特許第6095647号(P6095647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6095647不織繊維シート及びその製造方法並びにフィルター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6095647
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】不織繊維シート及びその製造方法並びにフィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20170306BHJP
   D04H 1/559 20120101ALI20170306BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20170306BHJP
【FI】
   B01D39/16 A
   D04H1/559
   D04H1/541
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2014-508044(P2014-508044)
(86)(22)【出願日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2013059319
(87)【国際公開番号】WO2013147051
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2012-75260(P2012-75260)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】清岡 純人
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−098356(JP,A)
【文献】 特開2010−149037(JP,A)
【文献】 特開平04−145914(JP,A)
【文献】 特開2009−233645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−39/20
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱接着性繊維を含み、かつ前記熱接着性繊維同士の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で形成された基材層と、この基材層の少なくとも一方の面に、基材層よりも高い見掛密度を有する不織繊維構造体で形成された表層とを含む不織繊維シートであって、両層の見掛密度比が、基材層/表層=1/1.5〜1/10であり、前記基材層の平均厚みが0.2mm以上1mm未満であり、前記基材層の見掛密度が30〜170kg/mであり、かつ前記基材層の面方向で前記熱接着性繊維が均一に融着し、前記不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向の30%以上にわたり連続して延びる繊維の存在割合が10%以下であるフィルター用不織繊維シート。
【請求項2】
基材層の見掛密度が40〜150kg/mであり、かつ表層の見掛密度が80〜800kg/mである請求項記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項3】
表層が、メルトブローン不織布で形成されている請求項又は記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項4】
不織繊維シートの平均厚みが0.35〜1.2mmであり、基材層と表層との平均厚み比が、基材層/表層=1.2/1〜30/1である請求項のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項5】
基材層の厚み方向で熱接着性繊維が均一に融着し、不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が50%以上である請求項1〜のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項6】
熱接着性繊維が、繊維表面において、長さ方向に連続して延びるエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含み、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン単位の含有量が10〜60モル%である請求項1〜のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項7】
熱接着性繊維が、繊維表面において、長さ方向に連続して延びる親水性ポリエステルを含む請求項1〜のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項8】
25mm幅×300mm長の構造体を、水平台の端から100mm長を水平台の外へ滑り出した時の重力による変位量で示される曲げ剛性がMD方向70mm以下、かつCD方向70mm以下である請求項1〜のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シート。
【請求項9】
熱接着性繊維を含む不織繊維ウェブを加熱し、前記熱接着性繊維同士を融着して板状不織繊維構造体を得る融着工程を含む請求項1〜のいずれかに記載のフィルター用不織繊維シートの製造方法。
【請求項10】
高温水蒸気で不織布繊維ウェブを加熱する請求項記載の製造方法。
【請求項11】
融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面を熱プレスする熱プレス工程を含む請求項又は10記載の製造方法。
【請求項12】
融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面にメルトブローン不織布を積層して高温水蒸気で加熱するメルトブローン積層工程を含む請求項11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜のいずれかに記載の不織繊維シートで形成されたフィルター。
【請求項14】
プリーツ加工された請求項13記載のフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性繊維を含む薄肉の不織繊維シート及びその製造方法並びに前記シートで形成されたフィルターに関する。より詳細には、熱接着性を有する繊維で構成されるため、厚み方向にほぼ均一な密度で繊維接着を保つことにより、繊維空隙に樹脂を充填したり、ケミカルバインダーや特殊な薬剤を添加することなく、優れた曲げ剛性と通気性、さらには、優れた成形性を有する不織繊維シート及びその製造方法並びに前記シートで形成されたフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、乾式不織布、湿式不織布が一般的であり、天然繊維、化学繊維を原料とし、不織布の性能を持たせる主体繊維に、繊維間を接着させるための熱溶融繊維を混合させ、熱処理を行なうことで、繊維間を接着させ、不織布を製造している。これらの不織布の熱処理及び乾燥は、ローラータッチ及び熱風炉での処理が一般的である。
【0003】
熱処理された不織布は1mm未満の薄い不織布が多く、折りたたみも容易であるため、ワイパー、衛生材等に広く使用されている。しかし、薄肉の不織布に強い衝撃や荷重をかけて折り曲げると、急激に破損するため、面に荷重を掛けるような加工方法には適していない。さらに、薄肉の不織布は、ロール巻きでの取り扱いに優れるが、切断してシート状とした場合、柔らかすぎるため、ボード材のような取り扱いができない。
【0004】
一方、板状の不織布を製造するためには、カードウェブを積層させ、厚めの構造体を作製した後、ニードルパンチなどの方法にて繊維を絡合することで不織布の密度を高め、さらに熱処理を施して製造する方法がある。しかし、厚みが厚すぎる、および密度が高過ぎると、熱処理において表面の繊維のみが接着し、不織布の厚み方向全体への接着が不十分となる。さらには、量産化も不可能である。
【0005】
例えば、特許第4522671号公報(特許文献1)には、高融点重合体と低融点重合体からなる繊維で構成され、部分的に熱圧接処理され、非圧接部では不織布内層部で繊維を融着させない構造を有するフィルター用不織布が提案されている。しかし、この不織布は、ろ過面積が大きくなり集塵能力は優れるが、繊維の融着していない部分(非圧接部)が存在するため、フィルターユニット等、スリット部への挿入時は、構造体の中央で横ずれを起こし、剥離が発生して不織布が破損し、フィルターとしての機能が欠損する。
【0006】
さらに、特開2004−19061号公報(特許文献2)では、長繊維不織布A、低融点ポリエステルが鞘成分の芯鞘型複合繊維からなる不織布B、ポリエステル不織布Cを積層一体化したポリエステル系複合不織布が提案されている。この不織布は、積層一体化により剛性を向上でき、さらにフィルター性能も高いことを特徴としている。しかし、この不織布は、独立した3層構造であるため製造工程が複雑になり、かつ独立した3層を貼り合せることから、層間剥離が発生しやすい。
【0007】
特に、濾過面積の増大を目的として薄肉のシートをプリーツ加工したフィルターでは、長期間の使用に対して濾過性能を維持するために、長期間使用してもプリーツ形状を保持できるフィルター強度が要求される。しかし、プリーツ加工された薄肉のフィルターにおいて、強度と濾過性能とは、強度を上げると、濾過性能が低下するトレードオフの関係にあり、実現が困難であった。そのため、これらのフィルターでも、プリーツ加工された薄肉のフィルターを長期間に亘り濾過性能を維持して使用するのは困難であった。
【0008】
また、特開2009−233645号公報(特許文献3)には、湿熱接着性繊維を含み、かつ不織繊維構造を有するフィルターであって、前記湿熱接着性繊維の融着により前記不織繊維構造が固定された成形体で構成されているフィルターが開示されている。しかし、この文献では、厚みのある三次元構造であるにも拘わらず、優れた濾過性を示すとともに、圧力損失も少なく、長期間使用できることを目的としており、薄肉のフィルターは想定されていない。
【0009】
一方、特開2009−84717号公報(特許文献4)には、湿熱接着性樹脂でポリエステル系繊維又はポリオレフィン系繊維の表面が被覆され、かつ繊維径1〜10dtexの湿熱接着繊維性繊維を少なくとも80%以上含む板状不織繊維構造体であって、繊維充填率が40〜85%の割合で厚み方向に均一に接着しているとともに、見掛密度が0.2〜0.7g/cmであり、厚みが0.5〜5mmである板状不織繊維構造体が開示されている。この文献には、前記板状不織繊維構造体は、扉、屏風、間仕切、靴、容器の蓋などのシート状蝶番として使用できることが記載されている。
【0010】
特開2012−77432号公報(特許文献5)には、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成された透光性シートであって、見掛密度が10〜200kg/mである低密度層と、この低密度層の少なくとも一方の面に積層され、かつ見掛密度が前記低密度層よりも大きい高密度層との積層構造を有する透光性シートが開示されている。この文献には、前記透光性シートは、採光又は調光を目的として、住宅や公共施設の建築物の窓、屋根、壁材、天井材、衝立、扉、雨戸、シャッター、屏風、照明や看板、電気製品などのランプシェードなどに利用できることが記載されている。
【0011】
しかし、特許文献4及び5には、フィルターについて記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4522671号公報(請求項2、実施例2)
【特許文献2】特開2004−19061号公報(請求項1、実施例)
【特許文献3】特開2009−233645号公報(請求項1、段落[0009])
【特許文献4】特開2009−84717号公報(請求項1、段落[0061])
【特許文献5】特開2012−77432号公報(請求項1、段落[0158])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、薄肉のシートであるにもかかわらず、曲げ剛性を向上でき、荷重が掛かった時に変形が少なく、かつ成形性に優れたフィルター用不織繊維シート及びその製造方法並びに前記シートで形成されたフィルターを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、プリーツ加工性に優れ、プリーツ加工しても、形態安定性が高く、長期間に亘り濾過性能を維持できるフィルター用不織繊維シート及びその製造方法並びに前記シートで形成されたフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱接着性繊維同士を面方向に略均一に融着させた基材層を形成することにより(特に、密度勾配を設けた積層構造を形成することにより)、薄肉のシートであるにも拘わらず、曲げ剛性が向上し、荷重が掛かった時に変形が少なく、かつ成形性に優れたフィルター用不織繊維シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明のフィルター用不織繊維シートは、熱接着性繊維を含み、かつ前記熱接着性繊維同士の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で形成された基材層を含む不織繊維シートであって、前記基材層の平均厚みが0.2mm以上1mm未満であり、前記基材層の見掛密度は30〜170kg/mであり、かつ前記基材層の面方向で前記熱接着性繊維が略均一に融着している。本発明のシートは、前記基材層の少なくとも一方の面に、基材層よりも高い見掛密度を有する不織繊維構造体で形成された表層を有していてもよい。前記表層は、熱プレスで形成された層であってもよい。前記基材層の見掛密度は40〜150kg/mであり、かつ前記表層の見掛密度は80〜800kg/mであるとともに、両層の見掛密度比は、基材層/表層=1/1.2〜1/15であってもよい。また、前記表層は、メルトブローン不織布で形成されていてもよい。また、前記表層は、メルトブローン不織布を含み、かつ熱プレスされた層であってもよい。前記不織繊維シートの平均厚みは0.35〜1.2mmであり、前記基材層と前記表層との平均厚み比は、基材層/表層=1.2/1〜30/1であってもよい。前記基材層の厚み方向で熱接着性繊維は、略均一に融着していてもよい。前記熱接着性繊維は、繊維表面において、長さ方向に連続して延びるエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含んでいてもよい。前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるエチレン単位の含有量は10〜60モル%である。また、前記熱接着性繊維は、繊維表面において、長さ方向に連続して延びる親水性ポリエステルを含んでいてもよい。本発明のシートは、25mm幅×300mm長の構造体を、水平台の端から100mm長を水平台の外へ滑り出した時の重力による変位量で示される曲げ剛性がMD方向70mm以下、かつCD方向70mm以下であってもよい。
【0017】
本発明には、熱接着性繊維を含む不織繊維ウェブを加熱し、前記熱接着性繊維同士を融着して板状不織繊維構造体を得る融着工程を含む前記シートの製造方法も含まれる。前記融着工程において、高温水蒸気で不織繊維ウェブを加熱してもよい。本発明の製造方法は、前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面を熱プレスする熱プレス工程をさらに含んでいてもよい。また、本発明の製造方法は、前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面にメルトブローン不織布を積層して高温水蒸気で加熱するメルトブローン積層工程をさらに含んでいてもよい。
【0018】
さらに、本発明には、前記不織繊維シートで形成されたフィルターも含まれる。前記フィルターは、プリーツ加工されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、熱接着性繊維で繊維同士を面方向に略均一に融着させた基材層を含むため、従来の不織布と同等の薄肉シートであっても、剛性を向上できる。そのため、腰が小さく、成形できない従来の薄肉の不織布とは異なり、いろいろな形状に成形が可能である。また、1mmより厚い繊維系ボードでは硬すぎて、特定の形状に加工するときに制限を受け、いろいろな形状に成形できないが、本発明による繊維構造体は、1mm未満の厚さであるため、成形性に優れている。そのため、フィルターの成形に適しており、プリーツ加工性に優れ、プリーツ加工しても、形態安定性が高く、長期間に亘り濾過性能を維持できる。
【0020】
また、本発明の不織繊維シートは、繊維のみで構成され、ケミカルバインダーや特殊な薬剤を添加することなく製造可能であるため、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物を放出することがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の不織繊維シートの曲げ剛性の測定方法を示す模式図である。
図2図2は、本発明の不織繊維シートのプリーツ加工品の荷重変形量の測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[基材層]
本発明の不織繊維シートは基材層を含む。基材層は、熱接着性繊維を含み、かつ前記熱接着性繊維同士の融着により固定された不織繊維構造体で形成されている。この不織繊維構造体は、実質的に熱接着性繊維のみからなるのが好ましく、熱接着性繊維の接着性を阻害しない微量であれば、非熱接着性繊維を含んでいてもよいが、熱接着性繊維からなるのが特に好ましい。基材層が熱接着性のみからなると、熱接着性繊維同士が各交点で強固に接着するため、不織繊維シートをフィルターとして長期間使用しても、繊維構造体の網目構造が変形し、濾過性能が低下するのを抑制できる。
【0023】
(熱接着性繊維)
熱接着性繊維としては、熱接着性樹脂を含み、加熱によって流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよく、非湿熱接着性繊維であってもよいが、高温水蒸気を用いて均一な融着が可能であり、フィルターとしての特性にも優れている点から、湿熱接着性繊維が好ましい。基材層は、熱接着性繊維(特に湿熱接着性繊維)を原料繊維として用いた繊維ウェブに高温蒸気を作用させ、各々の繊維同士を熱接着性樹脂の乾燥時における融点以下の温度で、繊維同士を部分的に束状に集束させると、これらの単繊維及び束状集束繊維同士を湿熱下、適度に小さな空隙を保ちながら、いわば「スクラム」を組むように、点接着又は部分接着し、目的とする剛性のある薄い構造体を実現できる。
【0024】
湿熱接着性繊維に含まれる湿熱接着性樹脂としては、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2−4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ビニルアルコール系重合体、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系共重合体及びそのアルカリ金属塩[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドなどのアクリル系単量体で構成された単位を含む共重合体又はその塩など]、変性ビニル系共重合体(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体又はその塩など)、親水性の置換基を導入したポリマー(スルホン酸基やカルボキシル基、ヒドロキシル基などを導入したポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン又はその塩など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂など)などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーまたはゴム(スチレン系エラストマーなど)などのうち、熱水(高温水蒸気)の温度で軟化して接着機能を発現可能な樹脂も含まれる。湿熱接着性樹脂の融点又は軟化点は、例えば、80〜250℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは100〜180℃(特に105〜170℃)程度であってもよい。これらのうち、エチレンービニルアルコール系共重合体、親水性ポリエステルが好ましい。
【0025】
エチレンービニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の割合は、フィルターへの加工性の点から、例えば、10〜60モル%、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位の割合が少なすぎると、高温水蒸気で加熱した場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤・ゲル化してしまい、水に濡れると形態が変化し易い。また、多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現しにくくなるため、実用性のある硬度を確保できなくなる場合がある。
【0026】
エチレンービニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位の鹸化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。鹸化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、鹸化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
【0027】
エチレンービニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。エチレン単位が多いことにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。
【0028】
親水性ポリエステルは、親水性のユニット(例えば、置換基)を導入した共重合ポリエステル(共重合変性ポリエステル)であってもよい。共重合ポリエステルとしては、アルキレンアリレート単位を主成分として含むコポリエステルが挙げられ、特に、C2−6アルキレンアリレート単位(例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのC2−4アルキレンテレフタレート単位)を主成分として、他の共重合成分(変性剤)を含むコポリエステルが好ましい。他の共重合成分としては、ポリC2−4アルキレングリコール(特にジエチレングリコール)などのジオール成分であってもよいが、イソフタル酸やフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸(特にイソフタル酸)が好ましい。
【0029】
他の共重合成分の割合は、対応する全モノマー成分に対して(例えば、イソフタル酸の場合、全カルボン酸成分に対して)、例えば、10〜60モル%(例えば、10〜50モル%)、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。他の共重合成分の割合が少なすぎると、十分な繊維接着が発現せず、不織繊維構造体の剛性が低下する。他の共重合成分の割合が多すぎると、繊維接着性は向上するものの、紡糸の安定性が低下する。
【0030】
親水性のユニット(例えば、置換基)としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ポリオキシエチレン基など挙げられる。親水性の置換基の導入方法としては、特に限定されず、例えば、親水性のユニットを有するモノマーを共重合する方法であってもよい。
【0031】
親水性のユニットを有するモノマーとしては、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類や、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのジオール類などが挙げられる。これらの親水性のユニットを有するモノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのスルホン酸(塩)基を有するモノマーが好ましい。
【0032】
親水性のユニットを有するモノマー(特に、置換基としてスルホン酸(塩)基を有するモノマ)の割合は、親水性ポリエステル全体に対して、0.1〜5質量%(特に0.5〜3質量%)程度であってもよい。前記モノマーの割合が少なすぎると、親水性が不十分となり、多すぎると、紡糸時の曳糸性が低下し、単糸切れ、断糸が多くなる。
【0033】
なお、不織繊維シートを油成分などの液体用フィルターとして利用する場合には、親油性のモノマーとして、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタンなどのジカルボン酸類や、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールなどのジオール類を共重合してもよい。
【0034】
熱接着性繊維は、繊維表面に前記熱接着性樹脂が存在していればよく、接着性の点から、長さ方向に連続して延びて存在するのが好ましい。熱接着性繊維は、熱接着性樹脂のみで形成された単相繊維であってもよいが、形態保持性などの点から、表面において長さ方向に連続して存在する熱接着性樹脂と、熱接着のための加熱温度において繊維形態を保持できる繊維形成性重合体とで形成された複合繊維が好ましい。横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、熱接着性樹脂が全表面を長さ方向に連続して占める構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。このような芯鞘型複合繊維において、芯部を高温水蒸気などの加熱処理で溶融又は軟化しない繊維形成性重合体で形成することにより、加熱処理しても芯成分が繊維形態を維持するため、処理前の繊維構造を保持できる。
【0035】
複合繊維において、繊維形成性重合体としては、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー、セルロース系樹脂などが汎用される。これらの繊維形成性重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維形成性重合体のうち、耐熱性、寸法安定性等の点から、エチレン−ビニルアルコール系共重合体や親水性ポリエステルよりも融点が高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が特に好ましい。
【0036】
ポリエステル系樹脂としては、ポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、特に、PETなどのポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)や、ジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。
【0037】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0038】
複合繊維において、繊維を構成する樹脂成分全体に対して熱接着性樹脂の割合(例えば、芯鞘型複合繊維の場合、鞘部の割合)は、例えば、20〜60質量%(特に30〜55質量%)程度である。熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維形成性重合体により形成される繊維の強度を確保できなくなるため、複合繊維自体の強度を充分に確保するのが困難となる。また、逆に熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、繊維形態を保持できなくなり、長さ方向に連続して熱接着性樹脂を存在させることが困難になるばかりか、シート内部に繊維束を形成することが困難になるため、十分な曲げ剛性を確保するのが困難となる。
【0039】
熱接着性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、中空断面状などであってもよいが、芯鞘型複合繊維などの複合繊維では、通常、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面などである。
【0040】
熱接着性繊維の平均繊度は、例えば、0.5〜10dtex、好ましくは1〜5dtex、さらに好ましくは1.5〜3.5dtex程度である。繊度が細すぎると、繊維自体の製造が困難となることに加え、繊維強度の確保も困難となる。繊度が太すぎると、薄肉のシートの製造が困難となる。
【0041】
熱接着性繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm、好ましくは25〜75mm、さらに好ましくは40〜65mm程度である。繊維長が短すぎると、後の工程での繊維ウェブ形成が難しくなり、繊維同士の交絡が十分に行なわれず、強度の確保が困難となる。また、繊維長が長すぎると、均一な目付の繊維ウェブを形成するのが困難となる。
【0042】
熱接着性繊維は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、増粘剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0043】
フィルターでは、難燃性が要求される場合があり、前記添加剤のうち、難燃剤を添加してもよい。難燃剤としては、難燃性に優れる点から、ホウ素系難燃剤及び/又はケイ素系難燃剤が好ましい。ホウ素系難燃剤としては、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸などのホウ酸、ホウ砂、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウムなど)、縮合ホウ酸(塩)などが挙げられる。ケイ素系難燃剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン化合物、有機シリケート、シリカなどが挙げられる。これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ホウ酸及びホウ砂を主成分とする難燃剤が好ましく、水100質量部に対して、ホウ酸10〜35質量部及びホウ砂15〜45質量部を溶解させた水溶液からなる難燃剤が特に好ましい。
【0044】
難燃化の方法としては、通常のディップ−ニップ加工と同様にして、不織繊維構造体に難燃剤の水溶液やエマルジョンを含浸又は噴霧した後に乾燥させる方法、繊維紡糸時に二軸押出機等で難燃剤を混練した樹脂を押出して紡糸する方法などが挙げられる。
【0045】
難燃剤の割合は、目的の難燃効果を得られれば特に限定はないが、諸特性のバランスに優れる点から、不織繊維構造体全体に対し1〜15質量%(特に3〜10質量%)程度である。
【0046】
これらの難燃剤による加工により、不織繊維構造体に極めて優れた難燃性を付与できるだけでなく、他の難燃剤の有する問題、例えば、ハロゲン系であれば燃焼時のハロゲンガスの発生に伴う酸性雨や、リン系の場合は加水分解によるリン化合物の流出に伴う湖沼の富栄養化等の問題も回避できる。
【0047】
(不織繊維構造体)
基材層を構成する不織繊維構造体は、前記熱接着性繊維を含む不織繊維ウェブを加熱し、前記熱接着性繊維同士を融着して得られ、面方向で前記熱接着性繊維が略均一に融着している。このような繊維ウェブを製造する際、接着性繊維の混率は100質量%であるのが好ましい。すなわち、不織繊維構造体は全て熱接着性繊維で構成されていると、硬質な不織繊維構造体に仕上げることが容易になる。また、基材層は、熱接着性繊維のみで形成され、繊維同士の交点で確実に接着されることにより、均一で形態安定性の高いフィルター構造を形成でき、長期間使用しても均一な構造を保持でき、耐久性も高い。この繊維に多量の他の繊維を混合する場合は、十分な曲げ剛性を確保することが困難になる。さらに、成形加工後の構造体強度が弱くなり成形構造体を確保することが困難になる。
【0048】
このような繊維ウェブを用いて、薄肉であり優れた曲げ剛性を有するとともに、通気性をバランスよく備えた不織繊維構造体を得るためには、前記ウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態を適度に調整する必要がある。すなわち、繊維ウェブを形成するにあたっては、構成繊維が概ね繊維ウェブ面に対して平行に配列しながらお互いに交差するよう配列させることが望ましい。そして、得られる不織繊維構造体においては、この繊維交点で融着しているとともに、交点以外の繊維が略平行に並んでいる部分において、数本〜数十本程度で束状に融着した束状融着繊維を形成していることが望ましい。これら繊維が単繊維同士の交点、束状繊維同士の交点、あるいは単繊維と束状繊維の交点において融着した構造を部分的に形成することで、「スクラム」を組んだような構造を有し、目的とする曲げ剛性を発現させることができる。本発明では、かかる構造が面方向及び厚み方向に沿って概ね均一に分布するような形態が望ましい。
【0049】
本明細書において、「概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列している」とは、例えば、ニードルパンチ不織布のように、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態を示す。より具体的には、繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、その厚さの30%以上にわたり連続して延びる繊維の存在割合が10%以下である状態をいう。
【0050】
繊維を繊維ウェブ面に対して平行に配列するのは、厚み方向(繊維ウェブ面に対し垂直方向)に沿って配向している繊維が多く存在すると周辺に繊維配列の乱れが生じて不織繊維構造体内に必要以上に大きな空隙を生じ、不織繊維構造体の曲げ剛性を低減させるためである。
【0051】
また、不織繊維構造体の表面に物体を置くなどして、厚み方向へ荷重をかけた場合、大きな空隙部が存在すると、空隙部が荷重により潰れてしまい構造体表面が変形し易くなる。特に、この荷重が構造体全面にかかると全体的に厚さを失い易くなる。構造体自体を空隙のない樹脂充填物とすればこのような問題を回避できるが、樹脂充填物では通気度、曲げたときの折れ難さを確保するのが困難となる。一方で、荷重による厚み方向への変形を小さくするために、繊維を細くし、より密に繊維を充填することが考えられるが、細い繊維のみで通気性を確保しようとすると、各々の繊維の剛性が低いため、逆に曲げ剛性が不十分となる。曲げ剛性を確保するためには、繊維径をある程度太くすることが必要であるが、単純に太い繊維を混合したのでは、太い繊維同士の交点付近で、大きな空隙ができやすく、厚み方向への変形を防ぎ難くなる。
【0052】
そこで、本発明では、不織繊維構造体の構成繊維を面方向に沿って平行に並べ、分散させることにより、繊維同士がお互いに交差し、その交点で接着して、小さな空隙をつくり、さらにその空隙が連続することで適度な通気度、曲げ剛性を確保する。さらに、他の繊維と交差せず概ね平行に並んでいる箇所において、長さ方向に並行に融着した束状繊維を形成させることにより、融着しない単繊維のみから構成される場合に比べて高い曲げ剛性を主に確保できる。なかでも、繊維一本一本が交差する交点で接着しながら、交差点と交差点の間で束状繊維を形成するのが特に好ましい。このような構造は、構造体断面を観察したときの単繊維の存在状態からも確認できる。
【0053】
不織繊維構造体(基材層)は、その断面の任意の1mmに存在する単繊維断面の存在頻度が100個/mm以下であってもよく、好ましくは60個/mm以下、さらに好ましくは25個/mm以下である。単繊維断面の数が多すぎると、繊維の束状融着が少なく、曲げ剛性の確保が困難となる。さらに、束状繊維は、不織繊維構造体の厚み方向に薄く、面方向(長さ方向あるいは幅方向)に幅広い形を有しているのが好ましい。
【0054】
不織繊維構造体は、束状融着繊維の存在状態により性能が左右されるが、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、繊維単体として観察することが困難になる場合がある。本発明では、この繊維融着の度合を反映する値として、加工後の構造体断面における繊維及び束状の繊維束の形成する断面の占める面積比率、すなわち繊維断面充填率を用いる。繊維断面充填率は、例えば、20〜80%、好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%程度である。繊維断面充填率が低すぎると、不織繊維構造体内の空隙が多すぎて、所望の曲げ剛性を確保するのが困難になる。逆に、高すぎると、曲げ剛性は十分に確保できるが、重量が大きく、通気度が低下し易くなる上に、加工性も低下する。
【0055】
さらに、不織繊維構造体において、十分な曲げ剛性、通気性をより高い次元でバランスさせるために、構成繊維が前述の束状繊維を含み、単繊維断面の存在頻度が少なく、各繊維(束状繊維及び/又は単繊維)の交点での接着ができるだけ少ない頻度で接着しているのが好ましい。このような構造により構造体内に細かな空隙と通路を確保し、通気度を確保できる。従って、できるだけ少ない接点数で十分な曲げ剛性及び通気度を発現するためには、前記各繊維の接着点が繊維構造体の一方の表面から内部(中央)、そして反対側の表面(裏面)に至るまで、厚み方向に沿って均一に分布しているのが好ましい。この接着点が表面や中央に集中すると、十分な曲げ剛性と通気度を確保することが困難となるばかりでなく、接着点の少ない箇所での形態安定性が低下する。
【0056】
そこで、不織繊維構造体においては、構造体断面を厚み方向に沿って3等分した際に、3等分した各々の領域における繊維断面充填率、すなわち、構造体断面における繊維断面の占める面積割合において、各領域における繊維断面充填率の最大値と最小値とのに対する最小値の差は20%以下であってもよく、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0057】
また、不織繊維構造体の接着点は繊維接着率で評価することもできる。不織繊維構造を構成する熱接着性繊維の融着による繊維接着率は、例えば、3〜70%、好ましくは5〜50%(例えば、10〜40%)、さらに好ましくは12〜35%(特に15〜30%)程度である。
【0058】
本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の熱接着性繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0059】
不織繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは60〜99.9%、さらに好ましくは70〜99.5%(特に80〜99%)程度である。本発明では、基材層の繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、プリーツ加工されたフィルターにおける強度と、フィルターに必要な通気性とを両立できる。
【0060】
繊維接着率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織繊維構造体の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が融着している場合には、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。この場合、例えば、繊維構造体が湿熱接着性繊維で構成された鞘部と繊維形成性重合体で構成された芯部とで形成された芯鞘型複合繊維で接着されている場合には、融解や洗浄除去などの手段で接着部の融着を解除し、解除前の切断面と比較することにより繊維接着率を測定できる。
【0061】
不織繊維構造体(基材層)の見掛密度は30〜170kg/mであり、例えば、40〜150kg/m、好ましくは45〜130kg/m)、さらに好ましくは50〜120kg/m(特に55〜100kg/m)程度である。見掛密度が低すぎると、軽量性を有するものの、十分な曲げ剛性を確保することが難しく、逆に高すぎると、硬さは十分確保できるものの、硬すぎて成形加工性が低下するとともに、濾過性も低下し易い。なお、基材層では、密度の分布は略均一に分布しており、密度分布が不均一な表層が積層されている場合でも、電子顕微鏡などで観察することにより、両層の境界を確認できる。また、電子顕微鏡写真から、不織繊維構造体の厚み方向に沿って最大20等分し、各領域における繊維断面充填率から密度分布を求めることにより確認することもできる。
【0062】
不織繊維構造体(基材層)の厚み(平均厚み)は0.2mm以上1mm未満であり、例えば、0.22〜0.99mm、好ましくは0.23〜0.9mm(例えば、0.25〜0.8mm)、さらに好ましくは0.28〜0.7mm(特に0.3〜0.6mm)程度である。厚みが大きすぎると、フィルターの軽量性及び薄肉性が低下する上に、プリーツ加工などの成形加工性も低下する。また、厚みが小さすぎると、フィルターの形態安定性が低下する。
【0063】
[表層]
本発明の不織繊維シートは、基材層のみで形成されていてもよいが、プリーツ加工した場合の形態保持性及び濾過性の点から、基材層の少なくとも一方の面に、基材層よりも高い見掛密度を有する不織繊維構造体で形成された表層を有するのが好ましい。基材層に高密度の表層を備えることにより、捕集効率などの濾過性能を向上できるとともに、積層構造によりフィルターの強度及び形態安定性を向上でき、プリーツ加工したフィルターでも、プリーツ形状を長期間に亘り保持できる。
【0064】
表層を構成する不織繊維構造体も、基材層と同様に、熱接着性繊維を含み、熱接着性繊維同士の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で形成されている。表層の不織繊維構造体も、基材層と同様に、実質的に熱接着繊維のみで形成されているのが好ましく、熱接着性繊維のみで形成されているのが特に好ましい。表層の熱接着性繊維は、基材層と異なる熱接着性繊維であってもよいが、基材層との密着性などの点から、基材層を構成する熱接着性樹脂と同種又は同一の熱接着性樹脂(例えば、エチレンービニルアルコール系共重合体、親水性ポリエステルなどの湿熱接着性樹脂など)を含む熱接着性繊維が好ましい。熱接着性樹脂と繊維形成性重合体とで形成された複合繊維(例えば、湿熱接着性樹脂で形成された鞘部を有する芯鞘型複合繊維など)である場合、表層は、樹脂成分として熱接着性樹脂のみからなる熱接着性繊維(例えば、湿熱接着性樹脂で形成された繊維など)であってもよい。表層を構成する熱接着性繊維も基材層と同様に添加剤を含んでいてもよい。
【0065】
表層を構成する熱接着性繊維の平均繊度は、基材層を構成する熱接着繊維と同一であってもよいが、表層の密度を向上させるために、基材層の熱接着繊維よりも細い繊維径であってもよく、例えば、0.01〜5.5dtex、好ましくは0.1〜3.3dtex、さらに好ましくは0.2〜1.7dtex程度である。繊度の細い熱接着性繊維は、メルトブローン法により製造された熱接着性繊維であってもよい。繊度が細すぎると、繊維自体の製造が困難となることに加え、繊維強度の確保も困難となる。熱接着性繊維の平均繊維長も、基材層を構成する熱接着繊維と同一であってもよいが、長繊維であってもよい。
【0066】
表層(不織繊維構造体)の見掛密度は、基材層の見掛密度よりも大きければよく、50〜1000kg/m程度の範囲から選択でき、例えば、80〜800kg/m、好ましくは90〜700kg/m(例えば、100〜600kg/m)、さらに好ましくは120〜500kg/m(特に150〜400kg/m)程度である。見掛密度が低すぎると、曲げ剛性が不十分となり、フィルターの形態安定性、特に、プリーツ加工されたフィルターの形態安定性が低下する。逆に高すぎると、濾過性が低下する。
【0067】
基材層と表層との見掛密度比は、基材層/表層=1/1.1〜1/20程度の範囲から選択でき、例えば、1/1.2〜1/15、好ましくは1/1.5〜1/10、さらに好ましくは1/2〜1/8(特に1/2.5〜1/5)程度であってもよい。本発明では、両層の密度比を調整することにより、薄肉性と形態安定性と濾過性とのバランスを向上できる。
【0068】
表層では、厚み方向における密度(及び繊維接着率)の分布は特に限定されず、基材層と同様に均一に分布してもよく、不均一に分布してもよい。また、均一に分布している部分と不均一に分布している部分とが混在していてもよい。例えば、後述するように、不織繊維構造体を熱プレスすると、不均一に分布する表層を容易に形成できる。これらのうち、厚み方向において密度が不均一に分布している表層が好ましく、表面から中央部の方向に向かって密度が漸減又は減少するように密度が分布している表層が特に好ましい。このような密度分布を有する表層を有する不織繊維シートは、基材層と表層との密着性(耐剥離性)にも優れている。すなわち、表層と基材層との間で急激な密度差がある場合には、応力の歪みが表層と基材層との界面に集中して剥離し易いが、表層に密度勾配を形成して低密度層との界面での密度差を小さくすることにより、両層の間での応力の歪みを厚み方向に分散できるため、両層間での剥離を抑制できる。さらに、このような密度分布を有する表層は、表面において高い濾過性能を有するとともに、内面では透過性に優れるため、フィルターの耐久性を向上できる。
【0069】
表層の不織繊維構造体を構成する熱接着性繊維の融着による繊維接着率は、例えば、10〜99%、好ましくは30〜95%、さらに好ましくは40〜90%(特に50〜85%)程度である。基材層と表層との繊維接着率比は、例えば、基材層/表層=1/1.1〜1/20、好ましくは1/1.3〜1/10、さらに好ましくは1/1.4〜1/5(特に1/1.5〜1/4)程度であってもよい。
【0070】
表層の平均厚み(表層が基材層の両面に形成されている場合は各層の平均厚み)は、例えば、0.01〜0.3mm、好ましくは0.02〜0.2mm(例えば、0.03〜0.15mm)、さらに好ましくは0.04〜0.1mm(特に0.05〜0.08mm)程度である。厚みが大きすぎると、フィルターの軽量性及び薄肉性が低下する上に、プリーツ加工などの成形加工性も低下する。また、厚みが小さすぎると、フィルターの形態安定性が低下する。
【0071】
なお、本願発明では、表層の密度(又は繊維接着率)の分布については、例えば、断面の電子顕微鏡写真を撮影して評価できる。なお、写真から界面が不明確であるときなど、後述する実施例に記載の方法で評価できる。すなわち、本願発明では、表層が、厚み方向において、その表面から中央部の方向に向かって密度が減少している場合、基材層は均一な密度分布を有している。そのため、繊維構造体の縦断面(厚み方向断面)において、表層から中央部に至る密度勾配を測定し、変曲点を求めると、この変曲点が、基材層と表層との界面又は境界とみなすことができる。なお、変曲点がない場合には、中間を基材層と表層との界面又は境界とみなすこともできる。具体的には、電子顕微鏡写真において、所定範囲の繊維数を測定する方法(分画した区域の繊維数を測定した厚み方向における密度の推移を見る方法)などにより、密度分布が不均一な表層を特定でき、その厚みを決定できる。なお、変曲点を厳密に求める場合には、分画する区域をさらに細分化するとともに、グラフ化して求めてもよい。
【0072】
基材層と表層との厚み比(表層が基材層の両面に形成されている場合は各層の厚み比)は、基材層/表層=1/1〜100/1程度の範囲から選択でき、例えば、1.2/1〜30/1、好ましくは1.5/1〜20/1(例えば、2/1〜15/1)、さらに好ましくは3/1〜10/1(特に3.5/1〜8/1)程度である。表層の厚み比が大きすぎると、フィルターが目詰まりし易くなり、表層の厚み比が小さすぎると、フィルター捕集効率が低下するとともに、形態安定性も低下する。
【0073】
[不織繊維シート]
本発明の不織繊維シートは、優れた曲げ剛性を有し、形態安定性に優れている。具体的には、不織繊維シートの縦方向(MD方向)及び横方向(CD方向)の曲げ剛性が、それぞれ70mm以下(例えば、65mm以下)であり、例えば、60mm以下(例えば、50mm以下)、好ましくは40mm以下(例えば、30mm以下)、さらに好ましくは27mm以下(特に15mm以下)である。この曲げ剛性が大きすぎると、柔らかすぎて、成形加工する際に自重と加えられたわずかな荷重により簡単に折れてしまうため、取り扱い性が低下する。なお、本明細書において、曲げ剛性は、後述する実施例の記載の方法で測定でき、25mm幅×300mm長の構造体を、水平台の端から100mm長を水平台の外へ滑り出した時の重力による変位量により求められる。
【0074】
不織繊維シートは、構成繊維間に生ずる空隙により優れた軽量性を確保できる。また、これらの空隙は、スポンジのような樹脂発泡体と異なり各々が独立した空隙ではなく連続しているため、通気性をも有している。このような構造は、樹脂を含浸したり、表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成する従来の一般的な硬質化手法では製造することが極めて困難な構造である。
【0075】
不織繊維シートの見掛密度は200kg/m未満であり、例えば、30〜195kg/m、好ましくは35〜190kg/m(例えば、40〜190kg/m)、さらに好ましくは50〜185kg/m(特に60〜180kg/m)程度である。見掛密度が低すぎると、軽量性を有するものの、十分な曲げ剛性を確保することが難しく、逆に高すぎると、硬さは十分確保できるものの、濾過性が低下する。
【0076】
不織繊維シートの目付は、例えば、20〜500g/m、好ましくは30〜300g/m(例えば、35〜250g/m)、さらに好ましく40〜200g/m(特に45〜100g/m)程度である。目付が小さすぎると、硬さを確保することが難しく、また、目付が大きすぎると、フィルターの軽量性及び薄肉性が低下する上に、プリーツ加工などの成形加工性も低下する。
【0077】
不織繊維シートの厚み(平均厚み)は0.35〜1.2mm程度の範囲から選択でき、例えば、0.38〜1mm、好ましくは0.4〜0.95mm(例えば、0.42〜0.9mm)、さらに好ましくは0.43〜0.8mm(特に0.45〜0.7mm)程度である。厚みが大きすぎると、フィルターの軽量性及び薄肉性が低下する上に、プリーツ加工などの成形加工性も低下する。また、厚みが小さすぎると、フィルターの形態安定性が低下する。
【0078】
本発明の不織繊維シートは、不織繊維構造体が有する通気性により、フィルター用途において、不織繊維構造体に通気性を有する化粧フィルムを貼るようなケースの場合、フィルムと不織繊維構造体の間に囲まれた空気が反対側に抜けるため、フィルム貼付に伴うフィルムの浮き、剥がれを回避できるというメリットが挙げられる。また、貼り付けたフィルムの粘着剤が不織繊維構造体表面の構成繊維に貼り付くとともに、繊維空隙に楔の如く入り込むことで強固な接着を実現できるというメリットもある。
【0079】
不織繊維シートは、形態安定性に優れているにも拘わらず、通気性も高い。具体的には、不織繊維シートの通気度は10cc/cm/秒以上であり、例えば、20〜400cc/cm/秒(例えば、50〜250cc/cm・秒)、好ましくは30〜350cc/cm/秒(例えば、50〜200cc/cm・秒)、さらに好ましくは50〜350cc/cm/秒(特に100〜300cc/cm/秒)程度である。通気度が小さすぎると、不織繊維シートに空気を通過させるために外部から圧力を加える必要が生じ、自然な空気の出入が行えないため好ましくない。一方、通気度が大きすぎると、通気性が高くなるが、不織繊維シート内の繊維空隙が大きくなりすぎ、十分な曲げ剛性の確保が困難となる。
【0080】
本発明の不織繊維シートは、フィルターとして用いられるが、通気抵抗は、フィルター性能試験時の圧損で30Pa以下であってもよく、例えば、25Pa以下、好ましくは20Pa以下(例えば、3〜18Pa)、さらに好ましくは4〜15Pa(特に5〜15Pa)程度である。また、通気抵抗は用途に応じて選択でき、気体用フィルターにおいて、耐久性(フィルター寿命)が要求される用途では、通気抵抗は10Pa以下、好ましくは0〜8MPa、さらに好ましくは1〜5Pa程度であってもよい。通気抵抗が大きすぎると、フィルターが詰まり易い状態になる。一方で小さすぎると、粉塵の捕集ができず、フィルター効果を確保できない状態になり易い。
【0081】
不織繊維シートは、基材層と表層との積層構造である場合、慣用の接着剤で両層が一体化されていてもよいが、形態安定性に優れる点から、接着剤を介さないで両層が直接接触して積層された構造(後述するように熱プレスや高温水蒸気を用いて一体化した構造)が好ましい。
【0082】
[不織繊維シートの製造方法]
本発明の不織繊維シートの製造方法としては、熱接着性繊維からなる不織繊維ウェブを加熱し、前記熱接着性繊維同士を融着して板状不織繊維構造体を得る融着工程を含んでいればよく、基材層単独で形成する場合は、実質的に融着工程のみで不織繊維シートを製造してもよい。
【0083】
融着工程において、熱接着性繊維からなる不織繊維ウェブ(繊維ウェブ)は、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法で形成してもよく、ステープル繊維を用いてカード法、エアレイ法などの乾式法で形成してもよい。ステープル繊維ウェブとしては、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブ等が用いられるが、中でも、本発明で必要な束状繊維融着の確保が容易である点から、セミランダムウェブ、パラレルウェブ又はクロスラップウェブが好ましい。
【0084】
得られた繊維ウェブは、熱接着性繊維の融点又は軟化点以上の温度で加熱して熱接着性繊維同士を融着して固定できればよく、熱風、加熱板、熱ローラーなどを用いて、例えば、100℃以上、好ましくは120〜250℃、さらに好ましくは150〜200℃程度の温度で加熱(乾熱)する方法であってもよいが、不織繊維構造体の厚み方向に均一な融着を実現できる点から、高温水蒸気で不織布繊維ウェブを加熱する方法が好ましい。
【0085】
高温水蒸気で不織布繊維ウェブを加熱する方法において、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることで、不織繊維構造体が得られる。ここで使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブを目的の密度に圧縮しつつ高温蒸気処理することができるものであれば、特に限定されるものではなく、エンドレスコンベアが好適に用いられる。
【0086】
繊維ウェブ(以下、ウェブと略記する)に蒸気を供給するための蒸気噴射装置は、一方のコンベア内に装着され、コンベアネットを通してウェブに蒸気を供給できればよく、反対側のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスを装着すると、ウェブを通過した過剰の蒸気を吸引排出できる。さらには、ウェブの表と裏を一度に蒸気処理するために、蒸気噴射装置を設置したコンベアの下流側にサクションボックスを装着し、反対側のコンベア内に蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の蒸気噴射装置とサクションボックスがない場合、繊維構造体の表と裏を蒸気処理するために、一度処理した不織繊維構造体の表裏を反転させて再度処理装置内を通過させてもよい。
【0087】
コンベアに用いるエンドレスベルトは、ウェブの運搬や高温蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されないが、高温水蒸気処理をした場合、条件により不織繊維構造体表面にベルトの表面形状が転写される場合が生ずるため、適宜選択してもよく、例えば、表面の平坦な不織繊維構造体を得たい場合には、メッシュの細かいネットを使用すればよい。この場合、90メッシュ程度が上限である。これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、水蒸気が通過し難く好ましくない。また、ベルトの材質は、水蒸気処理に対する耐熱性等の観点より、金属、耐熱処理したポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、全芳香族系ポリエステル等の耐熱性樹脂よりなるメッシュベルトが好ましく用いられる。
【0088】
この高温水蒸気は、気流であるため被処理体であるウェブ中の繊維を(水流絡合処理や、ニードルパンチ処理の様に)大きく移動させることなく、ウェブ内部へ進入する。このウェブ中への水蒸気流の進入作用および湿熱作用によって、水蒸気流がウェブ内に存在する各繊維の表面を湿熱状態で効率的に覆い、均一な熱接着が可能になると考えられる。また、この処理は高速気流下で極めて短時間に行われるため、水蒸気の繊維表面への熱伝導は速いが、繊維内部への熱伝導はさほど速くなく、そのため高温水蒸気の圧力や熱により、処理される繊維全体がつぶれるような変形が生じる前に湿熱接着が完了する。
【0089】
不織繊維構造体の曲げ剛性を確保するためには、ウェブに高温水蒸気を供給して処理する際に、処理されるウェブを、コンベアベルト又はローラーの間で目的の見掛密度、すなわち200kg/m未満の密度に圧縮した状態で高温水蒸気に晒すことが重要である。特に高密度の不織繊維構造体を得ようとする場合には、高温水蒸気で処理する際に、十分な圧力で繊維ウェブを圧縮する必要がある。さらに、ローラー間又はコンベア間に適度なクリアランスを確保することで、目的の厚みや密度に合わせることが可能である。コンベアの場合には、一気にウェブを圧縮することが困難であるので、ベルトの張力をできるだけ高く設定し、蒸気処理地点の上流から徐々にクリアランスを狭めていくことが好ましい。また、蒸気圧力、処理速度を調整することにより、所望の曲げ剛性、通気度を有する不織繊維構造体に加工してもよい。
【0090】
不織繊維構造体の硬度を上げたい場合には、ウェブを挟んでノズルと反対側のエンドレスベルトの裏側をステンレス板等で形成し、水蒸気が通過できない構造に調整してもよい。このような構造に調整すれば、被処理体であるウェブを通過した蒸気がベルトの裏側で反射するため、水蒸気の保温効果によってより強固に接着される。逆に、軽度の接着が必要な場合には、サクションボックスを配置し、余分な水蒸気を室外へ排出してもよい。
【0091】
高温水蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、このプレートやダイスを供給されるウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は、一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよく、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
【0092】
プレートの厚みは、ノズルのタイプに応じて選択でき、例えば、プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、0.5〜1.0mm程度であってもよい。このタイプにおいて、オリフィスの径やピッチは、目的とする繊維固定ができる条件であれば特に制限はないが、直径は、例えば、0.05〜2.0mm、好ましくは0.1〜1.0mm、さらに好ましくは0.2〜0.5mm程度であり、ピッチは、例えば、0.5〜3.0mm、好ましくは1.0〜2.5mm、さらに好ましくは1.0〜1.5mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になる上に、目詰まりを起こし易くなる。逆に、径が大きすぎると、十分な水蒸気噴射力を得ること困難となる。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。一方で、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気がウェブに十分当らなくなるケースが出てくるため、ウェブ強度の確保が困難となる。
【0093】
高温水蒸気の温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度であってもよい。高温水蒸気の圧力(噴射圧力)は、目的とする繊維固定が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、例えば、0.1MPa〜2.0MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1.0MPa程度である。圧力が高すぎると、ウェブを形成する繊維が動き、地合の乱れを生じたり、繊維が溶融しすぎて部分的に繊維形状を消失し易い。また、圧力が低すぎると、繊維の融着に必要な熱量を被処理物に付与できなくなったり、水蒸気がウェブを貫通できず、厚み方向に繊維融着斑を生じ易い上に、ノズルからの水蒸気を均一に噴出するための制御も困難になる。
【0094】
薄肉の板状不織繊維構造体を製造するための製法上の特徴は、上流部から徐々にコンベアのクリアランスを狭めていくことも可能であるが、上流部から目標厚みに設定し、かつ蒸気圧力、処理速度を調整することにより、薄肉の不織繊維構造体を製造してもよい。
【0095】
このような方法によりウェブ中の繊維を部分的に湿熱接着した後、得られる不織繊維構造体には水分が残留する場合があるので、必要に応じて乾燥してもよい。乾燥においては、乾燥用加熱体に接触したボード表面が、乾燥後にフィルム化せずに繊維形態を維持していればよく、特に限定されない。乾燥方法としては、例えば、不織布の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大掛かりな乾燥設備を使用してもよいが、残留している水分は微量である場合が多く、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである場合、遠赤外線照射、マイクロ波照射、電子線照射等の非接触法や熱風を用いる方法等が好ましい。
【0096】
また、必要に応じ、コンベアベルトに所定の凹凸柄や文字や絵等の型を付与しておき、この型を転写させて不織繊維構造体に意匠性を付与してもよい。また、他の資材と積層したり、成形加工により所望の形態に調製してもよい。
【0097】
前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体は、単独で不織繊維シートとして用いてもよいが、基材層の少なくとも一方の面に、基材層よりも高密度の不織繊維構造体で形成された表層を有する積層構造を形成してもよい。このような積層構造を有する不織繊維シートは、融着工程で得られた板状不織繊維構造体を基材層と、別途作製した表層とを、接着剤又は粘着剤や固定具を介して一体化する方法であってもよいが、層間の密着性を向上できる点から、前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面を熱プレスする熱プレス工程を含む方法、前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面に熱接着性繊維からなる他の板状不織繊維構造体を積層し、加熱して熱接着する積層工程を含む方法が好ましい。
【0098】
前者の熱プレス工程を含む方法において、熱プレスの方法としては、慣用の方法、例えば、熱ローラーを用いる方法、加熱板で押圧する方法などが挙げられる。また、熱プレスは湿熱プレス成形であってもよい。さらに、基材層の両面に表層を形成する場合、生産性などの点から、板状不織繊維構造体の両面を熱ローラーで押圧する方法であってもよい。
【0099】
熱プレスの条件として、加熱温度は、板状不織繊維構造体に表面近傍の密度を向上できればよく、熱接着性繊維の種類に応じて適宜選択できるが、例えば、50〜150℃、好ましくは55〜120℃、さらに好ましくは60〜100℃(特に70〜90℃)程度である。プレス圧力は、100MPa以下程度から選択でき、例えば、0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜5MPa、さらに好ましくは0.1〜1MPa(特に0.15〜0.8MPa)程度である。熱ロールを用いる場合、熱プレス後の厚みが熱プレス前の厚みに対して、例えば、1/1.1〜1/3倍、好ましくは1/1.2〜1/2.5倍、さらに好ましくは1/1.3〜1/2倍程度となるように圧縮してもよい。プレス時間は、例えば、3秒〜3時間、好ましくは10秒〜1時間、さらに好ましくは30秒〜20分程度である。
【0100】
後者の積層工程を含む方法では、他の不織繊維構造体は、熱接着性繊維からなる不織繊維構造体であればよいが、融着工程で得られた板状不織繊維構造体との密着性に優れる点から、前記板状不織繊維構造体を構成する熱接着性繊維と同種又は同一の熱接着性繊維からなる不織繊維構造体が好ましい。他の不織繊維構造体の目付や密度は、目的とする表層の密度に応じて適宜選択すればよいが、密度の高い表層を形成し易い点から、メルトブローン不織布が好ましい。
【0101】
積層体を加熱して熱接着する方法としては、特に限定されず、熱接着性繊維の種類に応じて、熱風などを用いて乾熱接着する方法、高温水蒸気を用いて湿熱接着する方法などを利用できる。これらのうち、濾過性能を低下させることなく、高い密着性で接着できる点から、高温水蒸気で加熱する方法が好ましく、前記融着工程と同様の条件で加熱処理することにより、積層体を接着できる。積層工程で得られた積層体は、前述の熱プレス工程に供して、不織繊維構造体の密度を高密度に調整してもよい。
【0102】
さらに、本発明では、前記融着工程において、不織繊維構造体の少なくとも一方の表面を熱プレスして融着することにより、積層構造を有する不織繊維シートを形成してもよい。熱プレスの方法としては、慣用の方法、例えば、熱ローラーを用いる方法、加熱板で押圧する方法などが挙げられる。また、熱プレスは湿熱プレス成形であってもよい。さらに、基材層の両面に表層を形成する場合、生産性などの点から、不織繊維構造体の両面を熱ローラーで押圧する方法であってもよい。
【0103】
熱プレスの条件として、加熱温度は、熱接着性繊維の融点又は軟化点以上であればよいが、構造体内部の繊維も融着するために、例えば、100〜250℃、好ましくは130〜230℃、さらに好ましくは150〜200℃(特に160〜180℃)程度である。プレス圧力は、100MPa以下程度から選択でき、例えば、0.01〜10MPa、好ましくは0.05〜5MPa、さらに好ましくは0.1〜1MPa(特に0.15〜0.8MPa)程度である。熱ロールを用いる場合、熱プレス後の厚みが熱プレス前の厚みに対して、例えば、1/1.1〜1/3倍、好ましくは1/1.2〜1/2.5倍、さらに好ましくは1/1.3〜1/2倍程度となるように圧縮してもよい。プレス時間は、例えば、1秒〜1時間、好ましくは3秒〜10分、さらに好ましくは5秒〜1分(特に10〜30秒)程度である。
【0104】
これらの方法のうち、形態安定性に優れる点から、前記融着工程で得られた板状不織繊維構造体の少なくとも一方の面を熱プレスする熱プレス工程を含む方法が特に好ましい。
【0105】
このようにして得られる本発明の不織繊維シートは、一般的な不織布と同程度の厚みでありながら、優れた曲げ剛性を有し、成形性に優れている。さらに、通気性をも有し、通気抵抗が小さいため、このような性能を利用して、フィルター材に利用される。なかでも、薄肉での形態安定性及び成形性と、濾過性とを両立できるため、プリーツ加工されたフィルターに適している。
【0106】
プリーツ加工されたフィルター(プリーツ形状のフィルター)において、各山形状(断面三角形状)のピッチ(隣接する頂部の距離又は間隔)は、フィルターの種類に応じて選択できるが、例えば、5〜50mm、好ましくは10〜40mm、さらに好ましくは15〜30mm程度である。各山形状の高さは、例えば、5〜60mm、好ましくは10〜50mm、さらに好ましくは15〜40mm程度である。山形状の頂部の角度(頂角)は、例えば、3〜70°、好ましくは5〜60°、さらに好ましくは10〜50°程度である。本発明では、このような頂角を有するプリーツ形状であっても、長期間に亘って、形態安定性を保持でき、例えば、各山形状が変形したり、倒れて隣接する頂部が接触するのを抑制してプリーツ形状を保持できる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例における各物性値は、以下の方法により測定した。
【0108】
(1)目付、厚み、見掛密度
JIS L1913に準じて目付及び厚みを測定し、これらの値から見掛密度を算出した。
【0109】
なお、熱プレス法で調製されたシートの表層の厚みについては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、目視観察で測定した。
【0110】
(2)通気度
JIS L1096に記載の一般織物試験方法のうち、A法(フラジール形法)に準じ、布帛の通気性測定機((株)東洋精機製作所製、フラジール・パーミヤメーター)を用いて、圧力125Paの条件下、100cmの大きさのサンプルについて通気度を測定した。
【0111】
(3)曲げ剛性
曲げ剛性の測定方法を図1に示すが、図1(a)は、測定したサンプル1の調製方法を示す平面図である。CD方向のサンプル1aとして、長さ方向がCD方向となるように、25mm幅×300mm長のサンプルを調製し、MD方向のサンプル1bとして、長さ方向がMD方向となるように、25mm幅×300mm長のサンプルを調製した。
【0112】
図1(b)及び図1(c)は、それぞれ、曲げ剛性の測定方法を示すための概略斜視図及び概略側面図である。測定サンプル1は、水平の台2から100mm長を台の外へ滑り出し、その時の先端の垂れ度合い(水平台面から垂れた先端までの距離d)を測定した。なお、測定サンプルは、裏返して両面について、それぞれ曲げ剛性を測定し、平均化した。
【0113】
(4)成形加工性
縦30cm×横30cmのサンプルを調製し、熱風炉で120℃×60秒予熱した後、常温の金型でエアー圧5.5kg/cmで10秒間プレス成形した。成形サンプルについて、成形後の状態、成形品の高さ、および原反のずれ込みを測定した。成形状態は、目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0114】
○:成形できる
△:成形できるが原反の金型内へのずれ込みあり
×:成形した形状にならない。
【0115】
(5)捕集効率及び通気抵抗
フィルター性能試験装置を用い、石英(粒径:1.0μm)を面速8.6cm/秒でサンプルを通過させ、測定セルの上流側、下流側間に微差圧計を配置し、流量30リットル/分における差圧(圧力損失)を測定した。捕集効率は、通気抵抗と同じ条件にて、測定セルの上流側、下流側の粉塵濃度を光散乱質量濃度計を用いて測定し、測定セルの上流側、下流側の濃度差から求めた。
【0116】
(6)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために構造体を切断することにより、構造体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
【0117】
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。
【0118】
(7)プリーツ加工性
幅10cmの不織繊維シートを長さ方向に3cm間隔で、山、谷になるように交互に折り、折り曲げ加工の可否を以下の基準で評価した。
【0119】
A:容易に折り曲げ加工できる
B:厚くて折り曲げ加工できない
C:硬くて折り曲げ加工できない
D:容易に折り曲がるが、厚くて曲げ加工できない。
【0120】
(8)プリーツ加工品の荷重変形量
図2に示すように、(7)プリーツ加工性の評価でプリーツ加工したサンプル11を用い、テーブル上に3山を2.5cm間隔で谷部を固定し(山形状の高さ28mm、山形状の頂部の角度50°)、3山の上に13cm×13cmのアクリル板12に重り13を載置した合計100gの荷重板を載せ、3山の高さ(テーブルから山の頂上までの距離)のしずみ変形量を測定した。
【0121】
(8)通液性
水100ccがφ21.8mmのろ過面積の不織布サンプルを通過する時間を測定した。
【0122】
(9)耐摩擦性
JIS L0849に準じ、摩擦試験機II型(学振型)を用い、白綿布かなきん3号で不織繊維シートの表面を擦り、不織繊維シート表面が剥離した回数を測定した。
【0123】
[実施例1]
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、鹸化度98.4モル%、芯鞘質量比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製「ソフィスタ」、3.3dtex、51mm長)を準備した。
【0124】
この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、セミランダムカード法により4枚重ねて合計目付約125g/mのカードウェブを作製した。
【0125】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。
【0126】
なお、このベルトコンベアは下側コンベアと上側コンベアの一対のコンベアからなり、下側上側共にコンベアベルトの中間部に位置する蒸気噴射ノズルより上流側にウェブ厚調整用の金属ロール(以下、「ウェブ厚調整用ロール」と略記する場合がある)がそれぞれ備えつけられている。下側コンベアは、上面(すなわちウェブの通過する面)がフラットな形状であり、一方の上側コンベアは、下面がウェブ厚調整用ロールに沿って屈曲した形状をなし、上側コンベアのウェブ厚調整用ロールが下側コンベアのウェブ厚調整用ロールと対をなすように配置されている。
【0127】
また、上側コンベアは、上下に移動可能であり、これにより上側コンベアと下側コンベアのウェブ厚調整用ロール間を所定の間隔に調整可能である。さらに、上側コンベアの工程上流側は、下流部に対してウェブ厚調整用ロールを基点に(上側コンベアの工程下流側の下面に対し)30度の角度で屈曲しており、下流部は下側コンベアと平行に配置されている。なお、上側コンベアが上下する場合には、この平行を保ちながら移動する。
【0128】
これらのベルトコンベアは、それぞれが同速度で同方向に回転し、これらの両コンベアベルト同士およびウェブ厚調整用ロール同士が所定のクリアランスを保ちながら加圧可能な構造を有している。このような構造により、いわゆるカレンダー工程の如く働いて水蒸気処理前のウェブ厚みを調整できる。すなわち、上流側より送り込まれてきたカードウェブは、下側コンベア上を走行するが、ウェブ厚調整用ロールに到達するまでの間に上側コンベアとの間隔が徐々に狭くなる。そして、この間隔がウェブ厚みよりも狭くなったときに、ウェブは上下コンベアベルトの間に挟まれ、徐々に圧縮されながら走行する。このウェブは、ウェブ厚調整用ロールに設けられたクリアランスとほぼ同等の厚みになるまで圧縮され、その厚みの状態で水蒸気処理され、その後もコンベア下流部において前記厚みを維持しながら走行する仕組みになっている。ここでは、ウェブ厚調整用のロールが線圧50kg/cmとなるように調整した。
【0129】
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置へカードウェブを導入し、この装置から温度80℃、0.2MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向け通過するように噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、該ウェブの表裏両面に対して水蒸気処理を施した。
【0130】
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベア幅方向に1mmピッチで1列に並べられた水蒸気噴射装置を使用した。加工速度は5m/分であり、ノズルとサクション側のコンベアベルトとの距離は1mmとした。
【0131】
得られた不織繊維構造体(基材層単独で形成された不織繊維シート)は、厚み0.85mmの非常に薄い板形状をなし、かつ通気性に優れ、曲げに対する剛性を持ち、さらには成形加工も良好であった。
【0132】
[実施例2]
繊度が2.2dtexである以外は実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維と同一の湿熱接着性繊維を用いる以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。得られた不織繊維構造体は、厚み0.92mmの非常に薄い板形状を有しており、実施例1の不織繊維構造体と同様の曲げ剛性および良好な成形加工性を示していた。
【0133】
[実施例3]
繊度が1.7dtexである以外は実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維と同一の湿熱接着性繊維を用いる以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。得られた不織繊維構造体は、厚み0.99mmの非常に薄い板形状を有しており、実施例1の不織繊維構造体と同様の曲げ剛性および良好な成形加工性を示していた。
【0134】
[実施例4]
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がイソフタル酸45モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(芯鞘質量比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製「ソフィット PN−720」、2.2dtex、51mm長)を用いる以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。得られた不織繊維構造体は、厚み0.78mmの非常に薄い板形状を有しており、実施例1の不織繊維構造体と同様の曲げ剛性及び良好な成形加工性を示していた。
【0135】
[比較例1]
実施例1で得た目付約125g/mのカードウェブを3枚重ね、ウェブ厚調整用ロール間及びその下流におけるコンベア間隔を3mmとする以外は、実施例1と同様にして不織繊維構造体を得た。得られた不織繊維構造体は、実施例1〜4で得られた構造体に比べ、厚みが3.05mmと厚く、非常に硬いボード状のものであり、曲げ剛性はあるが、成形加工時の原反のズレ込みが大きく成形加工性が低かった。
【0136】
[比較例2]
実施例4で使用した湿熱接着性繊維を100質量%用いて目付約20g/mのカードウェブを作製し、熱風炉を通過させサーマルボンド不織布シートを得た。得られた不織布シートは、実施例1〜4で得られた構造体に比べ、構造体の曲げ剛性が十分でなく、かつ成形加工性を有していなかった。
【0137】
[比較例3]
市販のコピー用紙(富士ゼロックス(株)製)を評価した。市販のコピー用紙は、曲げ剛性は比較例2の不織布シートより大きいが、成形加工時に破れが発生するなど成形加工性を有していなかった。
【0138】
実施例1〜4及び比較例1〜3の不織繊維シートについて評価した結果を表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
[実施例5]
2枚重ねて合計目付け約50g/mのカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を厚み0.8mmの構造体が得られるように調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0141】
[比較例4]
60℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.2mmの構造体が得られるように調整して、実施例5で得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0142】
[実施例6]
80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.4mmの構造体が得られるように調整して、実施例5で得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0143】
[実施例7]
80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.7mmの構造体が得られるように調整して、実施例5で得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0144】
[比較例5]
4枚重ねて合計目付け約100g/mのカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を厚み0.8mmの構造体が得られるように調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.2mmの構造体が得られるように調整して、得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0145】
[実施例8]
フラットエンボスロールの隙間を0.4mmに調整する以外は比較例5と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0146】
[実施例9]
フラットエンボスロールの隙間を0.5mmに調整する以外は比較例5と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0147】
[実施例10]
繊度が1.7dtexである以外は実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維と同一の湿熱接着性繊維を用いる以外は実施例6と同様(コンベア間距離:0.8mm、フラットエンボスロール隙間:0.4mm)にして不織繊維シートを製造した。
【0148】
[実施例11]
4枚重ねて合計目付け約100g/mのカードウェブを用いる以外は実施例10と同様(コンベア間距離:0.8mm、フラットエンボスロール隙間:0.4mm)にして不織繊維シートを製造した。
【0149】
[実施例12]
フラットエンボスロールの隙間を0.7mmに調整する以外は実施例11と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0150】
[実施例13]
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がイソフタル酸45モル%共重合ポリエチレンテレフタレート(芯鞘質量比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維(ソフィット PN−720)を用いる以外は、実施例6と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0151】
[実施例14]
4枚重ねて合計目付け約100g/mのカードウェブを用いる以外は実施例13と同様(コンベア間距離:0.8mm、フラットエンボスロール隙間:0.4mm)にして不織繊維シートを製造した。
【0152】
[実施例15]
フラットエンボスロールの隙間を0.7mmに調整する以外は実施例14と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0153】
[比較例6]
16枚重ねて合計目付け約400g/mのカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を厚み3.0mmの構造体が得られるように調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0154】
[実施例16]
片側のみ80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.4mmの構造体が得られるように調整して、比較例6で得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより2層構造の不織繊維シートを製造した。
【0155】
[実施例17]
実施例5で得られた不織繊維構造体の一方の面に、メルトブローン不織布[(株)クラレ、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、鹸化度98.4モル%)繊維で形成され、かつ平均繊維径6μmの繊維で形成された不織布、目付け50g/m、厚み0.5mm]を積層し、コンベア間の距離を厚み0.8mmの構造体が得られるように調整した後、実施例1と同様に0.2MPaの高温水蒸気で処理し、2層構造の不織繊維シートを製造した。
【0156】
[実施例18]
80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.4mmの構造体が得られるように調整して、実施例17で得られた不織繊維シートをプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0157】
[実施例19]
実施例5で得られた不織繊維構造体の代わりに、比較例5で得られた不織繊維構造体(4枚重ねて合計目付け約100g/mのカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を厚み0.8mmの構造体が得られるように調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体)を用いる以外は実施例17と同様にして、2層構造の不織繊維シートを製造した。
【0158】
[実施例20]
80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.5mmの構造体が得られるように調整して、実施例19で得られた不織繊維シートをプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0159】
[実施例21]
湿熱性接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、鹸化度98.4モル%、芯鞘質量比=50/50)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製「ソフィスタ」、3.3dtex、51mm長)を準備した。この芯鞘型複合ステープル繊維100質量%を用いて、セミランダムカード法によりカードウェブを2枚重ねて目付約50g/mのカードウェブを作製した。このカードウェブを、厚み0.5mmの構造体が得られるように調整して、温度170℃、圧力0.4MPaの乾熱プレス板で10秒圧縮し、不織繊維シートを製造した。
【0160】
[実施例22]
4枚重ねて合計目付け約100g/mのカードウェブを用いる以外は実施例21と同様にして不織繊維シートを製造した。
【0161】
[比較例7]
8枚重ねて合計目付け約200g/mのカードウェブを用いるとともに、コンベア間の距離を厚み0.8mmの構造体が得られるように調整する以外は実施例1と同様にして不織繊維構造体を製造した。
【0162】
[比較例8]
80℃に加熱したフラットエンボスロールの隙間を0.6mmの構造体が得られるように調整して、比較例で得られた不織繊維構造体をプレス処理することにより3層構造の不織繊維シートを製造した。
【0163】
[比較例9]
市販の空気清浄機用集塵フィルター((株)日立製作所製「EPF−DV1000H」)を不織繊維シートとして用いた。
【0164】
[比較例10]
市販の空気清浄機用集塵フィルター((株)日立製作所製「EPF−DV1000H」)から高密度の表層を剥離して、基材層のみとし、不織繊維シートとして用いた。
【0165】
[比較例11]
市販の水槽用濾過フィルター(エーハイム社製「2213用フィルター」)を不織繊維シートとして用いた。
【0166】
実施例5〜22及び比較例4〜11の不織繊維シートについて評価した結果を表2及び3に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
表2及び3の結果から明らかなように、実施例の不織繊維シートは、剛性、プリーツ加工性、濾過性に優れているのに対して、比較例の不織繊維シートは、剛性が不十分であり、プリーツ加工性も低い。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の不織繊維シートは、一般的な不織布と同程度の厚みでありながら、優れた曲げ剛性を有するとともに、成形加工による優れた加工性をも有するため、各種の気体及び液体用フィルター、例えば、家電用分野、製薬工業分野、電子工業分野、食品工業分野、自動車工業分野などの液体フィルターや、家電用分野、自動車などのキャビン用分野などの気体フィルターとして幅広く利用できる。特に、湿熱接着性繊維で形成されたフィルターは、吸水速度や保水率が高い点から、水や水蒸気を濾過するためのフィルター、例えば、家庭用又は工業用浄水器、加湿器などのフィルターとしても有用である。また、本発明の不織繊維シートは、熱接着性繊維同士が均一かつ強固に接着し、丈夫な網目構造を形成しているため、粘性の高い液体用フィルターに有用であり、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含む熱接着繊維で形成された不織繊維シートは、親水性が高く、油成分とも親和性を有するため、水や油成分などの液体用フィルターとして有用である。さらに、本発明の不織繊維シートは、プレス加工、コルゲート加工、プリーツ加工、エンボス加工されるフィルター材料に適しており、特に、薄肉での形態安定性と濾過性とを両立できる点から、プリーツ加工されたフィルターに特に適している。
【符号の説明】
【0171】
1…サンプル
2…水平台
11…プリーツ加工したサンプル
12…アクリル板
13…重り
図1
図2