(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高速ロータ、低速ロータ、ステータが同一の回転軸で相対回転自在な磁気波動歯車装置が開示されている。磁気波動歯車装置は、例えば、電動機として用いる場合には、ステータに設けたコイルの起磁力により高速ロータを回転させることで、高調波磁束により出力軸である低速ロータが所定の減速比で回転するようになっている。
【0003】
磁気波動歯車装置は、原理的に非接触で所定の減速比(増速比)が得られるため、機械式の減速機(増速機)に比べて低摩耗、低騒音、耐久性に優れている。このため、磁気波動歯車装置は、例えば、発電機本体が地上数十メートルの高さに設置され、増速機の保守に多大な労力が必要な風力発電機のダイレクトドライブとして適用する試みがなされている(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、磁気波動歯車装置には、英国シェフィールド大学が研究開発を進めているタイプ(以下、両側磁石タイプと称する場合がある)と、大阪大学(本願発明者ら)が研究開発を進めているタイプ(以下、片側磁石タイプと称する場合がある)とがある(特許文献2の
図10、
図11参照)。両タイプの構成の違いを簡単に説明すると、両側磁石タイプは、高速ロータとステータに永久磁石を有するタイプであり、片側磁石タイプは、高速ロータのみに永久磁石を有するタイプである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、両側磁石タイプは、永久磁石の使用量が多く、最大伝達トルクが高い利点を有するが、同時に、ステータに設けられた永久磁石が磁気抵抗となり、発電(通電)トルクが低く、さらに、高価なネオジム磁石等を多量に使用するため生産性が低いという課題がある。
また、片側磁石タイプは、永久磁石の使用量が少なく、生産性に優れ、発電(通電)トルクが高いが、磁気回路を流れる磁束が少ないため、最大伝達トルクが小さいという課題がある。
このため、従来型の磁気波動歯車装置は、一般的な永久磁石式発電機(電動機)と比較した場合、ダイレクトドライブ用途でさえ、性能面で劣っており、実用化に向けた新たなタイプの開発が求められている。
【0007】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたものであり、生産性と性能を両立でき、特にダイレクトドライブ用途として優れた磁気波動歯車装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意実験を重ねた結果、両側磁石タイプのように永久磁石を多量に使用しなくても、以下のように永久磁石を適切な位置に適切な数量で配置することにより、生産性と性能を両立できることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明は、第1の部材、第2の部材、第3の部材が同一の回転軸で相対回転自在な磁気波動歯車装置であって、前記第2の部材は、前記第1の部材と前記第3の部材との間に配置され、前記回転軸周りに配置された複数の磁性体片を有しており、前記第1の部材は、前記第2の部材に対向すると共に
前記第2の部材に対向する側の磁極が交互に異なるように前記回転軸周りに配置された複数の第1の永久磁石を有しており、前記第3の部材は、前記第2の部材に対向すると共に前記回転軸周りに配置されてコイルが巻回された複数の極歯と、隣り合う前記極歯の間のそれぞれに配置されて前記第2の部材に対向する側の磁極が同一の複数の第2の永久磁石と、を有している、という構成を採用する。なお、回転軸周りの各部材の配置は、等間隔が望ましい。
【0009】
また、本発明は、第1の部材、第2の部材、第3の部材が同一の回転軸で相対回転自在な磁気波動歯車装置であって、前記第2の部材は、前記第1の部材と前記第3の部材との間に配置され、前記回転軸周りに配置された複数の磁性体片を有しており、前記第1の部材は、前記第2の部材に対向すると共に前記回転軸周りに配置されて前記第2の部材に対向する側の磁極が同一の複数の第1の永久磁石を有しており、前記第3の部材は、前記第2の部材に対向すると共に前記回転軸周りに配置されてコイルが巻回された複数の極歯と、隣り合う前記極歯の間のそれぞれに配置されて前記第2の部材に対向する側の磁極が
前記第1の永久磁石の前記第2の部材に対向する側の磁極と同一の複数の第2の永久磁石と、を有している、という構成を採用する。なお、回転軸周りの各部材の配置は、等間隔が望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性と性能を両立でき、特にダイレクトドライブ用途として優れた磁気波動歯車装置が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、本発明の磁気波動歯車装置をモータ(電動機)に適用した場合を例示する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における磁気波動歯車装置1Aを示す断面構成図である。
磁気波動歯車装置1Aは、
図1に示すように、高速ロータ(第1の部材)10と、低速ロータ(第2の部材)20と、ステータ(第3の部材)30と、が同一の回転軸Rで相対回転自在な構成となっている。この磁気波動歯車装置1Aでは、半径方向において、高速ロータ10、低速ロータ20、ステータ30の順序で配置されている。
【0014】
高速ロータ10は、磁性体材料からなるコア11と、複数の永久磁石(第1の永久磁石)12A,12Bと、を有する。コア11は、円柱状に形成されている。永久磁石12A,12Bは、コア11の外周に設けられている。永久磁石12A,12Bは、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに等間隔で交互に複数配置されている。なお、永久磁石12A,12Bは、低速ロータ20に対向する側の磁極が異なっており、本実施形態では、複数の永久磁石12AがN極で同一とされ、複数の永久磁石12BがS極で同一とされている。
【0015】
低速ロータ20は、略円筒形状を有し、高速ロータ10とステータ30との間に配置される。低速ロータ20は、磁性体材料からなる複数の磁性体片21を有する。磁性体片21は、回転軸R周りに等間隔で複数配置されている。なお、
図1では、磁性体片21のみを図示しているが、これらの磁性体片21は不図示の樹脂プレート等で一体化され、両者間のピッチ等の相互関係が保たれるようになっている。
【0016】
ステータ30は、低速ロータ20の外側に配置される。ステータ30は、ヨーク31と、複数の極歯32と、複数のコイル33と、複数の永久磁石(第2の永久磁石)34Bと、を有する。ヨーク31は、磁性体材料からなり略円筒状に形成されている。極歯32は、ヨーク31と一体的に形成され、半径方向内側に延在している。この極歯32は、回転軸R周りに等間隔で複数配置されている。コイル33は、極歯32のそれぞれに巻回されている。複数のコイル33は、例えば、U相、V相、W相で相分けされている。
【0017】
永久磁石34Bは、隣り合う極歯32の間にそれぞれ配置されている。すなわち、永久磁石34Bは、極歯32の先端ではなく、コイル33が巻回されるスロット開口部に位置し、低速ロータ20に対するエアギャップに面している。複数の永久磁石34Bは、低速ロータ20に対向する側の磁極が同一とされ、本実施形態では、S極とされている。なお、永久磁石34Bの磁極は、低速ロータ20に対するエアギャップ方向に同じであれば、N極であってもよい。
【0018】
上記構成の磁気波動歯車装置1Aは、高速ロータ10の極対数をN
h、低速ロータ20の磁極数をN
l、ステータ30の極対数をN
sとするとき、
N
s = N
l ± N
h …(1)
の関係を満たすように構成されている。なお、上記関係式(1)を満たすことによる技術的意義は、上述した特許文献1(特開2010−106940号公報)に詳述されているため、ここでは説明を割愛する。
【0019】
本実施形態の高速ロータ10の極対数(N極、S極の組数、すなわち永久磁石12A,12Bの組数)は5であり、低速ロータ20の磁極数(磁性体片21の数)は17であり、ステータ30の極対数(N極、S極の組数、すなわち極歯32、永久磁石34Bの組数)は12であり、上記関係式(1)を満たす。
【0020】
上記関係式を満たすと、下式(2)で示される減速比Grが得られる。
Gr = N
l / N
h …(2)
このような磁気波動歯車装置1Aでは、ステータ30に設けたコイル33の起磁力により高速ロータ10を回転させることで、高調波磁束により出力軸である低速ロータ20が減速比Grに従って回転する。
【0021】
したがって、上述の実施形態によれば、高速ロータ10、低速ロータ20、ステータ30が同一の回転軸Rで相対回転自在な磁気波動歯車装置1Aであって、低速ロータ20は、高速ロータ10とステータ30との間に配置され、回転軸R周りに配置された複数の磁性体片21を有しており、高速ロータ10は、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに配置された複数の永久磁石12A,12Bを有しており、ステータ30は、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに配置され、コイル33が巻回された複数の極歯32と、隣り合う極歯32の間のそれぞれに配置され低速ロータ20に対向する側の磁極が同一の複数の永久磁石34Bと、を有している、という構成を採用することによって、後述する
図3(a)に示す両側磁石タイプよりも永久磁石の使用量を略3/4に抑えることができる。以下、この磁気波動歯車装置1Aを3/4PMタイプと称する場合がある。
【0022】
次に、本発明のもう一つの実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態における磁気波動歯車装置1Bを示す断面構成図である。
磁気波動歯車装置1Bは、
図1に示すように、高速ロータ(第1の部材)10と、低速ロータ(第2の部材)20と、ステータ(第3の部材)30と、が同一の回転軸Rで相対回転自在な構成となっている。この磁気波動歯車装置1Bでは、半径方向において、高速ロータ10、低速ロータ20、ステータ30の順序で配置されている。この低速ロータ20及びステータ30の構成は、上記実施形態の構成と変わりない。
【0024】
高速ロータ10は、磁性体材料からなるコア11と、複数の永久磁石(第1の永久磁石)12Aと、を有し、永久磁石12Bを有しない点で上記実施形態の構成と相違する。永久磁石12Aは、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに等間隔で複数配置されている。コア11は、円柱状に形成されており、隣り合う永久磁石12Aの間に、低速ロータ20に対向するエアギャップに面する露出コア部11aを有する。露出コア部11aは、外部磁場により磁化するため、高速ロータ10の極対数に含まれる。
【0025】
すなわち、本実施形態の高速ロータ10の極対数(N極、S極の組数、すなわち永久磁石12A、露出コア部11aの組数)は5であり、低速ロータ20の磁極数(磁性体片21の数)は17であり、ステータ30の極対数(N極、S極の組数、すなわち極歯32、永久磁石34Bの組数)は12であり、上記関係式(1)を満たす。
なお、高速ロータ10に残す永久磁石は、低速ロータ20に対するエアギャップ方向の磁極が同じであれば、永久磁石12Aでなく、永久磁石12Bであってもよい。
【0026】
したがって、上述の実施形態によれば、高速ロータ10、低速ロータ20、ステータ30が同一の回転軸Rで相対回転自在な磁気波動歯車装置1Bであって、低速ロータ20は、高速ロータ10とステータ30との間に配置され、回転軸R周りに配置された複数の磁性体片21を有しており、高速ロータ10は、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに配置されて低速ロータ20に対向する側の磁極が同一の複数の永久磁石12Aを有しており、ステータ30は、低速ロータ20に対向すると共に回転軸R周りに配置されてコイル33が巻回された複数の極歯32と、隣り合う極歯32の間のそれぞれに配置されて低速ロータ20に対向する側の磁極が同一の複数の永久磁石34Bと、を有している、という構成を採用することによって、後述する
図3(a)に示す両側磁石タイプよりも永久磁石の使用量を略1/2に抑えることができる。以下、この磁気波動歯車装置1Bを1/2PMタイプと称する場合がある。
【0027】
続いて、
図3に示す比較例1〜3との比較により、本発明(3/4PMタイプ(実施例1)、1/2PMタイプ(実施例2))の効果をより明らかにする。
【0028】
図3は、比較例としての磁気波動歯車装置1C,1D,1Eを示す断面図構成図である。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0029】
図3(a)に示す比較例1は、両側磁石タイプの磁気波動歯車装置1Cである。両側磁石タイプは、
図3(a)に示すように、極歯32の先端にも永久磁石34Aが配置されている点で、3/4PMタイプと異なる。
図3(b)に示す比較例2は、改良両側磁石タイプの磁気波動歯車装置1Dである。改良両側磁石タイプは、
図3(b)に示すように、ステータ30に配置される永久磁石34A,34Bの厚みを薄くして永久磁石の使用量を低減させている点で、両側磁石タイプと異なる。
図3(c)に示す比較例1は、片側磁石タイプの磁気波動歯車装置1Eである。片側磁石タイプは、
図3(c)に示すように、ステータ30側に永久磁石を一つも配置しない点で、3/4PMタイプと異なる。
【0030】
上述の実施例1,2と比較例1〜3の性能を下記に示す条件で2次元有限要素解析により比較したグラフを
図4〜
図7に示す。
[2次元有限要素解析の条件]
高速ロータ極対数:5
ステータスロット数:12
サイズ:φ80×30[mm]
コイル:10ターン,2Y結線
永久磁石:Br=1.25[T]
【0031】
図4は、実施例1,2及び比較例1〜3の伝達トルクと高速ロータ10の回転角の関係を示すグラフである。
図5は、実施例1,2及び比較例1〜3の最大伝達トルクの関係を示すグラフである。
図6は、実施例1,2及び比較例1〜3の高速ロータ10のトルクの関係を示すグラフである。
図7は、実施例1,2及び比較例1〜3のトルク定数の関係を示すグラフである。
なお、片側磁石タイプ(比較例3)は、解析モデルの関係で減速比が2.2に設定されており、
図4に示すように、他のタイプ(減速比3.4)とトルク波形が異なっている。
【0032】
図5〜
図7では、永久磁石の使用量の順に、実施例1,2及び比較例1〜3を左から順に並べている。
図5に示すように、最大伝達トルクに関しては、比較例1>実施例1>比較例2>実施例2>比較例3の関係を有することが分かる。
また、
図6に示すように、高速ロータ10のトルクに関しては、実施例1>実施例2>比較例3>比較例2>比較例1の関係を有することが分かる。
また。
図7に示すように、トルク定数に関しては、実施例1>実施例2>比較例2>比較例3>比較例1の関係を有することが分かる。
【0033】
実施例1,2及び比較例1〜3の生産性と性能を簡単にまとめると下表1で示すことができる。
【0035】
表1に示すように、両側磁石タイプ(比較例1)は、永久磁石の使用量が多いため、最大伝達トルクが高い利点を有するが、同時に、ステータ30に設置された永久磁石34A,34Bが磁気抵抗となり、通電トルクが低く、さらに、生産性が低いことが分かる。
また、改良両側磁石タイプ(比較例2)は、最大伝達トルクとのトレードオフにより通電トルクが若干改善されるものの、永久磁石の使用量が多く、生産性が低いことが分かる。
また、片側磁石タイプ(比較例3)は、生産性に優れ、通電トルクは高いが、永久磁石の使用量が少なく、磁気回路を流れる磁束が少ないため、最大伝達トルクが低いことが分かる。
【0036】
一方、3/4PMタイプ(実施例1)によれば、両側磁石タイプには劣るものの最大伝達トルクに優れ、また通電トルクに非常に優れるため、特にダイレクトドライブ用途として優れていることが分かる。また、3/4PMタイプは、両側磁石タイプに比べて永久磁石の使用量が少なく、生産性が高いことが分かる。
また、1/2PMタイプ(実施例2)によれば、3/4PMタイプよりは若干性能が劣るものの、永久磁石の使用量がさらに少なく済み、生産性が高いことが分かる。
【0037】
以上のことから、本発明に係る3/4PMタイプ及び1/2PMタイプによれば、両側磁石タイプのように永久磁石を多量に使用しなくても、永久磁石を適切な位置に適切な数量で配置することにより、生産性と性能を両立でき、特にダイレクトドライブ用途として優れていることが分かる。例えば、従来の永久磁石式電動機(発電機)と機械式減速機(増速機)のシステムを、本発明に係る3/4PMタイプ及び1/2PMタイプに置き換えることで、小型軽量化を期待できる。また、過負荷時には、両ロータがスリップするという特性も有しているため、制御を用いずに過電流保護も可能である。
【0038】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0039】
例えば、本願発明は、
図8に示すようなステータ構造でも成立する。
図8は、本発明の一実施形態における磁気波動歯車装置1Fを示す断面構成図である。
図8に示す磁気波動歯車装置1Fは、ステータ30側の永久磁石34Bが、コイル33が巻回されるスロット開口部ではなく、コイル33が巻回されないステータ30のコア部分に配置される構成となっている。
なお、
図8において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略している。
【0040】
また、例えば、上記実施形態では、第2の部材を回転自在として低速ロータとしたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、特許文献1に記載のように、第2の部材を固定して、第3の部材を回転自在とする構成を採用してもよい。
【0041】
また、例えば、上記実施形態では、本発明の磁気波動歯車装置を、モータ(電動機)に適用した構成について例示したが、本発明はこの構成に限定されることなく、発電機にも適用することができる。また、発電機においては、大型の風力発電機に好適に適用することができる。