【実施例】
【0021】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
(実施例1)
まず、純度99.9%以上の原料を用い(Fe
30−Co
70)
87−Ta
10−B
3(原子%)合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製し、250μmの篩で分級し、粗粒を除去した。そして得られたガスアトマイズ粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
【0022】
上記で作製した粉末焼結ターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内の真空到達度が2×10
−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法75×25mmのガラス基板上にArガス圧0.6Paとし、投入電力を500Wの条件で膜厚200nmのFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0023】
(実施例2)
それぞれ純度99.9%以上のCo、Fe
92−Ta
8(原子%)、Fe
88−B
12(原子%)合金組成となる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と純度99.9%以上のTa粉末(粒径45μm以下)を準備し、(Fe
30−Co
70)
82−Ta
15−B
3(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末を軟鋼カプセルに充填し、脱気封止した後、温度1250℃、圧力122MPa、保持時間2時間の条件で熱間静水圧プレスによって焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0024】
(実施例3)
純度99.9%以上の原料を用い(Fe
65−Co
35)
87−Ta
8−B
5(原子%)合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、実施例1と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0025】
(実施例4)
それぞれ純度99.9%以上のCo、Co
80−Nb
20(原子%)、Fe
88−B
12(原子%)合金からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)とFe粉末(粒径250μm以下)を準備し、(Fe
30−Co
70)
87−Nb
10−B
3(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例2と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、スパッタリングの際の投入電力を1000W、軟磁性膜の膜厚を40nmとする以外は、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0026】
(実施例5)
それぞれ純度99.9%以上のCo
80−Nb
20(原子%)、Fe
88−B
12(原子%)合金からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と、それぞれ純度99.9%以上のFe粉末(粒径250μm以下)、Nb粉末(粒径150μm以下)を準備し、(Fe
65−Co
35)
80−Nb
15−B
5(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例2と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、スパッタリングの際の投入電力を1000W、軟磁性膜の膜厚を40nmとする以外は、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0027】
(実施例6)
それぞれ純度99.9%以上のCo、Co
80−Nb
20(原子%)、Fe
70−B
30(原子%)合金からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と、それぞれ純度99.9%以上のFe粉末(粒径250μm以下)、Ni粉末(粒径45μm以下)を準備し、(Fe
10−Co
80−Ni
10)
82−Nb
15−B
3(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例1と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、スパッタリングの際の投入電力を1000W、軟磁性膜の膜厚を40nmとする以外は、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0028】
(実施例7)
それぞれ純度99.9%以上のCo
90−Ta
10(原子%)、Fe
92−Ta
8(原子%)、Co
63−B
37(原子%)合金からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と、それぞれ純度99.9%以上のTa粉末(粒径45μm以下)、Nb粉末(粒径150μm以下)を準備し、(Fe
30−Co
70)
82−Ta
8−Nb
7−B
3(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例1と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、スパッタリングの際の投入電力を1000W、軟磁性膜の膜厚を40nmとする以外は、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0029】
(実施例8)
それぞれ純度99.9%以上のCo
90−Ta
10(原子%)、Fe
92−Ta
8(原子%)、Co
63−B
37(原子%)からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と、それぞれ純度99.9%以上のTa粉末(粒径45μm以下)、Cr粉末(粒径150μm以下)を準備し、(Fe
30−Co
70)
81−Ta
10−B
3−Cr
6(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例1と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、スパッタリングの際の投入電力を1000W、軟磁性膜の膜厚を40nmとする以外は、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0030】
(比較例1)
また、純度99.9%以上の原料を用い(Fe
30−Co
70)
87−Ta
5−B
8(原子%)合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、実施例1と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した溶解鋳造ターゲット材を用いて、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0031】
(比較例2)
それぞれ純度99.9%以上のFe
88−B
12(原子%)、Co
88−B
12(原子%)合金からなる各ガスアトマイズ粉末(粒径250μm以下)と純度99.9%以上のFe粉末(粒径250μm以下)を準備し、(Fe
65−Co
35)
87−B
13(原子%)合金組成となるように、秤量、混合して混合粉末を作製する以外は、実施例2と同様の条件で直径180mm×厚さ5mmのFe−Co系合金の粉末焼結スパッタリングターゲット材を作製した。
上記で作製した粉末焼結ターゲット材を用いて、実施例1と同様の条件でFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0032】
(結晶化温度評価)
上記、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、実施例7、実施例8、比較例1および比較例2のFe−Co系合金軟磁性膜を形成した各ガラス基板を5個(寸法25×25mm)に切断し、4個の試料については、0.5Pa以下に減圧した真空雰囲気で、それぞれ300℃×10分、350℃×10分、400℃×10分、450℃×10分の加熱処理を施した。そして、各試料について、(株)リガク製X線回折装置RINT2500Vを使用し、線源にCoを用いてX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンから2θ=52°付近のブロードなピークの半価幅を求めた。ここで、半価幅とは、X線回折ピークの1/2強度におけるピーク幅であり、半価幅が3°以上でアモルファス膜であると見なし、X線回折パターンの2θ=52°付近のピークの半価幅が3°に満たなくなる加熱温度を結晶化温度と定義し、表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から、本発明の組成範囲の焼結ターゲット材をスパッタリング成膜して得たFe−Co系合金軟磁性膜は、400℃の加熱まではアモルファスを維持できていることが分かる。一方、M元素のTaが5原子%と添加量の少ない比較例1やBのみが添加される比較例2のFe−Co系合金軟磁性膜ではそれぞれ350℃、300℃で結晶化しており、加熱時の結晶化の抑制が十分でないことが分かる。さらに、実施例6、実施例7のFe−Co系合金軟磁性膜については、450℃の加熱後もX線回折ピークの半価幅が3°以上であったため、表1では結晶化温度を>450℃と示している。なお、本発明のFe−Co系合金軟磁性膜について、東英工業(株)製振動試料型磁力計VSM−3を用いて、外部磁場800kA/mを印加して飽和磁束密度を測定したところ、垂直磁気記録媒体等の軟磁性膜として使用可能な飽和磁束密度を有していることが確認できた。
【0035】
(軟磁気特性に関する評価)
次に、本発明のFe−Co系合金軟磁性膜の軟磁気特性を評価するため下記の実験を行った。
実施例4、実施例6、実施例7、実施例8で作製した粉末焼結ターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10
−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法φ10mmのガラス基板上にArガス圧0.6Paとし、投入電力を1kWの条件で膜厚40nmのFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0036】
上記でガラス基板(φ10mm)上に形成した実施例4、実施例6、実施例7、実施例8の軟磁性膜の試料について、東英工業(株)製振動試料型磁力計VSM−3を使用し、面内方向に最大磁場16kA/mを印加してB−Hカーブを測定した。B−Hカーブから保磁力を求めた。その結果を表2に示した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2から、本発明例の実施例6のFe、Coの一部をNiで置換させた焼結ターゲット材をスパッタリング成膜して得たFe−Co系合金軟磁性膜は、Niを含有していない実施例4、実施例7、実施例8のFe−Co系合金軟磁性膜と比較して保磁力が低いことが分かる。なお、表1に示すように実施例6のFe、Coの一部をNiで置換したFe−Co系合金軟磁性膜は実施例7と同様に高い温度域での結晶化の抑制効果も維持されている。以上から、本発明のFe−Co系合金軟磁性膜において、保磁力を低減し一定以上の飽和磁束密度保持した軟磁気特性に優れた軟磁性膜が求められる場合にはFe、Coの一部をNiで置換することがより望ましいことが分かる。
【0039】
(耐食性に関する評価)
次に、本発明のFe−Co系合金軟磁性膜の耐食性を評価するため下記の実験を行った。
実施例1、実施例2、実施例6、実施例7、実施例8で作製した粉末焼結ターゲット材をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)のチャンバ内に配置し、チャンバ内を真空到達度2×10
−5Pa以下となるまで排気を行った後、寸法50×25mmのガラス基板上にArガス圧0.6Paとし、投入電力を1000Wの条件で膜厚200nmのFe−Co系合金軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0040】
上記でガラス基板(寸法50×25mm)上に形成した実施例1、実施例2、実施例6、実施例7、実施例8の軟磁性膜の試料を、純水で10%に希釈した硝酸溶液に24時間浸漬させた後、硝酸10%溶液中に溶出したCo量を誘導結合プラズマ発光分光分析法により分析した。その結果を表3に示し、耐食性の評価をおこなった。
【0041】
【表3】
【0042】
表3から、本発明例の実施例8のCrを含有させた粉末焼結ターゲット材をスパッタリング成膜して得たFe−Co系合金軟磁性膜は、Crを含有しない実施例1、実施例2、実施例6、実施例7のFe−Co系合金軟磁性膜と比較して硝酸10%溶液中に溶出したCo量が少なく、耐食性に優れていることが分かる。なお、表1に示すように実施例8のCrを含有するFe−Co系合金軟磁性膜は実施例1、2と同様に高い温度域での結晶化の抑制効果も維持されている。以上から、本発明のFe−Co系合金軟磁性膜において、M元素とB以外にCrを添加することがより望ましいことが分かる。