(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記原料ガス供給部による原料ガスの供給、前記原料ガスの供給後に行う前記反応ガス供給部による反応ガスの供給、及び前記プラズマ源による前記反応ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、前記サイクルを繰り返すように、前記原料ガス供給部、前記反応ガス供給部、及び前記プラズマ源の動作を制御し、
前記サイクルを繰り返すとき、少なくとも2つのサイクル間では、前記プラズマ源による前記プラズマの生成継続時間が互いに異なる、請求項1に記載の成膜装置。
前記高周波電源は、前記サイクルを繰り返すとき、最初の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間が、最後の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間に比べて短くなるように、前記プラズマ源を制御する、請求項2に記載の成膜装置。
前記高周波電源は、前記サイクルを繰り返すとき、サイクルの回数が増えるに伴って、前記プラズマの生成継続時間が増大するように前記プラズマ源を制御する、請求項3に記載の成膜装置。
前記原料ガスの供給、前記原料ガスの供給後に行う前記反応ガスの供給、及び前記プラズマ源による前記反応ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、前記サイクルを繰り返し、
前記サイクルを繰り返すとき、少なくとも2つのサイクル間では、前記プラズマ源による前記プラズマの生成継続時間が互いに異なる、請求項5に記載の成膜方法。
前記サイクルを繰り返すとき、最初の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間が、最後の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間に比べて短い、請求項6に記載の成膜方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのALD成膜方法のうち、プラズマを用いた方法では、反応ガスを活性化させるので、形成される膜は緻密に形成される。しかし、プラズマを用いるので、基板の表面がプラズマ中のイオンの衝撃を受けて、基板表面や膜がダメージを受ける場合がある。一方、プラズマを使わず、オゾンや水等の活性度の高いガスを用いた場合、上記プラズマを用いたときの基板表面や膜のダメージは解消されるが、プラズマを用いた場合に比べて緻密な膜を形成することは難しい。
【0006】
そこで、本発明は、プラズマALDを用いて基板に膜を形成するとき、基板表面あるいは膜のダメージが少ない膜であって、緻密な膜から緻密でない膜まで自在に膜を形成することができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、原料ガスと反応ガスを用いて原子層単位で膜を形成する成膜装置である。当該成膜装置は、
基板が配置された成膜空間を有する成膜容器と、
原料ガスを前記成膜空間に供給して前記基板に原料ガスの成分を吸着させる原料ガス供給部と、
前記成膜空間に反応ガスを供給する反応ガス供給部と、
前記基板に吸着した原料ガスの成分の一部と前記反応ガスとを反応させることにより、前記基板に膜が形成されるように、前記成膜空間に供給された反応ガスを用いてプラズマを生成する電極を備えたプラズマ源と、
前記プラズマ源の前記電極に給電する高周波電源と、
前記プラズマ源によるプラズマの生成を制御する制御部と、を有する。
前記プラズマにより作られる前記膜は、上層と、前記上層より前記基板に近く前記基板に接触する下層と、を有し、前記下層の屈折率が前記上層の屈折率に比べて低い層構造であり、
前記プラズマの生成継続時間が、1m秒〜20m秒の範囲内であって、形成しようとする膜の屈折率の高低の程度に応じて設定された時間であり、かつ、前記プラズマ源へ投入する電力の電力密度が0.05W/cm
2〜10W/cm
2の範囲内になるように、前記高周波電源は前記プラズマ源へ給電し、
前記プラズマの生成継続時間に応じた前記プラズマ源への投入電力の終了点を定めるために、前記制御部は、前記プラズマ源に投入された電力の反射電力が、前記電力の投入後、前記投入された電力の85〜95%の範囲で定まる値を横切る時点を前記プラズマの発生の開始時点として判定する。
【0008】
前記制御部は、前記原料ガス供給部による原料ガスの供給、前記原料ガスの供給後に行う前記反応ガス供給部による反応ガスの供給、及び前記プラズマ源による前記反応ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、前記サイクルを繰り返すように、前記原料ガス供給部、前記反応ガス供給部、及び前記プラズマ源の動作を制御し、
前記サイクルを繰り返すとき、少なくとも2つのサイクル間では、前記プラズマ源による前記プラズマの生成継続時間が互いに異なる、ことが好ましい。
【0009】
前記高周波電源は、前記サイクルを繰り返すとき、最初の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間が、最後の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間に比べて短くなるように、前記プラズマ源を制御する、ことが好ましい。
【0010】
前記高周波電源は、前記サイクルを繰り返すとき、サイクルの回数が増えるに伴って、前記プラズマの生成継続時間が増大するように前記プラズマ源を制御する、ことが好ましい。
【0011】
本発明の他の一態様は、原料ガスと反応ガスを用いて原子層単位で膜を形成する成膜方法である。当該成膜方法は、
基板が配置された成膜空間に、原料ガスを供給して前記基板に原料ガスの成分を吸着させるステップと、
前記成膜空間に反応ガスを供給するステップと、
前記成膜空間において、前記成膜空間に供給された前記反応ガスを用いてプラズマ源の給電を受けた電極でプラズマを生成して、前記基板に吸着した原料ガスの成分の一部と前記反応ガスとを反応させることにより、前記基板に膜を形成するステップと、を有する。
前記プラズマにより作られる前記膜は、上層と、前記上層より前記基板に近く前記基板に接触する下層と、を有し、前記下層の屈折率が前記上層の屈折率に比べて低い層構造であり、
前記プラズマの生成継続時間は、1m秒〜20m秒の範囲内であって、形成しようとする膜の屈折率、絶縁耐圧、及び誘電率の少なくとも1つの特性の高低の程度に応じて設定された時間であり、前記プラズマ源へ投入する電力の電力密度が0.05W/cm
2〜10W/cm
2の範囲内であり、
前記プラズマの生成継続時間に応じた前記プラズマ源への投入電力の終了点を定めるために、前記プラズマの生成のために前記プラズマ源に投入された電力の反射電力が、前記電力の投入後、前記投入された電力の85〜95%の範囲で定まる値を横切る時点を前記プラズマの発生の開始時点として判定する。
【0012】
前記原料ガスの供給、前記原料ガスの供給後に行う前記反応ガスの供給、及び前記プラズマ源による前記反応ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、前記サイクルを繰り返し、
前記サイクルを繰り返すとき、少なくとも2つのサイクル間では、前記プラズマ源による前記プラズマの生成継続時間が互いに異なる、ことが好ましい。
【0013】
前記サイクルを繰り返すとき、最初の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間が、最後の1サイクルにおける前記プラズマの生成継続時間に比べて短い、ことが好ましい。
【0014】
前記サイクルを繰り返すとき、サイクルの回数が増えるに伴って、前記プラズマの生成継続時間が増大する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上述の成膜装置及び成膜方法によれば、基板表面あるいは膜のダメージが少ない膜であって、緻密な膜から緻密でない膜まで自在に膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の成膜方法及び成膜装置について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の成膜装置の一例であるALD装置10の構成を表す概略図である。同図に示すALD装置10は、ALD法を適用して、形成しようとする膜を構成する原料ガス、例えば金属を成分として含む有機金属の原料ガスと、反応ガスを成膜空間中の基板上に交互に供給する。
原料ガスが成膜空間に供給されると、原料ガスが基板に吸着されて、原料ガスの成分の層が原子層単位で一様に形成される。反応ガスを成膜空間に供給する時、ALD装置10は、反応活性を高めるために反応ガスを用いてプラズマ源の電極でプラズマを生成して反応ガスの成分のラジカルをつくる。このラジカルを基板上の原料ガスの成分と反応させて原子層単位で膜を形成する。ALD装置10は、上記処理を1回のサイクルとして、上記サイクルを繰り返すことにより予め定められた厚さの膜を形成する。このとき、各サイクルにおけるプラズマの生成継続時間は、形成しようとする膜の特性に関して予め設定した情報(設定情報)に応じて設定された時間であって、0.5m秒〜100m秒の範囲内の時間である。さらに、プラズマ源へ投入する電力の電力密度は、0.05W/cm
2〜10W/cm
2の範囲内である。ここで、プラズマ源へ投入する電力の電力密度とは、投入される電力を、プラズマの形成領域の面積で割った値である。プラズマの形成領域の面積とは、プラズマの形成領域を、基板に平行な面で切断したときの断面積である。プラズマ源が平行平板電極14である場合、電力密度は、投入電力を上部電極14aの対向する板の面積で除した値に略等しい。これにより、基板表面あるいは膜のダメージが少ない膜であって、緻密な膜から緻密でない膜まで自在に膜を形成することができる。特に緻密な膜を形成しようとする場合、プラズマの生成継続時間を上記範囲内で長く設定し、緻密でない膜を形成しようとする場合、プラズマの生成継続時間を上記範囲内で短く設定する。
【0018】
以下の説明では、原料ガスとして有機金属を含むTMA(Trimethyl Aluminium)を用い、反応ガスとして酸素ガスを用いて、基板に酸化アルミニウムの膜を形成する場合を例にして説明する。
【0019】
また、本実施形態のALD装置10は、平行平板電極をプラズマ源として用いる容量結合型プラズマ生成装置であるが、この他に、複数のアンテナ電極を用いた電磁結合型プラズマ生成装置、電子サイクロトロン共鳴を利用したECR型プラズマ生成装置、あるいは誘導結合型プラズマ生成装置を用いることもできる。
【0020】
(ALD装置)
ALD装置10は、成膜容器12と、平行平板電極14と、ガス供給ユニット16と、コントローラ(制御部)18と、高周波電源20と、マッチングボックス22と、排気ユニット24と、を有する。
【0021】
成膜容器12は、排気ユニット24の行う排気により成膜容器12内の成膜空間に形成される減圧雰囲気を一定に維持する。
成膜空間には、平行平板電極14が設けられている。平行平板電極14は、電極板である上部電極14a及び下部電極14bを有し、成膜空間内に設けられプラズマを生成する。平行平板電極14の上部電極14aは、成膜空間内に設けられるサセプタ30の基板載置面に対して対向するように設けられている。基板載置面には基板が設けられる。すなわち、基板は、成膜空間内に設けられる。上部電極14aは、成膜容器12の上方から延びる給電線により、マッチングボックス22を介して高周波電源20と接続されている。マッチングボックス22は、平行平板電極14のプラズマ生成時のインピーダンスに整合するように、マッチングボックス22内のインダクタのインダクタンス及びキャパシタのキャパシタンスを調整する。上部電極14aは、高周波電源20から100m秒以下の短時間の間、13.56〜27.12MHzの高周波電力がパルス状に給電される。
下部電極14bの表面は、サセプタ30の基板載置面となっており、アースされている。サセプタ30は、その内部にヒータ32を有し、ヒータ32により、成膜中の基板は、例えば50℃以上400℃以下に加熱保持される。
【0022】
サセプタ30は、サセプタ30の下部に設けられた昇降軸30aが昇降機構30bを通して図中の上下方向に昇降自在に移動するように構成されている。サセプタ30の基板載置面は、成膜処理時、成膜容器12に設けられた突出壁12aの上面と面一になるように上方位置に移動する。成膜処理前あるいは成膜処理後、サセプタ30は下方位置に移動し、成膜容器12に設けられた図示されないシャッターが開放されて、基板が成膜容器12の外部から搬入され、あるいは成膜容器12の外部に搬出される。
【0023】
ガス供給ユニット16は、有機金属を含む原料ガス、この原料ガスに化学反応しない第1ガス、及び有機金属の金属成分を酸化させる第2ガス、のそれぞれを成膜空間に導入する。
具体的に、ガス供給ユニット16は、TMA源16aと、N
2源16bと、O
2源16cと、バルブ17a,17b,17cと、TMA源16aと成膜容器12内の成膜空間とをバルブ17aを通して接続する管18aと、N
2源16bと成膜容器12内の成膜空間とをバルブ17bを通して接続する管18bと、O
2源16cと成膜容器12内の成膜空間とをバルブ17cを通して接続する管18cと、を有する。TMA源16a、バルブ17a、及び管18aにより、原料ガス供給部が構成される。また、O
2源16c、バルブ17c、及び管18cにより、反応ガス供給部が構成される。
バルブ17a,17b,17cはそれぞれ、コントローラ18による制御により作動して、所定のタイミングでTMAの原料ガス、N
2ガス、及びO
2ガスを成膜空間に導入する。
【0024】
排気ユニット24は、成膜容器12の左壁から成膜空間内に導入された原料ガス、窒素ガスおよび酸素ガスを、排気管28を通して成膜空間から水平方向に排気する。排気管28の途中にはコンダクタンス可変バルブ26が設けられ、コントローラ18の指示によってコンダクタンス可変バルブ26の調整が実行される。
【0025】
コントローラ18は、原料ガス、窒素ガス及び酸素ガスのそれぞれの供給のタイミングと平行平板電極14に給電する電力の給電のタイミングとを制御する。さらに、コントローラ18は、バルブ26の開閉を制御する。
具体的には、コントローラ18は、酸素ガスの成膜空間への供給に合わせて、平行平板電極14が酸素ガスを用いたプラズマを生成するように平行平板電極14の上部電極14aへの給電の開始を制御する。
【0026】
基板に膜を形成するとき、まず、コントローラ18は、基板が基板載置面に載せられている成膜空間にTMAのガスを導入するようにバルブ17aの流量の制御を行う。この流量の制御により、TMAのガスは例えば0.1秒間、成膜空間に供給される。TMAのガスの成膜空間への供給時、排気ユニット24は、成膜空間内の気体を常時排気する。すなわち、TMAのガスは成膜空間に供給されつつ、TMAのガスの一部が成膜空間内の基板に吸着され、それ以外の不要なTMAのガスは成膜空間から排気される。
【0027】
次に、コントローラ18がバルブ17aを用いたTMAの成膜空間への供給を停止すると、その後、コントローラ18は、バルブ17cを用いた酸素ガスの供給の制御を行い、酸素ガスの成膜空間への供給を開始する。酸素ガスの成膜空間への供給は例えば1秒行われる。この間の一定期間、コントローラ18は高周波電源20がマッチングボックス22を通して電力を上部電極14aに供給するように給電の開始を制御する。プラズマが生成する継続時間は例えば0.01秒となるように給電時間は高周波電源20により調整される。すなわち、高周波電源20には、形成しようとする膜の特性に関する情報が予めオペレータ等から入力設定されており、この設定情報に応じて設定された、0.5m秒〜100m秒の範囲内の時間をプラズマの生成継続時間とする。この設定されたプラズマ生成継続時間に、実際にプラズマを生成し続ける時間が略一致するように、コントローラ18は、プラズマの発生の開始時点を判定する。高周波電源20は、判定されたプラズマの発生の開始時点から設定されたプラズマの生成継続時間を加えた時点をプラズマの生成の終了時点とし、この終了時点で高周波電源20は電力の投入を停止するように、高周波電源20は時間をカウントする。
【0028】
上部電極14aへの電力の投入により、平行平板電極14は、成膜空間において、酸素ガスを用いたプラズマを発生させる。酸素ガスの成膜空間への供給時、排気ユニット24は、成膜空間内の気体を常時排気する。すなわち、酸素ガスは成膜空間に供給されながら、酸素ガスの一部がプラズマにより活性化し、この活性により生成された酸素ラジカルが、成膜空間内の基板に吸着されたTMAの成分の一部分と反応し、それ以外の不要な酸素ガス及びプラズマから生成された酸素ラジカル及び酸素イオンが成膜空間から排気される。
【0029】
この後、上部電極14aへの給電が停止し、バルブ17cによる酸素ガスの成膜空間への供給が停止すると、再度、コントローラ18は、TMAのガスを成膜空間に供給するようにバルブ17aの流量の制御を行う。こうして、TMAのガスの成膜空間への供給と、酸素ガスの成膜空間への供給と、酸素ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、このサイクルを繰り返すことにより、基板に所定の厚さを有する酸化アルミニウムの膜を形成することができる。
なお、窒素ガス源16bから供給される窒素ガスは、TMAのガスの供給、酸素ガスの供給、及びプラズマの発生のそれぞれの期間中、常時成膜空間に供給されてもよいし、部分的に供給を停止してもよい。窒素ガスは、キャリアガスとして、また、パージガスとして機能する。窒素ガスの代わりにアルゴンガス等の不活性なガスを用いることができる。
原料ガスと反応しない限りにおいて、窒素ガスの代わりに酸素ガスを用いることもできる。
【0030】
図2は、本実施形態の高周波電源20が取得する、プラズマ源への投入電力に対する反射電力の時間経過を模式的に説明する図である。高周波電源20は、上部電極14aにおける反射電力のデータを取得できるように構成されている。反射電力は、高周波電源20によるプラズマの発生の開始時点の判定に用いられる。
マッチングボックス22は、成膜空間においてプラズマが発生するときにインピーダンスマッチングが確立するように調整されている。インピーダンスマッチングが確立されても、電力をプラズマ源である上部電極14aへ供給した時点で瞬時にプラズマが発生するわけではない。電力の投入開始時点からプラズマが発生する時点までの時間は、ばらつく。これは、上部電極14aと下部電極14bとの間に電圧がかかり、プラズマが発生し易い条件ができたとしても、プラズマを発生する放電の核が生じなければならない。この核の発生要因は種々あるが、核の発生する時点は数百m秒ばらつく。本実施形態では、
図2に示すようにプラズマの生成継続時間T
1を短時間とするので、プラズマの発生開始時点は正確に判定する必要がある。このため、プラズマ源である上部電極板14aに投入された電力の反射電力Wrが、この電力の投入後、投入された電力に対して予め定めた比率α(αは0より大きく1未満の小数)を乗算した値を横切る時点をプラズマの発生の起点とする。上記比率αは、0.85〜0.95の範囲で定まる値であることが好ましい。そして、反射電力がα×投入電力を横切る時点をプラズマの発生の起点とする。この起点を用いて、高周波電源20が定めたプラズマ生成継続時間T
1に基づいて投入電力の終了点を定めることが好ましい。投入電力の終了と同時にプラズマは消える。上記比率αを0.85〜0.95の範囲で設定することにより、プラズマの発生の開始を誤ることなく確実に判定でき、かつ、プラズマが実際に生成し続ける時間を、設定されたプラズマの生成継続時間T
1に略一致させることができる。比率αが0.85未満である場合、プラズマの生成を誤ることなく判定できるが、プラズマが実際に生成し続ける時間は、設定されたプラズマの生成継続時間T
1と大きく異なる。例えば、比率を0.85とした場合と比率αを0.4とした場合では、上記起点のずれは、1m秒程度ある。この起点のずれは、設定されたプラズマの生成継続時間T
1にとって無視できない程度に大きい。したがって、上記比率αを0.85〜0.95の範囲で設定することが好ましい。
【0031】
図3は、形成される膜の特性が、プラズマの生成継続時間T
1に応じてどのように変化するかを表した図である。膜の特性の例として膜の屈折率を代表して示している。膜の特性は、屈折率の他に絶縁耐圧、誘電率を含む。膜は、緻密に形成されるほど屈折率は高い。
図3に示す例は、プラズマを用いたALDによる成膜方法において、200℃のシリコン基板の上に酸化アルミニウムを形成したときの屈折率のデータである。酸化アルミニウムは、TMAのガスと酸素ガスを用いた。シリコン基板の面積は略300cm
2とし、投入電力を500Wとした。TMAのガスの供給、酸素ガスの供給、及びプラズマの生成を繰り返して、厚さ0.1μmの膜を形成した。
このとき、プラズマの生成継続時間T
1を5m秒〜500m秒の範囲で変化させ、そのとき形成される膜の屈折率を分光エリプソメータで計測した。ALDによって成膜された酸化アルミニウムの屈折率は、十分緻密な状態では、1.63〜1.65である。
図3に示されるように、プラズマの生成継続時間が1m秒以上で100m秒以下の領域では、この生成継続時間T
1が長くなるほど屈折率の高い膜を形成することができることがわかる。特に、1m秒以上で20m秒以下の領域、さらに言うと2m秒以上で20m秒以下の領域では、プラズマの生成継続時間T
1によって屈折率は大きく変化することから、プラズマの生成継続時間T
1を1m秒以上20m秒以下、さらには、2m秒以上20m秒以下にすることが好ましい。一方、プラズマの生成継続時間T
1が100m秒より長い領域では、膜の屈折率は一定となりプラズマの生成継続時間T
1によって変化しない。このことより、プラズマの生成継続時間T
1が0.5m秒以上100m秒以下の領域、さらに言うと2m秒以上20m秒以下の領域では、プラズマの生成継続時間T
1を変更することにより膜質を変化させることができることがわかる。
【0032】
なお、投入する電力は、15〜3000Wの範囲で、電極(上部電極14a)の面積300cm
2で割った単位面積当たりの投入電力は、0.05W/cm
2〜10W/cm
2の範囲内になるように、上部電極14aは給電される。
【0033】
図4は、
図3に示す例においてシリコン基板に形成された酸化アルミニウム膜の界面準位密度Ditの、プラズマの生成継続時間T
1に対する変化を示す図である。膜の形成された基板は、界面準位密度Ditの測定前に、窒素ガス雰囲気下(大気圧下)400℃の熱処理が0.5時間施されたものである。界面準位密度Ditは、周知の特性であって、基板がプラズマ中のイオンの衝撃を受けると大きくなることから、界面準位密度Ditは、膜のイオンの衝撃を受けた程度を表す指標となり得る。界面準位密度Ditの値が大きくなるほど膜はイオンのダメージを受けていることを意味する。
図4からわかるように、プラズマの生成継続時間T
1が短いほど界面準位密度Ditは小さく、基板はプラズマからダメージを受けていないことがわかる。したがって、
図3及び
図4に示すデータより、膜がプラズマによるダメージを受けず、膜質を効率よく制御するためには、20m秒以下の領域でプラズマの生成継続時間T
1を定めることが特に好ましい。
【0034】
例えば、プラズマの生成継続時間を10m秒と設定することにより、屈折率が1.60程度の比較的緻密でない膜を形成することができる。一方、プラズマの生成継続時間を20m秒とすることにより、屈折率が1.62程度の比較的緻密な膜を形成することができる。従来、緻密な酸化アルミニウムの膜(屈折率の高い膜)は、酸素ガスを用いてプラズマを生成する(酸素プラズマを生成する)ことにより酸素ラジカルをつくり、TMAの成分と反応させることにより形成された。緻密でない酸化アルミニウムの膜(屈折率の低い膜)は、オゾンガスを、TMAのガスの成分と反応させることにより形成された。したがって、1つの基板に下層に緻密でない膜を、上層に緻密な膜を形成する場合、下層の膜の形成と上層の膜の形成の間で使用する反応ガスが異なることから成膜装置を換えなければならなかった。酸素プラズマを生成する機構と、オゾンガスを提供する機構を1つの成膜装置に組み込むことは可能であるが、成膜装置のコストが増大する。この点、本実施形態の成膜装置は、プラズマの生成継続時間T
1を調整するだけで、緻密な膜及び緻密でない膜を自在に切り替えて形成することができる。
【0035】
なお、緻密な膜が基板と直接接触するように緻密な膜を形成すると、膜の持つ引っ張り応力によって膜が基板から剥離し易い。また、緻密な膜は硬いため、基板が撓むと基板から緻密な膜は剥離し易い。このため、膜の基板への密着性を確保するためには、基板に接触する膜の部分は、柔らかく緻密でないことが好ましい。したがって、基板に膜を形成するとき,下層に緻密でない膜を、その上層に緻密な膜を形成することが好ましい。この場合、緻密の程度を下層から上層に進むにしたがって徐々に高めてもよい。
このような膜を形成するためには、本実施形態のように、膜質をプラズマの生成継続時間T
1で制御することのできる成膜装置10を用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、TMAのガス等の原料ガスの供給、この原料ガスの供給後に行う酸素ガス等の反応ガスの供給、及び上部電極14a等のプラズマ源による反応ガスを用いたプラズマの生成を1回のサイクルとして、このサイクルを繰り返すように、コントローラ(制御部)18は、原料ガスの供給、反応ガスの供給及びプラズマの生成を制御する。このとき、少なくとも2つのサイクル間では、プラズマの生成継続時間T
1が互いに異なるように制御することが好ましい。これにより、形成される膜に、膜質の異なる部分を形成することができる。
特に、上記サイクルを繰り返すとき、高周波電源20は、最初の1サイクルにおけるプラズマの生成継続時間T
1が、最後の1サイクルにおけるプラズマの生成継続時間T
1に比べて短くなるように、上部電極14a等のプラズマ源を制御することが好ましい。これにより、基板側の下層には緻密でない膜質の層を、上層には緻密な膜質の層を有する膜を形成することができる。
さらに、高周波電源20は、上記サイクルを繰り返すとき、サイクルの回数が増えるに伴って、プラズマの生成継続時間T
1が増大するように上部電極14a等のプラズマ源を制御することが好ましい。これにより、基板側の下層から上層に向かって緻密の程度が徐々に高くなっていく膜を形成することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、1回のサイクルの中で、酸素ガスを用いてプラズマを生成する回数は1回であるが、プラズマの生成継続時間T
1よりも短いパルス状のプラズマを生成し、そのプラズマを複数回生成してもよい。この場合、累積のプラズマ生成の時間の合計がプラズマの生成継続時間T
1となるようにするとよい。
なお、本実施形態では、原料ガスとして、TMAのガスを例に挙げたが、TMAのガスに制限されない。例えばTEA(テトラエチルアンモニウム)、DMAOPr(ジメチルアルミイソプロポキサイド)等のガスを用いることもできる。また、形成する膜も酸化アルミニウムに制限されず、Si,Mg,Ti,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Y,Zr,In,Sn,Hf,Ta等の酸化物等であってもよい。また、反応ガスも酸素ガスに制限されず、窒素ガス、N
2O,NH
3,H
2,H
2O等であってもよい。
【0038】
以上、本発明の成膜装置及び成膜方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。