【文献】
自動車-排気ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、全炭化水素及び窒素酸化物の測定方法,日本工業規格(JIS),日本,1998年,JIS D 1030,1-14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、計測室や実験室内に様々な試験設備を設置する等のために、CVSの小型化が望まれている。そして、このCVSの小型化を実現するために、本願発明者は、熱交換器及び臨界流量ベンチュリの間の接続配管を可能な限り短くするもしくは無くすことを考えている。
【0006】
ところが、前記接続配管を無くすと、熱交換器を通過した希釈排ガスが、温度斑を有したまま臨界流量ベンチュリに流入してしまう。臨界流量ベンチュリを通過する流量には温度特性があり、希釈排ガスの温度が変化すると、臨界流量ベンチュリを通過する希釈排ガスの流量が変化してしまう。
【0007】
ここで、前記CVSには、前記熱交換器の上流側にサンプリングラインを接続し、このサンプリングラインにより希釈排ガスを比例サンプリングして、当該サンプリングライン上のPM捕集フィルタに希釈排ガスを通過させるものがある。なお、比例サンプリングは、前記臨界流量ベンチュリの制御流量に対して一定比率で希釈排ガスをサンプリングする方式である。この比例サンプリングにおいて、従来は、臨界流量ベンチュリの制御流量が一定であるとして、サンプリングラインに設けた吸引ポンプの回転数等を一定に制御している。
【0008】
しかしながら、熱交換器を通過した直後の希釈排ガスは温度斑を有しているので、臨界流量ベンチュリの制御流量が変化してしまい、正確に比例サンプリングを行うことができないという問題がある。
【0009】
なお、厳密に比例サンプリングする場合には、臨界流量ベンチュリに流入する希釈排ガスの温度及び圧力と臨界流量ベンチュリの制御流量とから、希釈排ガスの瞬時流量を算出して、吸引ポンプの回転数をフィードバック制御することも考えられる。しかし、この方法では、サンプリングポイントから臨界流量ベンチュリまでの希釈排ガスの流れ時間等を考慮した希釈排ガスの遅れ時間の補正が必要となり、演算が複雑になってしまう。
【0010】
また、前記臨界流量ベンチュリの制御流量を積算した積算流量を用いてトータルマス計測する場合にも、臨界流量ベンチュリの制御流量が変化してしまうと、測定誤差となってしまう。
【0011】
そこで本発明は、CVS等の排ガスサンプリング装置を小型化するとともに、臨界流量ベンチュリ等の流量制御器に通過する希釈排ガスの温度を均一にすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明に係る排ガスサンプリング装置は、排ガスを希釈用ガスにより希釈してなる希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路と、前記希釈排ガス流路に設けられ、前記希釈排ガスの温度を調節する温調機構と、前記希釈排ガス流路における前記温調機構の下流側に設けられ、前記希釈排ガスの流量を一定流量に制御する流量制御機構とを備える排ガスサンプリング装置であって、前記希釈排ガス流路の一部を構成するものであり、前記希釈排ガスを導入するガス導入ポート及び前記希釈排ガスを導出するガス導出ポートが形成されたケーシングを有しており、前記温調機構が前記ケーシングに収容されるとともに、前記流量制御機構が前記ガス導出ポートに流体的に接続されており、前記ガス導入ポート及び前記温調機構の間に、前記ガス導入ポートから導入される希釈排ガスを分散させる分散構造が設けられていることを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、ケーシングに温調機構を収容するとともに流量制御機構がケーシングのガス導出ポートに流体的に接続されているので、従来のように温調機構及び流量制御機器の間に設けられていた配管を極力短くもしくは不要にすることができ、排ガスサンプリング装置を小型化することができる。
このように温調機構及び流量制御機構の間の配管を極力短くもしくは不要にすることで、温調機構を通過する希釈排ガスの流速分布により、温調機構を通過した希釈排ガスの温度分布が不均一になり、温度斑が生じてしまう。このとき本発明では、ガス導入ポート及び温調機構の間に分散構造を設けているので、温調機構を通過する希釈排ガスの流速分布を均一化させて、温調機構を通過した希釈排ガスの温度分布を均一化させることができる。これにより、臨界流量ベンチュリを通過する希釈排ガスを一定流量に安定させることができ、比例サンプリングを正確に行うことができるとともに、トータルマス計測の精度を向上させることができる。
なお、温調機構の下流側、つまり、温調機構及びガス導出ポートの間に分散構造を設けることも考えられるが、温調機構及びガス導出ポートの間隔が狭いため、分散構造を設けたところで、温調機構を通過した希釈排ガスの温度分布を十分に均一化することが難しい。
【0014】
前記分散構造が、前記ガス導入ポートに対向して設けられた多孔板により構成されていることが望ましい。
これならば、分散構造の構成を極めて簡単にすることができる。また、多孔板に形成される孔の開口サイズ、孔の密度又は開口率等を適宜設定することで、希釈排ガスの流速分布を簡単にコントロールすることができる。
【0015】
前記排ガス導入ポートが、前記ケーシングにおける一方の側壁に設けられており、前記排ガス導出ポートが、前記ケーシングにおける前記一方の側壁に対向する他方の側壁に設けられていることが望ましい。
これならば、ケーシングの構成を極めて簡単にできる。また、ガス導出ポート、分散構造、温調機構及びガス導出ポートがこの順で一列に配置されるため、分散構造を設けたことによる分散効果を一層顕著にすることができる。
特に、前記一方の側壁又は前記他方の側壁が、上下に対向する側壁であることが望ましい。これならば、ガス導出ポート、分散構造、温調機構及びガス導出ポートがこの順で上下に配置されるため、排ガスサンプリング装置の設置面積を特に小さくすることができる。
【0016】
前記ケーシングが、複数のガス導出ポートを有しており、前記複数のガス導出ポートそれぞれに前記流量制御器が流体的に接続されていることが望ましい。
このようにケーシングに複数の流量制御器が設けられる構成において、前記分散構造を設けるものであれば、各流量制御器を通過する希釈排ガスの温度を均一化することができる。
【0017】
前記温調機構が、前記希釈排ガスを加熱する加熱器と、前記希釈排ガスを冷却する冷却器とを有し、前記加熱器及び前記冷却器が、前記ガス導入ポート側からこの順で配置されており、前記希釈排ガスの温度を検出する温度センサが、前記ケーシングにおける前記冷却器の下流側に配置されていることが望ましい。
これならば、希釈排ガスの温度を正確に測定することができ、希釈排ガスの温度調整を正確に行うことができる。
なお、加熱器及び冷却器を逆の配置、つまり、冷却器及び加熱器を、ガス導入ポートからこの順で配置し、温度センサをケーシングにおける加熱器の下流側に配置した場合には、加熱器として用いられるヒータの熱放射によって温度センサが加熱されるため、希釈排ガスの温度よりも高い温度を検出してしまう。このとき、温度センサからの検出温度を用いて温調機構を制御すると、実際の希釈排ガスの温度が、目標温度よりも低くなってしまうという問題がある。
【0018】
前記冷却器が、前記希釈排ガスとの間で熱交換を行う冷却要素と、当該冷却要素を収容する筐体とを備えており、前記筐体が、前記ガス導入ポート側を向く一端面に前記希釈排ガスを導入する導入口を有しており、前記ガス導出ポート側を向く他端面に前記希釈排ガスを導出する導出口を有しており、前記ケーシングと前記筐体との間の空間を、前記ガス導入ポート側と前記ガス導出ポート側とで仕切る仕切構造が設けられていることが望ましい。
これならば、冷却器の筐体及びケーシングの間の空間から、希釈排ガスが、冷却器の下流側に流れることを防止することができる。つまり、仕切構造により、ガス導入ポートから導入された希釈排ガスの全てが冷却要素を通過することになり、温度斑を一層低減することができ、流量制御器に流入する希釈排ガスの温度をより一層均一化することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、単一のケーシングに温調機構及び流量制御機構を設けているので、排ガスサンプリング装置を小型化することができる。また、ケーシングのガス導入ポート及び温調機構の間に分散構造を設けているので、流量制御機構に流入する希釈排ガスの温度を均一にすることができ、臨界流量ベンチュリを通過する希釈排ガスを一定流量に安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る排ガスサンプリング装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の排ガスサンプリング装置100は、例えばエンジン等から排出される排ガス中に含まれる成分分析を行うためのガス分析システムに用いられるものであり、排ガスを大気(希釈用空気)等の希釈用ガスで数倍(例えば10倍〜20倍)に希釈し、濃度計測を行う希釈サンプリング方式のものである。
【0023】
具体的にこの排ガスサンプリング装置100は、
図1に示すように、排ガスを希釈用ガスにより希釈してなる希釈排ガスが流れる希釈排ガス流路Rと、当該希釈排ガス流路Rに設けられ、希釈排ガスの温度を調節する温調機構2と、希釈排ガス流路Rにおける温調機構2の下流側に設けられ、希釈排ガスの流量を一定流量に制御する流量制御機構3(定容量サンプリング装置)とを備えている。
【0024】
希釈排ガス流路Rを構成する希釈排ガス配管4の上流側には、排ガス及び希釈用ガスを混合するための混合部5が接続されている。本実施形態の混合部5は、オリフィス51を用いて構成されている。そして、この混合部5には、一端に排ガス導入ポートPT1が設けられた排ガス導入配管6及び一端に希釈用ガス導入ポートPT2が設けられた希釈用ガス導入配管7が接続されている。なお、希釈用ガス導入ポートPT2には、大気中の夾雑物を除去するためのフィルタF1が設けられている。
【0025】
また、希釈排ガス配管4における混合部5の下流側には、希釈トンネル41が形成されており、この希釈トンネル41において、排ガス及び希釈用ガスが均一に混合される。なお、希釈トンネル41には、希釈排ガスをサンプリングしてPM捕集フィルタ8に導入するためのサンプリングラインSL1が接続されている。このサンプリングラインSL1は、前記流量制御機構3により一定流量とされた希釈排ガスの流量(CVS流量)に対して一定比率で希釈排ガスをサンプリングするものであり、PM捕集フィルタ8及び吸引ポンプ9がこの順で設けられている。なお、吸引ポンプ9は、図示しない制御装置により、その回転数が一定に制御されている。
【0026】
温調機構2は、
図1〜
図3に示すように、希釈排ガスを加熱する加熱器21と、希釈排ガスを冷却する冷却器22とを有している。
【0027】
加熱器21は、
図2及び
図3に示すように、希釈排ガスに接触して希釈排ガスを加熱する加熱要素211と、当該加熱要素211を支持する支持体212とを備えている。本実施形態の加熱要素211は、例えば二クロム線等の発熱体をステンレス等の金属製のヒータパイプに収容するとともに、前記発熱体及びヒータパイプの間に酸化マグネシウム等の熱伝導に優れた絶縁粉末を充填して構成されたシースヒータである。
【0028】
そして、この加熱器21は、流量制御機構3により設定される希釈排ガスの流量に応じて、シースヒータである加熱要素211を駆動するための電気容量[kVA]を段階的又は連続的に切り替え可能に構成されている。例えば、前記電気容量を6kVAと12kVAとで切り替え可能に構成した場合、希釈排ガスが所定流量よりも小さい場合には、前記電気容量を6kVAとし、希釈排ガスが所定流量よりも大きい場合には、前記電気容量を12kVAとすることが考えられる。
【0029】
冷却器22は、
図2及び
図3に示すように、希釈排ガスに接触して希釈排ガスとの間で熱交換を行う冷却要素221と、当該冷却要素221を収容して支持する筐体222とを備えている。本実施形態の冷却要素221は、フィンチューブ型のものであり、例えば工業用水や水道水等の冷却水が流れる複数の冷媒配管221aと、当該複数の冷媒配管221aに取り付けられた複数の伝熱フィン221bとを有する。また、冷媒配管221aには、図示しない循環ポンプ及び流量調整弁等からなる冷却水循環機構が接続されている。筐体222は、概略直方体形状をなすものであり、一端面に希釈排ガスを導入する導入口222aを有しており、前記一端面に対向する他端面に希釈排ガスを導出する導出口222bを有している。
【0030】
そして、この冷却器22は、流量制御機構3により設定される希釈排ガスの流量に応じて、流量調整弁の弁開度を調整することにより、冷媒配管221aを流通する冷却水の流量を調整できるように構成されている。前記流量調整弁は、電動弁から構成されており、図示しない制御装置により、希釈排ガス流量が大きくなるに連れて徐々に弁開度が大きくなるように比例制御される。
【0031】
流量制御機構3は、
図1に示すように、前記排ガス導入配管6から導入される排ガスと希釈用ガス導入配管7から導入される希釈用ガスとの総流量が一定となるように流量制御するものであり、希釈排ガス流路Rにおいて前記温調機構2の下流側に接続された臨界流量ベンチュリ(CFV)からなる複数の流量制御器31と、希釈排ガス流路Rにおいて流量制御器31の下流側に接続された例えばブロワやポンプ等の吸引手段32により構成される。また、複数の臨界流量ベンチュリ31及び吸引ポンプ32の間には、各臨界流量ベンチュリ31に対応して開閉弁33が設けられており、これにより希釈排ガスが流れる臨界流量ベンチュリ31が選択されて、前記総流量が設定される。前記吸引ポンプ32により選択された臨界流量ベンチュリ31の上流側及び下流側の差圧が所定値以上にすることで前記総流量が一定となる。なお、吸引ポンプ32により吸引された希釈排ガスは外部に放出される。
【0032】
なお、希釈排ガス流路Rにおいて、前記温調機構2及び流量制御機構3の間には、排ガス採取バッグ等の分析機器200に希釈排ガスをサンプリングするためのサンプリングラインSL2が接続されている。なお、このサンプリングラインSL2の先端部には、CVS流量に対して一定比率で希釈排ガスをサンプリングするための例えばサンプリングベンチュリなどのサンプリング流量制御機構(不図示)が設けられている。
【0033】
しかして本実施形態の排ガスサンプリング装置100は、
図2及び
図3に示すように、前記希釈排ガス流路Rの一部を構成するものであり、希釈排ガスを導入するガス導入ポートPT3及び希釈排ガスを導出するガス導出ポートPT4が形成されたケーシング10を有している。
【0034】
そして、このケーシング10に前記温調機構2が収容されるとともに、ケーシング10のガス導出ポートPT4に流量制御器である臨界流量ベンチュリ31が流体的に接続されて設けられている。
【0035】
前記ケーシング10は、一端壁である上側壁10aにガス導入ポートPT3が形成されており、前記上側壁10aに対向する下側壁10bにガス導出ポートPT4が形成されている。上側壁10aは、概略矩形平板状をなす壁であり、この上側壁10aの中央部にガス導入ポートPT3が形成されている。本実施形態のガス導入ポートPT3は、概略円形状のガス導入口PT3xを有する。下側壁10bには、複数(本実施形態では4個)のガス導出ポートPT4が直線状に一列に形成されている(
図2参照)。そして、これら各ガス導出ポートPT4に互いに臨界流量の異なる臨界流量ベンチュリ31が流体的に接続される。本実施形態では、ガス導出ポートPT4の下流側端部に、臨界流量ベンチュリ31の上流側端部が、接続金具を介して取り付けられる。
【0036】
図3に示すように、ケーシング10の一方の側壁(後側壁)10cには、加熱器21及び冷却器22を取り付けるための取り付け開口部10zが形成されており、当該取り付け開口部10zを介して加熱器21及び冷却器22がケーシング10の内部に収容されて取り付けられる。具体的に加熱器21は、加熱要素211がケーシング10の内部に収容された状態で固定され、保護体212で電気的接続部を保護している。また、冷却器22は、冷却要素221及び当該冷却要素221を収容する筐体222がケーシング10に収容された状態で、筐体222の後端面に設けられたフランジ部222xがケーシング10の前側壁10cにねじ固定されることにより取り付けられる。この取り付けられた状態で、冷却器22の筐体222の一端面(上端面)に形成された導入口222aは、ガス導入ポートPT3側(上側)を向いており、前記筐体222の他端面(下端面)に形成された導出口222bはガス導出ポートPT4側(下側)を向いている。
【0037】
具体的に、加熱器21及び冷却器22は、ガス導入ポートPT3に対してこの順に配置されている。つまり、加熱器21がガス導入ポートPT3側(ケーシング10の上側)に配置され、冷却器22がガス導出ポーPT4側(ケーシング10の下側)に配置されている。
【0038】
本実施形態のケーシング10では、冷却器22を通過した希釈排ガスをケーシング10内に滞留させることなく効率良く流量制御器31に導入するために、
図3に示すように、冷却器22の下側の流路断面積が小さくなるように希釈排ガス流路Rを絞っている。具体的には、ケーシング10の互いに対向する前後側壁10c、10dが、冷却器22の下側に行くに従って、つまり、ガス導出ポートPT4に向かうに従って、対向面の距離が小さくなる傾斜面を有している。本実施形態では、前後側壁10c、10dが内側に折れ曲がることにより、傾斜面が形成されている。これにより、ケーシング10における冷却器22の下流側には、台形断面の空間が形成される。
【0039】
そして、このケーシング10において、冷却器22の下流側に、希釈排ガスの温度を検出する例えば白金測温抵抗体からなる温度センサ11が設けられている。この温度センサ11は、ケーシング10の後側壁10dにおける傾斜面から内部に挿入して設けられている。また、温度センサ11を設ける位置は、希釈排ガスを流す臨界流量ベンチュリ31を切り替えたことにより生じる流量変化を受けにくい位置としている。具体的に温度センサ11を設ける位置は、冷却器22における筐体222の導出口222bの近傍であり、どんな流量の組み合わせにおいても各臨界流量ベンチュリ31の入口温度との差が所定範囲(±2℃以内)となる位置としている。
【0040】
本実施形態では、この温度センサ11により得られた希釈排ガス温度を用いて、前記加熱器21及び前記冷却器22をPID制御する制御装置(不図示)を備えている。具体的に制御装置は、温度センサ11により得られた希釈排ガス温度に基づいて、加熱器21のON/OFFをPWM制御するとともに、冷却器22のON/OFFをPWM制御するものである。詳細には、希釈排ガス温度を40℃となるように加熱器21及び冷却器22を制御している。加熱器21のON/OFFをPWM制御するものとしては、加熱器21に通電する電源装置のON/OFFのデューティ比をPWM制御することが考えられる。また、冷却器22のON/OFFをPWM制御するものとしては、冷却水循環機構に設けられた循環ポンプのON/OFFのデューティ比をPWM制御することや、冷却水循環機構に設けられた開閉弁の開/閉のデューティ比をPWM制御することが考えられる。
【0041】
なお、従来の方式では、加熱器21及び冷却器22をON−OFF制御している。具体的には、加熱器21のON時に、冷却器22をOFFとし、加熱器21のOFF時に、冷却器22をONとすることで、加熱器21及び冷却器22の一方が必ずONとなるようにON−OFF制御している。ところが、このON−OFF制御では、希釈排ガス温度が一定の温度範囲(例えば±5℃)でハンチングを起こしてしまい、臨界流量ベンチュリ31を通過する希釈排ガス流量も変動してしまうという問題がある。本実施形態では、加熱器21及び冷却器22をPID制御することによって、希釈排ガスの温調性能を±2℃以内にすることができる。
【0042】
また、このケーシング10において、
図3に示すように、冷却器22の下流側には、前記サンプリングラインSL2を構成するサンプリング管SL2hが接続されている。このサンプリング管SL2hは、前記温度センサ11と同じように、ケーシング10の前側壁10cにおける傾斜面から内部に挿入して設けられている。
【0043】
そして、本実施形態では、
図2〜
図4に示すように、ケーシング10のガス導入ポート及びケーシング10に収容された加熱器21の間に、ガス導入ポートPT3から導入された希釈排ガスをガス導入ポートPT3から外側に分散させる分散構造12が設けられている。
【0044】
この分散構造12は、ケーシング10の流路断面積がガス導入ポートPT3の流路断面積よりも大きいことで生じる希釈排ガスの流速分布の不均一を解消するものである。具体的に分散構造12は、ガス導入ポートPT3に対向する中心空間部分の流体抵抗を大きくすることによって、希釈排ガスをケーシング10内において前記中心空間部分から周囲空間部分に分散させるものである。
【0045】
この分散構造12は、多数の貫通孔が形成された例えばステンレス製の矩形平板状をなす多孔板である。本実施形態の多孔板12は、開口形状が円形をなす貫通孔が形成されて、開口率が例えば30%〜50%のパンチングメタルである。この多孔板12は、ガス導入ポートPT3のガス導入口PT3xに対向して配置される。具体的には、ケーシング10に設けられた支持部材13に取り付けられることにより、ガス導入口PT3xに対向して配置される。
【0046】
多孔板12の基板サイズは、ガス導入口PT3xの開口サイズよりも大きい。ここで、ガス導入口PT3xから導入される希釈排ガスの流れ方向に対する広がり角度が6度〜13度程度であるため、ガス導入口PT3xからの距離と前記広がり角度とを考慮して、多孔板12の基板サイズを設定する。また、ガス導入口PT3xに対する多孔板12の距離が小さい場合には、圧力損失が大きくなってしまうため、これを考慮して、ガス導入口PT3xに対する多孔板12の距離を設定する。
【0047】
なお、多孔板12の基板サイズが前記ガス導入口PT3xよりも小さい場合には、ガス導入口PT3xから導入された希釈排ガスの流速分布の不均一を十分に解消することができない。また、多孔板12の基板サイズをケーシング10の流路全体をカバーするものとしてしまうと、多孔板12における圧力損失が大きくなってしまう。
【0048】
ここで、
図5に、分散構造12を有さない場合における加熱器21を通過する希釈排ガスの流速分布(
図5(1)参照)と、分散構造12を有する場合における加熱器21を通過する希釈排ガスの流速分布(
図5(2)参照)とを模式的に示す。分散構造12を有さない場合には、ガス導入ポートPT3に対向する中心空間部分の流速が速く、周囲空間部分の流速が遅いという流速分布となる。一方で、分散構造12を有する場合には、中心空間部分の流体抵抗が大きくなるため、希釈排ガスが周囲空間部分に流れることになり、中心空間部分と周囲空間部分との流速の不均一を解消することができる。
【0049】
さらに本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、ケーシング10に収容された筐体222とケーシング10との間の空間をガス導入ポートPT3側とガス導出ポートPT4側とで仕切る仕切構造14を備えている。
【0050】
この仕切構造14は、加熱器21により加熱された希釈排ガスが、冷却器22により冷却されることなくガス導出ポートPT4に流れることを遮るものである。具体的に仕切構造14は、ケーシング10の側壁から内側に突出して設けられたベース部141と、前記冷却器22の筐体222に設けられ、前記ベース部141に取り付けられる取り付け部142とからなる。
【0051】
ベース部141は、ケーシング10の4つの側壁10c〜10fにおいて、取り付け開口部10zを有する後側壁10cを除いた3つの側壁10d〜10fの内面に設けられている。本実施形態のベース部141は、冷却器22の筐体222が載置されるものであり、また、互いに対向する左右側壁10e、10fに設けられた2つのベース部141は、冷却器22を取り付ける際に、筐体222をスライドさせるためのスライド部となる。
【0052】
筐体222に設けられる取り付け部142は、筐体222において前記ベース部141に対応する側壁に設けられたフランジにより構成されている。本実施形態のフランジ142は、筐体222の導出口222bを形成する開口縁から外側に連続して形成されている。
【0053】
そして、冷却器22をケーシング10に取り付けた状態で、冷却器22の筐体222に設けられたフランジ142が、ケーシング10の側壁10d〜10fに設けられたベース部141に接触することにより、ベース部141とフランジ142との間に隙間が無く、希釈排ガスが筐体222の周囲を通ってガス導出ポートPT4及び臨界流量ベンチュリ31に流れないように構成している。これにより、加熱された希釈排ガスが、冷却されることなく臨界流量オリフィス31に流れて、臨界流量オリフィス31の入口温度の温度分布が悪くなることを防止できる。
【0054】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る排ガスサンプリング装置100によれば、ケーシング10に温調機構2を収容するとともに臨界流量ベンチュリ31をケーシング10のガス導出ポートPT4に設けているので、従来のように温調機構2及び臨界流量ベンチュリ31の間に設けられていた配管を不要にすることができ、排ガスサンプリング装置100を小型化することができる。
【0055】
また、ガス導入ポートPT3及び温調機構2の間に分散構造12を設けているので、温調機構2を通過する希釈排ガスの流速分布を均一化させることができ、その結果、温調機構2を通過した希釈排ガスの温度分布を均一化させることができる。ここで、分散構造12を多孔板により構成しているので、分散構造12の構成を極めて簡単にすることができる。また、多孔板12の基板サイズ、多孔板12に形成される孔の開口サイズ、孔の密度又は開口率等を適宜設定することで、希釈排ガスの流速分布を簡単にコントロールすることができる。
【0056】
さらに、ケーシング10の上側壁10aにガス導入ポートPT3、ケーシング10の下側壁10bにガス導出ポートPT4を設け、温調機構2及び臨界流量ベンチュリ31を上下に配置しているので、排ガスサンプリング装置100の設置面積を小さくすることができる。
【0057】
その上、冷却器22の筐体222とケーシング10の側壁10d〜10fとの間に仕切構造14を設けているので、希釈排ガスが冷却器22の筐体222とケーシング10の側壁10d〜10fの間から、希釈排ガスが冷却器22の下流側に漏れることを防止できる。これにより、臨界流量ベンチュリ31に流入する希釈排ガスの温度をより一層均一化することができる。
【0058】
以上のように、排ガスサンプリング装置100を小型化できるだけでなく、臨界流量ベンチュリ31に流れる希釈排ガス温度を均一化することができるので、臨界流量ベンチュリ31を通過する希釈排ガス流量を一定流量に安定させることができる。
【0059】
これにより、温調機構2の上流側(具体的には希釈トンネル41)に接続されたサンプリングラインSL1により比例サンプリングする場合において、サンプリングラインSL1に設けた吸引ポンプの回転数を一定に制御するだけで、正確に比例サンプリングを行うことができる。また、臨界流量ベンチュリ31を通過した希釈排ガス流量が一定で安定しているため、希釈トンネル41を流れた全希釈排ガスの質量(臨界流量ベンチュリ31の制御流量×採取時間)が正確に求まり、エンジンから排出されるPMの全排出量を精度良く測定することができる。
【0060】
さらに、臨界流量ベンチュリ31を通過した希釈排ガス流量が一定で安定しているため、希釈排ガス流量の積算値が正確に求まり、排ガスに含まれる所定成分の排出質量を精度良く測定することができる。これにより、カーボンバランス法により燃料消費量を精度良く算出することができる。
【0061】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0062】
例えば、前記実施形態では、ケーシング10のガス導出ポートPT4に流量制御器である臨界流量ベンリュリ31を設けて接続配管を無くした構成としているが、これに限られず、ガス温度が均一にならないほどの短い配管を、ガス導出ポートPT4と臨界流量ベンチュリ31との間に設けた構成も、本発明に含まれる。
【0063】
また、前記実施形態の分散構造12は、ガス導入ポートPT3から導入された希釈排ガスの流体抵抗となるものであれば多孔板に限られず、多孔質部材を用いて構成しても良い。多孔板12の形状としては、矩形平板状に限られず、ガス導入ポートPT3のガス導入口PT3xを流れ方向から見たときに、多孔板12がガス導入口PT3xを覆うものであれば、例えば円形状、楕円形状又は多角形状等をなすものであっても良い。
【0064】
また、前記実施形態では、分散構造12をガス導入ポートPT3及び温調機構2(具体的には加熱器21)の間に設けているが、これに加えて、加熱器21及び冷却器22の間にも分散構造を設けても良い。これならば、冷却器22に流入する希釈排ガスの流速分布をより一層均一にすることができ、冷却器22を通過した希釈排ガスの温度分布をより一層均一にすることができる。
【0065】
さらに、前記実施形態では、ガス導入ポートPT3がケーシング10の上側壁10aに設けられ、ガス導出ポートPT4がケーシング10の下側壁10bに設けられているが、ケーシング10の互いに対向する側壁(例えば左右側壁、前後側壁)に設けられたものであっても良い。これならば、排ガスサンプリング装置100の高さ寸法を小さくすることができる。
【0066】
その上、前記実施形態では、ケーシング10に複数の臨界流量ベンチュリ31を設ける構成であったが、喉部面積を機械的に変えられる単一の臨界流量ベンチュリを設ける構成としても良い。また、前記実施形態の流量制御器31は臨界流量ベンチュリを用いたものであったが、臨界流量ベンチュリの他に、臨界流量オリフィス(CFO)やスムーズアプローチオリフィス(SAO)を用いたものであっても良い。また、流量制御機構3としてポジティブディスプレースメントポンプ(PDP)を用いてもよい。
【0067】
さらに加えて、前記実施形態の排ガスサンプリング装置100は排ガスを全量希釈するものであったが、部分希釈するものであっても良い。つまり、前記排ガス導入ポートPT1が排ガスの一部を採取して希釈排ガス流路に導入するものであっても良い。
【0068】
分析機器200は、排ガス採取バッグでもよいし、希釈排ガス成分を連続的に測定する測定器でもよい。
【0069】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。