(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092086
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20170227BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20170227BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
B24B37/30 E
B24B37/10
H01L21/304 622K
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-248945(P2013-248945)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-104790(P2015-104790A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 弘行
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−081507(JP,A)
【文献】
特開平10−118917(JP,A)
【文献】
特開2010−046756(JP,A)
【文献】
特開2003−186549(JP,A)
【文献】
特開2001−105298(JP,A)
【文献】
特開2010−050436(JP,A)
【文献】
特開平11−070468(JP,A)
【文献】
特開2001−310257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00−37/34
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、
前記研磨パッドに基板を押し付けるための圧力室を有する回転可能なトップリングと、
前記圧力室内の気体の圧力を制御する圧力レギュレータとを備え、
前記圧力レギュレータは、圧力制御バルブと、該圧力制御バルブの下流側の気体の圧力を測定する圧力計と、前記圧力室内の圧力の目標値と該圧力計によって測定された圧力値との差分を最小にするように前記圧力制御バルブの動作を制御するバルブ制御部とを備え、
前記測定された圧力値の振動周波数が所定の周波数範囲内にあるとき、前記バルブ制御部の、前記目標値に対する前記測定された圧力値の比率を示す応答倍率は0dB以下であり、
前記研磨テーブルの回転速度に対応する周波数は、前記所定の周波数範囲内にあることを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記バルブ制御部は、第1のバルブ制御部と第2のバルブ制御部から構成され、
前記圧力レギュレータは、前記第1のバルブ制御部と前記第2のバルブ制御部とを切り替える切替器を有しており、
前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるとき、前記第1のバルブ制御部の前記応答倍率は0dB以下であり、
前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるとき、前記第2のバルブ制御部の前記応答倍率は0dBよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記圧力レギュレータは、前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるときの前記バルブ制御部の前記応答倍率を0dB以下に下げる帯域除去フィルタを備えることを特徴とする請求項1に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記研磨テーブルと前記トップリングは同じ回転速度で回転することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項5】
前記バルブ制御部の前記応答倍率を計測する応答倍率計測器をさらに備え、
前記応答倍率計測器は、
前記所定の周波数範囲内にある周波数でテスト目標値を振動させながら該テスト目標値を前記圧力レギュレータに入力し、
前記振動するテスト目標値を前記圧力レギュレータに入力しているときの前記圧力計の出力値を取得し、
前記出力値および前記テスト目標値から前記バルブ制御部の前記応答倍率を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記算出された応答倍率が0dBよりも大きい場合に、該応答倍率が0dB以下となるように前記バルブ制御部の動作を調整するチューニング器をさらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の研磨装置。
【請求項7】
前記圧力室と前記圧力レギュレータとの間に設けられたガスタンクをさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項8】
研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、
前記研磨パッドに基板を押し付けるための圧力室を有する回転可能なトップリングと、
前記圧力室内の気体の圧力を制御する圧力レギュレータと、
前記圧力室と前記圧力レギュレータとの間に設けられたガスタンクとを備え、
前記圧力レギュレータは、圧力制御バルブと、該圧力制御バルブの下流側の気体の圧力を測定する圧力計と、前記圧力室内の圧力の目標値と該圧力計によって測定された圧力値との差分を最小にするように前記圧力制御バルブの動作を制御するバルブ制御部とを備えたことを特徴とする研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハなどの基板を研磨パッドに押し付けて該基板の表面を研磨する研磨装置に関し、特に加圧気体が内部に供給された圧力室によって基板を研磨パッドに押し付ける研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical Mechanical Polishing)装置は、研磨パッド上に研磨液を供給しながら、ウェハなどの基板を研磨パッドに押し付けて基板の表面を研磨する装置である。
図1に示すように、CMP装置は、一般に、研磨パッド1を支持する研磨テーブル2と、ウェハWを保持するトップリング5を備える。研磨テーブル2およびトップリング5は同じ方向に回転し、研磨テーブル2とともに回転する研磨パッド1上には研磨液(スラリー)が供給される。トップリング5は、ウェハWを回転させながら、ウェハWを研磨パッド1に押し付ける。ウェハWは、研磨液の存在下で研磨パッド1に摺接され、研磨液に含まれる砥粒の機械的作用と、研磨液の化学的作用との組み合わせにより、ウェハWの表面が研磨される。このようなCMP装置は、半導体デバイスを製造するための研磨装置として広く知られている。
【0003】
トップリング5は、ウェハWを研磨パッド1に押し付けるための複数の圧力室10を備えており、これら圧力室10は弾性膜(メンブレン)11から形成されている。それぞれの圧力室10には複数の圧力レギュレータ15およびロータリージョイント14を経由して空気または窒素ガスなどの気体が別々に供給される。圧力室10内の気体の圧力は、圧力レギュレータ15によって制御される。このような複数の圧力室10を備えたトップリング5は、ウェハWの複数の領域を所望の圧力で研磨パッド1に押し付けることができる。
【0004】
プレストンの法則によれば、ウェハWの研磨レート(除去レートともいう)は次の式で表される。
RR∝P・V
ただし、RRは研磨レートを表し、Pは研磨パッド1に押し付けられるウェハWの表面圧力を表し、Vはウェハ表面と研磨パッド表面との相対速度を表す。
【0005】
ウェハWを均一に研磨するためには、相対速度Vは、ウェハ表面内で均一であることが望ましい。均一な相対速度Vを実現するための条件は、研磨テーブル2の回転速度(すなわち研磨パッド1の回転速度)が、トップリング5の回転速度(すなわち、ウェハWの回転速度)に等しいことである。
【0006】
しかしながら、研磨テーブル2とトップリング5とを同じ回転速度で回転させながらウェハWを研磨すると、ウェハWの研磨された面上には、同心円状の模様が現れる。このような同心円状の模様の出現は、ウェハWの研磨された面が平坦ではないことを示している。このような模様の出現を防止するための解決策としては、研磨テーブル2とトップリング5とをわずかに異なる回転速度で回転させることが知られている。
【0007】
近年、ウェハの膜厚均一性に対する要請が増々高くなるに従い、ウェハ研磨中の圧力室10内の圧力の安定性は増々重要となっている。特に、圧力室10内の圧力の変動、および圧力室10に流れる気体の流量変動は、ウェハの膜厚均一性を阻害する原因と考えられている。
【0008】
研磨パッド1の表面は完全に平坦ではない。加えて、トップリング5が自身の回転に伴って周期的に振動することもある。このため、ウェハの研磨中、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に伴って圧力室10の容積、すなわち圧力室10内の圧力は微小に変動する。圧力レギュレータ15は、圧力室10内の圧力が所定の目標値に維持されるように、圧力室10内の圧力変動をキャンセルするように動作する。したがって、良好な研磨結果を達成するためには、圧力レギュレータ15の応答性は重要である。
【0009】
図2は、圧力レギュレータ15の模式図である。圧力レギュレータ15は、圧力室10内の気体の圧力を調整する圧力制御バルブ16と、圧力制御バルブ16の下流側の気体の圧力(二次側圧力)を測定する圧力計17と、圧力の測定値Pactと圧力の目標値Pcとの差分を最小とするためのバルブ制御信号を生成するバルブ制御部(例えばPIDコントローラ)21とを備えている。二次側圧力は、圧力室10内の圧力に相当する。圧力制御バルブ16はバルブ制御信号に従って二次側圧力を制御する。このような圧力レギュレータ15としては電空レギュレータが広く用いられる。
【0010】
図3は、圧力レギュレータ15に入力される目標値Pcと時間との関係を示すグラフである。
図3に示すように、通常、圧力室10内の圧力の目標値Pcは、ある時間t0で圧力レギュレータ15のバルブ制御部21に入力され、その後一定に維持される。
図4は、圧力計17によって測定された実際の圧力Pactを示すグラフである。
図4に示すように、圧力Pactは、目標値Pcの入力時間t0からΔtだけ遅れて目標値Pcに達する。目標値Pcに到達した後の圧力Pactはある程度の幅ΔPで変動する。
【0011】
圧力レギュレータ15の応答性の観点から、時間差Δtはできるだけ小さいことが望ましく、圧力室10内の圧力の安定性の観点から、変動幅ΔPはできるだけ小さいことが望ましい。圧力レギュレータ15の応答性を向上させること(すなわち、時間差Δtを短くすること)は、バルブ制御部21の動作設定の変更によって可能である。しかしながら、応答性を向上させると、
図5に示すように、目標値Pcの入力時に圧力Pactのオーバーシュートが起こり、圧力Pactが不安定となる。その一方で、オーバーシュートを防止して圧力Pactを安定させるためには、圧力レギュレータ15の応答時間を長くする必要がある。しかしながら、これは、
図6に示すように、時間差Δtが増加することを意味する。
【0012】
目標値Pcの入力に対する応答性を向上させ、かつオーバーシュートをなくし、さらに、一定の目標値Pcに対応して実際の圧力Pactを安定させることが、バルブ制御部21には求められる。
図7は、バルブ制御部21の周波数応答特性を示すグラフである。
図7の縦軸は、目標値Pcに対する実際の圧力(実測値)Pactの比率である応答倍率を表している。この応答倍率は、単位としてデシベル[dB]を用いて表されている。具体的には、目標値Pcに対する実際の圧力Pactの比率(Pact/Pc)が1である場合、すなわち実際の圧力Pactが目標値Pcの1倍である場合、応答倍率は0dBである。通常、理想的な応答倍率は0dBである。
図7に示すグラフは、
図4に示す応答性を実現するための周波数応答特性を表している。
【0013】
図7の横軸は、バルブ制御部21に入力される入力制御信号の周波数を表している。入力制御信号は、圧力の目標値Pcのみならず、圧力の目標値Pcと、フィードバック値である圧力値Pactとの差分が含まれる。圧力の目標値Pcは
図3に示すように一定であるが、圧力値Pactは研磨テーブル2およびトップリング5の回転によって僅かに周期的に変動する。結果として、入力制御信号も変動する。この入力制御信号の周波数は、圧力値Pactの振動周波数に対応し、圧力値Pactの振動周波数は研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度から算出される周波数に対応する。
図7の横軸は、この変動する入力制御信号の周波数(すなわち、測定された圧力値Pactの周波数)を表している。
図7に示すfcは共振周波数である。
【0014】
通常、ウェハの研磨時には、60min
−1〜120min
−1の速度範囲内で研磨テーブル2およびトップリング5をそれぞれ回転させる。上述したように、研磨パッド1の表面は完全に平坦ではなく、トップリング5が自身の回転に伴って周期的に振動することもある。このため、ウェハの研磨中、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に伴って圧力室10の容積は微小に変動する。したがって、圧力室10を含む気体格納空間の容積Q、すなわち圧力室10の容積と、圧力レギュレータ15から圧力室10までの気体流路28の容積との合計が変動する。
【0015】
このような気体格納空間の容積Qの変動は、圧力レギュレータ15の二次側圧力を示す圧力値Pactに影響し、結果として研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度に同期した周波数で入力制御信号が変動する。例えば、研磨テーブル2およびトップリング5を同じ回転速度60min
−1で回転させたとき、入力制御信号は1Hz(60min
−1/60sec=1Hz)で振動する。研磨テーブル2およびトップリング5を同じ回転速度120min
−1で回転させたときは、入力制御信号は2Hz(120min
−1/60sec=2Hz)で振動する。
【0016】
しかしながら、
図7のグラフから分かるように、入力制御信号の周波数が1〜2Hzの範囲内では、応答倍率は0dB(1倍)ではない。これは、60min
−1〜120min
−1の速度範囲内で研磨テーブル2およびトップリング5を回転速度で回転させると、圧力Pactは発散的に振動することを示している。
【0017】
このような圧力Pactの発散的な振動を防止するための解決策の1つは、研磨テーブル2およびトップリング5を異なる回転速度で回転させることである。研磨テーブル2およびトップリング5を異なる回転速度で回転させると、
図8に示すように、気体格納空間(圧力室10および気体流路28)の容積Qは時間とともに大きくうねりながら変動する。
図8において、容積Qのうねりの周期T1は、研磨テーブル2の回転速度とトップリング5の回転速度の差分(絶対値)から換算された周期に相当し、容積Qの振動の周期T2は、研磨テーブル2の回転速度から換算された周期に相当する。
【0018】
図8から分かるように、容積Qの変動幅ΔQは周期的に0に近づく。このため、応答倍率が0dBよりも大きいにもかかわらず、圧力Pactは発散的に振動しない。結果として、圧力Pactは、微小に変動しながらも、目標値Pcに近い値に維持される。しかしながら、上述したように、ウェハを均一に研磨するためには、研磨テーブル2とトップリング5を同じ回転速度で回転させることが望ましい。
【0019】
最近では、圧力レギュレータ15は、その応答性(時間差Δtの短縮)と交換時のアクセス性の観点から、トップリング5の近くに配置されることが多い。このため、気体格納空間(圧力室10および気体流路28)の容積Qが小さくなる傾向にある。容積Qが小さくなると、その変動幅ΔQは相対的に大きくなり、結果として、圧力室10の容積変動が圧力Pactに与える影響は大きくなる。
【0020】
さらに、複数組の研磨テーブルとトップリングを備える研磨装置では、気体流路の長さがトップリング間で異なることがある。このような気体流路の長さの違いが存在すると、圧力Pactの変動の大きさがトップリング間で異なる。結果として、トップリングによってウェハの研磨結果が異なってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2001−105298号公報
【特許文献2】特開2005−81507号公報
【特許文献3】特開2010−50436号公報
【特許文献4】特開平11−70468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、トップリングの圧力室内の圧力を安定して制御することができる研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、前記研磨パッドに基板を押し付けるための圧力室を有する回転可能なトップリングと、前記圧力室内の気体の圧力を制御する圧力レギュレータとを備え、前記圧力レギュレータは、圧力制御バルブと、該圧力制御バルブの下流側の気体の圧力を測定する圧力計と、前記圧力室内の圧力の目標値と該圧力計によって測定された圧力値との差分を最小にするように前記圧力制御バルブの動作を制御するバルブ制御部とを備え、前記測定された圧力値の振動周波数が所定の周波数範囲内にあるとき、前記バルブ制御部の、前記目標値に対する前記測定された圧力値
の比率を示す応答倍率は0dB以下であり、前記研磨テーブルの回転速度に対応する周波数は、前記所定の周波数範囲内にあることを特徴とする研磨装置である。
【0024】
本発明の好ましい態様は、前記バルブ制御部は、第1のバルブ制御部と第2のバルブ制御部から構成され、前記圧力レギュレータは、前記第1のバルブ制御部と前記第2のバルブ制御部とを切り替える切替器を有しており、前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるとき、前記第1のバルブ制御部の前記応答倍率は0dB以下であり、前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるとき、前記第2のバルブ制御部の前記応答倍率は0dBよりも大きいことを特徴とする。
【0025】
本発明の好ましい態様は、前記圧力レギュレータは、前記測定された圧力値の振動周波数が前記所定の周波数範囲内にあるときの前記バルブ制御部の前記応答倍率を0dB以下に下げる帯域除去フィルタを備えることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記研磨テーブルと前記トップリングは同じ回転速度で回転することを特徴とする。
【0026】
本発明の好ましい態様は、前記バルブ制御部の前記応答倍率を計測する応答倍率計測器をさらに備え、前記応答倍率計測器は、前記所定の周波数範囲内にある周波数でテスト目標値を振動させながら該テスト目標値を前記圧力レギュレータに入力し、前記振動するテスト目標値を前記圧力レギュレータに入力しているときの前記圧力計の出力値を取得し、前記出力値および前記テスト目標値から前記バルブ制御部の前記応答倍率を算出することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記算出された応答倍率が0dBよりも大きい場合に、該応答倍率が0dB以下となるように前記バルブ制御部の動作を調整するチューニング器をさらに備えたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記圧力室と前記圧力レギュレータとの間に設けられたガスタンクをさらに備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明の他の態様は、研磨パッドを支持するための回転可能な研磨テーブルと、前記研磨パッドに基板を押し付けるための圧力室を有する回転可能なトップリングと、前記圧力室内の気体の圧力を制御する圧力レギュレータと、前記圧力室と前記圧力レギュレータとの間に設けられたガスタンクとを備え、前記圧力レギュレータは、圧力制御バルブと、該圧力制御バルブの下流側の気体の圧力を測定する圧力計と、前記圧力室内の圧力の目標値と該圧力計によって測定された圧力値との差分を最小にするように前記圧力制御バルブの動作を制御するバルブ制御部とを備えたことを特徴とする研磨装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、研磨テーブルの回転速度に対応した周波数では、バルブ制御部の応答倍率が0dBとなる。したがって、ウェハなどの基板の研磨中に圧力室の圧力は発散的に振動せず、安定して所定の目標値に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図3】圧力レギュレータに入力される目標値Pcと時間との関係を示すグラフである。
【
図4】圧力計によって測定された実際の圧力(測定された圧力値)Pactを示すグラフである。
【
図5】圧力Pactのオーバーシュートを示すグラフである。
【
図6】圧力レギュレータの応答時間を長く設定した場合の圧力Pactを示すグラフである。
【
図7】バルブ制御部の周波数応答特性を示すグラフである。
【
図8】研磨テーブルおよびトップリングを異なる回転速度で回転させたときの気体格納空間(圧力室および気体流路)の容積の変化を示すグラフである。
【
図9】圧力レギュレータの一実施形態を示す模式図である。
【
図10】
図9に示すバルブ制御部の周波数応答特性を示すグラフである。
【
図11】圧力レギュレータの他の実施形態を示す模式図である。
【
図12】
図11に示す第1のバルブ制御部および第2のバルブ制御部の周波数応答特性を示すグラフである。
【
図13】圧力レギュレータのさらに他の実施形態を示す模式図である。
【
図14】
図13に示すバルブ制御部の周波数応答特性を示すグラフである。
【
図15】バルブ制御部の応答倍率を計測する応答倍率計測器を備えた研磨装置の実施形態を示す模式図である。
【
図16】ガスタンクを備えた研磨装置の実施形態を示す模式図である。
【
図17】研磨テーブルおよびトップリングがそれらの回転軸心から傾いている状態を示す図である。
【
図18】
図18(a)乃至
図18(c)は、研磨テーブルおよびトップリングの位相角が同期した状態で回転している様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る研磨装置は、
図1に示す研磨装置と基本的に同じ構成を有するので、その重複する説明を省略する。
図9は、圧力レギュレータ15の一実施形態を示す模式図である。圧力レギュレータ15は、圧力室10内の気体の圧力を調整する圧力制御バルブ16と、この圧力制御バルブ16の下流側の気体の圧力(二次側圧力)を測定する圧力計17と、圧力の目標値Pcと圧力計17によって測定された圧力値Pactとの差分(偏差)を最小にするように圧力制御バルブ16の動作を制御するバルブ制御部25とを備えている。二次側圧力は、圧力室10内の圧力に相当する。目標値Pcは、トップリング5の圧力室10内の圧力の目標値である。
【0031】
バルブ制御部25としては、PID動作、すなわち比例動作、積分動作、および微分動作を行うPIDコントローラを使用することができる。これら比例動作、積分動作、微分動作のそれぞれの操作量は、一般に、目標値と実測値との偏差、比例パラメータ(比例ゲイン)、積分パラメータ(比例ゲイン/積分時間)、および微分パラメータ(比例ゲイン*微分時間)によって決定される。比例パラメータ、積分パラメータ、および微分パラメータは、予め設定された定数である。バルブ制御部25の制御動作は、これらパラメータによって調整される。
【0032】
図10は、
図9に示すバルブ制御部25の周波数応答特性を示すグラフである。
図10の縦軸は、目標値Pcに対する実際の圧力(実測値)Pactの比率である応答倍率を表している。この応答倍率は、単位としてデシベル[dB]を用いて表されている。具体的には、目標値Pcに対する実際の圧力Pactの比率(Pact/Pc)が1である場合、すなわち実際の圧力Pactが目標値Pcの1倍である場合、応答倍率は0dBである。
【0033】
図10の横軸は、バルブ制御部25に入力される入力制御信号の周波数を表している。入力制御信号は、圧力の目標値Pcのみならず、圧力の目標値Pcと、フィードバック値である圧力値Pactとの差分が含まれる。圧力の目標値Pcは
図3に示すように一定であるが、圧力値Pactは研磨テーブル2およびトップリング5の回転によって僅かに周期的に変動する。結果として、入力制御信号も変動する。この入力制御信号の周波数は、圧力値Pactの振動周波数に対応し、圧力値Pactの振動周波数は研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度から算出される周波数に対応する。
図10の横軸は、この変動する入力制御信号の周波数(すなわち、測定された圧力値Pactの周波数)を表している。以下の説明では、入力制御信号の周波数を圧力値Pactの振動周波数として説明する。
【0034】
図10に示すように、バルブ制御部25の応答倍率は、測定された圧力値のPactの振動周波数が所定の周波数範囲R内にあるとき、0dBとなるように構成されている。この周波数範囲Rは、ウェハなどの基板の研磨をするときの研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度から決定される。すなわち、ウェハ研磨時の研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度に対応する周波数を含むように周波数範囲Rが決定される。例えば、ウェハ研磨時の研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度が60min
−1〜120min
−1の範囲内である場合、上記所定の周波数範囲Rは1〜2Hzを含む範囲である。ウェハ研磨時の研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度は、同じであってよい。
【0035】
バルブ制御部25の応答倍率は、上述した制御パラメータ、すなわち比例パラメータ、積分パラメータ、および微分パラメータによって調整することができる。
図10に示す例では、上記所定の周波数範囲R内では、バルブ制御部25の応答倍率が0dBとなるように構成されているが、バルブ制御部25の応答倍率が0dBよりも低くなるように構成されてもよい。
【0036】
このような構成によれば、ウェハの研磨中に研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度に同期して圧力値Pactが振動しても、その振動周波数を含む範囲ではバルブ制御部25の応答倍率が0dBであるので、圧力値Pactは発散しない。したがって、圧力レギュレータ15は、目標値Pcの入力に応じて圧力値Pactを安定して制御することができる。
【0037】
図11は、圧力レギュレータ15の他の実施形態を示す模式図である。この実施形態では、バルブ制御部25は、第1のバルブ制御部25Aと第2のバルブ制御部25Bから構成されている。圧力レギュレータ15は、第1のバルブ制御部25Aと第2のバルブ制御部25Bとを切り替える切替器26を有しており、第1のバルブ制御部25Aと第2のバルブ制御部25Bのうちのいずれか一方が切替器26を介して圧力制御バルブ16に接続される。
【0038】
図12は、
図11に示す第1のバルブ制御部25Aおよび第2のバルブ制御部25Bの周波数応答特性を示すグラフである。
図12に示すように、第1のバルブ制御部25Aの応答倍率は、圧力値Pactの振動周波数が上記所定の周波数範囲R内にあるとき、0dB以下である(
図12に示す例では0dB)。第2のバルブ制御部25Bの応答倍率は、圧力値Pactの振動周波数が上記所定の周波数範囲R内にあるとき、0dBよりも大きい。
【0039】
切替器26は、所定のタイミングで動作して、第1のバルブ制御部25Aと第2のバルブ制御部25Bのうちのいずれか一方を圧力制御バルブ16に接続する。例えば、圧力のオーバーシュートを防ぐために、切替器26は目標値Pcが入力される前に第2のバルブ制御部25Bを圧力制御バルブ16に接続し、圧力室10内の圧力の発散的な振動を防止するために、切替器26はウェハの研磨中は第1のバルブ制御部25Aを圧力制御バルブ16に接続する。このように周波数応答特性の異なる2つのバルブ制御部25A,25Bを備えることで、圧力のオーバーシュートを防止しつつ、研磨中での圧力を安定させることができる。
【0040】
図13は、圧力レギュレータ15のさらに他の実施形態を示す模式図である。この実施形態では、1つのバルブ制御部25が設けられている点で
図9に示す実施形態と同じであるが、バルブ制御部25は帯域除去フィルタ31(例えば、バンドエリミネーションフィルタ)を備えている点で異なっている。この帯域除去フィルタ31は、測定された圧力値Pactの振動周波数が所定の周波数範囲R内にあるときのバルブ制御部25の応答倍率を、0dBまたはそれよりも低くするフィルタである。
【0041】
図14は、
図13に示すバルブ制御部25の周波数応答特性を示すグラフである。
図14に示すように、帯域除去フィルタ31により所定の周波数範囲R内では、応答倍率が0dB以下(
図14に示す例では0dB)となっている。この帯域除去フィルタ31は、バルブ制御部25の上流側または下流側に配置されてもよい。
【0042】
研磨テーブル2とトップリング5の回転速度が同じである条件下で圧力Pactが発散的に振動しないようにするための対応策として、研磨テーブル2およびトップリング5の回転速度に対応する周波数を持つ成分を、フィードバック値である圧力値Pactからフィルタで除去してもよい。このようなフィルタを用いることで、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に起因する圧力Pactの微小な振動を除去することができる。
【0043】
図15は、バルブ制御部25の応答倍率を計測する応答倍率計測器33を備えた研磨装置の実施形態を示す模式図である。この応答倍率計測器33は、上記所定の周波数範囲R内にある周波数でテスト目標値を振動させながら該テスト目標値を圧力レギュレータ15に入力するように構成される。テスト目標値は、予め定められた値であり、上述した目標値Pcであってもよい。圧力計17は、この振動するテスト目標値を圧力レギュレータ15に入力しているときの圧力制御バルブ16の下流側の気体の圧力(すなわち圧力制御バルブ16の二次側圧力)を測定し、その間、応答倍率計測器33は、圧力計17の出力値を取得する。
【0044】
さらに、応答倍率計測器33は、テスト目標値および圧力計17の出力値からバルブ制御部25の応答倍率を算出する。より具体的には、応答倍率計測器33は、テスト目標値に対する出力値の比率からバルブ制御部25の応答倍率を算出する。上述したように、応答倍率は単位としてデシベル[dB]を用いて表されているので、テスト目標値に対する出力値の比率は、対数(底が10である対数)として表される。
【0045】
応答倍率計測器33は、バルブ制御部25の動作を調整するチューニング器35に接続されている。このチューニング器35は、応答倍率計測器33によって測定された応答倍率が0dBよりも大きい場合に、応答倍率が0dB以下となるようにバルブ制御部25の制御動作を調整する。チューニング器35は、上述した比例パラメータ、積分パラメータ、および微分パラメータを変更することによってバルブ制御部25の動作を調整するように構成されている。
【0046】
所定の周波数範囲R内にある周波数でテスト目標値を振動させる目的は、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に起因するトップリング5の圧力室10内の圧力変動を模擬することである。したがって、応答倍率の測定は、研磨テーブル2およびトップリング5が回転していないときに実行される。このようにバルブ制御部25の動作が応答倍率の測定値に基づいて調整されるので、圧力レギュレータ15は、研磨テーブル2およびトップリング5の回転の影響を排除し、圧力室10内の圧力を安定して制御することができる。
【0047】
図16は、ガスタンク40を備えた研磨装置の実施形態を示す模式図である。ガスタンク40は、トップリング5の圧力室10と圧力レギュレータ15との間に配置されている。
図16に示すように、複数の圧力室10および複数の圧力レギュレータ15のそれぞれに対応して複数のガスタンク40が設けられている。各ガスタンク40は、圧力室10と圧力レギュレータ15とを連結する気体流路28に接続されており、圧力室10に連通している。したがって、上述した気体格納空間(トップリング5の圧力室10および気体流路28を含む)の容積Qがガスタンク40の容積だけ増加し、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に起因して生じる変動幅ΔQは容積Qに対して相対的に小さくなる。結果として、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に起因する気体圧力の変動を低下させることができる。
【0048】
図17に示すように、研磨テーブル2およびトップリング5がそれらの回転軸心から傾いていると、研磨テーブル2およびトップリング5の回転に伴ってトップリング5の圧力室10の容積は周期的に変化する。そこで、このようなウェハ研磨中の圧力室10の容積変化を最小にするために、トップリング5の傾きが最大となる位相角が、研磨テーブル2の傾きが最大となる位相角に一致した状態で、研磨テーブル2およびトップリング5を同じ回転速度で回転させることが好ましい。この場合、研磨テーブル2およびトップリング5の位相角を測定するためのロータリエンコーダ(図示せず)を設けることが好ましい。
【0049】
図18(a)乃至
図18(c)は、研磨テーブル2およびトップリング5の位相角が同期した状態で回転している様子を示す図である。トップリング5は、その傾きが最大となる位相角が、研磨テーブル2の傾きが最大となる位相角に一致した状態で回転しながら、研磨テーブル2の回転に同期して上下動する。つまり、トップリング5と研磨テーブル2との上下方向の相対位置および相対的な角度が一定となるように、トップリング5および研磨テーブル2が回転し、かつトップリング5が上下動する。この実施形態では、研磨テーブル2およびトップリング5の位相角を同期させるために、研磨テーブル2およびトップリング5は同じ回転速度で回転する。このような動作により、気体格納空間(圧力室10および気体流路28を含む)の容積Qの変動幅ΔQは最小となり、結果として、ウェハ研磨中の圧力室10内の圧力を安定させることができる。
【0050】
今まで述べた各実施形態の研磨装置は、複数の圧力室10、および対応する複数の圧力レギュレータ15を備えているが、1つの圧力室10および1つの圧力レギュレータ15を備えていてもよい。
【0051】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0052】
1 研磨パッド
2 研磨テーブル
5 トップリング
10 圧力室
11 弾性膜
14 ロータリージョイント
15 圧力レギュレータ
16 圧力制御バルブ
17 圧力計
21,25,25A,25B バルブ制御部
26 切替器
28 気体流路
31 帯域除去フィルタ
33 応答倍率計測器
35 チューニング器
40 ガスタンク