(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性カーボン粉末の表面が、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された金属酸化物のナノ粒子及び/又は薄膜で部分的に被覆されている、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極材料。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源として、エネルギー密度が高い非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池が広く使用されているが、これらの情報機器の高性能化や取扱う情報量の増大に伴う消費電力の増加に対応するために、リチウムイオン二次電池の放電容量の向上が望まれている。また、石油消費量の低減、大気汚染の緩和、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量の低減などの観点から、ガソリン車やディーゼル車に代わる電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車に対する期待が高まっており、これらの低公害車のモーター駆動電源として、高い放電容量を有する大型のリチウムイオン二次電池の開発が望まれる。
【0003】
現在の非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)を正極活物質とし、黒鉛を負極活物質とし、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの非水系溶媒に溶解させた液を電解液としたものが主流である。しかし、正極活物質であるコバルト酸リチウムに関しては、コバルトが高価であるため大量使用が困難であるという問題がある。また、コバルト酸リチウムの放電容量は必ずしも満足のいくものでは無い。そこで、資源的に豊富で安価なMnを主体とし、充放電の際の理論容量が300mAhg
−1を超えるLi
2MnO
3が、次世代の正極活物質として注目されてきた。この正極活物質は、初回充電時にLi/Li
+に対して4.6〜4.8Vに充電することにより、高容量を示すことがわかっている。しかしながら、Li
2MnO
3は、充電時の結晶表面からのO
2の脱離が原因となって粒子表面の結晶構造が変化するため、充放電を繰り返すと放電容量が急速に低下するという問題を有している。
【0004】
この問題を解決するため、Li
2MnO
3にLiMO
2(Mは平均価数が+3である遷移金属を表わす。)を固溶させてLi
2MnO
3を安定化する試みがなされてきた。Li
2MnO
3とLiMO
2とはいずれも層状岩塩型構造を有するため、固溶化が可能である。この層状構造を有する固溶体は、xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3(式中、Mは平均価数が+3価である一種以上の遷移金属を表わし、0<x<1である。以下、単に「固溶体」と表す。)で表わすことができる。
【0005】
例えば、非特許文献1(Journal of Power Sources 129(2004)288−295)は、所定量のMn(CH
3CO
2)
2・4H
2O、Ni(NO
3)
2・6H
2O及びCH
3CO
2Li・2H
2Oを水と共に混合して100℃で攪拌した後、さらに水に溶解させて乾燥させることによって緑色のゲルを得、得られたゲルを約400℃で加熱し、粉砕後500℃で3時間加熱し、さらに粉砕後空気中900℃で10時間加熱することにより、固溶体を得る方法を記載している。この文献はまた、得られた固溶体を導電性カーボンと混合して正極とし、負極としてLiを用いてリチウムイオン二次電池を構成し、20mAg
−1の電流密度の条件下でLi/Li
+に対して2.0〜4.8Vの範囲で充放電を繰り返したところ、Ni:Mn=0.17:0.61の固溶体を用いたリチウムイオン二次電池が、初回充電時の充電曲線において約4.5V付近にプラトー部が認められ、このプラトー部が続く充放電サイクルにおいて消失したものの、200mAg
−1を超える高い放電容量と高いサイクル安定性を示したこと(この文献の
図6参照)、及び、電流密度を40〜200mAg
−1に増やしてLi/Li
+に対して充放電を繰り返すサイクル試験においても高い安定性を示したこと(この文献の
図7参照)を報告している。
【0006】
また、特許文献1(特開2008−270201号公報)は、高容量を示す固溶体を含む正極が、高容量を発現させるような高電位で充放電を繰り返すと、サイクル特性が悪く劣化してしまうことを問題視し、上記正極を形成した後に低電位で充電或いは充放電を繰り返すことによってサイクル特性を改善する方法を提案している。具体的には、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを所定量秤量してこれらの混合溶液を調製した後、これにアンモニア水を滴下してpH7に維持しながらNa
2CO
3溶液を滴下することにより複合炭酸塩を沈殿させ、次いで回収した沈殿物を500℃で5時間仮焼成し、さらに小過剰のLiOH・H
2Oを加えて混合した後、900℃で12時間本焼成することにより、固溶体を得ている。そして、導電性カーボンを含有する結着剤と得られた固溶体とを混合して正極とし、負極としてLiを用いてリチウムイオン二次電池を構成し、20mAg
−1の電流密度の条件下でLi/Li
+に対して2.0〜4.5Vの範囲で充放電を繰り返した後、最高電位を上げて充放電を行っている。
【0007】
正極を形成する際に固溶体と混合される導電性カーボンは、導電性の低い活物質と併用されて電極材料に導電性を付与する役割を果たすが、これだけでなく、活物質のリチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化を吸収するマトリックスとしても作用し、また、活物質が機械的な損傷を受けても電子伝導パスを確保するという役割も果たしている。
【0008】
ところで、非特許文献1及び特許文献1に記載された方法で製造された固溶体の粒子は、一般に数μmの直径を有する粗大粒子である。しかし、固溶体粒子の直径が大きいと、十分に低いレートでの充電によって粒子を電気化学的に活性化したとしても、優れたレート特性が得られない。すなわち、これらの粗大粒子を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、高いレートにおいて容量が減少し、優れたレート特性を示さない。非特許文献1の報告においても、上述したNi:Mn=0.17:0.61の固溶体を用いたリチウムイオン二次電池における電流密度200mAg
−1の充放電における放電容量は、電流密度20mAg
−1の充放電(5サイクル目)における放電容量の60%以下に減少している。
【0009】
したがって、固溶体粒子の全体を電気化学的に活性化させるためには、固溶体粒子の粒径を小さくすることが必要である。しかしながら、これまでに、微細な固溶体粒子、特に固溶体のナノ粒子を効率良く得る方法は知られていなかった。
なお、本発明に関する限り、「ナノ粒子」とは、球状粒子の場合には直径が200nm以下の粒子を意味し、針状、管状或いは繊維状の粒子の場合には粒子断面の直径(短径)が200nm以下の粒子を意味する。ナノ粒子は、一次粒子であっても二次粒子であっても良い。
【0010】
一方、出願人は、金属酸化物から成る活物質の生成と共に、導電剤としての導電性カーボン粉末に生成した金属酸化物を担持させる方法として、特許文献2(特開2007−160151号公報)において、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を進行させる反応方法を提案している。この反応方法は、一種又は二種以上の金属酸化物のナノ粒子を導電性カーボン粉末に担持させることができるため、好適である。また、導電性カーボン粉末上に金属酸化物が担持されるため、導電剤をさらに混合する工程も不要であるか、或いは導電剤の量を減少させることができる。しかしながら、特許文献2に具体的に示されているのは、ずり応力と遠心力を加えて加速化したゾルゲル反応による酸化チタン、酸化ルテニウム等の生成反応であり、この反応方法の応用が未だ十分に検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明者らは、特許文献2の反応方法を基礎として、導電性カーボン粉末上に固溶体のナノ粒子が分散性良く付着している電極材料の製造を試みた。その結果、旋回可能な反応器内に固溶体を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液と導電性カーボン粉末とを含む反応液を導入し、上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、導電性カーボン粉末上に固溶体の前駆体を高分散状態で担持させることができ、この前駆体が担持された導電性カーボン粉末を酸素含有雰囲気中約300℃の比較的低温条件下で加熱することにより、導電性カーボン粉末上に固溶体のナノ粒子が分散性良く付着した電極材料を得ることができた。そして、得られた電極材料を含有する正極を備えたリチウムイオン二次電池は、高い放電容量を示すと共に優れたレート特性を示した。
【0014】
一方、旋回可能な反応器内に固溶体を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液のみを導入し(導電性カーボン粉末を導入せず)、上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより固溶体の前駆体を沈殿させ、沈殿物を熱処理して固溶体を生成しても、ナノ粒子を超える大きさに凝集した二次粒子しか得られなかった。そして、この正極活物質に導電性カーボン粉末を混合することにより電極材料を得、得られた電極を正極としてリチウムイオン二次電池を構成したところ、得られた電池は、電極材料におけるカーボン粉末と正極活物質粒子との混合状態が上述の予め導電性カーボン粉末を含む反応液から得られた電極材料に比較して不十分なためであると思われるが、上述の導電性カーボン粉末を予め含む反応液から得られた電極材料を用いた正極を備えたリチウムイオン二次電池に比較して、著しく低い放電容量を示した。
【0015】
したがって、上述の予め導電性カーボン粉末を含む反応液から得られた電極材料の方が、リチウムイオン二次電池用電極材料として適していることがわかった。しかしながら、高レートの充放電サイクル試験を行ったところ、サイクル安定性が不十分であった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池へと導く電極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者が検討したところ、レート1Cでの充放電サイクル試験による不十分な安定性は、上記固溶体の生成時に副生物として生成するスピネル型結晶構造を有するLiMn
2O
4(以下、単に「スピネル」という。)が原因であることがわかった。そこで、スピネルの生成割合を低減すべく鋭意検討した結果、固溶体前駆体が担持された導電性カーボン粉末を酸素含有雰囲気中600〜700℃の温度で3〜5分間フラッシュ加熱処理することにより、或いは、固溶体前駆体が担持された導電性カーボン粉末を酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理をした後に水熱処理を行うことにより、スピネルを固溶体に転化することができ、しかも、加熱による導電性カーボン粉末の燃焼及び消失を抑制して電極材料の導電率を高く維持できることを発見した。そして、スピネルの割合を正極活物質全体の20%以下まで低減させると、優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池へと導く電極材料が得られることを発見し、発明を完成させた。なお、「フラッシュ加熱処理」とは、600〜700℃の加熱温度まで急速に昇温し、加熱後は急速に冷却する処理を意味する。
【0018】
したがって、本発明はまず、
導電性カーボン粉末と、
該導電性カーボン粉末に付着している、層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体(式中、Mは平均価数が+3価である一種以上の遷移金属を表わし、0<x<1である。)とスピネル型LiMn
2O
4とを質量比で100〜80:0〜20の割合で含む正極活物質のナノ粒子と、
を含むリチウムイオン二次電池用電極材料を提供する。ここで、固溶体とスピネルとは、1個の粒子中に共存していても良く、別々の粒子を形成していても良いが、正極活物質全体では、固溶体が100〜80質量%、スピネルが0〜20質量%の割合で含まれている。固溶体とスピネルとの合計量は100質量%である。また、本発明の電極材料に含まれる正極活物質はナノ粒子である。
【0019】
本発明において、正極活物質中のスピネルの割合は、以下のようにして算出される。
図4は、固溶体とスピネルとからなる正極活物質を含む電極材料を正極とし、負極としてLiを用いてリチウムイオン二次電池を構成し、1CのレートでLi/Li
+に対して2.0〜4.8Vの範囲で充放電を行ったときの初回の放電曲線を示している。放電曲線において、約3.7〜約4.2Vと2.75〜2.8Vの範囲にプラトー部が認められるが、このプラトー部の容量(X1、X2)がスピネルに起因する容量であり、X1とX2とは同量であるといわれている。そこで、放電曲線における4.8V〜2Vの範囲の容量Yと、2.75〜2.8Vの容量X2とを用いて、
Z=(2×
X2)/Y
の式を用いて算出したZの値を、スピネルの生成割合とした。
固溶体の放電容量値(Y−2×X2)及びスピネルの放電容量値(2×X2)と、固溶体及びスピネルの各々の単位重量当たりの放電容量値と、から固溶体とスピネルとの質量比を求めた。
【0020】
式xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3において、Mは平均価数が+3価である一種以上の遷移金属を表わす。平均価数が+3価であれば遷移金属の種類に限定がないが、Mn、Ni、Co、Fe、V、Crから選択されるのが好ましく、Mn、Ni、Co、Feから選択されるのが特に好ましい。これらの遷移金属は、特に優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池を与える。なお、平均価数が+3価であれば良く、例えば、Niが+2価、Mnが+4価で含まれていても、平均すると+3価であれば良い。
【0021】
本発明の電極材料において、上記導電性カーボン粉末の表面が、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された金属酸化物のナノ粒子及び/又は薄膜で部分的に被覆されているのが好ましい。これらの酸化物が、電極材料作成時の加熱による導電性カーボン粉末の燃焼及び消失を抑制し、また、これらの酸化物は固溶体の形成に悪影響をもたらさないからである。導電性カーボン粉末の燃焼に伴い、固溶体がカーボン粉末により還元されてスピネルが生成するが、カーボン粉末の燃焼を抑制することにより、スピネルの生成を抑制することができる。もっとも、上記金属酸化物の量が多すぎると、電極材料の導電率が低下してリチウムイオン二次電池の放電容量が低下するため好ましくない。電極材料の導電率は10
−3S/cm以上であるのが好ましい。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、
a)上記正極活物質を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液に導電性カーボン粉末を添加した反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
b)上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末に上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させる担持工程、及び、
c)上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させた導電性カーボン粉末を、酸素含有雰囲気中600〜700℃の温度で3〜5分間フラッシュ加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を上記正極活物質のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含むことを特徴とする第1の製造方法により、好適に得ることができる。
【0023】
a)の調製工程及びb)の担持工程を介して、導電性カーボン粉末上に正極活物質を構成する金属を含む化合物及び/又はその反応生成物が高分散状態で担持される。b)工程の生成物を、c)の熱処理工程において、酸素含有雰囲気中600〜700℃の温度で3〜5分間フラッシュ加熱処理することにより、カーボン粉末の燃焼及び焼成を抑制し、したがってカーボン粉末の焼成に伴うスピネルの生成を抑制しつつ、スピネルを固溶体に転化させることができ、同時に正極活物質の結晶成長を促進することができる。そして、この方法により得られた電極材料は、正極活物質のナノ粒子を含み、優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池を与える。
【0024】
b)の担持工程において上記反応器の旋回により上記反応液に印加される遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、好ましくは1500kgms
−2以上、特に好ましくは70000kgms
−2以上の遠心力である。この範囲の遠心力により、上記金属の化合物及び/又はその反応生成物が均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持される。本明細書において、旋回する反応器内で反応液にずり応力と遠心力とを印加する処理を、「超遠心処理」ということがある。反応器としては、反応液に超遠心力を印加可能な反応器であれば特に限定なく使用することができるが、特許文献2の
図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。特許文献2における反応器に関する記載は、参照により本明細書に組み入れられる。上記反応器において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましい。
【0025】
第1の製造方法において、上記a)工程の前に、
p)上記導電性カーボン粉末の表面を、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された金属酸化物のナノ粒子で部分的に被覆する工程、
を実施するのが好ましい。上述したように、これらの酸化物が電極材料作成時の加熱による導電性カーボン粉末の燃焼及び消失を抑制し、固溶体がカーボン粉末により還元されてスピネルが生成するのを抑制するからである。
【0026】
また別の好ましい形態では、上記a)工程の前に、
p)´上記導電性カーボン粉末の表面に、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及びジルコネートカップリング剤から成る群から選択されたカップリング剤を結合させる工程、
を含む。導電性カーボン粉末の表面に結合したカップリング剤が上記c)工程において薄膜状の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムに変化して、導電性カーボン粉末の表面を被覆する。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料はまた、
a)´上記正極活物質を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液に導電性カーボン粉末を添加した反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
b)´上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末に上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させる担持工程、及び、
c)´上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させた導電性カーボン粉末を、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理を行うことにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を上記正極活物質のナノ粒子に転化し、次いで水熱処理を行う熱処理工程
を含むことを特徴とする第2の製造方法により、好適に得ることができる。
【0028】
第2の製造方法におけるa)´の調製工程及びb)´の担持工程はそれぞれ、第1の製造方法におけるa)工程及びb)工程と同一であり、これらの工程を介して導電性カーボン粉末上に正極活物質を構成する金属を含む化合物及び/又はその反応生成物が高分散状態で担持される。この場合にも、特許文献2の
図1に記載されている反応器を用いて超遠心処理を好適に行うことができ、反応液に印加される遠心力の大きさ及び内筒外壁面と外筒内壁面との間隔に関する上述の記載は、この場合にも当てはまる。そして、第2の製造方法では、b)´工程の生成物を、c)´の熱処理工程において、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理を行うことにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を、スピネルを多く含む正極活物質のナノ粒子に転化させる。そして、続く水熱処理の過程で、スピネルを固溶体に転化させる。
【0029】
層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体におけるMが、Mn、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属である場合には、
上記a)´工程において、水と、Mnを含む化合物と、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属を含む化合物と、Liの水酸化物と、導電性カーボン粉末とを含み、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、上記反応器内に導入し、
上記b)´工程において、上記導電性カーボン粉末に上記遷移金属の水酸化物を担持させ、
上記c)´工程において、上記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末とLi化合物とを混合した後に加熱処理を行う、
ことが好ましい。ここで、実在しないものの慣用的に水酸化物として表される、Mn(OH)
3(Mn
2O
3・nH
2O)、Fe(OH)
3(Fe
2O
3・nH
2O)、Co(OH)
3(Co
2O
3・nH
2O)、Ni(OH)
3(Ni
2O
3・nH
2O)のような酸化水酸化物或いは水和酸化物も、上述の「水酸化物」の範囲に含まれる。b)´工程において、反応液に含まれる遷移金属のほとんど全てが導電性カーボン粉末上に微粒子として担持されるため、効率よく電極材料を得ることができる。
【0030】
本発明の電極材料により、優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池が得られる。したがって、本発明はまた、本発明の電極材料を含む活物質層を有する正極を備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の電極材料を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池は、正極の電極材料中に層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体を主体とした正極活物質のナノ粒子を含むため、優れたレート特性を有する。さらに、上記固溶体の生成時に副生物として生成しうるスピネル型LiMn
2O
4の割合を正極活物質全体の20質量%以下に低下させたため、本発明の電極材料を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池は、優れたサイクル特性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(A)電極材料
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、導電性カーボン粉末と、該導電性カーボン粉末に分散性良く付着している特定の正極活物質のナノ粒子と、を必須成分として含む。
【0034】
本発明の電極材料における正極活物質のナノ粒子は、層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体(式中、Mは平均価数が+3価である一種以上の遷移金属を表わし、0<x<1である。)を含み、場合によりスピネル型LiMn
2O
4をさらに含む。固溶体とスピネルとは、質量比で100〜80:0〜20の割合で含まれる。正極活物質の粒子がナノ粒子より大きいサイズを有すると、リチウムイオン二次電池のレート特性が不十分になる。ナノ粒子の大きさは、一般には20〜200nmであり、50〜200nmであるのが好ましく、100〜200nmであるのが特に好ましい。また、スピネルの割合が正極活物質全体の20質量%を超えると、リチウムイオン二次電池の高レートにおける充放電サイクルにおける安定性が不十分になる。スピネルの割合が正極活物質全体の10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのが特に好ましい。
【0035】
固溶体xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3において、Mは平均価数が+3価である遷移金属であれば特に限定がないが、Mn、Ni、Co、Fe、V、Crから選択されるのが好ましく、Mn、Ni、Co、Feから選択されるのが特に好ましい。これらの遷移金属は、特に優れたレート特性とサイクル特性とを有するリチウムイオン二次電池を与える。
【0036】
導電性カーボン粉末の表面は、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された金属酸化物のナノ粒子及び/又は薄膜で部分的に被覆されているのが好ましい。これらの酸化物が、電極材料作成時の加熱による導電性カーボン粉末の燃焼及び消失を抑制し、また、これらの酸化物は固溶体の形成に悪影響をもたらさないからである。もっとも、上記金属酸化物の量が多すぎると、電極材料の導電率が低下してリチウムイオン二次電池の放電容量が低下するため好ましくない。電極材料の導電率は10
−3S/cm以上であるのが好ましい。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極材料は、以下に示す第1の製造方法又は第2の製造方法により好適に得ることができる。
【0038】
(i)第1の製造方法
第1の製造方法は、
a)上記正極活物質を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液に導電性カーボン粉末を添加した反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
b)上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末に上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させる担持工程、及び、
c)上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させた導電性カーボン粉末を、酸素含有雰囲気中600〜700℃の温度で3〜5分間フラッシュ加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を上記正極活物質のナノ粒子に転化する熱処理工程
を含む。
【0039】
a)の調製工程では、溶媒に、正極活物質を構成する金属を含む化合物(以下、「活物質原料」という。)と、導電性カーボン粉末とを添加し、上記化合物を溶媒に溶解させることによって、反応液を得る。
【0040】
溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない液であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができる。2種以上の溶媒を混合して使用しても良い。水を好適に使用することができる。
【0041】
活物質原料としては、正極活物質を構成する金属を含み、上記溶媒に溶解可能な化合物を特に限定なく使用することができる。例としては、上記金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。一種の金属について、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。
【0042】
導電性カーボン粉末としては、導電性を有しているカーボンであれば特に限定なく使用することができる。例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、気相法炭素繊維を使用することもできる。これらのカーボン粉末は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。カーボン粉末の少なくとも一部がカーボンナノチューブであるのが好ましい。導電性の高い電極材料が得られるからである。導電性カーボンが球状の粒子である場合には、粒子の直径が10nm〜300nmの範囲であるのが好ましく、10〜100nmの範囲であるのがより好ましく、10〜50nmの範囲であるのが特に好ましい。導電性カーボンが針状、管状或いは繊維状の粒子である場合には、粒子断面の直径(短径)が10nm〜300nmの範囲であるのが好ましく、10〜100nmの範囲であるのがより好ましく、10〜50nmの範囲であるのが特に好ましい。
【0043】
旋回可能な反応器としては、反応液に超遠心力を印加可能な反応器であれば特に限定なく使用することができるが、特許文献2(特開2007−160151号公報)の
図1に記載されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、旋回可能な内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器が好適に使用される。以下、この好適な反応器を使用する形態について説明する。
【0044】
超遠心力場での反応に付すための反応液は、上記反応器の内筒内に導入される。予め調製した反応液を内筒内に導入しても良く、内筒内で反応液を調製することにより導入しても良い。内筒内に溶媒と導電性カーボン粉末と活物質原料とを入れ、内筒を旋回させて活物質原料を溶媒に溶解させるとともに導電性カーボン粉末を液中に分散させる。反応液にはさらに、以下の担持工程において目的の反応生成物を導電性カーボンに担持させるために、反応促進剤を添加することができる。反応促進剤としては、加水分解反応を促進するNaOH、KOH、NH
4OH、Na
2O
3、NaHCO
3等が挙げられる。
【0045】
b)の担持工程では、反応器を旋回させて反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末に上記活物質原料及び/又はその反応生成物を担持させる。反応液の種類に依存して、活物質原料が多く担持されることもあり、水酸化物等の反応生成物が多く担持されることもある。
【0046】
活物質原料から反応生成物への転化、及び、活物質原料及び/又はその反応生成物の導電性カーボン粉末への担持は、反応液に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現されると考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒の旋回により反応液に加えられる遠心力によって生じる。内筒の反応液に加えられる遠心力は、一般に「超遠心力」といわれる範囲の遠心力であり、一般には1500kgms
−2以上、好ましくは70000kgms
−2以上、特に好ましくは270000kgms
−2以上である。
【0047】
上述した外筒と内筒とを有する好適な反応器を使用する形態について説明すると、反応液を導入した反応器の内筒を旋回させると、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液が貫通孔を通じて外筒に移動し、内筒外壁と外筒内壁の間の反応液が外筒内壁上部にずり上がる。その結果、反応液にずり応力と遠心力が加わり、この機械的なエネルギーにより、内筒外壁面と外筒内壁面の間で、反応液の種類に依存して、活物質原料から反応生成物への転化、及び、活物質原料及び/又はその反応生成物の導電性カーボン粉末への担持が生じる。活物質原料及び/又はその反応生成物は、この超遠心力場での反応により、極めて微細な粒として、分散性良く導電性カーボン粉末に担持される。
【0048】
上記反応において、内筒外壁面と外筒内壁面との間隔が狭いほど、反応液に大きな機械的エネルギーを印加できるため好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、5mm以下であるのが好ましく、2.5mm以下であるのがより好ましく、1.0mm以下であるのが特に好ましい。内筒外壁面と外筒内壁面との間隔は、反応器のせき板の幅及び反応器に導入される反応液の量によって設定することができる。
【0049】
内筒の旋回時間には厳密な制限がなく、反応液の量や内筒の旋回速度(遠心力の値)によっても変化するが、一般的には0.5分〜10分の範囲である。反応終了後に、内筒の旋回を停止し、活物質原料及び/又はその反応生成物を担持させた導電性カーボン粉末を回収して乾燥する。
【0050】
c)の熱処理工程では、回収物を酸素含有雰囲気中600〜700℃で3〜5分間フラッシュ加熱処理することにより、上記導電性カーボン粉末に担持された活物質原料及び/又はその反応生成物を正極活物質のナノ粒子に転化する。
【0051】
フラッシュ加熱処理の前に、低温で予備加熱を行うこともできる。予備加熱は必須ではない。予備加熱の雰囲気には厳密な制限がなく、真空中での予備加熱でも良く、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中での予備加熱でも良く、酸素、空気等の酸素含有雰囲気中での予備加熱でも良い。一般には、酸素含有雰囲気中又は不活性雰囲気中での加熱処理は200〜300℃の温度で3分〜2時間、真空中での予備加熱は常温〜200℃の温度で3分〜2時間の範囲で行われる。
【0052】
フラッシュ加熱は、公知のフラッシュ加熱装置、例えばフラッシュランプを備えたフラッシュ加熱装置を用いて行うことができる。フラッシュ加熱の条件は、酸素含有雰囲気中600〜700℃で3〜5分間である。酸素を含まない雰囲気中でのフラッシュ加熱では、正極活物質が還元されて、目的の活物質が得られない。また、フラッシュ加熱温度が600℃よりも低温であると、スピネルから固溶体への転化が不十分であり、スピネルが正極活物質全体の20質量%よりも多く含まれている正極活物質しか得られない。フラッシュ加熱温度が700℃よりも高温であると、導電性カーボン粉末の燃焼及び消失が進行しすぎて、電極材料の導電率が低下する。また、フラッシュ加熱時間が3分より短いと、スピネルから固溶体への転化が不十分となりやすく、また再現性が得られにくい。フラッシュ加熱時間が5分より長いと、導電性カーボン粉末の燃焼及び消失が進行しすぎるため好ましくない。
【0053】
上記担持工程において、活物質原料及び/又はその反応生成物が微粒子として分散性良く導電性カーボン粉末に担持されているため、熱処理工程で生成する正極活物質は微細で均一な大きさの粒子、具体的にはナノ粒子、となる。また、上記フラッシュ加熱処理により、固溶体とスピネルとが質量比で100〜80:0〜20の割合で含まれる正極活物質が得られる。
【0054】
a)の調製工程に先立って、p)上記導電性カーボン粉末の表面を、酸化スズ、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムから成る群から選択された金属酸化物のナノ粒子で部分的に被覆する工程、を実施するのが好ましい。上述したように、これらの酸化物が電極材料作成時の加熱による導電性カーボン粉末の燃焼及び消失を抑制し、固溶体がカーボン粉末により還元されてスピネルが生成するのを抑制するからである。
【0055】
上記p)工程は、溶媒と、Sn、Fe、Al、Ti、Si、Zrから成る群から選択された金属を含む化合物と、必要に応じて加水分解促進剤と、導電性カーボン粉末と、を含む液を用いて行うことができる。
【0056】
溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさない液であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができる。2種以上の溶媒を混合して使用しても良い。水を好適に使用することができる。
【0057】
Sn、Fe、Al、Ti、Si、Zrを含む化合物としては、上記溶媒に溶解可能な化合物を特に限定なく使用することができる。例としては、上記金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を混合して使用しても良い。
【0058】
加水分解促進剤としては、NaOH、KOH、NH
4OH、Na
2O
3、NaHCO
3等を使用することができる。
【0059】
溶媒に、Sn、Fe、Al、Ti、Si、Zrから成る群から選択された金属を含む化合物と、必要に応じて加水分解促進剤と、導電性カーボン粉末とを添加した後、ホモジナイザー、超音波照射等により攪拌・均一化した後、導電性カーボン粉末をろ過して乾燥し、加熱処理を施すことにより、表面が上記金属酸化物のナノ粒子で部分的に被覆された導電性カーボン粉末を得ることができる。
【0060】
また、表面が上記金属酸化物のナノ粒子で部分的に被覆された導電性カーボン粉末は、上述したa)〜c)に類似した工程により得ることができる。この場合には、反応液の調製において、活物質原料の代わりに上述したSn、Fe、Al、Ti、Si、Zrを含む化合物を使用する。また、加熱処理は、フラッシュ加熱により行う必要はなく、真空中での加熱処理でも良く、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中での加熱処理でも良く、酸素、空気等の酸素含有雰囲気中での加熱処理でも良い。この場合にも、特許文献2の
図1に記載されている反応器を用いて超遠心処理を好適に行うことができ、反応液に印加される遠心力の大きさ及び内筒外壁面と外筒内壁面との間隔に関する上述の記載は、この場合にも当てはまる。
【0061】
また別の好ましい形態では、上記a)の調製工程に先立って、p)´上記導電性カーボン粉末の表面に、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及びジルコネートカップリング剤から成る群から選択されたカップリング剤を結合させる工程、を実施するのが好ましい。導電性カーボン粉末の表面に結合したカップリング剤が上記c)工程において薄膜状の酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムに変化して、導電性カーボン粉末の表面を被覆する。
【0062】
上記p)´工程において、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤として、公知のカップリング剤を特に限定なく使用することができる。例としては、メチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジイソプロポキシモノエチルアセトアセテート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ジルコニウムテトラキスアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビスアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラキスエチルアセトアセテートを挙げることができる。
【0063】
上記カップリング剤を溶解可能なイソプロピルアルコール等の有機溶媒に、カップリング剤と導電性カーボン粉末とを添加し、ホモジナイザー、超音波照射等により攪拌・均一化した後、導電性カーボン粉末をろ過して乾燥することにより、上記カップリング剤が表面に結合した導電性カーボン粉末を得ることができる。
【0064】
(ii)第2の製造方法
第2の製造方法は、
a)´上記正極活物質を構成する金属を含む化合物を溶解させた溶液に導電性カーボン粉末を添加した反応液を、旋回可能な反応器内に導入する調製工程、
b)´上記反応器を旋回させて上記反応液にずり応力と遠心力とを加えることにより、上記導電性カーボン粉末に上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させる担持工程、及び、
c)´上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を担持させた導電性カーボン粉末を、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理を行うことにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を上記正極活物質のナノ粒子に転化し、次いで水熱処理を行う熱処理工程
を含む。
【0065】
第2の製造方法におけるa)´の調製工程及びb)´の担持工程はそれぞれ、第1の製造方法におけるa)工程及びb)工程と同一であるため、以下に示す、層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体におけるMが、Mn、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属である場合の変形方法を除いて、a)´工程及びb)´工程についてのこれ以上の説明を省略する。
【0066】
第2の製造方法では、b)´工程の生成物を、c)´の熱処理工程において、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理を行うことにより、上記導電性カーボン粉末に担持された上記金属の化合物及び/又はその反応生成物を、スピネルを多く含む正極活物質のナノ粒子に転化させる。加熱温度が200℃以下では、正極活物質の結晶性が不十分である。加熱時間には厳密な制限が無いが、一般には3分〜2時間の範囲である。
【0067】
そして、続く水熱処理の過程で、スピネルを固溶体に転化させる。水熱処理は、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と水、好ましくは水酸化リチウム水溶液を導入した後、100℃以上、1気圧以上の熱水下で行うことができる。
【0068】
層状xLiMO
2・(1−x)Li
2MnO
3固溶体におけるMが、Mn、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属である場合には、以下の変形方法、すなわち、
上記a)´工程において、水と、Mnを含む化合物と、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属を含む化合物と、Liの水酸化物と、導電性カーボン粉末とを含み、9〜11の範囲のpHを有する反応液を、上記反応器内に導入し、
上記b)´工程において、上記導電性カーボン粉末に上記遷移金属の水酸化物を担持させ、
上記c)´工程において、上記遷移金属の水酸化物を担持させた導電性カーボン粉末とLi化合物とを混合した後に加熱処理を行う、
方法により、本発明の電極材料を製造するのが好ましい。この場合にも、特許文献2の
図1に記載されている反応器を用いて超遠心処理を好適に行うことができ、反応液に印加される遠心力の大きさ及び内筒外壁面と外筒内壁面との間隔に関する上述の記載は、この場合にも当てはまる。
【0069】
Mn、Fe、Co及びNiから成る群から選択された遷移金属を含む化合物としては、水溶性の化合物を特に限定なく使用することができる。例としては、上記遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。一種の遷移金属について、単独の化合物を使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
【0070】
Mnを含む化合物と、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属を含む化合物と、を水に溶解させた液のpHを上げていくと、Mn、Fe、Co及びNiにOH
−が配位するようになり、さらにpHを上げると、やがてはこれらの遷移金属の水酸化物が不溶化する。a)´の調製工程では、pHを9〜11の範囲に調整した反応液を旋回可能な反応器内に入れ、或いは、旋回可能な反応器内で上記反応液を調製する。反応液中に不溶化したMn、Fe、Co或いはNiの水酸化物が認められる場合があるが、a)´の調製工程では、反応液中のMn、Fe、Co或いはNiのほとんどは導電性カーボン粉末上に担持されていない。
【0071】
この反応液のpHの調整は、Liの水酸化物により行う。反応液は、水に上記導電性カーボン粉末と、Mnを含む化合物と、Ni、Co、及びFeからなる群から選択された遷移金属を含む化合物とを添加し、これらの化合物を溶解させた液と、水にLiの水酸化物を溶解させた液と、を混合することにより容易に調製することができる。
【0072】
次いで、b)´の担持工程において、反応器を旋回させると、この旋回によるずり応力と遠心力により、すなわち、機械的エネルギーにより、Mn及びFe、Co或いはNiの水酸化物の核が生成する。この核は、旋回している反応器内で、分散されつつ均一に成長し、均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末上に担持される。また、反応液中のMn及びFe、Co或いはNiのほとんど全てが水酸化物として導電性カーボン粉末上に担持されるため、効率が良い。反応液のpHが9未満では、反応液にずり応力と遠心力とを加える工程における水酸化物の核の生成効率及び生成した水酸化物の導電性カーボン粉末への担持効率が低く、pHが11を超えると、担持工程における水酸化物の不溶化速度が速すぎて、微細な水酸化物が得られにくい。したがって、反応液のpHを9〜11の範囲に調整した上で、この反応液に旋回する反応器中で機械的エネルギーを印加することにより、反応液中に水酸化物の核を効率よく生成させることができ、ひいては水酸化物を均一な大きさの微粒子として導電性カーボン粉末に担持させることができる。
【0073】
そして、c)´の熱処理工程において、Mn及びFe、Co或いはNiの水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持された導電性カーボン粉末を、Li化合物と混合した後、加熱処理を行う。
【0074】
Liの化合物としては、Liを含んでいる化合物を特に限定なく使用することができ、例えば、Liの水酸化物、炭酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。水酸化物を使用すると、イオウ化合物、窒素化合物等の不純物が残留しない上に、正極活物質が迅速に得られるため好ましい。
【0075】
上記b)´の担持段階で得られたMn等の水酸化物の微粒子を担持させた導電性カーボン粉末と、Liの化合物とを、必要に応じて適量の分散媒とを組み合わせ、必要に応じて分散媒を蒸発させながら混錬することにより、混錬物を得る。混錬のための分散媒としては、複合体に悪影響を及ぼさない媒体であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができ、水を特に好適に使用することができる。
【0076】
次いで、酸素含有雰囲気中での200〜300℃の温度で加熱処理を行うことにより、上記導電性カーボン粉末に担持されたMn等の水酸化物とLiの化合物とを反応させ、スピネルを多く含む正極活物質のナノ粒子に転化させる。加熱温度が200℃以下では、正極活物質の結晶性が不十分である。加熱時間には厳密な制限が無いが、一般には3分〜2時間の範囲である。
【0077】
b)´の担持段階の過程で得られた、水酸化物が均一な大きさの微粒子として担持されている導電性カーボン粉末を使用するため、Mn等の水酸化物とLi化合物との反応が迅速且つ均一に進み、得られる正極活物質のナノ粒子も微細で均一な大きさを有する。
【0078】
そして、続く水熱処理の過程で、スピネルを固溶体に転化させる。水熱処理は、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と水、好ましくは水酸化リチウム水溶液を導入した後、100℃以上、1気圧以上の熱水下で行うことができる。
【0079】
(B)リチウムイオン二次電池
本発明の電極材料は、リチウムイオン二次電池の正極のために好適である。したがって、本発明はまた、本発明の電極材料を含む活物質層を有する正極と、負極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【0080】
正極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、本発明の電極材料を分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0081】
集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0082】
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、混合材料の総量に対して1〜30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、負極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。
【0083】
負極としては、一般的なリチウムイオン二次電池において使用されている黒鉛電極の他、公知の負極活物質を含む活物質層を備えた負極を特に限定無く使用することができる。負極活物質の例としては、Fe
2O
3、MnO、MnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4、CoO、Co
3O
4、NiO、Ni
2O
3、TiO、TiO
2、SnO、SnO
2、SiO
2、RuO
2、WO、WO
2、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO
2、Li
3VO
4、Li
4Ti
5O
12などの複合酸化物、Li
2.6Co
0.4N、Ge
3N
4、Zn
3N
2、Cu
3Nなどの窒化物を挙げることができる。
【0084】
負極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、上記負極活物質と導電剤とを分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0085】
集電体及びバインダについては、正極のための集電体及びバインダについての記載が負極においてもあてはまる。導電剤としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素粉末を使用することができる。
【0086】
セパレータとしては、例えばポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などが好適に使用される。セパレータに保持される電解液は、非水系溶媒に電解質を溶解させた電解液が使用され、公知の非水系電解液を特に制限なく使用することができる。
【0087】
非水系電解液の溶媒としては、電気化学的に安定なエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル及びジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0088】
非水系電解液の溶質としては、有機電解液に溶解したときにリチウムイオンを生成する塩を、特に限定なく使用することができる。例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiN(CF
3SO
2)
2、LiCF
3SO
3、LiC(SO
2CF
3)
3、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiAsF
6、LiSbF
6、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。非水系電解液の溶質として、リチウムイオンを生成する塩に加えて、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、R
1R
2R
3R
4N
+又はR
1R
2R
3R
4P
+で表されるカチオン(ただし、R
1、R
2、R
3、R
4は炭素数1〜6のアルキル基を表す)と、PF
6−、BF
4−、ClO
4−、N(CF
3SO
3)
2−、CF
3SO
3−、C(SO
2CF
3)
3−、N(SO
2C
2F
5)
2−、AsF
6−又はSbF
6−からなるアニオンとからなる塩、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【実施例】
【0089】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0090】
(i)0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2と導電性カーボンとの電極材料の製造
【0091】
実施例1:
特開2007−160151号公報の
図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、0.78gのCH3COOLi(Mn:Li=1:2)、及び0.21gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料の約30%のMn及びNiしかケッチェンブラックに担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行い、電極材料を得た。得られた電極材料について、TG測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行い、重量減少量を炭素分として評価した。また、SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0092】
実施例2
空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行う代わりに空気中、700℃で3分間フラッシュ加熱を行ったことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0093】
実施例3
空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行う代わりに空気中、600℃で5分間フラッシュ加熱を行ったことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0094】
実施例4
水に、ケッチェンブラック(粒径約40nm)と塩化スズとを質量比で100:5の割合で添加した後、得られた液をホモジナイザーで混合した。次いで、ケッチェンブラックを回収し、乾燥後、250℃で加熱した。TEMで確認したところ、ケッチェンブラックの表面に酸化スズのナノ粒子が担持されていた。
【0095】
実施例1で用いた反応器の内筒に、0.21gの得られた酸化スズ担持ケッチェンブラック、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、及び0.78gのCH3COOLi(Mn:Li=1:2)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料の約30%のMn及びNiしかケッチェンブラックに担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中、600℃で5分間フラッシュ加熱処理を行い、電極材料を得た。SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0096】
実施例5
イソプロピルアルコールに、ケッチェンブラック(粒径約40nm)とアクリル系シランカップリング剤とを質量比で100:3の割合で添加した後、得られた液に超音波を照射した。次いで、ケッチェンブラックを回収し、乾燥することにより、シランカップリング剤が表面に結合したケッチェンブラックを得た。得られたシランカップリング剤結合ケッチェンブラックを酸化スズ担持ケッチェンブラックの代わりに用いたことを除いて、実施例4の手順を繰り返した。SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0097】
実施例6
イソプロピルアルコールに、実施例4において得られた酸化スズ担持ケッチェンブラックとアクリル系シランカップリング剤とを質量比で100:3の割合で添加した後、得られた液に超音波を照射した。次いで、ケッチェンブラックを回収し、乾燥することにより、シランカップリング剤が表面に結合しており且つ表面に酸化スズのナノ粒子が担持されているケッチェンブラックを得た。得られたシランカップリング剤結合/酸化スズ担持ケッチェンブラックを酸化スズ担持ケッチェンブラックの代わりに用いたことを除いて、実施例4の手順を繰り返した。SEM写真より、200nm以下の直径を有する正極活物質の二次粒子が生成していることがわかった。
【0098】
実施例7
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、0.78gのCH3COOLi(Mn:Li=1:2)、及び0.21gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料の約30%のMn及びNiしかケッチェンブラックに担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させた。次いで、空気中、250℃で1時間加熱処理を行った。さらに、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と2mol/LのLiOH水溶液とを導入し、飽和水蒸気中200℃で12時間水熱処理することにより、電極材料を得た。
【0099】
実施例8
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2及び0.21gのケッチェンブラック(粒径約40nm)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O及びNi(CH
3COO)
2を溶解させると共にケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物及びNi水酸化物の核が形成され、この核が成長してケッチェンブラックの表面に担持された。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料に含まれるMn及びNiの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末にMn:Liが1:2になる量のLiOH・H
2Oの水溶液を混合して混練し、乾燥後に空気中250℃で1時間加熱処理した。さらに、オートクレーブ中に加熱処理後の粉末と2mol/LのLiOH水溶液とを導入し、飽和水蒸気中200℃で12時間水熱処理することにより、電極材料を得た。
【0100】
比較例1
空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行う代わりに、空気中、300℃で1時間加熱処理を行ったことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。
【0101】
比較例2
実施例1において用いた反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、及び0.78gのCH3COOLi(Mn:Li=1:2)を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行った。得られた粉末とアセチレンブラックとを質量比で80:20の割合で混合することにより、電極材料を得た。SEM写真より、200nmを超える直径を有する正極活物質の二次粒子が多く生成していることがわかった。
【0102】
図1は、実施例4の電極材料のSEM写真である。極めて小さい一次粒子を含む、約30〜200nmの直径を有する二次粒子が、分散性良く得られていることがわかる。実施例1〜6の電極材料のSEM写真は、いずれも類似していた。
図2は、実施例8の電極材料のTEM写真である。水熱処理により、20〜40nmの一次粒子が分散性良く得られていることがわかる。
【0103】
(ii)半電池として評価
実施例1〜8及び比較例1,2の電極材料にポリフッ化ビニリデンを全体の10質量%加えて成形したものを正極とし、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。この評価は半電池としての評価であるが、負極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
【0104】
得られた半電池について、レート1Cの条件下でLi/Li+に対して2.0〜4.8Vの範囲で充放電サイクル試験100サイクルを行った。また初回の充放電における放電曲線を用いて、正極活物質全体に対するスピネル含有率を算出した(
図4参照)。スピネル含有率、レート1Cにおける初期放電容量及び100サイクル後の容量維持率を表1に示す。表1にはさらに、各電極材料におけるTG測定から求めた炭素含有量も示されている。
【0105】
【表1】
【0106】
比較例1の空気中、300℃で1時間加熱処理を行うことにより得られた電極材料には、スピネルが多く含まれており、これを用いた半電池の容量維持率は著しく低かった。初期容量が他の電極材料を用いた半電池におけるものより大きいが、これはスピネルに起因する容量も含んでいるためである。これに対し、空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行うことにより得られた実施例1の電極材料では、スピネル含有率が低下し、これを用いた半電池の容量維持率は顕著に改善されていた。初期容量が比較例1の電極材料を用いた半電池におけるものより小さくなっているのは、スピネルに起因する容量が減少したことに加えて炭素含有量が低下して電極材料の導電率が低下したことが原因であると思われる。また、実施例1と同様に空気中、600℃で3分間フラッシュ加熱処理を行ったものの、導電性カーボン粉末を正極活物質生成後に混合した比較例2の電極材料は、炭素含有量が多いにもかかわらず、これを用いた半電池の初期容量が低かった。これは、正極活物質がナノサイズを超える大きさに凝集しているため、レート1Cの充放電では正極活物質の表層付近を利用しているに過ぎないためであると思われる。また、電極材料のスピネル含有率が著しく低いにもかかわらず容量維持率が比較的低いのは、導電性カーボン粉末と正極活物質との混合状態が不十分であることを反映したものと思われる。このことから、予め導電性カーボン粉末を含む反応液を用いて電極材料を製造する本発明の製造方法は、正極活物質のナノ粒子をカーボン表面に密着性良く且つ分散性良く付着させる点で、優れているといえる。
【0107】
実施例2の空気中、700℃で3分間フラッシュ加熱を行うことによって得られた電極材料、実施例3の空気中、600℃で5分間フラッシュ加熱を行うことによって得られた電極材料では、実施例1の電極材料と比較して、スピネル含有率がさらに低下し、炭素含有量がさらに低下していた。初期容量が実施例1の電極材料を用いた半電池におけるものより著しく小さくなっているのは、炭素含有量が著しく低下して電極材料の導電率が低下したことが原因であると思われる。また、スピネル含有率が低下しているにもかかわらず容量維持率が向上していないのも、炭素含有量が著しく低下したことを反映しているものと思われる。
【0108】
これに対し、導電性カーボン粉末として、酸化スズ担持ケッチェンブラック、シランカップリング剤結合ケッチェンブラック、シランカップリング剤結合/酸化スズ担持ケッチェンブラックをそれぞれ用いた実施例4、実施例5、実施例6の電極材料では、実施例3の電極材料と同様に空気中、600℃で5分間フラッシュ加熱処理を行うことにより得られているにもかかわらず、炭素含有量が増加した。特にシランカップリング剤を用いて導電性カーボン粉末の表面を処理した実施例5、実施例6の電極材料における炭素含有量の増加は著しく、シランカップリング剤により効果的にケッチェンブラックの表面が被覆されていることがわかった。また、これらの電極材料を用いた半電池は、実施例1〜3の電極材料を用いた半電池に比較して、増加した初期容量と容量維持率とを示した。
【0109】
また、実施例7,8の電極材料では、スピネル含有率が顕著に低下しており、水熱処理によりスピネルから固溶体への転化が効果的に生じたことがわかった。特に、pHを調整した反応液を用いて得られた実施例8の電極材料には、スピネルが認められなかった。これは、pHを調整した反応液の使用により、担持工程において水酸化物が導電性カーボン上に均一に分散し、その結果、加熱処理において均一に分散した正極活物質が生成したことを反映したものであると考えられる。この均一に分散した正極活物質が原因となって、実施例8の電極材料を用いた半電池は、著しく高い初期容量を示した。実施例7,8の電極材料では、熱処理温度が低いにもかかわらず、炭素含有量が低下している。これは、水熱処理において用いた水酸化リチウム溶液による賦活反応の結果であると思われる。また、スピネル含有率が著しく低下したにもかかわらず、これらの電極材料を用いた半電池の容量維持率が、実施例1〜6の電極材料を用いた半電池におけるものより低い。これは、水熱処理により、結晶形態が大きく変化し、粒径が著しく小さい一次粒子からなる正極活物質が生成したことが原因であると思われる。
【0110】
実施例1の電極材料を用いた半電池と比較例2の電極材料を用いた半電池について、広範囲の電流密度で充放電特性を評価した。
図3は、これらの半電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。
図3から把握されるように、比較例2の電極材料を用いた半電池におけるレート1Cの充放電における放電容量は、レート0.1Cの充放電における放電容量の50%以下に減少しているが、実施例1の電極材料を用いた半電池におけるレート1Cの充放電における放電容量は、レート0.1Cの充放電における放電容量の80%に維持されており、本発明の電極材料が優れたレート特性を有するリチウムイオン二次電池を与えることがわかった。