図2に示すように、CVケーブル6に、第1パルス電圧とは極性が逆で同一波形の第3パルス電圧(正極性電荷放出用パルス)を印加し、劣化部位に蓄積された残りの電荷(残留電荷)を放出させる(第3電圧印加手段)。
【0039】
図3に示すように、第3パルス電圧の印加により、水トリー劣化の部位8に蓄積された残りの電荷8b(二点鎖線)が放出される。そして、この時の電流値が計測される。
【0040】
図2に示すように、残留電荷が放出された後のCVケーブル6に、第2パルス電圧と同一波形かつ同一極性の参照パルス電圧(正極性参照パルス)を印加する(参照パルス電圧印加手段)。参照パルス電圧の印加による電流値が計測される(参照電流値:判断手段)。第3パルス電圧の印加により残留電荷が全て放出されていれば、参照電流値はゼロになる。
【0041】
そして、初期残留電荷を放出させた際の第2電流値と、参照パルス電圧を印加した際の参照電流値との値に差があった場合に、劣化部位に電荷が残留していたとしてCVケーブル6に劣化が生じていると判断される。つまり、第2電流値と参照電流値に基づいてCVケーブル6の劣化の有無が判断される(判断手段)。
【0042】
図4図5に基づいて、第1パルス電圧、第2パルス電圧、第3パルス電圧、及び、参照パルス電圧の印加におけるスイッチの状況を説明する。
【0043】
図4にはスイッチ動作の経時変化、図5にはパルス幅と検出電荷量との関係を示してある。図4(a)は第1パルス電圧を印加する際のスイッチの開閉状況のタイムチャート、図4(b)は第2パルス電圧、もしくは、参照パルス電圧を印加する際のスイッチの開閉状況のタイムチャート、図4(c)は第3パルス電圧を印加する際のスイッチの開閉状況のタイムチャートである。
【0044】
第1パルス電圧印加時のスイッチの開閉状況を説明する。
【0045】
図4(a)に示すように、時刻t1から時刻t2の間に、負極側が接地された第1電源25bにつながる第1スイッチ21が閉じられ、第1コンデンサ29に負極性の電荷が溜められる。時刻t2で第1スイッチ21が開かれた後に第4スイッチ24が閉じられ、第1コンデンサ29の電圧が印加できる状態にされる。
【0046】
時刻t3から時刻t4の間、第3スイッチ23が閉じられ、閉じられた間に電圧(パルス電圧)がCVケーブル6に印加される。そして、第1コンデンサ29とCVケーブル6の静電容量、第4抵抗28の設定によりパルス幅が設定され、短時間の間、パルス電圧(負極正電荷蓄積用パルス)が印加される。時刻t5で第4スイッチ24が開かれ、CVケーブル6に電圧を印加できる状態が終了する。
【0047】
図4(a)に示したスイッチの動作により、所望の時間(時刻t3から時刻t4で、第1コンデンサ29とCVケーブル6の静電容量、第4抵抗28に応じて設定された時間)の間、パルス電圧(第1パルス電圧)が印加され、CVケーブル6に電荷が蓄積されると共に、接地により蓄積された電荷が放出される。
【0048】
第2パルス電圧、もしくは、参照パルス電圧を印加する際のスイッチの開閉状況を説明する。
【0049】
図4(b)に示すように、時刻t11から時刻t12の間に、正極側が接地された第5電源18bにつながる第5スイッチ15が閉じられ、第2コンデンサ30に正極性の電荷が貯められる。時刻t12で第5スイッチ15が開かれた後、第7スイッチ17が閉じられ、第2コンデンサ30の電圧が印加できる状態にされる。
【0050】
時刻t13から時刻t14の間、第6スイッチ16が閉じられ、閉じられた間に電圧(パルス電圧)がCVケーブル6に印加される。そして、第2コンデンサ30とCVケーブル6の静電容量、第7抵抗20の設定によりパルス幅が設定され、極短時間の間、パルス電圧が印加される。時刻t15で第7スイッチ17が開かれ、CVケーブル6に電圧を印加できる状態が終了する。
【0051】
図4(b)に示したスイッチの動作により、所望の時間(時刻t13から時刻t14の間で、第2コンデンサ30とCVケーブル6の静電容量、第7抵抗20に応じて設定された時間)の間、第2パルス電圧が印加され、初期残留電荷が放出される、もしくは、残留電荷が放出された後に参照パルス電圧が印加される。第2パルス電圧の印加による電流値、参照パルス電圧の印加による電流値が計測される。
【0052】
第2パルス電圧、もしくは、参照パルス電圧のパルス幅を10msに設定した場合、10msは50Hzの商用交流電圧の半周期に相当する。そして、図5に示すように、パルス幅が長くなると検出される電荷量は増加する。パルス幅が1msよりも長くなると、検出される電荷量はほとんど増加しないため、パルス幅の上限は10msに限らない。
【0053】
このため、本実施例では、第2パルス電圧、もしくは、参照パルス電圧のパルス幅は、1ms〜10ms、例えば、1msに設定されている。これにより、最小限の電力により電流値の計測を確実に行うことができる。
【0054】
第3パルス電圧印加時のスイッチの開閉状況を説明する。
【0055】
図4(c)に示すように、時刻t21から時刻t22の間に、正極側が接地された第2電源26bにつながる第2スイッチ22が閉じられ、第1コンデンサ29に正極性の電荷が溜められる。時刻t22で第2スイッチ22が開かれた後に第4スイッチ24が閉じられ、第1コンデンサ29の電圧が印加できる状態にされる。
【0056】
時刻t23から時刻t24の間、第3スイッチ23が閉じられ、閉じられた間に電圧(パルス電圧)がCVケーブル6に印加される。そして、第1コンデンサ29とCVケーブル6の静電容量、第4抵抗28の設定によりパルス幅が設定され、短時間の間、パルス電圧(正極性電荷放出用パルス)が印加される。時刻t25で第4スイッチ24が開かれ、CVケーブル6に電圧を印加できる状態が終了する。
【0057】
図6には水トリー劣化が発生していないCVケーブル6の電流値の波形、図7には水トリー劣化が発生しているCVケーブル6の電流値の波形を示してある。
【0058】
上述した劣化検出装置11では、CVケーブル6に第1パルス電圧を印加して電荷を蓄積し、接地により蓄積された電荷を放出した後に、第2パルス電圧を印加する。CVケーブル6に水トリー劣化が生じていれば、劣化部位に蓄積された残留電荷のうちの初期残留電荷が放出され、第2電流値が計測される。その後、参照パルス電圧を印加することで、初期残留電荷が放出された後の劣化部位に蓄積された残留電荷の放出に伴う参照電流値が計測される。
【0059】
第2電流値と参照電流値とに差があれば、初期残留電荷が存在してCVケーブル6に水トリー劣化の部位8が存在していることが判断され、第2電流値と参照電流値とに差がなければ、初期残留電荷が存在しておらず、CVケーブル6には水トリー劣化の部位8が存在していないことが判断される。
【0060】
このため、コストを増加させることなく、第2電流値と参照電流値との差を計測するだけの処理で、極めて短い時間でCVケーブル6の水トリー劣化の部位8の存在(水トリー劣化の発生)を的確に判断することが可能になる。
【0061】
そして、第3パルス電圧の印加により残留電荷(多くの電荷)が放出された後の参照電流値と、第2電流値との差の電流値の信号により水トリー劣化の発生を判断するので、電流値の差が大きくなって信号出力を大きくすることができ、水トリー劣化の発生の判断を容易に行うことができる。
【0062】
つまり、CVケーブル6に水トリー劣化が生じていない場合、第2電流値と参照電流値とに差がないため、図6に示すように、第1パルス電圧の印加による電流値の値だけの波形31となる。CVケーブル6に水トリー劣化が生じている場合、第2電流値と参照電流値とに差があるため、図7に示すように、第1パルス電圧の印加による電流値の波形31と、差の分の値の波形32が合成された波形となる。
【0063】
図8から図10に基づいて劣化検出装置11の具体的な使用例を説明する。図8には本発明の一実施例に係るパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法を実施する装置の具体的な構成(回路構成)、図9には水トリー劣化が発生していないCVケーブル6を計測した際の電流値の波形、図10には水トリー劣化が発生しているCVケーブル6を計測した際の電流値の波形を示してある。
【0064】
図8に示すように、劣化検出装置11には、電流計34を介して水トリー劣化を検出する必要のあるCVケーブル6が接続されている。そして、水トリー劣化が存在していないCVケーブル6と静電容量が等しいCVケーブル35が、CVケーブル6とは逆向きの状態で電流計34に接続されている。
【0065】
CVケーブル6とCVケーブル35を逆向きの状態で電流計34に接続したので、パルス電圧を印加した際に、蓄積される電荷に応じた電流値の波形(図6図7の波形31)が相殺される。
【0066】
CVケーブル6に水トリー劣化が発生していない場合、図9に示すように、蓄積される電荷に応じた電流値の波形が相殺されて波形が現れず、第2電流値と参照電流値との差の値に相当する電流値の波形が現れない。つまり、パルス電圧を印加しても電流に相当する波形は出現しない。
【0067】
CVケーブル6に水トリー劣化が発生している場合、図10に示すように、蓄積される電荷に応じた電流値の波形が相殺されて波形が現れず、第2電流値と参照電流値との差の値に相当する電流値の波形32が現れる。つまり、水トリー劣化の部位8に蓄積された電荷の放出に基づいた電流値の波形32だけが出現する。
【0068】
このため、第2電流値と参照電流値との差を計測するだけの処理で、水トリー劣化に関係する電気信号だけを検出することができ、コストをかけることなく、水トリー劣化の検出を正確に行うことができる。
【0069】
図11図12に基づいて開閉スイッチを備えた参考例を説明する。
【0070】
図11には開閉スイッチを備えた電力ケーブルの水トリー劣化検出装置の要部構成、図12には3相ケーブルの水トリー劣化の検出に適用している状態の概略構成を示してある。尚、図8から図10に示した部材と同一部材には同一符号を付してある。
【0071】
劣化検出装置11(図11参照)には、電流計34を介してCVケーブル6に接続される接続線65、66が備えられ、接続線65、66は逆向きの状態で電流計34に接続されている。一方の接続線65(図中上側)には開閉スイッチ61が備えられている。接続線65には、開閉スイッチ61を介して、例えば、水トリー劣化の部位8が存在するCVケーブル6が接続され、接続線66には、例えば、水トリー劣化の部位8が存在するCVケーブル6が接続されている。
【0072】
開閉スイッチ61を開いた状態で、蓄積用のパルス電圧(第1パルス電圧)を印加することにより、接続線66に接続されたCVケーブル6の水トリー劣化の部位8に電荷が蓄積され、接続線65に接続されたCVケーブル6の水トリー劣化の部位8には電荷が蓄積されない。
【0073】
開閉スイッチ61を閉じて、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)を印加することにより、接続線66に接続されたCVケーブル6の水トリー劣化の部位8に蓄積された電荷が放出され、接続線65に接続されたCVケーブル6の水トリー劣化の部位8には電荷が蓄積されていないため、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)が印加されても電荷は放出されない。
【0074】
これにより、接続線65に接続されたCVケーブル6を水トリー劣化が生じていないCVケーブルとして使用することができ、接続線66に接続されたCVケーブル6の水トリー劣化を判断することができる。
【0075】
開閉スイッチ61を開閉して、蓄積用のパルス電圧(第1パルス電圧)、及び、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)を印加することで、水トリー劣化が生じているCVケーブル6を用いて、水トリー劣化が生じていないCVケーブルを用いた状態にすることができる。このため、CVケーブルの水トリー劣化の状態が判らない場合でも、水トリー劣化が生じていないCVケーブルを用いた状態で、CVケーブルの水トリー劣化を判断することが可能になる。
【0076】
図12に基づいて具体的な使用例を説明する。
【0077】
3相のCVケーブル51、52、53からなるケーブル50の水トリー劣化を判断する場合を説明する。CVケーブル51、52、53が全てに水トリー劣化が生じていると仮定する。
【0078】
CVケーブル51を接続線65に接続し、CVケーブル52を接続線66に接続し、開閉スイッチ61を開いた状態にする。蓄積用のパルス電圧(第1パルス電圧)を印加することにより、接続線66に接続されたCVケーブル52の水トリー劣化の部位に電荷が蓄積され、接続線65に接続されたCVケーブル51の水トリー劣化の部位には電荷が蓄積されない。
【0079】
開閉スイッチ61を閉じて、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)を印加することにより、CVケーブル52の水トリー劣化の部位に蓄積された電荷が放出され、CVケーブル51の水トリー劣化の部位には電荷が蓄積されていないため、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)が印加されても電荷は放出されない。
【0080】
これにより、接続線65に接続されたCVケーブル52を水トリー劣化が生じていないCVケーブルとして使用し、接続線66に接続されたCVケーブル52の水トリー劣化を判断することができる。
【0081】
接続線65、66へのCVケーブル51、52、53の接続を順次変更し、開閉スイッチ61を開閉して、蓄積用のパルス電圧(第1パルス電圧)、及び、放出用のパルス電圧(第2パルス電圧)を印加することで、水トリー劣化が生じているCVケーブル51、52、53を用いて、水トリー劣化が生じていないCVケーブルを用いた状態にすることができる。
【0082】
このため、ケーブル50のCVケーブル51、52、53の水トリー劣化の状態が判らない場合でも、現場において、水トリー劣化が生じていないCVケーブルを用いた状態で、ケーブル50のCVケーブル51、52、53の水トリー劣化を判断することが可能になる。
【0083】
上述したパルス電力ケーブルの劣化検出装置11を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法によると、コストを増加させることなく、極めて短い時間でCVケーブル6の水トリー劣化を的確に判断することが可能になる。また、交流電圧を印加する場合よりも信号の検出が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、電力ケーブルの水トリー劣化の検出を行うためのパルス電圧を用いた電力ケーブルの水トリー劣化検出方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
6、35 CVケーブル
11 水トリー劣化検出装置(劣化検出装置)
12 第1印加機構
13 第2印加機構
15 第5スイッチ
16 第6スイッチ
17 第7スイッチ
18a 第5抵抗
18b 第5電源
19 第6抵抗
20 第7抵抗
21 第1スイッチ
22 第2スイッチ
23 第3スイッチ
24 第4スイッチ
25a 第1抵抗
25b 第1電源
26a 第2抵抗
26b 第2電源
27 第3抵抗
28 第4抵抗
29 第1コンデンサ
30 第2コンデンサ
34 電流計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12