(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
原料収容部に収容したアルミニウムとハロゲン系ガスとを反応させて得られるハロゲン化アルミニウムガスと、窒素源ガスとを反応させてアルミニウム系III族窒化物単結晶をバッチ方式で繰り返し製造する方法において、
原料収容部に収容したアルミニウムを繰り返し使用すると共に、
アルミニウムとハロゲン系ガスとを反応させる前に、分子内に酸素原子または窒素原子を有し且つアルミニウムと反応する反応性ガスをアルミニウムと接触させて、該アルミニウム表面に被膜を形成させることを特徴とするアルミニウム系III族窒化物単結晶の製造方法。
反応性ガスが、酸素ガス、一酸化炭素ガス、水蒸気、アンモニウムガスからなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系III族窒化物単結晶の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ハロゲン化アルミニウムガスと、窒素源ガスとを反応させてアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する方法、所謂、HVPE法によるアルミニウムIII族窒化物単結晶の製造方法に関するものである。
【0018】
本発明において、アルミニウム系III族窒化物単結晶を製造するための装置は、上記条件を満足する反応を実施できるような装置であれば、特に制限されるものではない。例えば、
図1のような装置が考えられる。先ず、本発明に使用できる装置の一例を、
図1を用いて説明する。
【0019】
(装置)
図1において、アルミニウム系III族窒化物単結晶製造装置は、反応管2を有し、その中に原料収容部3および成長部10を有する。該原料収容部3には、アルミニウム7を収容し、該原料収容部3の上流側には、ハロゲン系ガス供給管4および反応性ガス供給管5を備える。そして、該原料収容部3の下流側には、ハロゲン化アルミニウムガス流通管8を備える。ハロゲン系ガスは、ハロゲン系ガス供給管4を流通し、原料収容部3へ供給される。原料収容部3は、外部加熱手段9により加熱できる態様とする。
【0020】
反応性ガス供給管より供給された反応性ガスと原料収容部に収容されたアルミニウムとが接触して、該アルミニウム表面に被膜が形成すると考えられる。なお、下記に詳述するが、反応性ガスは、反応性ガス供給管から供給する以外に、他の手段によりアルミニウムと接触させることもできる。つまり、反応性ガス供給管を有さない装置を使用することも可能である。この場合、原料収容部を開放して、収容されたアルミニウムを大気(反応性ガス;酸素、水蒸気を含む空気)と接触させることもできる。ただし、反応性ガスをアルミニウムと接触させる際、安定にかつ安全に実施するためには、上記の通り、反応性ガス供給管から反応性ガスを供給することが好ましい。
【0021】
反応性ガスとアルミニウムとを接触させた後(反応性ガスを供給した場合には、反応性ガスの流通を停止した後)、ハロゲン系ガス供給管4より供給されたハロゲン系ガスと原料収容部3に収容されたアルミニウム7とを反応させてハロゲン化アルミニウムガスを生成させる。生成したハロゲン化アルミニウムガスは原料収容部下流に設置したハロゲン化アルミニウムガス流通管8を流通して成長部10に供給される。
【0022】
成長部10は、基板を加熱保持するためのサセプタ11を有し、該サセプタ上に基板12が設置される。また、ハロゲン化アルミニウムガス流通管8および窒素源ガス供給管5から成長部にガスが供給される構造である。
【0023】
さらに、反応管の下流側には排気口13を有し、成長部を流通したガスは該排気口から装置外部へ排気される。
【0024】
外部加熱手段9は、特に制限されるものではなく、抵抗加熱方式や光加熱方式,高周波誘導加熱方式のものが使用できる。また、収容部温度と輸送配管温度を一括に制御する一体型でも良いし、個別に制御する多ゾーン型でも良い。
【0025】
反応管、ガス供給管、原料収容部、ガス流通管の材質は、石英ガラス、ステンレス、酸化アルミニウムなどの耐熱性および耐酸性の材料で構成される。ハロゲン系ガス供給管4および反応性ガス供給管5の材質は操作性の観点からステンレスを、その他の材質は耐熱性、耐酸性の観点から石英を用いることが好ましい。ハロゲン系ガス供給管4と原料収容部3、反応性ガス供給管5と原料収容部3の接続は、溶接などで接合されてもよいし、市販の樹脂性Oリングシールや金属シールを用いた継手により接続されてもよい。また、一体成形されてもよい。
【0026】
サセプタ11の材質は、カーボン、窒化ホウ素、タンタルカーバイド、タングステンなど、耐熱性、耐酸性の材質で構成される。
【0027】
以上のような装置を用いることにより、本発明の方法を実施することができる。ただし、当然のことながら、本発明の方法は、本発明の要件を実施できる装置であれば上記装置以外の装置を使用することもできる。次に、
図1の装置を使用した場合の例について説明する。
【0028】
(製造方法)
図1の装置を用いた本発明の方法について説明する。なお、本発明の方法は、バッチ方式で繰り返しアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する方法である。以下の説明では、窒化アルミニウム単結晶を製造する例を主に説明する。その工程図を
図2に示す。バッチ方式の繰り返し数は、特に制限されるものではなく、2バッチ以上バッチ方式で単結晶を製造する場合に、本発明は採用される。繰り返し製造する場合の上限値は、収容したアルミニウムの量等に応じて決定されるが、通常、15バッチ程度である。
【0029】
(アルミニウムの収容)
原料となるアルミニウムは、純度が99.9%以上の固体を使用することが好ましい。なお、液状のアルミニウムを使用することもできるが、反応性ガスおよびハロゲン系ガスとの接触効率を考えると、固体のアルミニウムを使用することが好ましい。固体のアルミニウムを使用する場合、その大きさは、特に制限されるものではないが、ハロゲン系ガスとの接触効率、該ハロゲン系ガスの流通、及び原料収容部の圧力損失等を考慮すると、直径0.1mm以上10mm以下であって、長さ0.1mm以上10mm以下の円柱状のもの、あるいは、これに類似の柱状のものが好ましい。
【0030】
原料収容部にアルミニウムを収容する場合には、原料収容部の内部にアルミニウムを直接収容してもよいし、ボート上にアルミニウムを積載して収容してもよい。
【0031】
アルミニウムの充填量は、原料収容部の大きさ、単結晶の成長膜厚と製造バッチ数、単結晶成長時のハロゲン系ガスおよびキャリアガスの供給流量、ハロゲン系ガスとの接触効率などを考慮して決定すればよく、5g〜1000gが好ましく、30g〜500gがさらに好ましい。
【0032】
アルミニウムは、不純物の混入を防ぐため、真空パックに保存したものを用いることが好ましい。しかしながら、アルミニウムを原料収容部に収容する際には大気中で真空パックを開封するため、アルミニウムが大気と接触することは必至であり、この際の自然酸化によりアルミニウム表面に酸化被膜が形成されると考えられる。本発明は、このような通常の操作を行う場合に生じる問題点を改善したものである。
【0033】
(反応性ガスとアルミニウムとの接触)
本発明においては、原料収容部に収容されたアルミニウムを繰り返し使用して、バッチ方式でアルミニウム系III族窒化物単結晶を繰り返し製造する際において、アルミニウムとハロゲン系ガスとを反応させる前に、分子内に酸素原子または窒素原子を有し且つアルミニウムと反応する反応性ガスを、アルミニウムと接触させることを特徴とする。少なくとも2バッチ目以降の単結晶の成長の前に、反応性ガスとアルミニウムを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0034】
なお、原料収容部に最初にアルミニウムを収容した際は、前記の通り、収容時にアルミニウムは大気と接触するため、この操作が、アルミニウムと反応性ガスとを接触させる工程に該当する。さらに、最初にアルミニウムを収容した際は、大気と接触したアルミニウムに、別途、反応性ガスを、例えば、反応性ガス供給管から原料収容部に流通させて、アルミニウムと接触させることもできる。中でも、2バッチ目以降の製造において反応性ガスを原料収容部に流通させる場合には、2バッチ目以降の製造と同じ条件に近付けるために、2バッチ目以降と同じ反応性ガスを原料収容部に流通させることが好ましい。
【0035】
アルミニウムと接触させる反応性ガスは、分子内に酸素原子または窒素原子を有し、かつアルミニウムと反応するガスである。具体的には、酸素、一酸化炭素、水蒸気など、酸素を含む反応性ガスが挙げられる。この場合、アルミニウム表面には酸化被膜が形成されるものと考えられる。また、アンモニアなど、窒素を含む反応性ガスも挙げられる。この場合、アルミニウム表面には窒化被膜が形成されるものと考えられる。反応性ガスは、上記したガスの中から選ばれる少なくとも1種のガスであり、2種以上の混合ガスでも良い。例えば、水蒸気や酸素を含む、空気でも良い。
【0036】
2バッチ目以降のアルミニウム系III族窒化物単結晶(ハロゲン化アルミニウムガス)の製造方法において、アルミニウムと反応性ガスを接触させる方法は、特に制限されるものではないが、原料収容部を開放して大気(大気中の水分、酸素:反応性ガス)とアルミニウムとを接触させることもできるし、原料収容部に反応性ガスを供給してアルミニウムに接触させることもできる。操作性、安全性を考慮すると、反応性ガスを原料収容部に供給することが好ましい。以下、反応性ガスを原料収容部に供給する場合の説明を行う。
【0037】
反応性ガスは、単体でも供給できるが、希釈ガスとともに供給することもできる。希釈ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガスなど、反応性ガスと反応せず、アルミニウムとも反応しないガス、またはこれらの混合ガスであればよい。
【0038】
反応性ガスを原料収容部に流通させる際の反応性ガスの供給流量は、0.005〜3000sccm(Standard Cubic Centimeter per Minutes)が好ましく、1〜1000sccmがさらに好ましい。希釈ガスとともに供給する場合には、希釈ガスと反応性ガスの合計供給流量に対する反応性ガスの供給流量は0%でなければよいが、0.1〜90%が好ましく、1〜50%がさらに好ましい。
【0039】
反応性ガスとして空気を使用する場合には、反応性ガス供給管より供給することもできるし、原料収容部を開放することで大気とアルミニウムを接触させることもできる。ただし、大気中には不純物が含まれている可能性があるため、不純物を低減する処理を施した空気を反応性ガス供給管より供給することが好ましい。
【0040】
本発明において、アルミニウムを収容した原料収容部に前記反応性ガスを流通させる際の温度(反応温度)は、10℃以上500℃以下に保持することが好ましい。その中でも、防爆性、耐腐食性、省エネルギーの観点から、室温(23℃)から200℃以下に保持することが好ましい。
【0041】
また、該原料収容部に反応性ガスを流通させる時間(反応時間)は、特に制限されるものではないが、1分から180分が好ましい。
【0042】
反応温度、および反応時間は、原料収容部の容量・形状、アルミニウムの収容量、次の単結晶成長において目標とするアルミニウム系III族窒化物単結晶の成長膜厚により、最適条件を適宜決すればよい。アルミニウムは反応性が高いが、酸化被膜、または窒化被膜が一旦形成されると、前記反応性ガスと接触しても、特に、前記の反応温度、および反応時間程度であれば、それら被膜は厚くならない、つまり、アルミニウムの内部まで反応することはないと考えられる。そのため、前記の反応温度、および反応時間からその都度、条件を決定してやればよい。ただし、製造管理の容易さ等を考慮すると、毎バッチ同じ条件を採用することが好ましい。
【0043】
アルミニウム系III族窒化物単結晶をバッチ方式で2バッチ目以降に製造する場合、従来の方法では、大気と接触しないように不活性ガス雰囲気下で保存されたアルミニウムとハロゲン系ガスとから得られるハロゲン化アルミニウムガスを使用する。本発明の方法は、不活性ガス雰囲気下で保存されたアルミニウムとハロゲン系ガスとを接触させる前に、該アルミニウムに反応性ガスを接触させることを特徴とする。
【0044】
アルミニウムは反応性が高く分析が難しいため、推定ではあるが、反応性ガスが原料収容部に流通することにより、アルミニウムの表面には、酸化被膜、または窒化被膜が形成されると考えられる。つまり、本発明においては、アルミニウムの表面状態を一定の状態(酸化被膜、または窒化被膜が形成された状態)とした後、ハロゲン系ガスと接触させて、ハロゲン化アルミニウムガスを生成するものである。
【0045】
アルミニウムは反応性が高いため、前記の反応温度、および反応時間であれば、十分に均一な酸化被膜、または窒化被膜を形成することができる。また、ある程度の大きさのアルミニウムを使用すれば、その表面のみに被膜が形成されるため、十分にハロゲン化アルミニウムガスの原料として使用することができる。この点からも、例えば、直径0.1mm以上10mm以下であって、長さ0.1mm以上10mm以下の円柱状のアルミニウム、あるいは、これに類似の柱状のアルミニウムは、特に好適に用いられる。
【0046】
本発明の方法によれば、原料収容部に収容したアルミニウムを繰り返し使用し、バッチ方式でアルミニウム系III族窒化物単結晶を繰り返し製造する場合に、アルミニウムの表面状態を安定化させた、同じ状態のアルミニウムをハロゲン化アルミニウムの原料に使用できる。その結果、安定してハロゲン化アルミニウムガスを製造することができ、さらには、安定した膜厚のアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造することができる。
【0047】
なお、
図1の装置を用いた場合には、反応性ガスを流通させる間は基板に不活性被膜(酸化被膜、または窒化被膜)が形成されないように、成長部に基板を設置しないことが好ましい。
【0048】
(ハロゲン化アルミニウムガスの生成)
本発明においては、反応性ガスとアルミニウムを接触させた後、原料収容部にハロゲン系ガスを流通させて、ハロゲン化アルミニウムガスを生成する。つまり、表面に被膜(酸化被膜、または窒化被膜)を有するアルミニウムとハロゲン系ガスとを接触させて、ハロゲン化アルミニウムガスを生成する。
【0049】
ハロゲン系ガスは、アルミニウムと接触することにより、ハロゲン化アルミニウムガスとなるものであれば特に制限されるものではない。具体的には、ハロゲン化水素ガスまたはハロゲンガスが用いられる。中でも、得られるハロゲン化アルミニウムガスの使用範囲の拡大、配管の腐食のし難さ、汎用性と経済性を考慮すると、塩化水素ガスを用いることが好ましい。なお、塩化水素ガスを使用した場合には、塩化アルミニウムガスが生成する。
【0050】
また、ハロゲン系ガスは、それ単独でも供給することができるが、アルミニウムとハロゲン系ガスとの反応で生成したハロゲン化アルミニウムガスを速やかに成長部へ輸送するためには、水素ガス、または不活性ガスをキャリアガスに使用することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスが挙げられる。これらキャリアガスは、1種類のガスを使用することもできるし、2種類以上のガスを混合して使用することもできる。これらキャリアガスの中でも、アルミニウム系III族窒化物単結晶の製造に悪影響を与えないという点で、水素ガス、窒素ガスを使用することが好ましい。
【0051】
ハロゲン系ガスの供給流量は、0.01〜500sccmが好ましく、0.1〜100sccmがさらに好ましい。キャリアガスとともに供給する場合には、ハロゲン系ガスとキャリアガスの合計供給流量に対するハロゲン系ガスの供給流量の割合は、0.0001〜50%が好ましく、0.1〜20%がさらに好ましい。
【0052】
ハロゲン化アルミニウムガス生成工程の条件としては、アルミニウムとハロゲン系ガスとを接触させてハロゲン化アルミニウムガスを製造する際の公知の条件を採用することができる。つまり、表面に被膜(酸化被膜、または窒化被膜)を有するアルミニウムを使用する以外は、公知の方法でハロゲン系ガスと反応させればよい。
【0053】
具体的には、反応性ガスとアルミニウムを接触させた後、原料収容部にハロゲン系ガスを流通させる際の温度は、ハロゲン系ガスとアルミニウムが反応する温度であって、ハロゲン化アルミニウムの昇華温度より高い温度であれば特に制限されるものではない。ただし、一ハロゲン化アルミニウムガスの発生量はより少ない方がよいため、200〜700℃が好ましい。また、アルミニウムが液体となると、反応性ガスとアルミニウムを接触して形成された被膜が外れて混合され、被膜の効果が低減されるため、アルミニウムが固体である方がよい。さらに、ハロゲン系ガスの反応効率を高めるためには、なるべく高い温度であることが好ましい。そのため、収容部の温度は、300〜660℃とすることがより好ましく、350〜600℃とすることがさらに好ましい。
【0054】
また、原料収容部にハロゲン系ガスを流通させる際の時間は、成長部において成長するアルミニウム系III族窒化物の目的とする成長膜厚により適宜決定すればよいが、一般的にHVPE法で厚膜を成長する場合には、数時間から数十時間が適当である。
【0055】
上述したが、反応性ガスとアルミニウムを接触させると、酸化被膜または窒化被膜はアルミニウムの表面を覆う形で形成され、アルミニウムがある程度の大きさであれば、反応時間に関わらずアルミニウムの内部までが酸化または窒化されることはないと推測した。しかしながら、ハロゲン化アルミニウムガス生成工程においては、ハロゲン系ガスと被膜の内部にあるアルミニウムとが反応し、ハロゲン化アルミニウムガスが生成する。この原因については以下のように推測する。
【0056】
反応性ガスとアルミニウムとの接触は、500℃以下の温度で行うことが好ましく、反応性ガスを流通した後には温度を室温まで下げ、続いて、ハロゲン化アルミニウムガス生成工程で再度昇温する。アルミニウムと酸化被膜または窒化被膜の熱膨張係数を比較すると、アルミニウムの方が大きい。つまり、一定温度で反応性ガスとアルミニウムを接触させているときには、反応性ガスとアルミニウムとの反応は表面のみで進行し、表面全体が被膜で覆われた時点で、それ以上の反応は起きなくなると考えられる。それに対して、その後に温度を下げた際またはハロゲン化アルミニウムガス生成工程で温度を上げた際に、熱膨張係数差に起因して、内部のアルミニウムが露出する部分が生じると考えられる。そしてハロゲン系ガスを流通した際に、その露出した部分を通じてハロゲン系ガスとアルミニウムが接触し、反応すると推測する。
【0057】
反応後のアルミニウムを確認すると、アルミニウムの他、透明な固体の堆積物が原料収容部に確認できる。このことからも、前述した過程のもとに、アルミニウムとハロゲン系ガスが接触・反応してハロゲン化アルミニウムガスが生成するものと考えられる。そして、酸化被膜、または窒化被膜が透明な固体の堆積物として原料収容部に残留するものと考えられる。
【0058】
また、この反応は、アルミニウムの形状、大きさ、後述するアルミニウム系III族窒化物単結晶の成長時間等によっても異なると考えられるが、酸化被膜、または窒化被膜の一部分からアルミニウムが露出し、その部分とハロゲン系ガスとが接触して、ハロゲン化アルミニウムガスを生成するものと考えられる。そして、さらに反応性ガスとアルミニウムの接触を行うと、このアルミニウムが析出した部分を再度、酸化または窒化して被膜を形成するものと考えられる。そして、再度、原料収容部にハロゲン系ガスを流通させることにより、アルミニウムが露出し易い一部分とハロゲン系ガスが反応して、同じようにハロゲン化アルミニウムガスを生成するものと考えられる。このことは、単結晶成長の前に反応性ガスとアルミニウムの接触を行わなかった場合には、バッチ数を増やすにつれ、アルミニウム系III族窒化物単結晶の成長膜厚が厚くなることからも推定される。
【0059】
以上の通り、本発明の方法は、反応性ガスとアルミニウムを接触させた後、ハロゲン系ガスを流通させてハロゲン化アルミニウムガスを生成するため、優れた効果を発揮する。
【0060】
次に、この工程で得られたハロゲン化アルミニウムガスと窒素源ガスとを反応させて、アルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する工程を実施する。この製造工程について説明する。
【0061】
(アルミニウム系III族窒化物単結晶の成長(製造条件))
本発明において、アルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する条件は、公知の方法を採用することができる。また、アルミニウム系III族窒化物単結晶は、アルミニウム以外に、ガリウム、インジウム、ホウ素を含むものであってもよい。中でも、本発明の方法が優れた効果を発揮するのは、III族元素の内、アルミニウムを50mol%以上含むアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造する場合である。なお、アルミニウム以外のIII族元素を含ませる場合には、その元素の原料ガスを供給し、窒素源ガスと反応させればよい。
【0062】
本発明において、窒素源ガスは、窒素を含有し、さらにハロゲン化アルミニウムガスと反応してアルミニウム系III族窒化物単結晶が生成するガスであれば限定されないが、コストと取り扱いやすさの点からアンモニアを用いることが好ましい。
【0063】
目的とするアルミニウム系III族窒化物単結晶を成長する種基板としては、特に限定されないが、例えば窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、シリコン、シリコンカーバイド、酸化亜鉛、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、ガリウム砒素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタニウムなどが用いられる。
【0064】
製造工程の条件としては、ハロゲン化アルミニウムガスと窒素源ガスを反応させて、基板上にアルミニウム系III族窒化物単結晶を成長する際の公知の条件を採用することができる。つまり、表面に被膜(酸化被膜、または窒化被膜)を有するアルミニウムを使用して生成させたハロゲン化アルミニウムを使用すること以外は、公知の方法で製造できる。
【0065】
具体的には、まず、サセプタ上に、アルミニウム系III族窒化物単結晶を成長させるための種基板を設置する。設置する種基板の数は、1個でも良いし、複数個でも良い。複数個設置すれば、同時に複数個のアルミニウム系III族単結晶を成長させることができるため、コストの面で好適である。ただし、基板の設置位置により、熱やガスの流れが異なることがあるため、複数個の基板を設置する際には注意が必要である。
【0066】
本発明の方法によれば、単結晶を成長させる前に、反応性ガスとアルミニウムを接触させることで、アルミニウムの表面に酸化被膜または窒化被膜が一定に形成される。そのため、原料収容部に収容したアルミニウムを繰り返し使用する場合において、絶えず、同じ状態のアルミニウムをハロゲン化アルミニウムガスの原料として使用できる。その結果、安定した膜厚のアルミニウム系III族窒化物単結晶を成長させることができる。
【0067】
成長部に水素を含むキャリアガスを流通して加熱し、基板に付着した有機物を除去するため、通常サーマルクリーニングを行うと良い。サファイア基板の場合、一般的には1100℃ で10分間程度保持する。その後、ハロゲン化アルミニウムガスおよび窒素源ガスの供給を開始して、好ましくは1000〜1700℃に加熱された基板上にアルミニウム系III族窒化物結晶を成長させる。
【0068】
ハロゲン化アルミニウムガスの供給量は、標準状態における体積流量により管理しても良いが、分圧により決定すると理解し易い。すなわち、基板上に供給される全ガス(キャリアガス、 ハロゲン化アルミニウムガス、窒素源ガス)の標準状態における体積の合計に対するハロゲン化アルミニウムガスの標準状態における体積の割合をハロゲン化アルミニウムガスの供給分圧としている。
【0069】
ハロゲン化アルミニウムガスの供給分圧は1〜1000Paの濃度範囲が選択される。窒素源ガスの供給量は、一般的に供給する上記ハロゲン化アルミニウムガスの0.5〜200倍の供給量が好適に選択されるがこの限りでない。成長時間は意図する膜厚になるように適宜調節される。一定時間成長した後、ハロゲン化アルミニウムガスの供給を停止して成長を終了し、基板を室温まで降温する。
【0070】
以上、ハロゲン化アルミニウムガスを原料としたアルミニウム系III族窒化物単結晶の成長について説明したが、さらに高品質なアルミニウム系III族窒化物単結晶を得るために、成長初期に基板上に100nm以下の膜厚のバッファー層を成長してその上にHVPE法で厚膜を形成する方法、基板上にHVPE法以外の方法によって結晶品質の良好なテンプレート膜を形成してその上にHVPE法で厚膜を形成する方法、基板をストライプ状もしくはドット状に加工してその上にHVPE法で横方向成長させながら厚膜を形成する方法等、様々な成長手法が適用可能である。
【0071】
上記の方法で単結晶を成長させた後、装置内に不活性ガスを流通させて次の製造に備える。当然、原料収容部にも不活性ガスを流通させて、不活性ガス雰囲気下でアルミニウムを保存する。本発明においては、原料収容部に、最初にアルミニウムを収容してアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造した場合には、ここまでが最初の1バッチ目の製造に該当する。2バッチ目以降の製造は、不活性ガス雰囲気下で保存したアルミニウムと反応性ガスとを上記方法で接触させた後、やはり上記方法に従いアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造してやればよい。
【0072】
既往の単結晶製造方法では、単結晶の成長を繰り返し行う際には、通常、原料収容部を開放することはせず、一度使用したアルミニウムを再度使用する。上記の通り、製造と次の製造との間は原料収容部を含む装置内には不活性ガス、例えば、窒素ガスやアルゴンガスを連続して流通させる。一度単結晶の成長に用いたアルミニウムは、ハロゲン系ガスと接触して反応しているため、初期の段階で形成されていた酸化被膜は経時的に外れていくものと考えられる。そのため、繰り返しの製造において、アルミニウムの表面状態が変化し、それ故に該アルミニウムを用いて単結晶を成長させると、バッチ間で単結晶の成長速度が異なる場合が生じたものと考えられる。このことは、比較例で示すが、従来の方法では、アルミニウムを繰り返し使用することにより、徐々に成長速度が速くなっている(比較例では膜厚が厚くなる)ことからも裏付けられる。つまり、繰り返し使用することにより、徐々に酸化被膜が外れて反応性の高いアルミニウムが表面に露出するため、ハロゲン系ガスとの反応率が高くなり、ハロゲン化アルミニウムガスの生成量が多くなり、引いては単結晶の成長速度が速くなるものと考えられる。この場合には、一定時間、一定流量でハロゲン系ガスを供給しても一定の膜厚の単結晶が得られなかった。
【0073】
本発明では、単結晶の成長の前に、反応性ガスとアルミニウムとを接触させる接触工程を含む。これにより、単結晶の成長を行う前のアルミニウムの表面状態は絶えず一定の状態になると考えられる。その結果、該アルミニウムを用いて単結晶の成長を繰り返し行った場合、成長速度の変化は低減し、安定的に一定膜厚の単結晶を得ることができるものと考えられる。
【0074】
本発明では、原料収容部に収容したアルミニウムを繰り返し使用して単結晶の成長を繰り返し行った場合でも、単結晶の成長速度が安定し、安定定期に一定膜厚の単結晶を得ることができる。具体的には、1バッチの成長を5時間とし、これを5バッチ行ったときに、(5バッチ分の成長膜厚の最大値と最小値の差(PV値))/(5バッチ分の成長膜厚の平均値)≦0.15とすることができる。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明の具体的な実施例、比較例について
図1を参照しながら説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例1
図1に示すような装置を使用してアルミニウム系III族窒化物単結晶を製造した例について説明する。具体的には、窒化アルミニウム単結晶を製造した例を説明する。
【0077】
(1バッチ目の単結晶の製造)
石英ガラス製の原料収容部に、純度99.9999%、直径2mm、長さ6mmのアルミニウムを100g収容した。アルミニウムは、収容前には真空パック内で保存されており、収容時に真空パックを開封し、大気に10分間接触させた後、原料収容部に収容した。原料収容部に収容した後には、反応管内を窒素ガスで120分間置換した。
【0078】
次に、反応性ガス供給管から酸素ガスを、ハロゲン系ガス供給管からは、酸素ガスの希釈ガスとして窒素ガスを、同時に60分間供給した。酸素ガスの供給流量は200sccm、窒素ガスの供給流量は800sccmとした。酸素ガスの供給を切った後、反応管内を窒素ガスで120分間置換した。
【0079】
石英ガラス製の成長部に、カーボン製のサセプタを設置し、その上に窒化アルミニウム基板を設置した。成長部では、サセプタを高周波加熱することで、サセプタ上の基板を加熱できる。原料収容部で生成したハロゲン化アルミニウムガス、および窒素源ガスは、窒化アルミニウム基板の横方向から成長部へ供給できる構成である。
【0080】
反応管内の全圧力を750Torrとした状態で、反応管内に、窒素ガスと水素ガスの混合ガスを供給し、反応管内を混合ガス雰囲気とした。混合ガスは、窒化アルミニウム基板の横方向から、10000sccmの流量で供給した。また、この混合ガスは、窒素ガス供給量3000sccm、水素ガス供給量7000sccmの組成とした。
【0081】
次に、上記混合ガスを供給しながら、高周波によりサセプタを加熱し、1500℃になるまで昇温した。それと同時に、抵抗加熱方式の外部加熱手段により、原料収容部を500℃になるまで昇温した。そして、ハロゲン系ガス供給管から塩化水素ガスおよび水素ガスの混合ガスを供給した。このとき、塩化水素ガス供給量30sccm、水素ガス供給量1800sccmの組成とした。さらに、塩化水素ガスの供給と同時に、窒素源ガス供給管から、アンモニアガスおよび窒素ガスの混合ガスを供給した。このとき、アンモニアガス供給量40sccm、窒素ガス供給量160sccmの組成とした。塩化水素ガスおよびアンモニアガスを上記組成で5時間供給した。
【0082】
その後、塩化水素ガスおよびアンモニアガスの供給を停止し、180分間かけてサセプタおよび原料収容部を室温まで降温した。なお、この降温時には、昇温時と同様の組成の窒素ガスと水素ガスの混合ガスを供給した。
【0083】
冷却を確認した後、成長部より基板を取り出した。基板に成長した窒化アルミニウム単結晶の膜厚を、レーザー顕微鏡で測定した。その結果、窒化アルミニウムの成長膜厚は130μmであった。
【0084】
基板を取り出した後、室温で、反応管内(原料収容部)に窒素ガス3000sccmを流通し、窒素雰囲気でアルミニウムを保存した。
【0085】
(2バッチ目の単結晶の製造)
1バッチ目の単結晶の製造で使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムに、1バッチ目の単結晶の製造の前に行った反応性ガス(酸素)との接触と同様の条件で反応性ガスを接触させた。次に、該アルミニウムを用い、1バッチ目と同様の条件で、窒化アルミニウム単結晶を成長した。
【0086】
基板に成長した窒化アルミニウム単結晶の膜厚を、レーザー顕微鏡で測定した。その結果、窒化アルミニウムの成長膜厚は135μmであった。基板を取り出した後、室温で、反応管内に窒素ガス3000sccmを流通し、窒素雰囲気でアルミニウムを保存した。
【0087】
(3バッチ目の単結晶の製造)
2バッチ目の単結晶の製造で使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムに、2バッチ目の単結晶の製造の前に行った反応性ガス(酸素)との接触と同様の条件で反応性ガスを接触させた。次に、該アルミニウムを用い、1バッチ目と同様の条件で、窒化アルミニウム単結晶を成長した。
【0088】
基板に成長した窒化アルミニウム単結晶の膜厚を、レーザー顕微鏡で測定した。その結果、窒化アルミニウムの成長膜厚は145μmであった。基板を取り出した後、室温で、反応管内に窒素ガス3000sccmを流通し、窒素雰囲気でアルミニウムを保存した。
【0089】
(4バッチ目の単結晶の製造)
3バッチ目の単結晶の製造で使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムに、3バッチ目の単結晶の製造の前に行った反応性ガス(酸素)との接触と同様の条件で反応性ガスを接触させた。次に、該アルミニウムを用い、1バッチ目と同様の条件で、窒化アルミニウム単結晶を成長した。
【0090】
基板に成長した窒化アルミニウム単結晶の膜厚を、レーザー顕微鏡で測定した。その結果、窒化アルミニウムの成長膜厚は132μmであった。基板を取り出した後、室温で、反応管内に窒素ガス3000sccmを流通し、窒素雰囲気でアルミニウムを保存した。
【0091】
(5バッチ目の単結晶の製造)
4バッチ目の単結晶の製造で使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムに、4バッチ目の単結晶の製造の前に行った反応性ガス(酸素)との接触と同様の条件で反応性ガスを接触させた。次に、該アルミニウムを用い、1バッチ目と同様の条件で、窒化アルミニウム単結晶を成長した。
【0092】
基板に成長した窒化アルミニウム単結晶の膜厚を、レーザー顕微鏡で測定した。その結果、窒化アルミニウムの成長膜厚は138μmであった。基板を取り出した後、室温で、反応管内に窒素ガス3000sccmを流通し、窒素雰囲気でアルミニウムを保存した。
【0093】
5バッチの成長膜厚のPV値は15μm、平均値は136μm、(PV値)/(平均値)は0.11であった。
【0094】
実施例2
(1バッチ目の単結晶の製造)
実施例1と同様の条件で、原料収容部にアルミニウムを収容して原料収容部を窒素ガスで置換した。
【0095】
次に、外部加熱手段により、原料収容部を400℃に昇温した。それと同時に、反応性ガス供給管からアンモニアガスを30分間供給した。また、アンモニアガスの供給とともに、アンモニアガスの希釈ガスとして、ハロゲン系ガス供給管から窒素ガスを供給した。アンモニアガスの供給流量は50sccm、窒素ガスの供給流量は950sccmとした。アンモニアガスの供給を切った後、原料収容部を室温まで降温して、反応管内を窒素ガスで120分間置換した。
【0096】
実施例1と同様の条件で、ハロゲン化アルミニウムガスの生成および窒化アルミニウム単結晶の成長を行った。
【0097】
実施例1と同様の操作で成長膜厚を測定したところ、119μmであった。
【0098】
(2バッチ目から5バッチ目の単結晶の製造)
前のバッチで使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムをそのまま用い、1バッチ目の単結晶の製造時と同様に反応性ガス(アンモニアガス)とアルミニウムの接触行った。次に、該アルミニウムを用い、1バッチ目の工程と同様の条件で、窒化アルミニウム単結晶を成長した。反応性ガスとアルミニウムの接触、ハロゲン化アルミニウムガスの生成、単結晶の成長を交互に繰り返し、5バッチ目まで単結晶の製造を行った。
【0099】
2バッチ目における単結晶成長膜厚は128μm、3バッチ目における単結晶の成長膜厚は123μm、4バッチ目における単結晶の成長膜厚は116μm、5バッチ目における単結晶の成長膜厚は120μmであった。5バッチの成長膜厚のPV値は12μm、平均値は121μm、(PV値)/(平均値)は0.10であった。
【0100】
比較例1
(1バッチ目の単結晶の製造)
実施例1と同様の条件で、原料収容部にアルミニウムを収容して原料収容部を窒素ガスで置換した。その後、反応性ガスとアルミニウムの接触を行うこと以外は実施例1と同様の操作を行い、ハロゲン化アルミニウムガスの生成および窒化アルミニウム単結晶の成長を行った。
【0101】
実施例1と同様の操作で成長膜厚を測定したところ、132μmであった。
【0102】
(2バッチ目から5バッチ目の単結晶の製造)
前のバッチで使用し、窒素雰囲気中で原料収容部内に保存したアルミニウムをそのまま用い、反応性ガスとアルミニウムの接触を行わずに、1バッチ目の工程と同様の条件で、窒化あるミニウム単結晶を成長した。ハロゲン化アルミニウムガスの生成、単結晶の成長を交互に繰り返し、5バッチ目まで単結晶の製造を行った。
【0103】
2バッチ目の成長膜厚は138μm、3バッチ目の成長膜厚は145μm、4バッチ目の成長膜厚は153μm、5バッチ目の成長膜厚は166μmであった。5バッチの成長膜厚のPV値は34μm、平均値は148μm、(PV値)/(平均値)は0.23であった。
【0104】
【表1】