【文献】
N.ZHAO et al.,Two-phase Synthesis of Shape-Controlled Colloidal Zirconia Nanocrystals and Their Characterization,J.Am,Chem.Soc.,2006年,Vol.128,Pages10118-10124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化タングステン微粒子の質量に対する前記酸化ジルコニウム微粒子の質量の割合が10%以上150%以下の範囲である、請求項1または請求項2に記載の水系分散液。
前記光触媒複合微粒子は、前記水系分散媒中に0.001質量%以上50質量%以下の範囲で分散されている、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の水系分散液。
前記光触媒複合微粒子は、タングステンおよびジルコニウム以外の金属元素を、前記酸化タングステンに対して0.001質量%以上50質量%以下の範囲で含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の水系分散液。
前記金属元素は、前記金属元素の単体、前記金属元素の化合物、および前記金属元素とタングステンまたはジルコニウムとの複合化合物から選ばれる少なくとも1つの形態で、前記光触媒複合微粒子に含まれる、請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の水系分散液。
前記光触媒複合微粒子は、タングステンおよびジルコニウム以外の金属元素を、前記酸化タングステンに対して0.001質量%以上50質量%以下の範囲で含む、請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載の水系分散液。
請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の水系分散液と、無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1種のバインダ成分とを具備することを特徴とする塗料。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の水系分散液とそれを用いた塗料、光触媒膜および製品について説明する。実施形態の水系分散液は、酸化タングステンと酸化ジルコニウムとを含む可視光応答型の光触媒複合微粒子と、光触媒複合微粒子が分散された水系分散媒とを具備している。実施形態の水系分散液のpHは1以上9以下の範囲である。水系分散媒としては、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1つが例示される。
【0011】
実施形態の水系分散液において、光触媒複合微粒子は酸化タングステンの質量に対する酸化ジルコニウムの質量の割合が0.05%以上200%以下の範囲であり、かつ粒度分布におけるD50粒径が20nm以上10μm以下の範囲である。光触媒複合微粒子において、酸化タングステンの質量に対する酸化ジルコニウムの質量の割合は0.1%以上150%以下の範囲であることがより好ましい。
【0012】
他の実施形態の水系分散液において、光触媒複合微粒子はタングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合が0.05%以上400%以下の範囲であり、かつ粒度分布におけるD50粒径が20nm以上10μm以下の範囲である。光触媒複合微粒子において、タングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合は0.1%以上300%以下の範囲であることがより好ましい。
【0013】
酸化タングステンは可視光の照射下においてガス分解等の光触媒性能を発揮する。しかしながら、酸化タングステンはガスの初期濃度に対してガス濃度が低下するにつれて、ガスの分解速度が遅くなることが分かった。これは、ガスを分解する際に生成する中間物質に対する酸化タングステンの分解性能が低く、またガスの低濃度環境下では酸化タングステンのガス吸着力が低いためと考えられる。本発明者等は、酸化タングステンによる中間物質の分解性能とガスの吸着力を向上させるために、酸化タングステンにそれよりガス吸着力の高い酸化ジルコニウムを複合することが有効であることを見出した。
【0014】
実施形態の水系分散液で用いられる光触媒複合微粒子は、酸化タングステンに対する質量割合が0.05〜200%の範囲の酸化ジルコニウムを含んでいる。酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合は0.1〜150%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜100%の範囲である。酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合が0.05%より少ないと、酸化ジルコニウムが有するガス吸着性能を十分に発揮させことができないため、ガス濃度が低い環境下等における酸化タングステンの光触媒性能を向上させることができない。酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合が200%を超えると、酸化タングステンの含有量が相対的に少なくなるため、可視光応答型の光触媒複合微粒子としての性能自体(光触媒性能)が低下してしまう。
【0015】
さらに、実施形態で用いる光触媒複合微粒子において、タングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合は0.05〜400%の範囲であることが好ましい。タングステンの原子数に対してジルコニウムの原子数の割合は0.1〜300%の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは10〜200%の範囲である。ジルコニウムの原子数の割合が0.05%より少ないと、酸化ジルコニウムが有するガス吸着性能を十分に発揮させことができないため、ガス濃度が低い環境下等における酸化タングステンの光触媒性能を向上させることができない。ジルコニウムの原子数の割合が400%を超えると、酸化タングステンの含有量が相対的に少なくなるため、可視光応答型の光触媒複合微粒子としての性能自体(光触媒性能)が低下してしまう。
【0016】
実施形態で用いる光触媒複合微粒子において、酸化タングステンと酸化ジルコニウムとの複合方法は特に限定されるものではない。酸化タングステンと酸化ジルコニウムとの複合微粒子としては、酸化タングステン微粒子と酸化ジルコニウム微粒子との混合微粒子(粉末同士の混合法)、酸化タングステンに酸化ジルコニウムを担持させた複合微粒子または酸化ジルコニウムに酸化タングステンを担持させた複合微粒子(担持法)等、種々の複合微粒子を使用することができる。酸化タングステンと酸化ジルコニウムとの複合化法として担持法を使用するにあたって、金属溶液を用いた含浸法等を適用してもよい。
【0017】
光触媒複合微粒子の原料として酸化ジルコニウム微粒子を使用する場合、酸化ジルコニウム微粒子の形状は特に限定されるものではないが、酸化ジルコニウム微粒子の一次粒子は棒状であることが好ましい。さらに、棒状の一次粒子が凝集した粒子を有する酸化ジルコニウムゾルであることがより好ましい。酸化ジルコニウムは単斜晶系の結晶構造を有することが好ましい。光触媒複合微粒子における酸化ジルコニウムの存在形態は特に限定されるものではなく、各種の形態で存在させることができる。光触媒複合微粒子は、酸化ジルコニウムの単体や酸化タングステンと複合化合物を形成した酸化ジルコニウムを含むことができる。酸化ジルコニウムは他の金属元素と複合化合物等を形成していてもよい。
【0018】
実施形態の水系分散液に含有される光触媒複合微粒子は20nm以上10μm以下の範囲の平均粒径を有している。ここで、本願明細書における微粒子(粉末)の平均粒径は粒度分布におけるD50粒径を示すものである。実施形態の水系分散液は、光触媒複合微粒子を水系分散媒と混合し、これを超音波分散機、湿式ジェットミル、ビーズミル等で分散処理することにより作製される。このような水系分散液において、光触媒複合微粒子は一次粒子が凝集した凝集粒子を含んでいる。凝集粒子を含めて湿式のレーザ回折式粒度分布計等により粒度分布を測定し、体積基準の積算径におけるD50粒径が20nm以上10μm以下の範囲の場合に、光触媒複合微粒子の良好な分散状態と均一で安定な膜形成性とを得ることができる。その結果、高い光触媒性能を発揮させることができる。
【0019】
安定な水系分散液を生成し、かつそれを用いて均一な光触媒複合微粒子膜を得るためには、複合微粒子のD50粒径が小さい方がよい。複合微粒子のD50粒径が10μmを超える場合には、光触媒複合微粒子を含む水系分散液として十分な特性を得ることができない。一方、複合微粒子のD50粒径が20nmより小さい場合には、粒子が小さすぎて原料粉末の取扱い性が低下し、原料粉末およびそれを用いて作製した水系分散液の実用性が低下する。光触媒複合微粒子のD50粒径は50nm以上1μm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは50〜300nmの範囲である。
【0020】
水系分散液に含有される光触媒複合微粒子において、粒度分布のD90粒径は0.05μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。複合微粒子のD90径が0.05μm未満の場合、光触媒複合微粒子の全体的な粒度が小さすぎるために分散性が低下する。このため、均一な分散液や塗料が得られにくくなる。複合微粒子のD90径が10μmを超えると水系分散液の膜形成性が低下し、均一で安定な膜を形成することが困難になる。そのため、光触媒性能を十分に発揮させることができないおそれがある。
【0021】
本発明の水系分散液によって、均一で平滑な膜や強度が高い膜を形成するためには、できるだけ凝集粒子を解砕してD90径を小さくすることが好ましい。本発明による酸化タングステンを具備する光触媒複合微粒子が膜化した後に光触媒性能を発揮させるためには、分散処理で微粒子に歪を与えすぎないような条件を設定することが好ましい。分散性が良好な水系分散液や塗料を用いて、均一で安定な膜を形成するためには、水系分散液や塗料をスピンコート、ディップ、スプレー等の方法で塗布することが好ましい。
【0022】
光触媒微粒子の性能は、一般に比表面積が大きく、粒径が小さい方が高くなる。光触媒複合微粒子に用いる酸化タングステンは、平均一次粒径(D50粒径)が1〜400nmの範囲の酸化タングステン微粒子であることが好ましい。酸化タングステン微粒子のBET比表面積は4.1〜820m
2/gの範囲であることが好ましい。酸化タングステン微粒子の平均一次粒径が400nmを超える場合やBET比表面積が4.1m
2/g未満の場合には、酸化タングステン微粒子の光触媒性能が低下すると共に、均一で安定な膜の形成が困難になる。酸化タングステン微粒子の平均一次粒径が小さすぎる場合にも分散性が低下し、均一な分散液の作製が困難になる。酸化タングステン微粒子の平均一次粒径は2.7〜75nmの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは5.5〜51nmの範囲である。酸化タングステン微粒子のBET比表面積は11〜300m
2/gの範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは16〜150m
2/gの範囲である。
【0023】
さらに、酸化タングステン微粒子は結晶構造が安定した状態であることが好ましい。結晶構造が不安定であると、水系分散液を長期間保管した場合に、酸化タングステン微粒子の結晶構造が変化することで、液性が変化して分散状態が低下するおそれがある。さらに、酸化タングステン微粒子は微量の不純物として金属元素等を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量は2質量%以下であることが好ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に一般的に含まれる元素や原料として使用するタングステン化合物等を製造する際に混入する汚染元素等があり、例えばFe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、Mg等が挙げられる。これらの元素を複合材の構成元素として用いる場合には、この限りではない。
【0024】
酸化タングステン微粒子と酸化ジルコニウム微粒子とを複合する場合、酸化タングステン微粒子の平均一次粒径(D50
WO3)に対する酸化ジルコニウム微粒子の平均一次粒径(D50
ZrO2)の比率が0.05〜20の範囲であることが好ましい。平均一次粒径の比率(D50
ZrO2/D50
WO3)が0.05より小さい場合や20より大きい場合、酸化タングステンの一次粒子と酸化ジルコニウムの一次粒子の大きさが極端に異なるため、水系分散媒に対する複合微粒子の均一分散性が低下しやすい。このため、酸化ジルコニウムのガス吸着力に基づいて酸化タングステンの光触媒性能を向上させる効果が低下する。前述したように、酸化タングステンは棒状の一次粒子を有することが好ましい。この場合、酸化ジルコニウム微粒子の平均一次粒径は棒状粒子の平均長径を示すものである。平均一次粒径の比率(D50
ZrO2/D50
WO3)は0.1〜5の範囲であることがより好ましい。
【0025】
実施形態の水系分散液のpHは1〜9の範囲である。可視光応答型の光触媒複合微粒子を含有する水系分散液のpHが1〜9の範囲に、水系分散液のゼータ電位がマイナスとなるため、優れた分散状態を実現することができる。このような分散液やそれを用いた塗料によれば、基材等に薄くむらなく塗布することができる。水系分散液のpHは光触媒複合微粒子の濃度(水系分散液中の粒子濃度)と相関関係があり、pHが変化すると分散状態が変化する。pHが1〜9の範囲において良好な分散状態が得られる。
【0026】
水系分散液のpHが1より小さいとゼータ電位が零に近づくため、光触媒複合微粒子の分散性が低下する。水系分散液のpHが9より大きい場合、アルカリ側に近づきすぎることによって、酸化タングステンが溶解しやすくなる。水系分散液のpHを調整するために、必要に応じて塩酸、硫酸、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、アンモニア、水酸化ナトリウム等の酸やアルカリ水溶液を添加してもよい。
【0027】
水系分散液のpHは2.5〜7.5の範囲とすることが好ましい。水系分散液のpHを2.5〜7.5の範囲とすることによって、光触媒性能(ガス分解性能)をより効果的に発揮させることができる。pHが2.5〜7.5の範囲の水系分散液を塗布して乾燥させた後に、FT−IR(フーリエ変換赤外吸収分光法)で粒子の表面状態を観察すると、3700cm
−1付近に水酸基の吸収が見られる。このような膜を光触媒膜として用いることによって、優れた有機ガスの分解性能を得ることができる。pHを8に調整した水系分散液を塗布して乾燥させた場合、水酸基の吸収が減少し、ガス分解性能も低下する。水系分散液のpHを1.5に調整した場合、水酸基は存在するものの、ゼータ電位が0に近づくことで分散性が若干低下し、ガス分解性能も若干低下する。
【0028】
また、水系分散液の色をL*a*b*表色系で表したとき、水系分散液はa*が10以下、b*が−5以上、L*が50以上の範囲内の色を有することが好ましい。このような色調の分散液を基材に塗布して膜を形成することで、良好な光触媒性能が得られることに加えて、基材の色を損ねることがない。従って、塗料や膜を得ることが可能となる。
【0029】
実施形態の水系分散液における光触媒複合微粒子の濃度(粒子濃度)は0.001質量%以上50質量%の範囲とすることが好ましい。粒子濃度が0.001質量%未満であると光触媒複合微粒子の含有量が不足し、所望の性能を得ることができないおそれがある。粒子濃度が50質量%を超える場合には、膜化した際に光触媒複合微粒子が近接した状態で存在し、性能を発揮させるための粒子表面積を十分に得ることができない。このため、十分な性能を発揮させることができないばかりでなく、必要以上に光触媒複合微粒子を含有するために、分散液や膜のコストの増加を招くことになる。
【0030】
光触媒複合微粒子の濃度は0.01〜20質量%の範囲とすることがより好ましい。光触媒複合微粒子の濃度が20質量%以下の分散液によれば、光触媒複合微粒子を均一に分散された状態を容易に実現することができる。ただし、光触媒複合微粒子を20質量%を超えて含有する高濃度の分散液は、それを希釈して塗料を作製する際に光触媒複合微粒子の分散状態が向上する。従って、光触媒複合微粒子を20質量%以上含有する高濃度の分散液を使用することによって、光触媒複合微粒子を均一に分散させた塗料を効率よく作製することができるという利点がある。
【0031】
水系分散液に含有される光触媒複合微粒子は、酸化タングステンと酸化ジルコニウムのみではなく、タングステンおよびジルコニウム以外の金属元素(以下、添加金属元素と記す。)を含んでいてもよい。光触媒体に含有させる金属元素としては、タングステンおよびジルコニウムを除く遷移金属元素、亜鉛等の亜鉛族元素、アルミニウム等の土類金属元素が挙げられる。遷移金属元素とは、原子番号21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の元素であり、これらのうちタングステンおよびジルコニウムを除く金属元素を光触媒複合微粒子に含有させることができる。亜鉛族元素は原子番号30、48、80の元素であり、土類金属元素は原子番号13、31、49、81の元素である。これら金属元素を光触媒複合微粒子に含有させてもよい。これらの金属元素を光触媒複合微粒子に添加することで、光触媒複合微粒子の性能を向上させることができる。
【0032】
光触媒複合微粒子における添加金属元素の含有量は、酸化タングステンに対して0.001〜50質量%の範囲であることが好ましい。添加金属元素の含有量が酸化タングステンに対して50質量%を超えると、酸化タングステン微粒子に基づく特性が低下するおそれがある。添加金属元素の含有量は酸化タングステンに対して10質量%以下であることがより好ましい。添加金属元素の含有量の下限値は特に限定されるものではないが、金属元素の添加効果をより有効に発現させる上で、その含有量は酸化タングステンに対して0.001質量%以上とすることが好ましい。水系分散液の分散性を低下させないようにする上で、添加金属元素の含有量や形態はpHやゼータ電位に大きな変化を及ぼさないように調整することが好ましい。このような点を考慮すると、添加金属元素の含有量は酸化タングステンに対して2質量%以下とすることがより好ましい。
【0033】
光触媒体に含有させる金属元素(添加金属元素)は、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、およびセリウム(Ce)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属元素を光触媒体に0.005〜10質量%の範囲で含有させることによって、実施形態の光触媒体の光触媒性能をより効果的に向上させることができる。上記した金属元素の含有量は酸化タングステンに対して0.005〜2質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0034】
実施形態の光触媒複合微粒子において、金属元素は各種の形態で存在させることができる。光触媒複合微粒子は、金属元素の単体、金属元素の酸化物のような化合物、酸化タングステンまたは酸化ジルコニウムとの複合化合物等として、金属元素を含むことができる。光触媒複合微粒子に含まれる金属元素は、それ自体が他の元素と化合物を形成していてもよい。光触媒複合微粒子における金属元素の典型的な形態としては、金属元素の酸化物が挙げられる。金属元素は単体、化合物、複合化合物等の形態で、例えば酸化タングステン粉末や酸化ジルコニウム粉末と混合される。
【0035】
さらに、光触媒複合微粒子における金属元素の複合方法は、特に限定されるものではない。金属元素の複合方法としては、粉末同士を混合する混合法、含浸法、担持法等を適用することができる。代表的な複合方法を以下に記載する。Ruを複合する方法としては、酸化タングステンや酸化ジルコニウムを含有する分散液に、塩化ルテニウムの水溶液を添加する方法が挙げられる。Ptを複合する方法として、酸化タングステンや酸化ジルコニウムを含有する分散液に、Pt粉末を混合する方法が挙げられる。Cuを複合する方法として、硝酸銅や硫酸銅の水溶液やエタノール溶液に酸化タングステン微粒子や酸化ジルコニウム微粒子を加えて混合した後、70〜80℃の温度で乾燥させてから500〜550℃の温度で焼成する方法(含浸法)が挙げられる。
【0036】
金属元素の複合方法において、含浸法は塩化鉄水溶液を用いた鉄の複合方法、塩化銀水溶液を用いた銀の複合方法、塩化白金酸水溶液を用いた白金の複合方法、塩化パラジウム水溶液を用いたパラジウムの複合方法等にも応用することができる。さらに、酸化チタンゾルやアルミナゾル等の酸化物ゾルを用いて、酸化タングステンや酸化ジルコニウムと金属元素(酸化物)とを複合させてもよい。
【0037】
この実施形態の水系分散液において、水系分散媒は水であることが好ましい。ただし、水以外の分散媒として、アルコールを50質量%未満の範囲で含有していてもよい。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等が用いられる。アルコールの含有量が50質量%を超えると凝集しやすくなる。アルコールの含有量は20質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。実施形態の水系分散液は、光触媒複合微粒子を活性炭やゼオライト等の吸着性能を有する材料と混合、担持、含浸させた状態で、水系分散媒中に分散させてもよい。
【0038】
実施形態の水系分散液に用いられる酸化タングステン微粒子(粉末)は、以下に示す方法で作製することが好ましいが、これに限られるものではない。酸化タングステン微粒子は昇華工程を適用して作製することが好ましい。昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効である。このような方法で作製した三酸化タングステン微粒子によれば、上述した平均一次粒径やBET比表面積、また結晶構造を安定して実現することができる。さらに、平均一次粒径がBET比表面積から換算した値に近似し、粒径ばらつきが小さい微粒子(微粉末)を安定して得ることができる。
【0039】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、三酸化タングステン微粒子を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化させることによって、微粒子状態の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0040】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用するタングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO
3)、二酸化タングステン(WO
2)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0041】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金属タングステン蒸気を酸化することによって、酸化タングステン微粒子が得られる。溶液を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粒子を得ることができる。さらに、酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御することができる。
【0042】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン微粒子に不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものが含まれないことから、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0043】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工程で後述する誘導結合型プラズマ処理等を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。このようなタングステン化合物としては、WO
3、W
20O
58、W
18O
49、WO
2等が挙げられる。また、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウムの溶液、あるいは塩等も有効である。
【0044】
酸化タングステン複合材微粒子を作製する際には、タングステン原料に加えて遷移金属元素やその他の元素を、金属、酸化物を含む化合物、複合化合物等の形態で混ぜてもよい。酸化タングステンを他の元素と同時に処理することによって、酸化タングステンと他の元素との複合酸化物等の複合化合物微粒子を得ることができる。酸化タングステン複合材微粒子は、酸化タングステン微粒子を他の金属元素の単体粒子や化合物粒子と混合、担持させることによっても得ることができる。酸化タングステンと他の金属元素との複合方法は特に限定されるものではなく、各種公知の方法を適用することが可能である。
【0045】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜100μmの範囲の平均粒径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒径は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましくは、さらに好ましくは0.3μm〜3μmの範囲である。上記範囲内の平均粒径を有する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。タングステン原料の平均粒径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下する。タングステン原料の平均粒径が100μmを超えると均一な昇華反応が起きにくくなる。平均粒径が大きくても、大きなエネルギー量で処理すれば均一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0046】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理ではレーザまたは電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒径や供給量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0047】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガスバーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナー処理は昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガスバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0048】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合には、通常アルゴンガスや酸素ガスを用いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法としては、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散させた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0049】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いられるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられる。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が三酸化タングステンの場合等、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴンやヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガス等を用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0050】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力等を調整することによって、三酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種(単斜晶、三斜晶、または単斜晶と三斜晶との混晶)、あるいはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。三酸化タングステン微粒子の結晶構造は、単斜晶と三斜晶との混晶、あるいは単斜晶と三斜晶と斜方晶の混晶であることがより好ましい。
【0051】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒としては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の取扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラズマの熱で容易に揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0052】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製する場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。このような範囲で分散液中の分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎて効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0053】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む方法を適用することによって、三酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種、またはそれに斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。さらに、タングステン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、さらに三酸化タングステン微粒子の結晶構造の制御性が向上する。上記したような分散液を用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0054】
レーザや電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザや電子線は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末を用いると供給が困難になるが、ペレット状にした金属タングステンやタングステン化合物を用いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではないが、CO
2レーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0055】
レーザや電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレットの少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの全面を有効に昇華することができる。これによって、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン粉末が得られやくなる。上記したようなペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用可能である。
【0056】
この実施形態の水系分散液に用いられる酸化タングステン微粒子は、上述したような昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸化タングステン微粒子に熱処理工程を実施することも有効である。熱処理工程は、昇華工程で得られた三酸化タングステン微粒子を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱処理するものである。昇華工程の条件制御等で三酸化タングステン微粒子を十分に形成することができない場合でも、熱処理を施すことで酸化タングステン微粒子中の三酸化タングステン微粒子の割合を99%以上、実質的には100%にすることができる。さらに、熱処理工程で三酸化タングステン微粒子の結晶構造を所定の構造に調整することができる。
【0057】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる。酸素含有ガスとは酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は200〜1000℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは400〜700℃である。熱処理時間は10分〜5時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜2時間である。熱処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、三酸化タングステン以外の酸化タングステンから三酸化タングステンを形成しやすい。また、欠陥が少ない結晶性の良い粉末を得るためには、熱処理時の昇温や降温を緩やかに実施することが好ましい。熱処理時の急激な加熱や急冷は結晶性の低下を招くことになる。
【0058】
熱処理温度が200℃未満の場合には、昇華工程で三酸化タングステンにならなかった粉末を三酸化タングステンにするための酸化効果を十分に得ることができないおそれがある。熱処理温度が1000℃を超えると酸化タングステン微粒子が急激に粒成長するため、得られる酸化タングステン微粉末の比表面積が低下しやすい。さらに、上記したような温度と時間で熱処理工程を行うことによって、三酸化タングステン微粉末の結晶構造や結晶性を調整することが可能となる。
【0059】
この実施形態の水系分散液は、そのままの状態で膜形成材料として用いることができる。水系分散液はバインダ成分等と混合して塗料を作製し、この塗料を膜形成材料として用いてもよい。塗料は水系分散液と共に無機バインダおよび有機バインダから選ばれる少なくとも1種のバインダ成分を含有する。バインダ成分の含有量は5〜95質量%の範囲とすることが好ましい。バインダ成分の含有量が95質量%を超えると、所望の光触媒性能を得ることができないおそれがある。バインダ成分の含有量が5質量%未満の場合には十分な結合力が得られず、膜特性が低下するおそれがある。このような塗料を塗布することによって、膜の強度、硬さ、基材への密着力等を所望の状態に調整することができる。
【0060】
無機バインダとしては、例えばアルキルシリケート、ハロゲン化ケイ素、およびこれらの部分加水分解物等の加水分解性ケイ素化合物を分解して得られる生成物、有機ポリシロキサン化合物とその重縮合物、シリカ、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ素化合物、リン酸亜鉛等のリン酸塩、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、重リン酸塩、セメント、石膏、石灰、ほうろう用フリット等が用いられる。有機バインダとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等が用いられる。
【0061】
上述したような水系分散液や塗料を基材に塗布することによって、可視光応答型の光触媒複合微粒子を含有する膜を安定かつ均一に形成することができる。このような光触媒膜を形成する基材としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維金属、木材等が用いられる。膜厚は2〜1000nmの範囲であることが好ましい。膜厚が2nm未満であると、酸化タングステン微粒子や酸化ジルコニウム微粒子を均一に存在させた状態が得られないおそれがある。膜厚が1000nmを超えると基材に対する密着力が低下する。膜厚は2〜400nmの範囲であることがより好ましい。
【0062】
この実施形態の光触媒膜は、可視光の照射下で光触媒性能を発揮する。一般に、可視光とは波長が380〜830nmの領域の光であり、白色蛍光灯、太陽光、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の一般照明や、青色発光ダイオード、青色レーザ等を光源として照射される光である。この実施形態の光触媒膜は、通常の屋内環境下で光触媒性能を発揮するものである。光触媒性能とは、光を吸収して光子一個に対し一対の電子と正孔が励起され、励起された電子と正孔が表面にある水酸基や酸を酸化還元により活性化し、その活性化で発生した活性酸素種によって、有機ガス等を酸化分解する作用であり、さらに親水性や抗菌・除菌性能等を発揮する作用である。
【0063】
この実施形態の製品は、上述した水系分散液や塗料を用いて形成した光触媒膜を具備するものである。具体的には、製品を構成する基材の表面に水系分散液や塗料を塗布して光触媒膜を形成したものである。基材表面に形成する膜は、ゼオライト、活性炭、多孔質セラミックス等を含有していてもよい。上述した光触媒膜やそれを具備する製品は、可視光の照射下におけるアセトアルデヒドやホルムアルデヒド等の有機ガスの分解性能に優れ、特に低照度においても高活性を示すという特徴を有する。この実施形態の膜は水の接触角測定で親水性を示す。さらに、黄色ブドウ球菌や大腸菌に対する可視光の照射下での抗菌性評価において、高い抗菌作用を発揮するものである。
【0064】
実施形態の光触媒膜を具備する製品の具体例としては、エアコン、空気清浄機、扇風機、冷蔵庫、電子レンジ、食器洗浄乾燥機、炊飯器、ポット、鍋蓋、IHヒータ、洗濯機、掃除機、照明器具(ランプ、器具本体、シェード等)、衛生用品、便器、洗面台、鏡、浴室(壁、天井、床等)、建材(室内壁、天井材、床、外壁等)、インテリア用品(カーテン、絨毯、テーブル、椅子、ソファ、棚、ベッド、寝具等)、ガラス、サッシ、手すり、ドア、ノブ、衣服、家電製品等に使用されるフィルタ、文房具、台所用品、自動車の室内空間で用いられる部材等が挙げられる。実施形態の光触媒膜を具備することで、製品に可視光応答型光触媒性能を付与することができる。
【0065】
基材に繊維を用いる場合、繊維材料としてはポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿、羊毛、絹等の天然繊維、それらの混繊、交織、混紡品等が挙げられる。繊維材料はバラ毛状であってもよい。繊維は織物、編物、不織布等のいかなる形態を有していてもよく、通常の染色加工やプリントが施されているものであってもよい。水系分散液を繊維材料に適用する場合、光触媒複合微粒子を樹脂バインダと併用し、これを繊維材料に固定する方法が便利である。
【0066】
樹脂バインダとしては、水溶解型、水分散型、溶剤可溶型の樹脂を使用することができる。具体的には、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂等が用いられるが、これらに限定されるものではない。水系分散液を用いて光触媒複合微粒子を繊維材料に固定する場合、例えば水系分散液を水分散性や水溶解性の樹脂バインダと混合して樹脂液を作製し、この樹脂液に繊維材料を含浸した後、マングルロールで絞って乾燥させる。樹脂液を増粘することによって、繊維材料の片面にナイフコーター等の公知の装置でコートすることができる。グラビヤロールを用いて繊維材料の片面もしくは両面に可視光応答型光触媒複合微粒子を付着させることも可能である。
【0067】
水系分散液を用いて光触媒複合微粒子を繊維表面に付着させる場合において、付着量が少なすぎると酸化タングステンが有するガス分解性能や抗菌性能といった光触媒性能を十分に発揮させることができない。付着量が多すぎる場合には、酸化タングステンが有する性能は発揮されるものの、繊維材料としての風合いが低下する場合がある。このため、材質や用途に応じて適正な付着量を選択することが好ましい。水系分散液に含有される光触媒複合微粒子を表面に付着させた繊維を用いた衣類やインテリア用品は、室内環境における可視光の照射下で優れた消臭効果や抗菌効果を発揮する。
【実施例】
【0068】
次に、実施例とその評価結果について述べる。なお、以下の実施例では昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
まず、原料粉末として平均粒径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとしてアルゴンを40L/min、酸素を40L/minの流量で流した。このようにして、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て、酸化タングステン粉末を作製した。酸化タングステン粉末は大気中にて900℃×1.5hの条件で熱処理した。酸化タングステン粉末はその濃度が10質量%となるように水中に分散させた。このようにして、酸化タングステン微粒子を含む第1の分散液を調製した。
【0070】
得られた酸化タングステン粉末の平均一次粒径(D50粒径)とBET比表面積を測定した。平均一次粒径はTEM写真の画像解析により測定した。TEM観察には透過電子顕微鏡・H−7100FA(商品名、日立社製)を使用して、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求めてD50粒径を算出した。BET比表面積の測定は、比表面積測定装置・Macsorb1201(商品名、マウンテック社製)を用いて行った。前処理は窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。平均一次粒径(D50粒径)は25nm、BET比表面積は35m
2/gであった。
【0071】
次に、棒状の一次粒子を有する酸化ジルコニウム粉末を用意した。酸化ジルコニウム粉末の粒度分布におけるD50粒径(一次粒子の平均長径)は20nmである。酸化タングステン粉末の平均一次粒径に対する酸化ジルコニウム粉末の一次粒子の平均長径(平均一次粒径)の比は0.8である。酸化ジルコニウム粉末をその濃度が20質量%となるように水中に分散させて第2の分散液を調製した。
【0072】
第1の分散液と第2の分散液とを、酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合が100%となるように混合した。タングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合は188%である。第1の分散液と第2の分散液との混合分散液のpHが5.5〜6.5の範囲となるように、水、硫酸およびTMAHを用いて調整した。分散処理はビーズミルを用いて実施した。このようにして、目的とする水系分散液を作製した。水系分散液における粒子濃度(酸化タングステン微粒子と酸化ジルコニウム微粒子との混合物の濃度)は12質量%であり、pH値は5であった。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で作製した酸化タングステン粉末を用いて、実施例1と同様にして第1の分散液を作製した。酸化タングステン粉末の平均一次粒径(D50粒径)を実施例1と同様にして測定したところ、平均一次粒径は25nmであった。酸化タングステン粉末をその濃度が10質量%となるように水中に分散させた後、塩化ルテニウム水溶液を酸化タングステンに対してルテニウムの割合が0.02質量%となるように混合した。この混合液にアンモニアを滴下しながらpHを6に調整した。
【0074】
次に、棒状の一次粒子を有する酸化ジルコニウム粉末を用意した。酸化ジルコニウム粉末の粒度分布におけるD50粒径(一次粒子の平均長径)は20nmである。酸化タングステン粉末の平均一次粒径に対する酸化ジルコニウム粉末の一次粒子の平均長径(平均一次粒径)の比は0.8である。酸化ジルコニウム粉末をその濃度が20質量%となるように水中に分散させて第2の分散液を調製した。
【0075】
酸化タングステン微粒子と塩化ルテニウムとを含む第1の分散液に、酸化ジルコニウム微粒子を含む第2の分散液を滴下してpHが5.5〜6.5の範囲となるように調整した。水系分散液において、酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合は50%、タングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合は94%である。このようにして、目的とする水系分散液を作製した。水系分散液における粒子濃度は12質量%であり、pH値は6であった。
【0076】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で作製した酸化タングステン粉末を用いて、実施例1と同様にして第1の分散液を作製した。酸化タングステン粉末の平均一次粒径(D50粒径)を実施例1と同様にして測定したところ、平均一次粒径は25nmであった。酸化タングステン粉末をその濃度が10質量%となるように水中に分散させた後、Pt粒子を酸化タングステンに対して白金の割合が2質量%となるように混合した。
【0077】
次に、棒状の一次粒子を有する酸化ジルコニウム粉末を用意した。酸化ジルコニウム粉末の粒度分布におけるD50粒径(一次粒子の平均長径)は20nmである。酸化タングステン粉末の平均一次粒径に対する酸化ジルコニウム粉末の一次粒子の平均長径(平均一次粒径)の比は0.8である。酸化ジルコニウム粉末をその濃度が20質量%となるように水中に分散させて第2の分散液を調製した。
【0078】
酸化タングステン微粒子とPt微粒子とを含む第1の分散液と酸化ジルコニウム微粒子を含む第2の分散液とを、酸化タングステンに対する酸化ジルコニウムの質量割合が10%となるように混合した。タングステンの原子数に対するジルコニウムの原子数の割合は18.8%である。第1の分散液と第2の分散液との混合分散液のpHが5.5〜6.5の範囲となるように、水、硫酸およびTMAHを用いて調整した。分散処理はビーズミルを用いて実施した。このようにして、目的とする水系分散液を作製した。水系分散液における粒子濃度は12質量%であり、pH値は7であった。
【0079】
(比較例1)
比較例1の水系分散液として、実施例1で酸化タングステン粉末のみを分散させた水系分散液を用意した。
【0080】
上述した実施例1〜3および比較例1の水系分散液を用いて、ガラス表面に光触媒膜を形成した。この光触媒膜の可視光の照射下における光触媒性能を評価した。光触媒性能はアセトアルデヒドガスの分解率を測定することにより評価した。具体的には、JIS−R−1701−1(2004)の窒素酸化物の除去性能(分解能力)評価と同様の流通式の装置を用いて、以下に示す条件でガス分解率を測定した。
【0081】
アセトアルデヒドガスの分解試験は以下のようにして実施した。アセトアルデヒドの初期濃度は10ppm、ガス流量は140mL/min、試料量は0.2gとする。試料の調整は5×10cmのガラス板に塗布して乾燥させる。前処理はブラックライトで12時間照射する。光源に白色蛍光灯(東芝ライテック社製FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフィルタ(日東樹脂工業社製クラレックスN−169)を用い、380nm未満の波長をカットする。照度は250lxに調整する。初めに光を照射せずに、ガス吸着がなくなり安定するまで待つ。安定した後に光照射を開始する。このような条件下で光を照射し、15分後のガス濃度を測定してガス分解率を求める。ただし、15分経過後もガス濃度が安定しない場合には、安定するまで継続して濃度を測定する。
【0082】
光照射前のガス濃度をA、光照射から15分以上経過し、かつ安定したときのガス濃度をBとし、これらガス濃度Aとガス濃度Bから[式:(A−B)/A×100]に基づいて算出した値をガス分解率(%)とする。ガス分析装置としては、INOVA社製マルチガスモニタ1412を使用した。測定結果を表3に示す。また、光照射の経過時間に伴うガス分割率の変化を
図1に示す。なお、水系分散液の作製に用いた原料粉末の特性を表1に、また水系分散液の特性を表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
実施例1〜3の水系分散液を用いて形成した光触媒膜は、アセトアルデヒドの分解速度が速く、またガス分割率も高いことが確認された。これは、酸化ジルコニウムがガスを吸着することで、ガスの低濃度環境下においても酸化タングステンの光触媒性能が十分に発揮されたためである。さらに、ガスを分解する際に生成する中間物質の分解性能も向上するため、光触媒性能がより一層向上していることが分かる。
【0087】
また、実施例1〜3および比較例1の水系分散液を、アクリル樹脂系の樹脂液に混合し、この混合液(塗料)に目付150g/m
2のポリエステルからなる平織物を含浸させ、光触媒複合微粒子を付着したポリエステル繊維を作製した。それぞれの繊維から5×10cmの試料を切り取り、それぞれ前述と同様の方法で可視光の照射下における光触媒性能を評価した。その結果、実施例1〜3の光触媒複合微粒子を付着させたポリエステル繊維は、比較例1で作製した水系分散液を用いた塗料に含浸させた繊維よりも、アセトアルデヒドガスの分解率が高いことが確認された。さらに、同様に作製したサンプルを10個準備し、性能のばらつきを評価したところ、実施例1〜3の分散液は優れた分散性を有するため、繊維への光触媒複合微粒子の付着量が安定していることが確認された。さらに、ポリエステル繊維は均一な風合いを保っていることが確認された。
【0088】
実施例の水系分散液を用いた光触媒膜によれば、可視光の照射下でアセトアルデヒド等の有機ガスの分解性能を安定して発揮させることができる。このため、自動車の室内空間で使用される部材、工場、商店、学校、公共施設、病院、福祉施設、宿泊施設、住宅等で使用される建材、内装材、家電等に好適に用いられる。さらに、光触媒膜のガス分解速度はガス濃度が低くなっても低下することがなく、高いガス分解性能が維持される。従って、優れた防臭、脱臭効果を得ることができる。このような光触媒膜やそれを用いた製品は、光触媒複合微粒子が有する特性を活かして各種用途に適用することができる。
【0089】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。