特許第6091526号(P6091526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6091526触媒重合プロセスにおける金属触媒の不活性化を防止する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091526
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】触媒重合プロセスにおける金属触媒の不活性化を防止する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/06 20060101AFI20170227BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20170227BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20170227BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C08L67/06
   C08K5/098
   C08K5/07
   C08J5/00CFE
【請求項の数】15
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-556047(P2014-556047)
(86)(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公表番号】特表2015-508834(P2015-508834A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】EP2013052395
(87)【国際公開番号】WO2013117626
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】12154447.2
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397060175
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】デ マイヤー,カート,マーク,アンソニー
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−513211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−28
C08J 5/00−24
B29B 11/16
C08K
C08L
C08F 2/00−60
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸のZn、Cu、若しくはNa塩、又は、ベータジケトンのZn、Cu、若しくはNa塩から選択される、適切なZn、Cu、若しくはNa塩の添加を特徴とする、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、及びナトリウムピリチオンから選択されるピリチオン殺生物剤が存在するポリマーバインダーの触媒重合プロセスにおける金属触媒の不活性化を防止する方法であって、前記Zn、Cu、若しくはNa塩が、Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量比が少なくとも0.1:1の量で添加される、方法。
【請求項2】
前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量比が少なくとも3:1の量で添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪酸の前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、Zn、Cu、若しくはNaオクト酸、Zn、Cu、若しくはNaアクリル酸、Zn、Cu、若しくはNaネオデカン酸から選択され、且つ、ベータジケトンの前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、Zn、Cu、若しくはNaアセチルアセトン酸から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量/重量比は、3:1〜20:1の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量/重量比は、3:1〜10:1の範囲である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量/重量比は、5:1である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量/重量比は、10:1である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記ピリチオン殺生物剤は、亜鉛ピリチオンである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、亜鉛オクト酸、亜鉛アクリル酸、亜鉛ネオデカン酸、及び亜鉛アセチルアセトン酸から選択される亜鉛塩である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、亜鉛オクト酸及び亜鉛ネオデカン酸から選択される亜鉛塩である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ピリチオン殺生物剤、及び前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、前記触媒重合プロセスに別々に添加される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ピリチオン殺生物剤、及び前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、前記触媒重合プロセスに同時に添加される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ピリチオン殺生物剤、及び前記Zn、Cu、若しくはNa塩は、前記触媒重合プロセスに組み合わせたものとして添加される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記金属触媒はコバルトを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーバインダーは不飽和ポリエステル樹脂である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリチオン殺生物剤が存在するポリマーバインダーの触媒重合プロセスにおける金属触媒の不活性化を防止する方法に関し、この方法は、例えば、Zn、Cu、若しくはNaオクト酸、Zn、Cu、若しくはNaアクリル酸、Zn、Cu、若しくはNaネオデカン酸などの脂肪酸のZn、Cu、若しくはNa塩、又は、例えば、Zn、Cu、若しくはNaアセチルアセトン酸などのベータジケトンのZn、Cu、若しくはNa塩から選択される、Zn、Cu、若しくはNa塩の添加を含む。
【背景技術】
【0002】
例えば、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、及びナトリウムピリチオンなどのピリチオン殺生物剤は、優れた広域抗菌剤であり、且つ、流状物、塗料、化粧品などにおいて殺生物剤及び防腐剤として使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
多くのプラスチック重合反応は、金属触媒(例えば、Pt、Co、Ag、Mgなど)を介して促進される。基本的な重合反応物に加えて、特定の添加剤(抗酸化剤、静電防止剤、難燃剤、色素、充填材、抗菌物質など)が、このようなプラスチックポリマーに組み込まれる場合が多いが、これによって触媒が著しく阻害されるべきではない。一方、(トランス)キレート特性を有する添加剤は、金属触媒を結合させ、これによりその触媒特性を不活性化させることによって、重合反応を劇的に妨げること、又は更には完全に阻むことができる。(トランス)キレート特性を有するこのような添加剤の例は、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、及びナトリウムピリチオンのピリチオン殺生物剤である。重合反応の際の金属触媒の不活性化を防止するために、適切な安定化剤が、触媒のキレート化を添加された金属塩の金属のキレート化の方へ転換させるために、十分な量で重合反応に添加されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ここにおいて、例えば、Zn、Cu、若しくはNaオクト酸、Zn、Cu、若しくはNaアクリル酸、Zn、Cu、若しくはNaネオデカン酸などの脂肪酸のZn、Cu、若しくはNa塩、又は、例えば、Zn、Cu、若しくはNaアセチルアセトン酸などのベータジケトンのZn、Cu、若しくはNa塩から選択される、適切なZn、Cu、若しくはNa塩を添加することが、ポリマーバインダーの触媒重合プロセスの際の金属触媒の不活性化を防止することに有用であることが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】試料4、5、及び6における時間の関数としての反応発熱
図2】亜鉛ピリチオンを含まない試料、0.6%の亜鉛ピリチオンを含む試料、0.6%の亜鉛ピリチオン+4%の亜鉛オクト酸を含む試料、及び0.6%の亜鉛ピリチオン+8%の亜鉛オクト酸を含む試料における時間の関数としての反応発熱
【発明を実施するための形態】
【0006】
複合材料は、完成構造の中で巨視的な又は微視的なスケールで別々な且つ明瞭なままである、著しく異なる物理的又は化学的特性を有する2つ以上の構成材料から作成される設計材料である。すべての構成材料を1つに結びつけるために、多くの場合、ポリマーバインダーの触媒重合プロセスによって得られるポリマー材料であるマトリックス材料が使用される。ピリチオン殺生物剤をこのような複合材料に加えることは、有益であり得、且つ、触媒重合プロセスの際の金属触媒の不活性化を防止するために、例えば、Zn、Cu、若しくはNaオクト酸、Zn、Cu、若しくはNaアクリル酸、Zn、Cu、若しくはNaネオデカン酸などの脂肪酸のZn、Cu、若しくはNa塩、又は、例えば、Zn、Cu、若しくはNaアセチルアセトン酸などのベータジケトンのZn、Cu、若しくはNa塩から選択される、1つ又は複数のZn、Cu、若しくはNa塩を、本発明に従って添加可能である。
【0007】
複合材料の例は、例えば、ピリチオン殺生物剤が汚染を防止するために添加されている繊維強化ポリエステル船体である。
【0008】
本発明の触媒重合プロセスに使用されるポリマーバインダーは、ポリマー、ポリマーの混合物(例えば、ポリエステル及びウレタン)、モノマー、及びモノマーとポリマーの混合物から形成されることができる。適切なポリマーの例としては、ポリエステル、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール樹脂、ウレタン、及びこれらの混合物が挙げられる。ポリマーバインダーに用いるモノマーの例としては、例えば、スチレン及びスチレン誘導体などのアルファ、ベータ−エチレン性不飽和モノマー、低級アルキル置換スチレン、アルファ−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリル樹脂、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチル−ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、及びメタクリル酸ブチルなどのアクリル酸及びメタクリル酸のC18アルキルエステル、並びにフェノール、フラン等が挙げられる。これらのモノマーは、単独でも併用でも使用され得る。
【0009】
多くの場合に使用されるポリマーバインダーは、不飽和ポリエステル又は不飽和ポリエステル樹脂(UP)である。不飽和ポリエステル樹脂は、共重合性モノマーにおける、好ましくはスチレンにおける、不飽和ポリエステルの溶液である。適切な不飽和ポリエステルは、多塩基性、特に二塩基性カルボン酸及びこれらのエステル反応性誘導体、特にこれらの無水物の通常の縮合生成物であり、エステルとして多価、特に二価アルコールと結合し、且つ、出発材料の少なくとも一部がエチレン性不飽和共重合性基を備えて、一塩基性カルボン酸又は一価アルコールの残基を更に含むことができる。その他の不飽和ポリエステルは、一方では、無水マレイン酸及びオルトフタル酸又はイソフタル酸に基づいたものであり、もう一方では、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、及び/又はジプロピレングリコールに基づいたものである。
【0010】
金属触媒の不活性化は、通常、触媒重合プロセスにて形成されるポリマーの、硬化時間の延長又は不完全な硬化を生じさせる。本発明によるZn、Cu、若しくはNa塩の添加によって、金属触媒の不活性化が防止され、硬化時間が減縮される。
【0011】
触媒重合プロセスで添加されるZn、Cu、若しくはNa塩の量は、硬化時間が悪影響を受けないように、ピリチオン殺生物剤が存在する場合、金属触媒の不活性化が防止されるものである。実際には、Zn、Cu、若しくはNa塩が、Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する重量比が少なくとも0.1:1の量で、添加されなければならないことが判明した。Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する比をより高くすると、硬化時間がより短くなることが判明した。Zn、Cu、若しくはNa塩のピリチオン殺生物剤に対する実際での通常の重量/重量比は、0.5:1、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、10:1から20:1までであり、以下の範囲を与える:0.1:1〜20:1、0.5:1〜20:1、1:1〜20:1、2:1〜20:1、3:1〜20:1、4:1〜20:1、5:1〜20:1、10:1〜20:1、更に、3:1〜10:1、4:1〜10:1、5:1〜10:1。
【0012】
ピリチオン殺生物剤が亜鉛ピリチオンである場合、好ましくは、脂肪酸又はベータジケトンの亜鉛塩は、亜鉛オクト酸、亜鉛アクリル酸、亜鉛ネオデカン酸、及び亜鉛アセチルアセトン酸から選択され使用される。
【0013】
ピリチオン殺生物剤が銅ピリチオンである場合、好ましくは、脂肪酸又はベータジケトンの銅塩は、銅オクト酸、銅アクリル酸、銅ネオデカン酸、及び銅アセチルアセトン酸から選択され使用される。
【0014】
ピリチオン殺生物剤がナトリウムピリチオンである場合、好ましくは、脂肪酸又はベータジケトンのナトリウム塩は、ナトリウムオクト酸、ナトリウムアクリル酸、ナトリウムネオデカン酸、及びナトリウムアセチルアセトン酸から選択され使用される。
【0015】
ピリチオン殺生物剤、及び本発明のZn、Cu、若しくはNa塩は、触媒重合プロセスに別々に添加可能であり、添加の順序は、初めにピリチオン殺生物剤、その後にZn、Cu、若しくはNa塩であることができ、又は、初めにZn、Cu、若しくはNa塩、その後にピリチオン殺生物剤であることができる。
【0016】
或いは、ピリチオン殺生物剤、及び本発明のZn、Cu、若しくはNa塩は、別々の物として又は組み合わせたものとして、触媒重合プロセスに同時に添加可能である。前述の組み合わせたものは、いずれかの任意選択の賦形剤とともに、ピリチオン殺生物剤及びZn、Cu、若しくはNa塩の両方を含む任意の製剤であり得る。
【実施例】
【0017】
実験の部
実験1:ポリエステルポリマー
試料調整:
− 不飽和ポリエステル樹脂(=ポリマーバインダー)の量を計量し、ガラスビーカーに入れる。
− 亜鉛ピリチオンを不飽和ポリエステル樹脂に添加し、高性能分散によって均質化する。
− 亜鉛塩を不飽和ポリエステル樹脂に添加し、高性能分散によって均質化する。
− コバルト触媒を前述の混合物に添加し、穏やかに分散することで均質化する。
− 過酸化ラジカル開始剤を前述の混合物に添加し、穏やかに分散することで均質化する。
− 混合物をガラス鋳造物に注入し、試料を80℃で乾燥器の中に置き、ポリマーを硬化させる。
【0018】
時間の関数としての反応発熱を測定した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
コバルト触媒:Nusa Iberica S.A.、Rio Tajuna 5、28850 Torrejon de Ardoz、マドリッド、スペインから市販されているNusaコバルト(商標)6%(CAS:83711−44−8)
不飽和ポリエステル樹脂:モノマーを含まない低い粘性の不飽和ポリエステル樹脂である、DSM、オランダから市販されているSynolite 9286−N−0(商標)
使用した亜鉛化合物:亜鉛オクト酸
亜鉛アクリル酸
亜鉛ネオデカン酸
亜鉛アセチルアセトン酸
【0022】
試料4、5、及び6における時間の関数としての反応発熱を、図1に描写する。反応発熱から分かるように、亜鉛塩として亜鉛オクト酸を添加することで、ポリエステルポリマーの硬化時間が減少した。試料4(亜鉛塩は存在しない)は、約29分の硬化時間を有し、試料5(4%w/w亜鉛オクト酸)は、約16分の硬化時間を有し、試料6(8%w/w亜鉛オクト酸)は、約12分の硬化時間を有した。
【0023】
図2は、2つの態様を示す:
a)亜鉛ピリチオンが0ppmである試料の硬化時間は、6000ppmの亜鉛ピリチオンを有する試料の硬化時間(約21分)と比較して、非常に短い(約7分)。
b)亜鉛塩の量をより多くすることで、金属触媒の不活性化をより顕著に防止して、例えば硬化時間がより速くなり、4%の亜鉛オクト酸又は8%の亜鉛オクト酸を6%の亜鉛ピリチオンを含む試料に添加することによって、前述の亜鉛塩が存在しない6%の亜鉛ピリチオンを含む試料に対して、硬化時間が改善される。
図1
図2