(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6093965
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】光電式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/38 20060101AFI20170306BHJP
G01D 5/36 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
G01D5/38 A
G01D5/36 U
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-33290(P2012-33290)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170852(P2013-170852A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100092820
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100106389
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】川田 洋明
【審査官】
眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−065529(JP,A)
【文献】
特開2003−247867(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/011356(WO,A1)
【文献】
特開平08−334609(JP,A)
【文献】
特開2011−237374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26−5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直線偏光の第1の照射光及び第2の照射光を照射する照射部と、
前記第1の照射光を回折させて前記第1直線偏光の第1の回折光を生成するとともに、前記第2の照射光を回折させて前記第1直線偏光の第2の回折光を生成するスケールと、
前記第1の回折光を前記第1直線偏光と直交する第2直線偏光の第3の回折光に変換し、前記第2の回折光と前記第3の回折光を合成して第1の合成光及び第2の合成光を生成し、前記第1の合成光を円偏光の第3の合成光に変換する偏光部と、
前記第2の合成光及び前記第3の合成光をそれぞれ受光する受光部とを備え、
前記スケールは、0.2μmの幅及び650nm〜750nmの深さの凹凸を有する格子形状である表面を持つガラスを備え、
前記照射部は、照射光を照射する光源と、前記光源から照射された照射光を、第1直線偏光を所定比率で保持した状態で前記第1の照射光と前記第2の照射光とに分割する第1の無偏光ビームススプリッタと、前記第1の無偏光ビームスプリッタで分割された前記第1の照射光と前記第2の照射光とをそれぞれ反射して前記スケールに入射させる第1ミラー及び第2ミラーと、を備え、
前記第1ミラー及び前記第2ミラーは、前記第1の照射光及び前記第2の照射光の前記スケールへの入射角度が45°〜65°になるように設定される
ことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記偏光部は、
前記第1の回折光を反射させる第3ミラーと、
前記第2の回折光を反射させる第4ミラーと、
前記第3ミラーを反射した前記第1の回折光の偏光面を回転させて第2直線偏光の第3の回折光に変換する1/2波長板と
を備えることを特徴とする請求項1記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記スケールに対する前記第3ミラーの角度、及び前記スケールに対する前記第4ミラーの角度は、調整可能に構成されている
ことを特徴とする請求項2記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記偏光部は、前記第2の回折光と前記第3の回折光を合成して第1の合成光及び第2の合成光を生成する第2の無偏光ビームスプリッタを備え、
前記スケールに対する前記第2の無偏光ビームスプリッタの角度及び位置は、調整可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
前記第1の回折光を受光して第1の受光量を計測し、前記第2の回折光を受光して第2の受光量を計測するモニタ受光部を更に備え、
前記照射部は、前記モニタ受光部で計測された前記第1の受光量及び前記第2の受光量に基づき前記第1の照明光及び前記第2の照明光の光量を一定の値に調整する
ことを特徴とする請求項1乃至4記載の光電式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアエンコーダ等に使用される光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線変位などの精密な測定には、光電式エンコーダが利用されている。そして、光電式エンコーダとして、スケールにて回折された2光線の受光量を検出する2相検波方式が広く知られている(特許文献1の
図5参照)。しかしながら、スケールは一般に乳剤により構成される。このため、従来、温度及び湿度の変化によってスケールの光学的特性が変化し、光電式エンコーダの測定精度を劣化させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−247867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みされたもので、温度及び湿度の変化による測定精度の劣化を抑制した光電式エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る光電式エンコーダは、第1直線偏光の第1の照射光及び第2の照射光を照射する照射部と、前記第1の照射光を回折させて前記第1直線偏光の第1の回折光を生成するとともに、前記第2の照射光を回折させて前記第1直線偏光の第2の回折光を生成するスケールと、前記第1の回折光を前記第1直線偏光と直交する第2直線偏光の第3の回折光に変換し、前記第2の回折光と前記第3の回折光を合成して第1の合成光及び第2の合成光を生成し、前記第1の合成光を円偏光の第3の合成光に変換する偏光部と、前記第2の合成光及び前記第3の合成光をそれぞれ受光する受光部とを備え、前記スケールが、格子形状に加工された表面を持つガラスを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、温度及び湿度の変化による測定精度の劣化を抑制した光電式エンコーダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施の形態に係る光電式エンコーダを示す概略図である。
【
図2】第1の実施の形態にスケール20を示す断面図である。
【
図3】第2の実施の形態に係る偏光部30aを示す概略図である。
【
図4】第3の実施の形態に係る偏光部30bを示す概略図である。
【
図5】第4の実施の形態にスケール20aを示す断面図である。
【
図6】第5の実施の形態にスケール20bを示す断面図である。
【
図7】第6の実施の形態に係る遮光部50を示す概略図である。
【
図8】第7の実施の形態に係る受光部60を示す概略図である。
【
図9】第8の実施の形態にスケール20cを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[第1の実施の形態]
図1は本実施の形態に係る光電式エンコーダを示す概略図である。光電式エンコーダは、
図1に示すように、照射部10、スケール20、偏光部30、及び受光部40を有する。この光電式エンコーダにおいては、照射部10から照射された光がスケール20及び偏光部30を介して受光部40に受光される。そして、スケール20に対して、照射部10、偏光部30及び受光部40は測定軸方向(スケール20の長手方向)に相対移動し、受光部40の受光量の変化に基づきそれらの移動量が求められる。
【0010】
照射部10は、s偏光の照射光L1a、L1bを照射する。このような照射部10は、
図1に示すように、光源11、無偏光ビームスプリッタ12、及びミラー13a、13bを有する。光源11は駆動電流に応じて照射光L0を無偏光ビームスプリッタ12に照射する。この実施の形態において、照射光L0の波長は655nmに設定される。無偏光ビームスプリッタ12は照射光L0を照射光L1a、L1bに分光して、それぞれの照射光L1a、L1bをミラー13a、13bに照射する。なお、この実施形態では、光源11からの光のうち、s偏光のみ(又はp偏光のみ)を測定に利用するので、s偏光(又はp偏光)の分光比を一定にするため無偏光ビームスプリッタ12を利用する。ミラー13a、13bは各々照射光L1a、L1bを反射させてスケール20に照射する。ミラー13a、13bは測定軸と直交する軸を中心に対称に配置される。
【0011】
スケール20は、照射光L1aを透過及び回折させてs偏光の回折光L2aを生成するとともに、照射光L1bを透過及び回折させてs偏光の回折光L2bを生成する。ここで、回折光L2a、L2bは、照射光L1a、L1bの一次回折光である。スケール20としては、
図2に示すように、ガラス基材を直接エッチング加工することで表面に回折格子21を形成したものを使用する。ガラス素材のエッチング加工により形成された回折格子21は、乳剤による回折格子と比較して、温度及び湿度の変化により光学的特性を変化させないと言う利点がある。しかし、このような構造のスケール20では、p偏光の一次回折効率がs偏光の一次回折効率よりも極端に小さいという難点がある。
【0012】
具体的に、スケール20の回折格子21が0.2μmの幅、深さ700nmの凹凸からなるとし、スケール20への照射光L1a、L1bの波長が655nm、入射角が54.5°に設定されたとすると、スケール20におけるp偏光の一次回折効率はs偏光の一次回折効率の1/10程度となる。なお、スケール20の回折格子21は、0.2μmの幅、深さ650〜750nmの凹凸とすることが考えられる。この場合、スケール20への照射光L1a、L1bの入射角は45〜65°に設定され、この条件においては、スケール20におけるp偏光の一次回折効率はs偏光の一次回折効率の1/20〜1/6程度となる。
【0013】
偏光部30は、s偏光と直交するp偏光の回折光L2cに回折光L2aを変換する。また、偏光部30は、回折光L2bと回折光L2cを合成して合成光L3a、L3bを生成する。さらに、偏光部30は、合成光L3aを円偏光の合成光L3cに変換する。このような偏光部30は、
図1に示すように、ミラー31a、31b、1/2波長板32、無偏光ビームスプリッタ33、1/4波長板34、及び偏光板35a、35bにより構成することができる。
【0014】
ミラー31aは回折光L2aを反射させ、ミラー31bは回折光L2bを反射させる。ミラー31a、31bは測定軸と直交する軸を中心に対称に配置される。1/2波長板32は回折光L2aの偏光方向を90°回転させて回折光L2aをp偏光の回折光L2cに変換する。無偏光ビームスプリッタ33は、回折光L2bと回折光L2cを合成して合成光L3a、L3bを生成する。1/4波長板34は、合成光L3aの両偏光に90°の位相差を付与して合成光L3aを円偏光の合成光L3cに変換する。偏光板35a、35bは、各々、合成光L3c、L3bに対して45°の光軸で配置され、両偏光を干渉させる。両干渉光は受光部40にて受光される。
【0015】
受光部40は、
図1に示すように、A相受光部41a、B相受光部41bを有する。A相受光部41a及びB相受光部41は、各々、90°位相が異なる合成光L3c、L3bを受光する。これら合成光L3b、L3cを受光量に基づき、スケール20に対する受光部40の移動方向及び移動量が検出される。
【0016】
以上、第1の実施の形態によれば、スケール20の回折格子21は、乳剤により構成されておらず、回折格子21の形状に加工された表面を持つガラス基材により構成される。また、ガラスは乳剤と比較して、温度及び湿度の変化により光学的特性を変化させない。したがって、第1の実施の形態に係る光電式エンコーダは、温度及び湿度の変化による測定精度の劣化を抑制できる。また、第1の実施の形態に係るスケール20において、p偏光よりも一次回折効率が高いs偏光の一次回折光のみを使用しているので、受光部40において受光する合成光L3b、L3cの光量を高くできる。
【0017】
[第2の実施の形態]
次に、
図3を参照して、第2の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。上述した第1の実施の形態において、1/2波長板32の特性にはバラツキがある。このバラツキによって、偏光方向の回転角にずれが発生すると、受光部40で受光する合成光L3b、L3cの間には位相差が生じる。そこで、合成光L3b、L3cの間の位相差を小さくするため、第2の実施の形態に係る偏光部30aは、回折光L2bと回折光L2cとの間の光路差を小さくするように構成される。この点のみ第2の実施の形態は第1の実施の形態と異なる。
【0018】
第2の実施の形態における偏光部30aにおいて、ミラー31a、31bの測定軸に対する角度は調整可能に構成される。このミラー31a、31bのスケール20に対する角度は、回折光L2bと回折光L2cとの間の光路差を小さくするように調整される。
【0019】
[第3の実施の形態]
次に、
図4を参照して、第3の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。第3の実施の形態に係る偏光部30bは、第2の実施の形態と同様に回折光L2bと回折光L2cとの間の光路差を小さくするように構成される。
【0020】
偏光部30bにおいて、無偏光ビームスプリッタ33のスケール20に対する角度及び位置は調整可能に構成される。この無偏光ビームスプリッタ33のスケール20に対する角度及び位置は、回折光L2bと回折光L2cとの間の光路差を小さくするように調整される。
【0021】
[第4の実施の形態]
次に、
図5を参照して、第4の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。第4の実施の形態は、スケール20aのみ第1〜第3の実施の形態と異なる。
図5に示すように、スケール20aは、ガラス21の表面を覆い且つ光を透過させる保護層22を有する。この保護層22により、ガラス21の傷及び汚れが抑制される。例えば、保護層22はガラス又はプラスチックにより構成される。
【0022】
[第5の実施の形態]
次に、
図6を参照して、第5の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。第5の実施の形態は、スケール20bのみ第1〜第4の実施の形態と異なる。
図6に示すように、スケール20bは、ガラス21の裏面に設けられ且つ光の反射を抑制する反射抑制層23を有する。この反射抑制層23により、一次回折光の回折効率は向上するため、回折光L2a、L2bの強度は第1の実施の形態よりも大きくできる。例えば、反射抑制層23はARコートにより構成される。
【0023】
[第6の実施の形態]
次に、
図7を参照して、第6の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。ここで、受光部40にて受光される検出対象の合成光L3b、L3c以外の光は、ノイズとなり、光電式エンコーダの測定精度を劣化させる。そこで、第6の実施の形態は、
図7に示すように第1の実施の形態の構成に加えて遮光部50を有する。遮光部50は、スケール20と偏光部30との間に設けられ、スケール20を透過した照射光L1a、L1b(0次回折光)を遮光する。これにより、受光部40での照射光L1a、L1b(0次回折光)の受光量は抑制されるため、第6の実施の形態は第1の実施の形態よりも測定精度を向上できる。
【0024】
[第7の実施の形態]
次に、
図8を参照して、第7の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。第7の実施の形態は、
図8に示すように第1の実施の形態の構成に加え、受光部60を有する。受光部60は、回折光L1aを受光して受光量S1aを計測し、回折光L1bを受光して受光量S1bを計測する。この受光部60に対応して、偏光部30cは、
図8に示すように、ミラー31a、31bの代わりに無偏光ビームスプリッタ36a、36bを有する。また、受光部60は、出力モニタ受光部61a、61bを有する。
【0025】
無偏光ビームスプリッタ36aは回折光L2aの一部を出力モニタ受光部61aに照射し、回折光L2aの残りを無偏光ビームスプリッタ33に照射する。無偏光ビームスプリッタ36bは回折光L2bの一部を出力モニタ受光部61bに照射し、回折光L2bの残りを無偏光ビームスプリッタ33に照射する。
【0026】
出力モニタ受光部61aは回折光L2aを受光して受光量S1aを計測し、出力モニタ受光部61bは回折光L2bを受光して受光量S1bを計測する。これら受光量S1a、S1bに基づき光源11の駆動電流は制御され、照明光L0(L1a、L1b)の光量は一定に制御される。
【0027】
[第8の実施の形態]
次に、
図9を参照して、第8の実施の形態に係る光電式エンコーダについて説明する。第8の実施の形態は、スケール20cのみ第1〜第7の実施の形態と異なる。上記実施の形態に係るスケール20、20a、20bは光を透過させるが、第8の実施の形態に係るスケール20cは光を反射させる。
【0028】
図9に示すように、スケール20cは、ガラス21の裏面に設けられ且つ光を反射させる反射層24を有する。ガラス21の表面から入射した照明光L1a、L1bは、ガラス21によって回折され、反射層24によって反射されて、回折光L2a、L2bとなる。反射層24は例えば金属により構成される。この場合、第1〜第7の実施形態で示した透過型光電式エンコーダとは異なり、反射型光電式エンコーダを構成することができる。
【0029】
以上、発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、追加等が可能である。例えば、本発明は、スケール20に2つのp偏光の照射光を照射する構成であってもよい。この場合、スケール20におけるs偏光の一次回折効率はp偏光の一次回折効率よりも小ければよい。
【符号の説明】
【0030】
10…照射部、 20、20a、20b、20c…スケール、 30、30a、30b、30c…偏光部、 40、60…受光部、 50…遮光部。