(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合物を調製する段階、前記混合物の段階、又は前記錯化反応液の段階で、パラジウム塩、銀塩、白金塩及び金塩からなる群より選択される1又は2以上の貴金属塩を添加する請求項5に記載のニッケル粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[複合ニッケル粒子]
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、塩化ニッケルを還元して得られる複合ニッケル粒子であり、炭素元素を0.1〜1.5質量%の範囲内、酸素元素を0.5〜2.5質量%の範囲内で含有するものであり、かつ、複合ニッケル粒子における酸素元素に対する炭素元素の含有割合(炭素元素の含有量/酸素元素の含有量)が0.1〜0.8の範囲内である。
【0020】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、ニッケル元素を含有する。ニッケル元素の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択すればよいが、ニッケル元素の量を、複合ニッケル粒子100質量部に対し、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上とすることがよい。ニッケル以外の金属としては、例えば、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム、バリウム、カルシウム、ストロンチウム。シリコン、アルミニウム、リン等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム、ネオジウム、ニオブ、ホロニウム、ディスプロヂウム、イットリウム等の貴金属、希土類金属を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上含有していてもよく、また水素、炭素、窒素、硫黄、ボロン等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0021】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、塩化ニッケルを還元して得られる。塩化ニッケルを原料とすることによって、複合ニッケル粒子の主成分である金属ニッケルの結晶性を高くすることができる。また、別の観点から、複合ニッケル粒子の一次粒子径に対して、その結晶子径が20%以上とすることが好ましい。結晶性を高めたり、結晶子径を大きくすることにより、アモルファス性の金属ニッケルを主体とする複合ニッケル粒子に比べて、低温焼結を抑制する効果が大きくなる。このような高い結晶性を得るため、原料として用いるニッケル前駆体の50質量%以上が塩化ニッケルであることが好ましく、ニッケル前駆体の全部(100質量%)が塩化ニッケルであることがより好ましい。なお、塩化ニッケルを原料として複合ニッケル粒子を製造する方法については、後述する。
【0022】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、炭素元素を含有している。複合ニッケル粒子の炭素元素の量は、複合ニッケル粒子に対し、0.1〜1.5質量%の範囲内であり、好ましくは0.5〜1.0質量%の範囲内とすることがよい。この炭素元素の量は、複合ニッケル粒子の元素分析により確認することができる。炭素元素は、複合ニッケル粒子の表面に存在する有機化合物に由来するものであるが、炭素元素の一部が複合ニッケル粒子の内部に存在していてもよい。複合ニッケル粒子の表面に存在する炭素元素は、複合ニッケル粒子の凝集を抑制し、分散性向上に寄与し、複合ニッケル粒子に含有する酸素元素の還元を促進させる。従って、炭素元素が0.1質量%未満では、複合ニッケル粒子の凝集が生じやすくなり、1.5質量%を超えると、焼結時に炭化して残炭となり、これがガス化することによって粒子の膨れの原因となる。
【0023】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、酸素元素を含有している。複合ニッケル粒子における酸素元素の含有量は0.5〜2.5質量%の範囲内であり、好ましくは0.5〜2.0質量%の範囲内がよい。酸素元素の含有量が、0.5質量%未満であると、複合ニッケル粒子の表面活性を抑制する効果が小さくなる傾向があり、2.5質量%を超えると、焼結時に体積変化が生じやすくなる傾向がある。この酸素含有量は、複合ニッケル粒子の元素分析により確認することができる。このような酸素含有量は、複合ニッケル粒子の表面に部分的に存在する水酸化物又は酸化物の被膜に含有される酸素元素に由来するものと考えられる。このことは、複合ニッケル粒子の水酸化物又は酸化物の被膜の厚みが、平均粒子径の大小によらず殆ど大差がないのに対し、複合ニッケル粒子の平均粒子径が小さくなるにつれ、酸素元素の含有量が高くなる傾向があることから推察される。すなわち、複合ニッケル粒子の平均粒子径が小さいほど、その総表面積(全ての複合ニッケル粒子の合計の表面積)が大きいので、複合ニッケル粒子全体に占める酸素元素の含有量が相対的に大きくなると考えられる。
【0024】
本実施の形態の複合ニッケル粒子において、複合ニッケル粒子の表面に存在する水酸化物又は酸化物の被膜(酸素含有被膜)として、例えば水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)又は酸化ニッケル(NiO)の被膜が形成されている。このような被膜は、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの表面に部分的に存在する被膜でもよいし、該粒子の全表面に亘る被膜でもよい。その被膜の最大厚みは、複合ニッケル粒子の凝集を効果的に抑制する観点から、例えば1〜8nmの範囲内であることが好ましい。このような水酸化物又は酸化物の被膜により、複合ニッケル粒子の表面活性が抑制され、脱バインダー工程におけるバインダーの低温燃焼又は急激な熱分解を抑制することができる。このとき、酸素含有被膜が水酸化物の被膜である場合、脱水によって酸化物の被膜となり、複合ニッケル粒子の焼結が抑制されると考えられる。また、還元雰囲気下での熱処理により、複合ニッケル粒子における酸化物の被膜が還元されて存在しなくなると、複合ニッケル粒子の焼結が開始される。
【0025】
本実施の形態の複合ニッケル粒子における炭素元素の酸素元素に対する含有割合(炭素元素の含有量/酸素元素の含有量;以下、「C/O比」と記すことがある)は、0.1〜0.8の範囲内にあり、好ましくは0.1〜0.5の範囲内、より好ましくは0.25〜0.5の範囲内がよい。C/O比が、0.1未満では還元時における複合ニッケル粒子が凝集しやすく、酸素還元時における複合ニッケル粒子の収縮が大きくなり、焼結特性が低下する。一方、C/O比が0.8を超えると、焼結時に炭化して残炭となり、これがガス化することによって粒子の膨れの原因となる。
【0026】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、塩化ニッケルを原料として製造されるものであるが、塩素元素の含有量は、900質量ppm未満であることが好ましく、100質量ppm未満であることがより好ましい。複合ニッケル粒子中の塩素は、複合ニッケル粒子の酸化を促進させ該粒子の劣化の原因となるばかりではなく、導電ペーストを形成した際の経時劣化や、該粒子を用いてMLCCの電極を形成した場合にその特性に影響する可能性があり、極力低減することが好ましい。複合ニッケル粒子に含有される塩素は、複合ニッケル粒子を酸処理することによって除去することができる。この酸処理の方法については後述する。
【0027】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、表面に、硫黄含有化合物又は硫黄元素が被覆したものであってもよい。ここで、被覆とは、硫黄含有化合物又は硫黄元素が、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの表面の少なくとも一部分に物理的に吸着又は付着した状態、あるいは金属ニッケルの表面の少なくとも一部分に化学的に結合した状態を含み、必ずしも連続的な膜状でなくてもよく、点在している状態も含む。好ましい被覆形態は、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの表面の少なくとも一部分、より好ましくは表面全体に均等に点在して、硫黄含有化合物又は硫黄元素が化学的に結合している状態がよい。また、金属ニッケルの表面の少なくとも一部分、且つ全体を覆うことなく、硫化ニッケルの被覆層を有していることが特に好ましい。硫化ニッケルの被覆層は、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの表面活性を抑制し、脱バインダー工程におけるバインダーの低温燃焼又は熱分解を抑制することができる。硫黄含有化合物又は硫黄元素の被覆の状態は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)、X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法(AES)などにより確認することができる。また、被覆層の厚みは特に制限されないが、例えば2nm程度とすることが好ましい。
【0028】
別の観点から、複合ニッケル粒子の硫黄元素の量(硫黄含有化合物の状態で含有されるものも含む)を、複合ニッケル粒子に対し、0.01〜1.0質量%の範囲内、好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲内で含有することがよい。硫黄元素が0.01質量%未満では、酸素雰囲気下での加熱における複合ニッケル粒子の酸化抑制効果が低下し、1.0質量%を超えると、還元雰囲気下での硫化水素ガスの発生に伴う粒子の膨れの原因となる。なお、複合ニッケル粒子を、硫黄含有化合物又は硫黄元素で被覆する方法については後述する。
【0029】
本実施の形態に係る複合ニッケル粒子は、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20〜250nmの範囲内、好ましくは40〜150nmの範囲内がよい。別の観点から、BET測定による平均粒子径が20〜250nmの範囲内、好ましくは40〜150nmの範囲内がよい。複合ニッケル粒子の平均粒子径が上記下限値を下回ると、脱バインダー時の加熱で複合ニッケル粒子同士が凝集又溶融しやすくなり、また酸素を取り込みやすくなるため、複合ニッケル粒子の体積膨張や収縮変化が大きくなる。一方、複合ニッケル粒子の平均粒子径が上記上限値を上回ると、最小径の粒子及び最大径の粒子の分布幅が大きくなり、複合ニッケル粒子をMLCCの電極に利用した場合に、巨大粒子の存在によりショート不良を起こしやすい。
【0030】
本実施の形態に係る複合ニッケル粒子は、粒子径の変動係数(CV)が0.2以下である。変動係数を0.2以下とすることで、ペースト塗布後の乾燥塗膜の表面平滑性が得られやすい。
【0031】
[複合ニッケル粒子の製造方法]
次に、本実施の形態の複合ニッケル粒子の製造方法について説明する。
【0032】
本実施の形態の複合ニッケル粒子は、気相法や液相法などの方法により得られるが、ニッケル前駆体(ニッケル塩)の一部もしくは全部として塩化ニッケルを用いる限り、その製造方法については特に限定されない。気相法では、例えば、気化部、反応部、冷却部を有する反応装置を用いるとともに、原料として塩化ニッケルを用い、この塩化ニッケルを気化部で加熱気化した後にキャリアガスで反応部に移送し、ここで水素と接触させることによって粒子状に金属を析出させ、その後、得られた複合ニッケル粒子を冷却部で冷却するようにして得ることができる。反応温度は、例えば950℃〜1100℃程度に制御すればよい。
【0033】
この方法における複合ニッケル粒子の粒径制御は、例えばキャリアガスの流速を制御することによって実施できる。一般に、キャリアガスの流速を上昇させれば、得られる複合ニッケル粒子の粒径は小さくなる傾向がある。また、得られた複合ニッケル粒子は、例えば遠心力を用いた分級手段などを用いることによって変動係数を制御することもできる。
【0034】
気相法は液相法に比べて製造コストが高価になりがちであるので、液相法を適用することは有利である。液相法のなかでも、粒子径分布が狭い複合ニッケル粒子を短時間で容易に製造する方法として、下記の工程A〜C;
A)金属ニッケルの前駆体であるニッケル塩を有機溶媒に溶解して、ニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る工程、
B)錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱して、複合ニッケル粒子のスラリーを得る工程、
C)複合ニッケル粒子のスラリーから複合ニッケル粒子を単離する工程、
を具える方法が好ましい。以下、この方法を「第1の製造方法」と記すことがある。
【0035】
マイクロ波照射による錯化反応液の加熱は、該反応液内の均一加熱を可能とし、かつエネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行なうことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。特に、走査型電子顕微鏡観察による平均粒子径が20〜150nmの範囲内にある複合ニッケル粒子を製造するのに好適である。
【0036】
[第1の製造方法]
工程A)錯化反応液生成工程:
ニッケル塩としては、その一部もしくは全部として塩化ニッケル(II)を用いる。例えば、塩化ニッケル六水和物(NiCl
2・6H
2O)は、錯体であるtrans―[NiCl
2(H
2O)
4]と、それに弱く結合した2個の水分子からなり、6個の水分子のうち4個のみが直接ニッケルと結合した構造を有している。このような構造のニッケル六水和物の水分子は容易にアミンなどによって置換され得るため、アミンと混合することで容易にアミン錯体を形成することができる。
【0037】
上記のとおり、複合ニッケル粒子の結晶性を高くするために、原料として用いるニッケル前駆体の50質量%以上が塩化ニッケルであることが好ましく、ニッケル前駆体の全部(100質量%)が塩化ニッケルであることがより好ましい。
【0038】
塩化ニッケルと併用可能な他のニッケル前駆体(ニッケル塩)として、例えば硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、カルボン酸ニッケル、Ni(acac)
2(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等を挙げることができる。この中でも、還元過程での解離温度(分解温度)が比較的低いカルボン酸ニッケルを用いることが有利である。カルボン酸ニッケルとしては、例えば炭素数が1〜12のカルボン酸ニッケルを用いることができる。カルボン酸ニッケルは、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。好ましいカルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル、酢酸ニッケル等を用いることができるが、還元温度が低く、後述するように複合ニッケル粒子の生成のための核を生じさせる作用も併有するギ酸ニッケルを用いることがより好ましい。
【0039】
有機溶媒は、ニッケル塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えばエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられるが、金属塩に対して還元作用があるエチレングリコール、アルコール類、有機アミン類等の有機溶媒が好ましい。このなかでも特に、1級の有機アミン(以下、「1級アミン」と略称する。)は、ニッケル塩との混合物を溶解することにより、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮しやすく、加熱による還元温度が高温のニッケル塩に対して有利に使用できる。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。
【0040】
常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級の有機アミンであっても、加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0041】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成する複合ニッケル粒子の粒径を制御することができる。複合ニッケル粒子の粒径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られる複合ニッケル粒子の粒径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。
【0042】
1級アミンは、還元反応後の生成した複合ニッケル粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元して複合ニッケル粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミンの量は、ニッケル塩1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られる複合ニッケル粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0043】
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0044】
錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃〜165℃の範囲内に加熱して反応を行う。この加熱は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記上限を適宜設定することができる。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0045】
錯化反応液には、塩化ニッケルから複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルを生成する際の核となる物質(核剤)を配合することができる。核剤としては、核形成が可能な物質であれば特に制限なく使用可能であり、上述のギ酸ニッケルを利用できるほか、例えばギ酸銅、硝酸銀、硝酸銅、パラジウム塩、白金塩、金塩等を用いることができる。これらの核剤を用いることで、塩化ニッケルから結晶性の高い金属ニッケルを効率よく生成させることができる。
【0046】
核剤の配合量は、塩化ニッケルに対して、0.1〜50モル%の範囲内が好ましい。核剤の配合量が塩化ニッケルに対して0.1モル%未満では、塩化ニッケルから金属ニッケルの生成を促す効果が得られず、塩化ニッケルに対して50モル%を超えると、核が多く生成しすぎる結果、複合ニッケル粒子の粒子径が小さくなる傾向があるばかりでなく、結晶性を高くすることが困難となる。なお、核剤は、工程A(錯化反応液生成工程)に限らず、工程B(複合ニッケル粒子スラリー生成工程)におけるマイクロ波照射の前までに配合すればよい。
【0047】
工程B)複合ニッケル粒子スラリー生成工程:
本工程では、ニッケル塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元して金属ニッケルを生成させ、複合ニッケル粒子のスラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られる複合ニッケル粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。
【0048】
均一な粒径を有する複合ニッケル粒子を生成させるには、錯化反応液生成工程の加熱温度を特定の範囲内で調整し、複合ニッケル粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、複合ニッケル粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、複合ニッケル粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、複合ニッケル粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0049】
複合ニッケル粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることは、本発明の好適な実施の形態である。
【0050】
工程C)複合ニッケル粒子単離工程:
本工程では、マイクロ波照射によって加熱して得られる複合ニッケル粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、複合ニッケル粒子が得られる。
【0051】
上記にようにして結晶性の高い金属ニッケルを有する複合ニッケル粒子を製造することができるが、例えば複合ニッケル粒子スラリーの状態で有機溶媒中に所定時間保持することや、複合ニッケル粒子スラリーを低酸素状態で乾燥させることなどによって、複合ニッケル粒子の表面に所定の水酸化物又は酸化物の被膜を形成することができる。
【0052】
また、上記のようにして得られた複合ニッケル粒子をスラリーの状態にして、硫黄粉末又は硫黄含有化合物を添加してもよい。この場合、複合ニッケル粒子に含有する炭素元素を制御する観点から、硫黄含有化合物としてニッケル原子と化学結合を可能とする硫黄原子を含む官能基を有する硫黄含有有機化合物を用いることが好ましい。硫黄粉末又は硫黄含有化合物の添加は、反応液のマイクロ波照射による還元反応に続く、複合ニッケル粒子スラリーの状態で添加してもよく、又は還元反応によって得られる複合ニッケル粒子スラリーから、一旦、複合ニッケル粒子を単離した後に、複合ニッケル粒子を液中に分散させてスラリーの状態としてから、添加してもよい。工程の簡略化の観点から、硫黄粉末又は硫黄含有化合物の添加は、反応液のマイクロ波照射による還元反応に続く、複合ニッケル粒子スラリーの状態で添加することが好ましい。
【0053】
硫黄含有有機化合物は、硫黄原子を分子内に含有する有機化合物であるが、このような有機化合物として、例えばチオール系化合物、スルフィド系化合物、チオフェン系化合物、スルホキシド系化合物、スルホン系化合物、チオケトン系化合物、スルフラン系化合物などが挙げられる。このなかでもチオール系化合物(メルカプト基を含有)、スルフィド系化合物(スルフィド基、又はジスルフィド基を含有)は、硫黄原子の活性が高いために、反応性に優れており、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの表面をNi−Sの化学結合で被覆することができ、例えば複合ニッケル粒子の急激な加熱によっても、複合ニッケル粒子の表面酸化を抑えることができるので好ましい。また、複合ニッケル粒子の分散性を向上させるために、脂肪族系の硫黄含有有機化合物が好ましい。
【0054】
メルカプト基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル粒子の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族チオール化合物が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18の範囲内にある脂肪族チオール化合物がよい。
【0055】
スルフィド基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル粒子の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族メチルスルフィド化合物が好ましく、より好ましくは炭素数2〜18の範囲内にある脂肪族メチルスルフィド化合物がよい。このような脂肪族メチルスルフィド化合物は、R
1−S−CH
3で表される。ここで、R
1は炭素数1〜20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基から選ばれる1価の置換基である。
【0056】
ジスルフィド基を含有する硫黄含有有機化合物としては、複合ニッケル粒子の分散性の向上のために、炭化水素基を有する脂肪族ジスルフィド化合物が好ましく、より好ましくは炭素数2〜40の範囲内にある脂肪族ジスルフィド化合物がよい。このような脂肪族ジスルフィド化合物は、R
1−S−S―R
1’で表される。ここで、R
1、R
1’は独立に炭素数1〜20のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基から選ばれる1価の置換基である。
【0057】
脂肪族系の硫黄含有有機化合物の好ましい具体例としては、例えばメチルチオール、エチルチオール、プロピルチオール、ブチルチオール、ヘプチルチオール、ヘキシルチオール、オクチルチオール、ノニルチオール、デシルチオール(デカンチオール)、ウンデシルチオール、ドデシルチオール(ドデカンチオール)、テトラデシルチオール(テトラデカンチオール)、ヘキサデカンチオール、オクタデシルチオール、tert−ドデシルメルカプタン、シクロヘキシルチオール、ベンジルチオール、エチルフェニルチオール、2−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン、2−メルカプトメチル−1,4−ジチアン、1−メルカプト−2,3−エピチオプロパン、1−メルカプトメチルチオ−2,3−エピチオプロパン、1−メルカプトエチルチオ−2,3−エピチオプロパン、3−メルカプトチエタン、2−メルカプトチエタン、3−メルカプトメチルチオチエタン、2−メルカプトメチルチオチエタン、3−メルカプトエチルチオチエタン、2−メルカプトエチルチオチエタン、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール等の1価の脂肪族チオール化合物、1,1−メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メチルシクロヘキサン−2,3−ジチオール、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、チオリンゴ酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、1,1,1,1−テトラキス(メルカプトメチル)メタン、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピル)エタン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、ビス(1,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)ジスルフィド、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(2−メルカプトアセテート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−チオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−ジチオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)等の脂肪族ポリチオール化合物、ドデシルメチルスルフィド、n−デシルスルフィドなどの脂肪族スルフィド、デカンジスルフィドなどの脂肪族ジスルフィドが挙げられる。なお、これらは特に限定されるものではなく、単独又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
硫黄含有有機化合物の添加量は、複合ニッケル粒子の表面積を考慮して決定されるものであり、仕込み時の塩化ニッケルのニッケル元素100質量部に対して硫黄元素として、例えば0.01〜3質量部の範囲内、好ましくは0.05〜1質量部の範囲内となるようにすればよい。
【0059】
硫黄含有有機化合物の添加によって、室温においても、硫黄含有有機化合物で被覆された複合ニッケル粒子を得ることができるが、確実かつより効率的に行うため、好ましくは100℃〜300℃の範囲内で、1分〜1時間の範囲内で加熱処理する。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよく、特に限定されない。なお、上記のとおり、硫黄粉末又は硫黄含有化合物は、工程B)での錯化反応液のマイクロ波照射による還元反応に引き続き、複合ニッケル粒子スラリーに添加することが好ましく、還元反応の直後に該スラリーが加熱された状態で添加することがより好ましい。
【0060】
また、硫黄含有有機化合物によるNi−Sの化学結合によって形成された被覆層における有機成分を分解又は除去し、Ni−Sの化学結合層を硫化ニッケル(Ni=S)の被覆層に変化させるため、スラリーの状態でさらに200〜300℃の範囲内、1分〜1時間の範囲内で加熱処理することがより好ましい。加熱の方法は、特に限定されるものではないが、複合ニッケル粒子に対し局所的エネルギーを与え、均一かつ急速な加熱が可能なマイクロ波照射が好ましい。
【0061】
なお、複合ニッケル粒子を硫黄粉末又は硫黄含有化合物で処理する場合、硫黄含有有機化合物によるNi−Sの化学結合を形成させるという観点から、水酸化物又は酸化物の被膜の緻密度を中程度に制御することが好ましい。より具体的には、被膜を透過するX線で複合ニッケルを同定するX線光電子分光分析法(以下「XPS」と略することがある。)により測定した金属ニッケルの含有率が、好ましくは25〜75atm%の範囲内、より好ましくは40〜60atm%の範囲内がよい。XPSにより、金属ニッケル、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルに起因するニッケル原子を同定及び定量することができるが、水酸化物又は酸化物の被膜の緻密度と金属ニッケルの含有率との関係に相関があり、当該被膜の緻密度が低ければ金属ニッケルの比率は高くなり、緻密度が高ければ金属ニッケルの比率は低くなる。
【0062】
本実施の形態の複合ニッケル粒子における炭素元素の含有量は、上記のような硫黄含有有機化合物の処理によっても制御可能である。
【0063】
また、本実施の形態では、複合ニッケル粒子に対し、さらに、酸処理を行うことが好ましい。酸処理によって、ニッケル前駆体である塩化ニッケル由来の塩素元素が除去され、塩素元素の含有量を好ましくは900質量ppm未満、より好ましくは100質量ppm未満に低下させることができる。また、酸処理には、複合ニッケル粒子の表面に存在する水酸化ニッケルなどの水酸化物や、表面に付着した微粒子などを除去する作用もあるため、酸素含有量を調節することができる。複合ニッケル粒子の酸処理に使用可能な酸としては、弱酸が好ましく、例えば、炭酸などの無機酸や、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、クエン酸などの有機酸を用いることができる。酸処理は、例えば複合ニッケル粒子を酸溶液で洗浄する方法、複合ニッケル粒子のスラリー中にガス化した酸(例えば炭酸ガス)を吹き込む方法などにより行うことができる。複合ニッケル粒子を酸溶液で洗浄する方法では、複合ニッケル粒子を例えばpH3.5〜6.5の範囲内、好ましくはpH4.5〜6.0の酸溶液で洗浄することが好ましい。酸溶液がpH3.5未満であると、複合ニッケル粒子の表面の酸化や溶解が進み、焼結しやすくなるばかりでなく、粒子を球状にすることが困難となる。酸溶液がpH6.5を超える場合は、酸処理の効果が十分に得られない。
【0064】
以上のようにして、金属ニッケルの結晶性が高く、低温焼結が抑制された複合ニッケル粒子を製造することができる。また、本実施の形態の複合ニッケル粒子は、炭素元素を含有するので、凝集が抑制されており、しかも炭素含有量が酸素含有量を考慮して制御されているため、脱バインダー時における複合ニッケル粒子の酸化及び炭化物の生成を抑制できる。また、焼結時には複合ニッケル粒子の内部への急激な酸化を抑制することができるので、耐焼結性に優れている。このような複合ニッケル粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。
【0065】
次に、本実施の形態の複合ニッケル粒子の製造方法の特に好ましい態様として、塩化ニッケルとギ酸塩とを組み合わせて用いる場合について説明する。以下、この方法を「第2の製造方法」と記すことがある。
【0066】
[第2の製造方法]
第2の製造方法は、塩化ニッケル、ギ酸塩及び1級アミンを含む混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る第一の工程と、前記錯化反応液をマイクロ波で加熱してニッケル粒子スラリーを得る第二の工程と、を有する。なお、第2の製造方法は、第1の製造方法と同様に、複合ニッケル粒子のスラリーから複合ニッケル粒子を単離する工程を含むことができる。
【0067】
第一の工程:
第一の工程は、塩化ニッケルとギ酸塩とを組み合わせて用いる点以外は、上記工程A(錯化反応液生成工程)と同様に実施できる。第一の工程では、ニッケル粒子の主原料として、塩化ニッケル(II)を用いる。塩化ニッケルについては、上記第1の製造方法で説明したとおりである。
【0068】
また、第一の工程では、ニッケル粒子の副原料として、ギ酸塩を併用する。ギ酸塩は、ニッケルのアミン錯体を含む錯化反応液をマイクロ波加熱により還元する場合に、金属塩の中でも還元温度が150〜220℃と比較的低いため、塩化ニッケルのように解離(分解)温度が高い金属塩であっても、その反応性を高めることができるので、特に好適に利用できる。ギ酸塩の具体例としては、例えばギ酸ニッケル、ギ酸銅、ギ酸コバルト、ギ酸鉄などが挙げられ、この中でもギ酸ニッケル又はギ酸銅は、得られるニッケル粒子の結晶性を高めることができるので特に好ましい。ギ酸塩は、分解すると還元性の水素又は一酸化炭素を発生することから、マイクロ波加熱による還元反応を促進する作用も期待できる。さらに、例えば、硝酸銀、パラジウム塩、白金塩、金塩等の貴金属塩は、塩化ニッケルに比べて核生成温度が低すぎるため、単に配合しただけでは核剤として作用せず、小粒径化の効果を奏しないが、ギ酸塩を用いることによって、これらの貴金属塩を核剤として有効に機能させ、ニッケル粒子を小粒径化させることが可能となる。また、還元によって生成する金属の酸化を抑制することができる。ギ酸塩は、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。
【0069】
ニッケル粒子の結晶性を高くするために、原料として塩化ニッケルを用い、その反応性を高めるためにギ酸塩を用いるが、第一の工程において、ギ酸塩の添加量は、塩化ニッケル及びギ酸塩に含まれる全金属換算の金属元素100モル部に対して、5〜50モル部の範囲内、好ましくは、10〜30モル部の範囲内とする。ギ酸塩の添加量が上記下限(5モル部)未満では、例えば250℃程度の穏和な条件での反応が殆ど進行せず、また、例えばニッケル粒子の粒子径を200nm以下に制御することが困難となる。この場合、ギ酸塩の添加量が少ない状態で更に高温に加熱すると、得られるニッケル粒子の粒子径が大きくなるばかりでなく、ニッケル粒子内に炭素が固溶化する傾向になる。一方、ギ酸塩の添加量が上記上限(50モル部)を超えると、得られるニッケル粒子の形状が板状になるものが増加するなど、粒子形状が不揃いとなり、またニッケル粒子の結晶性を向上させにくい傾向になる。
【0070】
1級アミンは、それぞれの金属イオンとの錯体を形成することができ、それぞれの金属錯体(又は金属イオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一級アミンについては、上記第1の製造方法で説明したとおりである。1級アミンは、それぞれの金属錯体を還元してニッケル粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンにおいては沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、また、炭素数が9以上のものが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミン[C
9H
21N(ノニルアミン)]の沸点は201℃である。
【0071】
錯化反応液には、ニッケル粒子を生成する際の核となる物質(核剤)を配合することができる。核剤としては、ニッケルのアミン錯体を含む錯化反応液をマイクロ波加熱により還元する反応において、主原料の塩化ニッケルよりも40℃〜130℃低温で(好ましくは、副原料のギ酸塩よりも10℃〜50℃低温で)核形成が可能な物質から選択され、例えば硝酸銀、パラジウム塩、白金塩、金塩等の金属塩を用いることが可能であり、特に貴金属の塩が好ましい。これらの核剤を用いることで、塩化ニッケルから結晶性の高いニッケル粒子を効率よく生成させることができる。本実施の形態において、核剤は、主原料である塩化ニッケルと組み合わせただけでは核剤としての機能を有効に発揮しない。すなわち、核剤は、塩化ニッケルに比べて、核形成温度が低すぎるため、ギ酸塩が共存しない状態では、核剤として機能せず、小粒径化効果を奏しない。核形成温度が塩化ニッケルに近いギ酸塩が副原料として存在することによって、はじめて核剤がその機能である還元反応時の核形成による粒子形成を促進して小粒径化の機能を奏し、例えば200nm以下の所望の粒子径のニッケル粒子を製造することが可能になる。
【0072】
核剤の配合量は、塩化ニッケル及びギ酸塩に含まれる全金属換算の金属元素100モル部に対して、0.01〜3モル部の範囲内が好ましい。核剤の配合量が上記下限未満では、塩化ニッケルからニッケル粒子の生成を促す効果が得られず、上記上限を超えると、核が多く生成しすぎる結果、ニッケル粒子の粒子径が小さくなる傾向があるばかりでなく、結晶性を高くすることが困難となる。なお、核剤は、第一の工程に限らず、第二の工程におけるマイクロ波照射の前までに配合すればよい。すなわち、核剤は、第一の工程で混合物を調製する段階、混合物の段階、又は錯化反応液の段階で添加することができるが、核剤としての機能を効果的に発揮させる観点では、錯化反応液に添加することが好ましい。
【0073】
本実施の形態のニッケル粒子の製造方法は、主原料として塩化ニッケル、副原料としてギ酸塩を所定の配合比で用いるが、発明の効果を損なわない範囲で、他のニッケル原料を少量添加することもできる。他のニッケル原料としては、例えば、酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のカルボン酸ニッケル(ギ酸ニッケル以外のもの)、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケルの無機塩、Ni(acac)2(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩などを挙げることができる。
【0074】
第二の工程:
第二の工程では、金属塩と有機溶媒との錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元してニッケル粒子を生成させ、ニッケル粒子のスラリーを得る。この第2の工程は、上記第1の製造方法の工程B(複合ニッケル粒子スラリー生成工程)と同様に実施できる。
【0075】
第2の製造方法では、以上のようにして結晶性の高いニッケル粒子を製造することができるが、さらに、第1の製造方法と同様に、酸処理や硫黄粉末又は硫黄含有化合物を添加する工程を行うことができる。
【0076】
第2の製造方法では、以上のようにして、結晶性が高く、低温焼結が抑制されたニッケル粒子を製造することができる。このようなニッケル粒子は、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極の材料として好適に用いることができる。
【0077】
<第2の製造方法の作用>
ニッケルのアミン錯体を含む錯化反応液をマイクロ波加熱により還元する反応において、ニッケル粒子の原料として塩化ニッケルを用いると、結晶子サイズが大きく(つまり、結晶性が高く)、耐焼結性に優れたニッケル粒子を製造することが可能である。しかし、原料が塩化ニッケル単独では、マイクロ波照射による還元反応において核生成が起こりにくいため、加熱温度を230℃以上まで高くする必要があるとともに、ニッケル粒子の粒子径が数百nm以上に成長してしまい、粒子径の制御が難しいという欠点がある。一方、ギ酸ニッケルなどのギ酸塩は、上記アミン錯体のマイクロ波照射による還元反応において、塩化ニッケルに比べ、例えば30℃〜80℃程度低い温度域で核生成が起こる。そのため、原料の塩化ニッケルにギ酸塩を添加することによって、より低温での核生成を早め、ニッケル粒子の粒子径を小さく制御することが可能となる。また、ギ酸塩は還元剤としても機能し、反応を促進するものと考えられる。しかし、ギ酸塩の添加量が多くなりすぎると、ニッケル粒子の形状が板状になり、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極材料としての用途には好ましくない。このようなことから、第2の製造方法では、主原料である塩化ニッケルに、副原料としてギ酸塩を併用し、かつ、両者の配合量を特定範囲に調節することによって、結晶性が高く耐焼結性に優れ、かつ、粒子径が所定範囲に制御されたニッケル粒子の製造を実現している。また、第2の製造方法では、主原料である塩化ニッケル、副原料であるギ酸塩とともに、さらに、上記アミン錯体のマイクロ波照射による還元反応の際に、より低温域で核生成が可能な核剤を添加することによって、還元反応時の核形成をいっそう促進し、容易に所望の粒子径のニッケル粒子を製造することが可能になる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0079】
[平均粒子径の測定]
SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの粒子径を求め、平均粒子径を算出した。具体的には、抽出した微粒子のそれぞれについて面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径とした。
また、BET測定による平均粒子径(BET換算径)は、ニッケルナノ粒子の単位重量当たりの表面積(BET値)を実測し、そのBET値から下記式を用いてBET換算径を算出した。
BET換算径(nm)={[6÷BET値(m
2/g)]÷真密度(g/cm
3)}×1000
また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0080】
[熱機械分析(TMA)、熱重量分析(TGA)、5%熱収縮温度]
試料を5Φ×2mmの円柱状成型器に入れ、プレス成型して得られる成型体を作製し、窒素ガス(水素ガス3%含有)の雰囲気下で、熱機械分析(TMA)および熱重量分析(TGA)を行った。また、熱機械分析装置(TMA)により測定される5%熱収縮の温度を5%熱収縮温度とした。
【0081】
[脱バインダー時微分ピーク温度]
脱バインダー時微分ピーク温度は、窒素下でTGAを測定し、その減少率の微分から燃焼のピーク温度を算出し、そのピーク温度位置を微分ピーク温度とした。
【0082】
[実施例1−1]
<溶解工程>
ギ酸ニッケル二水和物6.0g(32.6mmmol)と塩化ニッケル六水和物54.0g(227.8mmol)にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって、ギ酸ニッケルと塩化ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。
<還元工程>
次いで、その溶液にマイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、複合ニッケル粒子を得た。
<洗浄・乾燥工程>
複合ニッケル粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル粒子を得た。元素分析の結果、C;0.4、O;1.3、S;<0.01、Cl;0.13(単位は質量%)であった(C/O比=0.31)。得られた複合ニッケル粒子(BET値;8.2m
2/g、真密度;8.7g/cm
3)の平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、及び脱バインダー時微分ピーク温度を表1に示した。また、この複合ニッケル粒子の結晶子径は、30nmであった。
【0083】
[実施例1−2]
<炭酸水調製>
純水にCO
2ガスをバブリングさせて、pHが4.5となるように炭酸水を調製した。
<炭酸洗浄>
実施例1−1で得られた複合ニッケル粒子10gに炭酸水100gを加えて1回洗浄を行い、メタノールでさらに1回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル粒子を得た。元素分析の結果、C;0.6、O;2.0、S;<0.01、Cl;<0.01(単位は質量%)であった(C/O比=0.30)。得られた複合ニッケル粒子(BET値;8.4m
2/g、真密度;8.7g/cm
3)の平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、及び脱バインダー時微分ピーク温度を表1に示した。
【0084】
[実施例1−3]
<溶解工程>
ギ酸ニッケル二水和物6.0g(32.6mmmol)と塩化ニッケル六水和物54.0g(227.8mmol)にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによってギ酸ニッケルと塩化ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。
<還元工程>
次いで、その溶液にマイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分保持した後、直後に1−ドデカンチオールを0.30g(1.47mmol)添加することによって複合ニッケル粒子を得た。
<洗浄・乾燥工程>
複合ニッケル粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル粒子を得た。元素分析の結果、C;0.3、O;1.0、S;0.23、Cl;0.09(単位は質量%)であった(C/O比=0.30)。得られた複合ニッケル粒子(BET値;9.7m
2/g、真密度;8.7g/cm
3)の平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、及び脱バインダー時微分ピーク温度を表1に示した。また、この複合ニッケル粒子の結晶子径は、28nmであった。
【0085】
[実施例1−4]
<炭酸水調製>
純水にCO
2ガスをバブリングさせて、pHが4.5となるように炭酸水を調製した。
<炭酸洗浄>
実施例1−3で得られた複合ニッケル粒子10gに炭酸水100gを加えて1回洗浄を行い、メタノールでさらに1回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル粒子を得た。元素分析の結果、C;0.4、O;1.4、S;0.26、Cl;<0.01(単位は質量%)であった(C/O比=0.29)。得られた複合ニッケル粒子(BET値;9.4m
2/g、真密度;8.7g/cm
3)の平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、及び脱バインダー時微分ピーク温度を表1に示した。
【0086】
[比較例1−1]
<溶解工程>
酢酸ニッケル四水和物60.0g(241.1mmmol)にオレイルアミン690g(2.58mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって酢酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。
<還元工程>
次いで、その溶液にマイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分保持することによって複合ニッケル粒子を得た。
<洗浄・乾燥工程>
複合ニッケル粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して複合ニッケル粒子を得た。元素分析の結果、C;0.5、O;1.3(単位は質量%)であった(C/O比=0.38)。得られた複合ニッケル粒子(BET値;8.4m
2/g、真密度;8.7g/cm
3)の平均粒子径、CV値、5%熱収縮温度、及び脱バインダー時の温度変化の微分ピークを表1に示した。また、この複合ニッケル粒子の結晶子径は、22nmであった。
【0087】
[比較例1−2]
300mlの塩化ニッケル水溶液(60g/l)を攪拌しながら、60wt%ヒドラジン水和物50ml(ニッケル1モルに対して2.0モル)を添加した。次いで、得られたスラリーに水酸化ナトリウム22.1gを水100mlに溶解させたアルカリ液を添加し、攪拌しながら80℃の温度まで昇温し、この温度で1時間保持した。生成した茶褐色の沈殿物を濾別乾燥し、ニッケル粒子を得た。なお水酸化ナトリウム添加後の反応液のpHは13.1であった。得られたニッケル粒子(BET値;2.5m
2/g、真密度;8.5g/cm
3)の一次粒子の粒子径は100〜200nmであったが、凝集粒子も多数確認され、平均粒子径は約300nm(CV値;0.31)であった。元素分析の結果、C;<0.01、O:1.6、S:<0.01(単位は質量%)であった(C/O比<0.01)。
【0088】
【表1】
【0089】
塩化ニッケルを原料として得られた1−1〜1−4の複合ニッケル粒子は、酢酸ニッケルを原料とした比較例1−1の複合ニッケル粒子に比べ、5%熱収縮温度が高く、低温での焼結が抑制されていることが確認された。その理由として、塩化ニッケルを原料とすることで、複合ニッケル粒子を構成する金属ニッケルの結晶性が高くなったためであると考えられる。一方、比較例1−2の複合ニッケル粒子は、塩化ニッケルを原料として用いたが、炭素元素の含有量が少ないため、分散性が著しく低下した。
【0090】
また、実施例1−1〜1−4及び比較例1−1で得られた複合ニッケル粒子のXRDチャートを、
図1〜5に示した。実施例1−1〜1−4の複合ニッケル粒子は、比較例1−1の複合ニッケル粒子に比べ、XRDチャートの金属ニッケル結晶を示すピークの強度が大きく、かつ幅(半値幅)が狭く、結晶性が高いことが確認された。
【0091】
また、硫黄含有有機化合物で被覆処理した実施例1−3及び1−4の複合ニッケル粒子は、脱バインダー時微分ピーク温度が330℃と高く、脱バインダー時の重量減少の急激な変動がより高温側にシフトしており、良好な挙動を示した。
【0092】
[実施例2−1]
塩化ニッケル六水和物1297g(5.47mol)とギ酸ニッケル二水和物226.4g(1.23mol)にオレイルアミン7087g(26.5mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、塩化ニッケルとギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。
【0093】
次いで、上記アミン錯体を含む溶液を、マイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、複合ニッケル粒子1を含むスラリーを得た。収率は100%であった。
【0094】
得られたスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、複合ニッケル粒子1(平均粒子径;150nm、CV値;0.19、5%熱収縮温度;420℃、結晶子径;40nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.3、O;1.0、Cl;0.10(単位は質量%)であった(C/O比=0.30)。実施例2−1で得られた複合ニッケル粒子1のSEM写真(×5万倍)を
図6に示した。また、複合ニッケル粒子1のTMAのチャートを
図7に示した。
【0095】
上記の複合ニッケル粒子1の10gに、炭酸水(純水にCO
2ガスをバブリングさせて、pHが4.5となるように炭酸水を調製したもの)の100gを加えて1回洗浄を行い、メタノールでさらに1回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、複合ニッケル粒子1’を得た。元素分析の結果、C;0.3、O;1.2、Cl;<0.01(単位は質量%)であった(C/O比=0.25)。
【0096】
[実施例2−2]
塩化ニッケル六水和物1297g(5.47mol)、ギ酸ニッケル二水和物166g(0.9mol)、及びオレイルアミン10700g(40mol)を使用したこと以外、実施例2−1と同様にして、複合ニッケル粒子2(平均粒子径;120nm、CV値;0.16、5%熱収縮温度;390℃、結晶子径;39nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.3、O;0.6、Cl;0.09(単位は質量%)であった(C/O比=0.50)。実施例2−2で得られた複合ニッケル粒子2のSEM写真(×5万倍)を
図8に示した。また、複合ニッケル粒子2のTMAのチャートを
図9に示した。
【0097】
[実施例2−3]
塩化ニッケル六水和物581g(2.45mol)、ギ酸ニッケル二水和物193g(1.05mol)、及びドデシルアミン9360g(35mol)を使用したこと以外、実施例2−1と同様にして、複合ニッケル粒子3(平均粒子径;80nm、CV値;0.15、5%熱収縮温度;345℃、結晶子径;32nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.8、O;1.6、Cl;0.12(単位は質量%)であった(C/O比=0.50)。実施例2−3で得られた複合ニッケル粒子3のSEM写真を
図10に示した。また、複合ニッケル粒子3のTEM写真を
図11A示した。また、
図11Bは、
図11Aに示した複合ニッケル粒子3の結晶格子を模式的に示した説明図であり、一点鎖線の斜線は結晶格子模様を表している。
図11Aでは、
図11Bに示したように、結晶格子模様がはっきりと観察されており、単結晶に近いことが推測された。
【0098】
[実施例2−4]
塩化ニッケル六水和物1896g(8mol)とギ酸ニッケル二水和物368g(2mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、塩化ニッケルとギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。
【0099】
次いで、上記アミン錯体を含む溶液を90℃まで冷却して、硝酸銀8.5g(0.05mol)を添加して、30分間撹拌して硝酸銀を溶解した後、マイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、複合ニッケル粒子4を含むスラリーを得た。収率は100%であった。
【0100】
実施例2−1と同様にして、得られたスラリーを乾燥して、複合ニッケル粒子4(平均粒子径;90nm、CV値;0.16、5%熱収縮温度;360℃、結晶子径;25nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.4、O;1.2、Cl;0.12(単位は質量%)であった(C/O比=0.33)。
【0101】
[実施例2−5]
塩化ニッケル六水和物2133g(9mol)、ギ酸ニッケル二水和物184g(1mol)、硝酸銀0.85g(0.005mol)及びドデシルアミン13375g(50mol)を使用したこと以外、実施例2−4と同様にして、複合ニッケル粒子5(平均粒子径;130nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;415℃、結晶子径;38nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.3、O;0.7、Cl;0.11(単位は質量%)であった(C/O比=0.43)。実施例2−5で得られた複合ニッケル粒子5のSEM写真を
図12に示した。
【0102】
[実施例2−6]
塩化ニッケル六水和物1659g(7mol)、ギ酸ニッケル二水和物552g(3mol)、硝酸銀2.55g(0.015mol)及びオレイルアミン10700g(40mol)を使用したこと以外、実施例2−4と同様にして、複合ニッケル粒子6(平均粒子径;70nm、CV値;0.15、5%熱収縮温度;360℃、結晶子径;25nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.8、O;1.6、Cl;0.07(単位は質量%)であった(C/O比=0.50)。実施例2−6で得られた複合ニッケル粒子6のSEM写真を
図13に示した。
【0103】
[実施例2−7]
塩化ニッケル六水和物1896g(8mol)、ギ酸ニッケル二水和物368g(2mol)、及びドデシルアミン16050g(60mol)を使用したこと以外、実施例2−1と同様にして、複合ニッケル粒子7(平均粒子径;90nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;430℃、結晶子径;32nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.6、O;1.3、Cl;0.13(単位は質量%)であった(C/O比=0.46)。
【0104】
[実施例2−8]
塩化ニッケル六水和物2133g(9mol)、ギ酸ニッケル二水和物184g(1mol)、硝酸銀5.1g(0.03mol)及びドデシルアミン16050g(60mol)を使用したこと以外、実施例2−4と同様にして、複合ニッケル粒子8(平均粒子径;60nm、CV値;0.15、5%熱収縮温度;420℃、結晶子径;30nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;1.2、O;1.8、Cl;0.14(単位は質量%)であった(C/O比=0.67)。
【0105】
[実施例2−9]
塩化ニッケル六水和物1297g(5.47mol)とギ酸銅四水和物 189g(1.23mol)にオレイルアミン7087g(26.5mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、塩化ニッケルとギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。
【0106】
次いで、上記アミン錯体を含む溶液を、マイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、複合ニッケル粒子9を含むスラリーを得た。収率は100%であった。
【0107】
得られたスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて3回洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥して、複合ニッケル粒子1(平均粒子径;170nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;400℃、結晶子径;38nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.4、O;1.3、Cl;0.08(単位は質量%)であった(C/O比=0.31)。実施例2−9で得られた複合ニッケル粒子9のSEM写真を
図14に示した。
【0108】
[実施例2−10]
塩化ニッケル六水和物1297g(5.47mol)、ギ酸ニッケル二水和物74g(0.4mol)、及びオレイルアミン10700g(40mol)を使用したこと以外、実施例2−1と同様にして、複合ニッケル粒子10(平均粒子径;180nm、CV値;0.19、5%熱収縮温度;430℃、結晶子径;41nm)を得た。収率は100%であった。
【0109】
[実施例2−11]
塩化ニッケル六水和物1297g(5.47mol)、ギ酸ニッケル二水和物828g(4.5mol)、及びオレイルアミン10700g(40mol)を使用したこと以外、実施例2−1と同様にして、複合ニッケル粒子11(平均粒子径;85nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;410℃、結晶子径;27nm)を得た。収率は100%であった。また、元素分析の結果、C;0.8、O;1.1、Cl;0.11(単位は質量%)であった(C/O比=0.73)。
【0110】
[比較例2−1]
塩化ニッケル六水和物2377g(10mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって塩化ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。次いで、その溶液にマイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子(平均粒子径;400nm、CV値;0.18、5%熱収縮温度;500℃、結晶子径;130nm)を得たが、収率は5%であった。また、元素分析の結果、C;0.8、O;0.6、Cl;0.06(単位は質量%)であった(C/O比=1.33)。比較例2−1で得られたニッケル粒子のSEM写真を
図15に示した。
【0111】
[比較例2−2]
硫酸ニッケル六水和物2629g(10mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって硫酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。次いで、その溶液にマイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持したが、ニッケル粒子は全く得られなかった。
【0112】
[比較例2−3]
塩化ニッケル六水和物2377g(10mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で140℃、120分間加熱することによって塩化ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。次いで、その溶液を90℃まで冷却して、硝酸銀8.5g(0.05mol)を添加して、30分攪拌して硝酸銀を溶解した後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子(平均粒子径;300nm、CV値;0.22、5%熱収縮温度;470℃、結晶子径;120nm)を得た。また、元素分析の結果、C;0.4、O;0.6、Cl;1100(単位は質量%)であった(C/O比=0.67)。比較例2−3で得られたニッケル粒子のSEM写真を
図16に示した。また、このニッケル粒子のTMAのチャートを
図17に示した。
【0113】
[比較例2−4]
酢酸ニッケル四水和物2488g(10mol)にオレイルアミン16050g(60mol)を加え、窒素フロー下で140℃、20分間加熱することによって酢酸ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。次いで、その溶液にマイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子(平均粒子径;90nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;290℃、結晶子径;21nm)を得た。また、元素分析の結果、C;0.5、O;1.0、Cl;<0.01(単位は質量%)であった(C/O比=0.50)。比較例2−4で得られたニッケル粒子のSEM写真を
図18に示した。また、このニッケル粒子のTEM写真を
図19に示した。
図19では、結晶格子の模様が不明瞭であり、かつ、多種類観察されており、多結晶であることが推測された。また、このニッケル粒子のTMAのチャートを
図20に示した。
【0114】
[比較例2−5]
塩化ニッケル六水和物2377g(10mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で140℃、120分間加熱することによって塩化ニッケルをオレイルアミンに溶解させた。次いで、その溶液を90℃まで冷却して、硝酸銀85g(0.5mol)を添加して、30分攪拌して硝酸銀を溶解した後、マイクロ波を照射して250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子(平均粒子径;270nm、CV値;0.25、5%熱収縮温度;450℃、結晶子径;110nm)を得た。また、元素分析の結果、C;0.3、O;0.5、Cl;0.12(単位は質量%)であった(C/O比=0.60)。
【0115】
[比較例2−6]
塩化ニッケル六水和物2377g(10mol)とギ酸ニッケル二水和物55g(0.3mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、塩化ニッケルとギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。次いで、その溶液を、マイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子を含むスラリーを得た。収率は80%であった。得られたニッケル粒子は、平均粒子径;270nm、CV値;0.23、5%熱収縮温度;480℃、結晶子径;110nmであった。また、元素分析の結果、C;0.3、O;0.7、Cl;0.08(単位は質量%)であった(C/O比=0.43)。
【0116】
[比較例2−7]
塩化ニッケル六水和物9512g(4mol)とギ酸ニッケル二水和物1104g(6mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、塩化ニッケルとギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。次いで、その溶液を、マイクロ波を用いて250℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子を含むスラリーを得た。収率は100%であった。得られたニッケル粒子は、平均粒子径;100nm、CV値;0.25、5%熱収縮温度;410℃、結晶子径;45nmであったが、板状の粒子が非常に多く見られた。また、元素分析の結果、C;0.6、O;1.1、Cl;0.13(単位は質量%)であった(C/O比=0.55)。
【0117】
[比較例2−8]
ギ酸ニッケル二水和物1104g(6mol)にオレイルアミン10700g(40mol)を加え、窒素フロー下で120℃、120分間加熱することによって、ギ酸ニッケルのアミン錯体を形成させた。次いで、その溶液を、マイクロ波を用いて220℃まで加熱し、その温度を5分間保持することによって、ニッケル粒子を含むスラリーを得た。収率は100%であった。得られたニッケル粒子は、平均粒子径;65nm、CV値;0.17、5%熱収縮温度;300℃、結晶子径;25nmであったが、板状の粒子が非常に多く見られた。また、元素分析の結果、C;0.8、O;1.3、Cl;<0.01(単位は質量%)であった(C/O比=0.62)。
【0118】
上記実施例2−1〜2−11及び比較例2−1〜2−8で原料として用いた塩化ニッケル及びギ酸塩に含まれる全金属換算の金属元素100モル部に対するギ酸塩のモル部並びに硝酸銀のモル部と、各実施例及び比較例で得られたニッケル粒子の物理的特性を表2〜表4に示した。なお、MLCCの内部電極用途に使用するニッケル粒子の物理的特性は、例えば以下のとおりである。平均粒子径は30〜200nmの範囲内が好ましく、CV値は0.2以下であることが好ましい。さらに、十分な耐焼結性を確保する観点から、5%熱収縮温度は300℃以上であることが好ましく、結晶子径は出来るだけ大きい方が好ましいが、例えば25〜60nmの範囲内であればよい。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
表2〜表4から、塩化ニッケル、ギ酸塩及び1級アミンを含む混合物を用い、ギ酸塩を塩化ニッケル及びギ酸塩に含まれる全金属換算の金属元素100モル部に対して5〜50モル部の範囲内で添加した実施例2−1〜2−11では、粒子径が200nm以下に制御され、結晶性が高く、低温焼結が抑制されていた。
【0123】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。