特許第6091339号(P6091339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091339
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】オルメサルタンメドキソミルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 405/14 20060101AFI20170227BHJP
   A61K 31/4178 20060101ALN20170227BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20170227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
   C07D405/14
   !A61K31/4178
   !A61P9/12
   !A61P43/00 116
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-115256(P2013-115256)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-234354(P2014-234354A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】森 博志
(72)【発明者】
【氏名】田中 健次
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102206208(CN,A)
【文献】 国際公開第2011/007368(WO,A2)
【文献】 国際公開第2011/021224(WO,A2)
【文献】 上木 達生、他,プロセス化学 ―医薬品合成から製造まで,丸善株式会社,2008年 7月30日,第1版,第123〜127、183、214〜224
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−{4−[2−(トリチルテトラゾール−5−イル)フェニル]フェニル}メチルイミダゾール−5−カルボン酸 (5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル、pKa2.5〜6.0である酸及び4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−{4−[2−(トリチルテトラゾール−5−イル)フェニル]フェニル}メチルイミダゾール−5−カルボン酸 (5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル1gに対して0.3〜1.3gの水を温度3〜45℃で混合して、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートを含む溶液を得る脱保護反応工程
及び前記脱保護反応工程で得られた溶液の液性をpH3.0〜4.5としたものと非水溶性有機溶媒とを混合して得られた混合液から水層を除去することによって、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートを含む有機層を得る抽出工程を含む(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートの製造方法。
【請求項2】
前記抽出工程で得られた有機層から(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートの結晶を析出させる結晶化工程を含む請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルメサルタンメドキソミル(化学名称:(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレート)の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるオルメサルタンメドキソミルは、アンジオテンシンII受容体拮抗薬として優れた効果を示す高血圧治療薬として有用である。
【0005】
このような治療薬として用いられるオルメサルタンメドキソミルは、非常に高純度のものが望まれている。オルメサルタンメドキソミルは、通常、下記式(2)
【0006】
【化2】
【0007】
で示される4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−{4−[2−(トリチルテトラゾール−5−イル)フェニル]フェニル}メチルイミダゾール−5−カルボン酸 (5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル(以下、トリチルオルメサルタンメドキソミルとも言う。)をトリチルオルメサルタンメドキソミルに対して1.5倍量(質量)の水存在下、60℃にて酢酸を作用させて脱保護反応(脱トリチル化反応)することによって製造される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−121918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが上記特許文献の方法に従ってオルメサルタンメドキソミルを製造したところ、当該方法では、オルメサルタンメドキソミルのエステル基においても加水分解反応が進行することによって、メドキソミル基が脱離し、下記式(3)
【0010】
【化3】
【0011】
で示される4−(2−ヒドロキシプロパン−2−イル)−2−プロピル−1−{[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イル]メチル}−1H−イミダゾール−5−カルボン酸(以下、オルメサルタンとも言う。)が不純物として多く副生することが明らかとなった。さらに、副生したオルメサルタンは、反応系中のオルメサルタンメドキソミルなどと反応し、下記式(4)
【0012】
【化4】
【0013】
で示される2量体(以下、オルメサルタン2量体とも言う。)など、オルメサルタン由来の低極性不純物が多く副生することが分かった。そして、このような低極性不純物は、一旦生成されると除去することが困難であり、高純度のオルメサルタンメドキソミルを得るには、繰り返し精製を行なうなど煩雑な操作が必要とされ、これにより収量が低下してしまうことから、工業的に生産するには大変な問題であった。
【0014】
したがって、本発明の目的は、特に上記オルメサルタン2量体などの低極性不純物の含有量が低減された、高純度のオルメサルタンメドキソミルの結晶を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決するため、トリチルオルメサルタンメドキソミルを酢酸水溶液中で脱保護反応する際の条件について鋭意検討を行った。その結果、トリチルオルメサルタンメドキソミルの脱保護反応を上記従来の方法における60℃よりも低温、特に45℃以下で行ない、且つ、特定のpKaの酸を用いることによって、上記オルメサルタンメドキソミルのエステル基における加水分解を抑制できることが明らかとなった。さらに、当該温度を30〜45℃の範囲とすることによって、当該脱保護反応が十分に進行し、高純度のオルメサルタンメドキソミルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
即ち、本発明は、4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−{4−[2−(トリチルテトラゾール−5−イル)フェニル]フェニル}メチルイミダゾール−5−カルボン酸 (5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル、pKa2.5〜6.0である酸及び4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−{4−[2−(トリチルテトラゾール−5−イル)フェニル]フェニル}メチルイミダゾール−5−カルボン酸 (5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチルエステル1gに対して0.3〜1.3gの水を温度3〜45℃で混合して、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートを含む溶液を得る脱保護反応工程
及び前記脱保護反応工程で得られた溶液の液性をpH3.0〜4.5としたものと非水溶性有機溶媒とを混合して得られた混合液から水層を除去することによって、(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートを含む有機層を得る抽出工程を含む(5−メチル−2−オキソ−1,3−ジオキソレン−4−イル)メチル 4−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)−2−プロピル−1−[2’−(1H−テトラゾール−5−イル)ビフェニル−4−イルメチル]イミダゾール−5−カルボキシレートの製造方法である。
【0018】
た、前記抽出工程で得られた有機層から、直接オルメサルタンメドキソミルの結晶を析出させることによって(結晶化工程)、効率的にオルメサルタンメドキソミルの結晶を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、特に、上記オルメサルタン2量体など低極性不純物の含有量が低減した、高純度のオルメサルタンメドキソミルを、精製操作を繰り返すことなく、効率的に、簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、オルメサルタンメドキソミル、pKa2.5〜6.0の酸及び水を温度30〜45℃で混合してオルメサルタンメドキソミルを得る脱保護反応工程を含むオルメサルタンメドキソミルの製造方法である。本発明では、前記脱保護反応工程に次いで、前記抽出工程を行なうことが好ましく、さらに、前記結晶化工程を行なうことがより好ましい。以下に各工程の詳細について説明する。
【0021】
(脱保護反応工程)
本発明において、前記脱保護反応工程は、トリチルオルメサルタンメドキソミル、pKa2.5〜6.0の酸及び水を温度30〜45℃で混合して、オルメサルタンメドキソミルを得る工程である。
【0022】
本発明において使用されるトリチルオルメサルタンメドキソミルは、特に制限されず、公知の方法で製造されたものを使用することができる。より高純度のオルメサルタンメドキソミルを取得するには、以下の方法で精製されたものを使用することが好ましい。すなわち、当該トリチルオルメサルタンメドキソミルは、トリチルオルメサルタンメドキソミルをアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、トルエンなどの有機溶媒を用いて再結晶させて得られるトリチルオルメサルタンメドキソミルの結晶であることが好ましく、特に酢酸エチルを用いて再結晶させたものであることが好ましい。
【0023】
トリチルオルメサルタンメドキソミルの再結晶において、使用する溶媒の量は、溶媒の種類によって適宜決定すればよく、通常、トリチルオルメサルタンメドキソミル1gに対して、5〜15mL使用する。トリチルオルメサルタンメドキソミルを溶解させる際の温度は、使用する溶媒の種類や量によって適宜決定され、通常、使用する溶媒の還流温度から5〜10℃低い温度にて溶解させる。また、結晶を析出させる際は、例えば、0〜10℃の温度まで冷却し、結晶を析出させることが好ましい。この際、種結晶を使用することもできる。得られた結晶は、公知の分離方法、具体的には、デカンテーション、ろ過、遠心ろ過などの方法によって分離することができる。また、これらの方法により分離したトリチルオルメサルタンメドキソミルの結晶は、使用した有機溶媒を用いて洗浄することもできる。当該再結晶操作を行うことにより、トリチルオルメサルタンメドキソミルに含まれる高極性不純物群を低減させることができ、これを原料として使用した際に得られる、オルメサルタンメドキソミルの結晶の高極性不純物群も低減することができる。なお、当該再結晶操作は、高極性不純物群を低減させることを目的として、繰り返し行なってもよい。
【0024】
当該工程では、pKa(酸解離定数)が2.5〜6.0である酸が使用される。なお、本発明において、特に言及のない限りpKaの値は25℃における値であるものとする。本発明で用いられる酸として、具体的には、ギ酸(pKa3.55)、酢酸(pKa4.56)、クエン酸(pKa5.69)、酒石酸(pKa3.95)、シュウ酸(pKa3.82)、フルオロ酢酸(pKa2.59)、フマル酸(pKa4.10)等が挙げられるがこの限りではない。これらは、単独で使用することも、複数種を使用することもできる。また、試薬或いは工業原料などが何ら制限なく使用でき、水溶液として使用することもできる。本発明では、酸の使用量は特に制限されず、酸の種類や濃度によって調整する必要があるが、通常、トリチルオルメサルタンメドキソミル1gに対して、2〜10g使用される。当該量使用することによって、反応が十分に進行し、後処理などの操作を効率的に行なうことができる。
【0025】
また、当該工程では、水を用いる必要がある。本発明では、当該水の使用量は特に制限されず、反応液中に水を存在させることによって、反応速度が増加し、反応転化率が高くなって、反応を十分に進行させることができる。さらに、本発明では、反応液中に存在する水の量を厳密に調整することによって、上記オルメサルタンの副生が抑制され、オルメサルタン2量体などの低極性不純物の副生を抑制することができて好ましい。即ち、反応液中に存在する水の量をトリチルオルメサルタンメドキソミル1gに対して0.3〜1.3gとすることが好ましく、0.4〜1.2gとすることがより好ましい。当該量の水を使用することによって、より高純度のオルメサルタンメドキソミルを得ることができる。
【0026】
本発明において、トリチルオルメサルタンと酸と水とを混合する方法や順序は特に制限されないが、具体的な方法を例示するならば、トリチルオルメサルタンと酸とを混合して30〜45℃へ昇温し、溶解した後に、水を添加混合することが好ましい。この方法で行うことで、上記酸の使用量を低減することができる。
【0027】
本発明においては、当該工程にて、混合する際の温度を30〜45℃にすることが最大の特徴である。当該温度範囲にて反応を行なうことによって、当該脱保護反応が進行した上で、上記オルメサルタン2量体などの低極性不純物の生成が抑制され、高純度のオルメサルタンメドキソミルを得ることができる。反応温度が45℃より高いと、上記オルメサルタン2量体などの低極性不純物の生成を十分に抑制することができず、好ましくない。一方、反応温度が30℃より低いと、反応が進行せず、オルメサルタンメドキソミルを取得することができない。また、本発明では、当該反応温度を35〜45℃とすることによって、反応転化率がより高くなって収率が向上し、反応速度が速くなって効率的であることから、好ましい。また、反応時間は特に制限されるものではないが、通常1〜10時間の範囲で行われる。
【0028】
(抽出工程)
本発明では、前記脱保護反応工程に次いで、前記脱保護反応工程で得られた溶液の液性をpH3.0〜4.5とし、非水溶性有機溶媒と混合して得られた混合液から水層を除去することによって、オルメサルタンメドキソミルを含む有機層を得る抽出工程をさらに行なうことが好ましい。水層の液性をpH3.0〜4.5になるように調節することによって、オルメサルタン2量体などの低極性不純物を低減できる。
【0029】
当該抽出工程において、得られた溶液の液性の調整は、アルカリ水溶液と混合することによって行われる。本発明において使用するアルカリ水溶液としては、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの水溶液を用いることができ、試薬或いは工業原料が何ら制限なく使用される。これらアルカリ水溶液の濃度や使用量は、アルカリの種類などにより、水層のpHが3.0〜4.5になるように調節して決める。
【0030】
また、当該工程における非水溶性有機溶媒は、水との相溶性が低く、オルメサルタンメドキソミルの溶解性が十分高い有機溶媒が好ましく使用される。水との相溶性については、一般的に水と混和しない溶媒として知られているものであればよく、水と混和しない程度として、具体的には、20℃における水100mLへの溶解度が10g以下の溶媒を使用することができる。当該工程で用いられる非水溶性有機溶媒として、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類などが挙げられ、これらの中でも、酢酸エステル類が最も効果的にオルメサルタンメドキソミルを抽出するため好ましい。また、酢酸エステル類は、特に、下記に詳述する結晶化工程を続けて行なう場合には、当該工程において効率的に結晶化させることができて好ましい。これら非水溶性有機溶媒は単独で使用することもできるし、複数種類を混合して使用することもできる。また、当該抽出工程における非水溶性有機溶媒の使用量は、使用する有機溶媒の種類にもよるが、オルメサルタンメドキソミル1gに対して、0.5mL〜50mL、好ましくは1mL〜40mL使用される。
【0031】
当該抽出工程において、前記脱保護反応工程で得られた溶液とアルカリ水溶液と有機溶媒とを混合する方法や順序は特に限定されない。水層のpHを3.0〜4.5にするのに使用するアルカリ水溶液の量が不明の場合は、まず、当該得られた溶液にアルカリ水溶液を接触させて液性を調整した後で有機溶媒と混合させる必要があるが、アルカリ水溶液の使用量が決まっている場合は、当該得られた溶液とアルカリ水溶液と有機溶媒を混合する方法や順序は特に限定されない。アルカリ水溶液との接触は複数回に分けて行なうことも可能である。また、これらを混合する温度は、有機溶媒の種類にもよるが、0〜60℃であればよく、5〜50℃であることが好ましい。
【0032】
また、本発明においては、前記脱保護反応工程で得られた反応液から、前記脱保護反応工程で副生するトリフェニルメタノールなどの固体を除去した溶液について、当該抽出工程を行なうことが好ましい。当該抽出工程の前に固体を除去することによって、効率的に当該工程を行なうことができる。トリフェニルメタノールなどの固体を除去する方法は特に制限されないが、具体的には、前記脱保護反応工程で得られた反応液の温度を10〜30℃、好ましくは15〜25℃に冷却することによってトリフェニルメタノールなどの固体が反応液中に析出され、容易に除去することが可能となる。さらに、当該反応液に水を加えることによって、トリフェニルメタノールなどの固体がより効率的に反応溶液中に析出されるため好ましい。加える水の量は1〜20mLであればよく、2〜10mLであることが好ましい。これにより、当該反応で副生したトリフェニルメタノールの大部分が反応溶液中に析出される。析出したトリフェニルメタノールなどの固体は、一般的な分離法、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心ろ過などの分離方法によって、反応液から除去することができる。
【0033】
(結晶化工程)
本発明では、前記抽出工程で得られた有機層から直接オルメサルタンメドキソミルの結晶を析出させる結晶化工程を行なうことによって、効率的にオルメサルタンメドキソミルの結晶を得ることができる。
【0034】
当該結晶化工程において、オルメサルタンメドキソミルを結晶化させる溶媒は、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピルなどの酢酸エステル類を使用することが好ましく、中でも低極性不純物に対する精製効果が高いことから酢酸エチルを使用することが特に好ましい。そのため、当該結晶化工程を行なう場合は、上記抽出工程において、有機溶媒として、これら有機溶媒を使用することが好ましい。
【0035】
また、当該工程において、オルメサルタンメドキソミルを結晶化させる際に共存する溶媒の量は、含まれるオルメサルタンメドキソミル1gに対して、5〜100mLであることが好ましく、8〜30mLであることが特に好ましい。そのため、当該結晶化工程を行なう際に前記抽出工程で得られた有機層における溶媒の量が当該範囲内でない場合は、当該量となるように、溶媒の追加や留去など適宜調整することが好ましい。
【0036】
また、本発明においては、当該結晶化工程を行なわず、前記抽出工程で得られた有機層から溶媒を留去して粗体とし、再結晶など公知の方法によって、当該粗体について精製や結晶化をすることも可能である。このような粗体について再結晶を行なう場合には、前記結晶化工程と同様の溶媒を用いることができ、具体的には、60℃〜還流温度にて当該粗体を溶媒に溶解させ、次いで、得られた溶液を、毎分5〜60℃の冷却速度で0〜10℃まで冷却し、当該温度にて適当な時間保持することによって、結晶を析出させることが好ましく、必要に応じて種結晶を使用してもよい。析出した結晶は、公知の分離方法、具体的には、デカンテーション、ろ過、遠心ろ過などの方法によって分離することができる。また、このような再結晶操作は、当該結晶化工程で得られたオルメサルタンメドキソミルの結晶について、精製などを目的として行なうこともできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制
限されるものではない。尚、後述する実施例7〜9、及び12〜13はそれぞれ参考例1〜3、及び4〜5である。
【0038】
なお、実施例、比較例で得られたオルメサルタンメドキソミルの純度及びオルメサルタン2量体の含有量の測定(高速液体クロマトグラフィー測定)は、以下に示す方法を用いて行なった。
【0039】
<オルメサルタンメドキソミルの純度及びオルメサルタン2量体の含有量の測定>
測定方法:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
装置:高速液体クロマトグラフ装置 WATERS社製
検出器:紫外吸光高度検出器 WATERS社製 (測定波長:220nm)
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製 商品名 Inertsil ODS−3、内径4.6mm、長さ25cm(粒子径5μm、細孔径12nm)
カラム温度:25℃、一定温度
サンプル温度:25℃、一定温度
移動相A:アセトニトリル
移動相B:25mM過塩素酸ナトリウム水溶液(pH=2.5、過塩素酸にて調整)
移動相の送液:移動相A,Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
流量:1.5ml/分
測定時間:45分
【0040】
【表1】
【0041】
上記条件において、オルメサルタンメドキソミルは約15.8分、オルメサルタン2量体は約26.5分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、オルメサルタンメドキソミルの純度及びオルメサルタン2量体の含有量は、すべて、上記条件で測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対する各化合物のピーク面積値の割合である。なお、本発明において、低極性不純物群は、上記条件において、16.0〜40.0分の範囲にピークが確認されるものである。
【0042】
実施例1
直径7.5cmの2枚撹拌翼を備えた500mL四つ口フラスコに、トリチルオルメサルタンメドキソミル40g、酢酸180ml、水40g(1.0倍量)を加え、40℃で2時間撹拌して脱保護反応を行った(反応転化率:98.4%、オルメサルタンメドキソミル純度:98.95%、オルメサルタン2量体:0.047%)。次いで、反応液を20℃まで冷却し、水80gを加え、20℃で1時間攪拌して、析出したトリフェニルメタノールを減圧濾過により除去した後、得られたろ液に10%炭酸水素ナトリウム240mlを加えて、水層の液性をpH3.5とし、酢酸エチル400mlを加えて激しく撹拌した後、水層を分離して、オルメサルタンメドキソミルを含む有機層を得た(オルメサルタンメドキソミル純度:99.35%、2量体:0.011%)。当該有機層から酢酸エチルを200ml留去し、20〜30℃で1時間攪拌して、析出した固体を減圧ろ過にて湿体として分取した。得られた湿体を40℃で14時間乾燥して、オルメサルタンメドキソミルの結晶を24g得た(収率:86%、オルメサルタンメドキソミル純度:99.71%、2量体:0.010%)。
【0043】
実施例2〜9
実施例1の反応温度及び反応における水の使用量を表1に記載したように代えた以外は実施例1と同様の操作を行なった。脱保護反応工程における反応転化率及び得られたオルメサルタンメドキソミルの結晶の物性を表1に示した。
【0044】
実施例10、11
実施例1の水層の液性を表2に記載したように代えた以外は実施例1と同様の操作を行った。得られた有機層の物性を表2に示した。
【0045】
実施例12、13
実施例1の炭酸水素ナトリウムに代えて水酸化ナトリウムを使用し、水層の液性を表2に記載したように代えた以外は実施例1と同様の操作を行なった。その結果、反応後の反応液におけるオルメサルタンメドキソミルの純度と、有機層におけるオルメサルタンメドキソミルの純度には、ほとんど差がなかった。得られた有機層の物性を表2に示した。
【0046】
実施例14〜17
実施例1の酢酸に代えて、表3に示した酸を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。脱保護反応工程における反応転化率及び得られたオルメサルタンメドキソミルの結晶の物性を表3に示した。
【0047】
比較例1(特公平7−121918号、実施例78(a)の検討)
直径7.5cmの2枚撹拌翼を備えた500mL四つ口フラスコに、トリチルオルメサルタンメドキソミル40g、酢酸180ml、水60g(1.5倍量)を加え、60℃で1.5時間撹拌して反応を行った(オルメサルタンメドキソミル純度:97.75%、オルメサルタン2量体:0.277%)。次いで、反応液を20℃まで冷却し、水75gを加え、20℃で1時間攪拌した。析出したトリフェニルメタノールを減圧濾過により除去した後、得られたろ液を濃縮し、乾固し、残留物にトルエンを加え再度乾固した。残留物に酢酸エチルを200ml加え、20〜30℃で1時間攪拌した。次いで、減圧ろ過して湿体を分取し、得られた湿体を40℃で14時間乾燥し、オルメサルタンメドキソミルの粗体を25g得た(収率:90%、オルメサルタンメドキソミル純度:98.62%、2量体:0.196%)。
【0048】
比較例2〜6
実施例1の反応温度、及び水の使用量を表1に記載したように代えた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示した。比較例6では反応転化率が低く、オルメサルタンメドキソミルを取得することができなかった。
【0049】
比較例7
実施例1の炭酸水素ナトリウムに代えて水を使用した以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、抽出工程において分層せず、オルメサルタンメドキソミルを取得することができなかった。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】