(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095323
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを含む脂肪性肝疾患を処置するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/00 20060101AFI20170306BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20170306BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20170306BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20170306BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20170306BHJP
C07K 5/08 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
A61K37/02ZNA
A61P1/16
A61K36/899
A23L33/105
!C07K14/415
!C07K5/08
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-232097(P2012-232097)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-84280(P2014-84280A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年4月30日 社団法人 日本肝臓学会発行の「第48回日本肝臓学会総会講演要旨」に発表 平成24年6月8日 第48回日本肝臓学会総会において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】野方 洋一
(72)【発明者】
【氏名】上野 隆登
(72)【発明者】
【氏名】中村 アンナ
【審査官】
渡邊 倫子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−105948(JP,A)
【文献】
特開2009−051813(JP,A)
【文献】
特開2007−182395(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/082163(WO,A1)
【文献】
特開2009−221193(JP,A)
【文献】
診断と治療, Vol.99 No.9, 2011, p.1498-1506
【文献】
プラクティス, Vol.23 No.6, 2006, p.639-644
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦ふすまに由来するペプチドを含む、非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための組成物であって、前記ペプチドが、小麦ふすまの粉末を、水または緩衝液からなる酵素反応液と混合し、混合後の酵素反応液のpHを3.05〜3.95とし、30〜45℃の温度で、少なくとも4時間以上反応させ、酵素反応処理液を得ること、および、酵素反応処理液からペプチドを精製することを含む方法により製造されたものである、組成物。
【請求項2】
ペプチドが、ODS樹脂または合成吸着樹脂を用いて精製されたものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
非アルコール性脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝炎である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
ペプチドが、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
医薬品である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
食品である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を摂取させることを含む、非アルコール性脂肪性肝疾患を予防または改善する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項8】
非アルコール性脂肪性肝疾患を処置するための組成物を製造するための、小麦ふすまに由来するペプチドの使用であって、前記ペプチドが、小麦ふすまの粉末を、水または緩衝液からなる酵素反応液と混合し、混合後の酵素反応液のpHを3.05〜3.95とし、30〜45℃の温度で、少なくとも4時間以上反応させ、酵素反応処理液を得ること、および、酵素反応処理液からペプチドを精製することを含む方法により製造されたものである、使用。
【請求項9】
ペプチドが、ODS樹脂または合成吸着樹脂を用いて精製されたものである、請求項8記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを含む、脂肪性肝疾患を処置するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活習慣の欧米化に伴い、生活習慣病患者が急増している。とりわけ肝領域では、非アルコール性およびアルコール性脂肪性肝疾患が増加中である。しかしながら、現在のところ、これら疾患に対する直接的な治療薬は存在しない。
【0003】
現在日本では、年間130〜160万トンの小麦ふすまが生産されている。小麦ふすまから取得されるペプチドには、バリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸、グルタミン、アルギニンからなるペプチドや、降圧作用を持つIle−Gln−Proが含まれることが知られている。しかしながら、これまで小麦ふすまに由来するペプチドの脂肪性肝疾患に対する作用は検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2005/082163号パンフレット
【特許文献2】特開2009−51813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脂肪性肝疾患の処置に有用な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下を提供する。
1.小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを含む、脂肪性肝疾患を処置するための組成物。
2.ペプチドが、小麦ふすまに由来するペプチドである、前記1記載の組成物。
3.ペプチドが、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを含む、前記1または2記載の組成物。
4.ペプチドが、小麦ふすま、大麦糠、または米糠の粉末を、水または緩衝液からなる酵素反応液と混合し、混合後の酵素反応液のpHを3.05〜3.95とし、30〜45℃の温度で、少なくとも4時間以上反応させることにより製造されたものである、前記1〜3のいずれかに記載の組成物。
5.Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを含む、脂肪性肝疾患を処置するための組成物。
6.医薬品である、前記1〜5のいずれかに記載の組成物。
7.食品である、前記1〜5のいずれかに記載の組成物。
8.小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを摂取させることを含む、脂肪性肝疾患を予防または改善する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
9.Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを摂取させることを含む、脂肪性肝疾患を予防または改善する方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【発明の効果】
【0007】
本発明に用いるペプチドは、従来は廃棄の対象であった小麦ふすま、大麦糠、または米糠から安価かつ容易に取得することができる。また、本発明に用いるペプチドは、日常的に多くのヒトが食する穀物に由来し、ヒトに対する有害事象も少ないことが期待される。本発明は、脂肪性肝炎に対する有用かつ新たな治療法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の体重変化を示す図である。MCD:メチオニン/コリン(M/C)欠乏食投与C57BL/6マウス。
【
図2】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の肝/体重比を示す図である。
【
図3】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の血液生化学検査値を示す図である。
【
図4】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の肝組織像を示す図である。
【
図5】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の肝組織の脂肪化、炎症、風船化肝細胞、マロリーデング小体、および線維化を示す図である。
【
図6】小麦ふすま由来ペプチド処置群および非処置群の炎症系因子(ph−NF−κB)および小胞体ストレス系因子(ph−elF2)の発現を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いるペプチドは、小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドである。小麦ふすま、大麦糠、米糠とは、詳細には、小麦、大麦、米の種子の澱粉貯蔵部を除いた組織である、胚、胚芽、胚軸、胚盤、子葉、根原体、種皮、果皮、糊粉層などの組織をさす。本発明に用いるペプチドの原料としては、少なくとも小麦ふすまを含む小麦粉末、少なくとも大麦糠を含む大麦粉末、及び少なくとも米糠を含む米粉末よりなる群から選ばれた少なくも1種の粉末を含むものであればよい。従って、本発明では、小麦、大麦、米の種子の全粒粉末も用いることもできるが、好ましくは、澱粉貯蔵部を含まない小麦ふすま、大麦糠、米糠を用いることが望ましい。ペプチドの原料となる種子の発生段階は特に限定されず、例えば未熟種子、未発芽種子、発芽種子などを用いることができる。
【0010】
小麦ふすまとしては、大ぶすま、小ぶすま、末粉を用いることができるが、大ぶすま、または小ぶすまを用いることが好ましい。小麦ふすまを調製するために用いる小麦の種類は特に限定されないが、例えば、ふくさやか、農林61号、ナンブコムギ、キタノカオリ、ハルユタカなどを挙げることができる。中でも、ふくさやかまたは農林61号が好適である。
【0011】
大麦糠とは、玄麦重量の20〜40搗精の部分をさす。大麦糠を調製するために用いる大麦の種類は特に限定されないが、例えば、二条大麦(スカイゴールデン、ニシノチカラ、タカホゴールデン、大系HP19)、六条大麦(中間母本農2、9551、マンテンボシ)などを挙げることができる。中でも、スカイゴールデン、中間母本農2または9551が好適である。
【0012】
米糠は、イネから籾殻を除いた玄米の主に胚芽、外胚乳、糊粉層の総称で、外側から赤糠(表皮と胚芽)、中糠、白糠となるが、本発明に用いる米糠としては、これら赤糠、中糠、白糠を用いることができる。本発明に用いる米糠を得るための米の種類は特に限定されないが、例えば、ヒノヒカリ、コシヒカリ、はいみのり、めばえもち、春陽、LGCソフトなどを挙げることができる。中でも、ヒノヒカリ、コシヒカリ、はいみのり、春陽またはLGCソフトが好適である。
【0013】
本発明に特に好適なペプチドは、小麦ふすまに由来するペプチド(以下、「小麦ふすま由来ペプチド」とも称する)である。
【0014】
本発明に用いるペプチドは、粉末原料を用いて製造される。原料の粉末化は、原料をパウダー状、サンド状、粒子状に破砕することを指し、約1mm以下、好ましくは約0.84mm以下の平均粒子径まで破砕したものを指す。原料の粉末化は、公知技術のどのような方法で行うことができるが、ビューラーテストミル、ブラベンダーテストミル、堅型搗精機、小型精米機、研削式精米機、ブラシ式精米機、遠心ミル、粉砕機、石臼などを用いることができる。
【0015】
小麦ふすまを調製する場合、ビューラーテストミル、ブラベンダーテストミルなどを用いることができる。当該粉末化(製粉)工程において、小麦種子の全重量の約20%分を製粉し回収したものを、大ぶすまとして得ることができる。具体的には、大ぶすまは断片化された薄い皮といった形状のものであって、400μm以上、大きいもので、長辺は数mm程度の粒度が不均一なものとなる。この大ぶすまは、そのまま用いてもよいが、遠心ミルでスクリーン〔500μm〕を用いて、粒径100〜400μmに再粉砕することが好ましい。
【0016】
当該粉末化(製粉)工程において、大ぶすまを製粉した後の残りの部分の種子から、小麦種子の全重量の約10%分を製粉し回収したものを、小ぶすまとして得ることができる。さらに、当該粉末化(製粉)工程において、小ぶすまを製粉した後の残りの部分の種子から、小麦種子の全重量の約10%分を製粉し回収したものを、末粉として得ることができる。具体的には、小ぶすまは、粒径120〜500μm、末粉は、20〜100μmの粉に粉砕される。
【0017】
大麦糠を調製する場合、堅型搗精機、試験用搗精機(パーレスト)などを用いることができる。当該粉末化(研削)工程において、大麦種子の全重量の約40%分を研削し回収したものを、大麦糠として得ることができる。具体的には、粒径150〜350μmの大麦糠を得ることができる。また、大麦種子の全粒粉を調製する場合は、遠心ミル、粉砕機などを用いることができる。例えば、大麦種子を粉砕機で破砕し、大麦の全粒粉を調製すると、560〜840μmの全粒粉が得られる。一方、遠心ミルで粉砕すると、粒径100〜400μmの全粒粉が得られる。
【0018】
米糠を調製する場合、小型精米機、研削式精米機、ブラシ式精米機などを用いることができる。当該粉末化(研削)工程において、玄米の種子全重量の約10%分を研削し回収したものを、米糠として得ることができる。具体的には、粒径150〜350μmの米糠を得ることができる。また、玄米の全粒粉を調製する場合は、遠心ミル、粉砕機などを用いることができる。例えば、玄米を粉砕機で破砕し、玄米の全粒粉を調製すると、560〜840μmの全粒粉が得られる。一方、遠心ミルで粉砕すると、粒径100〜400μmの全粒粉が得られる。
【0019】
本発明に用いるペプチドは、少なくとも小麦ふすまを含む小麦粉末、少なくとも大麦糠を含む大麦粉末、及び少なくとも米糠を含む米粉末よりなる群から選ばれた少なくも1種の粉末を、水または緩衝液からなる酵素反応液と混合し、混合後の酵素反応液のpHを3.05〜3.95、通常3.1〜3.2とし、30〜45℃、通常40℃の温度で、少なくとも4時間以上、通常12〜16時間反応させることにより製造することができる。緩衝液としては、例えばクエン酸−リン酸カリウム緩衝液、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝溶液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝溶液、乳酸−乳酸ナトリウム緩衝溶液、リン酸緩衝液、MES緩衝液、MOPS緩衝液、ギ酸−リン酸カリウム緩衝液、ギ酸−リン酸ナトリウム緩衝液などを用いることができ、中でも、クエン酸−リン酸ナトリウム緩衝液およびクエン酸−リン酸カリウム緩衝液が好適である。
【0020】
例えば、小麦ふすま由来ペプチドは、以下のように製造することができる。小麦ふすま1kgに水4〜5Lを添加し、リン酸、塩酸等の無機酸、クエン酸等の有機酸でpHを3.05〜3.95、通常3.1〜3.2に調整する。次いで、30〜45℃、通常40℃で、4時間以上、通常12〜16時間加温し、内在性プロテアーゼの作用でタンパク質を分解する。得られた反応液を目開き0.5mmのスクリーンで濾過し、種皮断片物を除去する。濾液を5,000xgで30分間遠心分離し、澱粉や細かい断片物を沈殿除去した後、上清を回収し、NaOH等のアルカリでpHを5.5〜9.0、通常6.0〜6.5に調整し、タンパク質を析出させる。その後20分間煮沸し、5,000xgで30分間遠心分離し不溶化したタンパク質等を沈殿除去する。得られた上清を酵素反応処理液とする。
【0021】
ペプチドの精製には、ODS樹脂または合成吸着樹脂を用いることができる。ODS樹脂による分離では、活性化させた樹脂に酵素反応処理液を通液し、樹脂を3〜5倍容の水で洗浄後、3〜8倍容、通常5倍容の10〜30%、通常10−20%エタノール、または10〜30%、通常10−20%アセトニトリル水溶液でペプチドを溶出させる。合成吸着樹脂としては、三菱化学製ダイヤイオンHPシリーズやSPシリーズ、オルガノ製アンバーライトXADシリーズやFPXシリーズを用いることができる。合成吸着樹脂に酵素反応処理液を通液し、樹脂を3〜5倍容の水で洗浄後、20〜70%、通常30〜50%のエタノール水溶液でペプチドを溶出させる。回収したペプチド液からエバポレーターでエタノールを除去し、凍結乾燥することにより粉体を得る。このようにして得られた粉体を、本発明における小麦ふすまペプチドとして用いることができる。
【0022】
具体的には、本発明に用いるペプチドは、特開2009−51813号公報に記載の方法により製造することができる。
【0023】
また、本発明に用いるペプチドは、少なくとも小麦ふすまを含む小麦粉末または少なくとも大麦糠を含む大麦粉末よりなる群から選ばれた少なくも1種の粉末を、pH3.0〜5.5、かつ40〜60℃の条件で1〜6時間水に浸漬させることによっても製造することができる。かかるペプチドの具体的な製造方法は、WO2005/082163に記載されている。
【0024】
本発明に用いるペプチドは、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを含むことが好ましい。好ましくは、本発明に用いるペプチドは、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される2以上、より好ましくは3以上、さらにより好ましくは4以上、最も好ましくは5つ全てのペプチドを含む。
【0025】
ある態様において、本発明は、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチドを含む、脂肪性肝疾患を処置するための組成物を提供する。前記ペプチドは、小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するものに限定されず、公知の方法により製造または取得されたペプチドであってよい。例えば、Val−Tyrはイワシ由来ペプチド、Ile−Tyrはローヤルゼリー由来ペプチドやワカメ由来ペプチドとして知られており、これらも本発明の組成物において使用することができる。
【0026】
本発明における「脂肪性肝疾患」には、非アルコール性およびアルコール性の全ての肝疾患が含まれ、例えば、アルコール性脂肪肝、アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎、肥満、糖尿病、栄養障害、薬物などに伴う脂肪性肝疾患が挙げられる。本発明は、特に非アルコール性脂肪性肝炎に好適である。
【0027】
本発明における疾患の「処置」には、疾患の治療、予防、および改善が含まれる。
【0028】
本発明の組成物は、経口投与、非経口投与のいずれによっても投与することができる。
非経口投与としては、例えば静脈注射、直腸投与等が挙げられる。経口投与する場合の形状としては、限定されるものではないが、粉末状、砕粒状、顆粒状、カプセルに充填する形態の他、水やエタノールに分散した溶液の形態、賦形剤等と混和して得られる錠剤の形態などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の組成物の投与量は特に限定されず、対象の年齢、体重、症状等に応じて適宜選択される。例えば、ペプチドの総量として、1日あたり、10〜2000mg、好ましくは50〜1000mg、より好ましくは100〜500mgを投与する。
【0030】
本発明の組成物は、医薬品としてだけでなく、医薬部外品や食品(健康食品を含む)の材料として使用することもできる。具体的には、本発明の組成物は、清涼飲料水、粉末清涼飲料、炭酸飲料水、錠菓、ビスケット、スナック、シリアル、カップ麺、粉末スープ、ゼリーなどに用いることができる。
【0031】
すなわち、ある態様において、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを含む、脂肪性肝疾患を予防または改善するための食品を提供する。また、本発明は、小麦ふすま、大麦糠、または米糠に由来するペプチドを摂取させることを含む、脂肪性肝疾患を予防または改善する方法(ヒトに対する医療行為を除く)を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチド含む、脂肪性肝疾患を予防または改善するための食品を提供する。また、本発明は、Leu−Gln−Pro、Leu−Arg−Pro、Ile−Gln−Pro、Val−Tyr、およびIle−Tyrから選択される1以上のペプチド含む、脂肪性肝疾患を予防または改善する方法(ヒトに対する医療行為を除く)を提供する。
【0033】
以下、実施例により本発明を説明するが、如何なる意味においても本発明は以下の実施例により限定されない。
【実施例】
【0034】
1.小麦ふすま由来ペプチドの調製
玄麦(ふくさやか)10kgをビューラーテストミルで製粉した。大ぶすまおよび小ぶすまは篩を通らずに分画され、それぞれ2.4kgおよび0.8kg得られた。これらの混合物を小麦ふすまとした。
【0035】
小麦ふすま1kgを5.0Lの水に懸濁し、リン酸でpHを3.2に調整後、温度40℃で12時間振とうにより内在性酵素を利用したタンパク質分解反応を行った。その後、目開き0.5mmのスクリーンを用いて吸引濾過し、濾液を回収した。濾液は澱粉や微細な種皮断片物等の不溶物を含むため、5,000×gで30分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清のpHをNaOHでpH6.5に調整し、20分間煮沸した。生じた不溶性タンパク質を除去するために再度5,000×gで30分間遠心分離を行い、上清(酵素反応処理液)を回収した。なお、この上清を乾燥させた時に得られる酵素反応処理物の収量は、220.3gであった。
【0036】
次いで、この酵素処理反応液を、三菱化学製ダイヤイオンHP21カラム(7.5×23cm)に添加し、4000mLの水でカラム洗浄を行った後、30%のエタノール水溶液を4000mL通液し吸着成分を溶出した。この画分から9.7gの乾燥ペプチド混合物が得られた。
【0037】
ペプチド混合物の一部を水に溶解し、2倍容の10%(w/v)トリクロロ酢酸を添加し、供雑成分を不溶化した。この液を10,000×gで10分間遠心分離し、上清をペプチドの定量分析に供した。
【0038】
ペプチドの定量分析はC18カラム(1×25cm)(Jupiter 5μ C4、300A、Phenomenex製)を用いた逆相HPLCにより行った。試料液は10μLを添加し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む水−アセトニトリルの直線勾配条件で2mL/minの流速で通液し、ペプチド混合物を分離した。なお、ペプチドの定量には化学合成した表1に示すペプチドを用い、ピーク面積値の比較で濃度を算出した。
【0039】
1kgの小麦ふすまから得られた小麦ふすま由来ペプチド9.7g中に含まれる各ペプチドの量を表1に示す。
【表1】
【0040】
2.非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルマウスにおける小麦ふすま由来ペプチドの効果
(1)方法
6−7週齢雄性C57BL/6マウスにメチオニン/コリン(M/C)欠乏食を投与し、NASHを作成した。10週目から20週目まで、0.05%、0.1%、または0.2%小麦ふすま由来ペプチド含有水溶液を投与した。同期間小麦ふすま由来ペプチド非投与群を対照(NASH)群とした。
【0041】
投与開始時および終了時に体重測定を行った。また、投与終了時の肝重量測定後、肝組織を採取し、処理を行い、肝の脂肪化、炎症、風船化肝細胞、マロリーデング小体、線維化の評価を行った。更に、炎症系因子であるリン酸化NFκB(ph−NFκB)および小胞体ストレス系因子であるリン酸化elF2(ph−elF2)のウェスタンブロッティングによる解析を行った。投与終了時に血液を採取し、血液生化学検査を施行した。
【0042】
(2)結果
各群のマウスの体重は、M/C欠乏食投与後徐々に減少するものの、各群間で有意差は見られなかった(
図1)。一方、肝/体重比では、0.1%小麦ふすま由来ペプチド投与群が最も低値であった(
図2)。
【0043】
小麦ふすま由来ペプチド投与により、血清ALT値は減少傾向、Alb値は増加傾向にあった(
図3)。
【0044】
肝組織像の比較では、0.2%小麦ふすま由来ペプチド投与群が最もNASH特有の肝組織像に乏しい結果であった(
図4、5)。
【0045】
ウェスタンブロットでは、炎症系のph−NFκBが小麦ふすま由来ペプチド投与により抑制され、小胞体ストレス系のph−elF2の発現が増加した(
図6)。
【0046】
以上のとおり、小麦ふすま由来ペプチドはNASHモデルマウスの肝障害を軽減した。