特許第6095498号(P6095498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095498
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】SiC部材の穿孔方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 9/14 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   B23H9/14
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-126725(P2013-126725)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-456(P2015-456A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596122696
【氏名又は名称】株式会社アドマップ
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】中村 将基
(72)【発明者】
【氏名】高原 英幸
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ウー
【審査官】 本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3178150(JP,U)
【文献】 特開2008−142850(JP,A)
【文献】 特開昭62−84929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 9/14
WPI
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC部材に所定の径の複数の孔を形成する方法であって、
前記SiC部材の表面上に補助電極層を形成する第1の工程と、
中心軸に沿って延びる単一の第1の電極を前記中心軸の回りに回転させながら前記第1の電極と前記補助電極層との間に電圧を印加すると共に前記第1の電極を前記中心軸に沿って前記SiC部材に対し相対的に移動させて放電加工により前記SiC部材に前記所定の径より小さな径の第1の孔を形成する第2の工程と、
前記SiC部材の表面上における前記第1の電極の位置を変えて前記第2の工程を繰り返すことにより前記SiC部材に複数の第1の孔を形成する第3の工程と、
それぞれ前記第1の電極よりも太く且つ互いに平行に延びる複数の第2の電極と前記補助電極層との間に電圧を印加すると共に前記複数の第2の電極をそれぞれ前記SiC部材に形成されている前記複数の第1の孔に沿って前記SiC部材に対し相対的に移動させて放電加工により前記複数の第1の孔をそれぞれ前記所定の径の第2の孔に同時に拡大する第4の工程と
を備えたことを特徴とするSiC部材の穿孔方法。
【請求項2】
前記第1の孔および前記第2の孔は、それぞれ前記SiC部材を貫通する貫通孔である請求項1に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項3】
前記第1の電極は、内部が中空のパイプ形状を有し、
前記第1の電極の内部に冷却流体を流通させながら前記SiC部材に前記第1の孔を形成する請求項1または2に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項4】
前記第1の電極は、Cuからなる請求項3に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項5】
前記複数の第2の電極は、それぞれワイヤ形状を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項6】
前記複数の第2の電極は、それぞれW、Mo、WまたはMoの合金のいずれかからなる請求項5に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項7】
前記補助電極層は、スパッタリング法または蒸着法により形成される請求項1〜6のいずれか一項に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項8】
前記補助電極層は、Niからなる請求項7に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項9】
前記SiC部材は、1MΩcm以下の抵抗率を有するCVD−SiCからなる請求項1〜8のいずれか一項に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項10】
前記SiC部材は、焼結SiC板の上にCVD−SiC層が形成されたものであり、
前記SiC部材に所定の径の複数の貫通孔を形成することでプラズマエッチング処理に用いられるシャワーヘッドを作製する請求項1〜9のいずれか一項に記載のSiC部材の穿孔方法。
【請求項11】
前記SiC部材の表面から前記補助電極層を除去する第5の工程と、
前記SiC部材を湿式洗浄する第6の工程と
をさらに備えた請求項1〜10のいずれか一項に記載のSiC部材の穿孔方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、SiC(炭化珪素)部材の穿孔方法に係り、特にCVD(化学気相成長)法により作製されたSiC部材に複数の孔を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程では、図24に示されるように、チャンバ1内に、反応ガスGを導入し、基板Sの搭置台を兼ねた下部電極2と、この下部電極2に対向するように設けられた上部電極3との間に高周波電圧を印加することにより、プラズマを発生させ、このプラズマにより、基板Sにプラズマエッチング処理を施すプラズマ処理装置が用いられる。このとき、基板Sの全面にわたって精度のよい処理を行うために、反応ガスGをチャンバ1内のプラズマ発生領域に均等に供給する必要があり、通常、多数の貫通孔4が配列形成されたシャワーヘッド5を介して反応ガスGの導入が行われる。
このようなプラズマ処理装置においては、チャンバ1内に使用される部材は、プラズマとの接触により表面が浸食されるおそれがある。特に、シャワーヘッド5は、処理対象である基板Sの直上に配置され、プラズマに直接接触することから、プラズマの影響を受けやすく、表面が浸食されてシャワーヘッド5を構成する粒子が脱落すると、基板Sの表面に付着してパーティクル発生の原因となってしまう。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、焼結SiCからなる基材部の上にCVD法により形成されたCVD−SiC層を配置したシャワーヘッドが提案されている。CVD−SiC層は、緻密な構造を有しており、プラズマに晒されても浸食されにくいので、このCVD−SiC層が形成された面をプラズマ発生領域に向けて、シャワーヘッドをチャンバ内に配置することで、パーティクルの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−285845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CVD−SiC層は、緻密な構造に起因して加工が容易ではなく、反応ガス分配のための多数の貫通孔の形成方法が問題となっていた。
特許文献1では、貫通孔がドリル加工等の機械加工により形成されているが、ドリルビットを用いてCVD−SiC層の穿孔を行うと、ドリルビットの刃の摩耗が激しく、数個の貫通孔を形成したところで、ドリルビットを交換しなければならないという問題がある。さらに、ドリル加工では、貫通孔形成の際に貫通孔の周辺部分に欠落が生じるおそれもある。
また、機械加工に代えて、超音波加工によりCVD−SiC層を穿孔することも試みられているが、超音波加工装置の操業が複雑で高い加工精度を得るために熟練したオペレータが必要となる、ダイヤモンド等の砥粒が分散された砥粒液を工具の周囲に供給しつつ工具に超音波振動を与える必要がある、穿孔速度が遅く貫通孔の形成に長時間を要する、自動化が困難である、等の理由により実用的な方法ではない。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、SiC部材に複数の孔を容易に且つ精度よく形成することができるSiC部材の穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るSiC部材の穿孔方法は、SiC部材に所定の径の複数の孔を形成する方法であって、SiC部材の表面上に補助電極層を形成する第1の工程と、中心軸に沿って延びる単一の第1の電極を中心軸の回りに回転させながら第1の電極と補助電極層との間に電圧を印加すると共に第1の電極を中心軸に沿ってSiC部材に対し相対的に移動させて放電加工によりSiC部材に所定の径より小さな径の第1の孔を形成する第2の工程と、SiC部材の表面上における第1の電極の位置を変えて第2の工程を繰り返すことによりSiC部材に複数の第1の孔を形成する第3の工程と、それぞれ第1の電極よりも太く且つ互いに平行に延びる複数の第2の電極と補助電極層との間に電圧を印加すると共に複数の第2の電極をそれぞれSiC部材に形成されている複数の第1の孔に沿ってSiC部材に対し相対的に移動させて放電加工により複数の第1の孔をそれぞれ所定の径の第2の孔に同時に拡大する第4の工程とを備えた方法である。
【0008】
第1の孔および第2の孔は、それぞれSiC部材を貫通する貫通孔とすることができる。
好ましくは、第1の電極は、内部が中空のパイプ形状を有し、第1の電極の内部に冷却流体を流通させながらSiC部材に第1の孔を形成する。第1の電極は、Cuから形成することができる。
また、複数の第2の電極は、それぞれワイヤ形状を有することが好ましい。複数の第2の電極は、それぞれW、Mo、WまたはMoの合金のいずれかから形成することができる。
補助電極層は、好ましくは、スパッタリング法または蒸着法により形成される。補助電極層は、Niから形成することができる。
【0009】
SiC部材は、1MΩcm以下の抵抗率を有するCVD−SiCからなることが好ましい。
また、SiC部材として、焼結SiC板の上にCVD−SiC層が形成されたものを用い、SiC部材に所定の径の複数の貫通孔を形成することでプラズマエッチング処理に用いられるシャワーヘッドを作製することができる。
さらに、SiC部材の表面から補助電極層を除去する第5の工程と、SiC部材を湿式洗浄する第6の工程とを備えることもできる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、SiC部材の表面上に補助電極層を形成し、単一の第1の電極を回転させながら第1の電極と補助電極層との間に電圧を印加して放電加工により第1の孔を形成する工程を繰り返してSiC部材に複数の第1の孔を形成し、それぞれ第1の電極よりも太い複数の第2の電極と補助電極層との間に電圧を印加して放電加工により複数の第1の孔をそれぞれ所定の径の第2の孔に同時に拡大するので、SiC部材に複数の孔を容易に且つ精度よく形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施の形態1に係る穿孔方法により複数の貫通孔が形成されたSiC部材を示す側面断面図である。
図2】実施の形態1に係る穿孔方法を実施するための穿孔装置を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係る穿孔方法で用いられる複数の第2の電極を示す側面断面図である。
図4】実施の形態1に係る穿孔方法の動作を示すフローチャートである。
図5】実施の形態1においてSiC部材に複数の第1の貫通孔を形成する様子を示す側面断面図である。
図6】実施の形態1において複数の第1の貫通孔に複数の第2の電極を位置合わせした状態を示す側面断面図である。
図7】実施の形態1において複数の第1の貫通孔をそれぞれ第2の貫通孔に拡大した状態を示す側面断面図である。
図8】実施の形態1において第2の貫通孔が形成されたSiC部材を示す側面断面図である。
図9】実施の形態2に係る穿孔方法により複数の貫通孔が形成されたSiC部材を示す側面断面図である。
図10】実施の形態2においてSiC部材を穿孔装置に配置した状態を示す側面断面図である。
図11】実施の形態2においてSiC部材に複数の第1の貫通孔を形成する様子を示す側面断面図である。
図12】実施の形態2においてSiC部材のCVD−SiC層に形成された複数の第1の貫通孔にCVD−SiC層用の複数の第2の電極を位置合わせした状態を示す側面断面図である。
図13】実施の形態2においてSiC部材のCVD−SiC層に形成された複数の第1の貫通孔をそれぞれ第2の貫通孔に拡大した状態を示す側面断面図である。
図14】実施の形態2においてSiC部材の焼結SiC板に形成された複数の第1の貫通孔に焼結SiC層用の複数の第2の電極を位置合わせした状態を示す側面断面図である。
図15】実施の形態2においてSiC部材の焼結SiC層に形成された複数の第1の貫通孔をそれぞれ第2の貫通孔に拡大した状態を示す側面断面図である。
図16】実施の形態2において第2の貫通孔が形成されたSiC部材を示す側面断面図である。
図17】実施例で複数の貫通孔が形成されたSiC部材を示す写真である。
図18】実施例においてSiC部材に形成された貫通孔の側断面を示す写真である。
図19】実施例においてCVD−SiC層に形成された第2の貫通孔を正面から見た顕微鏡写真である。
図20】実施例においてCVD−SiC層に形成された第2の貫通孔を斜めから見た顕微鏡写真である。
図21】実施例において焼結SiC層に形成された第2の貫通孔を正面から見た顕微鏡写真である。
図22】実施例において焼結SiC層に形成された第2の貫通孔を斜めから見た顕微鏡写真である。
図23】実施例により複数の貫通孔が形成されたSiC部材の表面分析結果を示す図である。
図24】プラズマ処理装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、実施の形態1に係る穿孔方法により複数の貫通孔が形成されたSiC部材11を示す。SiC部材11は、CVD法により形成されたCVD−SiC板12に、複数の貫通孔13がピッチPで配列形成されたものである。CVD−SiC板12は、1MΩcm以下の抵抗率を有している。
図2に、実施の形態1に係る穿孔方法を実施するための穿孔装置の構成を示す。穿孔装置は、被加工物Mを搭載して保持すると共にXYZの3軸方向に移動可能に配置されたステージ21を有し、このステージ21に、ステージ21を移動させるためのステージ移動部22が接続されている。
【0013】
ステージ21の上方には、ステージ21の表面に対して垂直方向を向いた中心軸Cに沿って延びる第1の電極23が配置されている。第1の電極23は、Cu(銅)から形成され且つ内部が中空のパイプ形状を有し、中心軸Cの回りに回転可能に配置されている。この第1の電極23に、第1の電極23を中心軸Cの回りに回転駆動する電極回転部24と、第1の電極23の中空の内部に冷却流体を流通させることにより第1の電極23の冷却を行う冷媒供給部25とがそれぞれ接続されている。
穿孔装置は、さらに、ステージ21上に搭載された被加工物Mと第1の電極23との間に放電加工用の電圧を印加するための加工電源部26を有し、ステージ移動部22、電極回転部24、冷媒供給部25および加工電源部26に制御部27が接続されている。
【0014】
また、図3には、実施の形態1に係る穿孔方法で使用される複数の第2の電極28を示す。それぞれの第2の電極28は、W(タングステン)から形成され且つ第1の電極23よりも太いワイヤ形状を有しており、SiC部材11に形成しようとする貫通孔13の個数と同数の第2の電極28が、導電性を有する支持部材29に一体に連結され、ピッチPで互いに平行に延びている。
【0015】
次に、図4のフローチャートを参照して実施の形態1に係る穿孔方法を説明する。
まず、ステップS1で、図2に示されるように、CVD−SiC板12の表面上に補助電極層14を形成する。補助電極層14は、例えばNi(ニッケル)からなり、スパッタリング法または蒸着法により形成することができる。
そして、補助電極層14を上方に向けてCVD−SiC板12を穿孔装置のステージ21の上に搭載し、ステージ21に保持させる。
【0016】
このようにしてステージ21上に搭載されたCVD−SiC板12の補助電極層14と第1の電極23に加工電源部26を接続し、ステップS2で、制御部27による制御の下、第1の電極23を用いて放電加工によりCVD−SiC板12に第1の貫通孔を形成する。このとき、制御部27に制御された電極回転部24によって第1の電極23が中心軸Cの回りに回転駆動されると共に冷媒供給部25により第1の電極23の中空の内部に冷却流体が流通され、さらに、加工電源部26により補助電極層14と第1の電極23との間に電圧が印加された状態で、ステージ移動部22によりステージ21が上昇する。なお、電極回転部24による第1の電極23の回転速度は、例えば10〜1000RPMとすることができる。
【0017】
これにより、第1の電極23が中心軸Cに沿ってCVD−SiC板12の補助電極層14に対し相対的に接近し、第1の電極23と補助電極層14との間隔が所定の値に達したところでアーク放電が発生し、局部的に高温状態となって補助電極層14およびCVD−SiC板12が加工される。ステージ21の上昇に伴って、次第にCVD−SiC板12の内部にまで放電加工が進行し、ステージ移動部22によるステージ21の上昇を続けることで、図5に示されるように、CVD−SiC板12に第1の貫通孔H1が形成される。
【0018】
この第1の貫通孔H1の形成に際し、予めCVD−SiC板12の表面上にスパッタリング法または蒸着法により補助電極層14を形成しているので、この補助電極層14を介してCVD−SiC板12と第1の電極23との間に放電加工用の電圧が確実に印加され、また、電極回転部24により第1の電極23を中心軸Cの回りに回転駆動させているため、極めて効率よくCVD−SiC板12を放電加工することができる。さらに、冷媒供給部25により第1の電極23の中空の内部に冷却流体を流通させているので、第1の電極23を高温により損傷することなく、放電加工を進行させることができる。
【0019】
ステップS3で、必要数の第1の貫通孔H1の形成が確認されるまで、ステップS4で、ステージ移動部22によりステージ21を水平方向に移動させて補助電極層14の表面に対する第1の電極23の位置を相対移動させ、ステップS2に戻って第1の貫通孔H1の形成が繰り返される。すなわち、補助電極層14の表面上における第1の電極23の位置を変えながら、単一の第1の電極23を用いてCVD−SiC板12に配列ピッチPで複数の第1の貫通孔H1を1つずつ形成する。
【0020】
そして、ステップS3で、SiC部材11に形成しようとする貫通孔13の個数と同数の第1の貫通孔H1の形成が確認されると、ステップS5に進み、制御部27による制御の下、複数の第2の電極28を用いて放電加工によりCVD−SiC板12の複数の第1の貫通孔H1を同時に第2の貫通孔H2に拡大する。このとき、図6に示されるように、複数の第1の貫通孔H1に複数の第2の電極28が位置合わせされ、複数の第2の電極28を一体に連結する支持部材29とCVD−SiC板12の補助電極層14に加工電源部26が接続される。この状態で、加工電源部26により支持部材29を介してそれぞれの第2の電極28とCVD−SiC板12の補助電極層14との間に放電加工用の電圧が印加され、ステージ移動部22によりステージ21が上昇されてそれぞれの第2の電極28がCVD−SiC板12の対応する第1の貫通孔H1に対し相対的に接近する。
【0021】
既に第1の貫通孔H1が形成されているので、第1の電極23のように第2の電極28を中心軸の回りに回転することなく、また、第2の電極28に冷却流体を流通させることなく、容易に且つ効率よく放電加工が進行する。第2の電極28は、第1の電極23よりも太く形成されているため、ステージ移動部22によるステージ21の上昇を続けることで、図7に示されるように、複数の第2の電極28により複数の第1の貫通孔H1が同時に第2の貫通孔H2に拡大される。
これにより、図8に示されるように、CVD−SiC板12および補助電極層14にピッチPで複数の第2の貫通孔H2が形成される。
【0022】
その後、ステップS6で、エッチング等によりCVD−SiC板12の表面から補助電極層14を除去し、さらに、続くステップS7で、CVD−SiC板12を湿式洗浄し、水すすぎと乾燥を行うことにより、図1に示したような複数の貫通孔13が形成されたSiC部材11の作製が完了する。CVD−SiC板12に形成された第2の貫通孔H2が、そのままSiC部材11の貫通孔13となる。
なお、湿式洗浄は、ピランハ溶液による硫酸過水洗浄、超高純度バッファードフッ酸(BHF)浴等により行うことができる。
【0023】
以上のように、CVD−SiC板12の表面上に補助電極層14を形成し、単一の第1の電極23を回転させながら第1の電極23と補助電極層14との間に電圧を印加して放電加工により第1の貫通孔H1を形成すると共に、これを繰り返してCVD−SiC板12に複数の第1の貫通孔H1を1つずつ形成した後、それぞれ第1の電極23よりも太く形成された複数の第2の電極28と補助電極層14との間に電圧を印加して放電加工により複数の第1の貫通孔H1をそれぞれ所定の径の第2の貫通孔H2に同時に拡大するので、CVD−SiC板12に複数の貫通孔13を容易に形成することができる。また、ステージ移動部22によりステージ21を移動させながら放電加工を行うので、高精度に貫通孔13を形成することができ、容易に自動化を図ることも可能となる。
【0024】
なお、複数の第2の電極28がWから形成されていたが、Mo(モリブデン)から第2の電極28を形成することもでき、また、WまたはMoの合金から第2の電極28を形成することもできる。
【0025】
実施の形態2
上記の実施の形態1では、単層のCVD−SiC板12に複数の貫通孔13を形成したが、これに限るものではない。実施の形態2に係る穿孔方法により複数の貫通孔が形成されたSiC部材31は、図9に示されるように、焼結SiC板32の上にCVD−SiC層33が形成されたものであり、焼結SiC板32に複数の貫通孔34がピッチPで配列形成されると共にCVD−SiC層33にそれぞれ焼結SiC板32の対応する貫通孔34に接続された複数の貫通孔35がピッチPで配列形成されている。
【0026】
実施の形態2に係る穿孔方法は、次のようにして実施される。
まず、図10に示されるように、CVD−SiC層33の表面上に補助電極層36を形成し、補助電極層36が上方を向くようにSiC部材31を穿孔装置のステージ21の上に搭載して保持させる。
次に、電極回転部24により第1の電極23を中心軸Cの回りに回転駆動すると共に冷媒供給部25により第1の電極23の中空の内部に冷却流体を流通させ、さらに、加工電源部26により補助電極層36と第1の電極23との間に電圧を印加した状態で、ステージ移動部22によりステージ21を上昇させることで、図11に示されるように、放電加工によりCVD−SiC層33および焼結SiC板32に第1の貫通孔H11を形成する。補助電極層36の表面に対する第1の電極23の位置を相対移動させつつ、同様に第1の貫通孔H11の形成を繰り返すことにより、CVD−SiC層33および焼結SiC板32に配列ピッチPで複数の第1の貫通孔H11を1つずつ形成する。
【0027】
SiC部材31に形成しようとする貫通孔34および35の個数と同数の第1の貫通孔H11が形成されると、図12に示されるように、CVD−SiC層33用の複数の第2の電極41がCVD−SiC層33に形成された複数の第1の貫通孔H11に位置合わせされる。複数の第2の電極41は、それぞれ、W(タングステン)から形成され且つ第1の電極23よりも太いワイヤ形状を有しており、SiC部材31に形成しようとする貫通孔34および35の個数と同数の第2の電極41が、導電性を有する支持部材42に一体に連結され、ピッチPで互いに平行に延びている。
【0028】
加工電源部26により支持部材42を介してそれぞれの第2の電極41と補助電極層36との間に電圧を印加した状態で、ステージ移動部22によりステージ21を上昇させることで、図13に示されるように、CVD−SiC層33に形成されている複数の第1の貫通孔H11を放電加工により同時に第2の貫通孔H21に拡大する。ステージ移動部22によるステージ21の上昇は、第2の電極41の先端がCVD−SiC層33と焼結SiC板32の境界に至ったところで停止される。
【0029】
その後、複数の第2の電極41が補助電極層36の上方へ離れるまでステージ21を一旦下降させ、ここで、図14に示されるように、SiC部材31を上下反転させ、補助電極層36を下方に、焼結SiC板32を上方に向けてSiC部材31をステージ21上に保持させる。この状態で、焼結SiC板32用の複数の第2の電極43が焼結SiC板32に形成されている複数の第1の貫通孔H11に位置合わせされる。複数の第2の電極43は、それぞれ、W(タングステン)から形成され且つCVD−SiC層33用の第2の電極41よりも太いワイヤ形状を有しており、SiC部材31に形成しようとする貫通孔34および35の個数と同数の第2の電極43が、導電性を有する支持部材44に一体に連結され、ピッチPで互いに平行に延びている。
【0030】
加工電源部26により支持部材44を介してそれぞれの第2の電極43と補助電極層36との間に電圧を印加した状態で、ステージ移動部22によりステージ21を上昇させることで、図15に示されるように、焼結SiC板32に形成されている複数の第1の貫通孔H11を放電加工により同時に第2の貫通孔H22に拡大する。ステージ移動部22によるステージ21の上昇は、第2の電極43の先端が焼結SiC板32とCVD−SiC層33の境界に至ったところで停止される。
【0031】
これにより、図16に示されるように、CVD−SiC層33にピッチPで複数の第2の貫通孔H21が形成されると共に、焼結SiC板32にピッチPで複数の第2の貫通孔H22が形成され、互いに対応する第2の貫通孔H21と第2の貫通孔H22が同軸上に接続される。
その後、CVD−SiC層33の表面から補助電極層36を除去し、さらに、湿式洗浄、水すすぎおよび乾燥を行うことにより、図9に示したような複数の貫通孔34および35が形成されたSiC部材31の作製が完了する。CVD−SiC層33に形成された第2の貫通孔H21がそのままSiC部材31の貫通孔35となり、焼結SiC板32に形成された第2の貫通孔H22がそのままSiC部材31の貫通孔34となる。
【0032】
このようにして作製されたSiC部材31は、図24に示したようなプラズマ処理装置のチャンバ内で反応ガスを均等に分配するシャワーヘッドとして使用することができる。CVD−SiC層33が形成された面をプラズマ発生領域に向けて、SiC部材31からなるシャワーヘッドをチャンバ内に配置することで、パーティクルの発生を防止することができる。
【0033】
なお、複数の第1の貫通孔を拡大するための複数の第2の電極として、SiC部材に形成しようとする貫通孔の個数と同数の第2の電極を共通の支持部材に一体に連結したものを用いることができるが、形成しようとする貫通孔の個数が膨大な場合には、膨大な数の貫通孔を所定数毎に複数のブロックに分割し、ブロックに対応した複数の第2の電極を用いることもできる。すなわち、各ブロックにおける貫通孔の個数に合わせて、所定数の第2の電極を支持部材に一体に連結したものを使用し、ブロック毎に所定数の第1の貫通孔を第2の貫通孔に拡大し、これを繰り返して全てのブロックの第1の貫通孔を第2の貫通孔に拡大すればよい。
プラズマ処理装置に使用されるシャワーヘッドには、1000個以上もの多数の貫通孔を有するものがあるが、このようなシャワーヘッドに使用されるSiC部材を穿孔する場合に、例えば100本の第2の電極を支持部材に一体に連結したものを使用し、放電加工を10回繰り返すことで、1000個の第2の貫通孔を形成することができる。
【0034】
また、上記の実施の形態1および2では、SiC部材11および31に複数の貫通孔13、34および35を形成したが、貫通孔に限るものではなく、同様にして、SiC部材に貫通しない複数の孔を形成することもできる。
【実施例】
【0035】
上述した実施の形態2と同様にして、焼結SiC板の上にCVD−SiC層が形成されたSiC部材に21個の貫通孔を形成した。CVD−SiC層の上方から見たSiC部材の写真を図17に示す。
焼結SiC板の厚さを9.38mm、CVD−SiC層の厚さを2.2mmとし、Cuからなる単一の第1の電極により直径0.4mmの第1の貫通孔を形成した後、CVD−SiC層用の21本のWからなる第2の電極を用いてCVD−SiC層の第1の貫通孔をそれぞれ直径0.5mmの第2の貫通孔に拡大し、さらに、焼結SiC板用の21本のWからなる第2の電極を用いて焼結SiC板の第1の貫通孔をそれぞれ直径1.0mmの第2の貫通孔に拡大した。
【0036】
このようにして形成された貫通孔の側断面写真を図18に示す。CVD−SiC層の第2の貫通孔H21と焼結SiC板の第2の貫通孔H22がそれぞれCVD−SiC層および焼結SiC板の厚さ方向に精度よく形成され、互いに同軸上に接続されている状態が明確に示されている。
図19および図20の顕微鏡写真に示されるように、直径0.5mmの円形断面を有するCVD−SiC層の第2の貫通孔H21が精度よく形成され、また、図21および図22の顕微鏡写真に示されるように、直径1.0mmの円形断面を有する焼結SiC板の第2の貫通孔H22が精度よく形成されていることがわかる。
【0037】
さらに、この実施例により複数の貫通孔が形成されたSiC部材の表面分析を行ったところ、図23に示されるような結果が得られ、第1の電極の材料として使用されたCuが残留していないことが確認された。これは、Cuからなる第1の電極を用いて第1の貫通孔を形成した後、Wからなり且つ第1の電極よりも径の大きな第2の電極を用いて第2の貫通孔を形成したためと考えられる。
【符号の説明】
【0038】
11,31 SiC部材、12 CVD−SiC板、13、34,35 貫通孔、14 補助電極層、21 ステージ、22 ステージ移動部、23 第1の電極、24 電極回転部、25 冷媒供給部、26 加工電源部、27 制御部、28,41,43 第2の電極、29,42,44 支持部材、32 焼結SiC板、33 CVD−SiC層、C 第1の電極の中心軸、M 被加工物、P ピッチ、H1,H11 第1の貫通孔、H2,H21,H22 第2の貫通孔。
図1
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