(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るフッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置について、実施の形態及び実施例を用いて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置を例示するものであって、本発明は、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置を以下のものに特定するものではない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
<フッ化物蛍光体>
本発明のフッ化物蛍光体は、下記式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子と、前記フッ化物粒子の表面の少なくとも一部の領域に配置され、前記フッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する熱伝導性物質と、を備える。
A
2[M
1−aMn
4+aF
6] (I)
式中、Aは、K
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示し、aは0<a<0.2を満たす数を示す。
また、Aは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択され、かつ少なくともNa及び/又はKを含む少なくとも1種のアルカリ金属元素を示すこともまた好ましい。
【0014】
フッ化物蛍光体の表面に、フッ化物蛍光体よりも熱伝導率が高い熱伝導性物質が配置されていることで、例えば、フッ化物蛍光体からの放熱が促進される。これにより、フッ化物蛍光体の発熱に起因する性能劣化が抑制され、優れた耐久性を達成することができると考えられる。
【0015】
本発明のフッ化物蛍光体は耐久性に優れる。フッ化物蛍光体の耐久性は、例えば、レーザー光を用いる加速試験により評価することができる。フッ化物蛍光体の耐久性は、発光装置に実装してその寿命を確認する方法によっても評価できるが、その場合、評価に千時間から数万時間を要することになる。
【0016】
レーザー光によるフッ化物蛍光体の耐久性評価試験は、例えば以下の手順にて実施することができる。
波長450nmの光を発生する半導体レーザーを準備し、光出力を安定させるために温度調整を行う。粉体輝度測定用のセルにフッ化物蛍光体約0.34gをセットする。半導体レーザーから出力した光をセル中のフッ化物蛍光体に照射する。このとき、光密度が3.5W/cm
2になるように半導体レーザーへの印加電流を調整する。レーザー光の照射されている部分からの光を光電子増倍管に取り込むことで粉体輝度の変化を測定する。このとき、粉体輝度に対するレーザー光の影響を除くため、光学フィルターを用いて蛍光体から反射されるレーザー光を除くことが好ましい。
【0017】
フッ化物粒子
本発明のフッ化物蛍光体を構成する式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子(以下、単に「フッ化物粒子」ともいう)は、それ自体が蛍光体として機能する。本発明のフッ化物蛍光体においては、一般式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子の蛍光体としての機能が損なわれることなく、耐久性が向上している。
【0018】
フッ化物粒子の粒径及び粒度分布は特に制限されないが、発光強度と耐久性の観点から、単一ピークの粒度分布を示すことが好ましく、分布幅の狭い単一ピークの粒度分布であることがより好ましい。また、フッ化物の表面積や嵩密度は特に制限されない。
フッ化物粒子の粒径は例えば、体積平均粒子径として1〜100μmであり、5〜70μmであることが好ましい。
【0019】
フッ化物粒子は、Mn
4+で付活された蛍光体であり、可視光の短波長領域の光を吸収して赤色に発光可能である。可視光の短波長領域の光である励起光は、主に青色領域の光であることが好ましい。励起光は、具体的には、強度スペクトルの主ピーク波長が380nm〜500nmの範囲に存在することが好ましく、380nm〜485nmの範囲に存在することがより好ましく、400nm〜485nmの範囲に存在することが更に好ましく、440nm〜480nmの範囲に存在することが特に好ましい。
【0020】
またフッ化物粒子の発光波長は、励起光よりも長波長であって、赤色であれば特に制限されない。フッ化物粒子の発光スペクトルは、ピーク波長が610nm〜650nmの範囲に存在することが好ましい。また発光スペクトルの半値幅は、狭いことが好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましい。
【0021】
式(I)におけるAは、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)、セシウムイオン(Cs
+)及びアンモニウムイオン(NH
4+)からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンである。中でもAは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+及びCs
+からなる群から選択され、かつ少なくともNa
+及び/又はK
+を含む少なくとも1種の陽イオンであることが好ましい。またAは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択され、K
+を含む少なくとも1種の陽イオンであることもまた好ましく、K
+を主成分とするアルカリ金属等の陽イオンであることがより好ましい。ここで「K
+を主成分とする」とは、一般式(I)のAにおけるK
+の含有率が80モル%以上であることを意味し、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。
【0022】
式(I)におけるMは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、発光特性の観点から、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)であることが更に好ましい。
Mがケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含む場合、Si及びGeの少なくとも一方の一部が、Ti、Zr及びHfを含む第4族元素、並びにC及びSnを含む第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0023】
熱伝導性物質
フッ化物蛍光体では、フッ化物粒子の表面の少なくとも一部の領域に、フッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する熱伝導性物質の少なくとも1種が配置されている。熱伝導性物質は、フッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する物質であれば特に制限されず、公知の物質から適宜選択して用いることができる。熱伝導性物質は、フッ化物蛍光体の耐久性の観点から、フッ化物粒子よりも熱伝導率が高い物質であって、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化イットリウム、炭酸マグネシウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、希土類アルミン酸塩及び金属酸窒化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ここで金属酸窒化物としては、例えば、Si
3N
4Al
2O
3等を挙げることができる。
【0024】
また、熱伝導性物質は、その屈折率とフッ化物粒子の屈折率の差が小さいことが好ましく、熱伝導性物質の屈折率に対するフッ化物粒子の屈折率の比(フッ化物粒子/熱伝導性物質)が0.5〜1.3であることがより好ましい。これにより、フッ化物蛍光体のエネルギー効率の低下が、より抑制される傾向がある。
【0025】
熱伝導性物質は、例えば電気的な引力、ファンデルワールス力等で、フッ化物粒子の表面に配置されると考えられる。フッ化物粒子の表面に配置される熱伝導性物質の形状は特に制限されず、不定形状であっても、粒子状であってもよい。熱伝導性物質の形状が不定形状である場合、熱伝導性物質は例えば、フッ化物粒子の表面の少なくとも一部の領域に膜状に付着して配置された状態とすることができる。膜状の熱伝導性物質の膜厚は例えば、50nm〜10μmである。
【0026】
一方、熱伝導性物質の形状が粒子状である場合、その粒径は特に制限されず、フッ化物粒子の粒径等に応じて適宜選択することができる。粒子状の熱伝導性物質の粒径は例えば、体積平均粒子径として5nm〜10μmであり、好ましくは10nm〜1μmである。
また、粒子状の熱伝導性物質のフッ化物粒子に対する粒径比は、例えば0.0002〜0.4であり、好ましくは0.0004〜0.04である。
【0027】
フッ化物粒子表面における熱伝導性物質の配置状態は、熱伝導性物質とフッ化物粒子とが接触している状態が維持される限り特に制限されない。例えば、
図1及び2に示すようにフッ化物粒子の表面上に粒子状の熱伝導性物質が1つの面で接触した状態であってもよく、
図3及び4に示すように粒子状の熱伝導性物質がフッ化物の結晶に部分的に囲まれて、熱伝導性物質とフッ化物の結晶とが互いに複数の面で接触した状態であってもよく、またフッ化物粒子の表面において粒子状の熱伝導性物質の一部が埋設されて他の部分が露出した状態であってもよい。
【0028】
フッ化物蛍光体における熱伝導性物質の含有率は、熱伝導性物質の種類等に応じて適宜選択することができる。フッ化物粒子の重量に対して、例えば0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
【0029】
フッ化物蛍光体の好ましい態様としては、以下の態様の少なくとも1つを満たすことが好ましく、以下のすべてを満たすことがより好ましい。
(1)式(I)におけるAがカリウム(K)を含む少なくとも1種のアルカリ金属である態様。
(2)式(I)におけるMがケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含む態様。
(3)熱伝導性物質が、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化イットリウム、炭酸マグネシウム、ダイヤモンド、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、希土類アルミン酸塩及び金属酸窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である態様。
(4)熱伝導性物質が粒子状であり、その体積平均粒子径が5nm〜10μmである態様。
(5)熱伝導性物質の含有率がフッ化物粒子の重量に対して0.1〜20重量%である態様。
【0030】
<フッ化物蛍光体の製造方法>
本発明のフッ化物蛍光体の製造方法における第一の態様は、下記(I)式で表される化学組成を有するフッ化物粒子を準備する工程と、前記フッ化物粒子の表面の少なくとも一部の領域に、前記フッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する熱伝導性物質を配置する工程と、を有する。
A
2[M
1−aMn
4+aF
6] (I)
式中、Aは、K
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、aは0<a<0.2を満たす数を示す。
また、Aは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択され、かつ少なくともNa及び/又はKを含む少なくとも1種のアルカリ金属元素を示すこともまた好ましい。
【0031】
製造方法の第一の態様におけるK
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+及びCs
+からなる群から選択され、かつ少なくともNa
+及び/又はK
+を含む少なくとも1種のアルカリ金属イオンであることが好ましい。
【0032】
[フッ化物粒子を準備する工程]
フッ化物粒子を準備する工程は、所望の化学組成を有するフッ化物粒子を市販品から選択する工程を含んでもよく、また、所望の化学組成を有するフッ化物粒子を調製する工程を含んでいてもよい。フッ化物粒子を準備する工程は、フッ化物粒子を調製する工程を含むことが好ましい。
【0033】
式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子は、例えば、フッ化水素を含む液媒体中で、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、K
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む第二の錯イオンとを接触させることで調製することができる。
第一の錯イオンと、アルカリ金属イオン等の陽イオンと、第二の錯イオンとを接触させる方法は、所望の化学組成を有するフッ化物粒子が得られる限り特に限定されない。フッ化物粒子の調製方法は例えば、以下に示す2種の溶液を混合する第一の調製方法、又は3種の溶液を混合する第二の調製方法であることが好ましい。
【0034】
第一の調製方法
式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子の第一の調製方法は、例えば、4価のマンガンを含む第一の錯イオン、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオン、並びにフッ化水素を少なくとも含む溶液Aと、アルカリ金属イオン等の陽イオン及びフッ化水素を少なくとも含む溶液Bとを混合する工程を含むことができる。
【0035】
溶液A
溶液Aは、4価のマンガンを含む第一の錯イオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオンとを含むフッ化水素酸溶液である。
【0036】
4価のマンガンを含む第一の錯イオンを形成するマンガン源は、マンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。溶液Aを構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、カリウム等のアルカリ金属を含むものは、溶液Bに含まれるアルカリ金属源の一部を兼ねることができる。第一の錯イオンを形成するマンガン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0037】
溶液Aにおけるマンガン源濃度は特に制限されない。溶液Aにおけるマンガン源濃度の下限値は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。また、溶液Aにおけるマンガン源濃度の上限値は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0038】
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることが更に好ましい。
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0039】
溶液Aにおける第二の錯イオン源濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、溶液Aにおける第二の錯イオン源濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0040】
溶液Aにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、溶液Aにおけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
【0041】
溶液B
溶液Bは、アルカリ金属イオン等の陽イオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。溶液Bは、例えば、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン等を含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。溶液Bを構成可能なカリウムイオンを含むカリウム源として、具体的には、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHF
2が好ましい。またカリウム源以外のアルカリ金属等の陽イオン源としては、NaHF
2、Rb
2CO
3、Cs
2CO
3等を挙げることができる。溶液Bを構成するアルカリ金属等の陽イオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0042】
溶液Bにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、溶液Bにおけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
また、溶液Bにおけるアルカリ金属等の陽イオン源の濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、溶液Bにおけるアルカリ金属源の濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0043】
溶液A及び溶液Bの混合方法としては特に制限はなく、溶液Bを攪拌しながら溶液A液を添加して混合してもよく、溶液Aを攪拌しながら溶液Bを添加して混合してもよい。また、溶液A及び溶液Bをそれぞれ容器に投入して攪拌混合してもよい。
溶液A及び溶液Bを混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン等の陽イオンと、第二の錯イオンとが反応して目的の式(I)で表される化学組成を有する結晶であるフッ化物粒子が析出する。析出したフッ化物粒子は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。更に乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物粒子に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0044】
なお、溶液A及び溶液Bの混合に際しては、溶液A及び溶液Bの仕込み組成と得られるフッ化物粒子の化学組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物粒子の化学組成が目的の化学組成となるように、溶液A及び溶液Bの混合割合を適宜調整することが好ましい。
第一の調製方法における溶液A及び溶液Bの混合時の温度は、所望のフッ化物粒子が得られる限り特に制限されない。溶液A及び溶液Bの混合時の温度は例えば5〜40℃とすることができる。
【0045】
第二の調製方法
式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子の第二の調製方法は、4価のマンガンを含む第一の錯イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第一の溶液と、アルカリ金属イオン等の陽イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第二の溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオンを少なくとも含む第三の溶液とを混合する工程を含むことができる。
第一の溶液と、第二の溶液と、第三の溶液とを混合することで、所望の組成を有し、所望の粒径、粒度分布を有するフッ化物粒子を、優れた生産性で簡便に製造することができる。
【0046】
第一の溶液
第一の溶液は、4価のマンガンを含む第一の錯イオンと、フッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第一の溶液は、例えば、マンガン源を含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。マンガン源は、マンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。第一の溶液を構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、カリウム等のアルカリ金属等を含むものは、第二の溶液に含まれるアルカリ金属等の陽イオン源の一部を兼ねることができる。第一の溶液を構成するマンガン源は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0047】
第一の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、第一の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。フッ化水素濃度が30重量%以上であると、第一の溶液を構成するマンガン源(例えば、K
2MnF
6)の加水分解に対する安定性が向上し、第一の溶液における4価のマンガン濃度の変動が抑制される。これにより得られるフッ化物蛍光体に含まれるマンガン付活量を容易に制御することができ、フッ化物蛍光体における発光効率のバラつき(変動)を抑制することができる傾向がある。またフッ化水素濃度が70重量%以下であると、第一の溶液の沸点の低下が抑制され、フッ化水素ガスの発生が抑制される。これにより、第一の溶液におけるフッ化水素濃度を容易に制御することができ、得られるフッ化物蛍光体の粒子径のバラつき(変動)を効果的に抑制することができる。
【0048】
第一の溶液におけるマンガン源濃度は特に制限されない。第一の溶液におけるマンガン源濃度の下限値は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。また、第一の溶液におけるマンガン源濃度の上限値は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0049】
第二の溶液
第二の溶液は、アルカリ金属イオン等の陽イオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第二の溶液は、例えば、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン等を含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。第二の溶液を構成可能なカリウムイオンを含むカリウム源として、具体的には、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHF
2が好ましい。またカリウム源以外のアルカリ金属等の陽イオン源としては、NaHF
2、Rb
2CO
3、Cs
2CO
3等を挙げることができる。第二の溶液を構成するアルカリ金属等の陽イオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0050】
第二の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、第二の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
また、第二の溶液におけるアルカリ金属等の陽イオン源濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、第二の溶液におけるアルカリ金属源濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0051】
第三の溶液
第三の溶液は、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種と、フッ素イオンとを含む第二の錯イオンを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第三の溶液は、例えば、第二の錯イオンを含む水溶液として得られる。
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることが更に好ましい。
【0052】
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第三の溶液を構成する第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0053】
第三の溶液における第二の錯イオン源濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、第三の溶液における第二の錯イオン源濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0054】
第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合方法としては特に制限はなく、第一の溶液を攪拌しながら第二の溶液及び第三の溶液を添加して混合してもよく、または、第二の溶液を攪拌しながら第一の溶液及び第三の溶液を添加して混合してもよく、更には、第三の溶液を攪拌しながら第一の溶液及び第二の溶液を添加して混合してもよい。また、第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液をそれぞれ容器に投入して攪拌混合してもよい。
【0055】
第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液を混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、アルカリ金属イオン等の陽イオンと、第二の錯イオンとが反応して目的の式(I)で表される化学組成を有する結晶であるフッ化物粒子が析出する。析出したフッ化物粒子は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。更に乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物粒子に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0056】
なお、第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合に際しては、第一〜第三の溶液の仕込み組成と得られるフッ化物粒子の化学組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物粒子の化学組成が目的の化学組成となるように、第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合割合を適宜調整することが好ましい。
第二の調製方法における第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合時の温度は、所望のフッ化物粒子が得られる限り特に制限されない。第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合時の温度は例えば5〜40℃とすることができる。
【0057】
フッ化物粒子を準備する工程は、フッ化物粒子を分散処理及び/又は分級処理することを更に含むことが好ましく、上記のフッ化物粒子の調製方法によりフッ化物粒子を調製した後、得られたフッ化物粒子を分散処理及び/又は分級処理することがより好ましい。分散処理及び/又は分級処理したフッ化物粒子を、熱伝導性物質を配置する工程に供することで、より耐久性に優れるフッ化物蛍光体を得ることができる。
分散処理及び分級処理は、どちらか一方のみを行ってもよく、両方を行ってもよい。
【0058】
フッ化物粒子を分散処理する方法は、特に制限されず通常用いられる分散手段から適宜選択して用いることができる。分散手段としては、例えば、ボールミル、超音波分散装置等を用いる方法を挙げることができる。分散処理は、湿式ボールミルで行うことが好ましい。これにより、フッ化物粒子の損傷を最小限とし、発光特性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0059】
フッ化物粒子を分級処理する方法は、特に制限されず通常用いられる分級手段から適宜選択して用いることができる。分級手段としては、例えば、サイクロン、フルイ等を用いる方法を挙げることができる。分級処理は湿式フルイで行うことが好ましい。これにより、フッ化物粒子の損傷を最小限とし、発光特性の低下をより効果的に抑制することができる。
【0060】
[熱伝導性物質を配置する工程]
熱伝導性物質を配置する工程は、フッ化物粒子の表面の少なくとも一部の領域でフッ化物粒子と熱伝導性物質とが接触した状態が維持されるフッ化物蛍光体が得られる限り、その配置する方法は特に制限されない。例えば、熱伝導性物質を配置する工程は、粉体乾式混合法、凝集沈殿法、噴霧乾燥法、化学蒸着法及びゾルゲル法からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
粉体乾式混合法は、フッ化物粒子と粒子状の熱伝導性物質とを粉体状態のままで混合する方法である。混合手段としては、例えば、ポットローリングを用いる方法を挙げることができる。
【0062】
粉体乾式混合法により、フッ化物粒子の表面に熱伝導性物質を配置する場合、粉体乾式混合法に用いる熱伝導性物質の使用量は、所望の熱伝導性物質の含有率が得られるように適宜選択することができる。例えばフッ化物粒子の重量に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
【0063】
凝集沈殿法は、例えば、フッ化物粒子と熱伝導性物質とを液媒体中で混合して混合物を得ることと、得られた混合物を静置してフッ化物粒子と熱伝導性物質との凝集物を得ることと、凝集物を固液分離により分離することとを含むことができる。
【0064】
凝集沈殿法に用いる液媒体は、フッ化物粒子と熱伝導性物質との凝集物が得られる限り特に制限されない。例えば、液媒体としては、過酸化水素水、エタノール等のアルコール等を挙げることができる。液媒体の使用量としては、例えば、液媒体中のフッ化物粒子の含有率が1〜60重量%となる量とすることができ、好ましくは5〜40重量%となる量である。
また、凝集沈殿法に用いる熱伝導性物質の使用量は、所望の熱伝導性物質の含有率が得られるように適宜選択することができる。例えばフッ化物粒子の重量に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
混合方法は特に制限されず、通常用いられる混合手段から適宜選択することができる。また混合の際の温度は特に制限されず、例えば5〜40℃とすることができる。
【0065】
凝集物を固液分離する方法は、凝集物が液媒体から分離できる限り特に制限されず、通常用いられる固液分離手段から適宜選択して用いることができる。固液分離手段としては例えば、濾過法、遠心分離法、溶媒蒸発法等を挙げることができる。固液分離して得られた凝集物は適宜洗浄処理等を行ってもよい。
【0066】
噴霧乾燥法は、フッ化物粒子と熱伝導性物質と液媒体との混合物を噴霧により、微細化し、単位体積あたりの表面積を増大させ、熱風と接触させ瞬間的に乾燥を行い、フッ化物粒子と熱伝導性物質との凝集物として、フッ化物蛍光体の粒子を得る方法である。
例えば、噴霧乾燥法に用いる液媒体は、フッ化物粒子と熱伝導性物質との凝集物が得られる限り特に制限されない。液媒体としては、過酸化水素水、エタノール等のアルコール等を挙げることができる。液媒体の使用量としては、液媒体中のフッ化物粒子の含有率が1〜60重量%となる量とすることができ、好ましくは5〜40重量%となる量である。
また、噴霧乾燥法に用いる熱伝導性物質の使用量は、所望の熱伝導性物質の含有率が得られるように適宜選択することができる。例えばフッ化物粒子の重量に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
【0067】
化学蒸着法は、熱伝導性物質となる原料物質をガス化させ、フッ化物粒子の表面で反応させることで、フッ化物粒子の表面に熱電性物質を配置する方法である。
化学蒸着法の一例として、熱伝導性物質が窒化金属系材料の場合、米国特許第6,064,150号に記載されている窒化アルミニウムを形成するCVD(化学蒸着)法で、フッ化物粒子の表面に熱伝導性物質を配置する方法が挙げられる。
また例えば、流動床付き加熱炉にて、CVD法を用いて、窒化アルミなどの窒化金属あるいは酸窒化アルミ等の金属酸窒化物などの窒化金属系材料からなる熱伝導性物質を形成することができる。この他にも、アルキルシランなどの金属アルキル類、アンモニア等の窒素化合物などを用いて窒化金属系材料を熱伝導性物質として形成できる。
【0068】
ゾルゲル法は、熱伝導性物質を形成し得る化合物の溶液を用い、ゾル化、ゲル化を経て、フッ化物粒子の表面で熱伝導性物質を合成する方法である。
例えば、金属アルコキシドを出発材料とし、エタノール等のアルコール溶媒中に溶解させる。この溶液中に過酸化水素水、フッ化物粒子を混合し、希薄なフッ化水素水を撹拌しながらゆっくり添加する。例えば、室温で一日放置することで、熱伝導性物質が膜状に付着したフッ化物粒子を得ることができる。さらに得られる熱伝導性物質が付着したフッ化物粒子を加熱することにより、付着物の強化および不純物の脱離を促してもよい。
【0069】
熱伝導性物質を配置する工程において、粒子状の熱伝導性物質を用いる場合、熱伝導性物質は分散処理された状態であることが好ましい。分散処理された熱電導性物質を用いることで、得られるフッ化物蛍光体の耐久性がより向上する傾向がある。これは例えば、熱伝導性物質が分散処理されていることで、熱伝導性物質の表面積が大きくなり、これが配置されたフッ化物蛍光体の放熱性がより向上するためと考えることができる。
【0070】
熱伝導性物質の分散処理の方法は特に制限されず、通常用いられる分散手段から適宜選択することができる。例えば、熱伝導性物質と液媒体の混合物を、ロールミル、超音波分散装置等の分散装置を用いて分散処理することができる。
分散条件は熱伝導性物質の種類等に応じて適宜選択すればよい。
【0071】
フッ化物蛍光体の製造方法は、熱伝導性物質を配置する工程の後に、得られたフッ化物蛍光体を分散処理及び/又は分級処理する工程を更に含んでいてもよい。フッ化物蛍光体の分散処理及び分級処理の詳細は、既述のフッ化物粒子の分散処理及び分級処理と同様である。
【0072】
本発明のフッ化物蛍光体の製造方法における第二の態様は、フッ化水素を含む液媒体中で、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、K
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む第二の錯イオンとを接触させて式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子を得る第一の工程と、得られたフッ化物粒子と、そのフッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する熱伝導性物質とを液媒体中で接触させて、表面の少なくとも一部の領域に熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子を得る第二の工程と、前記熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子と、少なくとも前記陽イオン及び前記第二の錯イオンとを液媒体中で接触させる第三の工程と、を有する。
【0073】
製造方法の第二の態様におけるK
+、Li
+、Na
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群から選択される少なくとも1種の陽イオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+及びCs
+からなる群から選択され、かつ少なくともNa
+及び/又はK
+を含む少なくとも1種のアルカリ金属イオンであることが好ましい。
【0074】
表面に熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子と、少なくとも前記アルカリ金属イオン等の陽イオン及び前記第二の錯イオンとを液媒体中で接触させることで、フッ化物粒子の表面に式(I)で表される化学組成又は式(I)におけるaが0である化学組成を有するフッ化物の結晶が析出する。その結果、例えば
図3及び4に示すように熱伝導性物質の周囲でフッ化物の結晶が成長し、熱伝導性物質がフッ化物の結晶で少なくとも部分的に囲まれた状態となり、フッ化物粒子と熱伝導性物質とが互いに複数の面で接触した状態となる場合がある。これにより、例えば、熱伝導性物質とフッ化物粒子の接触面積がより大きくなることで、フッ化物蛍光体の放熱効率がより向上し、耐久性がより向上する傾向がある。また、粒子状の熱伝導性物質がフッ化物粒子から剥離しにくくなる傾向がある。
【0075】
第一の工程では、フッ化水素を含む液媒体中で、第一の錯イオンと、アルカリ金属イオン等の陽イオンと、第二の錯イオンとを接触させて式(I)で表される化学組成を有するフッ化物粒子を得る。第一の工程の好ましい態様としては、フッ化物蛍光体の製造方法の第一の態様におけるフッ化物粒子の第一の調製方法及び第二の調製方法を挙げることができる。
【0076】
すなわち、前記第一の工程が、前記第一の錯イオン、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオン、並びにフッ化水素を少なくとも含む溶液Aと、アルカリ金属イオン等の陽イオン及びフッ化水素を少なくとも含む溶液Bとを混合してフッ化物粒子を得る第一の調製方法を含むことが好ましい。
また前記第一の工程が、前記第一の錯イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第一の溶液と、アルカリ金属イオン等の陽イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第二の溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオンを少なくとも含む第三の溶液とを混合してフッ化物粒子を得る第二の調製方法を含むこともまた好ましい。
フッ化物蛍光体の製造方法の第二の態様におけるフッ化物粒子を得る第一及び第二の調製方法の詳細は、フッ化物蛍光体の製造方法の第一の態様におけるそれらと同様である。
【0077】
前記第一の工程は、得られたフッ化物粒子を分散処理及び/又は分級処理することを更に含むことが好ましい。これにより、より耐久性に優れたフッ化物蛍光体が得られる傾向がある。フッ化物粒子の分散処理及び分級処理の詳細は、第一の態様におけるそれらと同様である。
【0078】
第二の工程では、第一の工程で得られたフッ化物粒子と、そのフッ化物粒子よりも高い熱伝導率を有する熱伝導性物質とを液媒体中で接触させて、表面の少なくとも一部の領域に熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子を得る。
第二の工程は例えば、液媒体中でフッ化物粒子と熱伝導性物質とを混合することを含むことができる。液媒体中でフッ化物粒子と熱伝導性物質とを混合することで、フッ化物粒子の表面に熱伝導性物質が配置された凝集物が得られる。混合方法は特に制限されず、通常用いられる混合手段から適宜選択することができる。
【0079】
第二の工程に用いる液媒体は、フッ化物粒子の表面に熱伝導性物質が配置された凝集物が得られる限り特に制限されない。例えば、液媒体としては、過酸化水素水、エタノール等のアルコール、フッ化水素酸等を挙げることができる。液媒体の使用量としては、例えば、液媒体中のフッ化物粒子の含有率が1〜60重量%となる量とすることができ、好ましくは5〜40重量%となる量である。
また、第二の工程に用いる熱伝導性物質の使用量は、所望の熱伝導性物質の含有率が得られるように適宜選択することができる。例えばフッ化物粒子の重量に対して0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%であり、より好ましくは1〜20重量%であり、更に好ましくは1〜10重量%である。
【0080】
第二の工程は、第一の工程で得られるフッ化物粒子を固液分離した後に、改めてフッ化物粒子を液媒体に投入して実施してもよく、第一の工程で得られるフッ化物粒子を固液分離することなく、第一の工程に用いた液媒体中で実施してもよい。
第二の工程における液媒体の温度は特に制限されず、例えば5〜40℃とすることができる。
【0081】
第三の工程では、第二の工程で得られる熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子と、少なくともアルカリ金属イオン等の陽イオン及び第二の錯イオンとを液媒体中で接触させる。第三の工程では、少なくともアルカリ金属イオン等の陽イオン及び第二の錯イオンをフッ化物粒子に接触させるが、必要に応じて第一の錯イオンを合わせて接触させてもよい。これにより、式(I)で表される化学組成又は式(I)におけるaが0である化学組成を有するフッ化物の結晶が、熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子の表面に析出する。
【0082】
第三の工程に用いるアルカリ金属イオン等の陽イオン、第二の錯イオン及び場合により第一の錯イオンを含む溶液としては、例えば、第一の工程で用いる溶液と同様の溶液を用いることができ、溶液の好ましい態様も同様である。
第三の工程における液媒体の温度は特に制限されず、例えば5〜40℃とすることができる。
【0083】
第三の工程におけるアルカリ金属イオン等の陽イオン、第二の錯イオン及び場合により第一の錯イオンの使用量は、熱伝導性物質が配置されたフッ化物粒子の総重量が例えば、1〜50重量%増加する量とすることができ、好ましくは3〜30重量%増加する量である。
【0084】
フッ化物蛍光体の製造方法の第二の態様は、第一、第二及び第三の工程においてそれぞれの生成物を単離してから、次の工程を実施してもよく、各工程における生成物を単離することなく連続して各工程を実施してもよい。また、第二及び第三の工程を同時に実施してもよい。すなわち、熱伝導物質の添加(第二の工程)と、アルカリ金属イオン等の陽イオン及び第二の錯体イオンの添加(第三の工程)を同時に行ってもよい。
【0085】
フッ化物蛍光体の製造方法は、熱伝導性物質を配置する工程の後に、得られたフッ化物蛍光体を分散処理及び/又は分級処理する工程を更に含んでいてもよい。フッ化物蛍光体の分散処理及び分級処理の詳細は、既述のフッ化物蛍光体の分散処理及び分級処理と同様である。
【0086】
<発光装置>
本発明の発光装置は、前記フッ化物蛍光体と、380nm〜485nmの波長範囲の光を発する光源とを含む。発光装置は、必要に応じて、その他の構成部材を更に含んでいてもよい。発光装置が前記フッ化物蛍光体を含むことで、耐久性に優れ、優れた長期信頼性を達成することができる。すなわち、前記フッ化物蛍光体を含む発光装置は、長期間にわたって、出力の低下と色度変化が抑制され、照明用途等の過酷な環境での使用に好適に適用することができる。
【0087】
(光源)
光源(以下、「励起光源」ともいう)としては、可視光の短波長領域である380nm〜485nmの波長範囲の光を発するものを使用する。光源として好ましくは420nm〜485nmの波長範囲、より好ましくは440nm〜480nmの波長範囲に発光ピーク波長(極大発光波長)を有するものである。これにより、フッ化物蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができる。また当該波長範囲の励起光源を用いることにより、発光強度が高い発光装置を提供することができる。
【0088】
励起光源には半導体発光素子(以下単に「発光素子」ともいう)を用いることが好ましい。励起光源に半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
発光素子は、可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。例えば、青色、緑色の発光素子としては、窒化物系半導体(In
XAl
YGa
1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いたものを用いることができる。
【0089】
(フッ化物蛍光体)
発光装置に含まれるフッ化物蛍光体の詳細については既述の通りである。フッ化物蛍光体は、例えば、励起光源を覆う封止樹脂に含有されることで発光装置を構成することができる。励起光源がフッ化物蛍光体を含有する封止樹脂で覆われた発光装置では、励起光源から出射された光の一部がフッ化物蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。380nm〜485nmの波長範囲の光を発する励起光源を用いることで、放射される光をより有効に利用することができる。よって発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率の発光装置を提供することができる。
発光装置に含まれるフッ化物蛍光体の含有量は特に制限されず、励起光源等に応じて適宜選択することができる。
【0090】
(他の蛍光体)
発光装置は、前記フッ化物蛍光体に加えて、他の蛍光体を更に含むことが好ましい。他の蛍光体は、光源からの光を吸収し、異なる波長の光に波長変換するものであればよい。他の蛍光体は、例えば、前記フッ化物蛍光体と同様に封止樹脂に含有させて発光装置を構成することができる。
【0091】
他の蛍光体としては例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、サイアロン系蛍光体;Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩;Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩;及びEu等のランタノイド系元素で主に付活される有機及び有機錯体等からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0092】
他の蛍光体として具体的には例えば、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、(Y,Gd)
3(Ga,Al)
5O
12:Ce、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu(βサイアロン)、SrGa
2S
4:Eu、(Ca,Sr)
2Si
5N
8:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu、Lu
3Al
5O
12:Ce、(Ca,Sr,Ba,Zn)
8MgSi
4O
16(F,Cl,Br,I):Eu等が挙げられる。
他の蛍光体を含むことにより、種々の色調の発光装置を提供することができる。
発光装置が他の蛍光体の更に含む場合、その含有量は特に制限されず、所望の発光特性が得られるように適宜調整すればよい。
【0093】
発光装置が他の蛍光体を更に含む場合、緑色蛍光体を含むことが好ましく、380nm〜485nmの波長範囲の光を吸収し。495nm〜573nmの波長範囲の光を発する緑色蛍光体を含むことがより好ましい。発光装置が緑色蛍光体を含むことで、照明装置、液晶表示装置等に、より好適に適用することができる。
【0094】
発光装置が緑色蛍光体を含む場合、緑色蛍光体の発光スペクトルの全半値幅は、発光装置を照明装置や画像表示装置に用いた際に照明対象や画像がより深い緑色を示す観点から、100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。
【0095】
このような緑色蛍光体としては、組成式がM
118MgSi
4O
16X
11:Eu(M
11=Ca,Sr,Ba,Zn;X
11=F,Cl,Br,I)で示されるEu付活クロロシリケート蛍光体、M
122SiO
4:Eu(M
12=Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)で示されるEu付活シリケート蛍光体、Si
6−zAl
zO
zN
8−z:Eu(0<z<4.2)で示されるEu付活βサイアロン蛍光体、M
13Ga
2S
4:Eu(M
13=Mg,Ca,Sr,Ba)で示されるEu付活チオガレート蛍光体、(Y,Lu)
3Al
5O
12:Ceで示される希土類アルミン酸塩蛍光体等を挙げることができる。なかでも、緑色蛍光体は、色調、色再現範囲等の観点から、Eu付活クロロシリケート蛍光体、Eu付活シリケート蛍光体、Eu付活βサイアロン蛍光体、Eu付活チオガレート蛍光体及び希土類アルミン酸塩蛍光体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Eu付活βサイアロン蛍光体であることがより好ましい。
【0096】
発光装置の形式は特に制限されず、通常用いられる形式から適宜選択することができる。発光装置の形式としては、砲弾型、表面実装型等を挙げることができる。一般に砲弾型とは、外面を構成する樹脂の形状を砲弾型に形成したものを指す。また表面実装型とは、凹状の収納部内に光源なる発光素子及び樹脂を充填して形成されたものを示す。さらに発光装置の形式としては、平板状の実装基板上に光源となる発光素子を実装し、その発光素子を覆うように、フッ化物蛍光体を含有した封止樹脂をレンズ状等に形成した発光装置等も挙げられる。
【0097】
以下、本発明の実施の形態に係る発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図10は、本発明に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
発光装置100は、可視光の短波長側(例えば380nm〜485nm)の光を発する窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第1のリード20と第2のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は封止部材50により封止されている。封止部材50はエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。封止部材50は発光素子10からの光を波長変換するフッ化物蛍光体70を含有している。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
(製造例1)
K
2MnF
6を16.25g秤量し、それを55重量%のHF水溶液1000gに溶解した後、40重量%のH
2SiF
6水溶液450gを加えて溶液Aを調製した。KHF
2を195.10g秤量し、それを55重量%のHF水溶液200gに溶解させて溶液Bを調製した。
次に、室温(25℃)で溶液Bを撹拌しながら、約20分かけて溶液Aを滴下した。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、100℃で10時間乾燥することでフッ化物粒子1を作製した。
【0100】
(実施例1)
製造例1で得られたフッ化物粒子1を用いて以下のようにして、フッ化物蛍光体を作製した。
アルミナ(α型、中心粒径0.3〜0.6μm、一次粒子径0.3μm)を1.5g秤量し、それを純水100gに投入してアルミナスラリーを調製した。製造例1で得られたフッ化物粒子1を50g秤量し、純水150gに過酸化水素(30%)を0.5g加えた溶液に投入してフッ化物粒子分散液を調製した。次いでアルミナスラリーをフッ化物粒子分散液に投入し、室温で15分間撹拌した。撹拌を止めて静置し、得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行った。次いで100℃で10時間乾燥することでフッ化物蛍光体を作製した。
なお、アルミナの使用量はフッ化物粒子に対して3.0重量%であり、フッ化物粒子に付着したアルミナの重量(含有率)はフッ化物粒子に対して2.6重量%であった。
【0101】
(実施例2〜4)
実施例1におけるアルミナスラリーの調製において、使用したアルミナの重量を0.5g、3.0g、4.5gに変更したこと以外は実施例1と同様にしてフッ化物蛍光体をそれぞれ作製した。
なお、アルミナの使用量はフッ化物粒子に対してそれぞれ1.0重量%、6.0重量%、9.0重量%であり、フッ化物粒子に付着したアルミナの重量(含有率)はフッ化物粒子に対してそれぞれ0.9重量%、4.8重量%、7.9重量%であった。
【0102】
(実施例5)
アルミナ(α型、中心粒径0.3〜0.6μm、一次粒子径0.3μm)を15.0g秤量し、それを純水485gに投入した。これをφ2mmのアルミナボール800gを有した2リットルの分散容器に投入し、6時間ローリング分散させてアルミナ分散スラリーを調製した。
製造例1で作製したフッ化物粒子1を50g秤量し、純水150gに過酸化水素(30%)を0.5g加えた溶液に得られたアルミナ分散スラリー50gを投入した。15分間撹拌し、撹拌を止めて静置する。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行った。次いで100℃で10時間乾燥することでフッ化物蛍光体を作製した。
なお、アルミナの使用量はフッ化物粒子に対して3.0重量%であり、フッ化物粒子に付着したアルミナの重量(含有率)はフッ化物粒子に対して2.6重量%であった。
【0103】
(比較例1)
製造例1で得たフッ化物粒子1を、そのまま用いて比較例1のフッ化物蛍光体とした。
【0104】
(実施例6)
K
2MnF
6を14.23g秤量し、55%HF水溶液400gに溶解し第一の溶液を作製した。KHF
2を156.20g秤量し、55%HF水溶液870gに溶解し第二の溶液を作製した。40重量%H
2SiF
6水溶液を339.48g秤量し、第三の溶液を作製した。
第二の溶液を室温で攪拌しながら、第一の溶液と第三の溶液を約40分間かけて滴下した。この際、第一の溶液と第三の溶液を調製した溶液重量の90重量%滴下したところで、純水中に分散したアルミナ4.92gを投入して攪拌し、次いで、残りの第一の溶液と第三の溶液を滴下した。得られた沈殿物を固液分離後、エタノール洗浄を行い、100℃で10時間乾燥することでフッ化物蛍光体を作製した。
なお、アルミナの使用量は得られたフッ化物蛍光体に対して3.0重量%であり、フッ化物粒子に付着したアルミナの重量(含有率)はフッ化物蛍光体に対して2.5重量%であった。
【0105】
(実施例7〜8)
アルミナの使用量を得られたフッ化物蛍光体に対してそれぞれ1.0重量%、6.0重量%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフッ化物蛍光体をそれぞれ作製した。
フッ化物粒子に付着したアルミナの重量(含有率)はフッ化物蛍光体に対してそれぞれ0.8重量%、4.9重量%であった。
【0106】
(比較例2)
アルミナを添加しなかったこと以外は、実施例6と同様にしてフッ化物蛍光体を作製した。
【0107】
<評価>
(SEM画像)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、フッ化物蛍光体のSEM画像を得た。
図1に実施例3で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像(×2000)を、
図2に実施例5で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像(×2000)を、
図3に実施例6で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像(×2000)を、
図4に実施例6で得られたフッ化物蛍光体の拡大SEM画像(×10000)を、
図5に比較例1で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像(×2000)を、
図6に比較例2で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像(×2000)をそれぞれ示す。
【0108】
(発光特性)
以上で得られたフッ化物蛍光体について、通常の光学特性の測定を行った。測定された色度座標、460nmにおける反射率(%)、励起波長460nmにおける発光エネルギー効率(ENG効率、%)を表1に示した。
なお、発光エネルギー効率は吸収した光エネルギーに対する発光効率である。
【0109】
(耐久性)
波長450nmの光を発生する半導体レーザーを準備し、光出力を安定させるために温度調整を行った。粉体輝度測定用のセルにフッ化物蛍光体0.34gをセットし、半導体レーザーから出力した光をセル中のフッ化物蛍光体に連続して照射した。このとき、光密度が3.5W/cm
2になるように半導体レーザーへの印加電流を調整した。レーザー光の照射されている部分からの光を光電子増倍管に取り込むことで粉体輝度の変化を測定した。このとき、粉体輝度に対するレーザー光の影響を除くため、光学フィルターを用いて蛍光体から反射されるレーザー光を除いた。
レーザー光の照射時間(秒)と劣化率の関係を表1及び
図7〜9に示した。なお、劣化率は、レーザー光照射に伴う発光輝度の低下率である。
【0110】
【表1】
【0111】
表1から、本発明のフッ化物蛍光体は、エネルギー効率等の発光特性に影響を与えることなく、耐久性が向上していることが分かる。
【0112】
(発光装置の信頼性)
実施例6で得られたアルミナが付着したフッ化物蛍光体をシリコーン樹脂(信越化学工業社製)100重量部に対し35.5重量部と、540nmに発光ピークを持つβサイアロン12.7重量部と、シリカフィラー2.0重量部とを混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を得た。次にこの蛍光体含有樹脂組成物をLEDパッケージ(発光ピーク波長452nm)の上に注入、充填し、さらに150℃で4時間加熱することで樹脂組成物を硬化させた。このような工程により発光装置を作製した。
【0113】
得られた発光装置を温度85℃に設定した恒温槽に設置し、150mAで点灯させ発光装置の信頼性試験を行った。
発光装置の信頼性は、恒温槽で点灯させる前後の色調及び光束維持率を測定して評価した。具体的には、色調は恒温槽で点灯させる前の色調に対する、恒温槽で点灯1000時間経過後の色調のシフト量で評価した。色調のシフト量は、色度座標のx値とy値のそれぞれで評価した。
Δx=1000時間経過後のx値−点灯前のx値
Δy=1000時間経過後のy値−点灯前のy値
また、光束維持率は恒温槽で点灯させる前の光束に対する、恒温槽で点灯1000時間経過後の光束を測定することで評価した。
光束維持率(%)=(1000時間経過後の光束/点灯前の光束)×100
結果を表2に示した。
【0114】
また比較例2で得られたフッ化物蛍光体を同様にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、)100重量部に対し36.5重量部、540nmに発光ピークを持つβサイアロン13.5重量部、シリカフィラー2.0重量部を混合分散し、更に脱泡することにより蛍光体含有樹脂組成物を得て、上記と同様にして発光装置を作製した。
得られた発光装置について同様にして信頼性試験を行った。結果を表2に併せて示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2から、本発明の実施例6のフッ化物蛍光体を用いた発光装置は、比較例2のフッ化物蛍光体を用いた発光装置より色調シフト量が少なく、光束維持率が大きいことから、発光装置としての信頼性に優れていることが分かる。
【0117】
(比較例3)
アルミナの代わりに、フッ化物粒子よりも熱伝導率が小さい酸化ケイ素粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフッ化物蛍光体を作製した。
得られたフッ化物蛍光体の耐久性を同様にして評価したところ、耐久性の向上は認められなかった。