特許第6091434号(P6091434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091434
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】光学マウント及びEUV露光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/00 20060101AFI20170227BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   G02B7/00 B
   H01L21/30 531A
【請求項の数】19
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-553879(P2013-553879)
(86)(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公表番号】特表2014-507015(P2014-507015A)
(43)【公表日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】EP2012052259
(87)【国際公開番号】WO2012110406
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2015年2月6日
(31)【優先権主張番号】102011004299.7
(32)【優先日】2011年2月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/443,843
(32)【優先日】2011年2月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】102011082994.6
(32)【優先日】2011年9月20日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】61/536,655
(32)【優先日】2011年9月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト ゲッペルト
(72)【発明者】
【氏名】ロドルフォ ラーベ
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ショーンホッフ
【審査官】 越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−242613(JP,A)
【文献】 特開2007−245643(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02183361(GB,A)
【文献】 再公表特許第2007/077878(JP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01970572(EP,A1)
【文献】 特開2005−064474(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0035684(US,A1)
【文献】 特開平09−033822(JP,A)
【文献】 特表2007−530922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/00
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UV投影露光装置において光学素子を取り付ける機構であって、
前記光学素子に制御可能な力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(350、450、550)であり、
該アクチュエータ(350、450、550)と前記光学素子との間にピン(110、210、310、410、510)の形態の機械的結合を、前記アクチュエータ(350、450、550)の駆動軸に対して横方向の剛性に対する前記機械的結合の軸方向の剛性の比が少なくとも100であるよう具現したアクチュエータ(350、450、550)と、
横方向の前記ピン(110、210、310、410、510)の固有振動形態の減衰をもたらす少なくとも1つの減衰要素(130、230、330、430、530、630)と
を備え、
前記減衰要素(130、230、330、430、530、630)は、軸方向の前記ピン(110、210、310、410、510)の固有振動形態を少なくとも実質的に減衰させないよう配置され、
軸方向のLehr減衰係数は、1%以下である
ことを特徴とする機構。
【請求項2】
請求項1に記載の機構において、前記減衰要素(130、230、330、430、530、630)は、前記固有振動形態の臨界減衰の少なくとも1%である減衰度を有することを特徴とする機構。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機構において、前記減衰要素(130、230、330、430、530、630)を、ゴム、特にフッ素ゴム(FKM)、フッ素系エラストマー、又はパーフルオロゴム(FFKM)を含む群に属する材料から製造したこと
を特徴とする機構。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(130、330)は、前記ピン(110、310)の外面上に配置され、好ましくは鍔状又はリング状に前記ピン(110、310)を囲むことを特徴とする機構。
【請求項5】
請求項に記載の機構において、前記減衰要素(330)を、前記ピン(310)とさらに別のコンポーネント、特に前記ピン(310)を囲むスリーブ(340)との間に配置したことを特徴とする機構。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(430、530)を、前記アクチュエータ(350、550)上で支持されるよう配置したことを特徴とする機構。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(430、530)を、前記アクチュエータ(350、550)と固定構造(460、560)、特にアクチュエータハウジングとの間に配置したことを特徴とする機構。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(430、530、630)を、前記アクチュエータ(450、0550)の駆動軸に対する前記アクチュエータ(350、550)の横方向運動の減衰をもたらすよう配置したことを特徴とする機構。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(630)は、前記アクチュエータの駆動軸に対して軸方向の該アクチュエータ用のガイドを形成することを特徴とする機構。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(630)は、横方向の剛性を高める構造を有することを特徴とする機構。
【請求項11】
請求項10に記載の機構において、前記構造はビードを有することを特徴とする機構。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の機構において、前記減衰要素(130)を膜の形態で具現したことを特徴とする機構。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の機構において、前記ピン(110、210、310)は、少なくとも2つの自在継手(120、121、220、221、320、321)を有することを特徴とする機構。
【請求項14】
請求項13に記載の機構において、前記減衰要素(130、230、330)を、前記自在継手(120、121、220、221、320、321)の1つから前記ピン(110、210、310)の全長の5%未満、特に1%未満である距離に配置したことを特徴とする機構。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の機構において、前記自在継手の少なくとも1つ(221)は、前記減衰要素(230)を配置する切欠(221a)を有することを特徴とする機構。
【請求項16】
請求項15に記載の機構において、前記切欠(221a)は、前記自在継手(221)を貫通する貫通孔であることを特徴とする機構。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の機構において、前記光学素子はミラーであることを特徴とする機構。
【請求項18】
光学素子を取り付ける機構を備えるEUV投影露光装置であって、該機構は、
前記光学素子に制御可能な力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(350、450、550)であり、
該アクチュエータ(350、450、550)と前記光学素子との間にピン(110、210、310、410、510)の形態の機械的結合を、前記アクチュエータ(350、450、550)の駆動軸に対して横方向の剛性に対する前記機械的結合の軸方向の剛性の比が少なくとも100であるよう具現したアクチュエータ(350、450、550)と、
横方向の前記ピン(110、210、310、410、510)の固有振動形態の減衰をもたらす少なくとも1つの減衰要素(130、230、330、430、530、630)と
を備え
前記機構の軸方向のLehr減衰係数は、1%以下である
EUV投影露光装置。
【請求項19】
UV投影露光装置において光学素子を取り付ける機構であって、
前記光学素子に制御可能な力を加える少なくとも1つのアクチュエータ(350、450、550)であり、
該アクチュエータ(350、450、550)と前記光学素子との間にピン(110、210、310、410、510)の形態の機械的結合を、前記アクチュエータ(350、450、550)の駆動軸に対して横方向の剛性に対する前記機械的結合の軸方向の剛性の比が少なくとも100であるよう具現したアクチュエータ(350、450、550)と、
横方向の前記ピン(110、210、310、410、510)の固有振動形態の減衰をもたらす少なくとも1つの減衰要素(130、230、330、430、530、630)と
を備え、
少なくとも1つのピンが、前記光学素子の重さの少なくとも一部を支え、
軸方向のLehr減衰係数は、1%以下である機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にEUV投影露光装置において光学素子を取り付ける機構に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、いずれも2011年2月17日付けで出願された独国特許出願第10 2011 004 299.7号及び米国仮出願第61/443,843号の優先権を主張する。本願はさらに、いずれも2011年9月20付けで出願された独国特許出願第10 2011 082 994.6号及び米国仮出願第61/536,655号の優先権を主張する。これらの出願の内容を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明デバイス及び投影レンズを備えたいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明デバイスにより照明されたマスク(レチクル)の像を、投影レンズにより、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影レンズの像平面に配置された基板(例えばシリコンウェハ)に投影することで、マスク構造を基板の感光コーティングに転写するようにする。
【0004】
EUV用(すなわち、15nm未満の波長を有する電磁放射線用)の投影露光装置では、光透過性材料が利用可能でないことにより、ミラーを結像プロセス用の光学コンポーネントとして用いる。上記ミラーは、各ミラーの6自由度の(すなわち、3つの空間方向x、y、及びzの変位に関する、また対応の軸を中心とした回転R、R、及びRに関する)移動を可能にするために、例えばキャリアフレームに固定することができ、少なくとも部分的に操作可能であるよう設計することができる。それにより、例えば熱的影響が原因で投影露光装置の動作中に生じる光学特性の変化を例えば補償することが可能である。
【0005】
特許文献1は、特に、EUV投影露光装置の投影レンズにおいて、ミラー等の光学素子を最大6自由度で操作するために、各光学素子又は各ミラーを投影レンズのハウジングに対して動かすことができる少なくとも2つのローレンツアクチュエータ又は2つの能動駆動可動な運動スピンドルをそれぞれが有する3つのアクチュエータデバイスを用いることを開示している。
【0006】
特許文献2は、特に、投影露光装置の光学素子に、摩擦により光学素子の振動エネルギーのエネルギー散逸を引き起こす少なくとも1つの付加的な素子を装着することを開示している。
【0007】
アクチュエータの駆動力を光学素子に伝達するために、ロッド形コンポーネント又はピンを用い、これは特に、光学素子の(例えばミラーMの)作動中の望ましくない寄生力及び寄生モーメントの分離を可能にするために合計6個のピン又はロッド10〜60のそれぞれが各端部に玉継手を有する既知のヘキサポッド機構(図7を参照)で行うことができる。
【0008】
ベースプレート1と各ピン又はロッドとの間には、光学素子又はミラーMに制御可能な力を加えるアクチュエータを設けることが可能である。リソグラフィ用途で通常必要とされる小さな作動距離(例えば、10ミリメートル未満の範囲)の場合、自在継手の形態の固体継手の使用が、かかる玉継手の機能を実現するのに有意義であることが分かったが、これは、かかる固体継手が遊びもヒステリシスも伴わない無摩擦の挙動を実質的に示すからである。本願の意味の範囲内で、自在継手は、相互に直交した傾斜軸の向きを有する2つの傾斜継手(又は力線(force flux)に対して直列に接続した傾斜継手)を有する継手を意味すると理解すべきであり、当該自在継手は、特に共通のピボット点を有することができる。
【0009】
特に、例えば図7からの機構におけるロッド形コンポーネント又はピンは(それに限定はしないが)が横方向の(すなわち、駆動軸に対して垂直な)分離の目的で各端部に2つの自在継手を有し得ることで、ピン又はロッドは、力又は運動の伝達に関して軸方向にのみ高い剛性を有する一方で他の全方向では低い剛性又は分離しかない。
【0010】
図8は、かかるピン又はロッド810を単に概略的な図で示し、自在継手820、821のうち、それぞれ単純化のために板ばねの形態の個々の継手のみを示し、「801」は、例えばミラー等の光学素子を担持し且つアクチュエータ(図示せず)により作動されるプラットフォームを表す。図8a〜図8cにおいて、いずれの場合もばねによる「固定世界(fixed world)」へのピン810の連結の剛性を図示し、「815」で示す。
【0011】
ピン810が適切な設計である場合に達成できるものとして、ピン及びアクチュエータマスからなる系の第1軸方向固有振動数を上回ると、ミラーの妨害固有振動数がフィルタリング又は抑制される。軸方向の特定の固有振動数がある場合、固有振動数のこの値を超える周波数での加振は、固有振動数のこの値と加振周波数の商の二乗に応じてミラーに減衰的に結合されるが、これは、アクチュエータマス及びピンからなる系が、それに対応する2次ローパスフィルタリングをもたらすからである。この共振に振幅拡大(amplitude magnification)が伴う場合でも、調整パラメータの適切な設計又は適切な位相の選択が行われれば、制御ループにおける安定化を得ることが可能である。
【0012】
しかしながら、この場合、図8b及び図8cに単に概略的に示すような望ましくない横共振が、上記数値例では通常約400Hzであり得る大幅に低い固有振動数を通常は有するという、さらなる問題が動作中に生じ得る。これらの横共振も同様に振幅拡大を伴い、このとき、上述の所望の軸共振を考慮するために利用可能な又は本来自由な調整パラメータがすでに規定されている状況により、特定の状況下では制御ループが不安定になるのを防止することが不可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2005/026801号明細書
【特許文献2】米国特許出願第2008/0278828号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、光学素子の位置決めを安定して、又はできる限り妨害的な影響のないよう制御することを可能にする、特にEUV投影露光装置における光学素子を取り付けるマウントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
特にEUV投影露光装置において光学素子を取り付ける本発明による機構は、
光学素子に制御可能な力を加える少なくとも1つのアクチュエータであり、
アクチュエータと光学素子との間にピンの形態の機械的結合を、上記アクチュエータの駆動軸に対して横方向の剛性に対する上記機械的結合の軸方向の剛性の比が少なくとも100であるよう具現した
アクチュエータと、
横方向のピンの固有振動形態(natural vibration form:固有モード)の減衰をもたらす少なくとも1つの減衰要素と
を備える。
【0016】
「横方向の剛性」は、アクチュエータの場所における横方向撓みに対する横力の比を意味し、「横力」はピン(ロッド)の駆動軸に対して垂直な力成分を表すと理解すべきである。
【0017】
この場合、本発明は、アクチュエータの駆動方向に沿った力又は運動の伝達に関して軸方向にのみ高い剛性を有する一方で他の全方向では低い剛性(すなわち分離)しかないピンにより、光学素子をアクチュエータに連結することから始まる。
【0018】
本発明は、特に、冒頭に記載した望ましくない横共振に関して、実際には軸振動挙動と比べて横振動挙動では比較的低い固有振動数を可能にしつつも、減衰により、横共振に関連した共振拡大が伝達関数で表される(manifested in the transmission function)のを防止するという概念に基づく。換言すれば、本発明による機構の動作中、本質的に望ましくない横方向の低い固有振動数が生じたままであるが、上記横共振の減衰により振幅拡大が行われなくなる。
【0019】
この場合、本発明による減衰は、アクチュエータにより実現される光学素子の運動(例えば、ミラーの調整又は運動)が妨害されないよう実現する。さらに、本発明による減衰は、上述の横共振は減衰されるが冒頭に記載した所望の軸共振は減衰されないよう実現することが好ましい。したがって、本発明によれば、軸方向固有振動挙動を維持することが意図される。これは、ローパスフィルタ又は防振装置としてのピンの、軸共振により達成される同様に冒頭に記載した所望の効果が、当該ピンの軸方向振動挙動の減衰が小さいほどより一層効果的である一方で、軸方向減衰が大きいほどこのフィルタ効果がより一層悪くなるという考察に基づく。
【0020】
一実施形態によれば、減衰要素は、上記横方向固有振動形態に関して臨界減衰(すなわち、非振動限界の場合(in the case of aperiodic limit case)の減衰。下記方程式(2)を参照)の少なくとも1%であるLehr減衰係数(Lehr's damping factor)を有する。
【0021】
一実施形態によれば、減衰要素は、ゴム、例えばフッ素ゴム(FKM)、フッ素系エラストマー、又はパーフルオロゴム(FFKM)を含む群に属する材料から製造する。
【0022】
上記材料は、例えば、特に本件で想定されるマイクロリソグラフィの用途で用いるのに適している。さらに他の実施形態では、他の減衰ゴム材料を(他の用途において、特定の状況下で、例えばフッ素化シリコーンゴム、又はテトラフルオロエチレン/プロピレンゴム(FEPM)も)用いることも可能である。
【0023】
一実施形態によれば、減衰要素を、軸方向のピンの固有振動形態を少なくとも実質的に減衰させないよう配置する。この場合、軸方向のLehr減衰係数は、好ましくは1%以下である。
【0024】
一実施形態によれば、減衰要素は、ピンの外面上に配置され、好ましくは鍔状又はリング状にピンを囲む。
【0025】
一実施形態によれば、減衰要素を、ピンの外面とさらに別のコンポーネント、特にピンを囲むスリーブとの間に配置する。
【0026】
一実施形態によれば、減衰要素を、アクチュエータ上で支持されるよう配置する。減衰要素は、アクチュエータと固定構造、特にアクチュエータハウジングとの間に配置することができる。
【0027】
この構成は、減衰要素が、所望の減衰効果に加えて、本機構において本質的に望ましくない特定の剛性も原理上は常に有するという状況を考慮に入れる限りは有利である。アクチュエータ上での減衰要素の支持、又はアクチュエータと固定構造、特にアクチュエータハウジングとの間の減衰要素の配置は、このとき、減衰要素に関連したさらに別の剛性が、例えばピンに存在する(自在)継手に導入され、そこからさらに光学素子に伝達されてそこで望ましくない変形を引き起こし、且つ/又は他のアクチュエータによるさらに他の(位置決め)力の付与を必要とし得るのを防止することができる。
【0028】
そこで、光学素子又はミラーの撓みがピンの横方向運動も伴い得ることをさらに考慮に入れれば、横方向のピンの案内は無限剛性ではないので、アクチュエータ上での減衰要素の支持又はアクチュエータと固定構造、特にアクチュエータハウジングとの間の減衰要素の配置から、アクチュエータの駆動軸に対する減衰要素によるピンのこれらの横方向運動の減衰を得ることができる。
【0029】
換言すれば、上述の実施形態は、本発明の前述の基本原理に加えて、第1に、減衰要素に必然的に関連した剛性が本機構の性能に(例えば、光学素子の変形の形態で)妨害的な影響を及ぼさないような方法又は場所で上記剛性を導入し、第2に、ピンの横方向運動の減衰を得るように、減衰要素を配置するというさらなる概念に従う。
【0030】
一実施形態によれば、減衰要素を、アクチュエータの駆動軸に対して軸方向のアクチュエータ用のガイドを形成するよう構成する。このように、適切な場合は、例えば板ばねからなる二重ばね系の形態で構成されるような駆動方向に沿ったアクチュエータの直線案内の目的で通常は配置したガイド要素を、特に省くことが可能であり、これは、一方ではかかるガイド要素の機能と、他方では本発明による減衰要素の減衰効果とを、いわば1つのコンポーネントに、すなわち本発明による減衰要素に組み合わせることができるからである。この場合、減衰効果を適当な材料(特に、例えば減衰要素に用いる本発明によるゴム材料)により達成することができる一方で、ガイド効果は、減衰要素の適当な幾何学的形状から、アクチュエータの駆動軸に対して軸方向に比較的高いコンプライアンス及びアクチュエータの駆動軸に対して横方向に比較的高い剛性が得られることにより達成される。したがって、結果として、本発明による機構の構成の単純化を、説明した減衰要素の二重機能と付加的なガイド要素の省略とにより達成することができる。
【0031】
特に上記概念を実現できる一実施形態によれば、減衰要素は、横方向の剛性を高める構造を有する。当該構造は、特に、ビード又は溝付きの凹部又は凸部を有し得る。横方向の剛性を高める構造がビードを有する基準は、特に、減衰要素がU字形プロファイルを有するリング形の幾何学的形状を有する構成、すなわちいわば減衰要素自体がビードを構成する構成も包含すると考えられることが意図される。
【0032】
一実施形態によれば、減衰要素を膜の形態で具現する。
【0033】
一実施形態によれば、ピンは少なくとも2つの自在継手を有する。
【0034】
一実施形態によれば、減衰要素を、上記自在継手の1つからピンの全長の5%未満、特に1%未満である距離に配置する。
【0035】
さらに、減衰要素を、ねじり剛性に対する減衰要素の寄与がピンにおける自在継手のねじり剛性の50%以下、より詳細には30%以下、より詳細には10%以下であるよう配置することが好ましい。
【0036】
一実施形態によれば、自在継手の少なくとも1つは、減衰要素を配置する切欠を有する。上記切欠は、特に、自在継手を貫通する貫通孔を有し得る。
【0037】
本発明はさらに、本発明による機構を備えたEUV投影露光装置に関する。
【0038】
本発明のさらに他の構成は、説明及び従属請求項から得ることができる。
【0039】
添付図面に示す例示的な実施形態に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一実施形態を説明する基本概略図を示す。
図2】本発明のさらに別の可能な実施形態を説明する概略図を示す。
図3】本発明のさらに別の可能な実施形態を説明する概略図を示す。
図4】本発明のさらに別の可能な実施形態を説明する概略図を示す。
図5】本発明のさらに別の可能な実施形態を説明する概略図を示す。
図6】本発明のさらに別の可能な実施形態を説明する概略図を示す。
図7】本発明の可能な一用途を説明する既知のヘキサポッド構成の概略図を示す。
図8図8a〜cは、発明が取り組む問題を説明する概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、本発明の第1実施形態を説明する基本概略図を最初に示す。
【0042】
図1は、例えばEUV投影露光装置等の光学系において任意の所望の方向に延び、能動制御可能な(図1に示さないアクチュエータが加えた)力をプラットフォーム101に加えるか又は伝達するよう働くピン110を示す。プラットフォーム101は、光学素子(図示せず)、例えばミラー、レンズ素子、又は任意の他の所望の光学素子を担持する。他の実施形態では、中間部品としてのプラットフォームを省いて、各光学素子を直接その場所に配置することも可能である。アクチュエータ(図示せず)は、例えばローレンツアクチュエータ、ピエゾアクチュエータ、又は任意の他の能動制御可能な力を伝達するデバイスであり得る。
【0043】
本願の状況では、この場合、アクチュエータの駆動方向をいずれの場合もz方向として規定し、x−y平面は上記駆動方向に対して垂直に延びる。結果として、各アクチュエータそれぞれに、図1以降にそれぞれ示す独自の座標系を割り当て、ピン110は、関連のアクチュエータの駆動方向又はz方向に対して軸方向に延びる。
【0044】
ピン110は、横方向の、すなわち駆動軸又はz軸に対して垂直な(すなわちx−y平面内での)分離の目的で各端部に2つの自在継手120、121を有する。例示的な実施形態では(本発明を限定するものではないが)、自在継手120、121のそれぞれを、90°ずれた板ばね要素によりそれぞれ形成し、より明確且つ単純な図示のために、それぞれ一方の板ばね要素のみを図1に示す。
【0045】
自在継手120、121を設けたピン110により、各アクチュエータを該当の光学素子に連結した場合、機械要素の全体が、一方では駆動方向に比較的高い固有振動数を有し、それに対して他の自由度では適当なコンプライアンスを有することが達成される。換言すれば、軸(駆動)方向又はz方向でピン110に設定した剛性は比較的高いが、ピン110は、他の方向では非常に柔軟な挙動を有し、これは自在継手120、121が駆動方向又はz方向に関して横方向に非常に低い剛性しか有さないからである。
【0046】
概して、固有振動数fを、以下の関係:
【数1】
を用いて剛性k(単位N/m)に関連付け、式中、mは、大まかにばねと称することができるピンを用いて結合される質量を示す。約(0.1〜1)kgの従来のアクチュエータ質量及びピン(ばね定数k)の従来の剛性(弾性率)の場合、固有振動数はz方向に約1200Hzであり得る。この場合、周波数が1200Hzを超える加振が、加振周波数の逆数の二乗に応じて減衰的に(2次ローパスフィルタ)ミラー101に結合されるが、これは、アクチュエータ及びピン110からなる系がそれに対応するローパスフィルタリングをもたらすからである。固有振動数は、いずれの場合も特定のコントローラ概念に応じて適切に選択されるものとする。
【0047】
冒頭に記載したような、動作中の望ましくない横共振に関連した問題を解決するために、又はかかる横共振に関連した共振拡大が伝達関数で表されるのを防止するために、図1に示す本発明による機構は、減衰要素130をさらに有する。当該減衰要素130は、それぞれが系パラメータである横方向の低い固有振動数を除去しないが、上記横共振で振幅拡大が行われなくなるという効果がある。
【0048】
減衰要素130を製造する材料は、第1に十分な減衰特性を有し、第2に、例えばマイクロリソグラフィ投影露光装置での使用の場合に、通常与えられる真空条件下で、回避すべきシステム汚染に関して用いることができる。
【0049】
減衰特性に関する限り、減衰要素は、横共振の方向で、臨界減衰の少なくとも1%である減衰度Dを有することが好ましい。減衰度は、それよりも大幅に高くてもよい。この場合、減衰度Dは、Lehr減衰係数と称するものであると理解され、これは、1自由度を有する減衰調和振動子に関して、
【数2】
として定義され、式中、dは減衰定数を示し、kはばね剛性を示し、mは質量を示す。
【0050】
臨界減衰は、振動子が、いわゆる非振動限界の場合に、周期的に振動するのではなく最小限の時間で静止位置に戻るような減衰に相当する。
【0051】
さらに、パラメータ「tanδ」を減衰要素の材料に関して定義することができ、上記パラメータは、剛性と減衰との比に対応し、複素剪断弾性率G=G+i*Gの実部と虚部との比として定義され、すなわちtanδ=G/Gである。tanδの好ましい値は、少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも0.6である。
【0052】
減衰要素130を製造するのに適した材料は、特に本件で想定されるようなマイクロリソグラフィでの用途では、例えばゴム、例えばフッ素ゴム(FKM)、フッ素系エラストマー、又はパーフルオロゴム(FFKM)である。
【0053】
図1における例示的な実施形態及び図2以降のさらに他の実施形態の両方で、減衰要素130をピン110及び自在継手120、121からなる機構にそれぞれ具現するか又は組み込んで、作動に必要な運動が妨害されないようにする。
【0054】
図1によれば、減衰要素130は、ピン110の周りに鍔状に配置してピン110に(例えば接着結合により)固定した膜又はディスクとして具現する。代替的な実施形態(図示せず)では、減衰要素130を形成する膜は、ピン110を通って延びることもできる。
【0055】
図1において選択した減衰要素130の配置により達成されるものとして、減衰要素130を形成する膜は、軸方向に比較的コンプライアンスが高く事実上減衰を引き起こさず、横方向に(すなわちx−y平面内で)大きな減衰を行う。減衰要素130を形成する膜の寸法は、得るべき剛性に応じて、また材料に応じてそれぞれ選択し、寸法は、単なる例として、10mm〜20mmの範囲の幅、30mm〜50mmの範囲の長さ、及び1mm〜5mmの厚さを含み得る。
【0056】
好ましくは、膜は、軸方向の膜剛性がアクチュエータ剛性の20%未満であるよう設計する。さらに、減衰要素を、ねじり剛性に対する減衰要素の寄与がピンにおける自在継手のねじり剛性の50%以下、より詳細には30%以下、より詳細には10%以下であるよう配置することが好ましい。
【0057】
図1において、「固定世界」に対するピン110の連結の剛性をばねにより表し、「115」で示す。系全体(ピン及びピンの質量からなる)の所望のLehr減衰係数Dを得るために、膜の剛性を以下のように選択する:以下でおおよその説明をするように、ピンの横方向運動に対する膜の剛性kに関して、以下の関係:
【数3】
が成り立ち、式中、DはLehr減衰係数(上述のように、臨界減衰の少なくとも1%の好ましい値を有する)又は横振動に対する所望の減衰を示し、kは横方向運動に対するピンの剛性を示し、tanδは減衰要素の使用材料の(すなわち各ゴムの)の損率を特定する(減衰要素の選択材料の材料定数として)すでに上述したパラメータを示す。
【0058】
この場合の関係(3)は、横方向運動に対する膜の剛性kの値が横方向運動に対するピンの剛性kの値よりも大幅に小さい場合についての良好な近似を表す。
【0059】
図1から分かるように、減衰要素130を形成する膜はさらに、ピン110のうちプラットフォーム101に面しない端部に位置する自在継手のすぐ近くに(すなわち、図1によれば、通常は鉛直方向に行う配置の場合に下側自在継手に相当する右側自在継手121に)直接配置する。この場合、当該自在継手121の付近の配置は、好ましくは、当該自在継手からの距離がピン110の全長の5%未満、より詳細には1%未満である配置を意味すると理解すべきである。特定の一実施形態では(本発明を限定するものではないが)、ピンの長さが5cm〜8cmであるとすると、例えば減衰要素130と自在継手121との間の距離は、例えば1mm〜3mmの範囲にあり得る。概して、減衰要素130を形成する膜は、自在継手121の継手作用を妨害することなくちょうど固定することができるほど自在継手121の非常に近くに配置できる。
【0060】
減衰要素130を形成する膜を、ピン110のうちプラットフォーム101に面しない端部に、又はそこに位置する自在継手121のすぐ近くにこのように配置することには、プラットフォーム101又は当該プラットフォーム101が担持した光学素子(例えばミラー)を図1に示す座標系に対してy方向に動かそうとした場合に、左側(又は鉛直配置の場合の上側)自在継手120からごくわずかな付加的なモーメント又は復元力しか生じないという利点があり、これは、減衰要素130を形成する膜が(自在継手120の付近の膜の配置と比べて)プラットフォーム101が変位した場合にわずかにしか変形しないからである。むしろ、膜は、例示的な実施形態では、右側の配置により小さな程度にしか変形しない。これに対して、減衰要素130を形成する膜の減衰効果は、(図8bに示すような)横共振の場合に十分に発揮され、これは、このときプラットフォーム101の単独運動とは対照的に、相互に実質的に平行な撓みがピン110の両端部で起こることで、所望の減衰効果が減衰要素130を形成する膜により達成されるからである。結果として、図1における機構においてこうして達成されるものとして、減衰要素130は、プラットフォーム101及びピン110の「所望の」撓みを可能にし、「望ましくない」撓みの減衰のみをもたらす。
【0061】
本発明のさらに別の実施形態を、図2a〜図2cを参照して以下で説明するが、実質的に機能的に同一の要素は、図1に対して「100」を足した参照符号で示す。
【0062】
図2aに示す機構が図1からの機構と異なるのは、2つの自在継手の一方、すなわちピン110のうちプラットフォーム101に面しない端部に配置した自在継手221が、切欠221aを有し、そこに好ましくは円筒形の幾何学的形状のプラグの形態の減衰要素230を収容したことである。図2bは、減衰要素230を挿入していない図を示し、図2cは、減衰要素230を挿入した図を示す。図2a〜図2cにおける特定の例示的な実施形態では、切欠221aを、自在継手221を貫通する貫通孔として実現することで、図1からの板ばねのそれぞれを2つに分割するので、当該自在継手221は、図2bで最もよく分かるようにいわば4つの板ばね部を(図1におけるような2つの板ばねの代わりに)有する。図1及び図2aと類似して、図2b及び図2cも、自在継手221の2つの板ばね継手の一方のみをそれぞれ示し、他方はそれに対して90°ずれて、又は交互になるよう(in an interleaved manner)配置する。
【0063】
図2cによれば、切欠221aに収容した減衰要素230を適当な取付部品235により挟み込み、減衰要素230は、自在継手221のピボット点でピン210の軸上の中心に配置することが好ましい。この中心配置により、この場合も回転運動が最小限にしか妨害されない。さらに、軸方向運動の間に減衰要素230がピン210と共に変位するので、かかる軸方向運動も妨害されない。さらに、第1軸方向固有振動形態も、この点で、より長い残りのピン部分が主に寄与するので妨害されない。これに対して、横共振(図8bに示す)の場合にも、プラグがこのとき剪断応力を受けてそれに従って高い減衰効果が起こるので、プラグにより形成した減衰要素230の減衰効果は十分に発揮される。
【0064】
結果として、図2a〜図2cにおける機構でも、こうして達成されるものとして、減衰要素230がプラットフォーム201及びピン210の「所望の」運動又は撓みを可能にし、「望ましくない」撓み又は運動の減衰のみをもたらす。
【0065】
本発明のさらに別の実施形態を図3を参照して以下で説明するが、実質的に機能的に同一の要素は、図1に対して「200」を足した参照符号で示す。
【0066】
図3に示す機構が図1及び図2a〜図2cからの機構と異なるのは、ここでは減衰要素をピン310上の(O)リングとして、正確にはピン310の側面とピン310を囲むスリーブ340との間に挟着で配置することである。上記スリーブは、例えば、ピン310の軸方向駆動用のモータ350を担持するコンポーネントであり得る。スリーブ340は、ピン310と共に動くので、スリーブ340とピン310との間には相対運動が生じない(減衰要素330の軸方向コンプライアンスも必要なくなる)。他の点に関しては、上述の実施形態のように、減衰要素330をピン310のうちプラットフォーム301に面しない端部に位置する自在継手321の付近に配置した場合、自在継手320の回転が妨害されない。さらに、第1軸方向固有振動形態も、この点で、より長い残りのピン部分が主に寄与するので妨害されない。
【0067】
結果として、図3における機構でも、こうして達成されるものとして、減衰要素330がプラットフォーム301及びピン310の「所望の」運動又は撓みを可能にし、「望ましくない」撓み又は運動の減衰のみをもたらす。
【0068】
本発明のさらに別の実施形態を、図4a及び図4bを参照して以下で説明するが、実質的に類似の又は機能的に同一の要素は、図1に対して「300」を足した参照符号で示す。
【0069】
図1図3を参照して上述した実施形態のように、図4a及び図4bは、1つのピンのみがアクチュエータと光学素子との間の機械的結合をもたらしている様子を示すが、当然ながら、6自由度の光学素子の作動の場合、合計6個のかかるピンを(例えば、ヘキサポッドとしての又は3つのバイポッドからなる機構で)設けることが可能である。
【0070】
図4a及び図4bによる構成が図1図3からの構成と異なるのは、特に、図4a及び図4bによれば、減衰要素430をアクチュエータ450とアクチュエータハウジング460(「固定世界」を表す)又は固定構造との間に配置することにより、アクチュエータ450上で支持するよう配置することである。図4a及び図4bは、アクチュエータを鉛直方向又は駆動方向(図示の座標系におけるz方向に対応する)に案内するためのガイド要素411、412を同様に示す。当該ガイド要素411、412(図1図3に示す機構にも存在するが、簡単のために図示しない)は、z方向の変位及びz軸を中心とした回転に関して自由であるアクチュエータ450の直線案内を得る機能を本質的に有し、例示的な実施形態では、適切に設計した板ばね(例えばピンの自在継手を実現するために同様に用いることができる板ばねと区別すべきである)からなる平行ばね系として構成することができる。アクチュエータの案内時に横方向撓みを有するロッドの固有モードの固有形態(eigenform of an eigenmode)を図4bに抽象的に示す。
【0071】
図4a及び図4bから明らかなように、記載した実施形態によれば、減衰要素430の機械的連結を、アクチュエータ450と「固定世界」を表すアクチュエータハウジング460との間に同様に配置したガイド要素411、412の機械的連結と類似して行う。具体的には、減衰要素430を例えば膜として、ガイド要素411、412を形成する板ばねと平行な配置で組み込むことができる。しかしながら、この概念でも、本発明は減衰要素としての膜に限定されず、減衰要素の異なる幾何学的形状を(例えば、リング形又はストリップ形の幾何学的形状も)含む任意の他の適当な実現が可能である。さらに、材料、寸法設定、減衰特性等に関する減衰要素430の適切な特定の構成については、上述の実施形態に関連した対応の説明を参照されたい。
【0072】
図4a及び図4bを参照して説明した構成は、例えば板ばねとして構成したガイド要素411、412が横方向(すなわち、図示の座標系におけるz方向に対して垂直な平面)を含め無限剛性ではなく、限られた横方向コンプライアンスに起因してアクチュエータ450の運動がz方向に対して垂直な平面内で又は横方向にも行われるという状況を考慮に入れたものである。減衰要素430の機械的連結がガイド要素411、412の機械的連結と類似して行われることにより、わずかとはいえこの望ましくない横方向運動をこのとき減衰することができ、これによりさらにピンの全体的振動の減衰が得られることが有利である。換言すれば、本発明による減衰要素430は、全体的振動に減衰をこのようにして導入するために、アクチュエータの駆動軸に対するピン410の横方向運動に目標通りに介入する。
【0073】
さらに、図4a及び図4bに示す減衰要素430の配置により達成されるものとして、原理上は減衰要素430に固有の剛性があるにもかかわらず、減衰要素430を他の場所に位置決めするので、ピン401の自在継手(例えば、同様に板ばねにより実現した)にさらなる剛性が導入されない。結果として、上記自在継手の回転運動は妨害されず、光学素子への変形の導入又は妨害力及びアクチュエータ力の結合(coupling-in)が回避される。
【0074】
図5は、図3と類似の概略図で、図4a及び図4bを参照して上述した原理の1つの可能な実現を示し、実質的に類似又は機能的に同一の要素は、図3に対して「200」を足した参照符号で示す。図4a及び図4bを参照して説明した原理に従って、図5に示す構成が図3からの構成と異なるのは、特に、図5によれば、減衰要素530をアクチュエータ550とアクチュエータハウジング560(「固定世界」を表す)又は固定構造との間に配置することによりアクチュエータ550上で支持するよう配置することである。この場合、減衰要素530は、例えば(本発明を限定するものではないが)リング形に構成すること及び/又はアクチュエータ550を鍔状に囲むことができる。材料、寸法設定、減衰特性等に関する減衰要素530の適切な特定の構成については、上述の実施形態に関連した対応の説明を参照されたい。
【0075】
本発明による減衰要素のさらに別の実施形態を、図6における単に概略的な図を参照して以下で説明する。
【0076】
図6に斜視図で示すように、減衰要素630は、ここではU字形プロファイルを有するリング形の幾何学的形状(「ビード」に対応する)を有する。この幾何学的形状により、減衰要素630において、これは一方ではアクチュエータの駆動軸に対して軸方向に比較的高いコンプライアンスと、他方ではアクチュエータの駆動軸に対して横方向に比較的高い剛性とにつながり、その結果として、アクチュエータの駆動軸に対して軸方向にアクチュエータの直線案内が形成される。このように、適切な場合は、特にアクチュエータの駆動方向に沿ったその直線案内用の付加的なガイド要素を省くことが可能であり、これは、当該ガイド要素の機能を本発明による減衰要素630がすでに果たしているからである。減衰効果はさらに、適切な材料(特に、減衰要素に用いることができる本発明によるゴム材料)により達成することができる。本発明による機構の構成の大幅な単純化がその結果達成される。
【0077】
本発明を具体的な実施形態に基づき説明したが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換によって、多くの変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかである。したがって、当業者にとっては、言うまでもなく、かかる変形形態及び代替的な実施形態は、本発明によって同時に包含され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味の範囲内にのみ制限される。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8a)】
図8b)】
図8c)】