特許第6091874号(P6091874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091874
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】プロセスチーズ類、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/08 20060101AFI20170227BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20170227BHJP
【FI】
   A23C19/08
   A23L29/219
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-271284(P2012-271284)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2014-113127(P2014-113127A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大熊 明子
(72)【発明者】
【氏名】矢ヶ部 篤史
(72)【発明者】
【氏名】辰ノ 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 詔一
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−254742(JP,A)
【文献】 特開2010−022259(JP,A)
【文献】 特開2011−103847(JP,A)
【文献】 特開2012−005435(JP,A)
【文献】 特開平10−108652(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0154607(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 19/00
A23L 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タピオカ加工デンプンを2.0〜18.0重量%、α化デンプンを2.0〜9.0重量%、原料チーズを34〜73重量%含有するプロセスチーズ類であって、前記プロセスチーズ類のpHが5.0〜6.0、かつ、最終製品中の水分が48.0〜60.0%であることを特徴とするプロセスチーズ類。
【請求項2】
85℃で糸引き試験を行った場合の糸引き性が10cm以上である請求項に記載のプロセスチーズ類。
糸引き試験:プロセスチーズ類100gをカップに採取し、毎秒10cmの速度でプロセスチーズ類を引き上げ、プロセスチーズ類の糸が切れるまでの長さを測定する。
【請求項3】
原料チーズ、タピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合する工程と、
前記配合した原材料を混合する工程と、
前記混合した原材料を加熱乳化する工程と、
前記加熱乳化した原材料を冷却する工程を有することを特徴とする、タピオカ加工デンプンを2.0〜18.0重量%、α化デンプンを2.0〜9.0重量%、原料チーズを34〜73重量%含有し、pHが5.0〜6.0、かつ、最終製品中の水分が48.0〜60.0%であるプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項4】
原料チーズ、タピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合する工程と、
前記配合した原材料を混合し、製品であるプロセスチーズ類のpHが5.0〜6.0、および、最終製品中の水分が48.0〜60.0%となるように調整する工程と、
前記pHおよび水分を調整した原材料を加熱乳化する工程と、
前記加熱乳化した原材料を冷却する工程を有することを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱後に油脂の分離なく冷却後も糸引き性を有し、歯切れの良いホクホクした食感を与えるプロセスチーズ類、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳を原料に乳酸菌やレンネットを使用して凝固した乳からホエーを排除して、固めた物がナチュラルチーズである。このナチュラルチーズを原料にして、溶融塩を加え、加熱、攪拌して溶融した後、冷却して固めた物がプロセスチーズである。プロセスチーズを作る工程において、製品中のチーズ分が51%以上の食品は「チーズフード」、製品中のチーズ分が50%以下の食品は「乳等を主要原料とする食品(以下、「乳主原」という。)」と当業界において一般的に規定されている。
【0003】
従来のプロセスチーズは加熱溶解すると油脂や水がチーズから分離または保形するため糸引きを有さず、風味および見た目に悪影響を与える。また、プロセスチーズは歯切れが悪く、歯にねちゃつく感があり、さらにべたつきやすい。
【0004】
これまでプロセスチーズや乳主原でデンプンを使用して、物性等を調整する方法として、卵白類やデンプン類を使用してプロセスチーズ様の固さを有する食品の製造法(特許文献1)、オクテニルコハク酸デンプンを使用して溶融性と糸引性に優れたチーズフードを製造する方法(特許文献2)、ナチュラルチーズに溶融塩と酸化デンプン等を使用して耐冷凍性および耐油ちょう性を有するチーズ類の製造方法(特許文献3)、生タピオカ澱粉等を使用したチーズ菓子の製造法(特許文献4)等が知れられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3391283号公報
【特許文献2】特許第3887922号公報
【特許文献3】特許第3108968号公報
【特許文献4】特許第3373696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のプロセスチーズ様の硬さを有する食品は、チーズ含有量が80重量%と多く、特許文献2のチーズフードはチーズ含有量が83重量%以上、特許文献3の耐冷凍性および対油ちょう性を有するチーズは、ナチュラルチーズの含有量が85重量%以上含有しており、かなり固い食品やチーズとなっており、冷却時には曳糸性を全く有さない。特許文献4はチーズ菓子の食感がよく、保存性を向上させる目的で使用している。特許文献1〜3の方法は、いずれも加熱時のプロセスチーズに糸引き性を持たせることができるものの、冷却とともにチーズが硬くなるため、冷却時には糸引き性が消失する。澱粉を使用した場合においても、優れた糸引き性は加熱時のみであり、冷却後には元の硬い物性に戻ってしまう。また、油脂分や水分が多い乳主原はチーズのような糸引き性を持つことができず、組織、風味ともにプロセスチーズと異なる。
【0007】
本発明は、従来技術では提供することができなかった、加熱時のみではなく冷却後も糸引き性を有する歯切れの良いホクホクした食感を有するプロセスチーズ類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的に鋭意研究を重ねた結果、タピオカ加工デンプンおよびα化デンプンを使用することで、プロセスチーズだけではなく、油脂分や水分が多いチーズフードや乳主原でも加熱後に油脂の分離がなく、かき混ぜると冷却後も糸引き性を有する歯切れの良いホクホクした食感を有するプロセスチーズ類を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)タピオカ加工デンプンを2.0〜18.0重量%、α化デンプンを2.0〜9.0重量%、原料チーズを34〜73重量%含有することを特徴とするプロセスチーズ類。
(2)前記プロセスチーズ類のpHが5.0〜6.0、かつ、水分が48.0〜60.0%であることを特徴とする上記(1)に記載のプロセスチーズ類。
(3)85℃で糸引き試験を行った場合の糸引き性が10cm以上である上記(1)または(2)に記載のプロセスチーズ類。
糸引き試験:プロセスチーズ類100gをカップに採取し、毎秒10cmの速度でプロセス チーズ類を引き上げ、プロセスチーズ類の糸が切れるまでの長さを測定する。
(4)原料チーズ、タピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合する工程と、前記配合した原材料を混合する工程と、前記混合した原材料を加熱乳化する工程と、前記加熱乳化した原材料を冷却する工程を有することを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法。
(5)原料チーズ、タピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合する工程と、前記配合した原材料を混合し、製品であるプロセスチーズ類のpHが5.0〜6.0、および、水分が48.0〜60.0%となるように調整する工程と、前記pHおよび水分を調整した原材料を加熱乳化する工程と、前記加熱乳化した原材料を冷却する工程を有することを特徴とするプロセスチーズ類の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱および冷却後も糸引き性を有し、良好な歯切れの良いホクホクした食感を有するプロセスチーズ類とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のプロセスチーズ類およびその製造方法について具体的に説明する。
【0012】
本発明におけるプロセスチーズ類とは、プロセスチーズ、チーズフード等、乳等省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、公正競争規約の成分規格において規定されたものの他、乳主原等の当該技術分野における通常の意味を有する範囲のものを全て包含するものとする。
【0013】
本発明における原料チーズは、特に限定されないが、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エグモントチーズ、モザレラチーズ等のナチュラルチーズの他、プロセスチーズやチーズフード等を用いることができる。これらを1種類もしくは複数種類組み合わせて使用することができるし、最終的に得られるプロセスチーズ類に必要な風味に合わせて配合比を決定することができる。本発明では、これらの原料チーズを、製品であるプロセスチーズ類に対して、34〜73重量%含有させる。好ましくは39〜59重量%含有させることができる。原料チーズが34重量%未満、もしくは、73重量%を超える場合には十分な糸引き性を有しなくなる。
【0014】
本発明に用いるタピオカ加工デンプンとしては、加工処理を施したタピオカ加工デンプンを用いることができる。エーテル化処理、エステル化処理、酸処理、架橋処理等の加工処理を施したタピオカ化工デンプンを用いることができる。好ましくは、ヒドロキシプロピルデンプン・ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン・デンプングルコース酸ナトリウム・カルボキシメチルデンプン・カチオンデンプン等のエーテル化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉・酢酸デンプン・リン酸デンプン・リン酸架橋デンプン等のエステル化デンプンが好ましい。特に、ヒドロキシプロピルデンプン・ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉・カルボキシメチルデンプン・カチオンデンプン・酢酸デンプン・酸化澱粉がより好ましい。本発明では、これらタピオカ加工デンプンを最終製品であるプロセスチーズ類に対して、2.0〜18.0重量%、好ましくは4.0〜17.0重量%含有させることができる。タピオカ加工デンプンが2.0重量%未満、もしくは18.0重量%を越える場合には、良好な食感を有しなくなる場合がある。なお、本発明において、タピオカ加工デンプンとしては、α化処理したタピオカ加工デンプンは含まない。
【0015】
本発明に用いるα化デンプンとしては、とうもろこし、小麦粉、米、タピオカ、馬鈴薯、サゴ等をα化したデンプンを用いることができる。なかでもハイアミローススターチを用いるのが好ましい。本発明では、これらα化デンプンを最終製品であるプロセスチーズ類に対して、2.0〜9.0重量%含有させる。好ましくは4.0〜8.0重量%含有させることができる。α化デンプンが2.0重量%未満、もしくは、9.0重量%を超える場合には、口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがない歯切れの良い食感を有しなくなる場合がある。
【0016】
本発明では、最終製品のプロセスチーズ類のpHを好ましくは5.0〜6.0、より好ましくは5.5〜6.0に調整することができる。pHが5.0未満、もしくは、6.0を超える場合には、十分な糸引き性を有しなくなる場合があるため好ましくない。
【0017】
さらに、本発明では、最終製品であるプロセスチーズ類の水分を好ましくは48.0〜60.0%、より好ましくは54.0〜60.0%に調整することができる。水分が48.0%未満、もしくは、60.0%を超える場合には、十分な糸引き性を有しなくなる場合があるため好ましくない。
【0018】
本発明品に使用できるその他の副原料は、特に限定されず、プロセスチーズ類の製造に使用するものであればいずれの原料を配合することができる。その他の副原料としては、例えば、溶融塩、チーズ類に使用できる溶融塩以外の乳化剤、安定剤(増粘多糖類、セルロース等)、香料等の食品添加物のほか、乳タンパク質源としての乳素材、デンプン、ゼラチン、寒天等の食品、脂肪調整のためのバター、その他の動物油脂、植物油脂、風味付け等に使用するシーズニング等を例示することができる。プロセスチーズ規格において使用可能なものを物性調整や風味調整等それぞれの目的に応じた形で選択することができる。
【0019】
本発明において糸引き性を有するとは、85℃で以下の糸引き試験を行った場合の糸引き性が10cm以上であることをいう。
なお、糸引き性試験は以下の方法で行った。
(糸引き性の評価)
糸引き性試験:プロセスチーズ類100gをカップに採取し、毎秒10cmの速度でプロセ
スチーズ類を引き上げ、プロセスチーズ類の糸が切れるまでの長さを測定 する。
【0020】
本発明におけるプロセスチーズ類の風味および食感については、訓練された官能パネラー5人による官能評価を実施した。口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがない場合を特に良好とし、口どけが良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがほとんどない場合を良好、口どけが悪く、ホクホク感がなくザラザラしており、ねちゃつきがある場合を不良とした。なお、加熱後のオイルオフの有無やチーズ風味の強さ等についてもあわせて評価した。
【0021】
本発明のプロセスチーズ類の製造方法について以下に説明する。プロセスチーズ類の製造方法は、原料チーズ、タピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合する工程と、前記配合した原材料を混合する工程と、前記混合した原材料を加熱乳化する工程と、前記加熱乳化した原材料を冷却する工程を有する。
【0022】
本発明の配合する工程、混合する工程では、原料チーズとタピオカ加工デンプン、α化デンプンを配合し、その後前記配合した原材料を混合し、原材料のpHを5.0〜6.0、および、水分を48.0〜60.0%に調整する。他の副原料はタピオカ加工デンプン等と一緒に添加しても良いし、タピオカ加工デンプン等を混合後に添加しても良い。その後、加熱乳化する工程、冷却する工程では、前記pHおよび水分を調整した原材料を加熱乳化、冷却してプロセスチーズ類を製造する。プロセスチーズ類のpH調整方法であるが、例えば、クエン酸、乳酸、重炭酸ナトリウム等のチーズ類のpH調整に用いる一般的なpH調整剤を用いて、pHを5.0〜6.0に調整することができる。プロセスチーズ類の水分調整方法であるが、製品であるチーズ類の水分を48.0〜60.0%となるように調整する。各原材料に含まれる水分量や加熱乳化時に増える水分量から原材料に添加する加水量を算出して加水することにより、製品であるチーズ類の水分を調整することができる。
【0023】
加熱乳化に用いる乳化機としては、特に限定はなく、クッカー型乳化機、ケトル型乳化機、縦型高速せん断式乳化機、かきとり式熱交換機等、チーズ類の製造に使用される乳化機を用いることができる。乳化温度や撹拌速度等は一般的なチーズを製造する条件の範囲で製造することができる。例えば、低速せん断乳化釜等を用いて、50〜200rpmの低速で攪拌すること、高速せん断乳化釜を用いて、350〜1,500rpmの中速から高速で攪拌することができる。このように加熱乳化された乳化物を目的に応じた型に充填し、冷却する。冷却温度やスピードについては特に限定はないが、通常の食品と同様に、速やかに10℃以下まで冷却保存することが望ましい。
【0024】
加熱溶解後、急冷または除冷されたプロセスチーズ類は、油脂分や水分が多いが、加熱時に油脂や水が分離せず、加熱時のみならず冷却後も糸引き性を有する歯切れの良いホクホクした食感を有する。
【0025】
本発明のプロセスチーズ類は、加熱時のみならず冷却後も糸引き性を有する歯切れの良いふかし芋の様なホクホクした食感を有するので、家庭用、業務用のプロセスチーズ類としての用途を有する。例えば、チーズフォンデュとして用いることができる。
口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきのない歯切れの良い食感と糸引き性は相反する物性であり、両物性を有するプロセスチーズ類を製造することは従来非常に困難であった。しかし、本発明により、前記相反する両物性を同時に発現ることが可能なプロセスチーズ類を得ることができるのである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[試験例1]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化)(松谷化学製ファリネックスTG600))を最終製品であるプロセスチーズ類中に2.0重量%、11.0重量%含有するように添加した後、最終製品の水分含有量が55.0%となるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造した。比較として、チェダーチーズ5kg、ゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入し、これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、トウモロコシ加工デンプン(松谷化学製ファリネックスVA70C)を最終製品であるプロセスチーズ類中に2.0重量%、11.0重量%含有するように添加した後、最終製品の水分含有量が55.0%になるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してとしてプロセスチーズを製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0028】
[評価方法]
(糸引き性の評価)
糸引き性試験:糸引き性について、糸引き試験機(長嶋製作所社製)を用いて評価した。
プロセスチーズ類100gをカップに採取し、これを電磁加熱器で1分間(90℃)加熱溶解させた。その後、カップを直ちに取り出し、85℃になった時点で糸引き試験機(長嶋製作所製)を用いて試験を行った。試験は、毎秒10cmの速度でプロセスチーズ類を引き上げ、プロセスチーズ類の糸が切れるまでの長さを測定し、得られた値をプロセスチーズ類の糸引き性とした。加熱後の放置時間を調整して、50℃まで冷却した場合、および、加熱せずに5℃に冷却したとき攪拌後の糸引き性もあわせて測定した。
◎:糸引き性が30cm以上である。
○:糸引き性が10cm以上30cm未満である。
×:糸引き性が10cm未満である。
【0029】
(官能評価)
風味および食感については、訓練された官能パネラー5人により評価した。
◎(特に良好):口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがない。
○(良好):口どけが良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがほとんどない。
×(不良):口どけが悪く、ホクホク感がなくザラザラしており、ねちゃつきがある。加熱後のオイルオフの有無についてもあわせて評価した。なお、風味、食感に上記評価以外の特徴がある場合は、各チーズ類の特徴として各表に記載した(特に記載すべき事項のないものは「−」で示した)。
【0030】
【表1】
【0031】
結果を表1に示した。その結果、タピオカ加工デンプンを使用したプロセスチーズは、トウモロコシ加工デンプンを使用したプロセスチーズよりも糸引き性が優れていた。この特性は、加熱時および冷却後も維持されていた。タピオカ加工デンプンの添加により、糸引き性、口どけは向上したが歯切れの良いホクホク感は得られなかった。
【0032】
[試験例2]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化)(松谷化学製ファリネックスTG600))0〜4,300g(0〜19.0重量%)を添加した後、最終製品の水分含有量が55.0%となるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0033】
【表2】
【0034】
結果を表2に示した。タピオカ加工デンプンを添加した場合、糸引き性の優れた口どけ良好となったが、19.0重量%以上配合した場合に口どけは悪くなった。
【0035】
[試験例3]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、α化デンプン(日本食品化工製 アルスターH)0〜1,800g(0〜10.0重量%)を添加した後、最終製品の水分含有量が55.0%となるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0036】
【表3】
【0037】
結果を表3に示した。α化デンプンを添加した場合、タピオカ加工デンプンのみでは得られなかったねちゃつき感がなく、歯切れの良いホクホクした食感を有した。しかし、α化デンプンを10.0重量%配合したプロセスチーズは、ザラザラした食感になり、歯切れの良いホクホク感は有していなかった。
【0038】
[実施例1]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化)(松谷化学製ファリネックスTG600))0〜4,300g(0〜19.0重量%)およびα化デンプン(日本食品化工製 アルスターH)0〜1,800g(0〜10.0重量%)を混合した後、最終製品の水分含有量が55.0%となるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズ(pH6.0)を製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0039】
【表4】
【0040】
85℃に加熱した際の糸引き性および官能評価の結果を表4に示した。タピオカ加工デンプン(松谷化学製ファリネックスTG600、ファリネックスVA70TJ、スタビローズTA-8)2.0〜18.0重量%、α化デンプン2.0〜9.0重量%配合することにより、良好な糸引き性を有し、かつ、良好な口どけであり、歯切れの良いホクホク感があり、ねちゃつきがないプロセスチーズを製造することができた。なお、50℃加熱時、5℃冷却時においても同様に良好な糸引き性、および、風味・食感を有した。
【0041】
[実施例2]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化)(松谷化学製ファリネックスTG600))2kg、α化デンプン(日本食品化工製 アルスターH)1kgを添加した後、pHを4.5〜6.5となるように調整して最終製品の水分含有量が55.0%になるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0042】
【表5】
【0043】
結果を表5に示した。プロセスチーズのpHをpH 5.0〜6.0に調整することにより、糸引き性、風味の良好なプロセスチーズを製造することができた。
【0044】
[実施例3]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化)(松谷化学製ファリネックスTG600))2000g、α化デンプン(日本食品化工製 アルスターH)1000gを添加した後、最終製品の水分含有量が45.0〜65.0%となるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズ(pH5.5)を製造し、糸引き性評価、官能評価を実施した。
【0045】
【表6】
【0046】
結果を表6に示した。プロセスチーズの水分値を48.0〜60.0%に調整することにより糸引き性、風味の良好なプロセスチーズ類を製造することができた。
【0047】
[実施例4]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(エステル化)(松谷化学製 ファリネックスVA70TJ))2kg、α化デンプン(日本食品化工製 アルスターE)1kgを添加した後、pHを5.5となるように調整して最終製品の水分含有量が55.0%になるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造した。
得られたプロセスチーズの糸引き性試験を行ったところ、加熱時および冷却時とも30cm以上のチーズの伸びが認められ、優れた糸引き性を有していた。また、口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがない歯切れの良い食感を有していた。
【0048】
[実施例5]
チェダーチーズ5kgおよびゴーダチーズ5kgを原料チーズとして用いて、低速せん断乳化釜に投入した。これに溶融塩としてクエン酸ナトリウム100g、ジリン酸ナトリウム100g、タピオカ加工デンプン(酸化澱粉(松谷化学製 スタビローズTA-8))2kg、α化デンプン(日本食品化工製 ネオビスC-60)1kgを添加した後、pHを5.5となるように調整して最終製品の水分含有量が55.0%になるように水を添加し、低速せん断乳化釜で120rpm、85℃まで加熱攪拌した。加熱溶解したチーズを充填し、5℃冷蔵庫で24時間以上冷却してプロセスチーズを製造した。
得られたプロセスチーズの糸引き性試験を行ったところ、加熱時および冷却時とも30cm以上のチーズの伸びが認められ、優れた糸引き性を有していた。また、口どけが非常に良好であり、ホクホク感があり、ねちゃつきがない歯切れの良い食感を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、加熱および冷却後も糸引き性を有し、良好な歯切れの良いホクホクした食感を有するプロセスチーズ類を製造することができるので、家庭用、業務用を問わず、又加熱調理される用途だけでなく、チルド状態で食品となる用途のプロセスチーズ類として用いることができる。