(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記球面軸受は、前記リテーナリングに連結された、部分球殻形状を有する中間輪と、前記中間輪を上から摺動自在に支持する外輪と、前記中間輪を下から摺動自在に支持する内輪とを備え、
前記外輪、前記中間輪、および前記内輪の摺接面は、球面の上半分よりも小さい部分球面形状を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
したがって、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化がますます重要になっている。この表面の平坦化において最も重要な技術は、化学機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学機械研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO
2)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッドの研磨面上に供給しつつウェハを研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
この種の研磨装置は、研磨パッドを支持する研磨テーブルと、ウェハを保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いてウェハの研磨を行う場合には、基板保持装置によりウェハを保持しつつ、このウェハを研磨パッドの研磨面に対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることによりウェハが研磨面に摺接し、ウェハの表面が平坦かつ鏡面に研磨される。
【0005】
研磨中のウェハと研磨パッドの研磨面との間の相対的な押圧力がウェハの全面に亘って均一でない場合には、ウェハの各部分に与えられる押圧力に応じて研磨不足や過研磨が生じてしまう。そこで、ウェハに対する押圧力を均一化するために、基板保持装置の下部に弾性膜から形成される圧力室を設け、この圧力室に空気などの流体を供給することで弾性膜を介して流体圧によりウェハを押圧することが行われている。
【0006】
この場合、上記研磨パッドは弾性を有するため、研磨中のウェハの外周縁部に加わる押圧力が不均一になり、ウェハの外周縁部のみが多く研磨される、いわゆる「縁だれ」を起こしてしまう場合がある。このような縁だれを防止するため、ウェハの外周縁を保持するリテーナリングをトップリング本体(又はキャリアヘッド本体)に対して上下動可能に設け、ウェハの外周縁側に位置する研磨パッドの研磨面をリテーナリングで押圧するようにしている。
【0007】
研磨中、ウェハと研磨パッドとの間には摩擦力が発生する。この摩擦力はリテーナリングに横方向(水平方向)の力として作用する。特許文献1に開示される基板保持装置では、この横方向の力をリテーナリングの外周側に配置したリテーナリングガイドで支持するように構成されている。しかしながら、リテーナリングガイドがリテーナリングを支持する点は研磨面から離間しているために、ウェハから横方向の力を受けたリテーナリングがこの支持点を中心に傾くことになる。このため、リテーナリングが所望の押圧力を研磨面に均一に与えることができないという問題点がある。また、ウェハから受ける横方向の力により、リテーナリングが局所的に変形してしまうことがある。このように変形した部位は、リテーナリングが所望の押圧力を研磨面に与えることを妨げてしまう。
【0008】
また、特許文献1に記載の基板保持装置では、リテーナリングの外側面とリテーナリングガイドの内側面とが摺接するために、この摺接部で摩耗粉が発生する。この摩耗粉が研磨面へ落下するとウェハの欠陥の原因となるため、摩耗粉の研磨面への落下を防ぐための弾性シートが設置されている。しかしながら、リテーナリングの支点(すなわちリテーナリングとリテーナリングガイドとの接触点)を下げてリテーナリングの傾きを抑制しようとすると、この弾性シートを設置することが出来なくなり、摩耗粉が研磨面に落下してしまう。
【0009】
特許文献2に開示される基板保持装置では、特許文献1に見られるリテーナリングガイドをリテーナリングの外周側には設置せず、ウェハからリテーナリングへ加わる横方向の力はウェハ中心部の上方に設けられた球面軸受で支持するように構成されている。したがって、リテーナリングの外周側では摩耗粉は発生せず、摩耗粉が研磨面へ落下することはない。
【0010】
しかしながら、この球面軸受は研磨面から離間した位置にあるために、ウェハから横方向の力を受けたリテーナリングがこの球面軸受を中心に傾き、その結果、リテーナリングが所望の押圧力を均一に研磨面に与えることができないという問題点がある。また、ウェハから受ける横方向の力によりリテーナリングが局所的に変形してしまい、リテーナリングが所望の押圧力を研磨面に与えることができないという問題点がある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る基板保持装置を備えた研磨装置の全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、研磨装置は、研磨パッド2を支持する研磨テーブル3と、研磨対象物であるウェハWを保持して研磨パッド2に押圧する基板保持装置としてのトップリング1とを備えている。
【0022】
研磨テーブル3は、テーブル軸3aを介してその下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸3aを中心に回転可能になっている。研磨パッド2は、研磨テーブル3の上面に貼付されており、研磨パッド2の上面2aがウェハWを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル3の上方には研磨液供給機構5が設置されており、この研磨液供給機構5によって研磨パッド2上に研磨液が供給されるようになっている。
【0023】
トップリング1は、トップリングシャフト7に接続されており、このトップリングシャフト7は、トップリングヘッド8内に設置された上下動機構(図示せず)により上下動するようになっている。このトップリングシャフト7の上下動により、トップリングヘッド8に対してトップリング1の全体を矢印で示すように昇降させ、位置決めするようになっている。さらに、トップリングシャフト7は、トップリングヘッド8内に設置された回転機構(図示せず)により回転するようになっている。したがって、トップリング1は、トップリングシャフト7の回転に伴って、矢印で示すように自身の軸心を中心に回転する。上述したトップリング1の上下動機構および回転機構には、公知の技術を用いることができる。
【0024】
トップリング1および研磨テーブル3は矢印で示すように回転し、この状態でトップリング1は、ウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに押し付ける。研磨液供給機構5からは研磨液が研磨パッド2上に供給され、ウェハWは、研磨パッド2とウェハWとの間に研磨液が存在した状態で研磨パッド2との摺接により研磨される。
【0025】
次に、基板保持装置を構成するトップリング1について説明する。
図2乃至
図4は、研磨対象物であるウェハWを保持して研磨テーブル3上の研磨パッド2の研磨面2aに押圧するトップリング1を示す図であり、複数の半径方向に沿って切断した断面図である。
図5はトップリング1の平面図であり、
図6は
図2に示すVI−VI線断面図であり、
図7は
図4に示すVII−VII線断面図である。
【0026】
トップリング1は、ウェハWを研磨面2aに対して押圧するトップリング本体10と、ウェハWを囲むように配置されたインナーリテーナリング20と、このインナーリテーナリング20を囲むように配置されたアウターリテーナリング30とを備えている。トップリング本体10、インナーリテーナリング20、およびアウターリテーナリング30は、トップリングシャフト7の回転により一体に回転するように構成されている。インナーリテーナリング20はトップリング本体10の半径方向外側に位置し、アウターリテーナリング30はインナーリテーナリング20の半径方向外側に位置している。インナーリテーナリング20は、トップリング本体10およびアウターリテーナリング30とは独立して上下動可能に構成されている。さらに、アウターリテーナリング30は、トップリング本体10およびインナーリテーナリング20とは独立して上下動可能に構成されている。
【0027】
トップリング本体10は、円形のフランジ41と、フランジ41の下面に取り付けられたスペーサ42と、スペーサ42の下面に取り付けられたキャリア43とを備えている。フランジ41は、図示しないボルトによりトップリングシャフト7に連結されている。
図4に示すように、スペーサ42は、ボルト15によりフランジ41に固定されており、キャリア43はメンテナンスボルト16によりスペーサ42に固定されている。
図4はメンテナンスボルト16がキャリア43から外れている状態を示している。フランジ41、スペーサ42、およびキャリア43から構成されるトップリング本体10は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。なお、フランジ41をSUS、アルミニウムなどの金属で形成してもよい。
【0028】
キャリア43の下面には、ウェハWの裏面に当接する弾性膜45が取り付けられている。この弾性膜45は、環状のエッジホルダ50と、環状のリプルホルダ51,52とによってキャリア43の下面に取り付けられている。エッジホルダ50はキャリア43の外周部に配置されており、リプルホルダ51,52はエッジホルダ50の内側に配置されている。弾性膜45は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0029】
図8は、
図2に示すインナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の拡大断面図である。
図8に示すように、インナーリテーナリング20は、トップリング本体10の外周部に配置されている。このインナーリテーナリング20は、研磨パッド2の研磨面2a(
図1参照)に接触するインナーリング部材21と、このインナーリング部材21の上部に固定されたインナードライブリング22とを有している。インナーリング部材21は、複数のボルト24によってインナードライブリング22に結合されている。インナーリング部材21は、ウェハWの外周縁を囲むように配置されており、ウェハWの研磨中にウェハWがトップリング1から飛び出さないようにウェハWを保持している。
【0030】
インナーリテーナリング20の上部は、インナー押圧機構60に連結されており、このインナー押圧機構60によりインナーリテーナリング20の下面(すなわち、インナーリング部材21の下面)が研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧されるようになっている。インナードライブリング22は、SUSなどの金属材料またはセラミックから構成され、インナーリング部材21は、PEEKやPPS等の樹脂材料から構成されている。
【0031】
インナー押圧機構60は、インナードライブリング22の上部に固定されたインナーピストン61と、インナーピストン61の上面に接続されたインナーローリングダイヤフラム62と、インナーローリングダイヤフラム62を収容するインナーシリンダ63とを備えている。インナーローリングダイヤフラム62の上端は保持部材64により保持され、この保持部材64はボルト65によりインナーシリンダ63の上部に固定されている。
【0032】
インナーリテーナリング20は、インナー押圧機構60に着脱可能に連結されている。より具体的には、インナーピストン61は金属などの磁性材から形成されており、インナードライブリング22の上部には複数の磁石68が配置されている。これら磁石68がインナーピストン61を引き付けることにより、インナーリテーナリング20がインナーピストン61に磁力により固定される。インナーピストン61の磁性材としては、例えば、耐蝕性の磁性ステンレスが使用される。なお、インナードライブリング22を磁性材で形成し、インナーピストン61に磁石を配置してもよい。
【0033】
インナーローリングダイヤフラム62の内部にはインナー圧力室69が形成されている。このインナー圧力室69は、流路70(模式的に示す)を介して図示しない流体供給源に接続されている。この流体供給源からインナー圧力室69に加圧流体(例えば、加圧空気)を供給すると、インナーローリングダイヤフラム62がインナーピストン61を下方に押し下げ、さらに、インナーピストン61はインナーリテーナリング20を下方に押し下げる。このようにして、インナー押圧機構60は、インナーリテーナリング20の下面(すなわち、インナーリング部材21の下面)を研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧する。インナー圧力室69は、さらに真空ポンプ(図示せず)にも接続されており、この真空ポンプによりインナー圧力室69内に負圧を形成することにより、インナーリテーナリング20を上昇させることができる。また、インナー圧力室69は大気開放機構(図示せず)にも接続されており、インナー圧力室69を大気開放することも可能である。
【0034】
アウターリテーナリング30は、インナーリテーナリング20を囲むように配置されている。このアウターリテーナリング30は、研磨パッド2の研磨面2aに接触するアウターリング部材31と、このアウターリング部材31の上部に固定されたアウタードライブリング32とを有している。アウターリング部材31は、複数のボルト34(
図3参照)によってアウタードライブリング32に結合されている。アウターリング部材31は、インナーリテーナリング20のインナーリング部材21を囲むように配置されている。インナーリング部材21とアウターリング部材31との間には隙間が形成されており、インナーリング部材21とアウターリング部材31とは常に非接触に保たれる。
【0035】
アウターリテーナリング30の上部は、アウター押圧機構80に連結されており、このアウター押圧機構80によりアウターリテーナリング30の下面(すなわち、アウターリング部材31の下面)が研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧されるようになっている。アウタードライブリング32は、SUSなどの金属材料またはセラミックから構成され、アウターリング部材31は、PEEKやPPS等の樹脂材料から構成されている。
【0036】
アウター押圧機構80は、アウタードライブリング32の上部に固定されたアウターピストン81と、アウターピストン81の上面に接続されたアウターローリングダイヤフラム82と、アウターローリングダイヤフラム82を収容するアウターシリンダ83とを備えている。アウターローリングダイヤフラム82の上端は保持部材84により保持され、この保持部材84はボルト85によりアウターシリンダ83の上部に固定されている。本実施形態では、インナーシリンダ63とアウターシリンダ83は一体に形成されている。
【0037】
アウターリテーナリング30は、アウター押圧機構80に着脱可能に連結されている。より具体的には、アウターピストン81は金属などの磁性材から形成されており、アウタードライブリング32の上部には複数の磁石88が配置されている。これら磁石88がアウターピストン81を引き付けることにより、アウターリテーナリング30がアウターピストン81に磁力により固定される。なお、アウタードライブリング32を磁性材で形成し、アウターピストン81に磁石を配置してもよい。
【0038】
アウターローリングダイヤフラム82の内部にはアウター圧力室89が形成されている。このアウター圧力室89は、流路90(模式的に示す)を介して上記流体供給源に接続されている。この流体供給源からアウター圧力室89に加圧流体(例えば、加圧空気)を供給すると、アウターローリングダイヤフラム82がアウターピストン81を下方に押し下げ、さらに、アウターピストン81はアウターリテーナリング30を下方に押し下げる。このようにして、アウター押圧機構80は、アウターリテーナリング30の下面(すなわち、アウターリング部材31の下面)を研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧する。アウター圧力室89は、さらに真空ポンプにも接続されており、この真空ポンプによりアウター圧力室89内に負圧を形成することにより、アウターリテーナリング30を上昇させることができる。また、アウター圧力室89は大気開放機構(図示せず)にも接続されており、アウター圧力室89を大気開放することも可能である。
【0039】
ウェハの研磨中は、弾性膜45がウェハWを研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧すると同時に、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30が研磨パッド2の研磨面2aを直接押圧する。インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30は、トップリング本体10に対して独立に上下動可能に構成され、それぞれインナー押圧機構60およびアウター押圧機構80に連結されている。したがって、インナー押圧機構60およびアウター押圧機構80は、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30をそれぞれ独立に研磨パッド2の研磨面2aに対して押圧することができる。
【0040】
図2に示すように、インナーリテーナリング20は、連結部材100を介して球面軸受111に連結されている。この球面軸受111は、インナーリテーナリング20の半径方向内側に配置されている。連結部材100は、トップリング本体10の中心部に配置された縦方向に延びる軸部101と、この軸部101から放射状に延びる複数のスポーク102とを備えている。スポーク102の一方の端部は、複数のボルト103により軸部101に固定されており、スポーク102の他方の端部は、インナーリテーナリング20のインナードライブリング22に固定されている。この実施形態では、スポーク102とインナードライブリング22とは一体に形成されている。
【0041】
連結部材100の軸部101は、トップリング本体10の中央部に配置された球面軸受111に縦方向に移動自在に支持されている。このような構成により、連結部材100および連結部材100に固定されたインナーリテーナリング20は、トップリング本体10に対して縦方向に移動可能となっている。軸部101には縦方向に延びる貫通孔104が形成されている。この貫通孔104は軸部101が球面軸受111に対して縦方向に移動する際の空気抜き穴として作用し、これによりインナーリテーナリング20はトップリング本体10に対して縦方向にスムーズに移動可能となっている。
【0042】
図9は、球面軸受111の拡大断面図である。
図9に示すように、球面軸受111は、連結部材100を介してインナーリテーナリング20に連結された中間輪114と、中間輪114を上から摺動自在に支持する外輪113と、中間輪114を下から摺動自在に支持する内輪115とを備えている。中間輪114は、球殻の上半分よりも小さい部分球殻形状を有し、外輪113と内輪115との間に挟まれている。
【0043】
キャリア43の中央部には凹部43aが形成されており、外輪113は凹部43a内に配置されている。外輪113は、その外周部につば113aを有しており、このつば113aを凹部43aの段部にボルト(図示せず)により固定することにより、外輪113がキャリア43に固定されるとともに、中間輪114および内輪115に圧力を掛けることが可能となっている。内輪115は凹部43aの底面上に配置されており、中間輪114の下面と凹部43aの底面との間に隙間が形成されるように、中間輪114を下から支えている。
【0044】
外輪113の内面113b、中間輪114の外面114aおよび内面114b、および内輪115の外面115aは、支点Oを中心とした略半球面から構成されている。中間輪114の外面114aは、外輪113の内面113bに摺動自在に接触し、中間輪114の内面114bは、内輪115の外面115aに摺動自在に接触している。外輪113の内面113b(摺接面)、中間輪114の外面114aおよび内面114b(摺接面)、および内輪115の外面115a(摺接面)は、球面の上半分よりも小さい部分球面形状を有している。このような構成により、中間輪114は、外輪113および内輪115に対して全方向(360°)に傾動可能であり、かつ傾動中心である支点Oは球面軸受111よりも下方に位置する。
【0045】
外輪113、中間輪114、および内輪115には、軸部101が挿入される貫通孔113c,114c,115bがそれぞれ形成されている。外輪113の貫通孔113cと軸部101との間には隙間が形成されており、同様に、内輪115の貫通孔115bと軸部101との間には隙間が形成されている。中間輪114の貫通孔114cは、外輪113および内輪115の貫通孔113c,115bよりも小さな直径を有しており、軸部101は中間輪114に対して縦方向にのみ移動可能となっている。したがって、軸部101に連結されたインナーリテーナリング20は、横方向に移動することは実質的に許容されず、インナーリテーナリング20の横方向(水平方向)の位置は球面軸受111によって固定される。
【0046】
図10(a)は、軸部101が球面軸受111に対して上下動している様子を示し、
図10(b)および
図10(c)は、軸部101が中間輪114と共に傾動している様子を示している。
図10(a)乃至
図10(c)に示すように、軸部101に連結されたインナーリテーナリング20は、中間輪114と一体に支点Oを中心として傾動可能であり、かつ中間輪114に対して上下に移動可能となっている。
【0047】
球面軸受111は、インナーリテーナリング20の上下移動および傾動を許容する一方で、インナーリテーナリング20の横方向の移動(水平方向の移動)を制限し、インナーリテーナリング20からアウターリテーナリング30への上記横方向の力の伝達を許容しない。したがって、球面軸受111は、ウェハの研磨中に、ウェハと研磨パッド2との摩擦に起因してインナーリテーナリング20がウェハから受ける横方向の力(ウェハの半径方向外側に向かう力)を受けつつ、インナーリテーナリング20の横方向の移動を制限する(すなわちインナーリテーナリング20の水平方向の位置を固定する)支持機構として機能する。
【0048】
インナーリテーナリング20は、支点Oを中心として傾動可能で、かつ支点Oを通る軸線上で上下動可能に球面軸受111により支持されている。この支点Oは、ウェハの研磨中の研磨パッド2の研磨面2a(すなわち、研磨パッド2とウェハとの接触面)にできるだけ近い位置にあることが好ましい。
図9に示す実施形態では、支点Oはウェハの研磨中の研磨面2aよりもやや上方に位置している。ウェハ研磨中の支点Oの位置は、研磨面2aの上方−15mm〜15mmであることが好ましく、−5mm〜5mmであることがより好ましい。ここで、−15mmとは、支点Oが研磨面2aの下方15mmの位置にある場合を示す。支点Oは、ウェハ研磨中の研磨パッド2の研磨面2a上にあること、すなわち、支点Oと研磨面2aとの距離が0であることが最も好ましい。これは、支点Oが研磨面2a上にあるとき、ウェハと研磨面2aとの摩擦力がインナーリテーナリング20を傾ける力のモーメントとして実質的に作用しないからである。
【0049】
上述した球面軸受111を採用することにより、インナーリテーナリング20を傾ける力のモーメントが0または非常に小さくなる。したがって、インナーリテーナリング20の傾きを小さく抑えることが可能となり、インナーリテーナリング20は研磨面2aに所望の押圧力を均一に与えることができる。
【0050】
上述のように構成されたインナーリテーナリング20およびインナーリテーナリング20を支持する球面軸受111によれば、ウェハの研磨中、インナーリテーナリング20は球面軸受111によって滑らかに傾動する。ウェハの研磨中は、ウェハと研磨パッド2との間の摩擦により、ウェハからインナーリテーナリング20に横方向(水平方向)の力がかかる。この横方向の力はウェハの中心部の上方に位置する球面軸受111で受けることができ、かつインナーリテーナリング20の横方向の動きは球面軸受111によって制限される。したがって、インナーリテーナリング20からアウターリテーナリング30には横方向の力は作用しなく、アウターリテーナリング30の研磨面に対する傾きが小さくなる。また、インナーリテーナリング20とは異なり、アウターリテーナリング30はウェハから力を受けないので、アウターリテーナリング30の局所的な変形を防止することができる。したがって、アウターリテーナリング30は研磨面2aに対して均一に所望の押圧力を与えることができる。
【0051】
アウターリテーナリング30自体が研磨面2aと摺接することによって生じる摩擦力は、アウターリテーナリング30と研磨面2aとの接触面積が小さいために、ウェハと研磨面2aとの間に生じる摩擦力に比べて相当小さい。このアウターリテーナリング30に作用する摩擦力は、アウターリテーナリング30とインナーリテーナリング20との間に設置されたストッパ119を介してインナーリテーナリング20に伝えられ、最終的にはインナーリテーナリング20の支持機構である球面軸受111で支持される。ストッパ119はリング形状を有しており、インナードライブリング22の外周面に取り付けられている。ストッパ119をアウタードライブリング32の内周面に取り付けてもよい。ストッパ119は摺動性に優れる樹脂材料から構成されることが好ましい。ストッパ119の摺接面の縦断面形状は直線でも良いし、曲線でも良い。
【0052】
球面軸受111の外輪113、中間輪114、内輪115、および連結部材100の軸部101のうち少なくとも1つには、SiCやジルコニアなどのセラミックを用いることが好ましい。この場合、摺接面のみをセラミックから形成してもよい。例えば、外輪113の摺接面をセラミックで形成し、その他の部分を金属で形成してもよい。セラミックを用いることにより、摺接面の耐摩耗性を高めるとともに、摺接面の表面粗さを小さくして摺接面の摩擦を低減させることができる。外輪113、中間輪114、内輪115、および軸部101の摺接面の摩擦を低減するために、自己潤滑性が高く摩擦係数が低く、耐摩耗性の優れたテフロン(登録商標)等を含有した被膜を摺接面に設けてもよい。さらに、外輪113、中間輪114、内輪115、および軸部101のうち少なくとも1つの摺接面に、PTFE(四フッ化エチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、またはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂材料からなる低摩擦材料を設けてもよい。あるいは、炭素繊維などの繊維および固体潤滑材を添加した樹脂材料を用いて摺接面を構成しても良い。
【0053】
外輪113、中間輪114、内輪115、および軸部101には、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れた金属材料を使用することも可能である。しかしながら、ウェハに形成された金属膜を研磨する際には、研磨中の金属膜厚さを測定するために渦電流センサを使用する場合がある。この様な場合には、ウェハ近傍の球面軸受111に導電性材料である金属を使用すると渦電流センサの測定精度が低下してしまうことがある。このため、球面軸受111および軸部101には非導電性材料を使用することが好ましい。
【0054】
インナーリテーナリング20は、トップリング本体10およびアウターリテーナリング30に対して独立に傾動できる構造になっている。インナーリテーナリング20を傾動可能および上下動可能に支持する球面軸受111は、トップリング本体10の内部に設けられ、かつキャリア43の凹部43aに収容されているため、球面軸受111の摺接面からの摩耗粉は、トップリング本体10内に封じ込められ、研磨面2aへ落下することがない。
【0055】
図8に示すように、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との間には、環状の弾性膜からなるバリアシール120が設けられている。バリアシール120は、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との隙間を塞ぐように、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30の全周に亘って配置されている。より具体的には、バリアシール120の内側縁部はインナードライブリング22の下端に接続され、バリアシール120の外側縁部はアウタードライブリング32の下端に接続されている。バリアシール120は、上方に屈曲した逆U字型の断面を有しており、変形しやすい材料から形成されている。例えば、バリアシール120は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴムなどの強度および耐久性に優れたゴム材によって形成することができる。
【0056】
バリアシール120は、インナーリング部材21およびアウターリング部材31の上方であって、ストッパ119の下方に配置されている。インナーリング部材21とアウターリング部材31とは常に非接触に保たれており、バリアシール120の下方ではインナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30とが接触することはない。したがって、バリアシール120の下方では摩耗粉が発生しない。バリアシール120は、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との相対移動を許容しつつ、トップリング本体10の内部で発生した異物が研磨面2aに落下することを防止するとともに、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との隙間からトップリング本体10への研磨液(スラリー)の浸入を防ぐことができる。
【0057】
トップリング1の外周部には、トップリング本体10とアウターリテーナリング30とを接続するシールシート123が設けられている。シールシート123は環状の弾性膜であり、トップリング本体10とアウターリテーナリング30との隙間を塞ぐように、トップリング本体10とアウターリテーナリング30の全周に亘って配置されている。より具体的には、シールシート123の上端はトップリング本体10の外周面の下端に接続され、シールシート123の下端はアウターリテーナリング30の外周面に接続されている。シールシート123は、上下方向に変形しやすいようにベローズ形状を有している。バリアシール120と同様に、シールシート123は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴムなどの強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0058】
シールシート123は、トップリング本体10に対するアウターリテーナリング30の上下動を許容しつつ、トップリング本体10の内部で発生した異物が研磨面2aに落下することを防止するとともに、トップリング本体10とアウターリテーナリング30との隙間からトップリング本体10への研磨液(スラリー)の浸入を防ぐことができる。
【0059】
通常、ウェハの研磨後には、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30は、超純水または薬液などの洗浄液で洗浄される。そこで、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との隙間に洗浄液を効率よく導入するために、インナーリテーナリング20の外周面および/またはアウターリテーナリング30の内周面に、複数の縦溝を形成することが好ましい。
【0060】
図11(a)は、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30を下から見た図であり、
図11(b)は
図11(a)に示すXI−XI線断面図である。インナーリング部材21の内周面には複数の縦溝20aが形成され、インナーリング部材21の外周面には複数の縦溝20bが形成されている。さらに、インナーリング部材21の下面には、半径方向に延びるラジアル溝20cが形成されている。縦溝20a,20bは、インナーリテーナリング20の下面(すなわち、インナーリング部材21の下面)から上方に延び、ラジアル溝20cよりも高く上方に延びている。縦溝20a,20bおよびラジアル溝20cは、インナーリテーナリング20の周方向において等間隔に設けられている。ラジアル溝20cは、インナーリテーナリング20をその半径方向に貫通しているが、縦溝20a,20bは、インナーリテーナリング20を貫通していない。縦溝20a,20bは、インナーリテーナリング20の周方向においてラジアル溝20cと同じ位置に配置されており、縦溝20a,20bはラジアル溝20cに連通している。縦溝20a,20bはラジアル溝20cと同じ幅を有しているが、ラジアル溝20cの幅よりも狭くても広くてもよい。
【0061】
同様に、アウターリング部材31の内周面には複数の縦溝30aが形成されており、アウターリング部材31の下面には、半径方向に延びるラジアル溝30bが形成されている。縦溝30aは、アウターリテーナリング30の下面(すなわち、アウターリング部材31の下面)から上方に延び、ラジアル溝30bよりも高く上方に延びている。縦溝30aおよびラジアル溝30bは、アウターリテーナリング30の周方向において等間隔に設けられている。ラジアル溝30bは、アウターリテーナリング30をその半径方向に貫通しているが、縦溝30aは、アウターリテーナリング30を貫通していない。縦溝30aは、アウターリテーナリング30の周方向においてラジアル溝30bと同じ位置に配置されており、縦溝30aはラジアル溝30bに連通している。縦溝30aはラジアル溝30bと同じ幅を有しているが、ラジアル溝30aの幅よりも狭くても広くてもよい。縦溝20a,20bおよび縦溝30aは、バリアシール120よりも下方に位置している。
【0062】
インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の下面に供給された洗浄液は、縦溝20bおよび縦溝30aを通ってインナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との隙間に導入され、この隙間に存在する研磨液を洗い流す。さらに、洗浄液は、縦溝20aを通ってインナーリテーナリング20と弾性膜45との隙間に導入され、この隙間に存在する研磨液を洗い流す。したがって、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30はそのスムーズな動きを保つことができる。
【0063】
ウェハの研磨中は、研磨パッド2の研磨面2a上に研磨液が供給される。したがって、ウェハは、ウェハと研磨パッド2との間に研磨液が存在した状態で、研磨パッド2の研磨面2aとの摺接により研磨される。研磨液がウェハと研磨パッド2との間に流入することを促進するため、または研磨作用を終えた研磨液がウェハと研磨パッド2との間から流出することを促進するために、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30の下面にそれぞれ複数のラジアル溝20c,30bが設けられている。ラジアル溝20c,30bの断面形状や本数は、そのラジアル溝を設ける目的に従って適宜選択される。
【0064】
図12(a)乃至
図12(c)は、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30の下面にそれぞれ設けられたラジアル溝20c,30bの例を示す図である。この例では、ラジアル溝20c,30bは、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の半径方向に延びている。
図12(a)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数と同じ例を示し、
図12(b)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数よりも少ない例を示し、
図12(c)は、ラジアル溝20cの本数がラジアル溝30bの本数よりも少ない例を示している。研磨液の流入および流出を効果的に行うためには、ラジアル溝20c,30bの周方向の位置が一致していることが好ましい。
【0065】
図13(a)乃至
図13(c)は、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30の下面にそれぞれ設けられたラジアル溝20c,30bの他の例を示す図である。
図13(a)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数と同じ例を示し、
図13(b)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数よりも少ない例を示し、
図13(c)は、ラジアル溝20cの本数がラジアル溝30bの本数よりも少ない例を示している。この例では、ラジアル溝20c,30bは、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の半径方向に対して傾斜している。より具体的には、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30が回転するに従って研磨液がアウターリテーナリング30およびインナーリテーナリング20の外側から内側に流入するように、ラジアル溝20c,30bは、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の回転方向(矢印で示す)に対して前方に傾斜している。
【0066】
図14(a)乃至
図14(c)は、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30の下面に設けられたそれぞれラジアル溝20c,30bのさらに他の例を示す図である。
図14(a)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数と同じ例を示し、
図14(b)は、ラジアル溝30bの本数がラジアル溝20cの本数よりも少ない例を示し、
図14(c)は、ラジアル溝20cの本数がラジアル溝30bの本数よりも少ない例を示している。この例においても、ラジアル溝20c,30bは、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の半径方向に対して傾斜しているが、傾斜の方向が
図13(a)乃至図13(c)に示す例と反対となっている。すなわち、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30が回転するに従って研磨液がアウターリテーナリング30およびインナーリテーナリング20の内側から外側に流出するように、ラジアル溝20c,30bは、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30の回転方向(矢印で示す)に対して後方に傾斜している。
【0067】
インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30とでラジアル溝20c,30bの断面形状、幅、本数が異なっていてもよく、または同じであってもよい。ラジアル溝20c,30bの深さは、インナーリテーナリング20、アウターリテーナリング30が減耗した際でも研磨液流入出に寄与できるような深さが選択される。
【0068】
図12乃至
図14では、ラジアル溝30bを有するアウターリテーナリング30の例を示したが、研磨液の流入や流出を抑制したい場合には、ラジアル溝を有しないアウターリテーナリング30を使用することが好ましい。アウターリテーナリング30にラジアル溝を設けない場合には、
図15に示すように、アウターリテーナリング30の内周面から外周面に延びる複数の貫通孔35を設けることが好ましい。これら貫通孔35は、アウターリテーナリング30をその半径方向に貫通しており、アウターリテーナ30の全周に亘って形成されている。これらの貫通孔30によりインナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30のスムーズな上下動が可能となる。貫通孔35は、バリアシール120およびシールシート123の下方に配置することが好ましい。これは、バリアシール120やシールシート123で囲われた領域へ研磨液が侵入してしまうことを避けるため、および囲われた領域から異物が研磨面2aへ落下してしまうことを防止するためである。
【0069】
アウターリテーナリング30は、ウェハの研磨中に研磨パッド2の研磨面2aを均一に押圧することができる。このようなアウターリテーナリング30を設けることの効果としては、ウェハのエッジ部の研磨プロファイルの制御性の改善が挙げられる。ここで、ウェハのエッジ部とは、ウェハの最外周端に位置する幅約3mmの領域である。ウェハの研磨中に、インナーリテーナリング20の外側で研磨パッド2をアウターリテーナリング30で押圧することにより、ウェハのエッジ部の研磨プロファイルを制御することができる。このようなアウターリテーナリング30による研磨パッドリバウンドの効果を制御するために、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との間隔を変更してもよい。インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30との間隔(より具体的には、インナーリテーナリング20の下面とアウターリテーナリング30の下面との間隔)は、好ましくは0.1mm〜3mmである。
【0070】
図3に示すように、インナーリテーナリング20には複数の補強ピン(補強部材)125が埋設されている。これら補強ピン125は、インナーリテーナリング20の周方向に等間隔で配置されている。各補強ピン125は縦に延びており、ボルト126によりインナードライブリング22に固定されている。補強ピン125の下端は、インナーリング部材21の下端近傍に位置しており、補強ピン125の上端は、インナードライブリング22内に位置している。補強ピン125の材料としては、ステンレス鋼などの金属材料またはセラミックが挙げられる。インナーリテーナリング20に埋設された補強ピン125は、インナーリテーナリング20の剛性を向上させることができる。したがって、ウェハの研磨中にウェハから横方向の力を受けたときのインナーリテーナリング20の変形を小さくすることができ、その結果、インナーリテーナリング20は、研磨パッド2をより均一に押圧することができる。
【0071】
補強ピン125をインナードライブリング22にボルト126により取り外し可能に固定することの利点は以下のようなものがある。インナーリテーナリング20の剛性を向上させるためには、補強ピン125の外径と、補強ピン125が嵌合するインナーリング部材21の穴の径との差は出来る限り小さくすることが望ましい。さらに複数の補強ピン125とインナーリング部材21の穴との位置合わせが非常に重要となる。補強ピン125とインナーリング部材21の穴との位置がわずかにずれた状態でインナーリング部材21を取り付けた場合には、インナーリング部材21にひずみが生じ、研磨パッド2の均一な押圧を妨げることとなる。したがってインナーリング部材21をインナードライブリング22に取り付ける際には以下の手順で行う。初めに補強ピン125を固定するボルト126は仮留めの状態とし、補強ピン125が水平方向にわずかに動ける状態としておく。次にインナーリング部材21の穴に補強ピン125を嵌め込む。こうすることにより補強ピン125とインナーリング部材21の穴とのアライメントのずれが吸収できる。その後、ボルト126を締め込んで補強ピン125を固定し、最後に、
図2に示すように、ボルト24によりインナーリング部材21をインナードライブリング22に固定する。
【0072】
以下、トップリング1の詳細な構成についてさらに説明する。
図3に示すように、エッジホルダ50はリプルホルダ51により保持されている。リプルホルダ51は複数のストッパ54によりキャリア43の下部に取り付けられている。
図4および
図6に示すように、リプルホルダ52は、複数のストッパ55によりキャリア43の下部に取り付けられている。ストッパ54およびストッパ55はトップリング1の円周方向に等間隔に設けられている。
【0073】
図3に示すように、弾性膜45の中央部にはセンター室130が形成されている。リプルホルダ52には、センター室130に連通する流路140が形成されており、キャリア43には、この流路140に連通する流路141が形成されている。この流路141は、図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体(例えば、加圧空気)が流路141および流路140を通ってセンター室130に供給されるようになっている。
【0074】
リプルホルダ51は、弾性膜45のリプル45bを爪部51aでキャリア43の下部に押さえつけるようになっており、リプルホルダ52は、弾性膜45のリプル45aを爪部52aでキャリア43の下部に押さえつけるようになっている。弾性膜45のエッジ45cは爪部51bでエッジホルダ50に押さえつけられている。
【0075】
図2に示すように、弾性膜45のリプル45aとリプル45bとの間には環状のリプル室131が形成されている。弾性膜45のリプルホルダ51とリプルホルダ52との間には隙間45fが形成されており、キャリア43には隙間45fおよびリプル室131に連通する流路142が形成されている。この流路142は図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体が流路142を通ってリプル室131に供給されるようになっている。また、この流路142は、図示しない真空ポンプにも切替可能に接続されている。真空ポンプの作動により弾性膜45の下面にウェハを吸着できるようになっている。
【0076】
リプルホルダ51には、弾性膜45のリプル45bおよびエッジ45cによって形成される環状のアウター室132に連通する流路(図示せず)が形成されている。このリプルホルダ51の流路は、図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がアウター室132に供給されるようになっている。
【0077】
図4および
図8に示すように、エッジホルダ50は、弾性膜45のエッジ45dを押さえてキャリア43の下部に保持するようになっている。このエッジホルダ50には、弾性膜45のエッジ45cおよびエッジ45dによって形成される環状のエッジ室133に連通する流路143が形成されている。このエッジホルダ50の流路143は、図示しない流体供給源に接続されており、加圧された流体がエッジ室133に供給されるようになっている。
【0078】
このように、本実施形態におけるトップリング1においては、弾性膜45とトップリング本体10のキャリア43との間に形成される圧力室、すなわち、センター室130、リプル室131、アウター室132、およびエッジ室133に供給する流体の圧力を調整することにより、ウェハを研磨パッド2に押圧する押圧力をウェハの部分ごとに調整できるようになっている。
【0079】
インナー押圧機構60に使用されるローリングダイヤフラム62(
図8参照)は、屈曲した部分をもつ弾性膜からなるもので、ローリングダイヤフラム62で仕切る室69の内部圧力の変化等により、その屈曲部が転動することにより室69の空間を広げることができる。室69が広がる際にローリングダイヤフラム62がインナーシリンダ63と摺動せず、ほとんど伸縮しないため、摺動摩擦が極めて少ない。したがって、ローリングダイヤフラム62を長寿命化することができ、インナーリテーナリング20が研磨パッド2に与える押圧力を精度よく調整することができるという利点がある。また、インナーリテーナリング20のインナーリング部材21が摩耗しても、インナーリテーナリング20の押圧力を一定に維持することが可能である。アウター押圧機構80に使用されるローリングダイヤフラム82も、インナー押圧機構60のローリングダイヤフラム62と同様の構成を有しており、同様の利点がある。
【0080】
図6に示すように、インナードライブリング22と球面軸受111とを連結する連結部材100は、放射状に延びる8本のスポーク102を有している。これらスポーク102は、キャリア43の上面に形成された放射状に延びる8本の凹溝43g内にそれぞれ収容されている。キャリア43には、複数対のインナーリング駆動カラー150,150が設けられており、各対のインナーリング駆動カラー150,150は各スポーク102の両側に配置されている。
図6に示す例では、4対のインナーリング駆動カラー150,150が設けられており、8本のスポーク102のうちの4本に4対のインナーリング駆動カラー150,150がそれぞれ配置されている。
【0081】
トップリング本体10は、トップリングシャフト7に接続されており、トップリング本体10はトップリングシャフト7によって回転させられる。トップリング本体10の回転は、キャリア43から複数対のインナーリング駆動カラー150,150を介してスポーク102に伝達され、トップリング本体10とインナーリテーナリング20は一体となって回転する。インナーリング駆動カラー150は、PTFE、PEEK、PPSなどの低摩擦材料から構成されている。インナーリング駆動カラー150が接触するスポーク102の両側面には鏡面処理が施されており、スポーク102の両側面の面粗度を向上させている。なお、インナーリング駆動カラー150に鏡面処理を施し、スポーク102の両側面にコーティング等により低摩擦材料を設けることもできる。
【0082】
このような構成により、インナーリング駆動カラー150とスポーク102との摺動性を向上させることができる。したがって、インナーリテーナリング20は滑らかに傾動することができ、所望の押圧力を研磨面2aに均一に与えることができる。また、トップリング本体10からインナーリテーナリング20に回転を伝達する回転駆動部(インナーリング駆動カラー150およびスポーク102)をトップリング本体10内に設けたため、回転駆動部で発生する摩耗粉をトップリング本体10内に封じ込めることができる。したがって、摩耗粉が研磨面2aへ落下することがなく、摩耗粉に起因するスクラッチ等のウェハの欠陥を飛躍的に減少させることができる。
【0083】
図7に示すように、インナーリテーナリング20の外周面には複数の凹部20dが形成されており、この複数の凹部20dにはアウターリテーナリング30に設けられたアウターリング駆動ピン152が配置されている。アウターリング駆動ピン152の外周面には、円筒形のアウターリング駆動カラー153が取り付けられている。
図7では、アウターリング駆動カラー153の水平断面が示されている。このアウターリング駆動カラー153は、PTFE、PEEK、PPSなどの低摩擦材料から形成されている。各凹部20dは、鉛直方向に延びる両側面を有しており、インナーリテーナリング20が回転するとアウターリング駆動カラー153が凹部20dの一方の側面に接触するようになっている。インナーリテーナリング20の回転は、アウターリング駆動ピン152を介してアウターリテーナリング30に伝達され、インナーリテーナリング20とアウターリテーナリング30とは一体となって回転する。凹部20dの両側面には鏡面処理が施されており、低摩擦材料のアウターリング駆動カラー153が接触する凹部20dの面粗度を向上させている。
【0084】
このような構成により、アウターリング駆動カラー153と凹部20dとの摺動性を向上させることができる。したがって、インナーリテーナリング20は滑らかに傾動することができるとともに、所望の押圧力を研磨面2aに均一に与えることができる。さらに、アウターリテーナリング30は、インナーリテーナリング20の傾動の影響を受けることなく、所望の押圧力を研磨面2aに均一に与えることができる。なお、本実施例ではインナーリテーナリング20に凹部20dを、アウターリテーナリング30にアウターリング駆動ピン152を配置したが、逆にインナーリテーナリング20にアウターリング駆動ピンを、アウターリテーナリング30に凹部を設けることも可能である。アウターリング駆動ピン152とアウターリング駆動カラー153との間にゴムクッションが設けられても良い。
【0085】
図4および
図7に示すように、インナーリテーナリング20には、半径方向内方に突出する複数のストッパピン155が固定されている。これらストッパピン155は、トップリング本体10のキャリア43に形成された縦方向に延びる複数の凹部43hにそれぞれ緩やかに係合している。これら凹部43hはキャリア43の外周面に等間隔で形成されている。ストッパピン155は、凹部43hの上端と下端との間で縦方向に移動可能となっている。言い換えれば、インナーリテーナリング20のトップリング本体10に対する上下移動は、ストッパピン155および凹部43hによって制限される。すなわち、ストッパピン155が凹部43hの上端に接触したときには、インナーリテーナリング20はトップリング本体10に対して最上方の位置となり、ストッパピン155がキャリア43の凹部43hの下端に接触したときには、インナーリテーナリング20はトップリング本体10に対して最下方の位置になる。このような構成により、インナーリテーナリング20がトップリング本体10から落下してしまうことが防止される。
【0086】
図4に示すように、アウターリング駆動カラー153は、インナーリテーナリング20に形成された凹部20dの上端と下端との間で縦方向に移動可能となっている。言い換えれば、アウターリテーナリング30のインナーリテーナリング20に対する上下移動は、アウターリング駆動カラー153および凹部20dによって制限される。すなわち、アウターリング駆動カラー153が凹部20dの上端に接触したときには、アウターリテーナリング30はインナーリテーナリング20に対して最上方の位置となり、アウターリング駆動カラー153が凹部20dの下端に接触したときには、アウターリテーナリング30はインナーリテーナリング20に対して最下方の位置になる。このような構成により、アウターリテーナリング30がインナーリテーナリング20、すなわちトップリング本体10から落下してしまうことを防止している。
【0087】
インナーピストン61とインナーリテーナリング20とは、上述したように、磁力により固定されている。このような構成により、インナーリテーナリング20が研磨中に振動を受けた場合においてもインナーピストン61とインナーリテーナリング20とが離れることなく、振動による突発的なインナーリテーナリング20の上昇を防止することができる。したがって、インナーリテーナリング20の押圧力を安定させることができ、ウェハがトップリング1から外れてしまう(スリップアウトする)可能性を低減することができる。さらに、頻繁なメンテナンスを必要とするインナーリテーナリング20を、メンテナンスの必要が少ないインナーピストン61から簡単に切り離すことができる。アウターピストン81とアウターリテーナリング30も同様に磁力により固定されているので、同様の利点が得られる。
【0088】
図4に示すようにメンテナンスボルト16を取り外すと、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30とともに、弾性膜45を保持したキャリア43がスペーサ42から分離される。このように、インナーリテーナリング20、アウターリテーナリング30、およびキャリア43をトップリング1から分離することができるので、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30のメンテナンスや弾性膜45のメンテナンスを容易に行うことができる。
図6に示すように、インナードライブリング22の上面およびアウタードライブリング32の上面には、それぞれ切り欠き22a,32aが設けられている。アウターリテーナリング30のメンテナンスの際には、切り欠き32aに例えば薄い板状の部材を外周側から挿入することにより、アウターリテーナリング30とアウターピストン81との磁力を低減させ、これらを容易に分離することができる。インナーリテーナリング20とインナーピストン61も、切り欠き22aに板状の部材を挿入することにより同様に分離することができる。
【0089】
図8に示すように、弾性膜45のエッジ(外周縁)45dには、弾性膜45とインナーリテーナリング20とを接続する、上方に屈曲した形状のシール部材158が形成されている。このシール部材158はトップリング本体10とインナードライブリング22との隙間を塞ぐように配置されており、変形しやすい材料から形成されている。シール部材158は、トップリング本体10とインナーリテーナリング20との相対移動を許容しつつ、トップリング1内から研磨面2aへ異物が落下することを防ぎ、さらにトップリング本体10とインナーリテーナリング20との隙間からトップリング1内へ研磨液が浸入してしまうことを防止することができる。本実施形態では、シール部材158は弾性膜45のエッジ45dに一体的に形成されており、逆U字型の断面形状を有している。
【0090】
シールシート123、シール部材158、およびバリアシール120を設けない場合は、研磨液がトップリング1内に浸入してしまい、トップリング1を構成するトップリング本体10、インナーリテーナリング20、およびアウターリテーナリング30の正常な動作を阻害してしまう。本実施形態によれば、シールシート123、シール部材158、およびバリアシール120によって研磨液のトップリング1への浸入を防止することができ、これにより、トップリング1を正常に動作させることができる。なお、弾性膜45、シールシート123、シール部材158、およびバリアシール120は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0091】
本実施形態のトップリング1においては、弾性膜45のセンター室130、リプル室131、アウター室132、およびエッジ室133に供給する圧力によりウェハに対する押圧力を制御するので、研磨中にはキャリア43は研磨パッド2から上方に離れた位置にする必要がある。インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30は、トップリング本体10とは独立して上下動することができるので、インナーリテーナリング20およびアウターリテーナリング30が摩耗しても、研磨中のウェハとトップリング本体10との間の距離を一定に維持することができる。したがって、ウェハの研磨プロファイルを安定化させることができる。
【0092】
なお、上述した例では、ウェハの略全面に弾性膜45が配置されているが、これに限られるものではなく、弾性膜45はウェハの少なくとも一部に当接するものであればよい。また、上述した例では、弾性膜45にセンター室130、リプル室131、アウター室132、およびエッジ室133の4つの室が配置されているが、これに限られるものではなく、弾性膜45に4つよりも少ない室を配置しても良いし、4つよりも多い室を配置しても良い。特に4つより多い室を配置することによりウェハの半径方向のより狭い範囲の研磨プロファイルを制御することも可能となる。
【0093】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。