特許第6093846号(P6093846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093846
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】コバルト除去のための研磨スラリー
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170227BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20170227BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 621D
   H01L21/304 622X
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
   C09K3/14 550D
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-502779(P2015-502779)
(86)(22)【出願日】2014年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2014001026
(87)【国際公開番号】WO2014132641
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2016年9月8日
(31)【優先権主張番号】61/770,999
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(72)【発明者】
【氏名】ミラー アン
(72)【発明者】
【氏名】グランストロム ジミー
【審査官】 山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−003665(JP,A)
【文献】 特開2009−087968(JP,A)
【文献】 特開2008−243857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒および一つ以上のCo錯化剤を含む研磨組成物であって、
前記研磨組成物は9以上のpHを有し、
前記Co錯化剤は、2―アミノエチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、N―(ホスホノメチル)イミノジ酢酸、2―カルボキシエチルホスホン酸、2―ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノメチルホスホン酸、N,N―ビス(ホスホノメチル)グリシン、イミノジメチレンホスホン酸、2―ヒドロキシホスホノ酢酸(HPAA)およびアミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)、またはこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む研磨組成物。
【請求項2】
Co研磨促進剤としてアンモニアおよび重炭酸塩の一つ以上をさらに含む請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項3】
前記Co錯化剤は、質量%で、前記研磨組成物中5%以下存在する請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項4】
前記砥粒がシリカ、アルミナまたはセリアである請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項5】
酸化剤、界面活性剤および腐食抑制剤の一つ以上を更に含む請求項1に記載の研磨組成物。
【請求項6】
前記酸化剤は、質量%で、前記研磨組成物中0.1〜4%存在する請求項に記載の研磨組成物。
【請求項7】
前記酸化剤がHである請求項に記載の研磨組成物。
【請求項8】
前記腐食抑制剤は、質量%で、前記研磨組成物中0.1〜0.4%存在する請求項5に記載の研磨組成物。
【請求項9】
腐食抑制剤がベンゾトリアゾール(BTA)である請求項に記載の研磨組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤は、質量%で、前記研磨組成物中0.01〜2%存在する請求項に記載の研磨組成物。
【請求項11】
前記界面活性剤が下記の式(II)の化合物を含み、下記式(II)において、オキシエチレンおよびオキシプロピレン基が1:1〜3:1の質量比で存在するように、mおよびnが選択される請求項に記載の研磨組成物。
―O―[CHCH(CH)O]―[CHCHO]―H
(II)
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の研磨組成物でCoを研磨し、任意にCuを研磨することを有する研磨方法。
【請求項13】
Coの除去速度が200Å/分〜2400Å/分である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
Cuの除去率が100Å/分未満または80Å/分未満である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CoのCuに対する除去選択性が、5以上である請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、銅(Cu)に対して選択的にコバルト(Co)を除去するための研磨組成物およびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体ウェハは、ケイ素のウェハと、回路配線のためのパターンを形成するために設けられた多数のトレンチを中に含む絶縁層とを有している。パターン配置は通常、バリア層がパターニングされた絶縁層を覆い、金属層がそのバリア層を覆っている。金属層は、パターニングされたトレンチを金属で埋めて回路配線を形成するのに少なくとも十分な厚さである。多くの場合、CMP加工は、金属層をその下にあるバリア層から除去し、次の工程で、金属層を除去し、同時に、金属充填トレンチを有する平滑な面をウェハ上に残して、研磨面に対して平坦な回路配線を提供する。この際、半導体ウェハ上に残るバリア層をその下にある半導体ウェハの絶縁層から除去して、平坦な研磨面を絶縁層上に提供する。このようなCMP加工においては、下記の特許文献1に記載されるような、金属層(銅)及びバリア層(タンタル)の効率的な除去方法が提案されている。
【0003】
金属層は、通常、Cu接続線を含み、バリア層は、Ta、窒化物等から形成される。しかし、デザインルールの微細化とともに、配線形成工程の各層は、薄くなる傾向がある。配線材料として使用されている「Ta又はTaN」の層は、薄くなることにより、Cuの拡散を防止する効果が低下し、Cu層との密着性も低下する。そこで、Ta(又はTaN)層の代替として、又はTa(又はTaN)層とCu層の間に、Cuと馴染み易いCo(コバルト)層を挟むことにより、Cuの拡散を抑え、上層との密着性を補う工程が出てきた。
このようなCoバリア層を銅の接続線から選択的に研磨除去する際には、単に効率的に研磨、除去することだけでなく、Coのエッチング速度を抑えつつCu接続線に対して選択的にCoバリア層を安定して研磨、除去することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−277399号公報
【発明の概要】
【発明が解決する課題】
【0005】
Cu接続線およびCoバリア層を含む基板を研磨するときに、低いCoエッチング速度を有しつつCoの望ましい除去速度を達成することは困難となった。本発明で提供する組成物及び方法は、このような課題およびこれに関連した課題を解決することに向けられている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態では、本発明は、砥粒及び一つ以上のCo錯化剤を含み、9以上のpHを研磨組成物を提供する。Co錯化剤は、ホスホン酸(―P(=O)(OH))基またはカルボキシル(―C(=O)OH)基から選ばれる一つ以上の官能基を有する。
一実施形態では、Co錯化剤は、一つ以上のホスホン酸誘導体を含む。ホスホン酸誘導体は、結合手又はリンカーによって核に共有結合した一つ以上のホスホン酸(―P(=O)(OH))基またはその塩の一つ以上を含み、
核はヘテロ原子またはC〜C20ヒドロカルビル部から選択され、ヒドロカルビル部は1〜5のヘテロ原子および1〜5のヒドロキシ基の一つ以上によって任意に置換され、
リンカーは二価または三価のヘテロ原子または二価のまたは三価のC〜C20ヒドロカルビル部であり、ヒドロカルビル部は1〜5のヘテロ原子および1〜5のヒドロキシ基の一つ以上によって任意に置換され、
ヘテロ原子はN、O、S、PおよびN、S及びPの酸化物から独立して選択される。
【0007】
一実施形態において、Co錯化剤は、クエン酸、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2―ヒドロキシホスホノ酢酸(HPAA)、ホスホノブタン―3カルボン酸(PBTC)およびアミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)の少なくとも一つを含む。さらに、一実施形態において、Co錯化剤は、クエン酸、クエン酸塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)から選ばれる。
一実施形態において、研磨組成物は、さらに、Co研磨促進剤としてアンモニア、または重炭酸またはその塩を含むことができる。他の実施形態では、研磨組成物は、Co錯化剤を含み、アンモニアを含まない。さらに別の実施形態では、研磨組成物は、Co錯化剤を含み、重炭酸およびその塩を含まない。さらに別の実施形態では、研磨組成物は、Co錯化剤を含んで、アンモニアおよび重炭酸およびその塩を含まない。
【0008】
理論に拘束されるものではないが、Co錯化剤は特に溶液中のコバルト金属イオンを錯体化することによって、高い研磨除去速度を可能にする。塩は、配位錯体および/または電解質として機能することによって除去速度増進剤として作用することができる。例えば、高いpHで加えられるアンモニアは、溶液中でコバルトを錯体化するのを促進することができる。重炭酸またはその塩は、粒子の周りで二重層を圧縮して、研磨中の機械的除去を強化する作用をすることができる。同様に、いかなる錯体の塩も溶液中の電解質として機能することもできる。
【0009】
他の実施形態では、ホスホン酸誘導体は、カルボン酸基またはその塩の一つ以上を更に含む。他の実施形態では、ホスホン酸誘導体は下記の式(I)で表される化合物、または、その塩であり、下記式(I)において、○は核であり、各Lはそれぞれ結合手またはリンカーであり、前記核およびリンカーは上記で定義され、各uはそれぞれ0〜3であり、各vはそれぞれ0〜3であり、また、yは1〜5であり、ただし、前記誘導体はその少なくともホスホン酸またはその塩の少なくとも一つを含む。
【0010】
【化1】
(I)
【0011】
他の実施形態では、核は、ヘテロ原子である。他の実施形態では、核は、1〜3のヒドロキシ基によって任意に置換されるアルキレンから選択されるヒドロカルビル部である。
他の実施形態では、Co錯化剤は、質量%で、研磨組成物中5%以下、3%以下または1%の以下、または、さらに低く0.1%、0.01%以下まで存在する。
【発明の実施の形態】
【0012】
定義
単数で表される用語は前後関係から示されるように複数形を含む。例えば、錯化剤は、一つ以上の錯化剤を意味する。
「約」は前後関係から示されるように、量の±1%、±5%または±10%を意味する。本明細書で使用されるように、あらゆる量および各々その範囲は、「約」の用語に続く。
「ヒドロカルビル」は、炭素および水素原子を含有する部位を示す。炭素原子数は、通常約1〜30(C〜C30)である。ヒドロカルビル基の例としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、シクロアルキル、アルキレンおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0013】
「アルキル」は、飽和、直鎖または分岐、一価のヒドロカルビル部を示す。炭素原子数は、通常1〜20である。
「アルケニル」は、直鎖または分岐、一価のヒドロカルビル部を示す。炭素原子数は、通常1〜20であり、炭素二重結合を3つまで含有する。
「アルキニル」は、直鎖または分岐、一価のヒドロカルビル部を示す。炭素原子数は、通常1〜20であり、炭素三重結合を3つまで含有する。
「アリール」は、芳香族の環状ヒドロカルビル部を意味する。炭素原子数は、通常6〜10である。
「シクロアルキル」は、環状、非芳香族ヒドロカルビル部を意味する。シクロアルキルは、完全に飽和か、または、部分的に不飽和であることができる。炭素原子数は、通常3〜15である。部分的に不飽和なシクロアルキル基は、1〜4の炭素―炭素二重結合を有する。
「アルキレン」は、飽和、二価、直鎖または分岐ヒドロカルビル部を意味する。炭素原子数は、通常2〜20である。
【0014】
一態様では、本発明は、コロイド状シリカ、Co錯化剤、酸化剤、界面活性剤および任意に腐食抑制剤を含む研磨組成物を提供する。その際、Co錯化剤はホスホン酸誘導体、クエン酸またはその塩およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の一つ以上を含み、更に任意にアンモニア、または重炭酸またはその塩を含み、その際、ホスホン酸誘導体は、核に結合手またはリンカーによってそれぞれに共有結合により付着したホスホン酸(―P(=O)(OH))基またはその塩を一つ以上含む。核はヘテロ原子またはC〜C20のヒドロカルビル部から選択され、ヒドロカルビル部は1〜5のヘテロ原子および/または1〜5のヒドロキシ基によって任意に置換され、リンカーは二価または三価のヘテロ原子または二価または三価のC〜C20のヒドロカルビル部である。ヒドロカルビル部は1〜5のヘテロ原子および/または1〜5のヒドロキシ基によって任意に置換され、ヘテロ原子はN、O、S、Pおよびその酸化物からそれぞれ選択される。
【0015】
一実施形態において、研磨組成物は、Co研磨促進剤として、任意に、アンモニア、重炭酸またはその塩、グリシン、アルギニンまたはシステイン等を含む。他の実施形態では、研磨組成物は、アンモニアを含まない。さらに他の実施形態では、研磨組成物は、重炭酸およびその塩を含まない。さらに他の実施形態では、研磨組成物は、アンモニア、重炭酸塩等のCo研磨促進剤を含まない。
他の実施形態では、ホスホン酸誘導体は、カルボン酸基またはその塩の一つ以上を更に含む。他の実施形態では、ホスホン酸誘導体は下記式(I)で示される化合物、または、その塩であり、下記式(I)において、○は核であり、各Lはそれぞれに結合手またはリンカーであり、核およびリンカーは上記で定義され、各uはそれぞれに1〜5であり、各vはそれぞれに0〜3であり、yは1〜5である。ただし、誘導体はホスホン酸またはその塩の少なくとも一つを含む。
【0016】
【化2】
(I)
【0017】
実施形態において、Co錯化剤としてのホスホン酸誘導体は、2―アミノエチルホスホン酸(AEPn、分子量125.06g/mol)、メチルホスホン酸ジメチル(DMMP、分子量124.08g/mol)、1―ヒドロキシエチリデン―1,1―ジホスホン酸(HEDP、分子量206.03g/mol)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP、分子量299.05g/mol)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP、分子量436.12g/mol)、テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(TDTMP、分子量464.18g/mol)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(HDTMP、分子量492.23g/mol)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP、分子量573.2g/mol)、ホスホノブタン―3カルボン酸(PBTC、分子量270.13g/mol)、N―(ホスホノメチル)イミノジ酢酸(PMIDA、分子量227.11g/mol)、2―カルボキシエチルホスホン酸(CEPA、分子量154.06g/mol)、2―ヒドロキシホスホノ酢酸(HPAA、分子量156.03g/mol)、アミノメチルホスホン酸(AMPA、分子量111.04g/mol)、N,N―ビス(ホスホノメチル)グリシン(グリホシン、PMG、分子量263.00g/mol)、イミノジメチレンホスホン酸(IDMP、分子量205.04g/mol)およびエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTPO、分子量436.13g/mol)またはこれらの塩からなる群から選択される。本発明において有益ないくつかのCo錯化剤について、以下に構造を示す。
【0018】
【化3】
【0019】
他の実施形態では、核は、ヘテロ原子である。他の実施形態では、核は、1〜3のヒドロキシ基によって任意に置換されるアルキレンから選択されるヒドロカルビル部である。
他の実施形態においては、本発明におけるCo錯化剤としてのホスホン酸誘導体は、分子量が小さい方が好ましい。より具体的には、Co錯化剤の分子量は、350.00g/mol以下が好ましく、より好ましくは300.00g/mol、さらに好ましくは280.00g/molである。分子量が350.00g/mol以下の場合には、実用的なレベルのCoの研磨速度とエッチング抑制の効果が両立できる傾向にある。
【0020】
他の実施形態においては、本発明におけるCo錯化剤としてのホスホン酸誘導体は、ホスホン酸(―P(=O)(OH))基の数が3以下であることが好ましい。ホスホン酸(―P(=O)(OH))基の数が3以下の場合には、Coの研磨速度が高くなる傾向がある。
他の実施形態では、Co錯化剤は、クエン酸またはその塩、EDTA、2―ヒドロキシホスホン酸(HPAA)、ホスホノブタン―3カルボン酸(PBTC)、またはアミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)を含み、更に任意に、Co研磨促進剤として、アンモニア、重炭酸またはその塩、グリシン、アルギニン、システイン等を含む。
【0021】
他の実施形態では、Co錯化剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。Co錯化剤の含有量が5%を超えると、Coエッチング速度が高くなる傾向にある。
他の実施形態では、任意に含まれるCo研磨促進剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。Co研磨促進剤の含有量が5%を超えると、Coエッチング速度が高くなる傾向にある。
【0022】
他の実施形態では、砥粒は、シリカ、例えば、これに限定されるものではないがコロイド状シリカ、アルミナまたはセリアなどである。これらの砥粒のうちコロイダルシリカが好ましい。砥粒の含有量は、質量%で、研磨組成物中0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、メカニカル作用が高まるため、Coの研磨速度が向上する傾向がある。また、砥粒の含有量は、質量%で、研磨組成物中20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の分散性が向上する傾向がある。
【0023】
他の実施形態では、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、Coの研磨速度が向上する傾向がある。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。砥粒の平均一次粒子径はまた、150nm以下であることが好ましく、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨対象物を研磨することによりスクラッチ等の欠陥がより少ない研磨面を得ることが容易になる傾向がある。
【0024】
他の実施形態では、砥粒の平均二次粒子径は、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは270nm以下、さらに好ましくは250nm以下である。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨対象物を研磨することによりスクラッチ等の欠陥がより少ない研磨面を得ることが容易になる傾向がある。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
他の実施形態では、砥粒の形状は、球形(spherical)であってもよいし、非球形であってもよい。非球形状の例としては、中央部にくびれを有するいわゆる繭形状(Cocoon)や、表面に複数の突起を有する金平糖形状、ラグビーボール形状、凝集体形状(aggregate)などが挙げられる。非球形状の砥粒は、一次粒子の会合体であってもよい。
他の実施形態では、研磨組成物は更に、酸化剤、腐食抑制剤、および界面活性剤の1以上を含むことができる。
【0025】
他の実施形態では、酸化剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5%以上である。また、酸化剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中4%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下である。酸化剤の含有量が0.1%未満または4%を超える場合には、実用的なレベルのCoの研磨速度を得にくい傾向がある。酸化剤の非限定的な例としては、H、過硫酸塩、硝酸、カリウム過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸およびオゾン水が挙げられる。他の実施形態では、酸化剤はHである。
【0026】
他の実施形態では、腐食抑制剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.2%以上である。また、腐食抑制剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中0.4%以下が好ましく、より好ましくは0.3%である。腐食抑制剤の含有量が0.2%未満または0.4%を超える場合には、実用的なレベルの腐食抑制効果を得にくい傾向がある。他の実施形態では、腐食抑制剤は、少なくとも5〜6員環を有し、2つ以上の二重結合を有し、一つ以上の窒素原子を有する複素環式または複素アリール化合物である。非限定的な例として、ピリジン環、ピラゾール環、ピリミジン環、イミダゾール環およびトリアゾールまたはベノトリアゾール環を有する化合物が挙げられる。他の実施形態では、腐食抑制因子は、ベンゾトリアゾール(BTA)である。
【0027】
他の実施形態では、界面活性剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.02%以上である。また、界面活性剤の含有量は、質量%で、研磨組成物中2%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下である。他の実施形態では、界面活性剤は、下記の式(II)の化合物から成る。
―O―[CHCH(CH)O]―[CHCHO]―H (II)
上記式(II)において、RはC〜C10アルキルであり、mおよびnはオキシエチレン基およびオキシプロピレン基が1:1〜3:1の質量比で存在するように選択される。一実施形態において、界面活性剤は、ポリエチレングリコールアルキルエーテルおよび/またはポリプロピレングリコールアルキルエーテルを含む。
【0028】
他の実施形態では、研磨組成物のpHは9以上であることが好ましく、より好ましくは9.5以上である。また、研磨組成物のpHは14以下であることが好ましく、より好ましくは12以下である。研磨組成物のpHが9未満または14を超える場合には、実用的なレベルのCoの研磨速度とエッチング抑制の両立が難しくなる傾向にある。pHは、酸またはアルカリ、例えばアンモニア、アルカリ、有機塩基、炭酸塩または重炭酸塩、任意に緩衝剤を使用して維持される。有機および無機酸を含む多様な酸および限定されるものではないが、酸性、中性およびアルカリ性の緩衝剤を含む緩衝剤がこの目的のために有益である。また、これらのpHを調整するための化合物は、1つの化合物であってもよいし、2つ以上の化合物を混合したものであってもよい。さらには、他の添加剤(例えば、Co錯化剤やCo研磨促進剤等)がpHを調整する機能を備えている場合は、当該添加剤をpHを調整するための化合物の一部として使用することができる。理論に束縛されるものではないが、pHが9以上においては研磨の間形成される水酸化第一コバルト膜による保護的性質のため、コバルトの静的エッチングは0に近い。通常、低いエッチング速度を維持しながら高い研磨速度を確保するために金属CMPプロセスは展開される。
【0029】
他の形態においては、本発明で提供される組成物を用いて、Cuが存在する場合に選択的にCoを研磨することを含む研磨方法が本願明細書において提供される。一実施形態において、Coの除去速度は200Å/分〜2400Å/分である。他の実施形態では、Cuの除去速度は、100Å/分未満、または80Å/分未満である。他の実施形態では、Co:Cuの除去選択性は、5以上、10以上または15以上である。Co:Cu選択性はCo除去速度をCu除去速度で除して決められる。測定値感度の限界のため、100Å/分を下回るCuの除去速度は100Å/分に概算され、これによって、決定されたCo/Cu選択性は本願明細書において提供される値より高くなり得る。
【0030】
他の添加物
いくつかの実施形態において、本発明の研磨組成物は更に、消毒剤又は抗真菌剤を含んでもよい。消毒剤及び抗真菌剤の限定的でない例としては、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び5−クロロ−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、及びフェノキシエタノール等のイソチアゾリン系消毒剤が挙げられる。
いくつかの実施形態では、研磨で使用される研磨組成物は、水溶液又は水等の希釈液を用いて、研磨組成物の原液(濃縮品)を2〜10倍以上に希釈することによって調製される。
【0031】
組成物を調製し研磨速度を測定するための一般的な手順
一般に、砥粒及びCo錯化剤を水中で混合し、組成物のpHをpH調製剤(例えば、水酸化カリウム、アンモニア等)によって適切に調整する。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0032】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10〜500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5〜10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、基板が得られる。
【0033】
一定時間においてウェハの研磨を行い、Co等の実施例に記載した他のウェハの表面の研磨速度を測定する。また、一定時間においてウェハを研磨組成物に浸漬させ、Co等の実施例に記載した他のウェハのエッチング速度を測定する。研磨または浸漬前後のウェハの厚さの差及び研磨または浸漬時間を測定することによって、研磨速度またはエッチング速度を計算する。厚さの差は、例えば光干渉式膜厚測定装置を用いて測定する。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
表1に示される組成の発明例1〜12及び比較例1〜9の研磨組成物を使用して、それぞれ柔らかいポロメトリックポリウレタン・パッドを使用して、直径200mmのCoウェハについて、研磨組成物のスラリーの供給速度を200mL/分、研磨の圧力を2psi、プラテン回転速度を127rpm、ヘッド回転速度を122rpmとして研磨した際の研磨速度をそれぞれ表1に示した。なお、研磨組成物スラリーの供給速度とは、全供給液の供給量の合計を単位時間当たりで割り付けた値をいう(以下の実施例においても同様)。また、本実施例1で使用したコロイダルシリカは平均一次粒子径約35nm、平均二次粒子径約70nmであり、pHを調整するための化合物としては水酸化カリウムを使用した。
本発明の研磨組成物である発明例1〜12を使用することにより、Coのエッチング速度を抑えつつ効率的にCoを除去できることがわかる。これに対して、比較例1〜4、7および8ではCoエッチング速度が高く、比較例5および9ではCo除去速度の向上が見られず、比較例6では、Co除去速度およびCoエッチング速度が大きく変動し、不安定であった
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)
表2に示される組成の発明例13〜20の研磨組成物を使用して、それぞれ柔らかいポロメトリックポリウレタン・パッドを使用して、直径200mmの銅(Cu)、Co、タンタル(Ta)、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)及びLow−k誘導体材料としてのブラックダイヤモンド(商標)(BD)ウェハについて、研磨組成物のスラリーの供給速度を200mL/分、研磨の圧力を2psi、プラテン回転速度を127rpm、ヘッド回転速度を121rpmとして研磨した際の研磨速度をそれぞれ表3に示した。なお、本実施例2で使用したコロイダルシリカは平均一次粒子径約35nm、平均二次粒子径約70nmであり、pHを調整するための化合物としては水酸化カリウムを使用した。
本発明の研磨組成物を使用することにより、特に、Cuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。Co錯化剤の分子量がより小さい方が、Coの高い研磨速度とCuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。また、Co錯化剤を2つ以上またはCo研磨促進剤を含む方が、Coの高い研磨速度とCuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
(実施例3)
表4に示される組成の発明例21及び22の研磨組成物を使用して、それぞれ柔らかいポロメトリックポリウレタン・パッドを使用して、直径200mmのCu、Co、Ta、TEOS及びBDウェハについて、研磨組成物のスラリーの供給速度を200mL/分、研磨の圧力を2psi、プラテン回転速度を127rpm、ヘッド回転速度を121rpmとして研磨した際の研磨速度をそれぞれ表5に示した。なお、本実施例2で使用したコロイダルシリカは平均一次粒子径約35nm、平均二次粒子径約70nmであり、pHを調整するための化合物としては表4に記載の化合物を使用した。
本発明の研磨組成物を使用することにより、特に、Cuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。また、pHを調整する機能を備えるCo研磨促進剤として添加しているアンモニアが、pHを調整するための化合物を兼ねていても、Coの高い研磨速度とCuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
表6に示される組成の発明例23〜27を使用して、それぞれ柔らかいポロメトリックポリウレタン・パッドを使用して、直径200mmのCu、Co、Ta、TEOS及びBDウェハについて、研磨組成物のスラリーの供給速度を200mL/分、研磨の圧力を2psi、プラテン回転速度を127rpm、ヘッド回転速度を121rpmとして研磨した際の研磨速度をそれぞれ表7に示した。
本発明の研磨組成物を使用することにより、特に、Cuに対するCoの高い研磨速度比を得られることがわかる。
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】