【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第一の実施例における接合部応力低減熱電変換モジュールの素子近傍を抜粋した側面図である。1は熱電変換素子組立体、11はP型熱電変換素子、12はN型熱電変換素子、20は一体電極、21はP型用電極、22はN型用電極、30は接合材である。P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12は、シリコン−ゲルマニウム系、鉄−シリコン系、ビスマス−テルル系、マグネシウム−シリコン系、鉛−テルル系、コバルト−アンチモン系、ビスマス−アンチモン系やホイスラー合金系、ハーフホイスラー合金系など、熱電変換特性がある材料とする。P型用電極21とN型用電極22は、ニッケル、モリブデン、チタン、鉄、銅、マンガン、タングステン、またはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。接合材30は、アルミニウム、ニッケル、錫、銅、亜鉛、ゲルマニウム、マグネシウム、金、銀、インジウム、鉛、ビスマス、テルルまたはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。
【0014】
以降の実施例では、P型熱電変換素子11は、P型半導体の特性を付与する1%以下のボロン、アルミニウム、ガリウム等の不純物を含有したシリコンとゲルマニウム粉末を、N型熱電変換素子12は、N型半導体の特性を付与する10%以下のアルミニウム等の不純物を含有したシリコンとマグネシウム粉末をそれぞれパルス放電法やホットプレス法等により焼結した熱電変換素子として説明する。すなわち、本実施例ではP型熱電変換素子11をシリコン-ゲルマニウム素子、N型熱電変換素子12をシリコン-マグネシウム素子とする。また、P型用電極21はモリブデン(線膨張係数5.8×10
-6K
-1)を、N型用電極22としてニッケル(線膨張係数15.2×10
-6K
-1) として説明する。
【0015】
P型用電極21とN型用電極22の接合は、電子ビーム溶接、アーク溶接、スポット溶接、TIG溶接などのように母材を直接溶融させる方法、クラッド材のように圧延工程などの固相接合により一体する方法、ろう材などの接合材を用いて接合する方法など、使用環境下で再溶融しない方法であれば、どのような方法を用いてもかまわない。
【0016】
図1に示すように、P型熱電変換素子11とP型用電極21、N型熱電変換素子12とN型用電極22は接合材30により上端と下端で接合されている。熱電変換モジュールは、熱電変換素子の両端に温度差を与えることにより、温度差に応じた起電力が発生するモジュールである。
図1の上面を高温に、下面を低温にした場合について以下に示す。
【0017】
上下面に与えた温度差により、熱電変換素子組立体1には電流が流れる。電流は、P型熱電変換素子11では高温側から低温側(
図1中、上から下)に、N型熱電変換素子12では低温側から高温側(
図1中、下から上)に流れるので、これらを直列に接合することで電気的な回路を形成する。このように直列に接続した熱電変換素子を平面状、ライン上などに複数接合することで熱電変換素子組立体1を構成する。
【0018】
ここでP型熱電変換素子11であるシリコン-ゲルマニウム素子の線膨張係数が4.5×10
-6K
-1、N型熱電変換素子12であるシリコン-マグネシウム素子の線膨張係数が15.5×10
-6K
-1であることから、接合プロセスの加熱時や実使用環境の温度変化を加えたときの膨張収縮量が、P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12で異なることがわかる。各々の熱電変換素子が電極に接合された構造の場合、電極材と各熱電変換素子の線膨張係数差により接合部近傍に応力とひずみが発生し、接合部破断や剥離、P型熱電変換素子11やN型熱電変換素子12の割れが懸念される。
【0019】
しかし、本実施例における構造においては、P型熱電変換素子11であるシリコン-ゲルマニウム(線膨張係数4.5×10
-6K
-1)と、P型用電極21であるモリブデン(線膨張係数5.8×10
-6K
-1)の線膨張係数差が1.3×10
-6K
-1と小さいため、P型熱電変換素子11の接合部近傍に発生する応力やひずみを低減することができる。同様に、N型熱電変換素子12であるシリコン-マグネシウム(線膨張係数15.5×10
-6K
-1)と、N型用電極22であるニッケル(線膨張係数15.2×10
-6K
-1)の線膨張係数差が0.3×10
-6K
-1であることから、N型熱電変換素子12の接合部近傍の応力やひずみも低減することができ、良好な接合信頼性を有する接合部を形成することができる。
【0020】
更に本実施例においては、応力緩衝層を予め熱電変換素子に形成する必要がなくなるため、熱電変換素子の製造プロセスが簡略化でき、厚さ方向の構成総数も少なくなることから、高さばらつきも低減することが可能となる。
【0021】
また本発明の接合形態は、特許文献1に開示されている
図6に示すような単一材料で電極625を形成した構成におけるP型熱電変換素子611及びN型熱電変換素子612と接合材631で接合する場合に比べ、接合部に発生する応力やひずみの絶対値を低下させるため、使用環境温度が600℃近くになった場合でも接合信頼性の大幅な低下は抑制することができる。
【0022】
図2は、本発明の第一の実施例における接合部応力低減熱電変換モジュールの組立プロセス例について素子近傍を抜粋した側面図である。1は熱電変換素子組立体、11はP型熱電変換素子、12はN型熱電変換素子、20は一体電極、21はP型用電極、22はN型用電極、30は接合材、40は支持治具、41は加圧治具である。P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12は、シリコン−ゲルマニウム系、鉄−シリコン系、ビスマス−テルル系、マグネシウム−シリコン系、鉛−テルル系、コバルト−アンチモン系、ビスマス−アンチモン系やホイスラー合金系、ハーフホイスラー合金系など、熱電変換特性がある材料とする。P型用電極21とN型用電極22は、ニッケル、モリブデン、チタン、鉄、銅、マンガン、タングステン、またはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。
【0023】
接合材30は、アルミニウム、ニッケル、錫、銅、亜鉛、ゲルマニウム、マグネシウム、金、銀、インジウム、鉛、ビスマス、テルルまたはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。本組立プロセスでは、接合材30はアルミニウムまたは、アルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有したアルミニウム合金箔、または、アルミニウム、アルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有した粉末からなる箔として説明する。支持治具40は、セラミックや金属など、接合プロセスで溶融しない材料であればよく、接合材30と反応しない材料である、もしくは表面に反応しない層を形成し反応を抑制することが望ましい。以下、
図2に熱電変換素子組立体1の組立方法のフローを、(a)乃至(c)を用いて熱電変換モジュールの組立方法を参照しながら説明する。
【0024】
先ず、
図2の(a)に示すように、支持治具40上にP型用電極21とN型用電極22を接合した一体電極20を設置する。その後、P型用電極21上に接合材30、P型熱電変換素子11の順に、N型用電極22上に接合材30、N型熱電変換素子12の順に位置合せおよび設置を行う。各熱電変換素子上に再度接合材30を設置し、P型熱電変換素子11上にはP型用電極21が、N型熱電変換素子12上にはN型用電極22がくるように一体電極20を配置する。ここでは接合材30を金属箔として説明するが、接合材30の厚さは、1〜500μmが望ましい。これらの設置には、治具(図示せず)を用いて一括で設置しても良いし、個別に設置してもよく、方法は問わない。
【0025】
次に、
図2の(b)に示すように、上方から加圧治具41により加圧を行うと共に加熱を行い、接合材30を溶融させて、P型用電極21とP型熱電変換素子11、N型用電極22とN型熱電変換素子12を、接合材30を介して接合させる(金属接合)。この際の熱電変換素子にかかる荷重はを0.12kPa以上として接合することが望ましい。そののち、
図2の(c)に示すように、加圧治具41と支持治具40から取り外すことにより、熱電変換素子組立体1が形成できる。
【0026】
図2を用いて説明では、上下面の接合材30を一括して接合するプロセスを示したが、いずれか一方を予め接合したのち、他方を接合してもよい。たとえば、
図2の(a)のステップにおいて、支持治具40側の接合材30と熱電変換素子のみを設置し、下側の支持治具40を加熱し接合材30を溶融して熱電変換素子と支持治具40側の一体電極20とを接合させ、その後熱電変換素子の上面と一体電極20を接合材30で接合して熱電変換素子組立体1を形成してもよい。
【0027】
ここで、加圧力を0.12kPa以上としたのは、接合時にP型熱電変換素子11およびN型熱電変換素子12が傾くのを防止することと、P型熱電変換素子11およびN型熱電変換素子12と一体電極20の界面から溶融した接合材30を極力排出するためである。加圧力の上限は特に限定しないが、素子が破壊しない程度とする必要があるため素子の圧壊強さ未満とする。具体的には1000MPa程度以下であればよいが、本実施例では、数MPa程度の圧力で十分に効果を得ることができる。
【0028】
接合雰囲気は、非酸化性雰囲気であればよく、具体的に、真空雰囲気、窒素雰囲気、窒素水素混合雰囲気等を用いることができる。
【0029】
本実施例では、接合材30として金属箔を例としたが、接合材30はアルミニウム粉末やアルミニウム中にシリコン、ゲルマニウム等を含有したアルミニウム合金粉末を用いてもよい。この場合、単一の粉末として用いてもよく、各々の粉末から形成される層を積層してもよく、これらの混合粉末を用いてもよい。このような粉末を用いる場合、粉末のみを圧粉成形した成形体をP型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12の接合を行う箇所のみに配置してもよく、あるいは予め熱電変換素子の接合を行う箇所のみに粉末を塗布しておいてもよく、さらに樹脂等を用いてペースト化した粉末を熱電変換素子の接合を行う部分に塗布することで配置してもよい。予め粉末を塗布しておくことで箔を設置する工程が省略できるため、製造プロセスをより簡易にすることができる。
【0030】
図3は、本発明の第一の実施例における接合部応力低減熱電変換モジュールの構造一例の斜視図を示しており、46個の熱電変換素子を格子状に整列して接合したものである。11はP型熱電変換素子、12はN型熱電変換素子、21はP型用電極、22はN型用電極、23は引き出し配線である。引き出し配線23は、熱電変換素子で発生した電力を取り出すための配線であり、材質は通電する材料であればどのような材料でも良い。
図2に示したプロセスを適用し、
図3に示す熱電変換モジュールを形成する。この熱電変換モジュールは、ケースに封入して使用しても良いし、このまま使用しても良い。
【0031】
図3に示すように、P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12とは、P型用電極21とN型用電極22により交互に接続されて、電気的に直列に接続されている。直列接続の両端から引き出し配線23を形成し、外部へ起電力を取り出す構造とする。
図3において、P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12を四角柱として表したが、熱電変換素子の形状は四角柱、三角柱、多角柱、円柱、楕円柱など柱状であればよい。
【0032】
本実施例に係る熱電変換モジュールは、
図3に示したような複数のP型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12とが一体電極20で接続されて電気的に直列に接続されたものを1つだけで構成した構造であってもよく、又、
図3に示したような構成を複数備えて、それらを電気的に並列に接続した構成としてもよい。
【0033】
本実施例によれば、P型熱電変換素子11とP型用電極21の線膨張係数の差およびN型熱電変換素子12とN型用電極22の線膨張係数差を低減した構造とすることにより、高温環境下で熱電素子と電極間に発生する熱応力や常温状態と高温状態とを繰り返す温度変動環境下で熱電素子と電極間に繰り返し発生する熱応力を抑制し、実使用環境下でも高い信頼性を確保できることが可能となる。この場合、P型熱電変換素子11とP型用電極21の線膨張係数の差およびN型熱電変換素子12とN型用電極22の線膨張係数の差は絶対値で6×10
-6K
-1以下とすることが好ましく、3×10
-6K
-1以下とすることがより好ましく、1.5×10
-6K
-1以下とすることがさらに好ましい。
【実施例2】
【0034】
本発明の第2の実施例を、
図4を用いて説明する。
第2の実施例においては、
図4に示すように、一体電極201の形状が、第1の実施例の一体電極20と異なっている。
【0035】
図4は、本発明の第二の実施例における接合部応力低減熱電変換モジュールの素子近傍を抜粋した側面図である。1は熱電変換素子組立体、11はP型熱電変換素子、12はN型熱電変換素子、201は一体電極、211はP型用電極、221はN型用電極、30は接合材である。
【0036】
P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12は、シリコン−ゲルマニウム系、鉄−シリコン系、ビスマス−テルル系、マグネシウム−シリコン系、鉛−テルル系、コバルト−アンチモン系、ビスマス−アンチモン系やホイスラー合金系、ハーフホイスラー合金系など、熱電変換特性がある材料とする。P型用電極211とN型用電極221は、ニッケル、モリブデン、チタン、鉄、銅、マンガン、タングステン、またはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。接合材30は、アルミニウム、ニッケル、錫、銅、亜鉛、ゲルマニウム、マグネシウム、金、銀、インジウム、鉛、ビスマス、テルルまたはこれらの金属のうち、いずれかを主成分とする合金であることが望ましい。
【0037】
以降の実施例では、P型熱電変換素子11は、P型半導体の特性を付与する1%以下のボロン、アルミニウム、ガリウム等の不純物を含有したシリコンとゲルマニウム粉末を、N型熱電変換素子12は、N型半導体の特性を付与する10%以下のアルミニウム等の不純物を含有したシリコンとマグネシウム粉末をそれぞれパルス放電法やホットプレス法等により焼結した熱電変換素子として説明する。すなわち、本実施例ではP型熱電変換素子11をシリコン-ゲルマニウム素子、N型熱電変換素子12をシリコン-マグネシウム素子とする。また、P型用電極211はモリブデン(線膨張係数5.8×10
-6K
-1)を、N型用電極221としてニッケル(線膨張係数15.2×10
-6K
-1) として説明する。
【0038】
P型用電極211とN型用電極221の接合は、電子ビーム溶接、アーク溶接、スポット溶接、TIG溶接などのように母材を直接溶融させる方法、クラッド材のように圧延工程などの固相接合により一体する方法、ろう材などの接合材を用いて接合する方法など、使用環境下で再溶融しない方法であれば、どのような方法を用いてもかまわない。
【0039】
図4に示すように、P型熱電変換素子11とP型用電極211、N型熱電変換素子12とN型用電極221は接合材30により上端と下端で接合されている。熱電変換モジュールは、熱電変換素子の両端に温度差を与えることにより、温度差に応じた起電力が発生するモジュールである。
図4の上面を高温に、下面を低温にした場合について以下に示す。
【0040】
上下面に与えた温度差により、熱電変換素子組立体1には電流が流れる。電流は、P型熱電変換素子11では高温側から低温側(
図4中、上から下)に、N型熱電変換素子12では低温側から高温側(
図4中、下から上)に流れるので、これらを直列に接合することで電気的な回路を形成する。このように直列に接続した熱電変換素子を平面状、ライン上などに複数接合することで熱電変換素子組立体1を構成する。
【0041】
ここでP型熱電変換素子11であるシリコン-マグネシウム素子の線膨張係数が4.5×10
-6K
-1、N型熱電変換素子12であるシリコン-マグネシウム素子の線膨張係数が15.5×10
-6K
-1であることから、接合プロセスの加熱時や実使用環境の温度変化を加えたときの膨張収縮量が、P型熱電変換素子11とN型熱電変換素子12で異なることがわかる。各々の熱電変換素子が電極に接合された構造の場合、電極材と各熱電変換素子の線膨張係数差により接合部近傍に応力とひずみが発生し、接合部破断や剥離、P型熱電変換素子11やN型熱電変換素子12の割れが懸念される。
【0042】
しかし、本実施例における構造においては、P型熱電変換素子11であるシリコン-ゲルマニウム(線膨張係数4.5×10
-6K
-1)と、P型用電極211であるモリブデン(線膨張係数5.8×10
-6K
-1)の線膨張係数差が1.3×10
-6K
-1と小さいため、P型熱電変換素子11の接合部近傍に発生する応力やひずみを低減することができる。
【0043】
同様に、N型熱電変換素子12であるシリコン-マグネシウム(線膨張係数15.5×10
-6K
-1)と、N型用電極221であるニッケル(線膨張係数15.2×10
-6K
-1)の線膨張係数差が0.3×10
-6K
-1であることから、N型熱電変換素子12の接合部近傍の応力やひずみも低減することができ、良好な接合信頼性を有する接合部を形成することができる。
【0044】
更に本実施例においては、応力緩衝層を予め熱電変換素子に形成する必要がなくなるため、熱電変換素子の製造プロセスが簡略化でき、厚さ方向の構成総数も少なくなることから、高さばらつきも低減することが可能となる。
【0045】
また本発明の接合形態は、
図6に示すような単一材料で電極を形成した場合に比べ、接合部に発生する応力やひずみの絶対値を低下させるため、使用環境温度が600℃近くになった場合でも接合信頼性の大幅な低下は抑制することができる。
【0046】
図4では、P型用電極211の形状をL字形状としたが、N型用電極221をL字形状としてもかまわないが、熱伝導率および電気伝導率の高い材料で形成した電極をL字形状としたほうが良い。本実施例によれば、第一の実施例で説明した効果に加え、一体電極201の体積に占める熱伝導率の高い材料の割合を増加させることにより、変換効率を向上させることができる。