【実施例】
【0108】
以下に本発明の実施例についてさらに詳細に説明する。
【0109】
表2に、以下の実施例及び比較例において製造した化合物名称と構造を示した。
【0110】
【表2】
【0111】
[実施例1](B−2の合成)
<メシル化>
2,2’−ジチオジエタノール(ACROS社製)15g(97.2mmol)に、アセトニトリル143mlを加え、20〜25℃にて溶解させた。トリエチルアミン33.3g(328mmol)を加え、20〜25℃で5分間攪拌した後に、氷冷下にて塩化メタンスルホニル34.5g(300mmol)を加え、20〜25℃にて3時間反応を行った。TLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=85/15(v/v))を行い、反応生成物のスポットが得られたこと、並びに原料である2,2’−ジチオジエタノールが消失したことを確認し反応を終了した。反応溶液にエタノール29mLを加え反応を停止させた後に、不溶物を濾紙(5A)で濾別した。濾液に、ジクロロメタン150ml、10%重曹水150gを加え5分間攪拌を行った後に10分間静置し、水層を除去した。次に、有機層に水150gを加え5分間攪拌を行った後に10分間静置し、水層を除去した。水洗を4回繰り返した後に、有機層を回収し、硫酸ナトリウム4.5gを加え脱水を行った。脱水処理後に、オプライト、濾紙(5A)にてろ過を行い、エバポレーターを用いて濾液の溶媒を留去し褐色液体29.4gを得た。
【0112】
<3級アミノ化>
ジメシル体5.0g(16mmol)にアセトニトリル127mlを加え40℃にて溶解させ、更に炭酸カリウム5.5g(39.8mmol)を加え25℃で5分間攪拌した。3−(メチルアミノ)−1−プロパノール(東京化成工業社製)7.2g(80.8mmol)をアセトニトリル9.2mlにて25℃で溶解させた後に、上記のジメシル体/アセトニトリル溶液に1.5時間かけて滴下した。滴下終了2時間後にTLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水=80/20/2(v/v/v))を行い、反応が終了したことを確認した。濾紙(5A)にて炭酸カリウムを濾別した後にエバポレーターを用いて溶媒を留去し、褐色液体13.2gを得た。得られた褐色液体をクロロホルム132mlを用いて溶解させた後に、10%食塩水132mlを加え洗浄を行った。水層を廃棄し、10%食塩水洗浄を5回繰り返すことで原料である3−(メチルアミノ)−1−プロパノールを除去した。クロロホルム層を回収した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、淡黄色透明の液体(以下di−MAP体)4.3gを得た。
【0113】
<アシル化>
ミリスチン酸1.5g(6.7mmol)をジクロロメタン5.8mlに溶解させた後に、DMAP0.082g(0.67mmol)を加え、TEA0.68g(6.7mmol)を氷冷下にて加えた。この溶液に、di−MAP体1g(3.4mmol)、ジイソプロピルカルボジイミド(以下DIC)1.7g(13.5mmol)をジクロロメタン5.8mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後から2時間後のTLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=95/5(v/v))を行った結果より、di−MAP体が消失したことを確認し反応を終了した。濾紙(5A)を用いて不溶分を濾別した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、無色透明液体7.2gを得た。この液体にアセトニトリル38mlを加え冷却晶析(10℃)を3回行った。得られた結晶をヘキサン45mlで溶解させ、そこにアセトニトリル38mlを加え抽出洗浄を行った。アセトニトリル層を廃棄し、更に抽出洗浄を6回繰り返し、DIC、ミリスチン酸由来の不純物を除去した。ヘキサン層を回収した後に、エバポレーターを用いて溶媒を留去し目的物であるB−2化合物0.73gを得た。
【0114】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ0.85〜0.9ppm(t、CH
3-CH
2-、6H)、δ1.22〜1.35ppm(m、CH
3-(CH
2)
10-、40H)、δ2.67〜2.7ppm(q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ2.78〜2.82(q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ4.10〜4.13 (t、-CH
2-C(O)-O-CH
2-、4H)
【0115】
[実施例2](B−2−2の合成)
di−MAP体2.0g(6.7mmol)とステアリン酸4.6g(16.2mmol)をクロロホルム20mlに溶解させた後に、DMAP0.33g(2.7mmol)及び1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下EDC)3.9g(20.3mmol)を加えた。反応4時間後のTLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=95/5(v/v))を行った結果より、di−MAP体が消失したことを確認し反応を終了した。その後、反応液を5%重曹水10gを用いて抽出洗浄した後に、水層を廃棄した。次に、回収した有機層に水10gを加えることにより水洗を行った。水層廃棄後、有機層に硫酸マグネシウム0.4gを加えることにより脱水処理を行った。オプライト、濾紙(5A)にて不溶分を濾別し、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、橙色の液体(以下ジアシル体)7.9gを得た。
【0116】
ジアシル体をヘキサン45mlに溶解させた後に、アセトニトリル38mlを加え、抽出洗浄を行った。アセトニトリル層を廃棄し、更にヘキサン/アセトニトリル洗浄を2回繰り返した。ヘキサン層を回収し、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、無色透明の液体7.1gを得た。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:酢酸エチル)し、目的物であるB−2−2化合物1.4gを得た。
【0117】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ0.85〜0.9ppm(t、CH
3-CH
2-、6H)、δ1.22〜1.35ppm(m、CH
3-(CH
2)
14-、56H)、δ2.67〜2.7ppm(q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ2.78〜2.82(q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ4.10〜4.13 (t、-CH
2-C(O)-O-CH
2-、4H)
【0118】
[実施例3](B−2−3の合成)
di−MAP体2.0g(6.7mmol)、リノール酸4.5g(16.0mmol)をクロロホルム20mlに溶解させた後に、DMAP0.33g(2.7mmol)、EDC3.9g(20.3mmol)を加えた。反応4時間後のTLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=95/5(v/v))を行った結果より、di−MAP体が消失したことを確認し反応を終了した。その後、反応液を5%重曹水10gを用いて抽出洗浄した後に、水層を廃棄した。次に、回収した有機層に水10gを加えることにより水洗を行った。水層廃棄後、有機層に硫酸マグネシウム0.4gを加えることにより脱水処理を行った。オプライト、濾紙(5A)にて不溶分を濾別し、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、橙色の液体であるジアシル体6.0gを得た。
【0119】
得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/5(v/v))し、目的物であるB−2−3化合物0.7gを得た。
【0120】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ0.85〜0.9ppm(t、CH
3-CH
2-、6H)、δ1.22〜1.35ppm(m、CH
3-(CH
2)
3-、(CH
2)
4-CH
2-CH
2-C(O)-O-、28H)、δ2.67〜2.7ppm(q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ4.10〜4.13 (t、-CH
2-C(O)-O-CH
2-、4H) 、δ5.30〜5.40(m、- CH
2- CH- CH- CH
2-、8H)
【0121】
[実施例4]
(B-2-4の合成)
di-MAP 体0.40 g (1.35 mmol)とレチノイン酸 (all-trans-retinoic acid,和光純薬工業) 0.97 g (3.24mmol)をクロロホルム 6.00 gに溶解させた後に、DMAP 0.07 g (0.54mmol)、EDC 0.78 g (4.05mmol) を加え、25±3℃ にて5 時間反応させた。TLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール = 9/1 v/v )により、di-MAP体が消失したことを確認し反応を終了した。エバポレーターを用いて溶媒を留去し、2.70 g の液体を得た。この液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:クロロホルム/メタノール = 98/2 (v/v))し、目的物であるB-2-4化合物0.42gを得た。
【0122】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ1.00〜1.10ppm(s、(CH
3)
2C-、12H)、δ1.45〜1.50ppm(t、(CH
3)
2C-CH
2-CH
2-、4H)、δ1.55〜1.65ppm (m、-CH
2-CH
2-CH
2-、4H)、δ1.70〜1.75 (s、-CH
2-C(CH
3)=C-、6H) 、δ1.80〜1.90(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-O-C(O)-、4H)、δ1.95〜2.0.5(m、-CH
2-CH
2-C(CH
3)=C-、=CH-CH(CH
3)=CH-、10H)、δ2.20〜2.30(s、-N(CH
3)-、6H)、δ2.30〜2.40(s、-C(CH
3)=CH-C(O)-O-、6H)、δ2.45〜2.55(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-O-C(O)-、4H)、δ2.65〜2.75(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ2.75〜2.85(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ4.10〜4.25(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2- CH
2-O-C(O)-、4H) 、δ5.75〜5.85(t、-C(O)-O-CH
2-CH
2-O-C(O)-、4H)
【0123】
[実施例5]
(B-2-5の合成)
di-MAP 体 0.50 g (1.69 mmol)とD-α-tocopherol succinate (SIGMA-ALDRICH) 2.15 g (4.06mmol)をクロロホルム 7.50 g,に溶解させた後に、DMAP 0.08 g (0.62mmol)、EDC 0.97 g (5.07mmol) を加え、25±3℃ にて4 時間反応させた。TLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール = 9/1 v/v )により、di-MAP体が消失したことを確認し反応を終了した。エバポレーターを用いて溶媒を留去し、2.23gの液体を得た。この液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製(溶離液:クロロホルム/メタノール = 98.5/1.5 (v/v))し、目的物であるB-2-5化合物 0.94gを得た。
【0124】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ0.85〜0.9ppm(t、CH
3-CH
2-、-CH
2-(CH
3-)CH-CH
2-、24H)、δ1.00〜1.75ppm(m、CH
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-、42H)、δ1.75〜1.85ppm (q、-N(CH
3)-CH
2-CH
2- CH
2-O-C(O)-、4H)、δ1.95〜2.15 (s、-C=C(CH
3)-、18H) 、δ2.20〜2.30(s、-N(CH
3)-、6H)、δ2.40〜2.50(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ2.50〜2.63(t、-CH
2-CH
2-CH=CH-、4H)、δ2.63〜2.70(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-S-、4H)、δ2.70〜2.85(m、-N(CH
3)-CH
2-CH
2- CH
2-O-C(O)-、-C(O)-O-CH
2-CH
2-O-C(O)-、8H)、δ2.85〜3.00(t、-C(O)-O-CH
2-CH
2-O-C(O)-、4H)、δ4.10〜4.25(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-O-C(O)-、4H)
【0125】
[比較例1]
(B−2−1の合成)
ジスルフィド結合を有する本発明との比較を行う意図で、実施例1の化合物のジスルフィド結合を炭素結合に置換した化合物の合成を行った。
【0126】
<三級アミノ化>
1,6−ジブロモヘキサン(東京化成工業社製)6.0g(24.6mmol)をDMF12.7mlに溶解させ、3−(メチルアミノ)−1−プロパノール(東京化成工業社製)6.6g(73.7mmol)と炭酸カリウム1.7g(12.3mmol)を加え、20〜25℃にて3時間攪拌した。TLC(展開溶媒:クロロホルム/メタノール/28%アンモニア水溶液=80/20/2(v/v/v))にて反応の進行を確認した。反応液中の炭酸カリウムを濾紙(5A)を用いて濾別した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、褐色液体を得た。得られた褐色液体をクロロホルム20mlで溶解させ、水30gを用いて抽出洗浄した。有機層の溶媒をエバポレーターを用いて留去し、褐色液体3.6gを得た。
【0127】
<アシル化>
得られた液体2.0g、ミリスチン酸4.0g(18.4mmol)をクロロホルム20mlに溶解させた後に、DMAP0.37g(3.0mmol)、EDC4.4g(23.1mmol)を加えた。反応4時間後のTLC分析(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=85/15(v/v))を行った結果より、原料が消失したことを確認し反応を終了した。その後、反応液を5%重曹水10gを用いて抽出洗浄した後に、水層を廃棄した。次に、回収した有機層に水10gを加えることにより水洗を行った。水層廃棄後、有機層に硫酸ナトリウム2gを加えることにより脱水処理を行った。オプライト、濾紙(5A)にて不溶分を濾別し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた濃縮物をヘキサン47mlに溶解し、アセトニトリル39mlを用いて抽出洗浄した。ヘキサン層を回収し、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、目的物であるB2−2−1化合物2.83gを得た。
【0128】
1H-NMR(400MHz CDCl
3)分析を行った結果
δ0.85〜0.9ppm(t、CH
3-CH
2-、6H)、δ1.22〜1.35ppm(m、CH
3-(CH
2)
10-、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-、44H)、δ1.40〜1.50ppm(m、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-、4H)、δ2.37〜2.41(t、-N(CH
3)-CH
2-CH
2-CH
2-、4H)、δ4.08〜4.12 (t、-CH
2-C(O)-O-CH
2-、4H)
【0129】
[試験例1] 各種MENDの調製
(1)プラスミドDNA(pDNA)とプロタミンからなる核酸静電的複合体の形成
ベクターのコアとして、ルシフェラーゼ遺伝子をコードするpDNA溶液、プロタミン(CALBIOCHEM)溶液を、10mM HEPES緩衝液でそれぞれ0.3mg/mL、0.05mg/mLに希釈し、0.3mg/mL pDNA125μLを攪拌しながら0.24mg/mL プロタミン125μLを少量ずつ滴下してプロタミンとpDNAの静電的複合体を調製した(N/P比=1.2)。下記の(2)記載の方法による方法においては、pHが5.3の10mM HEPES緩衝液を用い、また、(3)記載の方法においては、pHが7.4の10mM HEPES緩衝液を用いた。
【0130】
(2)エタノール希釈法によるMENDの調製
脂質のエタノール溶液は、エッペンドルフチューブに5mMのカチオン性脂質、5mMリン脂質、5mM コレステロール(Chol)を総脂質165nmolになるように目的の割合で混合し、各種PEG脂質(1mM エタノール溶液)をさらに総脂質の3モル%相当量添加し、全量で100μLとなるようにエタノールを加えた。脂質溶液をボルテックスミキサーを用いて攪拌しながら、[試験例1](1)で調製した核酸静電的複合体100μL(10mM HEPES;pH5.3)を素早く加え、その後pH5.3に調製した10mM HEPES緩衝液1.8mLを加え、エタノール濃度が5%になるまで希釈した。Amicon Ultra 4(Millipore社)を用い、遠心条件(室温,2267rpm,20min)で約50μLまで限外濾過し濃縮した。その後、pH7.4に調製した100mM HEPES緩衝液を用いて4mLまでメスアップし、再度、室温条件で遠心(2267rpm,20min)を行うことで濃縮した。最後に、10mM HEPES緩衝液(pH7.4)で目的の脂質濃度になるようメスアップした。
【0131】
(3)単純水和法によるMENDの調製
ガラス試験管にDOTAP:DOPE:Chol=3:4:3となるように、各脂質のクロロホルム溶液5mM DOTAP24.75μL、5mM DOPE33μL、5mM Chol24.75μLを混ぜ、総脂質量は412.5nmolとなるようにした。全量で250μLとなるようにエタノールを加え、デシケーターで減圧乾燥し、溶媒を留去して脂質薄膜を得た。脂質薄膜に総脂質濃度が1.65mMとなるように[試験例1](1)で調製した遺伝子静電的複合体250μL(10mM HEPES;pH7.4)を添加し、室温で10min静置し水和させた後、ソニケーター(アイワ医科工業株式会社)で1分間超音波処理した。
【0132】
(4)ローダミン標識化pDNAを用いたMENDの調製
ローダミン標識pDNAは、Label/IT CX−Rhodamine Labeling Kit(Mirus)を用いて添付プロトコルに従い調製した。得られたローダミン標識pDNA溶液は、Nano Drop(Thermo Scientific)を用いて、濃度を算出した。ローダミン標識されたpDNAが封入されたMENDを調製する際には、[試験例1](1)に記載したpDNA溶液をすべてローダミン標識されたpDNAに置き換え、[試験例1](2)、(3)に記載の方法に従いMENDを調製した。
【0133】
(5)脂質膜が蛍光標識されたMENDの調製
[試験例1]
(2)、(3)に記載されたMENDの調製時に、NBD−DOPE(Avanti Polar Lipids)のエタノール溶液を総脂質量の1モル%相当分加えることで、脂質膜が蛍光ラベルされたMENDの調製を行った。
【0134】
[試験例2]
各種MENDの粒子径、及び表面電位の測定
粒子径並びに表面電位は、動的光散乱法(Zetasizer Nano;Malve Rn社)を用いて測定した。[試験例1]の調製法により調製された各種MENDの粒子径、表面電位を表3に示す。B−2やDODAPでは、生理的pHにおいて、電荷は好ましい形態である−10〜+10mVであるのに対し、B−2−1においては、+12.3と+10mV以上の電荷を帯びていた。
また、公知のカチオン性脂質であるDOTAPを用いたMENDでは表面電位は+50mV程度であった。
【0135】
【表3】
【0136】
[試験例3]
還元的環境でのリポソーム崩壊試験
TNSを用いた各種MENDの還元的環境下における脂質膜不安定性の評価
各種MEND溶液に終濃度10mMとなるようにDTTを加え37℃で静置した。0、1、2、4、8、24時間後のタイムポイントにおいてTNS(6−(p−Toludino)−2−Naphthalene Sulfonic acid)による蛍光強度を測定した。MEND溶液を0.5mMへと希釈し、0.5mM MEND溶液12μL、酸性pH(pH4.0)の20mMクエン酸緩衝液(150mM NaCl含有)を186μL、0.6mM TNS2μLを蛍光測定用96−well plate(nunc社)へ加え、励起波長321nm、検出波長447nmで、37℃での蛍光強度を測定した。コントロールとして、DTTを含んでいない同量の10mM HEPES緩衝液を0時間で加え、各時間37℃で静置したMEND溶液を用い、同様の処理によりTNSによる蛍光強度測定を行った。コントロールの蛍光強度で還元環境下の蛍光強度を除したものを、脂質膜の不安定化の指標としている。結果を
図1に示す。
【0137】
この結果、ジスルフィド結合を持たないDODAP及びB−2−1においては、DTT処理によるTNSの蛍光減弱は観察されなかった。一方、B−2においては、時間依存的なTNSによる蛍光の消失が認められた。TNSは、pH4.0の酸性環境下において、正の表面電位を有する粒子表面に静電的相互作用を介して吸着し、また、リポソームの脂質構造部位の脂溶性環境に応じて蛍光を発するものである。本結果のような、B−2における蛍光の消失は、脂溶性環境の喪失に依存したものであると考えられ、脂質の分解に伴う脂質膜構造の崩壊を示唆するものである。
【0138】
[試験例4]
遺伝子発現及び細胞内取り込み活性評価
(1)MENDの細胞内取り込み量評価
カチオン性脂質としてB−2(実施例1)、B−2−1(比較例1)、DODAP(比較例2)を用い、カチオン性脂質:SOPE:Chol=3:4:3からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000DSGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP(比較例3):DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。各種MENDの脂質を蛍光ラベルする際には、[試験例1](5)に記載の方法で行った。
【0139】
24時間前に6−well plateに、HT1080細胞を2×10
5cells/2mL/wellで播種し、各種サンプルMENDを脂質濃度27.5nmol/1mL/wellになるようにDMEM(FBS+)で希釈しウェルにトランスフェクションした。1時間後にMEND含有DMEMを除去し、ヘパリン(20units/mL)1mLで2回細胞を洗浄し、さらにPBS(−)1mLで1回洗浄した。0.05% Trypsin溶液500μLを添加した後、37℃インキュベーターに3分静置した。DMEM(FBS+)1mLを入れて遠心(700g、4℃、5min)したのち、上清を除去してFACS緩衝液1mLに懸濁させた。懸濁液を遠心(700g、4℃、5分)し、上清を除去した後再びFACS緩衝液500μLに懸濁させた。測定直前に44μmのナイロンメッシュに通し、細胞内のNBDの蛍光強度を測定した。結果を
図2に示す。
【0140】
蛍光標識した脂質であるNBD−DOPEをMENDの脂質膜に修飾し、MENDの細胞内取り込みを評価した結果、生理的pH(pH=7.4)でカチオン性を有するB−2−1及びDOTAPを用いたものに比べ、中性の粒子であるB−2及びDODAPの取り込み量は、未処理群(バックグラウンド)よりも優位に高いものの極めて低いものであった。
【0141】
(2)MENDの遺伝子発現評価
カチオン性脂質としてB−2(実施例1)、B−2−1(比較例1)、DODAP(比較例2)を用い、カチオン性脂質:SOPE:Chol=3:4:3からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000DSGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP:DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。
【0142】
24時間前に24−well plateにHT1080細胞を4×10
4 cell/500μL/wellで播種し、各種MENDをpDNA量に換算して0.4μg/500μL/wellとなるようにDMEM(FBS10%+)で希釈し、トランスフェクションした。24時間後、PBS(−)500μLで細胞を洗浄した後、1×lysis緩衝液を各wellに対して75μLずつ加え、−80℃で30分以上放置した。凍結させた24−well plateを氷上で解凍し、セルスクレーパーで細胞を剥がし、全量をエッペンドルフチューブに移し(15000rpm、4℃、5min)の条件で遠心分離した。上清50μLを別のエッペンドルフチューブに回収し、これをルシフェラーゼアッセイとBCAアッセイに用いた。
【0143】
20μLをLuciferase assay substrate 50μLと混合し、ルミノメーターで一定時間内におけるルシフェラーゼ活性を測定した。また、得られたライセートをDDWで5倍希釈し、全体で25μLとした。そこにBCA Protein Assay Reagentを200μL添加、混合し37℃で30分静置した。その後、562nmにおける吸光度を測定し、濃度既知のBSA溶液の吸光度から、サンプルのタンパク質量を算出した。ルシフェラーゼ活性(RLU)をタンパク質量(mg)で除することで補正を行い、細胞タンパク量あたりのルシフェラーゼ活性(RLU/mg protein)を算出した。結果を
図3に示す。
【0144】
B−2及びB−2−1から形成されるMENDの活性は、従来公知のカチオン性脂質であるDODAPの活性を上回った。また、B−2から調製されるMENDの活性は、B−2−1から形成されるMENDと比較して有意に高かった。特にB−2においては、従来公知のカチオン性脂質であるDOTAPと同程度の活性が得られた。
【0145】
B−2からなるMENDは、カチオン性脂質DOTAPから形成されるMENDと比較して細胞内への取り込みが低いのに関わらず、同等の遺伝子発現活性を有することが明らかとなった。遺伝子導入活性を[試験例4](1)から得られた細胞内取り込み量で除した値を
図4に示す。従来のDOTAPやDODAPあるいは、ジスルフィド基をもたないB−2−1と比較して、B−2の値が高いことから、細胞内に取り込まれた後の細胞内動態特性が優れていることが示された。
【0146】
[試験例5]
遺伝子発現活性
B−2(実施例1)及び、B−2−2(実施例2)、B−2−3(実施例3)をカチオン性脂質として、カチオン性脂質:SOPE:Chol=3:4:3からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DSGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。遺伝子発現評価は、[実施例4](2)に記載の方法で行った。結果を
図5に示す。
【0147】
B−2−2及びB−2−3から形成されるMENDは、B−2の活性には劣るものの、従来型のpH応答脂質カチオン性脂質であるDODAPの活性を超えることが明らかとなった。
【0148】
[試験例6]
細胞内動態(エンドソーム脱出効率)
MEND調製には、[試験例1](4)の方法で調製されたRhodamine標識pDNAを用いた。 カチオン性脂質:SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP(比較例3):DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。また、DOTAP:DOPE:Chol:=3:4:3の脂質組成を有するカチオン性MENDも単純水和法により調製し、脂質濃度として0.55mMとした。
【0149】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を1×10
5cell/2mL/dishで播種し、B−2、DODAPからなるMENDは細胞への取り込み活性が低いことからpDNA8μg/1mL Krebs緩衝液/dishとなるようMENDをKrebs緩衝液で希釈し、また、取り込み活性の高いB−2−1、DOTAP MENDはpDNA1.6μg/1mL Krebs緩衝液/dishとなるようMENDをKrebs緩衝液で希釈して細胞にトランスフェクションした。2.5時間後、Lysotracker Green(Life technologies社)を1μL/dishで添加し、さらに30分後にHoechst 33342(Dojindo)を1μL/dishで添加した。トランスフェクションの3時間後に、ヘパリン(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察した。結果を
図6に示す。また、本結果を定量化した結果を
図7に示す。
【0150】
Rhodamine標識したpDNA、エンドソーム・ライソソーム、核をそれぞれ赤、緑、青色で擬似カラー表示した。赤と緑の共局在を見ることでエンドソーム脱出能を評価した。B−2、B−2−1及びDOTAPは赤色単独のシグナルが存在し、エンドソーム脱出能は各MENDとも高いと思われる。一方、DODAPは赤と緑の共局在が目立ち、黄色のドットが観察された。これより、エンドソーム脱出能は、B−2やB−2−1を用いて形成されるMENDのほうがDODAPを用いたMENDと比較して良好であることが示唆された。さらに遺伝子のエンドソーム脱出効率を定量化した結果、DODAP<B−2−1<B−2の順に高くなることが示された。
【0151】
[試験例7]
細胞内動態(脱被覆効率)
MEND調製には、[試験例1](4)の方法で調製されたRhodamine標識pDNAを用いた。また、MENDを構成する脂質の蛍光ラベル化は、[試験例1](3)に記載の方法により行った。カチオン性脂質:SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP:DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。
【0152】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を1×10
5cell/2mL/dishで播種し、B−2 MENDはpDNA8μg/1mL Krebs緩衝液/dishとなるようMENDをKrebs緩衝液で希釈した。B−2−1、DOTAP MENDはpDNA1.6μg/1mL Krebs緩衝液/dishとなるようMENDをKrebs緩衝液で希釈してトランスフェクションした。2.5時間後にHoechst 33342を1μL/dishで添加し、さらに30分後にヘパリン溶液(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察した。結果を
図8に示す。
【0153】
Rhodamine標識したpDNA、MENDの脂質膜、核をそれぞれ赤、緑、青色で擬似カラー表示した。B−2とDOTAPは赤のドットが目立ち、遺伝子は細胞内で効率的にMENDから解離していると考えられる。一方、B−2−1は明らかに赤と緑が共局在し、ほぼすべてのpDNAが黄色のドットとして観察された。これより、B−2 MENDの遺伝子の脱被覆化効率はB−2−1 MENDより優れていると考えられる。
【0154】
[試験例8]
in vivoにおける遺伝子発現活性、及び活性持続時間
(1)in vivo投与用MENDの調製
ベクターのコアとして、ルシフェラーゼ遺伝子をコードするpDNA溶液、プロタミン(メーカー)溶液をそれぞれ、10mM HEPES緩衝液でそれぞれ0.3mg/mL、0.24mg/mLに希釈し、0.3mg/mL pDNA400μLを攪拌しながら0.23mg/mLのプロタミン溶液を400μLを少量ずつ滴下してプロタミンとpDNAの静電的複合体を調製した(N/P比=1.2)。
【0155】
脂質のエタノール溶液は、エッペンドルフチューブに5mMのB−2、5mM SOPC、5mM CholをB−2:SOPC:Chol=3:4:3の比率で、総脂質1.65mMになるように混合した。さらにPEG脂質としてPEG
2000−DSGを総脂質量に対して10モル%相当量加え、全量で750μLとなるようにエタノールを加えた。遺伝子・プロタミンからなる静電的複合体溶液750μLを脂質溶液750μLと混合し、素早く撹拌した後、10mM HEPES溶液(pH5.3)で15mLに希釈し、Amicon(R) Ultra−15 100K deviceを用い、3,000rpm,15分,25℃で限外ろ過を行った。限外ろ過後の溶液を100mM HEPES緩衝液(pH7.4)で希釈し、再び限外ろ過を行った。この溶液を10mM HEPES緩衝液で750μLに希釈した。
【0156】
(2)B−2 MENDの遺伝子発現活性の時間依存性の検討
(1)の項で示した方法で調製したMEND溶液、及び肝臓で高い遺伝子発現を有している、MPC/GALAを使用したカチオン性MEND(Ukawa et al., Biomaterials., 31(24) 6355-6362(2010))を各々40μg DNA相当、5週齢の雄のICRマウスに尾静脈投与した。6、24、48、72時間後にマウスを頸椎脱臼法によって安楽死させ、肝臓・肺・脾臓を摘出し、液体窒素で凍結処理した。これをLysis緩衝液中で融解させ、ホモジネートの作製を行った。これを13,000rpm,10分,4℃で遠心し、上清を採取し、これを測定サンプルとした。サンプル溶液20μLをルシフェラーゼ基質50μLと混合し、Luminescenser−PSN(AB2200 ATTO)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。また、サンプル中のタンパク質濃度を、BCA protein assay kitを用いて定量し、遺伝子発現活性をRLU/mg proteinとして測定した。結果を
図9及び
図10に示す。
【0157】
MPC/GALAを使用したカチオン性MENDでは、6時間後に遺伝子発現活性がピークとなり、その後、時間とともに急速に遺伝子発現が低下することが明らかとなった。一般的なカチオン性リポプレックスと同じ傾向であった(Sakurai et al., Journal of Controlled Release 17 (2007) 430-437)。一方、B−2 MENDでは、緩やかに遺伝子発現活性が上昇していき、48時間後に最大となった。これらの結果より、B−2 MENDは従来型のベクターよりも発現持続性に富んでいることが示唆された(
図9)。
【0158】
また、従来のカチオン性MENDでは臓器選択性が乏しく、肝臓と同等程度の遺伝子発現活性が肺や脾臓においてもみられるが、B−2 MENDでは、肺や脾臓における遺伝子発現活性はバックグラウンドレベルであり、臓器選択性(特に、肝臓選択性)に優れていることが示された(
図10)。
【0159】
[試験例9]
エンドソーム、ライソソーム酸性化阻害による遺伝子発現活性への影響
カチオン性脂質としてB−2(実施例1)、B−2−1(比較例1)、DODAP(比較例2)を用い、カチオン性脂質:SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP(比較例3):DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。
【0160】
24時間前に24−well plateにHT1080細胞を4×10
4 cell/500μL/wellで播種し、30分前にバフィロマイシンA1を0.5μMになるよう添加し、前処理を行った。各種MENDをpDNA量に換算して0.4μg/500μL/wellとなるようにDMEM(FBS10%+)で希釈し、バフィロマイシンA1を0.5μMになるよう添加し、トランスフェクションした。3時間後にMEND溶液を除去し、DMEM(FBS10%+)を500μL/wellとなるよう添加し、メディウムチェンジした。24時間後、PBS(−)500μLで細胞を洗浄した後、1×lysis緩衝液を各wellに対して75μLずつ加え、−80℃で30分以上放置した。凍結させた24−well plateを氷上で解凍し、セルスクレーパーで細胞を剥がし、全量をエッペンドルフチューブに移し(15000rpm、4℃、5min)の条件で遠心分離した。上清50μLを別のエッペンドルフチューブに回収し、これをルシフェラーゼアッセイとBCAアッセイに用いた。遺伝子発現評価は、[試験例4](2)に記載の方法で行った。
【0161】
この結果、生理的pH環境下でカチオン性であるB−2−1及びDOTAPにおいては、遺伝子発現活性の低下は観察されなかった。一方、B−2、DODAPにおいては、遺伝子発現活性の低下が認められた。本結果から、B−2、DODAPにおける遺伝子発現活性には、エンドソーム酸性化による脂質膜の正電荷帯電が寄与することが示唆された(
図11)。
【0162】
[試験例10]
試験管内翻訳反応に対する影響の評価
Rabbit Reticulocyte Lysate Systems, Nuclease Treated(promega社)を用いた試験管内翻訳系に対する阻害効果の評価
B−2:SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP:DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。
【0163】
LuciferaseのmRNA溶液を0.005μg/μLとなるよう希釈した。mRNA溶液1μLに対し、各種MEND溶液を0.0625、0.125、0.25μgとなるよう加え全量を6.5μLとした。 RRL(Rabit Reticulocyte Lysate)17.5μL、AAM(Amino Acid Mixture)−Met0.25μL、AAM−Leu0.25μL、RRI(Recombinant RNase Inhibitor)0.5μLを混合したものを加え、30℃で90分静置した。
【0164】
10μLをLuciferase assay substrate 50μLと混合し、ルミノメーターで一定時間内におけるルシフェラーゼ活性を測定した。また、得られた反応溶液をDDWで500倍希釈し、全体で25μLとした。そこにBCA Protein Assay Reagentを200μL添加、混合し37℃で30分静置した。その後、562nmにおける吸光度を測定し、濃度既知のBSA溶液の吸光度から、サンプルのタンパク質量を算出した。ルシフェラーゼ活性(RLU)をタンパク質量(mg)で除することで補正を行い、細胞タンパク量あたりのルシフェラーゼ活性(RLU/mg protein)を算出した。結果を(
図12)に示す。
【0165】
この結果、DOTAPを用いたMENDにおいて試験管内翻訳反応に有意な阻害効果が観察されたが、B−2を用いたものでは観察されなかった。これより、B−2は細胞内における核酸との相互作用が小さいと考えられる。
【0166】
[試験例11]
血清耐性評価
B−2(実施例1):SOPE:Chol=3:4:3あるいは、B−2(実施例1):SOPC:Chol=3:4:3からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0167】
4週齢の雄のICRマウスの腹腔から採血し、室温で30分静置して血液を完全に凝固させた。タッピングによって血餅を壁からはがし、4,000rpm,15分,25℃で遠心し、上清を回収した。Naked pDNA、Core、MEND溶液とマウス血清を混合することで90%マウス血清とし、650rpm、37℃で静置した。0,1,3,6,24時間後において70μLずつ−20℃で凍結し、保存した。反応液に水210μLを加えて希釈し、280μLのアルカリ性フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコールを混合して30秒ほど激しく撹拌し、15,000rpm,15分,25℃で遠心し、上清を回収した。電気泳動には1%アガロースゲルを用いた。サンプル12μLに6xloading dye 2μLを混合し、全量をウェルにアプライし泳動した。ゲルをEtBr水溶液に30分浸して染色し、撮影を行なった。
【0168】
Naked pDNAとCoreでは血清混合後、1時間でpDNAは分解されバンドは観察されなかったが、MEND化することで24時間後にもバンドが確認された。本結果から、B−2を用いて調製したMENDは血清耐性を持ち、pDNAの血清中での分解を防ぐことができることを確認した(
図13)。
【0169】
[試験例12]
B−2 MENDによる遺伝子発現活性の経時変化の評価
試験例9で示した方法で調製したMEND溶液、及び肝臓で高い遺伝子発現を有している、R8/GALAを使用したカチオン性MEND(Khalil et al., J Control Release., 156(3) 374-80, 2011)、肝臓を標的とした市販の遺伝子導入試薬であるin vivo JetPEI−Gal (PolyPlus−Transfection)を各々40μg DNA相当、5週齢の雄のICRマウスに尾静脈投与した。この際、B−2からなるMENDに搭載するDNAとして、免疫応答を誘起することが知られているCpG配列をすべて除外したpDNAとして、国際公開第2011/132713号に記載のpCpGfree-Luc(0)を、また、CpG配列を有する一般的なpDNAとして、プラスミドDNAのバックボーンにCpG配列を含み、かつマーカー遺伝子であるルシフェラーゼ配列の開始コドンからストップコドンにもCpG配列を有するプラスミドDNA(pcDNA3.1-Luc(+);CpG配列合計425個)を用いた。カチオン性MENDおよび、in vivo JetPEI−Galを用いた遺伝子導入においては、pCpGfree-Luc(0)のみを用いた。6,24, 72時間後に3mg相当のルシフェリン(in vivo grade, Promega)をマウスに腹腔内投与し、IVIS LuminaII(Caliper Life Sciences)を用いてイメージングを行った。なお、B−2からなるMENDについては72時間より後の時刻においても週に2回程度イメージングを行った。取得した画像からマウス腹部における総発光量をphoton/secとして算出し、これを肝臓における遺伝子発現活性の指標とした。取得した画像を
図14(上段)に、総発光量のグラフを
図14(下段)に示した。
【0170】
R8/GALAを使用したカチオン性MENDでは、6時間後に強い発光がみられた後、時間とともに急速に遺伝子発現が低下し、72時間後には全く発光がみられなくなった。また、in vivo JetPEI−Galにおいては、特に6時間後において肺由来の発光が非常に高く、肝臓への臓器選択性が低いことが示された。さらに、本ベクターを用いた際の遺伝子発現の持続性も乏しいものであった。一方、B−2 MENDでは、pcDNA3.1-Luc(+)を用いたものでは6時間後に弱い発光がみられた後、遺伝子発現が低下するが、pCpGfree-Luc(0)を用いたものでは6時間後から24時間後にかけて発光量が上昇し、その後1週間、発光量が持続し、さらに完全に発光が消失したのは18日後であった。これらの結果より、B−2 MENDはCpG配列を除いたpDNAを組み合わせることにより、従来型キャリアよりも持続性に富んでいることが示された。
【0171】
[試験例13]
MENDの肝臓内挙動の評価
試験例9で示した方法で調製したMEND、及び肝臓で高い遺伝子発現を有しているR8/GALAを使用したカチオン性MEND(Khalil et al., J Control Release., 156(3) 374-80)に対し、それぞれ調製段階で脂質溶液にRhodamine−DOPE(Avanti polar lipids)を加えることによって蛍光ラベルした。なお、R8/GALA−MENDに対しては総脂質濃度の0.1%、B−2 MENDに対しては総脂質濃度の1%となるようにRhodamine−DOPEを加えた。50mg/mLのペントバルビタールナトリウム(ナカライテスク)を生理食塩水で5倍希釈したものをICRマウス(5週齢♂)に腹腔内投与し、麻酔を行った。麻酔下のマウスにGriffonia simplicifolia Lectin I−B4 Isolectin, FITC Conjugate (VECTOR Laboratories)を80μL程度尾静脈投与し、血管内皮細胞の染色を行った。マウスの開腹を行い、肝臓を露出させ、臓器の乾燥を防止するためにImmersol
TM518F(Carl Zeiss)を臓器に滴下した。マウス尾静脈にMEND溶液で満たした延長チューブを接続した翼付静脈留置針を留置した。マウスの心臓の拍動による観察部位のずれを防止するため、肝臓を吸着させて固定するデバイス(Shimizu K et al., J Biosci Bioeng. 112(5):508-10)を用い、共焦点顕微鏡(Nikon A1)を用いて60倍水浸レンズで観察を行った。動画の撮影開始後約5秒で40μg DNA/mouseとなるようにマウスにMENDを投与し、約10分後に動画の撮影を終了した。結果を
図15に示した。
【0172】
R8/GALAを修飾したMENDにおいては、肝臓の血液内を巨大な凝集体の状態で流れ込み、多くの粒子が主に血管壁に沿って吸着するのに対し、B−2を用いた場合には、凝集体形成なく血管内を均一に流れるとともに、時間と共に血管から漏出して肝臓に移行する様子が観察された。
【0173】
[試験例14]
MEND投与によるサイトカイン産生評価
[試験例12]において用いたMENDを各々40μg DNA相当、5週齢の雄のICRマウスに尾静脈投与した。1,3,6, 24時間後に心臓より血液を採取し、Quantikine ELISA kit(R&D Systems)を用い、TNF−α、IFN−γ、IL−12p70を測定した。各々の血中濃度推移を
図16に示す。
【0174】
カチオン性MENDにおいては、pCpGfree-Luc(0)をもちいているのにも関わらず、投与3時間後にTNF−αがやや高値となり、6時間後にはIFN−γが高値となった。一方、B−2 MENDにおいては、pcDNA3.1-Luc(+)を用いたものでは3時間後にTNF−αが高値となり、6時間後にはIL−12p70が高値となった。一方で、B−2 MENDをもちいてpCpGfree-Luc(0)を導入した場合、どの時刻においても、3種のサイトカイン全てが正常値を維持した。
【0175】
これらの結果より、pCpGfree-Luc(0)を用いて調製されたB−2 MENDは免疫反応を引き起こしにくいことが示唆された。よって、免疫反応による遺伝子発現活性の低下、有害な副作用などが起こりにくいと考えられる。
【0176】
[試験例15]
B−2−4、B−2−5を用いたMENDの調製
(1)B−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2−5(実施例5):POPE:Chol=3:4:3からなる組成のMENDを[試験例1](1)、(2)に記載の方法に従い調製した。
【0177】
(2)Cy5標識化pDNAを用いたMENDの調製
Cy5標識pDNAは、Label/IT Cy5 Labeling Kit(Mirus)を用いて添付プロトコルに従い調製した。得られたCy5標識pDNA溶液は、Nano Drop(Thermo Scientific)を用いて、濃度を算出した。Cy5標識されたpDNAが封入されたMENDを調製する際には、[試験例1](1)に記載したpDNA溶液のうち10%をCy5標識されたpDNAに置き換え、[試験例1](2)、(3)に記載の方法に従いMENDを調製した。
【0178】
[試験例16]
各種MENDの粒子径、及び表面電位の測定
粒子径並びに表面電位は、動的光散乱法(Zetasizer Nano;Malvern社)を用いて測定した。[試験例1]の調製法により調製された各種MENDの粒子径、表面電位を表4に示す。B−2−4、B−2−5ともに、生理的pHにおいて好ましい電荷である−10〜+10mVであった。
【0179】
【表4】
【0180】
[試験例17]
染色法による電子顕微鏡観察
B−2(実施例1)、B−2−4(実施例4)について[試験例1](1)、(2)、[試験例15]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して1.38mM相当のMEND溶液を調製した。遠心チューブに50%ショ糖溶液(pH5.3)を5mL加え10%ショ糖溶液(pH5.3)を5mL重層し、さらにMEND溶液1.5mLを重層し不連続密度勾配を形成した。超遠心(110000g、2h、25℃)により精製を行った(OptimaTM L−90K Ultracentrifuge、Sw41Ti、BECKMAN)。ショ糖密度10%と50%の界面を4mL回収し、限外濾過(1000g、3min、25℃)によりショ糖を除きサンプル溶液とした。2倍希釈したサンプル溶液を400メッシュカーボンフィルムTEMグリッドに吸着させ、ろ紙で吸い取った後、2%リンタングステン酸溶液(pH7.0)を加え10秒間静置した。観察は透過型電子顕微鏡(JEM−1200EX、日本電子)で行った。加速電圧は80kVとし、画像はCCDカメラ(VELETA、日本電子)を用いて撮影した。結果を
図17に示す。
【0181】
上段のB−2、下段のB−2−4共に、1枚膜の脂質膜で被覆された構造体が確認された。
【0182】
[試験例18]
遺伝子発現活性評価
脂質としてB−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2−5(実施例5):POPE:Chol=3:3:4、B−2(実施例1):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成を用い、[試験例1](1)、(2)に従ってMENDの調製を行った。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0183】
[試験例4](2)に記載の方法に従い遺伝子発現活性を評価した。結果を
図18に示す。
【0184】
B−2−5から形成されるMENDの活性はB−2の活性と同等であった。B−2−4から形成されるMENDの活性はB−2およびB−2−5を有意に上回っていた。
【0185】
[試験例19]
遺伝子発現活性および細胞内取り込み量の経時的評価
(1)MEND細胞内取り込み量の経時的観察
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例1](1)、(2)、[試験例15]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP(比較例3):DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。pDNAを蛍光ラベルする際には[試験例15](2)に記載の方法で行った。
【0186】
24時間前に6−well plateに、HT1080細胞を2×10
5 cells/2mL/wellで播種し、各種サンプルMENDをpDNA濃度1.6μg/2mL/wellになるようにDMEM(FBS+)で希釈しウェルにトランスフェクションした。1、3、6時間後にMEND含有DMEMを除去し、ヘパリン(20units/mL)1mLで2回細胞を洗浄し、さらにPBS(−)1mLで1回洗浄した。0.05% Trypsin溶液500μLを添加した後、37℃インキュベーターに3分静置した。DMEM(FBS+)1mLを入れて遠心(700g、4℃、5min)したのち、上清を除去してFACS緩衝液1mLに懸濁させた。懸濁液を遠心(700g、4℃、5分)し、上清を除去した後再びFACS緩衝液500μLに懸濁させた。測定直前に44μmのナイロンメッシュに通し、細胞内のCy5の蛍光強度を測定した。結果を
図19に示す。
【0187】
pDNAをCy5により蛍光修飾し、MENDの細胞内取り込みを評価した結果、生理的pH(pH=7.4)でカチオン性を有するDOTAPを用いたものに比べ、中性の粒子であるB−2及びB−2−4の取り込み量は低いものであった。B−2−4を用いたMENDはB−2よりも高く取り込まれた。
【0188】
(2)AB‐2550 クロノスDio(アトー)を用いた遺伝子発現の経時的評価
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例1](1)、(2)、[試験例18]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。また、カチオン性MENDにおいては、DOTAP(比較例3):DOPE:Chol:=3:4:3の組成からなる脂質を用い、[試験例1](3)に記載の方法に従い調製した。
【0189】
24時間前に3.5cm細胞培養用dishにHT1080細胞を4×10
4 cell/2mL/dishで播種し、各種MENDをpDNA量に換算して1.6μg/2mL/dishとなるよう、終濃度200μM D‐ルシフェリンカリウムを含むDMEM(FBS10%+、Phenol red free)で希釈し、トランスフェクションした。クロノスDio添付文書に従い、20分ごとに2分間の発光量を測定しルシフェラーゼ活性(RLU/2min)とした。結果を
図20に示す。
【0190】
B−2−4から形成されるMENDの活性はB−2およびDOTAPから形成されるMENDと比較し有意に高かった。B−2の活性はDOTAPと同等であった。
【0191】
B−2−4からなるMENDは、カチオン性脂質DOTAPから形成されるMENDと比較して細胞内への取り込みが低いにも関わらず、有意に高い遺伝子発現活性を有することが明らかとなった。従来のDOTAPやB−2と比較して、B−2−4は細胞内に取り込まれた後の細胞内動態特性がさらに優れていることが示された。
【0192】
[試験例20]
細胞内動態(エンドソーム脱出効率)
(1)エンドソーム脱出効率評価
MEND調製には、[試験例1](4)の方法で調製されたRhodamine標識pDNAを用いた。ローダミン標識されたpDNAが封入されたMENDを調製する際には、[試験例1](1)に記載したpDNA溶液のうち50%をローダミン標識されたpDNAに置き換えた。
【0193】
B−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2(実施例1):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0194】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を5×10
4cell/2mL/dishで播種した。pDNA1.6μg/2mLとなるようMENDをDMEM(FBS10%+)で希釈し細胞にトランスフェクションした。5.5時間後、Lysotracker Green(Life technologies社)を2μL/dishで添加した。トランスフェクションの6時間後に、ヘパリン(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察した。結果を
図21に示す。
【0195】
ローダミン標識したpDNA、エンドソーム・ライソソーム、核をそれぞれ赤、緑、青色で擬似カラー表示した。以下の式に従いエンドソーム脱出効率を算出した。
【0196】
【数1】
【0197】
結果を
図22に示す。これより、B−2−4はB−2に比べ有意に高いエンドソーム脱出効率を示すことが明らかとなった。
【0198】
(2)エンドソーム量評価
B−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2(実施例1):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0199】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を5×10
4cell/2mL/dishで播種した。pDNA1.6μg/2mLとなるようMENDをDMEM(FBS10%+)で希釈し細胞にトランスフェクションした。MENDをトランスフェクションしないものをコントロールとした。5.5時間後、Lysotracker Green(Life technologies社)を2μL/dishで添加し、さらに30分後にHoechst 33342(Dojindo)を2μL/dishで添加した。トランスフェクションの6時間後に、ヘパリン(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、共焦点レーザースキャン顕微鏡で観察した。結果を
図23に示す。
【0200】
エンドソーム・ライソソーム、核をそれぞれ緑、青色で擬似カラー表示した。以下の式に従い相対的エンドソーム量を算出した。
【0201】
【数2】
【0202】
結果を
図24に示す。これより、B−2−4をトランスフェクションした細胞では未処理およびB−2処理群に比べエンドソームが有意に減少することが明らかとなった。[試験例20](1)で示された高いエンドソーム脱出効率はエンドソーム破壊効果に起因することが示唆された。
【0203】
[試験例21]
細胞内動態(脱被覆効率)
MEND調製には、[試験例1](4)の方法で調製されたRhodamine標識pDNAを用いた。ローダミン標識されたpDNAが封入されたMENDを調製する際には、[試験例1](1)に記載したpDNA溶液のうち50%をローダミン標識されたpDNAに置き換えた。また、MENDを構成する脂質の蛍光ラベル化は、[試験例1](3)に記載の方法により行った。B−2−4(実施例1):DOPE:Chol=3:3:4、B−2(比較例2):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0204】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を5×10
4cell/2mL/dishで播種した。pDNA1.6μg/2mLとなるようMENDをDMEM(FBS10%+)で希釈し細胞にトランスフェクションした。3、6、9、12時間後にヘパリン溶液(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、トランスフェクション3、6、9、12時間後の画像を共焦点レーザースキャン顕微鏡で取得した。結果を
図25に示す。
【0205】
ローダミン標識したpDNA、MENDの脂質膜をそれぞれ赤、緑で擬似カラー表示した。以下の式に従い脱被覆効率を算出した。
【0206】
【数3】
【0207】
結果を
図26に示す。B−2は早い段階から良好な脱被覆を起こすことが示唆された。B−2−4は時間を経るに従って徐々に脱被覆を起こすことが示唆された。
【0208】
[試験例22]
細胞内動態(細胞内取り込み経路)
(1)細胞内取り込み量への影響
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例1](1)、(2)、[試験例18]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。pDNAを蛍光ラベルする際には[試験例15](2)に記載の方法で行った。
【0209】
24時間前に6−well plateに、HT1080細胞を2×10
5 cells/2mL/wellで播種した。トランスフェクション30分前に終濃度10μg/μL filipinを含むDMEM(FBS+)に培地を交換した。トランスフェクション15分前に終濃度0.3M sucrose、および1mM amilorideを含むDMEM(FBS+)に培地を交換した。トランスフェクション時、各種MENDをpDNA量に換算して1.6μg/2mL/dishとなるようdishに加えた。トランスフェクション三時間後、[試験例19](1)に記載の方法で細胞内pDNA量を測定した。結果を
図27に示す。
【0210】
細胞内への取り込みはB−2、B−2−4ともにsucroseおよびamiloride感受性であり、クラスリン介在性エンドサイトーシスおよびマクロピノサイトーシスの関与が示唆された。
【0211】
(2)遺伝子発現活性への影響
脂質としてB−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2(実施例1):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成を用い、[試験例1](1)、(2)に従ってMENDの調製を行った。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0212】
24時間前に24−well plateにHT1080細胞を4×10
4 cell/500μL/wellで播種した。トランスフェクション30分前に終濃度10μg/μL filipinを含むDMEM(FBS+)に培地を交換した。トランスフェクション15分前に終濃度0.3M sucrose、および1.5mM amilorideを含むDMEM(FBS+)に培地を交換した。トランスフェクション時、各種MENDをpDNA量に換算して0.8μg/500μL/wellとなるようwellに加えた。その後[試験例4](2)に記載の方法に従い遺伝子発現活性を評価した。結果を
図28に示す。
【0213】
B−2の遺伝子発現はsucroseおよびamilorideで阻害された。B−2−4の遺伝子発現はamilorideにより阻害された。これより、B−2、B−2−4はどちらもsucroseおよびamiloride感受性経路で取り込まれるが、B−2−4においてはamiloride感受性経路が遺伝子発現へ大きく寄与していることが示唆された。
【0214】
[試験例23]
エンドソーム酸性化阻害剤の影響評価
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例1](1)、(2)、[試験例N8]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0215】
24時間前に3.5cm細胞培養用dishにHT1080細胞を4×10
4cell/2mL/dishで播種した。トランスフェクション30分前に0.5μM BafA1(Bafilomycin A1)を含むDMEM(FBS10%+)へ培地を交換した。30分後、各種MENDをpDNA量に換算して1.6μg/2mL/dishとなるようdishに加えた。トランスフェクション3時間後、終濃度200μM D‐ルシフェリンカリウムを含むDMEM(FBS10%+、Phenol red free)へ培地を交換し、クロノスDio添付文書に従い、20分ごとに2分間の発光量を測定しルシフェラーゼ活性(RLU/2min)とした。結果を
図29に示す。
【0216】
BafA1を用いたエンドソーム酸性化阻害により、B−2−4とB−2の活性は阻害された。B−2−4はエンドソーム酸性化により活性化され、遺伝子発現を示すことが示唆された。
【0217】
[試験例24]
レチノイン酸(RA)による阻害効果の評価
(1)遺伝子発現阻害効果
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例1](1)、(2)、[試験例18]に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0218】
24時間前に3.5cm細胞培養用dishにHT1080細胞を4×10
4cell/2mL/dishで播種し、各種MENDをpDNA量に換算して1.6μg/2mL/dishとなるよう、終濃度200μM D‐ルシフェリンカリウム、および0、5、7.5、10μM RA(sigma)を含むDMEM(FBS10%+、Phenol red free)で希釈しトランスフェクションした。クロノスDio添付文書に従い、20分ごとに2分間の発光量を測定しルシフェラーゼ活性(RLU/2min)とした。結果を
図30に示す。
【0219】
B−2−4から形成されたMENDの遺伝子発現活性はRAにより濃度依存的に減少した(
図30右)。B−2から形成されたMENDの遺伝子発現活性は減少しなかった(
図30左)。B−2−4の遺伝子発現はRAとしての認識が関与することが示唆された。
【0220】
[試験例25]
細胞内動態(核輸送)
MEND調製には、[試験例1](4)の方法で調製されたRhodamine標識pDNAを用いた。ローダミン標識されたpDNAが封入されたMENDを調製する際には、[試験例1](1)に記載したpDNA溶液のうち全てをローダミン標識されたpDNAに置き換えた。また、MENDを構成する脂質の蛍光ラベル化は、[試験例1](3)に記載の方法により行った。B−2−4(実施例4):DOPE:Chol=3:3:4、B−2(実施例1):SOPE:Chol=5:3:2からなる組成のMENDを[試験例1](2)に記載の方法に従い調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0221】
24時間前にガラスボトムディッシュにHT1080細胞を5×10
4cell/2mL/dishで播種した。pDNA1.6μg/2mLとなるようMENDをDMEM(FBS10%+)で希釈し細胞にトランスフェクションした。3時間後にhoechst33342を1μL加え、10分後にヘパリン溶液(20units/mL)2mLで2度洗浄し、Krebs緩衝液を1mL加え、共焦点レーザースキャン顕微鏡で取得した。結果を
図31に示す。
【0222】
B−2が細胞内に拡散しているのに対し、B−2−4は核周辺に集積している様子が観察された。これは核への輸送機構の存在を示唆するものであった。
【0223】
[試験例26]
GA(Ginkgolic Acid)による阻害効果の評価
B−2−4(実施例4)、B−2(実施例1)について、[試験例16]、[試験例1](1)、(2)に従いMENDを調製した。本調製においては、PEG脂質としてPEG
2000−DMGを用い、脂質濃度に換算して0.55mM相当のMEND溶液を調製した。
【0224】
24時間前に3.5cm細胞培養用dishにHT1080細胞を4×10
4cell/2mL/dishで播種し、各種MENDをpDNA量に換算して1.6μg/2mL/dishとなるよう、終濃度200μM D‐ルシフェリンカリウム、および0、25、50、100μM GA(Calbiochem)を含むDMEM(FBS10%+、Phenol red free)で希釈しトランスフェクションした。クロノスDio添付文書に従い、20分ごとに2分間の発光量を測定しルシフェラーゼ活性(RLU/2min)とした。結果を
図32に示す。
【0225】
GAはB−2にくらべB−2−4に対する阻害効果が大きかった。GAは細胞内タンパク質のSUMO化を阻害する小分子である。HT1080にはRAをSUMO化依存的に核へ輸送する細胞内レチノイン酸結合タンパク質II(CRABPII)が発現している。B−2−4に対する遺伝子発現活性の大幅な低下はGAによるCRABPIIの活性低下に起因することが考えられる。
【0226】
[試験例27]
siRNAとプロタミンからなる核酸静電的複合体の形成
ベクターのコアとして、siRNA溶液、プロタミン溶液(CALBIOCHEM)溶液を、10mM HEPES緩衝液(pH5.3)でそれぞれ0.3mg/mL、0.2mg/mLに希釈し、0.3mg/mL siRNA溶液250μLを攪拌しながら0.2mg/mL プロタミン溶液250μLを少量ずつ滴下してsiRNAとプロタミンの静電的複合体を調製した(N/P比=1.0)。
【0227】
Factor VII(FVII)に対するsiRNA配列としては、Akinc et al, Molecular Therapy, 17(5) 872−879(2009)に記載のもの(ただし、化学修飾のないもの)をもちいた。
【0228】
[試験例28]
エタノール希釈法によるsiRNA封入MENDの調製
脂質のエタノール溶液を、B−2 MEND(実施例1)はB−2:SOPE:Chol=5:3:2、B−2−4 MEND(実施例4)はB−2−4:DOPE:Chol=3:3:4、B−2−5 MEND(実施例5)はB−2−5:POPE:Chol=3:4:3の比率で、総脂質660nmolになるように5mLチューブに混合した。さらにPEG脂質としてPEG2000−DMGを総脂質量に対して3モル%相当量添加し、それぞれ全量で400μLとなるようにエタノールを加えた。脂質溶液をボルテックスミキサーを用いて攪拌しながら、[試験例27]で調製したsiRNA・プロタミンからなる核酸静電的複合体溶液400μLを混合し、その後素早く10mM HEPES緩衝液(pH5.3)2.4mLを加え、激しく攪拌した。Amicon Ultra−15 100K device(Millipore社)を用い、1000g,10分,30℃で遠心し限外濾過した。その後、10mM HEPES緩衝液(pH7.4)で十分希釈し、再び限外濾過を行い濃縮した。この溶液を10mM HEPES緩衝液(pH7.4)で目的の脂質濃度になるよう調整した。
【0229】
[試験例29]
siRNA封入MENDの粒子径、及び表面電位の測定
粒子径並びに表面電位は、動的光散乱法(Zetasizer Nano;Malvern社)を用いて測定した。[試験例28]の調製法により調製された各種MENDの粒子径、表面電位を表5に示す。いずれにおいても生理的pHでは、弱い負電荷を示した。
【0230】
【表5】
【0231】
[試験例30]
siRNA封入MENDのノックダウン効果
[試験例28]で示した方法で調製したMEND溶液を、4週齢の雄のICRマウスに、3mg siRNA/kgで尾静脈投与し、24時間後に、血液を採取した。本血液サンプルを1000g、10分、4℃で遠心し、上清を回収することで血漿を得た。血漿中のFactor VII(FVII)量を、BIOPHEN FVII CHROMOGENIC ASSAY(HYPHEN BioMed)を用いて定量した。結果を
図33に示す。未処理群に比べ、B−2、B−2−4、B−2−5いずれにおいてもFVII発現量の低下が見られ、その中でもB−2−5 MENDが最も大きいノックダウン効果を示した。
【0232】
[試験例31]
siRNA封入MENDの持続性評価
[試験例28]で示した方法で調製したMEND溶液を、4週齢の雄のICRマウスに、3mg siRNA/kgで尾静脈投与してから6日目まで、24時間後ごとに尾静脈より継時的に血液を採取し、FVIIの発現量を経時的に追った。結果を
図34に示す。
【0233】
遺伝子ノックダウン効果は、投与後1日後がピークとなり、その後、約7週間かけて徐々に効果を消失することが明らかとなった。