特許第6094467号(P6094467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6094467
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/34 20060101AFI20170306BHJP
   C22B 19/30 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20170306BHJP
   C22B 1/248 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C22B19/34
   C22B19/30
   C22B7/02 A
   C22B7/02 B
   C22B5/10
   C22B1/00 601
   C22B1/02
   C22B1/248
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-267020(P2013-267020)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-124388(P2015-124388A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】日下部 武
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘志
(72)【発明者】
【氏名】藤山 哉
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−011354(JP,A)
【文献】 特開2000−128530(JP,A)
【文献】 特開平07−216464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する粉末状の原料鉱から酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
原料鉱と炭素質還元剤とを混合造粒して還元剤内装ペレットとする予備混合工程と、
前記還元剤内装ペレットを焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程と、
前記粗酸化亜鉛に湿式処理を施して、前記フッ素を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱ロータリーキルンで焼成する乾燥加熱工程と、を備え、
前記乾燥加熱工程に投入される前記粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を0.3質量%以下に保持し、
前記乾燥加熱ロータリーキルンによる焼成を1100℃以上1150℃以下で行い、
前記乾燥加熱工程後の前記酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を、0.05質量%以下に維持する酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項2】
前記還元剤内装ペレット中の前記炭素質還元剤の含有量比が7.5%以下であり、
前記還元剤内装ペレットの圧壊強度が4200g以上6500g以下である請求項1に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
圧壊強度:還元剤内装ペレットを、ばね計りと、試料設置板を備える圧壊強度測定装置により圧縮した場合に、還元剤内装ペレットが、損壊した時点のばね計りの測定値(g)を、当該還元剤内装ペレットの圧壊強度(g)とする。
【請求項3】
前記原料鉱が鉄鋼ダストである請求項1又は2に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【請求項4】
前記炭素質還元剤が、粉末状のリサイクルカーボンである請求項1からのいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。更に詳しくは、中間製造物である粗酸化亜鉛を焼成することによって、当該粗酸化亜鉛に残留するフッ素成分を揮発して分離する工程を含む酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から、不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。
【0003】
粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストに還元焙焼処理を施すことによって得ることができる。この鉄鋼ダストの還元焙焼処理は、一般に、ロータリーキルンによる還元焙焼処理によって行われる。
【0004】
ロータリーキルンによる還元焙焼処理を行う場合、原料とする鉄鋼ダストは、カーボン等の炭素質還元剤とともに、ロータリーキルン内に投入される。又、亜鉛の揮発率をより向上させるために、ロータリーキルン内に投入する鉄鋼ダストを、予め炭素質還元剤と混合造粒して大きさ5〜10mm程度の還元剤内装型のペレットに成形することも広く行われている(特許文献1参照)。
【0005】
還元焙焼処理を行うロータリーキルン内は燃料重油と上記の炭素質還元剤の燃焼により、最高温度が1100〜1200℃程度にコントロールされている。このロータリーキルン内で鉄鋼ダストは還元焙焼され、揮発した金属亜鉛はキルン内で再酸化されて固形化した後、粒子状の粗酸化亜鉛として電気集塵機等で捕集される。そして、回収された粗酸化亜鉛は、更にその後の湿式工程や乾燥加熱工程によって更に不純物を分離して必要な程度にまでその亜鉛品位を高めた酸化亜鉛鉱とされ、亜鉛製錬の原料となる。
【0006】
ここで、資源リサイクル促進の観点からは、上記の鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。しかし、一方で鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、フッ素等の不純物が一定以上の濃度で含有されている。
【0007】
最終製品である亜鉛におけるフッ素濃度は当然に極めて低いものであることが求められる。又、酸化亜鉛鉱をISP製錬法等による亜鉛製錬の原料として用いるためには、各製錬工程において許容される値にまで、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を低減する必要がある。
【0008】
酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を低減するために、還元焙焼後の粗酸化亜鉛からのフッ素を分離除去する方法としては、乾燥加熱炉による焼成によってフッ素成分を揮発させて分離する方法(特許文献2参照)がある。
【0009】
ここで、例えば、電解製錬向け酸化亜鉛鉱については、電解採取工程で使用されるアルミニウム製パーマネントカソードの腐食進行を抑制するために、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を0.05質量%未満にまで低減する必要がある。このような高精度のフッ素の分離除去を行うための手段として、上記の焼成を行うロータリーキルン内の温度を高めてフッ素の揮発率を高める方法がある。しかし、キルン内の温度を、例えば1300℃程度まで高めた場合には、乾燥加熱処理による反応生成物が軟化・溶融してロータリーキルン内壁に付着し、付着物が操業時間の経過に伴って成長増大し、原料がロータリーキルン内を移動する際の障害物となり、遂には操業の停止を招くという欠点がある。
【0010】
電解製錬向け酸化亜鉛鉱に代表される高品位の酸化亜鉛鉱の製造現場においては、高精度のフッ素除去を行うために、高温操業によるロータリーキルンの稼動効率の低下を、ある程度は容認せざるをえないのが現状であり、稼動効率を維持したまま、フッ素濃度を極めて低い濃度にまで低減することができる酸化亜鉛鉱の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−261005号公報
【特許文献2】特開平9−125169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、酸化亜鉛鉱の製造において、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位とロータリーキルンの稼動効率を維持したまま、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を、極めて低い濃度にまで低減することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
粗酸化亜鉛から酸化亜鉛鉱を製造するトータルプロセスにおいて、還元焙焼工程に投入される原材料として、カーボン等の炭素質還元剤が内装されたものが好ましく用いられている。本発明者らは、この炭素質還元剤に由来する炭素の乾燥加熱工程への混入量を一定量以下に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0014】
(1) フッ素を含有する粉末状の原料鉱から酸化亜鉛鉱を製造する酸化亜鉛鉱の製造方法であって、前記原料鉱と炭素質還元剤とを混合造粒して還元剤内装ペレットとする予備混合工程と、前記還元剤内装ペレットを焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程と、前記粗酸化亜鉛に湿式処理を施して、前記フッ素を除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉で焼成する乾燥加熱工程と、を備え、前記乾燥加熱工程に投入される前記粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を0.3質量%以下に保持する酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0015】
(2) 前記還元剤内装ペレット中の前記炭素質還元剤の含有量比が7.5%以下であり、前記還元剤内装ペレットの下記定義による圧壊強度が4200g以上6500g以下である(1)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
圧壊強度:還元剤内装ペレットを、ばね計りと、試料設置板を備える圧壊強度測定装置により圧縮した場合に、還元剤内装ペレットが、損壊した時点のばね計りの測定値(g)を、当該還元剤内装ペレットの圧壊強度(g)とする。
【0016】
(3) 前記乾燥加熱炉が、乾燥加熱ロータリーキルンであり、該乾燥加熱ロータリーキルンによる焼成を1100℃以上1150℃以下で行い、前記乾燥加熱工程後の前記酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を、0.05質量%以下に維持する(1)又は(2)に記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0017】
(4) 前記原料鉱が鉄鋼ダストである(1)から(3)のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0018】
(5) 前記炭素質還元剤が、粉末状のリサイクルカーボンである(1)から(4)のいずれかに記載の酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、例えば鉄鋼ダスト等のフッ素を含有する粉末状の原料鉱を原材料とし、ロータリーキルンによる乾燥加熱工程を経て、酸化亜鉛鉱を製造するプロセスにおいて、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位とロータリーキルンの好ましい稼動効率を維持したまま、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を、極めて低い濃度にまで低減することができる酸化亜鉛鉱の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2】還元剤内装ペレットの炭素含有量及びペレットの圧壊強度と、乾燥加熱工程への炭素投入量との関係を示すグラフである。
図3】還元剤内装ペレットの炭素含有量と、乾燥加熱工程への炭素投入量との関係を示すグラフである。
図4】本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法の乾燥加熱工程への炭素投入量とフッ素揮発率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施態様について図面を参照しながら説明する。
【0022】
<全体プロセス>
図1に示すように、本実施例の酸化亜鉛鉱の製造方法は、鉄鋼ダスト等の粉末状の原料鉱と、リサイクルカーボン等の炭素質還元剤とを混合造粒して還元剤内装ペレットとする予備混合工程S10と、還元剤内装ペレット、及び、その他の鉄鋼ダストを、還元焙焼して粗酸化亜鉛を得る還元焙焼工程S20、還元焙焼工程S20で得た粗酸化亜鉛から、フッ素等のハロゲン成分を処理液中に分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S30、及び、湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40、乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得る排ガスダスト洗浄工程S50、及び、排水処理工程S60を備える全体プロセスである。
【0023】
本実施例の酸化亜鉛鉱の製造方法は、特に乾燥加熱工程S40において乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)に投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度に着目し、当該濃度を所定範囲内に制御することによって、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を極めて低い範囲に維持する点にある。この方法によれば、酸化亜鉛鉱の亜鉛品位とロータリーキルンの稼動効率を維持したまま、酸化亜鉛鉱のフッ素濃度を極めて低い範囲に維持することができる。例えば、電解製錬向け酸化亜鉛焼鉱として好ましく用いることができる極めてフッ素濃度が低い酸化亜鉛鉱を高い生産性の下で製造することができる。
【0024】
<予備混合工程>
予備混合工程S10は、還元焙焼工程S20に先駆けて、鉄鋼ダスト等の原料鉱とリサイクルカーボン等の炭素質還元剤を主体とする粉体を混合造粒して還元剤内装ペレットとする工程である。この混合造粒の作業は、一般的に用いられるペレタイジング装置を使用することができる。例えば、回転式のパン型ペレタイザーを用いて、鉄鋼ダストとリサイクルカーボン、及び必要に応じてその他の添加物とを、所定のペレット組成となるように連続的に供給し、ミスト状の水分を添加しながらペレタイジングする。ペレットのサイズとしては5〜10mm程度が好ましく、含水率としては10〜15質量%程度となることが好ましい。
【0025】
原料鉱としては、亜鉛を含む有価金属を所定量以上の割合で含有し、不純物として除去されるべきフッ素の含有量が所定量以下である種々の鉱石を用いることができる。又、金属の精錬工程や加工工程で発生するダストやスラジであって、ペレット化可能な粉体、又はスラリー状のものも用いることができる。中でも、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、鉄鋼ダストを好ましく用いることができる。以下では、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法において粗酸化亜鉛の原料鉱として鉄鋼ダストを用いる場合について説明する。
【0026】
原料鉱として鉄鋼ダストを用いる場合、特に制限はなく、一般に亜鉛品位が高く、よって一般的還元焙焼条件における亜鉛の揮発率が相対的に低い鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストA」とも言う)であってもよい。このような鉄鋼ダストAについても、予備混合工程S10によって、予め、還元剤内装ペレットとすることにより、亜鉛の揮発率が相対的に高い一般的な鉄鋼ダスト(以下「鉄鋼ダストB」とも言う)を、炭素質還元剤を内装せずに、還元焙焼炉に投入した場合と同様に、高い揮発率で亜鉛を揮発させて回収することができる。
【0027】
炭素質還元剤としては、カーボンやリサイクルカーボン等であって、ペレット化可能な粉体、又はスラリー状のものを用いることができる。中でも、資源リサイクルの促進、コスト削減の観点から、リサイクルカーボンを好ましく用いることができる。
【0028】
リサイクルカーボンは、概ね均一な粉体状のものを、相対的に他の炭素質還元材料よりも、低廉且つ容易に入手し易い。そして、そのような粉体状のリサイクルカーボンは、還元剤内装ペレット中での分散性に優れ、又、造粒も容易である。以上より、特に粉体状のリサイクルカーボンは、本発明の製造方法に用いる炭素質還元剤として極めて好ましく用いることができる。尚、粉体状とは特定の粒径の粉体に限定されるものではないが、概ね1mm未満程度の粉体状のリサイクルカーボンを、上記の通り、極めて好ましく用いることができる。以下、本明細書では、本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法において還元剤内装ペレットを得るために用いる炭素質還元剤として粉体状のリサイクルカーボン用いる場合について説明する。
【0029】
鉄鋼ダストAとリサイクルカーボンとをパン型ペレタイザーで混合造粒して製造する還元剤内装ペレットは、その後の各工程を経て、乾燥加熱工程でDRKへ投入される時点での炭素濃度が0.3%以下となるように、混合造粒時点において予め炭素濃度を適当な値に調整しておく。
【0030】
上記調整は、具体的には、RRKへの投入時の還元剤内装ペレットの炭素濃度と圧壊強度が、ともに下記に規定する本発明特有の範囲内に最適化されていることによって実現される。具体的には、RRKへの投入時の還元剤内装ペレットの炭素濃度については、5.0%以上10.0%以下、好ましくは、5.0%以上7.5%以下となるようにする。又、同時に、還元剤内装ペレットは、下記の定義による圧壊強度について、4200g以上6500g以下、好ましくは、6000g程度となるようにする。
【0031】
[圧壊強度の定義]
本明細書において、圧壊強度とは、以下に定義する値のことを言うものとする。
圧壊強度:還元剤内装ペレットを、ばね計りと、試料設置板を備える圧壊強度測定装置により圧縮した場合に、還元剤内装ペレットが、損壊した時点のばね計りの測定値(g)を、当該還元剤内装ペレットの圧壊強度(g)とする。
尚、測定時の試料の安定性を確保して、測定を安定的に行うためには、例えば、試料にかかる圧力を、3つのばね計りで、それぞれ測定した3カ所の圧力の合計として測定する3点指示型の圧壊強度測定装置を好ましく用いることができる。この場合には上記の3つのばね計りのそれぞれの測定値の和が上記圧壊強度(g)となる。
【0032】
還元剤内装ペレットの炭素濃度及び圧壊強度を、ともに全操業期間を通じて上記範囲内となるように制御することによって、還元剤内装ペレットの採用による鉄鋼ダストAの亜鉛揮発率の向上効果を享受しながら、乾燥加熱工程におけるフッ素の揮発率を十分に高めることができる。還元剤内装ペレットの炭素濃度が5.0%未満であると、ペレット化による酸化亜鉛の還元率の向上が不十分となる。又、同炭素濃度が10.0%を超えても、それ以上の還元率の向上については、期待値ほどは望みがたく、コストパフォーマンスも下がるため好ましくない。又、上記圧壊強度が4200g未満であると、例え上記炭素濃度が5.0%以上であったとしても、圧壊強度不足のため、炭素の乾燥加熱工程への混入量が増加し、一方、上記圧壊強度が6500gを大きく超えると、還元キルン内部で粒状を保持するため、亜鉛揮発率が低くなり、いずれも好ましくない。
【0033】
尚、上記の還元剤内装ペレットの圧壊強度は、原料鉱とする鉄鋼ダスト等の圧壊強度に強く依存する。よって、選択する鉄鋼ダストの強度を高強度のものに限定することによって所望の圧壊強度のペレットを製造することができる。又、ペレット造粒後のエイジング期間を調整することによっても適宜所望の圧壊強度とすることができる。
【0034】
ここで、図2は、還元剤内装ペレットの炭素含有量及びペレットの圧壊強度と、後の乾燥加熱工程S40への炭素投入量との関係を示すグラフである。この測定は、湿式工程S30から出てくる乾燥加熱キルン投入ケーキをXRF分析することによって行った。図3は、特に還元剤内装ペレットの圧壊強度を6000gに限定した場合の還元剤内装ペレットの炭素含有量(内装ペレット製造時のリサイクルカーボン比率)と、後の乾燥加熱工程S40への炭素投入量との関係を示すものである。
【0035】
図2及び図3より、圧壊強度が6000g程度の強度の大きな還元剤内装ペレットを使用し、更に、リサイクルカーボンの添加量を7.5%以下とすることで、乾燥加熱工程S40への炭素投入量を0.3%以下に制御できることが分かる。
【0036】
<還元焙焼工程>
還元焙焼工程S20を行う具体的な方法としては、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼法が一般的に採用されている。還元焙焼工程S20では、予備混合工程S10において得た還元剤内装ペレットが、石灰石等とともに、RRKに連続的に投入される。又、この際、還元剤内装ペレットとした鉄鋼ダストA以外にも、比較的亜鉛揮発率の高い鉄鋼ダストBが、コークス等の炭素質還元剤とともに、RRKに同様に投入されてもよい。この場合において、鉄鋼ダストBは、やはり、必要に応じて予め大きさ5〜10mm程度のペレットに成形されていることが好ましい。
【0037】
このRRKの炉内は重油の燃焼と投入した炭素質還元剤の燃焼により、被処理物の最高温度が1100〜1200℃程度にコントロールされている。この炉内で鉄鋼ダストAを含む還元剤内装ペレット及び鉄鋼ダストBはいずれも還元焙焼され、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛として回収される。
【0038】
鉄鋼ダストから還元焙焼工程によって得る粗酸化亜鉛には、一般的には8〜20質量%程度のハロゲン等の不純物が含有されている。本実施例の還元焙焼工程S20においては、還元焙焼処理後の粗酸化亜鉛中のフッ素濃度が0.6%質量未満となるように調整することが好ましい。鉄鋼ダストの組成や造粒状態、CaO等の添加剤混合量をキルン内風速や攪拌状態を鑑みて十分に調整することによって酸化亜鉛鉱中のフッ素濃度を0.6質量%未満とすることができる。本実施例においては、後の湿式工程S30に投入する粗酸化亜鉛のフッ素濃度を上記範囲に調整し、且つ、後に詳細を説明する通り、各工程における処理条件等を本発明特有の各範囲に調整することにより、電解製錬法による亜鉛製錬にも好ましく用いることができるフッ素濃度が0.05質量%未満の低ハロゲンの酸化亜鉛鉱を、従来よりも低コストで効率よく製造することができる。
【0039】
尚、上記還元焙焼法によって、揮発せずにキルン中に残った還元焙焼残渣は、還元された鉄分が多く含有されるため、還元鉄ペレットと称する製品としてキルン排出端より回収され、鉄鋼メーカーに鉄原料として払いだされる。
【0040】
<湿式工程>
粗酸化亜鉛に含有されるフッ素等の不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛から不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理は、以下の湿式工程S30における処理によって行うことができる。
【0041】
還元焙焼工程S20により鉄鋼ダストから回収された粗酸化亜鉛は、工業用水等でレパルプされる。回収は、電気集塵機等で行うことができる。又、このレパルプについてはアルカリ溶液を使用する必要はない。スラリーとなった粗酸化亜鉛はpH調整及び凝集処理を行い、その後、1次脱水を行う。pHは6〜7程度の弱酸性溶液に調整してカドミウムを溶離、凝集は凝集剤等を利用して沈降性を高める。この1次脱水後、工業用水で希釈し、更に2次脱水を行う。この2度の洗浄脱水により、酸化亜鉛ケーキのハロゲン濃度は、フッ素濃度について0.6質量%未満、塩素濃度については、1.0質量%未満にまで低減することが好ましい。
【0042】
フッ素等の不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛スラリーがより高濃度の粗酸化亜鉛ケーキとなる。尚、固液分離のための脱水処理については、シックナー等の重力沈降式スラリー濃縮装置や真空脱水機等の水分強制脱水装置を用いることができる。
【0043】
<乾燥加熱工程>
湿式工程S30で得た酸化亜鉛ケーキを、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)等の加熱炉に投入して焼成する乾燥加熱工程S40により、フッ素濃度を更に低減させつつ、酸化亜鉛鉱を製造することができる。
【0044】
本発明の製造方法は、DRKに投入する粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を0.3質量%以下とすることに特徴がある。この粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度は、上述の通り、還元焙焼工程に投入される炭素質還元剤内装ペレットの炭素濃度に依存する他、同ペレットの圧壊強度にも依存する。この二つの要因を制御することによって、DRKに投入する粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を適切な範囲に保持することができる。
【0045】
乾燥加熱処理の焼成温度については、DRKから排出される際の被焼成物の温度が1100℃以上1150℃の範囲の温度となるように、炉内温度を維持管理することが好ましい。本明細書において、「1100℃で焼成する」とは、上記の通り、DRKの排出端における被焼成物の温度が1100℃となるような炉内温度環境で被焼成物を焼成することを言うものとする。
【0046】
ここで、酸化亜鉛ケーキ中に尚残留するフッ素の形態は、揮発性(例えば塩化フッ化鉛(PbFCl))と不揮発性(例えば2フッ化カルシウム(CaF))の形態がある。このうち揮発性物質(PbFCl)は焼鉱の温度を上記温度範囲内に維持することによりほぼ全量が揮発され、揮発性の塩素とフッ素は、ほぼ全量が排ガスダスト洗浄工程S50内の排ガス処理設備に排出される。一方、不揮発性物質(CaF)は極めて安定な化合物であるため、DRK内で分解揮発することはなく酸化亜鉛鉱に固定される。
【0047】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、DRKによる焼成を、ロータリーキルンの稼動効率の低下を引き起こすリスクの小さい一般的な操業温度である1100℃以上1150℃以下程度の範囲内で行いながら、DRKに投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、全体システムの上流側工程である予備混合工程S10において、炭素質還元剤の添加量を調整することによって適切に制御し、これにより、電解製錬用の亜鉛材料としても用いることができる低フッ素品位、即ち、0.05質量%以下という、極めてフッ素濃度の低い高品位の粗酸化亜鉛を安定的に製造することができる。
【0048】
尚、DRKへの炭素の過剰な混入がフッ素の揮発を阻害するのは、以下の理由によるものと考えられる。即ち、DRK内へのカーボン等の還元剤が混入すると、DRK内で鉛の揮発を促進するために必要な水分や酸素が、この還元剤と優先的に反応してしまい、その結果、鉛の揮発が抑制される。一方、DRK内では、フッ素はPbFClの形態で存在しやすく、DRK内では、このように鉛の複合化物の形態で揮発する。よって、上記の通り、鉛の揮発が阻害されると、それに伴ってフッ素の揮発率も低下するものと考えられる。
【0049】
ここで、酸化亜鉛ケーキ中に尚残留するフッ素の形態は、揮発性(例えば塩化フッ化鉛(PbFCl))と不揮発性(例えば2フッ化カルシウム(CaF))の形態がある。このうち揮発性物質(PbFCl)は焼鉱の温度を上記温度範囲内に維持することによりほぼ全量が揮発され、揮発性の塩素とフッ素は、ほぼ全量が排ガスダスト洗浄工程S50内の排ガス処理設備に排出される。一方、不揮発性物質(CaF)は極めて安定な化合物であるため、DRK内で分解揮発することはなく酸化亜鉛鉱に固定される。
【0050】
本発明の酸化亜鉛鉱の製造方法においては、DRKによる焼成を、ロータリーキルンの稼動効率の低下を引き起こすリスクの小さい一般的な操業温度である1100℃以上1150℃以下程度の範囲内で行いながら、DRKに投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、全体システムの上流側工程である予備混合工程S10において、炭素質還元剤の添加量を調整することによって適切に制御し、これにより、電解製錬用の亜鉛材料としても用いることができる低フッ素品位、即ち、0.05質量%以下という、極めてフッ素濃度の低い高品位の粗酸化亜鉛を安定的に製造することができる。
【0051】
<排ガスダスト洗浄工程>
乾燥加熱工程S40で発生した排ガスダストを洗浄して洗浄後の排ガスダストケーキを得るための排ガスダスト洗浄工程S50を行うための洗浄設備としては、洗浄塔、湿式電気集塵機の組み合わせが一般的である。又、これらの設備で回収された洗浄後の排ガスダストケーキを、乾燥加熱工程S40のDRK等の上流工程に繰り返して循環投入することにより、金属資源の有効利用を図る処理が従来行われている。
【0052】
<排水処理工程>
排水処理工程S60は、湿式工程S30において粗酸化亜鉛から分離されたフッ素やカドミウムを高濃度で含有する廃液から、フッ素及びカドミウムを除去し、更に、廃液中に微量含まれる重金属を中和処理により抽出し、最終的にpHを調整して無害の排水とする工程である。
【0053】
湿式工程S30において分離された廃液中には粗酸化亜鉛から極微量溶出した亜鉛及び/又は鉛成分も含有している。この重金属成分の回収のために上述の通り中和処理を行う。この中和処理は一般に消石灰を添加することにより行う。この消石灰の添加方法は、固体状の消石灰を直接湿式処理液に添加する方法や、消石灰を液体状に溶解した溶解液を湿式処理液に添加する方法等が使用できる。又、消石灰の添加量は、添加後の中和処理液のpHを測定することで調整することもできる。
【0054】
尚、この中和処理により回収された亜鉛化合物或いは鉛化合物を含有する中和処理澱物は、湿式処理工程に繰り返して用いられ、還元焙焼工程から得られる酸化亜鉛スラリーとともに湿式処理され、DRKにて焼成及び造粒を行い、酸化亜鉛鉱に固定させる方法が一般的に行われている。
【0055】
<炭素濃度測定工程>
本発明においては、乾燥加熱工程S40に投入される粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、測定する工程である炭素濃度測定工程S70を、湿式工程S30と乾燥加熱工程S40との間の工程として設けることが好ましい。炭素濃度の測定方法としては、上述の通り、XRF分析による測定方法を好ましい一例として挙げることができる。この炭素濃度測定工程S70によって、上記の祖酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を、常時、或いは、随時適当な間隔で測定確認することによって、上記の炭素濃度を、より高い精度で、0.3質量%以下の範囲に制御することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。又、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
DRKに投入する粗酸化亜鉛ケーキの炭素濃度を0.3質量%以下とすることが、乾燥加熱工程におけるキルンの揮発率の向上に寄与することを確認するために以下の試験を行った。
【0059】
上記において説明した通り、予備混合工程S10、還元焙焼工程S20、湿式工程S30、乾燥加熱工程S40、排ガスダスト洗浄工程S50、及び、排水処理工程S60を備える全体プロセスを実施可能な製造設備における試験操業によって、粗酸化亜鉛の製造方法を実施した。試験操業条件の詳細は以下に示す通りである。
【0060】
原料鉱として、下記の鉄鋼ダストを用いた。鉄鋼ダストの組成は下記の通りである。
Zn:20〜35質量%、Pb:1〜3質量%、Fe:10〜35質量%、Cr:<0.1質量%、F:1.0質量%、Cd:1.0質量%、である。
【0061】
又、炭素質還元剤として、リサイクルカーボンを用いた。原料鉱の総量に対するリサイクルカーボンの添加量は、炭素含有量が5〜7.5%の範囲内となるように適宜調整した。そして、上記の原料鉱と炭素質還元剤とをパンペレタイザーによって混合造粒し、粒径が5.4〜9.6mmの炭素質還元剤内装ペレットとした。
【0062】
炭素質還元剤内装ペレットは、各ロット毎の炭素含有量がそれぞれ異なるものとなるように複数種類のロットを作成した。そして、これらの炭素質還元剤内装ペレットは、組成を同じくするロット毎に、予めそれぞれの圧壊強度を測定しておいた。
【0063】
このようにして製造した炭素質還元剤内装ペレットを、還元焙焼工程に投入し、粗酸化亜鉛を回収した。ここで、投入される炭素質還元剤内装ペレットの炭素含有率にかかわらずRRKの操業条件は一定に保持した。焙焼温度については1100〜1150℃の範囲とした。
【0064】
上記還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛を更に湿式工程に投入し、当該湿式工程を得た粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)を、乾燥加熱工程に投入した。焼成温度は1100〜1150℃の範囲として乾燥加熱処理を行った。尚、乾燥加熱工程に投入される粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)の炭素含有量を把握するため、DRKに投入直前の段階にある粗酸化亜鉛ケーキの炭素含有量を各ロット毎に測定した。
【0065】
上記乾燥加熱処理の終了後、乾燥加熱工程でのフッ素の揮発率を求めた。このフッ素の揮発率は、乾燥加熱工程産出焼鉱中フッ素量を乾燥加熱キルンに投入される粗酸化亜鉛ケーキ中フッ素量にて除することにより求めたものである。そして、上述の通り、予め測定しておいたDRK投入前の粗酸化亜鉛の炭素含有量と、同工程でのフッ素揮発率の関係を検証した。結果を図4に示す。図4から、乾燥加熱工程に投入する粗酸化亜鉛(粗酸化亜鉛ケーキ)の炭素濃度を0.3質量%以下に保持することによって、乾燥過熱工程におけるフッ素の揮発率を安定的に90%以上とすることができることが分かる。尚、乾燥加熱工程に投入される粗酸化亜鉛ケーキ中フッ素濃度の平均0.25%から計算すると、乾燥加熱工程におけるフッ素の揮発率を90%以上にすることで、フッ素濃度0.05%以下の高品質酸化亜鉛鉱を製造することが出来る。
【符号の説明】
【0066】
S10 予備混合工程
S20 還元焙焼工程
S30 湿式工程
S40 乾燥加熱工程
S50 排ガスダスト洗浄工程
S60 排水処理工程
S70 炭素濃度測定工程
図1
図2
図3
図4