【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構、科学技術コモンズにおける試験費による委託研究「光パルスの波形計測技術」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記統合ステップでは、前記複数の第1セグメントに含まれる互いに隣接する第1セグメントの光物性定数が類似するか否かを判定し、前記互いに隣接する第1セグメントの光物性定数が類似する場合に前記互いに隣接する第1セグメントを統合する
請求項2に記載の光物性定数計測方法。
前記第2推定ステップでは、推定された前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数を用いて、前記第2伝播シミュレーションに入力として与えられる前記複数の第2セグメントの各々の光物性定数の初期値を設定する
請求項2または3に記載の光物性定数計測方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0023】
(実施の形態1)
<光物性定数計測システムの構成>
図1は、実施の形態1に係る光物性定数計測システムのハードウェア構成を示す図である。この光物性定数計測システムは、出力光信号のパワースペクトルを計測し、計測したパワースペクトルを用いて光伝送媒体120内の光物性定数の分布を推定する。
【0024】
光物性定数とは、電磁波と物質との相互作用の特性を表す値である。光物性定数は、非線形光学定数および分散パラメータを含む。非線形光学定数および分散パラメータについては後述する。
【0025】
光伝送媒体120は、光信号を伝播する媒体であり、例えば光ファイバである。この光伝送媒体120内の光物性定数の光の伝播方向の分布が、光物性定数計測システムによって推定される。具体的には、光伝送媒体120は、例えば、フォトニック結晶ファイバである。空間的に均一な構造のフォトニック結晶を製造することは難しいので、フォトニック結晶からなる光伝送媒体内の光物性定数の分布は不均一になりやすい。なお、光伝送媒体120は、フォトニック結晶からなる必要はなく、どのような材料からなってもよい。また、光伝送媒体120は、光ファイバでなくてもよい。例えば、光伝送媒体120は、フォトニック結晶デバイスであってもよい。
【0026】
図1に示すように、光物性定数計測システムは、光信号生成装置100と、強度調節器110と、分光器130と、光物性定数推定装置140とを備える。
【0027】
光信号生成装置100は、入力光信号を生成する。具体的には、光信号生成装置100は、例えば、MLLD(Mode−Locked Laser Diode)と、SMF(Single Mode Fiber)と、EDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)とを備える。光信号生成装置100は、MLLDから出力された光パルスを、SMFにより分散補償し、EDFAにより増幅する。ここでは、入力光信号として、周期が100ps以下の短パルス光が生成される。
【0028】
なお、光信号生成装置100により生成された入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルは既知である。つまり、ここでは入力光信号の時間波形は既知である。なお、入力光信号のパワースペクトルの代わりに、入力光信号の自己相関関数が既知であってもよい。
【0029】
強度調節器110は、光信号生成装置100により生成された入力光信号の強度を変化させる。
【0030】
分光器130は、スペクトル計測器の一例であり、出力光信号を波長ごとの光に分解し、波長ごとに分解した光をO/E(Optical/Electrical)変換およびA/D(Analog/Digital)変換することにより、デジタル値で表されたパワースペクトルを生成する。すなわち、分光器130は、出力光信号のパワースペクトルを計測する。ここで出力光信号とは、入力光信号が光伝送媒体120内を伝播した後に出力される光信号である。
【0031】
光物性定数推定装置140は、例えば、
図12に示すようなコンピュータにより実現され、光伝送媒体120の光物性定数の分布を推定する。以下に、光物性定数推定装置140の詳細を、
図2を用いて説明する。
【0032】
<光物性定数推定装置140の構成>
図2は、実施の形態1に係る光物性定数推定装置140の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、光物性定数推定装置140は、入力スペクトル取得部141と、出力スペクトル取得部142と、セグメント設定部143と、光物性定数推定部144と、出力部145とを備える。
【0033】
入力スペクトル取得部141は、入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報を取得する。例えば、入力スペクトル取得部141は、記憶手段等に格納されたパワースペクトルおよび位相スペクトルのデータを読み出すことにより、入力光信号のパワースペクトルを取得する。
【0034】
パワースペクトルとは、光信号の波長ごとの光の強度を表す。また、位相スペクトルとは、光信号の波長ごとの位相を表す。
【0035】
なお、入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報は、必ずしも入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルそのものを示す必要はない。例えば、入力光信号のパワースペクトルを示す情報は、入力光信号のパワースペクトルの代わりに、入力光信号の自己相関関数を示してもよい。つまり、入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報は、入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルが得られる情報であればどのような情報であっても構わない。
【0036】
出力スペクトル取得部142は、入力光信号が光伝送媒体120内を伝播した後に出力される出力光信号のパワースペクトルを、入力光信号の強度ごとに取得する。ここでは、出力スペクトル取得部142は、分光器130により計測されたパワースペクトルを計測パワースペクトルとして入力光信号の強度ごとに取得する。
【0037】
セグメント設定部143は、光伝送媒体120を伝播方向に沿って仮想的に分割することにより複数のセグメントを設定する。本実施の形態におけるセグメントは、第1セグメントに相当する。なお、分割方法は、特に限定される必要はない。例えば、セグメント設定部143は、等間隔に、光伝送媒体120を仮想的に分割する。また例えば、光物性定数が変化する位置が既にわかっている場合には、セグメント設定部143は、その位置で区切られるように光伝送媒体120を仮想的に分割してもよい。
【0038】
光物性定数推定部144は、各強度の入力光信号が複数のセグメントを順に伝播するモデルによる伝播シミュレーション(第1伝播シミュレーションに相当する)の結果に基づいて、複数のセグメントの各々の光物性定数を推定する。この伝播シミュレーションは、各強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報と、複数のセグメントの各々の光物性定数とを入力として要求し、出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)をシミュレーション結果として出力する。
【0039】
具体的には、光物性定数推定部144は、計測された出力光信号のパワースペクトル(計測パワースペクトル)と、伝播シミュレーションの結果として得られる出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)との差異を評価する評価関数を用いて、複数のセグメントの各々の光物性定数の探索を行うことにより、複数のセグメントの各々の光物性定数を推定する。
【0040】
言い換えれば、光物性定数推定部144は、各セグメントが光物性定数を有すると仮定して、入力光信号の強度ごとに入力光信号の光伝送媒体120内の伝播シミュレーションを行うことにより、出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)を算出する。そして、光物性定数推定部144は、計算パワースペクトルと計測パワースペクトルとの強度ごとの差異が小さくなるように、伝播シミュレーションに与える各セグメントの光物性定数を変化させながら、伝播シミュレーションを繰り返す。このとき、光物性定数推定部144は、例えば所定のアルゴリズムに従って伝播シミュレーションに与える各セグメントの光物性定数を変化させる。
【0041】
評価関数は、計測パワースペクトルと計算パワースペクトルとの差異量に応じて値が変化する関数である。例えば、評価関数として、計測パワースペクトルと計算パワースペクトルとの各周波数成分値の差分がどれだけ「0」に近いかを評価する関数が用いられてもよい。この場合、差異を示す値として、例えば、各周波数成分値の差分絶対値和あるいは差分二乗和が用いられてもよい。また例えば、評価関数として、計測パワースペクトルに対する計算パワースペクトルの各周波数成分値の比がどれだけ「1」に近いかを評価する関数が用いられてもよい。
【0042】
また、所定のアルゴリズムとは、与えられた関数の最適解あるいはその近似解を探索するためのアルゴリズムである。例えば、所定のアルゴリズムは、焼きなまし法、共役方向法、共役勾配法、遺伝的アルゴリズムなどである。なお、所定のアルゴリズムは、これらのアルゴリズムに限定される必要はなく、どのようなアルゴリズムであってもよい。
【0043】
出力部145は、光物性定数推定部144によって推定された各セグメントの光物性定数を、光伝送媒体120内の光物性定数の分布として出力する。具体的には、出力部145は、推定された各セグメントの光物性定数を示すデータあるいは信号を、例えばメモリあるいは表示装置などに出力する。
【0044】
<光物性定数推定装置140の処理動作>
次に、以上のように構成された光物性定数推定装置140における各種動作について説明する。
【0045】
図3は、実施の形態1に係る光物性定数推定装置140における処理動作を示すフローチャートである。
【0046】
まず、入力スペクトル取得部141は、光信号生成装置100により生成された入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報を取得する(S102)。
【0047】
分光器130は、複数の強度の入力光信号にそれぞれ対応する出力光信号のパワースペクトルを計測する。そして、出力スペクトル取得部142は、分光器130により計測された、複数の強度の入力光信号にそれぞれ対応する出力光信号のパワースペクトルを取得する(S104)。
【0048】
セグメント設定部143は、光伝送媒体120を伝播方向に沿って仮想的に分割することにより複数のセグメントを設定する(S106)。
【0049】
光物性定数推定部144は、各セグメントの光物性定数の初期値を伝播シミュレーションの入力として設定する(S108)。例えば、光物性定数推定部144は、任意の光物性定数を初期値として設定する。また、光物性定数推定部144は、さらに、ステップS102で取得された各強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報を、伝播シミュレーションの入力として設定する。
【0050】
光物性定数推定部144は、伝播シミュレーションを行うことにより、出力光信号のパワースペクトルを算出する(S110)。伝播シミュレーションの詳細は後述する。
【0051】
光物性定数推定部144は、各セグメントの光物性定数の探索を終了するか否かを判定する(S112)。例えば、光物性定数推定部144は、評価関数の値(評価値)が閾値未満の場合に各セグメントの光物性定数の探索を終了すると判定する。また例えば、光物性定数推定部144は、評価値の変化率が閾値未満である場合に、探索を終了すると判定してもよい。また例えば、光物性定数推定部144は、伝播シミュレーションの反復回数が上限回数に達した場合に探索を終了すると判定してもよい。また、光物性定数推定部144は、これらの条件を組み合わせて探索を終了するか否かを判定してもよい。
【0052】
ここで、探索を終了しないと判定された場合(S112のNo)、光物性定数推定部144は、計算パワースペクトルと計測パワースペクトルとの差異が小さくなるように、各セグメントの光物性定数を更新する(S114)。具体的には、光物性定数推定部144は、伝播シミュレーションに入力として与えられる新たな光物性定数を、例えば焼きなまし法に従って設定する。そして、ステップS110およびステップS112の処理が繰り返される。
【0053】
一方、探索を終了すると判定された場合(S112のYes)、出力部145は、最も小さな差異を示す評価値が得られた伝播シミュレーションに入力として与えられた各セグメントの光物性定数を、光伝送媒体120内の光物性定数の分布として出力する(S116)。
【0054】
以上のように、光物性定数推定部144は、探索を終了すると判定されるまで、伝播シミュレーションに入力として与えられる各セグメントの光物性定数を変化させながら伝播シミュレーションを繰り返すことにより、各セグメントの光物性定数を探索する。つまり、光物性定数推定部144は、計算パワースペクトルと計測パワースペクトルとの強度ごとの差異を評価する評価関数を用いて、各セグメントの光物性定数の最適解あるいは近似解を探索する。
【0055】
<伝播シミュレーション>
次に、各強度の入力光信号が複数のセグメントを順に伝播するモデルによる伝播シミュレーションの一例であるスプリットステップフーリエ法について説明する。そこでまず、光伝送媒体120内を伝播する光信号に影響を与える分散効果と非線形光学効果とについて説明する。
【0056】
分散効果とは、光と物質との相互作用が光の波長によって異なることに起因する、光の電場に線形な現象(応答)である。分散効果によって、入力光信号の伝播速度が周波数に応じて変化する。つまり、入力光信号に含まれる各周波数成分の位相がずれ、入力光信号の時間波形が広がる。この分散効果の特性を示す値が分散パラメータである。
【0057】
また、非線形光学効果とは、光(例えば超短光パルスのような非常に強い強度を有する光)と物質とが相互作用することにより引き起こされる、光の電場に非線形な現象(応答)である。この非線形光学効果の特性を示す値が非線形光学定数である。非線形光学効果としては、自己位相変調、自己急峻化、およびラマン応答などが挙げられる。
【0058】
まず、自己位相変調について説明する。光ファイバなどの光伝送媒体の屈折率は、その中を伝播する光信号の強度に比例してわずかに変化するため、光信号自身に位相変調が生じる。このようにして生じる位相変調を自己位相変調という。
【0059】
次に、自己急峻化について説明する。自己急峻化とは、時間波形が対称である入力光信号が光伝送媒体内を伝播するにつれて、時間波形が非対称となり、ピークが後ろの方へ移る現象である。自己急峻化は、群速度が強度に依存することから引き起こされる。
【0060】
最後に、ラマン応答について説明する。物質に光が入射した場合、入射光と等しい周波数をもつ強い弾性散乱(レーリー散乱)光と、入射光の周波数からわずかにずれた周波数をもつきわめて弱い非弾性散乱光とが散乱される。非弾性散乱光は、物質中の振動する原子やイオンにより散乱されるラマン散乱光と、物質中の音波によって散乱されるブリユアン散乱光とに分けられる。ラマン散乱において入射光の強度がある閾値を超えた場合にラマン散乱光が誘導放出により強く発生する現象を誘導ラマン散乱という。この誘導ラマン散乱により光伝送媒体内では光の高周波数成分から低周波数成分へエネルギーが移され、低周波数成分が強められる。このような現象をラマン応答と呼ぶ。
【0061】
以上のような分散効果と非線形光学効果との影響を受けて光伝送媒体120内を伝播する入力光信号の伝播方程式は、式(1)で表される。
【0063】
ここで、Eは光の電場成分を表し、zは光伝送媒体120内の伝播方向に沿った距離を表す。また、Dは分散効果とロスとを表し、Nは非線形光学効果を表す。DおよびNは、次の式(2)および式(3)で表される。
【0066】
ここで、α、β、γは、光伝送媒体120の光物性定数を表す。具体的には、αは、光の強度のロスに関する光物性定数を表す。また、βは、各次数の分散効果に関する光物性定数(分散パラメータ)を表す。また、γは、非線形光学効果に関する光物性定数(非線形光学定数)を表す。なお、Tは時間を表す。
【0067】
式(2)の右辺において、第1項は2次分散を表し、第2項は3次分散を表し、第3項は4次分散を表し、最後の項は光伝送媒体120内を伝播する光の強度のロスを表している。また、式(3)の右辺において、第1項は自己位相変調を表し、第2項は自己急峻化を表し、第3項はラマン応答を表している。
【0068】
なお、式(2)では、4次分散以下の次数の分散効果が表されているが、分散効果の次数はこれに限定されない。つまり、伝播シミュレーションにおいて用いられる分散パラメータは、2次〜4次の分散パラメータに限定されない。例えば、3次以上の分散パラメータを用いずに(つまり、3次以上の分散効果を無視して)、2次分散パラメータを用いて伝播シミュレーションが行われてもよい。また例えば、5次以上の分散パラメータを用いて伝播シミュレーションが行われてもよい。
【0069】
この伝播方程式には、E自体に依存する項が含まれている。そのため、分散項(D)と非線形項(N)とを同時に一遍に計算することは困難である。そこで、スプリットステップフーリエ法では、
図4に示すように、光信号の伝播方向に沿って光伝送媒体120を複数のステップ(セグメント)に仮想的に分割する。そして、ステップごとに分散項と非線形項とを順に計算することにより、光伝送媒体120中を伝播する光信号の近似解を求めることができる。
【0070】
つまり、伝播シミュレーションでは、複数のセグメントの各々について、分散パラメータを用いた光信号の伝播計算(分散項の計算)および非線形光学定数を用いた光信号の伝播計算(非線形項の計算)を逐次的に行う。なお、分散項の計算および非線形項の計算の順番は限定されない。つまり、分散項の計算および非線形項の計算の順番は、この順に行われてもよいし、これとは逆順に行われてもよい。
【0071】
なお、伝播シミュレーションは、必ずしもスプリットステップフーリエ法である必要はない。例えば、伝播シミュレーションは、FDTD(Finite−difference time−domain)法であってもよい。つまり、各強度の入力光信号が複数のセグメントを順に伝播するモデルによる伝播シミュレーションであれば、どのような伝播シミュレーションが用いられてもよい。
【0072】
<実験結果>
次に、本実施の形態に係る光物性定数計測システムにより得られた実験結果について説明する。
【0073】
本実験では、光信号生成装置100は、予め定められた時間波形(パワースペクトルおよび位相スペクトル)を有する光パルスを入力光信号として生成した。
【0074】
強度調節器110には、可変光減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)を用いた。強度調節器110は、光信号生成装置100により生成された入力光信号の強度を4種類の異なる強度に変更した。そして、強度調節器110は、強度を変更した入力光信号を光伝送媒体120にそれぞれ出力した。
【0075】
光伝送媒体120には、
図5Aに示すように、互いに光物性定数が異なる2つの光ファイバ(第1光ファイバ120aおよび第2光ファイバ120b)をつなげたものを用いた。また、
図5Bに示すように、第1光ファイバ120aおよび第2光ファイバ120bの各々の長さ(L)は5mであった。
【0076】
また、第1光ファイバ120aおよび第2光ファイバ120bの各々の光物性定数(D:分散パラメータ、SI:分散スロープ、γ:非線形光学定数)は、
図5Bに示すとおりであった。
【0077】
本実験では、光伝送媒体120を2.5メートル間隔で仮想的に4分割して得られた各セグメントの光物性定数を探索することにより、光伝送媒体120内の光物性定数の分布を推定した。
【0078】
図6A〜
図6Dの各々は、実施の形態1における出力光信号の計測パワースペクトルと計算パワースペクトルとの一例を示すグラフである。つまり、
図6A〜
図6Dは、計測パワースペクトルと、光物性定数の探索が終了したときの伝播シミュレーションで得られた計算パワースペクトルとを示す。
【0079】
図6A〜
図6Dにおいて、横軸は波長(Wavelength(nm))を表す。また、縦軸は強度(Intensity(a.u.))を表す。また、実線は、出力光信号のパワースペクトルの計測値を示す。また、破線は、出力光信号のパワースペクトルの計算値(伝播シミュレーション結果)を示す。
【0080】
図7は、実施の形態1において実験により推定された各セグメントの光物性定数を示す表である。つまり、
図7は、
図6A〜
図6Dに破線で示すパワースペクトルが算出されたときに伝播シミュレーションに入力として与えられた各セグメントの光物性定数を示す。本実験では、光伝送媒体120を2.5メートル間隔で仮想的に分割した。
【0081】
図7に示すように、本実験により、
図5Aおよび
図5Bに示す光伝送媒体120内の光物性定数の分布の近似解を得ることができた。つまり、本実験では、複数の強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルと、各強度の入力光信号に対応する出力信号のパワースペクトルとを用いて、光伝送媒体120内の光物性定数の分布の近似解を得ることができた。
【0082】
以上のように、本実施の形態に係る光物性定数推定装置によれば、複数の強度の入力光信号にそれぞれ対応する出力光信号のパワースペクトルを用いて、光伝送媒体内の光物性定数の伝播方向の分布を推定することができる。したがって、特殊な機器を用いなくても、光伝送媒体内の光物性定数の伝播方向の分布を得ることができる。つまり、簡便な構成の光物性定数計測システム(例えば可変光減衰器および分光器を備えるシステム)によって、光伝送媒体内の光物性定数の伝播方向の分布を得ることができる。
【0083】
このように、光伝送媒体を物理的に分割することなく、光物性定数の分布を得ることができるので、光物性定数推定装置は、光伝送媒体の品質検査などに有用である。また、海底光ケーブルの検査に用いられれば、光物性定数推定装置は、光ケーブルの異常箇所を推定することも可能となる。
【0084】
なお、上記において光伝送媒体を光の伝播方向に均等に4分割して複数のセグメントを設定する例について説明したが、光伝送媒体の分割方法はこれに限らない。例えば、光伝送媒体は、不均等に分割されてもよい。つまり、セグメントの数および各セグメントの長さは任意の数および長さでよい。例えば、光伝送媒体の使用目的に応じて、セグメントの数および各セグメントの長さを変更すればよい。セグメントの数が多いほど、探索時間が長くなるが、高い精度で光物性定数の分布を得ることができる。
【0085】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。
【0086】
本実施の形態では、光物性定数の分布の探索の途中でセグメントの統合を行う点が、実施の形態1と異なる。以下、本実施の形態に係る光物性定数推定装置について、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。なお、本実施の形態に係る光物性定数計測システムの構成は、
図1と同様であるので図示を省略する。
【0087】
<光物性定数推定装置240の構成>
図8は、実施の形態2に係る光物性定数推定装置240の機能構成を示すブロック図である。
図8において、
図2と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0088】
図8に示すように、光物性定数推定装置240は、入力スペクトル取得部141と、出力スペクトル取得部142と、セグメント設定部243と、光物性定数推定部244と、出力部245とを備える。
【0089】
セグメント設定部243は、実施の形態1のセグメント設定部143と同様に、光伝送媒体120を伝播方向に沿って仮想的に分割することにより複数のセグメントを設定する。以下において、ここで設定されたセグメントを第1セグメントと呼ぶ。
【0090】
さらに、セグメント設定部243は、後述する光物性定数推定部244によって推定された複数の第1セグメントの各々の光物性定数に基づいて、複数の第1セグメントに含まれる互いに隣接する第1セグメントを統合することにより、複数の第2セグメントを設定する。
【0091】
光物性定数推定部244は、実施の形態1の光物性定数推定部144と同様に、各強度の入力光信号が複数の第1セグメントを順に伝播するモデルによる第1伝播シミュレーションの結果に基づいて、複数の第1セグメントの各々の光物性定数を推定する。この第1伝播シミュレーションは、各強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報と、複数の第1セグメントの各々の光物性定数とを入力として要求し、出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)をシミュレーション結果として出力する。
【0092】
具体的には、光物性定数推定部244は、計測された出力光信号のパワースペクトル(計測パワースペクトル)と、第1伝播シミュレーションの結果として得られる出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)との差異を評価する評価関数を用いて、複数の第1セグメントの各々の光物性定数の探索を行うことにより、複数の第1セグメントの各々の光物性定数を推定する。
【0093】
さらに、光物性定数推定部244は、各強度の入力光信号が複数の第2セグメントを順に伝播するモデルによる第2伝播シミュレーションの結果に基づいて、複数の第2セグメントの各々の光物性定数を推定する。この第2伝播シミュレーションは、各強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報と、複数の第2セグメントの各々の光物性定数とを入力として要求し、出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)をシミュレーション結果として出力する。
【0094】
具体的には、光物性定数推定部244は、計測された出力光信号のパワースペクトル(計測パワースペクトル)と、第2伝播シミュレーションの結果として得られる出力光信号のパワースペクトル(計算パワースペクトル)との差異を評価する評価関数を用いて、複数の第2セグメントの各々の光物性定数の探索を行うことにより、複数の第2セグメントの各々の光物性定数を推定する。
【0095】
出力部245は、光物性定数推定部244によって推定された各第2セグメントの光物性定数を、光伝送媒体120内の光物性定数の分布として出力する。
【0096】
<光物性定数推定装置240の処理動作>
次に、以上のように構成された光物性定数推定装置240における各種動作について説明する。
【0097】
図9は、実施の形態2に係る光物性定数推定装置240における処理動作を示すフローチャートである。また、
図10は、実施の形態2におけるセグメントの統合を説明するための図である。なお、
図9において、
図3と同様の処理が行われるステップについては、同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0098】
光物性定数推定装置240は、実施の形態1と同様に、各第1セグメントの光物性定数を推定する(ステップS102〜ステップS114)。
【0099】
続いて、セグメント設定部243は、推定された複数の第1セグメントの各々の光物性定数に基づいて、複数の第1セグメントに含まれる互いに隣接する第1セグメントを統合することにより、複数の第2セグメントを設定する(S202)。具体的には、セグメント設定部243は、例えば、複数の第1セグメントに含まれる互いに隣接する第1セグメントの光物性定数が類似するか否かを判定する。そして、セグメント設定部243は、互いに隣接する第1セグメントの光物性定数が類似する場合に互いに隣接する第1セグメントを統合する。
【0100】
ここで、この処理の詳細を、
図10を用いて説明する。例えば、セグメント設定部243が、
図10の(a)に示すように複数の第1セグメントを設定していたと仮定する。
【0101】
このとき、セグメント設定部243は、第1セグメント261および262の光物性定数が類似するか否かを判定し、さらに、第1セグメント262および263の光物性定数が類似するか否かを判定する。具体的には、セグメント設定部243は、例えば、セグメント間の光物性定数の差異を示す値(例えば差分の絶対値または比率など)を閾値と比較することにより、光物性定数が類似するか否かを判定する。
【0102】
ここで、第1セグメント261および262の光物性定数が類似していると判定され、第1セグメント262および263の光物性定数が類似していないと判定された場合、セグメント設定部243は、第1セグメント261および262を統合し、第1セグメント262および263を統合しない。その結果、
図10の(b)に示すように、第2セグメント271および272が設定される。
【0103】
図9のフローチャートの説明に戻る。光物性定数推定部244は、各第2セグメントの光物性定数の初期値を第2伝播シミュレーションの入力として設定する(S204)。例えば、光物性定数推定部244は、推定された複数の第1セグメントの各々の光物性定数を用いて、複数の第2セグメントの各々の光物性定数の初期値を設定する。具体的には、光物性定数推定部244は、第2セグメントごとに、当該第2セグメントに対応する1以上の第1セグメントの光物性定数を用いて当該第2セグメントの光物性定数の初期値を設定する。
【0104】
より具体的には、例えば
図10に示すように複数の第2セグメントが設定された場合、光物性定数推定部244は、第2セグメント271に対応する第1セグメント261および262の光物性定数の統計的な代表値(例えば、平均値あるいは中央値など)を、第2セグメント271の光物性定数の初期値として設定する。
【0105】
これにより、光物性定数推定部244は、第2伝播シミュレーションによる探索の開始時の評価関数の低下(計測パワースペクトルと計算パワースペクトルと差異の増加)を抑制することができる。したがって、光物性定数推定部244は、処理時間または処理負荷を低減することが可能となる。
【0106】
光物性定数推定部244は、第2伝播シミュレーションを行うことにより、出力光信号のパワースペクトルを算出する(S206)。この第2伝播シミュレーションは、第1セグメントではなく第2セグメントを用いる点が第1伝播シミュレーションと異なるが、その他の点は第1伝播シミュレーションと同じである。
【0107】
光物性定数推定部244は、各第2セグメントの光物性定数の探索を終了するか否かを判定する(S208)。具体的には、光物性定数推定部244は、ステップS112における判定と同様に、例えば評価関数および反復回数の少なくとも一方に基づいて、各第2セグメントの光物性定数の探索を終了するか否かを判定する。
【0108】
このとき、ステップS208における終了条件として、ステップS112における終了条件より厳しい条件を用いてもよい。これにより、セグメントの数が多いために処理負荷が高い第1伝播シミュレーションの実行回数を減少させるとともに、第2伝播シミュレーションによる光物性定数の推定精度を向上させることが可能となる。
【0109】
ここで、探索を終了しないと判定された場合(S208のNo)、光物性定数推定部244は、ステップS114と同様に、計算パワースペクトルと計測パワースペクトルとの差異が小さくなるように、各第2セグメントの光物性定数を更新する(S210)。
【0110】
一方、探索を終了すると判定された場合(S208のYes)、出力部245は、最も小さな差異を示す評価値が得られた第2伝播シミュレーションに入力として与えられた各第2セグメントの光物性定数を、光伝送媒体120内の光物性定数の分布として出力する(S212)。
【0111】
図11は、実施の形態2に係る光物性定数推定装置による効果を説明するための図である。
図11の(a)は、評価値が閾値未満となるまで複数の第1セグメントを用いた第1伝播シミュレーションを繰り返したときの評価値の時間推移を示す。また、
図11の(b)は、第1伝播シミュレーションを繰り返し、その後、複数の第1セグメントを統合した複数の第2セグメントを用いた第2伝播シミュレーションを繰り返したときの評価値の時間推移を示す。ここでは、評価値は、計測パワースペクトルと計算パワースペクトルとの周波数成分値ごとの差分絶対値和である。
【0112】
図11の(a)に示すように、第1伝播シミュレーションによって評価値が閾値以下となる時刻はt0である。これに対して、時刻t1において第1セグメントを統合し、第2伝播シミュレーションを開始した場合、時刻t2に評価値が閾値以下となる。
【0113】
第2伝播シミュレーションは、セグメントの数が第1伝播シミュレーションより少ないので、1回のシミュレーションに必要な処理時間も短い。したがって、
図11に示すように、最終的な終了条件を満たす(評価値が閾値以下となる)までに必要な処理時間を減少させることができる。
【0114】
また逆に、第1セグメントの数を増加させた場合には、処理時間の増加を抑えつつ、第1セグメントの分割位置と、実際に光物性定数が変化する位置との不一致による推定精度の低下を抑制することができる。
【0115】
以上のように、本実施の形態に係る光物性定数推定装置240によれば、第1セグメントを統合して得られた複数の第2セグメントを用いて、光伝送媒体内の光物性定数の分布を探索することができる。したがって、光伝送媒体内において光物性定数が変化する位置を第1伝播シミュレーションの結果に応じて適切に設定することができ、光物性定数の分布の推定精度を向上させることが可能となる。さらに、光物性定数推定装置240は、光物性定数が均一であると推定される複数のセグメント(第1セグメント)を1つのセグメント(第2セグメント)に統合して伝播シミュレーションを行うことができるので、伝播シミュレーションの処理時間または処理負荷を低減することができる。例えば、第2伝播シミュレーションによる探索の終了条件を第1伝播シミュレーションによる探索の終了条件よりも厳しくすることにより、光物性定数推定装置240は、セグメントの数が多いために処理負荷が高い第1伝播シミュレーションの実行回数を減少させることができる。
【0116】
以上、本発明の一態様に係る光物性定数推定装置および光物性定数計測システムについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、あるいは異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0117】
例えば、上記各実施の形態では、光伝送媒体の非線形光学定数および分散パラメータを推定する例について説明したが、必ずしもこれらの非線形光学定数および分散パラメータが推定される必要はない。例えば分散パラメータが既知の場合は、非線形光学定数のみが推定されてもよい。
【0118】
また、上記実施の形態2では、セグメントの統合が1回だけ行われたが、セグメントの統合は、2回以上行われてもよい。例えば、第2伝播シミュレーションによる光物性定数の探索が終了した後に、複数の第2セグメントを統合することにより複数の第3セグメントが設定されてもよい。
【0119】
なお、本発明は、このような光物性定数推定装置の特徴的な構成要素が行う処理を実行する光物性定数計測方法として実現することもできる。また、光物性定数推定装置の特徴的な構成要素が行う処理を
図12に示すようなコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現することもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体あるいはインターネット等の伝送媒体を介して配信することができる。
【0120】
図12は、コンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。光物性定数推定装置をコンピュータを用いて実現するためのプログラムは、例えば、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体であるCD−ROM515に記憶され、CD−ROM装置514を介して読み出される。また例えば、光物性定数推定装置をコンピュータを用いて実現するためのプログラムは、有線もしくは無線ネットワーク、または放送などを介して伝送される。
【0121】
コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、ハードディスク504、通信インタフェース505等を備える。
【0122】
CPU501は、CD−ROM装置514を介して読み出されたプログラム、または通信インタフェース505を介して受信したプログラムを実行する。具体的には、CPU501は、CD−ROM装置514を介して読み出されたプログラム、または通信インタフェース505を介して受信したプログラムをRAM503に展開する。そして、CPU501は、RAM503に展開されたプログラム中のコード化された各命令を実行する。
【0123】
ROM502は、コンピュータ500の動作に必要なプログラムおよびデータを記憶する読み出し専用メモリである。RAM503は、CPU501がプログラムを実行するときにワークエリアとして使用される。具体的には、RAM503は、例えば、プログラム実行時のパラメータなどのデータを一時的に記憶する。ハードディスク504は、プログラム、データなどを記憶する。
【0124】
通信インタフェース505は、ネットワークを介して他のコンピュータとの通信を行なう。バス506は、CPU501、ROM502、RAM503、ハードディスク504、通信インタフェース505、ディスプレイ511、キーボード512、マウス513およびCD−ROM装置514を相互に接続する。
【0125】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ここで、上記各実施の形態の光物性定数推定装置などを実現するソフトウェアは、次のようなプログラムである。
【0126】
すなわち、このプログラムは、コンピュータに、複数の強度の入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報を取得する入力スペクトル取得ステップと、前記入力光信号の強度ごとに、前記光伝送媒体内を当該強度の前記入力光信号が伝播した後に出力される出力光信号の計測されたパワースペクトルを取得する出力スペクトル取得ステップと、前記光伝送媒体を伝播方向に沿って仮想的に分割することにより複数の第1セグメントを設定する分割ステップと、各強度の前記入力光信号が前記複数の第1セグメントを順に伝播するモデルによる第1伝播シミュレーションの結果に基づいて、前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数を推定する第1推定ステップと、推定された前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数を、前記光伝送媒体内の光物性定数の分布として出力する出力ステップとを実行させる。このとき、前記第1伝播シミュレーションは、取得された各強度の前記入力光信号のパワースペクトルおよび位相スペクトルを示す情報と、前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数とを入力として要求し、かつ、前記出力光信号のパワースペクトルをシミュレーション結果として出力する。また、前記第1推定ステップでは、前記出力光信号の計測されたパワースペクトルと、前記第1伝播シミュレーションの結果として得られる出力光信号のパワースペクトルとの差異を評価する評価関数を用いて、前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数の探索を行うことにより、前記複数の第1セグメントの各々の光物性定数を推定する。