(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記p電極層の表面は、前記p型半導体層の表面よりも上側に位置し、かつ、最も高さが小さい前記柱体の前記射出面よりも下側に位置することを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
前記p電極層の下面から前記発光層の表面までの距離は、前記p型半導体層の内部における放射光の波長以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発光素子。
前記複数の柱体は、前記p型半導体層の表面に、前記所定領域を取り囲むように6本配置され、そのうちの3本の前記柱体の高さが、その他の3本の前記柱体の高さと異なり、前記3本の柱体の高さが互いに等しく、かつ、前記その他の3本の柱体の高さが互いに等しいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の発光素子を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面に示される部材等のサイズや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0035】
本発明の実施形態に係る発光素子について
図1および
図2を参照して説明する。
<発光素子の構造>
発光素子1は、例えばLEDのように、平坦な表面から光を放射するものである。
また、発光素子1は、指向性の高い光を発光する素子であって、特定の方向に光線を出射する光線指向型の発光素子である。
【0036】
図1に示すように、発光素子1は、ここでは、n電極層60と、n型半導体層40と、発光層30と、p型半導体層20と、p電極層50とが積層され、p型半導体層20の表面の一部に柱体10(11,12,13,14,15,16)が突出して設けられた構造を有している。
【0037】
<柱体>
柱体10は、ここでは、素子表面から突出して設けられた、第1の柱体11と、第2の柱体12と、第3の柱体13と、第4の柱体14と、第5の柱体15と、第6の柱体16とを含む。なお、ここでの素子表面とは、具体的にp型半導体層20の表面を意味している。柱体11,12,13,14,15,16は、p型半導体層20の表面から突出して設けられており、p型半導体層20と一体的に形成されている。柱体11,12,13,14,15,16は、GaNのみで形成されていてもよいし、GaNにInを添加したLEDで形成されていてもよい。ここで、素子表面に所定領域を取り囲むように環状に配置された6つの柱体11,12,13,14,15,16を
図2(a)に示す。
【0038】
図2(a)に示すように、柱体11の柱頭は射出面11aであり、柱体12の柱頭は射出面12aであり、柱体13の柱頭は射出面13aであり、柱体14の柱頭は射出面14aであり、柱体15の柱頭は射出面15aであり、柱体16の柱頭は射出面16aである。
【0039】
<柱体の平面形状>
図2(a)では、柱体11,12,13,14,15,16の形状を円形で示した。つまり、各射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aが素子表面に投影されたときの平面図形の形状は円形であるものとした。また、各射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aは、素子表面に対し略平行である。
【0040】
<柱体の直径>
図2(a)に示すように、各射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aを素子表面に投影した平面図形の直径φ
1はそれぞれ等しいものとした。直径φ
1は、発光素子1の発光層30からの光が通るのに充分な太さを有する。ここで、充分な太さとは、発光素子1から放出される光の発光波長(以下、λ
0と表記する)程度以上である。波長λ
0は、放射光の自由空間における発光波長を示す。例えば、直径φ
1をλ
0とする。
【0041】
<柱体の配置角度>
図2(a)に示すように、柱体11,12,13,14,15,16は、素子表面の原点M(詳しくは後記する)の周囲に環状に等間隔で配置されている。ここでは、柱体11,12,13,14,15,16の配置角度θ
1を60度としている。これにより、柱体11,12,13,14,15,16の射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aから光が放射された際に、光線として形成される光以外の余分な光(妨害光)が特定箇所に固まって妨害することがないため、形成される光線の品質を向上させることができる。詳しくは後記する。
【0042】
<柱体の中心間の間隔>
柱体11,12,13,14,15,16において、環状に隣り合う柱体の中心間の間隔p
1は、隣り合った柱体の射出面から出射された光が干渉できる程度の長さに予め設定されている。ここでは、各柱体の直径φ
1をλ
0としており、環状に隣り合う柱体11,16の中心O
1,O
6間の間隔p
1を1.4λ
0とした。なお、各柱体の直径φ
1をλ
0としているので、環状に隣り合う柱体11,16間の間隔p
2は0.4λ
0と極めて小さくなる。
【0043】
<複数の柱体の配置の原点>
図2(a)に示す例では、所定の原点Mとは、素子表面において6つの柱体11,12,13,14,15,16により環状に取り囲まれた所定領域s
3に位置する点である。また、この原点Mは、柱体11の中心O
1と、柱体12の中心O
2と、柱体13の中心O
3と、柱体14の中心O
4と、柱体15の中心O
5と、柱体16の中心O
6とから等距離にある点であり、中心O
1,O
2,O
3,O
4,O
5,O
6を頂点とする正六角形の重心(原点Mと表記する)のことである。ここで、6つの柱体11,12,13,14,15,16は、円環状かつ均等に配置されることが好ましい。なお、各柱体により取り囲まれた所定領域s
3の形状やサイズは、柱体の直径φ
1とバランスを取りながら所望のものとして適宜設計できる。
例えば、柱体の直径φ
1が発光波長λ
0の数波長程度分であれば、所定領域s
3のサイズは、1〜数波長程度とすることができる。
【0044】
<柱体の高さ>
柱体11,12,13,14,15,16は、少なくとも1つの柱体の高さが他の柱体の高さと異なっている。
図1および
図2(a)に示す例では、柱体11,12,13,14,15,16のうち、3つの柱体14,15,16は、他の3つの柱体11,12,13に対し、高さが低いものとする。なお、3つの柱体11,12,13は、互いに同じ高さであり、他の3つの柱体14,15,16は、互いに同じ高さである。
ここで、発光素子1の柱体の高さを説明するための概念図を
図2(b)に示す。高い柱体11,12,13は互いに高さが等しく、低い柱体14,15,16は互いに高さが等しいので、
図2(b)では、環状に隣り合う高さの異なる柱体を1本ずつ(柱体11と柱体16)図示し、他の柱体については図示を省略している。
【0045】
図2(b)に示すように、柱体11(12,13)のp型半導体層20の表面からの高さを、それぞれ基準となる高さHとする。そして、柱体11(12,13)のp型半導体層20の表面からの高さと、柱体16(14,15)のp型半導体層20の表面からの高さとの差をd
1とすると、柱体16(14,15)のp型半導体層20の表面からの高さは、「H−d
1」となる(
図2(b)参照)。
【0046】
本実施形態の発光素子1では、後記する実験結果に基づいて、柱体11(12,13)と柱体16(14,15)との高さの差d
1は、放射光の半導体中における波長の長さ以下であることとした。ここで、放射光の半導体中における波長とは、自由空間においてある波長の光を、半導体中(柱体の内部)を光導波路として伝搬したときの波長である。以下では、放射光の半導体中における波長を「発光波長λ
1」として説明する。
一般に、半導体の誘電率は真空中(空気中)より高いため、半導体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、放射光の自由空間における発光波長λ
0と半導体中の放射光の発光波長λ
1との間には、「λ
1=λ
0/n」の関係がある。ここで、nは、半導体の屈折率である。
【0047】
例えば、柱体11,12,13,14,15,16をGaNにInを添加したLEDで形成する場合、放射光の自由空間における発光波長λ
0は405nmであるので、GaNの屈折率nが2.6であるので、近似的に屈折率nを3として計算すると、放射光の半導体中における発光波長λ
1は、約135nmとなる。この場合、例えば、高い柱体11,12,13の高さHを放射光の半導体中における発光波長λ
1(λ
1=λ
0/n)の4倍(4波長分)程度とすることができる。この倍数は任意に設定することができる。なお、全ての柱体の射出面がp電極層50の表面よりも高く、かつ、なるべく低い方が好ましい。また、低い柱体14,15,16の高さ「H−d
1」は、柱体11,12,13の高さHから、柱体11,12,13と柱体14,15,16との高さの差d
1[nm]を減じた高さとして、柱体11,12,13と柱体14,15,16の高さの差d
1の値を変化させることで、光線方向が制御される。
なお、以下では、高い柱体11,12,13を「導波柱」と呼称し、柱体11,12,13と異なるように高さが調整された低い柱体14,15,16を「制御柱」と呼称して区別する場合もある。
【0048】
<柱体の配置>
図2(a)に示すように、高い柱体11,12,13(導波柱)と、低い柱体14,15,16(制御柱)とは、光軸を挟んで正対して配置される。具体的には、柱体11と柱体14とが正対し、柱体12と柱体15とが正対し、柱体13と柱体16とが正対している。
【0049】
<柱体の本数>
発光素子1における柱体は、光線の放射方向を制御するとともに、妨害光の発生を抑制するうえで合計6本とすることが最も好ましい。
すなわち、光は横波であるため、1本の柱体から放射された光の高調波を抑制するには光軸(重心)を対称軸とした反対側に発生する電界を打ち消す必要がある。しかし、例えば柱体を4本にすると、光軸を挟んで正対する導波柱と制御柱は2組となるが、光軸回りの対称性が向上して回転対称な成分が強め合うことになる。その一方で、軸回りに隣り合う2つの柱体の中間部分に生じる同偏光の高調波は柱体の配置によって強められるため、柱体を4本とすると妨害光の影響が大きくなるおそれがある。
【0050】
また、柱体を5本とすると、導波柱と制御柱が光軸を挟んで正対しないため、同偏光の高調波が強められることがなく、妨害光が抑制される。しかし、柱体を5本とすると、光軸を含む面に対する対称性が柱体を6本とした場合よりも劣るので、干渉効果による放射方向の制御が難しくなるおそれがある。一方、発光素子1のように柱体を6本とすると、導波柱と制御柱が光軸を挟んで正対し、かつ光軸を含む面に対する対称性も良いため、妨害光の発生を抑制することができるとともに、光線の放射方向も制御することが可能になるため最も好ましい。
【0051】
<p型半導体層>
図1および
図2(b)に示すように、p型半導体層20は、発光層30の上側(光取り出し側)に、素子表面との間に設けられており、発光層30側から順に、例えば、p型GaN/InGaN障壁層と、p型GaN層と、が積層された構造とすることができる。
前記したように、p型半導体層20は、表面に、柱体11,12,13,14,15,16が設けられており、表面において、柱体11,12,13,14,15,16で取り囲んだ所定領域の外側領域に、後記するp電極層50が積層されている。詳しくは、後記する。
p型半導体層20の厚さt
1は、放射光の半導体中における発光波長λ
1以上とする。このp型半導体層20の厚さt
1は、後記するp電極層50の下面から発光層30の上面までの距離d
2と等しい。
【0052】
<発光層>
発光素子1が青色発光素子である場合、発光層30は、例えば、InGaNの量子井戸層として形成される。
【0053】
<n型半導体層>
図1および
図2(b)に示すように、n型半導体層40は、発光層30の下側に設けられており、発光層30から遠い方から順に、例えば、n型GaN層と、n型GaN/InGaN障壁層とが積層された構造とすることができる。
【0054】
<p電極層>
p電極層50は、
図1に示すように、p型半導体層20の一部領域の上側に積層された薄膜状の金属電極であり、図示しない電源から正電圧が印加されると、p型半導体層20に正孔を注入するものである。ただし、
図1および
図2に示すように、p電極層50は、p型半導体層20の表面において、複数の柱体で取り囲む所定領域の外側領域に少なくとも設けられる。
【0055】
ここで、「複数の柱体で取り囲む所定領域」とは、p型半導体層20の表面における、柱体11,12,13,14,15,16で取り囲んだ環状の領域をいうものとする。
また、「複数の柱体で取り囲む所定領域の外側領域」とは、ここでは、
図2(a)に示すように、p型半導体層20の表面において、所定領域を取り囲む柱体11,12,13,14,15,16の外接円s
1の直径φ
2よりやや大きい直径φ
3を有する穴s
2の外側領域としている。なお、穴s
2の直径φ
3は、外接円s
1の直径φ
2と実質的に同一であるとより好ましい。穴s
2の直径φ
3が外接円s
1の直径φ
2と実質的に同一であると、外接円s
1と穴s
2との間のp型半導体層20の表面から放射される妨害光を極限まで低減することができる。なお、穴s
2の直径φ
3が外接円s
1の直径φ
2より小さいと、電極角での回折波の影響で光線形成が困難となるため好ましくない。
【0056】
穴s
2の内側の領域にはp電極層50が設けられていないので、穴s
2からは、p電極層50の下方に設けられるp型半導体層20の表面が露出している。この穴s
2と外接円s
1は、それぞれ原点Mを中心とする同心円となっている。例えば、各柱体の直径φ
1を放射光の自由空間における発光波長λ
0程度とし、柱体の中心間の間隔p
2を1.4λ
0とするとき、外接円s
1の直径φ
2が3.8λとなる。この場合、穴s
2の直径φ
3は、例えば、4.0λ
0程度とすることができる。
【0057】
p電極層50は、
図2(b)に示すように、p型半導体層20の表面に積層された状態で、表面が、素子表面(p型半導体層20の表面)と高さの低い柱体14,15,16(
図1参照)の射出面14a,15a,16a(
図1参照)との間に位置している。つまり、p電極層50の表面とp型半導体層20の表面とは、p電極層50の厚さ分だけ高さの差がある。
【0058】
また、p電極層50の下面から発光層30の上面までの距離d
2は、放射光の半導体中における発光波長λ
1以上とする。言い換えれば、p電極層50と発光層30との間に介在するp型半導体層20の厚さt
1を、放射光の半導体中における発光波長λ
1以上とする。
なお、距離d
2(厚さt
1)は、放射光の半導体中における発光波長λ
1の1波長以上であり、放射光の自由空間における発光波長λ
0の2波長以下程度となるように設定するとよい。これによれば、p型半導体層20に注入された正孔をp型半導体層20中において適度に拡散させ、発光層30における柱体の直下の領域にまで到達させることができる。
【0059】
p電極層50は、p型半導体層20の仕事関数よりも小さな仕事関数を持つ材料で形成することができる。例えば、p型半導体層20がGaNであれば、電子親和力が2.9eV、エネルギーギャップが3.4eVであるので、仕事関数φは6.3eVとなる。そのため、これより小さな仕事関数φを持つAu(φ=4.8eV)、Cu(φ=4.18eV)やNi(φ=4.0eV)等の金属、あるいは、TaNやHfN(ともにφ=4.8eV)等の化合物を用いるとよい。
【0060】
p電極層50は、柱体11,12,13,14,15,16以外から放出される光をマスクするための遮光膜としても機能する。
つまり、p電極層50は、遮光性を有する金属材料で形成されているため、発光層30で発光し、p型半導体層20中を伝搬した光がp電極層50に到達すると、p電極層50によって遮蔽される。これにより、素子表面において、p電極層50を積層した領域から光が放出されないようにすることができる。p電極層50の厚さt
2は、p電極層50の表面が、素子表面と低い柱体14,15,16の射出面14a,15a,16aとの間に位置していれば、p電極層50を形成する材料に応じて適宜設定することができる。
なお、p電極層50は、図示しないが、表面の一部にいわゆるパッド電極が形成されており、このパッド電極を介して電源(いずれも図示せず)の陽極に接続されている。
【0061】
また、発光素子1は、
図1および
図2(b)に示すように、n型半導体層40の下側にn電極層60が設けられていてもよい。
n電極層60層は、n型半導体層40の下側に設けられた金属電極であり、図示しない電源から負電圧が印加されると、n型半導体層40に電子を注入するものである。n電極層60は、ここでは図示しないが、表面の一部にいわゆるパッド電極が形成され、このパッド電極を介して電源(いずれも図示せず)の陰極に接続されている。n電極層60層は、p型半導体層20との接触抵抗が、p電極層50とp型半導体層20との接触抵抗よりも小さい材料で形成することができる。例えば、p電極層50をNi/Auで形成した場合、GaN−p層との接触抵抗が約13×10
−3Ωcm
−2であるので、n電極層60は、これよりも接触抵抗が小さい、例えば、pd/Auで形成することができる。pd/Auは、GaN−p層との接触抵抗が約8×10
−3Ωcm
−2であるので、条件を満たしている。
【0062】
また、発光素子1は、n型半導体層40の下に図示しない基板を備えた構成であっても構わない。基板は、例えば、サファイア、GaAs、SiやSiC等で形成することができる。
【0063】
[発光素子の柱体から出射される光の干渉の原理]
以下、発光素子1の柱体11,12,13,14,15,16から出射される光の干渉の原理について
図3および下記の数式を適宜用いて説明する。なお、柱体11,12,13は互いに高さが同じであり、柱体14,15,16は互いに高さが同じであるので、
図3および下記数式を用いる説明では、簡便のため、高さの異なる2つの柱体11と柱体16から出射される光の干渉を例にとって説明する。
【0064】
図3に示すように、発光素子1の表面を基準の位置とすると、柱体11の高さがHであり、柱体16の高さが(H−δH)である。ここで、柱体11の高さHに対する柱の高さの差d
1(
図2(b)参照)の割合(=d
1/H)を「δ」とした場合、柱体11と柱体16との高さの差d
1(
図2(b)参照)は、d
1=δHで表わすことができる。なお、以下の説明では、柱体11と柱体16との高さの差d
1(
図2(b)参照)を「δH」として説明し、柱体11の高さHに対する、柱体11と柱体16との高さの差d
1(
図2(b)参照)の割合δを「高さの差の割合δ」として説明する。
【0065】
図3に示す例では、素子表面(p型半導体層20の上面)の位置を基準の高度h
0とする。また、柱体16の柱頭の射出面16aの位置を高度h
1とし、柱体11の柱頭の射出面11aの位置を高度h
2とする。つまり、h
2−h
1=δHの関係がある。2つの柱体11,16の間隔をp
2とする(
図2(a)参照)。環状に隣り合う2つの柱体11,16の中心軸から等距離に位置する鉛直中心軸上の所定地点Cを高度h
3とする。なお、説明では、簡便のため、発光層30から鉛直方向に進んだ光が柱体11,16の中心軸を通って空気中に放射される場合を仮定する。
【0066】
図3の発光素子1において、発光層30からの光は、高い柱体(導波柱)11と低い柱体(制御柱)16とに分岐して出射される。また、高い柱体11を通る場合に、1つの光路(以下、光路Aという)として、柱体11中の点A1と柱体16の射出面16aの中心点A2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。また、低い柱体16を通る場合に、柱体11の射出面11aの中心点B1と、点B1からδHだけ高い位置の点B2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。
【0067】
光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h
1までは同じ媒質(p型半導体層20)を同じ距離だけ進むので同位相のままである。このときの位相を初期位相θ
0とすると、光路Aでは点A1において位相はθ
0であり、光路Bでは点B1において位相はθ
0である。
【0068】
これら光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h
1から高度h
2まで異なる媒質を進む。このとき、光路Aでは媒質は柱体11(半導体)であり、光路Bでは媒質は空気である。前記したように、大気中または真空中の光の速度をc、半導体の屈折率をnとすると、半導体中の速度は、c/nで与えられる(例えばGaNであればn=2.6など)。このため、半導体素子中で発生した光を2つに分岐して、一方をそのまま大気中(もしくは真空中)に出射し、かつ、もう一方を半導体中で伝搬させてから出射した場合、それら2つの光が出射された後に出会うと、光路が異なるため、光の位相は異なるようになる。したがって、
図3の発光素子からの光の自由空間中の波長をλ
0とし、光路Aでは高度h
1から高度h
2までの区間のGaN中で位相がαだけ進むとすると、光路Aの点A2において位相は下記式(1)で表される。
【0070】
また、光路Bでは高度h
1から高度h
2までの自由空間中で位相がβだけ進むとすると、光路Bでは点B2において位相は下記式(2)で表される。
【0072】
さらに高度h
2から高度h
3まで自由空間なので、光路Aを通る光と光路Bを通る光とは同じ媒質(自由空間)を進む。また、このとき、光路Aの点A2から点Cまでの距離と、光路Bの点B2から点Cまでの距離とは同じである。したがって、光路Aを通る光の点A2における位相と、光路Bを通る光の点B2における位相との差は、点Cにおいても保存されることとなる。この位相差τは以下の式(3)で表される。すなわち、柱体11と柱体16との高さの差δHによって光路Aと光路Bとの位相差τを制御することができる。以下の式(3)を変形すると、高さの差δHは式(4)で表される。
【0073】
したがって、以下の式(4)に示すように、柱体11と柱体16の高さの差δHを調整することで、柱体11と柱体16との位相差τを制御できることがわかる。そして、このように柱体11の射出面11aと柱体16の射出面16aからそれぞれ放射された光には、
図3の高度h
2の地点において位相差τがあるため、これらの光が互いに干渉すると、前記した位相差τに応じて、素子表面と垂直な方向に対して制御角θ
2だけ傾いた方向に1本の光線が生成されることになる。したがって、柱体11と柱体16との高さの差δHを調整して位相差τを制御することで、光線を所望の制御角θ
2の方向に放射することができる。なお、柱体11と柱体16との高さの差δHにおけるHは固定値であるため、柱体11の高さHに対する柱体11と柱体16との高さの差δHの割合δを調整すれば、柱体11と柱体16の位相差τを制御することができる。
【0075】
そして、柱体11を通る光は、柱体16を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、柱体11,16から放出される光の波面は互いに干渉し、これら2つの柱体11,16の相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方向(方向)に、光が出射されることになる。
【0076】
続いて、3次元空間の位置r
1にある波源としての柱体11と、3次元空間の位置r
2にある波源としての柱体16から出射された光の干渉について説明する。
位置r
1にある波源と、位置r
2にある波源とからそれぞれ出射された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて成形される光の強度I(r)は、次の式(5)で与えられる。
【0078】
式(5)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、発光層30から出射された光が、2つの波源からそれぞれ出射された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(5)では、式(6)のγの実部を利用する。式(6)のE
*は、Eの複素共役であることを示す。γは、式(6)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から出射された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(7)〜式(9)のように場合分けすることができる。
【0080】
式(7)の場合を完全コヒーレント、式(8)の場合をインコヒーレント、式(9)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。したがって、
図3の発光素子1においては、光の強度において、前記式(5)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げられる。
【0081】
なお、柱体11,16間の水平方向の間隔p
2が微小であるときには柱体の高さの差δHが支配的な要因となる。
【0082】
図3では、簡単のため、高さの異なる2つの柱体から出射される光の干渉による光線の方向について説明した。波源としての柱体が6つある場合についても、前記式(5)を拡張することが可能である。以下では、本実施形態の発光素子1のように6つの柱体を有している場合の光線の成形と、光線の方向制御とに関して行ったシミュレーションについて順次説明する。
【0083】
[発光素子の発光層の発光領域]
まず、発光素子1の発光層30の発光領域について
図4を参照して説明する。なお、柱体11,12,13は互いに等しい高さH(
図3参照)であり、柱体14,15,16は互いに等しい高さ「H−δH」(
図3参照)であるので、
図4を用いる説明では、簡便のため、高さの異なる2つの柱体11と柱体16のみを図示する。また、
図4に示すのは、発光素子1の断面図であるが、ここでは見易さのため、各構成要素のハッチングを省略している。
【0084】
発光素子1は、電源からパッド電極(いずれも図示せず)を介してp電極層50に正電圧が印加され、電源からパッド電極(いずれも図示せず)を介してn電極層60に負電圧が印加されることで、p電極層50よりp型半導体層20に正孔hが注入されるとともに、n電極層60よりn型半導体層40に電子eが注入される。発光素子1は、p電極層50より注入された正孔hがp型半導体層20中を拡散しながらp型半導体層20とn型半導体層40との接合部である発光層30へと移動し、一方、n電極層60より注入された電子eがn型半導体層40内を接合部である発光層30へと移動する。そして、発光素子は、発光層30の接合部において正孔hと電子eとが再結合することで生じるエネルギーによって発光する。
【0085】
ここで、発光素子1は、n型半導体層40の電子eの移動度が、p型半導体層20の正孔hの移動度よりもはるかに大きいので、p電極層50とn電極層60とに同時に電圧を印加した場合、p型半導体層20から発光層30に正孔hが到達するよりも、n型半導体層40から発光層30に電子eが到達する方が早い。
そのため、正孔hと電子eとの再結合は、発光素子1の発光層30に正孔hが到達した時点で発生する。言い換えれば、発光層30に正孔hが到達した領域でのみ発光が生じる。この「正孔hが到達した領域」とは、
図4に示したように、発光層30において、p電極層50の直下の領域のみならず、正孔hがp型半導体層20中を拡散しながら移動することにより、p型半導体層20の厚み程度、発光素子1の内側方向に広がるため、素子表面において、p電極層50が設けられていない部分の直下に位置する発光層30の一部も含まれる。
図4では、発光層30に正孔hが到達した領域(発光領域)を塗りつぶして示している。
図4に示すように、発光層30に電子eが到達していても正孔hが到達していない領域では発光は生じない。
【0086】
仮に、p型半導体層20の厚さが薄ければ、正孔が発光層30に到達するまでに、p型半導体層20中において素子内側方向にほとんど拡散しないため、発光層30において、p電極層50の直下(
図2(a)に示した穴s
2の外側に位置する部分)に位置する部分以外ではほとんど発光しないことになる。これに対し、発光素子1は、p型半導体層20の厚さt
1が、放射光の自由空間における発光波長λ
0以上であるので、正孔が発光層30に到達するまでに、p型半導体層20中において素子内側方向に十分に拡散させることができる。そのため、発光素子1は、前記したように、発光層30において、p電極層50の直下のみならず、p電極層50の直下以外(
図2(a)に示した穴s
2の内側に位置する部分)でも一部発光させることができる。したがって、発光層30で発光した光を、柱体に確実に入射させることができる。
【0087】
そして、発光素子1は、発光層30で発光した光が、
図4に示すように、柱体11,柱体16の直下からそれぞれ柱体11,16に入射し、柱体11,16中を伝搬して、射出面11a,16aから空気中に出射される。
【0088】
また、発光層30で発光し、p型半導体層20の上側に設けられたp電極層50に入射した光が、遮光性を有するp電極層50によって遮蔽されるので、空気中に放射されない。そのため、発光素子1は、光線Lを成形する際に、妨害光の影響を受けないようにすることができる。
【0089】
なお、前記した
図3において説明したように、
図4に示す高い柱体11の射出面11aから出射された光と低い柱体16の射出面16aから出射された光とは、位相が異なるので、この位相差に応じた傾き方向に光線Lが形成される。以下では、法線方向に対する光線Lの傾き角度を制御角θ
2という。
【0090】
発光素子1は、以上のような構成を備えるので、
図1の発光層30で発生した光は、柱体11,12,13,14,15,16を光導波路として柱体11,12,13,14,15,16の射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aから出射される。これらの射出面11a,12a,13a,14a,15a,16aから出射された光は、発光層30を1つの光源として発生した光であるため、互いに干渉して合成され光線が形成される。
【0091】
発光素子1は、p型半導体層20の表面に、穴s
2の外側にp電極層50を積層しているので、発光層30において、p電極層50の直下で発光し、素子表面に向かう光をp電極層50で遮光することができるので、妨害光の発生を抑制することができる。
また、発光素子1は、p型半導体層20の厚さt
1を、放射光の自由空間における発光波長λ
0以上としているので、p型半導体層20に注入された正孔がp型半導体層20中を移動して発光層30に到達するまでに、素子内側方向に十分に拡散させることができる。そのため、発光素子1は、発光層30において、p電極層50の直下(
図2(a)に示した穴s
2の外側に位置する部分)のみならず、p電極層50の直下以外(
図2(a)に示した穴s
2の内側に位置する部分)でも一部発光させることができる。したがって、発光層30で発光した光を、柱体に確実に入射させることができる。
これにより、発光素子1は、S/N比の高い光線を成形することができる。
【0092】
さらに、発光素子1は、柱体のうちの少なくとも1本(ここでは3本)の高さをその他の柱体の高さと異なるように構成することで、それぞれの射出面から出射された光に位相差を設けることができ、当該位相差に応じた傾き方向に光線を放射することができる。
さらに加えて、発光素子1は、6本の柱体11,12,13,14,15,16を形成することで、光線として形成される光以外の余分な妨害光の発生を効果的に抑制することができる。
【0093】
[発光素子の製造方法]
発光素子1を製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができる。発光素子1は、例えばLEDのように平坦な放射面を有する発光素子を用意し、その表面を微細加工して作成することが可能である。
【0094】
以下、
図1に示す発光素子1を2次元状に複数並べ、かつ、n電極層60を設けた素子群を製造する方法を、
図5を参照して説明する。なお、ここでは、発光素子1において、外接円s
1の直径φ
1(
図2(a)参照)と穴s
2の直径φ
3(
図2(a)参照)とを実質的に同一としたものとして説明する。
【0095】
まずバッファ層90を介してGaN等からなる発光素子層80が形成された基板170を用意する。
図5(a)に示すように、例えばバッファ層90が積層されたSi等の基板170の表面に、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の成膜方法により、n型半導体層40を積層し、次に、InGaNの量子井戸層からなる発光層30を形成し、さらに、p型半導体層20を積層する。このとき、p型半導体層20については、まず、柱体の最上部以上の厚みで成膜する。以下では、このp型半導体層20と発光層30とn型半導体層40とを合わせて発光素子層80という場合もある。
【0096】
そして、
図5(a)に示すように、レーザーリフトオフ法、ケミカルリフトオフ法またはボイド形成剥離法等により、基板170およびバッファ層90を剥離する。次に、
図5(b)に示すように、発光素子層80のn型半導体層40の上(
図5では下側)に、マスクを用いた金属蒸着法等によってn電極層60を、ストライプ状に1本以上形成する。なお、その際、n電極層60上にSn等の融着層を形成しても構わない。
【0097】
次に、
図5(c)に示すように、n電極層60が設けられた発光素子層80を、n電極層60を下にしてサファイア等の基板70上に配置し、表面活性化接合法等により、両者を接合する。なお、表面活性化接合法では、具体的にはArプラズマ等によって発光素子層80の表面を活性化させて基板70と圧着を行う。ただし、前記した
図5(b)の工程において、n電極層60上にSn等の融着層を設けた場合は、この工程では加熱のみを行って発光素子層80と基板70とを接合する。
【0098】
次に、
図5(d)に示すように、p型半導体層20の表面の画素領域に熱可塑性樹脂または光硬化性樹脂からなるフォトレジストfをパターニングして積層する。パターニングは、p型半導体層20の表面において、画素領域を円形に残し、その他を全て覆うパターンとする。例えば、p型半導体層20の表面の画素領域にフォトレジストfを塗布後、フォトマスクで皮膜し、紫外線を照射して現像することで形成することができる。
【0099】
続いて、
図5(e)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、p型半導体層20のフォトレジストfの周囲をエッチングする。
さらに、
図5(f)に示すように、金属材料を蒸着法、スパッタリング法等により積層した後、フォトリソグラフィ法等によってp電極層50が作製される。
【0100】
またさらに、
図5(g)に示すように、余分なp電極層50ごとフォトレジストfをリフトオフする。
そして、
図5(h)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、複数の柱体10(11,12,13,14,15,16)を形成する。
【0101】
ここで、
図5(g)に示す状態から、高い柱体11,12,13と低い柱体14,15,16とを形成する方法の一例について説明する。
まず、
図5(g)に示すp型半導体層20の表面の、高い柱体11,12,13となる部分にフォトレジストを形成する。そして、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、フォトレジストの周囲をエッチングする。これによって、高い柱体11,12,13の上側の一部が形成される。次に、p型半導体層20の表面の、低い柱体14,15,16となる部分にフォトレジストfを形成する。そして、前記したようなエッチングにより、高い柱体11,12,13、および、高い柱体14,15,16となる柱体の表面に形成したフォトレジストの周囲をエッチングする。これにより、高い柱体11,12,13、および、高い柱体14,15,16以外の表面が削られ、高い柱体11,12,13、および、高い柱体14,15,16が形成される。なお、柱体11,12,13,14,15,16(
図1および
図2(a)参照)の形成後に、柱体の内壁やp電極層50の表面にSiO
2等の絶縁性の保護膜を形成してもよい。
【0102】
[発光素子の性能]
本実施形態の発光素子1の性能を確かめるために、FDTD(Finite-Difference Time-Domain)法によるシミュレーションを行った。シミュレーションの条件としては、発光素子1の表面(p型半導体層20の上面)と平行な面の正方形領域(大きさ3500nm×3500nm)をベースとして想定した。また、発光領域から素子表面の上方3500nmまでの領域を計算対象としてシミュレーションを行った。
【0103】
[発光素子の設計の具体例]
以下、シミュレーションにおける発光素子1の設計例を以下に記載する。
発光素子1は、GaNにInを添加したLEDであるものとし、放射光の自由空間における発光波長λ
0は405nmであるものとした。
発光素子1のp型半導体層20(
図1参照)の厚さt
1を、放射光の半導体中における発光波長λ
1以上である約400nmとした。
p電極層50(
図1参照)は、厚さt
2が150nmのAgの金属薄膜とした。
柱体11,12,13,14,15,16の直径φ
1(
図2(a),(b)参照)は、放射光の自由空間における発光波長λ
0に相当する405nmとした。
柱体11,12,13,14,15,16の配置角度θ
1(
図2(a)参照)は、60度とした。
隣り合う柱体の中心間の間隔p
1(
図2(a)参照)は、1.4λ
0とした。
隣り合う柱体間の間隔p
2(
図2(a)参照)は、0.4λ
0とした。
柱体11,12,13の高さH(
図2(b)参照)は、540nmとした。これは、本設計例における放射光の半導体中における発光波長λ
1(λ
1=λ
0/n)の4波長分に相当する。
また、柱体14,15,16の高さ「H−d
1」(
図2(b)参照)は、柱体11,12,13の高さHから、柱体11,12,13と柱体14,15,16との高さの差「δH」[nm]を減じた高さとして、柱体11,12,13(
図1参照)の高さHに対する柱体14,15,16(
図1参照)の高さの差δHの割合δ(δ=d
1/H)の値を変化させることで、光線方向が制御される。
柱体11,12,13,14,15,16の外接円s
1の直径φ
2(
図2(a)参照)は、3.8λ
0とした。また、穴s
2の直径φ
3(
図2(a)参照)は、4.0λ
0とした。
以下、
図6,8および適宜
図1を参照して、シミュレーション結果について説明する。
【0104】
発光素子1の放射光であるXY平面における光の強度の積算値を、XY平面のビームパターンとして
図6(a)〜(c)に示す。
図6(a)は、柱体11,12,13(
図1参照)の高さHに対する柱体14,15,16(
図1参照)の高さの差δHの割合δの値を0.00〜0.20まで変化させた場合のビームパターンであり、(b)は、全ての柱体の高さが等しい場合のビームパターンであり、(c)は、高さの差の割合δを0.10とした場合のビームパターンである。なお、
図6(b),(c)では、発光素子1(
図1参照)の柱体11,16と、p電極層50と、p型半導体層20の一部とを示している。
また、光線方向の評価は、計算領域の上端において電界強度が最大となる点を光線の中心とし、発光素子1の表面の法線となす角を光線方向の制御角θ
2とした。
さらに、
図7に、柱体11,12,13(
図1参照)の高さHに対する柱体14,15,16(
図1参照)の高さの差δHの割合δの値を0.00〜0.16まで変化させた場合の素子表面の法線と光線方向とが成す角(制御角)θ
2の変化をグラフで示した。なお、
図7に示すグラフの横軸は、柱体11,12,13(
図1参照)に対する柱体14,15,16(
図1参照)の高さの差δHの高さHに対する割合δの値であり、
図7に示すグラフの縦軸は、制御角θ
2である。
【0105】
なお、
図6(a)〜(c)は、発光素子1から計算領域上端(3500nm地点)に到達する光の強度分布を積算したものを表しており、光の強度が最も強い点を光線中心として示している。ここでは、FDTD法における電界の自乗をとった電力密度を光の強度とした。
図6(a)は、素子表面と平行な面での光線形状を示しており、
図6(b),(c)における右側の目盛は、光の強度の積算値の目盛を示したものであり、上の1.00×10
4W/m
2に近づくほど到達した光が多く、下の0.00×10
4W/m
2に近づくほど到達した光が少ないことを示している。また、赤は到達した光が強い領域(1.00×10
4W/m
2)を、黄は到達した光が比較的強い領域、緑は到達した光が比較的弱い領域、青は光が到達しない領域(0.00×10
4W/m
2)をそれぞれ示している。
【0106】
参考例として、
図6(a)のδ=0.00の場合、すなわち、
図6(b)に示すように、柱体11,12,13,14,15,16の高さが等しい場合、柱体11,12,13,14,15,16の中心に光線が成形されることを確かめた。
また、この場合、
図7に示すように、制御角θ
2が0.00度であることを確かめた。つまり、素子表面と垂直な方向に向かう線上に光線が成形されることを確かめた。
【0107】
次に実施例として、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差δHの割合δを0.04〜0.20まで変化させた場合に成形される光線について説明する。なお、緑の領域はピーク強度(1.00×10
4W/m
2)の半値以下の強度を示すため、光線方向の評価においては、微弱なものとして無視した。
【0108】
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.04とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線が成形できることを確かめた。また、メインローブの周辺に、サイドローブが発生しないことを確かめた。
また、
図7に示すように、高さの差の割合δを0.04とした場合、制御角θ
2が1.78度であることを確かめた。
【0109】
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.08とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線が成形できることを確かめた。また、メインローブの周辺に、サイドローブが発生しないことを確かめた。また、
図7に示すように、高さの差の割合δを0.08とした場合、制御角θ
2が3.86度であることを確かめた。
【0110】
図6(a),(c)に示すように、高さの差の割合δを0.10とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線が成形できることを確かめた。一方、メインローブの隣に、微弱なサイドローブ(緑の領域)が発生することを確かめた。ただし、光線方向には影響を与えない程度の微弱なものであるため、無視することができる。また、
図7に示すように、高さの差の割合δを0.10とした場合、制御角θ
2が5.96度であることを確かめた。
【0111】
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.12とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線が成形できることを確かめた。一方、メインローブの隣に、微弱なサイドローブ(緑の領域)がやや広範囲で発生することを確かめた。また、
図7に示すように、高さの差の割合δを0.12とした場合、制御角θ
2が8.14度であることを確かめた。
【0112】
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.16とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線が成形できることを確かめた。一方、メインローブの隣に、微弱なサイドローブ(緑の領域)がやや広範囲で発生することを確かめた。また、
図7に示すように、高さの差の割合δを0.16とした場合、制御角θ
2が10.5度であることを確かめた。
【0113】
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.20とした場合、発光素子1の表面の法線に対し、傾斜した方向に光線を成形できるものの、メインローブの隣に、微弱なサイドローブ(緑の領域)が広範囲で発生し、光線の明瞭性が低下してしまうことを確かめた。
【0114】
以上のように、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差δHの割合δを0.04〜0.20まで変化させることによる、制御角θ
2の変化について確かめた。
このうち、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差δの割合δを0.04〜0.16まで変化させた場合、明瞭であり様々な方向の光線を形成できることを確かめた。つまり、
図6(a)に示すように、高さの差の割合δを0.04〜0.16まで変化させた場合、中心部分(赤の領域)の強度が高い光線を形成できることを確かめた。また、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差d
1の割合δを0.04〜0.16まで変化させた場合、光線の中心部分の位置がそれぞれ異なっているので、法線方向に対し傾斜した光線を成形できることを確かめた。
具体的には、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差d
1の割合δを0.04〜0.16とした場合、光線の回りにサイドローブ、すなわち妨害光が若干発生しているものの、メインローブの光量は十分に得られていることから、サイドローブの悪影響を抑制することができることを確かめた。
【0115】
一方、柱体11,12,13の高さHに対する柱体14,15,16の高さの差d
1の割合δを0.20とした場合、
図6(a)に示すように、法線方向に対し傾斜した光線を成形できるものの、サイドローブの悪影響が大きくなってしまい、明瞭な光線の成形が困難であることを確かめた。
今回のシミュレーションでは、高さの差の割合δを増やすと、制御角θ
2が大きくなる一方で、サイドローブの影響が大きくなるという結果が得られた。このようなサイドローブの悪影響を抑制できる範囲で高さの差の割合δを変化させることで、様々な制御角θ
2の光線を得ることができる。今回のシミュレーションにおいて、サイドローブの悪影響を抑制できる範囲での制御角θ
2の最大値は、
図7に示すように、高さの差の割合δが0.16の場合であり、10.5度を得ることができた。
【0116】
また、
図6(b),(c)に示すように、p型半導体層20の表面(素子表面)において、p電極層50が積層された位置の上方の空間に青の領域があることから、当該空間には、光が放射されていないことを確かめた。つまり、発光素子1のp型半導体層20の表面(素子表面)において、発光層30から柱体で取り囲んだ所定領域の外側領域(ここでは、穴s
2の外側の領域(
図2(a)参照))に到達した光がp電極層50によって遮蔽されていることを確かめた。このように、発光素子1は、素子表面において、穴s
2の外側の領域(
図2(a)参照)に、p電極層50を積層することで、サイドローブが効果的に抑制されることを確かめた。
【0117】
さらに、
図6(b),(c)に示すように、p型半導体層20の表面において、柱体11と柱体16の間の空間に青の領域があることから、p型半導体層20の表面において、柱体で取り囲んだ所定領域の内側領域(ここでは、穴s
2の内側の領域(
図2(a)参照))の表面からは、ほとんど光が放射されていないことを確かめた。
【0118】
このように、柱体11,12,13(導波柱)と柱体14,15,16(制御柱)との高さの差の割合δを変化させることで、明瞭であり、かつ、様々な角度の光線を形成できることを確かめた。
【0119】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0120】
例えば、前記した発光素子1は、LED素子の材料をGaNとしたが、本発明はこれに限らず、例えば、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsP等であってもよい。
【0121】
また例えば、前記した発光素子1は、柱体11,12,13,14,15,16をp型半導体層20と同じ材料であるGaNで形成するものとして説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、発光素子1の柱体のみを素子表面と比較して小さな誘電率である透明導電体で形成してもよい。より具体的には、空気の誘電率(=1)よりも高く、発光素子1の発光素子層80(
図5,6参照)を構成する材料(例えば、GaN)の誘電率よりも低い誘電率である材料(例えば、SiO
2,SiO,SiN,MgF
2,ZrO
2等)で形成してもよい。以下では、発光素子1の柱体のみをSiO
2で形成する場合について説明する。
【0122】
発光素子1の柱体のみをSiO
2で形成する場合、柱体の本数、配置角度θ
1、直径φ
1は、柱体をGaNで形成する場合と同様とすることができる。ただし、発光素子1の柱体のみをSiO
2で形成する場合、例えば、高い柱体11,12,13(導波柱)の高さHをSiO
2中における放射光の2波長分に相当する540nmとすることができる。なお、ここでは、SiO
2の屈折率nを1.5として高さHを求めた。
なお、低い柱体14,15,16(制御柱)の高さ「H−d
1」は、柱体11,12,13の高さH(ここでは、540nm)から柱体11,12,13と柱体14,15,16との高さの差d
1[nm]を減じた高さとして、高さの差の割合δの値を変化させることで、光線方向が制御される。
【0123】
発光素子1の柱体のみをSiO
2で形成する場合の発光素子の製造方法について簡単に説明する。例えば、
図5(c)に示すような発光素子層80が形成された基板70を用意する。次に、発光素子層80のp型半導体層20上に、気相成長法等によりSiO
2層を形成する。そして、SiO
2層を集束イオンビーム(FIB)等によりエッチングし、複数の柱体を形成することで、柱体のみをSiO
2で形成した発光素子1を製造することができる。
【0124】
このように、発光素子1の柱体のみをSiO
2で形成することで、以下のような効果が期待できる。すなわち、SiO
2は、加工性に富むことから、結晶成長条件の制御等を行わなくてもよく、また、発光素子層80(
図5参照)を構成する発光材料への物理的・化学的なダメージを抑制することができる。そのため、柱体をSiO
2で形成することで、発光素子の製造がより容易となるといえる。また、SiO
2は、透明な誘電体材料であるので、柱体による光の吸収を小さくすることができる。つまり、柱体の射出面の透過率を素子表面(ここでは、GaN)よりも高くすることができるので、背景雑音を低下させることができる。そのため、柱体をSiO
2で形成することで、射出面から出射される光量の増大が期待できる。さらに加えて、制御角θ
2の増大も期待できる。
【0125】
また例えば、柱体11,12,13,14,15,16を一般的なLEDで形成する場合、放射光の自由空間における発光波長λ
0は465nmとなり、屈折率nは、約1.5となるので、高い柱体11,12,13の高さHを、放射光の半導体中における発光波長λ
1の4波長分程度である約1240nmとすることができる。
【0126】
また、発光素子1は、p型半導体層20の表面において、複数の柱体で取り囲む所定領域の外側領域を穴s
2(
図2(a)参照)よりも外側の領域とし、p電極層50を、穴s
2(
図2(a)参照)の外側領域に設けている。しかし、これに限らず、発光素子1は、p電極層50を、p型半導体層20の表面において複数の柱体で取り囲む所定領域の外側領域の全てに設けてもよい。また、発光素子1は、p電極層50を、p型半導体層20の表面の全てに設けてもよい。つまり、発光素子1は、p電極層50を、p型半導体層20の表面において、柱体11,12,13,14,15,16を設けた部分以外の全ての表面に設けてもよい。これにより、柱体が形成された部分以外の素子表面から妨害光が放射されるのをより確実に抑制することができる。
【0127】
また、発光素子1は、LED素子のような注入型のEL素子に限らず、有機EL素子や無機EL素子のような真性EL素子であってもよい。
さらに、前記した発光素子1は
図1に示すように、柱体が、断面円形状かつ円柱状に形成されていたが、これに限らず、断面多角形状かつ多角柱状であってもよい。また、すべての柱体の直径は必ずしも等しくなくてもよい。
【0128】
なお、前記した発光素子1は、最も好ましい例として柱体をp型半導体層20の表面に6本形成したが、この他に、柱体をp型半導体層20の表面に3本形成しても構わない。柱体の本数を3本とした場合、1本の柱体を制御柱とし、他の柱体を導波柱とするか、2本の柱体を制御柱とし、他の柱体を導波柱とする。3本の柱体の配置は
図2(a)の角度αが120度となるようにすることが好ましい。
【0129】
また、発光素子1は、光線の形成と放射方向の制御を必要とするデバイス一般にも応用することが可能であり、例えばプロジェクター用光源、空間光インターコネクションに用いる接続器、拡散板を必要としない照明用光源等にも利用することができる。
【0130】
[発光素子の応用例]
本実施形態の発光素子1を基板上に多数並べることにより、IP方式のディスプレイであるIP立体ディスプレイを提供することが可能である。
一例として、
図8に、第1の実施形態の発光素子1を基板70上に多数並べたIP立体ディスプレイ100を示す。
【0131】
<IP立体ディスプレイの駆動方法>
図8に示す例では、IP立体ディスプレイ100は、基板70上に3行×3列の合計9個の発光素子1を画素として配置している。IP立体ディスプレイ100は、
図8に示すように、基板70上に、列ごとにn電極層60と発光素子層80とが形成されている。それぞれの発光素子層80の表面には、画素位置ごとに複数の柱体が形成されている。ここでは、基板70上に合計9個の発光素子1を画素として配置したので、ストライプ状の1つの発光素子層80上に画素位置ごとに合計3組の複数の柱体が形成されている。また、3本のストライプ状のそれぞれの発光素子層80のp型半導体層20の表面に、行ごとに発光素子層80およびn電極層60と直交するようにストライプ状にp電極層50が形成されている。ここでは、図示を省略するが、p電極層50の表面には、図示しないパッド電極が形成されており、ストライプ状のn電極層60の端部には、図示しないパッド電極が形成されているものとする。
なお、IP立体ディスプレイ100を、前記した製造方法の一例により製造した場合、3本のストライプ状の発光素子層80およびn電極層60を1本ずつ列ごとに分離する際には、適宜エッチング等を実施すればよい。
【0132】
ここで、
図8に示すIP立体ディスプレイ100において、行ごとに形成したp電極層50を奥側から手前側に向かって順に、p−1,p−2,p−3とし、列ごとに形成したn電極層60を左側から右側に向かって順に、n−1,n−2,n−3とする。IP立体ディスプレイ100は、p−1,p−2,p−3に対して、図示しないパッド電極(
図1参照)を介して+Vの電圧パルスを順次印加し、n−1,n−2,n−3に対しては、発光させる画素位置に応じて、図示しないパッド電極を介して0か−Vの電圧パルスを印加することで、画素位置ごとにON/OFFを切り替えることができる。
例えば、最も左奥(1行目×1列目)の画素だけを発光させる場合、IP立体ディスプレイ100は、p−1に+Vの電圧パルス、n−1に−Vの電圧パルスを印加し、p−2,p−3,n−2およびn−3は接地電位とすればよい。
このように、本実施形態の発光素子1を基板上に複数並べてIP立体ディスプレイ100を構成することで、パッシブマトリクス駆動が可能となるので、IP立体ディスプレイ100の低消費電力化、低コスト化等を実現できる。