(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程Bは前記クロロシランに含まれる金属含有化合物を前記ボロン酸化物に吸着させて付加化合物とする工程でもあり、前記工程Cは前記付加化合物を除去する工程でもある、請求項1に記載のクロロシランの精製方法。
前記金属含有化合物は、鉄、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの何れかの塩化物のうちの少なくともひとつの塩化物である、請求項3に記載のクロロシランの精製方法。
【背景技術】
【0002】
トリクロロシラン(HSiCl
3)をはじめとするクロロシランは、シリコンウエハ等の製造に用いられる高純度多結晶シリコンの原料として古くから使用されてきた。トリクロロシランを得るための合成方法として、例えば、特開昭56−73617号公報(特許文献1)には、トリクロロシランの製造において副成物となる四塩化珪素が効率よくトリクロロシランに変換されることを特長とするトリクロロシランの製造方法の発明が開示されている。
【0003】
また、この他にも、下記のようなトリクロロシランの製造方法が知られている。
【0004】
特開平2−208217号公報(特許文献2)や特開平9−169514号公報(特許文献3)等には、冶金級シリコンと塩化水素を約250℃以上の温度において接触させる直接法が開示されている。
【0005】
特開昭60−36318号公報(特許文献4)には、四塩化ケイ素を冶金級シリコンの存在下で水素と反応させてトリクロロシランに還元する方法が開示されている。
【0006】
特開平10−29813号公報(特許文献5)には、上記冶金級シリコンの代わりに銅シリサイドを用い、四塩化ケイ素を銅シリサイドの存在下で水素と反応させてトリクロロシランに還元する方法が開示されている。
【0007】
ところで、リンやボロン等の不純物は、シリコン結晶中においてドナーやアクセプタとして作用するため、半導体製造用原料としての多結晶シリコンにこれらのドーパント成分が含まれていると最終製品としてのシリコンウエハ中に取り込まれてしまう。このため、半導体グレードの多結晶シリコンを製造する際には、精密な蒸留を経て得られた高純度なクロロシランが用いられる。
【0008】
このような高純度クロロシランの製造技術に関連して、単純な蒸留法の他に、シリカゲルや活性炭等の各種の吸着剤に通液して不純物を吸着除去する方法や、トリクロロシランの蒸留前に予め、ゲッター等を用いて上述したドーパント成分を分離容易な形態に転換させて分離除去する方法(例えば、特開2004−250317号公報(特許文献6)参照)が提案されている。
【0009】
これらの精製方法は、除去対象である不純物成分の濃度範囲や、精製コストや操作性といったに諸事情に応じて適宜選択される。
【0010】
ところで、冶金級シリコン中には多量のボロン化合物が含まれている。このため、冶金級シリコンを原料としてクロロシラン類を製造すると、得られたクロロシラン類中のボロン不純物濃度は数ppm程度となる。
【0011】
しかし、このような高濃度でボロン不純物を含むクロロシラン類を原料として多結晶シリコンを製造すると、ボロンは多結晶シリコン中に不純物として取り込まれ、これがアクセプタとして作用し、その品質を大きく劣化させてしまう。
【0012】
このような事情から、クロロシラン中のボロン不純物を除去する方法として様々な方法が提案されてきた。
【0013】
クロロシラン中のボロン不純物を除去する従来方法のひとつに、クロロシランを含む組成物に少量の湿分を接触させる工程を備えることとしたものがある。例えば、特開2011−524328号公報(特許文献7)には、「少なくとも1つのケイ素ハロゲン化物を含む組成物Iにおけるホウ素含有量の減少のための方法」として、「組成物I」と「10ないし50mg/kg(ppm)の湿分」とを接触させることとした発明が開示されており、このような「湿分の供給は、殊に不活性ガス、例えば窒素、アルゴンおよび/または水素を介して実施される。そのために、通常、液体の水、好ましくは脱イオン水を不活性ガスと共に、高められた温度で均質化し、殊に完全に液滴なく100℃より上に加熱する。得られる加熱された湿った不活性ガスをその後、高められた圧力下で組成物Iに給送する。好ましくは該湿分をキャリアガスとしての窒素と共に給送する。」とされている。
【0014】
上記特許文献7に開示の発明は、ドイツの特許公開公報DE1906197号に開示の方法様式の不利(水を用いた三塩化ホウ素の完全な変換のために必要とされる高い水量)に鑑みてなされたものとされ、かかる過剰な水量は、「ホウ素含有化合物の完全な除去の際に、SiO
2およびポリマーのシロキサンの形成による設備の強硬なケイ化作用、並びに大量の腐蝕性作用のある塩化水素をもたらす。両者は製造設備の高められた材料負荷をもたらす。」とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、シリカゲルや活性炭等の各種の吸着剤に通液させて不純物除去する方法には、吸着剤の破過特性の管理、再生処理、定期的交換などの必要があり、作業が複雑で効率も悪い。
【0017】
ゲッター等を用いてボロン不純物成分を予め分離容易な形態に転換させて分離除去する方法もまた、上記と同様の作業が必要となり効率が悪い上に、コスト的にも高くなるという問題がある。
【0018】
また、特許文献7に開示の発明は、ホウ素含有化合物の除去のための水量を過剰のものとしないために、精製対象の組成物に接触させる湿分を「10ないし50mg/kg(ppm)」としたものであるが、当該湿分は通常のプロセスガスの水分濃度よりも高いため、「液体の水、好ましくは脱イオン水を不活性ガスと共に、高められた温度で均質化」して「加熱された湿った不活性ガス」とする工程が必須となり、その分だけコストが高まるという問題がある。
【0019】
本発明はこのような問題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、クロロシランの精製において、低コストで且つ高効率にボロン不純物および金属不純物を分離除去するための、新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、第1の発明に係るクロロシランの精製方法は、下記の工程A〜Cによりクロロシラン中のボロン含有化合物を除去してクロロシランを精製することを特徴とする。
クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる工程A:
前記クロロシランに含まれるボロン含有化合物と前記シラノール若しくはシロキサン化合物を反応させて前記ボロン含有化合物をボロン酸化物とする工程B:
前記クロロシランを蒸留して前記ボロン酸化物を除去する工程C:
【0021】
好ましくは、前記工程Bは前記クロロシランに含まれる金属含有化合物を前記ボロン酸化物に吸着させて付加化合物とする工程でもあり、前記工程Cは前記付加化合物を除去する工程でもある。
【0022】
また、第2の発明に係るクロロシランの精製方法は、下記の工程D〜Fによりクロロシラン中の金属含有化合物を除去してクロロシランを精製することを特徴とする。
クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる工程D:
前記クロロシランに含まれる金属含有化合物を前記シラノール若しくはシロキサン化合物に吸着させて付加化合物とする工程E:
前記クロロシランを蒸留して前記付加化合物を除去する工程F:
【0023】
ある態様では、前記工程A若しくは工程Dにおいて、0.5〜2.5ppmの水分濃度の不活性ガスを前記クロロシランに接液させて水分を溶け込ませ、該クロロシランの一部の加水反応により前記シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる。
【0024】
また、別の態様では、前記工程A若しくは工程Dにおいて、シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を含有する未精製クロロシランを前記クロロシランに添加して、前記クロロシラン中に前記シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる。
【0025】
例えば、前記未精製クロロシランは、金属ケイ素と塩酸を反応させて得られた未精製クロロシラン、金属ケイ素と四塩化ケイ素を反応させて得られた未精製クロロシラン、トリクロロシランを原料としてポリシリコンを合成した際に得られた未反応クロロシランのうちの少なくとも1種である。
【0026】
また、例えば、前記ボロン含有化合物は、ボロン塩化物またはボロン水素化物の少なくとも一方の化合物である。
【0027】
さらに、例えば、前記金属含有化合物は、鉄、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの何れかの塩化物のうちの少なくともひとつの塩化物である。
【0028】
例えば、前記クロロシランは、SiCl
4、SiHCl
3、SiH
2Cl
2、SiH
3Cl、SiH
4のうちの何れかの単一組成のもの、若しくは、前記組成のものが複数混合されたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、精製対象であるクロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成せしめ、これにボロン含有化合物や金属含有化合物を吸着させて付加化合物として不純物除去することとしたので、従来法のように別途の吸着剤や添加剤を用いることなく、また、湿分供給のための別途の工程を設けることなく、低コストで高効率にクロロシランを精製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面を参照して本発明に係るクロロシランの精製方法の実施の形態について説明する。
【0032】
クロロシランは水と反応すると塩酸を発生させて精製設備を腐食させることは周知であるが、この加水反応によりシラノール(Si−OH)やシロキサン(−Si−O−Si−)も生成する。上記塩酸の発生は急激に進行するのに対し、シラノールやシロキサンの生成は比較的緩やかに進行し、やがてポリマーを形成し、最終的にはSiO
2の粉やゲルとなる。
【0033】
本発明者らは、クロロシラン中に含まれる不純物としてのボロン化合物や金属化合物の除去方法について検討を重ねた結果、加水反応により生成するシラノール(Si−OH)やシロキサン(−Si−O−Si−)を利用して、これらの不純物を除去するという着想を得た。
【0034】
本発明者らは、特別に湿分を付与しなくとも、通常工程で用いられている露点管理された不活性ガス(N
2、H
2、Ar等)中にも、数ppmレベルの湿分が含まれていることに着目し、これを利用した上記不純物の除去の可能性について検討した。その結果、低濃度の湿分により生成したクロロシラン中のシラノールやシロキサン化合物との反応により、低沸点化合物であるボロン含有化合物が高沸点化合物であるボロン酸化物となること、また、クロロシランに含まれる金属含有化合物をシラノールやシロキサン化合物あるいは上記ボロン酸化物に吸着させて付加化合物とし得ることを確認した。
【0035】
図1は、本発明に係るクロロシランの精製方法によりボロン含有化合物を除去する工程を説明するためのフロー図である。
【0036】
先ず、クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる(S101)。ここで、クロロシランは、例えば、SiCl
4、SiHCl
3、SiH
2Cl
2、SiH
3Cl、SiH
4のうちの何れかの単一組成のものや、これらの組成のものが複数混合されたものである。
【0037】
この工程では、例えば、0.5〜2.5ppmの水分濃度の不活性ガスをクロロシランに接液させて水分を溶け込ませ、該クロロシランの一部の加水反応によりシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる。
【0038】
或いは、一般に、未精製クロロシラン中にはシラノールやシロキサン化合物が不純物として含まれているから、シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を含有する未精製クロロシランを、精製対象であるクロロシランに添加して、当該クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させるようにしてもよい。
【0039】
このような未精製クロロシランとしては、金属ケイ素と塩酸を反応させて得られた未精製クロロシラン、金属ケイ素と四塩化ケイ素を反応させて得られた未精製クロロシラン、トリクロロシランを原料としてポリシリコンを合成した際に得られた未反応クロロシランなどを例示することができる。
【0040】
次に、クロロシランに含まれるボロン含有化合物とシラノール若しくはシロキサン化合物を反応させて、ボロン含有化合物をボロン酸化物とする(S102)。このようなボロン含有化合物としては、ボロン塩化物やボロン水素化物を例示することができる。なお、金属ケイ素と塩酸から合成されるトリクロロシラン中のボロン化合物の形態は、BCl
3(沸点、13℃)、B
2H
6(沸点、−87.5℃)等が知られており、これら以外にも、BCl
3の水素置換物、BHCl
2、B
2H
6の塩素置換物、B
2H
5Clの存在も予見されている。
【0041】
この工程(S102)により、低沸点化合物であるボロン含有化合物が高沸点化合物であるボロン酸化物となり、クロロシランとの沸点差が大きくなり、後の分離が容易なものとなる。
【0042】
そして、最後に、クロロシランを蒸留してボロン酸化物を除去し、精製クロロシランを得る(S103)。
【0043】
なお、上述したように、クロロシランに含まれる金属含有化合物は、シラノールやシロキサン化合物あるいはボロン酸化物に吸着させて付加化合物とし得る。従って、上記ステップS102は、クロロシランに含まれる金属含有化合物をボロン酸化物に吸着させて付加化合物とする工程(後述のステップS202)でもあり、ステップS103は当該付加化合物を除去する工程(後述のステップS203)でもあり得る。
【0044】
上記と同様の工程により、クロロシラン中の金属含有化合物を除去することも可能である。
【0045】
図2は、本発明に係るクロロシランの精製方法により金属含有化合物を除去する工程を説明するためのフロー図である。
【0046】
先ず、クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる(S201)。
【0047】
この工程もまた、例えば、0.5〜2.5ppmの水分濃度の不活性ガスをクロロシランに接液させて水分を溶け込ませ、該クロロシランの一部の加水反応によりシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させる。
【0048】
或いは、上述したように、シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を含有する未精製クロロシランを、精製対象であるクロロシランに添加して、当該クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させるようにしてもよい。
【0049】
次に、クロロシランに含まれる金属含有化合物をシラノール若しくはシロキサン化合物に吸着させて、金属含有化合物を付加化合物とする(S202)。このような金属含有化合物としては、鉄、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの何れかの塩化物を例示することができる。この工程により、低沸点化合物である金属含有化合物が高沸点化合物である付加化合物となり、後の分離が容易なものとなる。
【0050】
そして、最後に、クロロシランを蒸留して付加化合物を除去し、精製クロロシランを得る(S203)。
【0051】
上述のとおり、本発明の一態様では、通常工程で用いられている露点管理された不活性ガス(N
2、H
2、Ar等)中に含まれている僅かな(数ppmレベル)の湿分を利用しており、意図しての水分添加を行うことはない。一般的に用いられるプロセスガスとしての不活性ガスは、露点が−70〜−80℃であり、水分濃度は、0.5〜2.5ppmであり、この水分が接液によりクロロシラン中に溶け込み、シラノールやシロキサン化合物を生成させる。なお、通常の条件下でクロロシラン中に溶け込む水分量は、濃度換算で0.2ppm程度である。
【0052】
また、本発明の他の態様では、湿分を利用したシラノールやシロキサン化合物の生成に替え、シラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を含有する未精製クロロシランを、精製対象であるクロロシランに添加する。このような未精製クロロシラン(例えば、金属ケイ素と塩酸を反応させて得られた未精製クロロシラン、金属ケイ素と四塩化ケイ素を反応させて得られた未精製クロロシラン、トリクロロシランを原料としてポリシリコンを合成した際に得られた未反応クロロシラン)中には、金属珪素に由来する不純物としてのシラノールやシロキサン化合物が含まれており、最大で、OH濃度に換算して100ppmのシラノール、重量濃度で0.1wt%のシロキサンが含まれている。
【0053】
参考のため、未精製クロロシラン中に含有されるシラノールの濃度の例を、OH濃度として表1に纏めた。
【0055】
勿論、上述の2つの手法を同時に利用して、クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させるようにしてもよい。
【0056】
シラノールやシロキサン化合物が酸化すると白色の粉が生成する。本発明者らは、この白色粉を酸素に触れさせることなくサンプリングしてTOF−SIMSにより分析した結果、シラノールやシロキサン化合物がボロンの酸化物と付加化合物を形成していることを確認した。さらに、塩化物の形態で含まれる鉄、クロム、ニッケル等の金属不純物が、このボロン酸化物に吸着して付加化合物を形成していること、および、シラノールやシロキサン化合物に吸着して付加化合物を形成していることも確認された。
【0057】
図3および
図4はそれぞれ、上述の白色粉をTOF−SIMSにより分析して得られたマススペクトルおよびマッピング像の一例である。
【0058】
図3に示したマススペクトに認められる質量(m/z)に対応するフラグメントを、表2〜4に纏めた。
【0062】
ボロン化合物についてみると、表2に示したように、ボロン化合物は「−O−(Si−O)
n−O−BO
2」の組成を有しており、酸化物の形態をとる。なお、TOF−SIMSの質量分析の上限がm/z=170であるため、上式においてn=3以上の酸化物の形態のものを実験的に確認することはできない。
【0063】
Si化合物についてみると、表3に示したように、Si数とともに酸素の数が増加しておりシロキサンのポリマーを形成している。
【0064】
ここに示した結果において最も重要な事実は、当初は塩化物若しくは水素化物として存在していたボロン不純物は酸化物へと変化し、シラノール又はシロキサンと結合していることである。つまり、クロロシランの溶液中に溶解していたボロン化合物はシラノール乃至シロキサンと反応してクロロシランに不溶解化した白色粉中に取り込まれるのである。
【0065】
なお、ボロン酸化物が、シラノールとシラノールの何れと結合しているかを特定することはできず、何れとも結合する可能性がある。TOF−SIMSにて測定されたフラグメントから親イオンを特定することはできないが、検出されたフラグメントのボロン化合物とSi化合物は同一分子である可能性もある。
【0066】
また、m/z=121と137のフラグメントにおいて、質量数からはシラノール又はシロキサンのどちらかを特定することはできない。
【0067】
図4のマッピングから、クロム塩化物(
図4(A))、鉄塩化物(
図4(B))、ボロン塩化物(
図4(C))、ニッケル塩化物(
図4(D))が白色粉に吸着して付加化合物中に取り込まれている様子が読み取れる。
【0068】
これらのマッピングの結果から、ボロン塩化物(−BO
2)と他の3種類の金属塩化物の分布が大凡一致していることが読み取れる。この事実は、−BO
2成分(シラノール又はシロキサン化合物)は、金属塩化物に付着(結合)している可能性を意味している。なお、塩化物以外に、金属酸化物および金属水酸化物についての検出を試みたが、何れの化合物も検出されなかった。
【0069】
上述の金属塩化物が、シラノール、シロキサン化合物、若しくは、一般式−O−(Si−O)
n−O−BO
2で表記される化合物に吸着して付加化合物を形成していることの検証方法について以下に記す。
【0070】
十分に精製されたトリクロロシラン中に、金属不純物(Fe,Cr,Ni,Cu,Zn,Al,Ca,Mg)を10〜100ppbで含ませたトリクロロシランを単蒸留し、留出液(精製トリクロロシラン)中の金属成分を定量した。なお、金属成分の定量は、ICP−MSにより行った。
【0071】
ここで、上述の十分に精製されたトリクロロシランは、赤外吸光法によりシラノールおよびSi−OHのOH量を定量した際の濃度が0.1ppm以下であり、高温GCにより測定した際のシロキサン化合物の濃度が0.01ppm以下であり、ボロン濃度が0.02ppm以下であるトリクロロシランである。
【0072】
これに加え、白色粉が発生したトリクロロシラン(白色粉発生トリクロロシラン)についても、単蒸留塔の底部での金属濃度と留出液の金属濃度の比を求めた。
【0073】
表5に、上述の精製トリクロロシランおよび白色粉発生トリクロロシランのそれぞれについて、テフロン(登録商標)容器にて単蒸留を行った後に液側に残った金属成分の濃度と留出液側に存在する金属成分の濃度の比を纏めた。
【0075】
上述した付加化合物は、クロロシランの液体中で不純物同士の反応により生成して不溶化したものであって、除去対象である不純物が高沸点化されたものに他ならないから、クロロシランからの分離が容易なものとなる。
【0076】
従って、本発明によれば、従来法のように、特段の吸着剤等を添加することなく、除去対象である不純物を高沸点化させて不溶化させることができるため、効率的なクロロシランの精製が可能となる。
【実施例】
【0077】
実施例1〜3として、下記の手順で、異なる液組成の混合トリクロロシラン(仕込み原料)を準備した。
【0078】
先ず、金属ケイ素と塩酸を反応させ、合成液を得てからトリクロロシランの留分のみを捕集した。このトリクロロシラン中のシラノールのOH濃度を測定すると10ppmであった。これとは別に、金属ケイ素と四塩化ケイ素を反応させ、トリクロロシランを生成させた。このトリクロロシラン中のOH濃度を測定すると5ppmであった。
【0079】
次に、金属ケイ素と塩酸の反応で得られた第1のトリクロロシランと、金属ケイ素と四塩化ケイ素の反応で得られた第2のトリクロロシランを混合させた。この混合の際には、N
2ガス(露点−70℃、水分濃度2.5ppm)を混合トリクロロシランに接液させた。
【0080】
混合トリクロロシランを蒸留する前の段階(仕込原料)は、シラノール濃度(OH濃度)が8〜10ppmであり、シロキサン化合物は、HSiCl
2−O−SiCl
3のものが80〜120ppm、SiCl
3−O−SiCl
3のものが50〜60ppmであった。また、ボロン濃度は、140〜9000ppbであった。
【0081】
この混合トリクロロシラン液を単蒸留したところ、底液中に白色の固体の粉状のものが認められた。なお、その量は底液重量に対して5ppmであった。
【0082】
比較例1および比較例2として、蒸留する前の段階(仕込原料)のボロン濃度が850ppbおよび90ppbのトリクロロシランを準備し、N
2ガス(露点−70℃、水分濃度2.5ppm)を接液させることなく単蒸留した。なお、これら蒸留前トリクロロシラン(仕込原料)のシラノールおよびシロキサン化合物の濃度は、何れも0.1ppm未満であった。
【0083】
表7に、実施例1〜3および比較例1〜2のそれぞれにつき、単蒸留(60℃)により得られた留出液の組成を分析した結果を示す。表中に示した金属濃度は、鉄、クロム、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、マグネシウムの濃度の合計である。
【0084】
【表6】
【0085】
実施例1〜3の何れにおいても、蒸留により、ボロン不純物および金属不純物の濃度が顕著に低下している。
【0086】
例えば、ボロン不純物についてみると、実施例2と比較例1は仕込原液中のボロン濃度は同程度であるが、留出液中のボロン濃度は、比較例1においては殆ど低下が認められないのに対し、実施例2においては0.5ppbにまで低減されている。この傾向は、実施例3と比較例2についても同様である。実施例1においては、仕込原液中のボロン濃度が9000ppbであったものが、蒸留により1ppbにまで低減されている。
【0087】
金属不純物についてみると、実施例1と比較例1は仕込原液中の金属濃度は同程度であるが、留出液中の金属濃度をみると、比較例1においては20ppbであるのに対し、実施例1においては0.4ppbにまで低減されている。また、実施例2および3においては、蒸留により検出限界(0.1ppb)未満にまで低減されている。
【0088】
以上説明したように、本発明では、シラノールやシロキサンを利用するものであるから、吸着剤等を用いる必要がない。
【0089】
また、クロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成させるに際し、高濃度の湿分供給を行うことをしないため、余剰の湿分が留分に残存してしまい、蒸留工程中でシラノールやシロキサン化合物を生成させてしまうこともない。
【0090】
本発明によれば、精製対象であるクロロシラン中にシラノールおよびシロキサン化合物の少なくとも一方を生成せしめ、これにボロン含有化合物や金属含有化合物を吸着させて付加化合物として不純物除去することとしたので、従来法のように別途の吸着剤や添加剤を用いることなく、また、湿分供給のための別途の工程を設けることなく、低コストで高効率にクロロシランを精製することが可能となる。