【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、かかる課題を解決し、従来よりも高温クリープ特性、特にクリープ破断時間および高温での伸び、に優れたNi基合金を得るべく鋭意研究を行った。
その結果、質量%で、Cr:14.0〜17.0%、Fe:5.0〜9.0%、Ti:2.2〜2.8%、Al:0.40〜1.00%、Nb+Ta:0.7〜1.2%、B:0.001〜0.010%、Zr:0.01〜0.15%、Mg:0.001〜0.050%、Mn:0.01〜0.20%、Cu:0.005〜0.300%、Mo:0.01〜0.30%、C:0.01〜0.05%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からなる成分組成を有するNi基合金は、従来のNi基合金に比して、すぐれた高温クリープ特性、即ち、高温クリープ破断寿命(時間)が長く耐用性にすぐれ、かつ、高温での破断時の伸び特性にもすぐれることを見出した。
【0012】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)質量%で、Cr:14.0〜17.0%、Fe:5.0〜9.0%、Ti:2.2〜2.8%、Al:0.40〜1.00%、Nb+Taの合計量:0.7〜1.2%、B:0.001〜0.010%、Zr:0.01〜0.15%、Mg:0.001〜0.050%、Mn:0.01〜0.20%、Cu:0.005〜0.300%、Mo:0.01〜0.30%、C:0.01〜0.05%を含有し、残りがNiおよび不可避不純物からな
り、試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が100時間以上、かつ、伸びが10%以上であるNi基合金。
(2)前記BとZrとCuとMoの含有量合計が、0.18%以上0.51%以下であることを特徴とする(1)に記載のNi基合金。
(3)前記Crの含有量が14.0%以上15.0%未満である(1)または(2)に記載のNi基合金。
(4)試験温度750℃、試験荷重330MPaの条件のクリープ試験において、クリープ破断寿命が120時間以上、かつ、伸びが16%以上である(1)乃至(3)の何れかに記載のNi基合金。
(5)(1)乃至(4)の何れかに記載のNi基合金を用いてなるガスタービン用部材。」
を特徴とするものである。
【0013】
次に、この発明のNi基合金の各成分元素の組成範囲限定理由について詳述する。
【0014】
Cr:
Crは高温強度を向上させる元素であり、また、Ni基合金の不動態化を促進し、酸化性環境に対する優れた耐酸化性をもたらす元素である。
Cr含有量が14.0質量%(以下、「質量%」を、単に「%」で示す。)未満であると、高温強度や耐酸化性を十分に向上させることができない。
一方、Cr含有量が17.0%を超えると酸素や炭素と反応し、非金属介在物が発生しやすくなり、熱間加工性が劣化する。
したがって、高温強度、熱間加工性を確保するため、Cr含有量は14.0〜17.0%とする。熱間加工性を更に向上させる場合、好ましいCrの上限は15.0%とする。
【0015】
Fe:
Feは熱間加工性を向上させる効果があるが、Fe含有量が5.0%未満であると、熱間加工性の向上効果が得られず、一方、Fe含有量が9.0%を超えると、高温強度が低下するようになる。
したがって、Fe含有量は5.0〜9.0%とする。好ましいFeの下限は8.0%とする。好ましいFeの上限は9.0%とする。
【0016】
Ti:
TiはNi基合金の高温強度を向上させるγ’相を析出させるために必須の元素である。しかし、Ti含有量が2.2%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金の十分なクリープ破断寿命を確保できない。
一方、Ti含有量が2.8%を超えると、クリープ特性を低下させる。つまり、過剰のTi添加はγ’相の体積率を必要以上に大きくさせ、その結果、逆にクリープ破断寿命を低下させる。
したがって、Ti含有量は2.2〜2.8%とする。好ましいTiの下限は2.5%とする。好ましいTiの上限は2.7%とする。
【0017】
Al:
AlはTi同様にNi基合金の強度を向上させるγ’相を析出させる代表的な元素である。
Al含有量が0.40%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金のクリープラプチャー寿命を確保できない。
一方、Al含有量が1.00%を超えると、クリープ破断寿命を低下させる。
したがって、Al含有量は0.40〜1.00%とする。好ましいAlの下限は0.60%とする。好ましいAlの上限は0.90%とする。
【0018】
Nb+Ta:
Nb、Taは、Ni基合金の強度を向上させるγ’相を析出させる効果がある。
TaはNbと同様の効果を示すことから、Nb、Taの含有量は、Nb+Taの合計量:0.7〜1.2%として定める。なお、ここで、Nb+Taは、Nb及びTaの1種または2種を意味し、Nb単独あるいはTa単独であっても構わない。
Nb+Taの合計量が0.7%未満ではγ’相の安定的な析出はおこらず、Ni基合金のクリープ破断寿命が確保できない。
一方、Nb+Taの合計量が1.2%を超えると、クリープ破断時の伸びを低下させる。
したがって、Nb+Taの合計量は、0.7〜1.2%とする。好ましいNb+Taの合計量の下限は0.9%とする。好ましいNb+Taの合計量の上限は1.1%とする。
【0019】
B:
Bは結晶粒界に濃化することでNi基合金のクリープ強度を高め、その結果、クリープ破断寿命を延ばす効果がある。特に、BとZrが同時に含有される場合に、B単独の場合に比してその効果がより一段と発揮される。
B含有量を0.001%以上とすることでクリープ強度を向上させる効果があるが、0.010%を超える過剰の含有によってクリープ強度を逆に低下させてしまう。
したがって、B含有量は0.001〜0.010%とする。好ましいBの下限は0.002%とする。好ましいBの上限は0.007%とする。
【0020】
Zr:
Zrは、Bと共に結晶粒界に濃化することでNi基合金のクリープ強度を高め、その結果、クリープ破断寿命を延ばす効果がある。
Zr含有量が0.01%以上でクリープ強度の向上が認められるが、Zr含有量が0.15%を超える過剰添加はクリープ強度を低下させる。
したがって、Zr含有量は0.01〜0.15%とする。好ましいZrの下限は0.06%とする。好ましいZrの上限は0.14%とする。
【0021】
Mg:
Mgは溶解時の脱硫効果があり、また同時に熱間加工性を向上させる効果がある。
Mg含有量が0.001%未満では脱硫効果が低くなり、粒界に低融点の硫黄化合物を濃縮させ、その結果、クリープ破断寿命を著しく低下させる。
一方、Mg含有量が0.050%を超えると逆に熱間加工性が低下する。
したがって、Mg含有量は0.001%〜0.050%とする。好ましいMgの下限は0.010%とする。好ましいMgの上限は0.040%とする。
【0022】
Mn:
Mnは母相であるオーステナイト相を安定化させる効果があることから、結果として熱間加工性を向上させる。
しかし、Mn含有量が0.01%未満ではその効果が得られず、一方、0.20%を超えるとクリープ破断寿命が低下する。
したがって、Mn含有量は0.01%〜0.20%とする。好ましいMnの下限は0.02%とする。好ましいMnの上限は0.10%とする。
【0023】
Cu:
CuはNiと任意の割合で固溶体を形成する元素であり、適切な添加量であれば延性の向上に寄与し、その結果、クリープ破断の際の伸びを大きくする効果がある。
しかし、Cu含有量が0.005%未満では、クリープ破断時の破断伸びを大きくする効果が得られず、一方、Cu含有量が0.300%を超えるとクリープ強度の低下をもたらす。
したがって、Cu含有量は0.005%〜0.300%とする。好ましいCuの下限は0.008%とする。好ましいCuの上限は0.020%とする。
【0024】
Mo:
Moはオーステナイト相を固溶強化し、その結果、クリープ強度を高める効果があり、それにより、クリープ破断寿命を延ばす効果をもたらす。
そして、Mo含有量を0.01%以上とした場合に、クリープ破断寿命を延ばす効果が顕著に現れるが、Mo含有量が0.30%を超えると、クリープ破断の際の伸び低下が起こる。
したがって、Mo含有量は0.01%〜0.30%とする。好ましいMoの下限は0.08%とする。好ましいMoの上限は0.20%とする。
【0025】
C:
Cは粒界にCr炭化物を析出させ、それによってクリープ強度を向上させ、結果としてクリープ破断寿命を延ばす効果がある。
そして、C含有量を0.01%以上とした場合にその効果が現れるが、0.05%を超えるCを含有した場合には、炭化物の粒界に占める割合が限度を超え、逆にクリープ破断寿命を低下させる。
したがって、C含有量は0.01〜0.05%とする。好ましいCの下限は0.02%とする。好ましいCの上限は0.04%とする。
【0026】
本発明のNi基合金を構成する合金成分の組成範囲は前記のとおりであるが、本発明の合金成分のうち、B、Zr、Cu、Moの含有量を、それぞれ、0.001〜0.010%、0.01〜0.15%、0.005%〜0.300%、0.01%〜0.30の範囲内に維持することに加え、(B+Zr+Cu+Mo)の合計含有量の値を0.18%以上で0.51%以下の範囲内、好ましくは、0.24%以上0.50%以下の範囲内に維持した場合には、一段とすぐれた高温クリープ特性を備えることができる。
本発明のNi基合金は、後記実施例の表1にも示すように、高温クリープ破断寿命が100時間以上であって、しかも、伸びが10%以上30%以下というすぐれた高温クリープ特性を備えるが、例えば、(B+Zr+Cu+Mo)の合計含有量を0.18%以上0.51%以下の範囲内に維持した場合(後記実施例の表1の「本発明Ni基合金1〜27参照」)には、高温クリープ破断寿命が120時間以上であって、しかも、伸びが16%以上という一段とすぐれた高温クリープ特性を発揮する。
さらに、本発明で規定する範囲内で組成を選択することにより、高温クリープ破断寿命が150時間以上であって、しかも、伸びが20%以上という、更に一段とすぐれた高温クリープ特性を得ることができる(後記実施例の表1の「本発明Ni基合金1,2,4〜8,10,12,14,15,17,18,25〜27参照」)。
いずれにしても、本発明のNi基合金では、少なくとも、高温クリープ破断寿命が100時間以上であって、かつ、伸びは10%以上という高温クリープ特性を備えるが、組成範囲を適正に定めることによって、高温クリープ破断寿命が120時間以上、かつ、伸びが16%以上、あるいは、高温クリープ破断寿命が150時間以上、かつ、伸びが20%以上というガスタービン部材等に好適なすぐれた高温クリープ特性が得られる。
【0027】
不可避不純物:
本発明で含有量を定めた前記各合金成分元素のほかに、溶解原料からあるいは合金製造工程において不可避的に混入・含有される不純物成分元素としてはSi、Co、S、Pなどが挙げられる。
しかし、これらの不可避不純物成分元素の含有量が総量で1%未満であれば本発明Ni基合金の特性に大きな影響を及ぼさないことから、本発明においては、不可避不純物成分元素の含有量が総量で1%未満であればこれを許容できる。なお、この場合でも、Sは0.01%未満、Pは0.01%未満とすることが望ましい。