特許第6095237号(P6095237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095237高温クリープ特性に優れたNi基合金およびこのNi基合金を用いたガスタービン用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095237
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】高温クリープ特性に優れたNi基合金およびこのNi基合金を用いたガスタービン用部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20170306BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20170306BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20170306BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C22C19/05 C
   F01D5/28
   F01D25/00 L
   F02C7/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-12359(P2015-12359)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-138295(P2016-138295A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2016年5月6日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510312950
【氏名又は名称】日立金属MMCスーパーアロイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】小松 明宏
(72)【発明者】
【氏名】菅原 克生
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−035023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
F01D 5/28
F01D 25/00
F02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cr:14.0〜17.0%、Fe:5.0〜9.0%、Ti:2.2〜2.8%、Al:0.40〜1.00%、Nb+Taの合計量:0.7〜1.2%、B:0.001〜0.010%、Zr:0.01〜0.15%、Mg:0.001〜0.050%、Mn:0.01〜0.20%、Cu:0.005〜0.300%、Mo:0.01〜0.30%、C:0.01〜0.05%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなり、試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が100時間以上、かつ、伸びが10%以上であるNi基合金。
【請求項2】
前記BとZrとCuとMoの含有量合計が、0.18%以上0.51%以下であることを特徴とする請求項1に記載のNi基合金。
【請求項3】
前記Crの含有量が14.0%以上15.0%未満である請求項1または2に記載のNi基合金。
【請求項4】
試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が120時間以上、かつ、伸びが16%以上である請求項1乃至3の何れか一項に記載のNi基合金。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のNi基合金を用いてなるガスタービン用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高温クリープ特性に優れたNi基合金およびこのNi基合金を用いたガスタービン用部材に関し、特に、クリープ破断寿命が長く、また、破断時の伸びの大きいNi基合金およびこれを用いたガスタービン用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ni基合金は、優れた強度、靭性、耐食性、耐熱性を有することから、各種の分野で利用されている。
Ni基合金が利用されている分野の一つとして、燃料の燃焼等で生成された高温ガスでタービンを回すことにより発電する天然ガス焚き火力発電があるが、ここで使用されるガスタービン用部材としてNi基合金が用いられている。
そして、ガスタービン用部材は、高温・高圧ガスに曝される環境下に置かれるため、その構成材料(例えば、燃焼器、静翼、動翼、トランジションピース等)は優れた耐熱性(高温強度や耐酸化性など)に加えて高温下における靭性も要求されている。
【0003】
このような特性を備える材料としては、従来、JIS規格(JIS・G4902)のNCF750/751に規定される、質量%でCr:14〜17%、Fe:5〜9%、Ti:2.25〜2.75%、Al:0.4〜1%、Nb+Ta;0.7〜1.2% 残部がNiおよび不可避不純物からなる時効硬化型のNi基合金が知られており、このNi基合金は、高温耐酸化性に優れるガスタービン用部材として採用されている。
【0004】
一方、上記NCF751より高強度かつ耐高温腐食性に優れた材料として、排気バルブ用材料等のNi基合金ではあるが、質量%でC:0.01〜0.20%、Si:2%以下、Mn:2%以下、Cr:15〜25%、Mo+1/2W:0.5〜3.0%、Nb+Ta:0.3〜3.0%、Ti:1.5〜3.5%、Al:0.5〜2.5%、Fe:5〜15%、Zr:0.01〜0.10%、B:0.0010〜0.02%と、Ca:0.001〜0.03%及びMg:0.001〜0.03%から選ばれる1種または2種を含み、かつ、原子%でAl+Ti+Nb+Ta=6.0〜7.0%、残部がNiからなる自動車および舶用エンジンの排気バルブ用Ni基合金が特許文献1により提案されている。
【0005】
また、ガスタービンの構成材料は、使用される部位に応じて要求される特性も異なるとの観点から、特許文献2には、圧縮機と、燃焼器と、タービンディスクに固定された3段以上のタービンブレードとタービンノズルを備えた発電用ガスタービンにおいて、Ni基合金を部位に応じて使い分けることが提案されている。
【0006】
例えば、(1)初段タービンブレードはNi基合金の単結晶鋳造物、第2段以降のタービンブレードおよび第2段以降のタービンノズルはNi基合金の鋳造物から構成すること、(2)初段タービンブレードはNi基合金の単結晶鋳造物、初段タービンノズルは遮熱コーティング層を備えたNi基合金の一方向凝固鋳造物、第2段以降のタービンブレードおよび第2段以降のタービンノズルはNi基合金の鋳造物から構成すること、(3)初段タービンブレードおよび初段タービンノズルはNi基合金の単結晶鋳造物、第2段以降のタービンブレードおよび第2段以降のタービンノズルはNi基合金の鋳造物から構成すること、(4)初段タービンブレードは遮熱コーティング層を備えたNi基合金の一方向凝固鋳造物、第2段以降のタービンブレードおよび第2段以降のタービンノズルはNi基合金の鋳造物から構成すること、(5)初段タービンブレードおよび初段タービンノズルは遮熱コーティング層を備えたNi基合金の一方向凝固鋳造物、第2段以降のタービンブレードおよび第2段以降のタービンノズルはNi基合金の鋳造物から構成することが提案されている。
そして、第2段以降のタービンブレードに使用するNi基合金鋳造物としては、質量%で、Cr:12〜16%、Mo:0.5〜2%、W:2〜5%、Al:2.5〜5%、Ti:3〜5%、Ta:1.5〜3%、Co:8〜10%、C:0.05〜0.15%及びB:0.005〜0.02%を含有するNi基合金が挙げられ、また、第2段以降のタービンノズルに使用するNi基合金鋳造物としては、質量%で、Cr:21〜24%、Co:18〜23%、C:0.05〜0.20%、W:1〜8%、Al:1〜2%、Ti:2〜3%、Ta:0.5〜1.5%及びB:0.05〜0.15%を含有するNi基合金が挙げられている。
【0007】
また、特許文献3には、質量%で、Cr:14.5〜17.0%、Co:12.0〜15.0%、Mo:2.50〜5.05%、W:0.5〜1.5%、Ti:4.0〜5.5%、Al:2.0〜2.4%、Zr:0.02〜0.12%、C:0.005〜0.040%、B:0.003〜0.020%、Mg:0.001〜0.005%、残部がNiからなるガスタービン用部材の熱処理に際し、1650〜1850°Fの温度範囲で0.5〜2.0時間熱処理を施すことによりクリープ特性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−216482号公報
【特許文献2】特開平7−286503号公報
【特許文献3】特開2007−146296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発電用ガスタービンにおいては、入口温度の上昇は発電効率の向上につながるため、かねてより、ガスタービン入口温度の上昇を目的とした各分野での研究はなされており、それに伴い、耐熱性、特に高温強度に優位な耐熱部材の研究開発に関してはかねてより高い要求があった。
近年ではCO排出量を減少させるため、燃料機関と蒸気機関を組み合わせたコンバインドガスタービンの開発も求められているが、こちらもガスタービン部材の高温化対応が発電効率の向上につながるため、耐熱部材の研究開発は今まで以上に高い要求がある。
特に、発電効率向上を図る上で、ガスタービン部材の薄肉化を可能とすることは、熱伝導の効率化を図る上で必須であるが、そのためには、ガスタービン部材の単位面積あたりの高温特性を改善しなければならない。
そして、高温特性としては、特にクリープ破断特性に優れた材料が要求されている。具体的には、高温条件で一定の応力を負荷した際、クリープ破断までの破断寿命(時間)が長いことが求められるとともに、破断時に一気に破断する脆性破壊が起きないように一定以上の伸びが求められる。そして、同じクリープ破断寿命であれば、10〜30%の伸びを有することが好ましい。
【0010】
しかし、前記JIS規格(JIS・G4902)に規定されるNCF750はクリープ破断強度が低く、また、前記NCF751はAl含有量を高め、時効硬化性を高めるγ’相を増加させているものの、クリープ破断強度は逆に低下する。
また、特許文献1に示すNi基合金は、Ti、Alの含有量を高め、γ’相の生成量を高めているが、クリープ破断強度は高くなく、また、特許文献2、3に記載されるNi基合金も、クリープ破断強度と破断時の伸びの両特性を兼ね備えるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決し、従来よりも高温クリープ特性、特にクリープ破断時間および高温での伸び、に優れたNi基合金を得るべく鋭意研究を行った。
その結果、質量%で、Cr:14.0〜17.0%、Fe:5.0〜9.0%、Ti:2.2〜2.8%、Al:0.40〜1.00%、Nb+Ta:0.7〜1.2%、B:0.001〜0.010%、Zr:0.01〜0.15%、Mg:0.001〜0.050%、Mn:0.01〜0.20%、Cu:0.005〜0.300%、Mo:0.01〜0.30%、C:0.01〜0.05%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる成分組成を有するNi基合金は、従来のNi基合金に比して、すぐれた高温クリープ特性、即ち、高温クリープ破断寿命(時間)が長く耐用性にすぐれ、かつ、高温での破断時の伸び特性にもすぐれることを見出した。
【0012】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)質量%で、Cr:14.0〜17.0%、Fe:5.0〜9.0%、Ti:2.2〜2.8%、Al:0.40〜1.00%、Nb+Taの合計量:0.7〜1.2%、B:0.001〜0.010%、Zr:0.01〜0.15%、Mg:0.001〜0.050%、Mn:0.01〜0.20%、Cu:0.005〜0.300%、Mo:0.01〜0.30%、C:0.01〜0.05%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなり、試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が100時間以上、かつ、伸びが10%以上であるNi基合金。
(2)前記BとZrとCuとMoの含有量合計が、0.18%以上0.51%以下であることを特徴とする(1)に記載のNi基合金。
(3)前記Crの含有量が14.0%以上15.0%未満である(1)または(2)に記載のNi基合金。
(4)試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が120時間以上、かつ、伸びが16%以上である(1)乃至(3)の何れかに記載のNi基合金。
(5)(1)乃至(4)の何れかに記載のNi基合金を用いてなるガスタービン用部材。」
を特徴とするものである。
【0013】
次に、この発明のNi基合金の各成分元素の組成範囲限定理由について詳述する。
【0014】
Cr:
Crは高温強度を向上させる元素であり、また、Ni基合金の不動態化を促進し、酸化性環境に対する優れた耐酸化性をもたらす元素である。
Cr含有量が14.0質量%(以下、「質量%」を、単に「%」で示す。)未満であると、高温強度や耐酸化性を十分に向上させることができない。
一方、Cr含有量が17.0%を超えると酸素や炭素と反応し、非金属介在物が発生しやすくなり、熱間加工性が劣化する。
したがって、高温強度、熱間加工性を確保するため、Cr含有量は14.0〜17.0%とする。熱間加工性を更に向上させる場合、好ましいCrの上限は15.0%とする。
【0015】
Fe:
Feは熱間加工性を向上させる効果があるが、Fe含有量が5.0%未満であると、熱間加工性の向上効果が得られず、一方、Fe含有量が9.0%を超えると、高温強度が低下するようになる。
したがって、Fe含有量は5.0〜9.0%とする。好ましいFeの下限は8.0%とする。好ましいFeの上限は9.0%とする。
【0016】
Ti:
TiはNi基合金の高温強度を向上させるγ’相を析出させるために必須の元素である。しかし、Ti含有量が2.2%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金の十分なクリープ破断寿命を確保できない。
一方、Ti含有量が2.8%を超えると、クリープ特性を低下させる。つまり、過剰のTi添加はγ’相の体積率を必要以上に大きくさせ、その結果、逆にクリープ破断寿命を低下させる。
したがって、Ti含有量は2.2〜2.8%とする。好ましいTiの下限は2.5%とする。好ましいTiの上限は2.7%とする。
【0017】
Al:
AlはTi同様にNi基合金の強度を向上させるγ’相を析出させる代表的な元素である。
Al含有量が0.40%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金のクリープラプチャー寿命を確保できない。
一方、Al含有量が1.00%を超えると、クリープ破断寿命を低下させる。
したがって、Al含有量は0.40〜1.00%とする。好ましいAlの下限は0.60%とする。好ましいAlの上限は0.90%とする。
【0018】
Nb+Ta:
Nb、Taは、Ni基合金の強度を向上させるγ’相を析出させる効果がある。
TaはNbと同様の効果を示すことから、Nb、Taの含有量は、Nb+Taの合計量:0.7〜1.2%として定める。なお、ここで、Nb+Taは、Nb及びTaの1種または2種を意味し、Nb単独あるいはTa単独であっても構わない。
Nb+Taの合計量が0.7%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金のクリープ破断寿命が確保できない。
一方、Nb+Taの合計量が1.2%を超えると、クリープ破断時の伸びを低下させる。
したがって、Nb+Taの合計量は、0.7〜1.2%とする。好ましいNb+Taの合計量の下限は0.9%とする。好ましいNb+Taの合計量の上限は1.1%とする。
【0019】
B:
Bは結晶粒界に濃化することでNi基合金のクリープ強度を高め、その結果、クリープ破断寿命を延ばす効果がある。特に、BとZrが同時に含有される場合に、B単独の場合に比してその効果がより一段と発揮される。
B含有量を0.001%以上とすることでクリープ強度を向上させる効果があるが、0.010%を超える過剰の含有によってクリープ強度を逆に低下させてしまう。
したがって、B含有量は0.001〜0.010%とする。好ましいBの下限は0.002%とする。好ましいBの上限は0.007%とする。
【0020】
Zr:
Zrは、Bと共に結晶粒界に濃化することでNi基合金のクリープ強度を高め、その結果、クリープ破断寿命を延ばす効果がある。
Zr含有量が0.01%以上でクリープ強度の向上が認められるが、Zr含有量が0.15%を超える過剰添加はクリープ強度を低下させる。
したがって、Zr含有量は0.01〜0.15%とする。好ましいZrの下限は0.06%とする。好ましいZrの上限は0.14%とする。
【0021】
Mg:
Mgは溶解時の脱硫効果があり、また同時に熱間加工性を向上させる効果がある。
Mg含有量が0.001%未満では脱硫効果が低くなり、粒界に低融点の硫黄化合物を濃縮させ、その結果、クリープ破断寿命を著しく低下させる。
一方、Mg含有量が0.050%を超えると逆に熱間加工性が低下する。
したがって、Mg含有量は0.001%〜0.050%とする。好ましいMgの下限は0.010%とする。好ましいMgの上限は0.040%とする。
【0022】
Mn:
Mnは母相であるオーステナイト相を安定化させる効果があることから、結果として熱間加工性を向上させる。
しかし、Mn含有量が0.01%未満ではその効果が得られず、一方、0.20%を超えるとクリープ破断寿命が低下する。
したがって、Mn含有量は0.01%〜0.20%とする。好ましいMnの下限は0.02%とする。好ましいMnの上限は0.10%とする。
【0023】
Cu:
CuはNiと任意の割合で固溶体を形成する元素であり、適切な添加量であれば延性の向上に寄与し、その結果、クリープ破断の際の伸びを大きくする効果がある。
しかし、Cu含有量が0.005%未満では、クリープ破断時の破断伸びを大きくする効果が得られず、一方、Cu含有量が0.300%を超えるとクリープ強度の低下をもたらす。
したがって、Cu含有量は0.005%〜0.300%とする。好ましいCuの下限は0.008%とする。好ましいCuの上限は0.020%とする。
【0024】
Mo:
Moはオーステナイト相を固溶強化し、その結果、クリープ強度を高める効果があり、それにより、クリープ破断寿命を延ばす効果をもたらす。
そして、Mo含有量を0.01%以上とした場合に、クリープ破断寿命を延ばす効果が顕著に現れるが、Mo含有量が0.30%を超えると、クリープ破断の際の伸び低下が起こる。
したがって、Mo含有量は0.01%〜0.30%とする。好ましいMoの下限は0.08%とする。好ましいMoの上限は0.20%とする。
【0025】
C:
Cは粒界にCr炭化物を析出させ、それによってクリープ強度を向上させ、結果としてクリープ破断寿命を延ばす効果がある。
そして、C含有量を0.01%以上とした場合にその効果が現れるが、0.05%を超えるCを含有した場合には、炭化物の粒界に占める割合が限度を超え、逆にクリープ破断寿命を低下させる。
したがって、C含有量は0.01〜0.05%とする。好ましいCの下限は0.02%とする。好ましいCの上限は0.04%とする。
【0026】
本発明のNi基合金を構成する合金成分の組成範囲は前記のとおりであるが、本発明の合金成分のうち、B、Zr、Cu、Moの含有量を、それぞれ、0.001〜0.010%、0.01〜0.15%、0.005%〜0.300%、0.01%〜0.30の範囲内に維持することに加え、(B+Zr+Cu+Mo)の合計含有量の値を0.18%以上で0.51%以下の範囲内、好ましくは、0.24%以上0.50%以下の範囲内に維持した場合には、一段とすぐれた高温クリープ特性を備えることができる。
本発明のNi基合金は、後記実施例の表1にも示すように、高温クリープ破断寿命が100時間以上であって、しかも、伸びが10%以上30%以下というすぐれた高温クリープ特性を備えるが、例えば、(B+Zr+Cu+Mo)の合計含有量を0.18%以上0.51%以下の範囲内に維持した場合(後記実施例の表1の「本発明Ni基合金1〜27参照」)には、高温クリープ破断寿命が120時間以上であって、しかも、伸びが16%以上という一段とすぐれた高温クリープ特性を発揮する。
さらに、本発明で規定する範囲内で組成を選択することにより、高温クリープ破断寿命が150時間以上であって、しかも、伸びが20%以上という、更に一段とすぐれた高温クリープ特性を得ることができる(後記実施例の表1の「本発明Ni基合金1,2,4〜8,10,12,14,15,17,18,25〜27参照」)。
いずれにしても、本発明のNi基合金では、少なくとも、高温クリープ破断寿命が100時間以上であって、かつ、伸びは10%以上という高温クリープ特性を備えるが、組成範囲を適正に定めることによって、高温クリープ破断寿命が120時間以上、かつ、伸びが16%以上、あるいは、高温クリープ破断寿命が150時間以上、かつ、伸びが20%以上というガスタービン部材等に好適なすぐれた高温クリープ特性が得られる。
【0027】
不可避不純物:
本発明で含有量を定めた前記各合金成分元素のほかに、溶解原料からあるいは合金製造工程において不可避的に混入・含有される不純物成分元素としてはSi、Co、S、Pなどが挙げられる。
しかし、これらの不可避不純物成分元素の含有量が総量で1%未満であれば本発明Ni基合金の特性に大きな影響を及ぼさないことから、本発明においては、不可避不純物成分元素の含有量が総量で1%未満であればこれを許容できる。なお、この場合でも、Sは0.01%未満、Pは0.01%未満とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のNi基合金は、前記の如く各合金成分元素の含有量を定めたことによって、従来のNi基合金に比して、すぐれた高温クリープ特性を備え、高温クリープ破断寿命が長く、かつ、高温での伸びが大きいという優れた特性を有する。
また、本発明のNi基合金によってガスタービン部材を構成した場合には、該部材は、高温条件におけるクリープ特性にすぐれるため、部材の薄肉化を図れると同時に、ガスタービン入口温度を高めることができるため、発電効率を向上させることができるなど、産業上優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0030】
Ni基合金の作製:
まず、以下の手順で、本発明Ni基合金を作製した。
(a)まず、表1に示す所定の成分組成となるように配合した原料を、高周波真空溶解炉を用いて溶解することにより6kgの径80mm×長さ150mmの本発明インゴットを溶製した。
(b)次いで、本発明インゴットに対して、1230℃で10時間の均質化熱処理を施し、水冷後、800℃から1200℃の範囲で鍛造ならびに熱間圧延を実施することにより幅約200mm×長さ約750mm×板厚5mmの板材を製造した。
(c)次いで、この板材に電気加熱炉を用いて、溶体化温度1150℃に4時間保持後空冷しさらに安定化温度850℃に24時間保持後空冷に続き、時効温度700℃に20時間保持後空冷の熱処理を実施することで、表1に示す本発明Ni基合金1〜29の板材を作製した。
【0031】
次に、比較のために、本発明の組成範囲からは外れる表2に示す成分組成となるように配合した原料を、高周波真空溶解炉を用いて溶解することにより6kgの径80mm×長さ150mmの比較例インゴットを溶製し、その後、本発明インゴットに対して行ったと同様な条件で前記(b)の均質化熱処理、鍛造ならびに熱間圧延を実施して板材を製造し、さらに、本発明インゴットに対して行ったと同様な条件で前記(c)の溶体化処理、安定化処理、時効処理を行うことで、表2に示す比較例Ni基合金1〜24の板材を作製した。
なお、比較例Ni基合金2、18、24については、インゴットの鍛造時あるいは熱間圧延時に割れを発生し、健全な板材を得ることができなかったため、それ以降の、溶体化処理、安定化処理、時効処理を中止した。
【0032】
さらに、参考のために、JIS G 4902で規定されるNCF750/751の市販の500×500×5mm厚板を購入(時効処理済み)し、表3に示す従来例Ni基合金1〜4の板材とした。
また、特許文献1に記載される成分組成のNi基合金を、本発明と同様な方法で作製し、表3に示す従来例Ni基合金5、6からなる板材とした。
【0033】
クリープ試験:
上記で作製した本発明Ni基合金1〜29、比較例Ni基合金1〜24(但し、比較例Ni基合金2、18、24を除く)および従来例Ni基合金1〜6からなる板材について、ASTM E8に規定される形状の試験片を切り出し、ASTM E139に準拠した試験方法にしたがって、加熱温度条件750℃、応力条件330MPaにてクリープ試験を実施した。
表1〜表3に、それぞれのNi基合金からなる試験片のクリープ試験において得られたクリープ破断時の伸び(%)及びクリープ破断寿命としての破断時間(時間)を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】


【0037】
表1〜3に示された結果から、本発明Ni基合金では、クリープ試験における伸びが少なくとも12%以上であり、また、破断時間も最短でも119時間、102時間(本発明Ni基合金28、29参照)であることから、高温クリープ特性が大幅に向上することが分かる。
これに対して、本発明の範囲外の成分組成の比較例Ni基合金においては、全体的にクリープ破断時間が短いとともに、伸びも小さく、本発明Ni基合金に比して、クリープ特性に劣るものである。なお、比較例Ni基合金12、14については、破断時間はそれぞれ128時間、130時間とある程度長くなっているが、破断時の伸びはそれぞれ6%、4%であり、本発明で好ましいとしている伸びの範囲10〜30%を満足しないため、ガスタービン部材としての適用は不向きである。
また、本発明の範囲外の成分組成の従来例Ni基合金においては、ある程度の伸びを示すものもあるが、破断時間が短すぎる(最長でも従来Ni基合金1の63時間)ため、クリープ特性に劣ることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述のように、この発明のNi基合金は、高温条件におけるクリープ特性にすぐれるため、タービンブレード、タービンノズル等のガスタービン部材として好適に用いることができるばかりか、部材の薄肉化が可能であり、また、ガスタービン入口温度を高めることができるため、ガスタービンによる発電効率のより一層の向上が期待される。