(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097310
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ビニルアルコール系グラフト重合体、その製造方法およびそれを用いるイオン交換膜
(51)【国際特許分類】
C08F 273/00 20060101AFI20170306BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
C08F273/00
B01D71/38
【請求項の数】14
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2014-551097(P2014-551097)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2013082410
(87)【国際公開番号】WO2014087981
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2016年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-265257(P2012-265257)
(32)【優先日】2012年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-42488(P2013-42488)
(32)【優先日】2013年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(72)【発明者】
【氏名】金島 琢真
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
【審査官】
柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−016738(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/119858(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/105188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00− 283/00
C08F 283/02− 289/00
C08F 291/00− 297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構成単位と、ビニルアルコール系構成単位とを含む側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を主鎖とし、該メルカプト基から重合性不飽和単量体がグラフト結合しているビニルアルコール系グラフト共重合体。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はカルボキシル基であり、R
2は、水素原子、メチル基、カルボキシル基又はカルボキシメチル基であり、Xは、
カルボニル結合(−CO−)、アミノ結合〔−NR−(Rは水素原子またはNと結合する炭素を含む基)〕、アミド結合(−CONH−)、アルコキシ基、カルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい炭素数1〜22の2価の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基であり、R
1がカルボキシル基である場合、当該カルボキシル基は、隣接するビニルアルコール単位の水酸基と環を形成していてもよく、R
2がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、当該カルボキシル基又はカルボキシメチル基は、隣接するビニルアルコール単位の水酸基と環を形成していてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載のビニルアルコール系グラフト共重合体において、Xは、*−CO−NH−X1−(式中、*は重合体主鎖と結合する結合手を示し、X1は窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す)で表される2価の基であるビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のビニルアルコール系グラフト共重合体において、グラフト結合される前記重合性不飽和単量体が水溶性であるビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のビニルアルコール系グラフト共重合体において、前記重合性不飽和単量体単位の含有量がグラフト共重合体の全構成単位に対して1〜90モル%であるビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のビニルアルコール系グラフト共重合体において、前記グラフト共重合体のグラフト鎖を構成する構成単位として、カチオン性単量体単位またはアニオン性単量体単位を含むビニルアルコール系グラフト共重合体。
【請求項6】
請求項1に記載の側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を準備する工程と、
この側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体に対して、重合性不飽和単量体をグラフト結合させるグラフト化工程と、を備える、ビニルアルコール系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法において、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体が、
ビニルエステル系構成単量体と、ビニルエステルと共重合可能であり、かつ式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する共重合工程と、
前記共重合体を加溶媒分解して、式(I)で表される構成単位に変換する変換工程と、
を含む工程により得られる製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載のビニルアルコール系グラフト共重合体を備えてなるイオン交換膜。
【請求項9】
請求項8に記載のイオン交換膜において、前記カチオン性単量体単位またはアニオン性単量体単位の含有量が、ビニルアルコール系グラフト共重合体の全構成単位に対し1〜90モル%であるイオン交換膜。
【請求項10】
請求項8または9に記載のイオン交換膜において、下記式で表される膨潤度が、1.68以下であるイオン交換膜。
膨潤度=[W1]/[W2]
(式中、W1は、25℃でのイオン交換水中、膨潤平衡に到達した膜の質量であり、W2は、W1で測定した膜を40℃12時間で真空乾燥した後の質量を表す。)
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載のイオン交換膜において、イオン交換容量が0.3mmol/g以上であるイオン交換膜。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載のイオン交換膜において、ビニルアルコール系グラフト共重合体に架橋結合が導入されているイオン交換膜。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載のイオン交換膜において、単一層から形成され、ビニルアルコール系グラフト共重合体が、この単一層中に含有されているイオン交換膜。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン交換膜において、ビニルアルコール系グラフト共重合体からなる単一層の厚みが、1〜1000μmであるイオン交換膜。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2012年12月4日出願の特願2012−265257および2013年3月5日の特願2013−042488の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、グラフト重合の基点が制御されたビニルアルコール系グラフト共重合体、その製造方法およびそれを用いるイオン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ビニルアルコール系重合体(以下ビニルアルコール系重合体をPVAと略記することがある)は数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性及び強度特性を有する事から、紙加工、繊維加工及びエマルジョン用の安定剤に利用されているほか、PVA系フィルム及びPVA系繊維等として重要な地位を占めている。
【0004】
性質の異なる重合体成分の結合からなるブロック共重合体やグラフト共重合体は、重合体成分の組み合わせの多様性に対応して種々の異なった物性を有し、耐衝撃性樹脂、高分子乳化剤、分散剤等としての利用のほか、最近では膜材や医療材料としても注目を集めており、その研究例は多岐にわたっている。PVAを一成分とするブロック共重合体やPVAを幹とするグラフト共重合体は、PVAの性質を保持しつつ、新しい性質を付与した材料として期待されている。
【0005】
これまでに、PVAを一成分とするブロック共重合体の提案がなされている(特許文献1)。
【0006】
また、PVAを幹としたグラフト共重合体の提案がいくつかなされている(特許文献2〜3)。例えば、特許文献2には、ポリビニルアルコール(PVA)を主鎖とし、スルホン酸基を有するモノマーを含有するポリマーをグラフト鎖とするグラフトポリマーが開示されている。この文献では、グラフトポリマーは、触媒または開始剤の存在下でグラフト反応を行うことにより得られることが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、チオール基を有するシランカップリング剤をポリビニルアルコール側鎖の水酸基と反応させることにより、該ポリビニルアルコールにチオール基を導入し、導入された該チオール基を過硫酸イオンと反応させて該ポリビニルアルコール上にラジカルを生ぜしめ、生成したラジカルを反応拠点としてビニルモノマーをグラフト反応させることを特徴とするポリビニルアルコールへのビニルモノマーのグラフト方法が開示されている。
【0008】
一方、イオン交換膜については、海水の濃縮、飲料水用の地下鹹水の脱塩や硝酸性窒素の除去、食品製造工程における塩分除去や医薬品の有効成分の濃縮など、現在、多種多様な用途に、電気透析法、拡散透析法などでイオン交換膜が使用されている。これらに使用される有用なイオン交換膜として、ポリビニルアルコール成分とアニオン性又はカチオン性重合体成分とを含有するブロック共重合体からなるイオン交換層を支持層上に形成したイオン交換膜が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−189113号公報
【特許文献2】特開2006−291161号公報
【特許文献3】特開平06−016738号公報
【特許文献4】WO2010−119858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で得られるブロック共重合体にはホモポリマーが多く混在するため、得られるフィルムの耐屈曲性が低いという問題があった。
また、特許文献2の方法ではグラフト共重合体合成後に重金属系重合開始剤が残存する、ブロック共重合体が生成するなど、生成物の制御が不十分であった。さらに、特許文献3では、PVAにシランカップリング剤を反応させる際、多点で反応するため、グラフトの基点を増加させようとするとゲル化物を生成する可能性があり、グラフトの基点となる反応点の導入量に限界、ひいてはグラフト鎖の導入量に限界があった。さらに、この文献ではPVA繊維への導入しか実施しておらず、その他の形態のPVAへの適用の可能性は不明である。
特許文献4で得られるイオン交換膜は、ポリビニルアルコール成分とアニオン性又はカチオン性重合体成分とを含有するブロック共重合体を用いて形成されており、得られるフィルムの耐屈曲性が低く、水中での膨潤が大きいという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、グラフト重合の基点を制御することが可能な側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を幹とする耐屈曲性に優れるグラフト共重合体を提供することにある。
本発明の他の目的は、高グラフト率で、かつ水等の溶媒に溶解して成形可能なグラフト共重合体を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、イオン性基がグラフト結合により導入されたグラフト共重合体を用いて形成されたイオン交換膜を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、支持層を設けることなく、単一層からなるイオン交換膜を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、イオン性基含有量が高く、かつ、水中での膨潤性が抑制されたイオン交換膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、メルカプト基を側鎖に有するビニルアルコール系重合体では、すでに重合体中に存在しているメルカプト基を基点としてグラフト重合するため、従来には存在しなかった方法でグラフト重合を制御することが可能となることを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明第1の構成は、下記一般式(I)で表される構成単位と、ビニルアルコール系構成単位とを含む側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を主鎖とし、該メルカプト基から重合性不飽和単量体がグラフト結合しているビニルアルコール系グラフト共重合体である。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、R
1は、水素原子又はカルボキシル基であり、R
2は、水素原子、メチル基、カルボキシル基又はカルボキシメチル基であり、Xは、炭素原子及び水素原子を含みかつ窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜22の2価の基であり、R
1がカルボキシル基である場合、当該カルボキシル基は、隣接するビニルアルコール単位の水酸基と環を形成していてもよく、R
2がカルボキシル基又はカルボキシメチル基である場合、当該カルボキシル基又はカルボキシメチル基は、隣接するビニルアルコール単位の水酸基と環を形成していてもよい。)
【0016】
前記のビニルアルコール系グラフト共重合体において、Xは、カルボニル結合(−CO−)、エーテル結合(−O−)、アミノ結合〔−NR−(Rは水素原子またはNと結合する炭素を含む基)〕、アミド結合(−CONH−)、アルコキシ基、カルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい炭素数1〜22の2価の直鎖状又は分岐状脂肪族炭化水素基であるビニルアルコール系グラフト共重合体であることが好ましい。
【0017】
前記ビニルアルコール系グラフト共重合体において、Xは、*−CO−NH−X
1−(式中、*は重合体主鎖と結合する結合手を示し、X
1は窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す)で表される2価の基であるビニルアルコール系グラフト共重合体であることが好ましい。
【0018】
前記ビニルアルコール系グラフト共重合体において、グラフト結合される前記重合性不飽和単量体が水溶性であってもよい。
【0019】
前記ビニルアルコール系グラフト共重合体において、前記重合性不飽和単量体単位の含有量がグラフト共重合体の全構成単位に対して1〜90モル%程度であってもよい。
【0020】
前記ビニルアルコール系グラフト共重合体において、前記グラフト共重合体のグラフト鎖を構成する構成単位として、カチオン性単量体単位またはアニオン性単量体単位を含むビニルアルコール系グラフト共重合体であってよい。
【0021】
本発明第2の構成は、前記の側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を準備する工程と、
この側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体に対して、重合性不飽和単量体をグラフト結合させるグラフト化工程と、を備える、ビニルアルコール系グラフト共重合体の製造方法である。
【0022】
前記の製造方法において、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体が、ビニルエステル系
単量体と、ビニルエステルと共重合可能であり、かつ式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する共重合工程と、
前記共重合体を加溶媒分解して、式(I)で表される構成単位に変換する変換工程と、を含む工程により得られることが好ましい。
【0023】
本発明第3の構成は、ビニルアルコール系グラフト共重合体を備えてなるイオン交換膜である。
【0024】
前記のイオン交換膜において、前記カチオン性単量体
単位またはアニオン性単量体
単位の含有量が、ビニルアルコール系グラフト共重合体の全構成単位に対し1〜90モル%であることが好ましい。
【0025】
前記のイオン交換膜において、下記式で表される膨潤度が、1.68以下であるイオン交換膜であることが好ましい。
膨潤度=[W
1]/[W
2]
(式中、W
1は、25℃でのイオン交換水中、膨潤平衡に到達した膜の質量であり、W
2は、W
1で測定した膜を40℃12時間で真空乾燥した後の質量を表す。)
【0026】
前記のイオン交換膜において、イオン交換容量が0.3mmol/g以上であることが好ましい。
【0027】
前記のイオン交換膜において、ビニルアルコール系グラフト共重合体に架橋結合が導入されていることが好ましい。
【0028】
前記のイオン交換膜が、単一層から形成され、ビニルアルコール系グラフト共重合体が、この単一層中に含有されていることが好ましい。
【0029】
前記のイオン交換膜において、ビニルアルコール系グラフト共重合体からなる単一層の厚みが、1〜1000μmであることが好ましい。
【0030】
なお、請求の範囲および/または明細書に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組合せも本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組合せも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のビニルアルコール系グラフト共重合体は、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体から誘導することができ、該側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、メルカプト基を側鎖に有する構成単位と、ビニルアルコール系構成単位とで構成されているため、グラフト重合の基点を制御することが可能となる。
【0032】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の変性量を制御することにより、ゲル化物を生成することなく、グラフト鎖の導入量を増加させることが可能となる。このため、
高グラフト率で、かつ水等の溶媒に溶解して成形可能なグラフト共重合体が得られる。
また、このような側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、幅広い種類の重合性不飽和単量体をグラフト結合することが可能である。
【0033】
特に水溶性の重合性不飽和単量体をグラフト結合させた場合、直接グラフト共重合体の水溶液を得ることができるので、この水溶液から膜等の成形体を得て、PVAを幹とし、耐屈曲性に優れるグラフト共重合体成形体を得ることができる。
【0034】
本発明によれば、特定の側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を幹として用いることにより、イオン性基を有する重合体をグラフト鎖とするビニルアルコール系グラフト共重合体を得ることができ、それによって、耐屈曲性に優れるイオン交換膜を得ることができる。
また、このようなビニルアルコール系グラフト共重合体からなるイオン交換膜は、イオン交換性を有するだけでなく、水中での膨潤性を抑制することが可能である。
さらに、前記ビニルアルコール系グラフト共重合体を用いることにより、支持層なしで自立膜として使用可能なイオン交換膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】イオン交換膜の動的輸率試験装置の概略図である。
【
図2】イオン交換膜の膜抵抗試験装置の概略図である。
【0036】
本発明のグラフト共重合体の幹となる側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、以下の式(I)に示される構成単位を有し、後述するビニルエステルと共重合可能である。
【0038】
式(I)において、R
1は、水素原子又はカルボキシル基であり、R
2は、水素原子、メチル基、カルボキシル基又はカルボキシメチル基であり、Xは、炭素原子及び水素原子を含みかつ窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜22の2価の基である。R
1がカルボキシル基である場合又はR
2がカルボキシル基若しくはカルボキシメチル基である場合は、隣接する水酸基と環を形成していてもよい。
【0039】
式(I)で表される単位中のXは、重合体主鎖とメルカプト基との間のスペーサーの役割を果たし、メルカプト基の反応性を立体的因子の点から向上させる部位である。スペーサーとしてのXは、炭素原子及び水素原子を含みかつ窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜22の2価の基であればよく、特に限定されない。Xの炭素数としては、1〜20が好ましい。Xが含む水素原子、窒素原子及び酸素原子の数は特に限定されない。Xが窒素原子及び/又は酸素原子を含む場合としては、例えば、脂肪族炭化水素基の炭素原子間に挿入された、カルボニル結合(−CO−)、エーテル結合(−O−)、アミノ結合〔−NR−(Rは水素原子またはNと結合する炭素を含む基)〕、アミド結合(−CONH−)等として含む場合や、脂肪族炭化水素基の水素原子を置換する、アルコキシ基、カルボキシル基(−COOH)、水酸基(−OH)等として含む場合が挙げられる。Xの例としては、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基(特に、アルキレン基);カルボニル結合、エーテル結合、アミノ結合、及びアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を含み、合計炭素数が1〜22の直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基(特に、アルキレン基);アルコキシ基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有する合計炭素数が1〜22の直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基(特に、アルキレン基);アルコキシ基、カルボキシル基及び水酸基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を有し、かつカルボニル
結合、エーテル結合及びアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を含み、合計炭素数が1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の脂肪族炭化水素基(特に、アルキレン基)等が挙げられる。
【0040】
好ましい一実施形態では、式(I)において、R
1が、水素原子であり、R
2が、水素原子又はメチル基であり、Xが、炭素原子及び水素原子を含みかつ窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の基である。当該実施形態においては、Xは、原料入手性、合成上の容易さから、カルボキシル基又は水酸基で置換されていてもよい合計炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることが好ましく、合計炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることがより好ましく、合計炭素数2〜14の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることがさらに好ましく、合計炭素数2〜8の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であることがさらにより好ましい。さらに反応性の観点から、最も好ましくは、直鎖状の炭素数6のアルキレン基である。
【0041】
別の好ましい一実施形態では、式(I)において、Xが、アミド結合を含み、当該アミド結合が、直接又は一つのメチレン基を介して、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の主鎖に結合する。当該実施形態では、式(I)で表される構成単位は、例えば、下記式(I’)となる。
【0043】
式中、R
1及びR
2は、前記と同義であり、nは0又は1であり、X
1は、窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基である。
【0044】
nは0であることが好ましい。このとき、Xは、*−CO−NH−X
1−(式中、*は重合体主鎖と結合する結合手を示し、X
1は前記と同義である)となる。nが0である場合、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の製造の際に、未反応の単量体が残りにくく、未反応の単量体による影響を低減することができる。
【0045】
X
1で表される脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、好ましくは直鎖又は分岐状である。前記脂肪族炭化水素基が分岐している場合には、脂肪族炭化水素基の主鎖(硫黄原子と窒素原子との間で原子が連続する鎖)から分岐した部位の炭素数は、1〜5であることが好ましい。X
1が窒素原子及び/又は酸素原子を含む場合としては、例えば、窒素原子及び/又は酸素原子を、前記脂肪族炭化水素基に挿入された、カルボニル結合、エーテル結合、アミノ結合、アミド結合等として含む場合や、窒素原子及び/又は酸素原子を、前記脂肪族炭化水素基を置換する、アルコキシ基、カルボキシル基、水酸基等として含む場合が挙げられる。原料入手性、合成上の容易さから、X
1は、好ましくは、合計炭素数が1〜20の、カルボキシル基を有していてもよい直鎖状又は分岐状アルキレン基であり、より好ましくは、合計炭素数が2〜15の、カルボキシル基を有していてもよい直鎖状又は分岐状アルキレン基であり、さらに好ましくは、合計炭素数が2〜10の、カルボキシル基を有していてもよい直鎖状又は分岐状アルキレン基である。
【0046】
かかる構成単位は、式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体より誘導することができ、好ましくは、式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体より誘導することができる。
【0048】
式中、R
3及びR
4は、水素原子又はカルボキシル基であり、R
5は、水素原子、メチル基、カルボキシル基又はカルボキシメチル基であり、X
2は、炭素原子及び水素原子を含みかつ窒素原子及び/又は酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜22の基であり、R
6はメチル基であるか、X
2に含まれる特定の炭素原子と共有結合して環状構造を形成する。
【0049】
X
2がアミド結合を含み、当該アミド結合のカルボニル炭素がビニル炭素と結合している場合には、式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体は、後述するビニルエステルとの共重合性が良好であり、本発明の側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の変性量、重合度を高くすることが容易である。また、一般にチオエステル系単量体を使用した場合、重合終了時に残留する未反応の単量体に起因する臭気が懸念されている。しかしながら、X
2がアミド結合を含み、当該アミド結合のカルボニル炭素がビニル炭素と結合している場合には、式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体は、重合終了時に残留する未反応の単量体が非常に少ない。
【0050】
式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体は、公知方法に準じて製造することができる。
【0051】
式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体の好ましい具体例としては、例えば、チオ酢酸S−(3−メチル−3−ブテン−1−イル)エステル、チオ酢酸S−17−オクタデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−15−ヘキサデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−14−ペンタデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−13−テトラデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−12−トリデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−11−ドデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−10−ウンデセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−9−デセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−8−ノネン−1−イルエステル、チオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステル、チオ酢酸S−6−ヘプテン−1−イルエステル、チオ酢酸S−5−ヘキセン−1−イルエステル、チオ酢酸S−4−ペンテン−1−イルエステル、チオ酢酸S−3−ブテン−1−イルエステル、チオ酢酸S−2−プロペン−1−イルエステル、チオ酢酸S−[1−(2−プロペン−1−イル)ヘキシル]エステル、チオ酢酸S−(2,3−ジメチル−3−ブテン−1−イル)エステル、チオ酢酸S−(1−エテニルブチル)エステル、チオ酢酸S−(2−ヒドロキシ−5−ヘキセン−1−イル)エステル、チオ酢酸S−(2−ヒドロキシ−3−ブテン−1−イル)エステル、チオ酢酸S−(1,1−ジメチル−2−プロペン−1−イル)エステル、2−[(アセチルチオ)メチル]−4−ペンテン酸、チオ酢酸S−(2−メチル−2−プロペン−1−イル)エステル等、また下記式(a−1)〜(a−30)が挙げられる。
【0082】
上記化合物群の中でも、原料入手性、合成上の容易さの観点から、チオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステル、(a−6)、(a−7)、(a−9)、(a−10)、(a−11)、(a−12)、(a−14)、(a−15)、(a−16)、(a−17)、(a−19)、(a−20)、(a−21)、(a−22)、(a−24)、(a−25)、(a−26)、(a−27)、(a−29)、(a−30)が好ましい。
【0083】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体における式(I)に示される構成単位の含有率は特に限定されないが、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは0.05〜10モル%であり、より好ましくは0.1〜7モル%、特に好ましくは0.3〜6モル%である。含有率が低すぎると、ビニルアルコール系重合体の結晶性が高くなり、皮膜の耐屈曲性が低下することがある。含有率が高すぎると、ビニルアルコール系重合体の結晶性が低下し、皮膜の耐水性が減少することがある。
【0084】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、式(I)で表される構成単位を1種又は2種以上有することができる。2種以上の当該構成単位を有する場合、これら2種以上の構成単位の含有率の合計が上記範囲にあることが好ましい。なお、本発明において重合体中の構成単位とは、重合体を構成する繰り返し単位のことをいう。例えば、下記のビニルアルコール単位や、下記のビニルエステル単位も構成単位である。
【0085】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体におけるビニルアルコール単位の含有率(すなわち、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体のけん化度)は特に限定されないが、下限に関しては、水に対する溶解性の観点から、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上、特に好ましくは80モル%以上である。一方、上限に関しては、重合体中の全構成単位を100モル%として、好ましくは99.94モル%以下であり、より好ましくは99.9モル%以下であり、さらに好ましくは99.5モル%以下である。99.94モル%より含有率が高いビニルアルコール系重合体は、一般に製造は難しい。
【0086】
ビニルアルコール単位は、加水分解や加アルコール分解などによってビニルエステル単位から誘導することができる。そのためビニルエステル単位からビニルアルコール単位に変換する際の条件等によってはビニルアルコール系重合体中にビニルエステル単位が残存することがある。よって、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体はビニルエステル単位を含んでいてもよい。
【0087】
ビニルエステル単位のビニルエステルの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0088】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が得られる限り、式(I)で表される構成単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の構成単位をさらに有することができる。当該構成単位は、例えば、ビニルエステルと共重合可能でありかつ式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体及びビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位である。エチレン性不飽和単量体は、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n―プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルである。
【0089】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体における式(I)で表される構成単位、ビニルアルコール単位、及びその他の任意の構成単位の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。
【0090】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体のJIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度は特に限定されず、好ましくは100〜5,000であり、より好ましくは200〜4,000である。粘度平均重合度が100未満になると、後述するグラフト共重合体皮膜の機械的強度が低下することがある。粘度平均重合度が5,000を超える側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体は、工業的な製造が難しい。
【0091】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の製造方法は、目的とする側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体が製造できる限り特に限定されない。例えば、そのような製造方法としては、(i)ビニルエステルと、(ii)ビニルエステルと共重合可能であり、かつ式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体とを共重合する共重合工程と、加溶媒分解により、得られた共重合体のビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換し、一方、式(I)で表される構成単位に変換可能な不飽和単量体に由来する単位を式(I)で表される構成単位に変換する変換工程とを含む方法が挙げられる。
【0092】
特に、ビニルエステルと式(II)で表される不飽和二重結合を有するチオエステル系単量体(以下、チオエステル系単量体(II)と称する)とを共重合し、得られた共重合体のビニルエステル単位のエステル結合及びチオエステル系単量体(II)由来の構成単位のチオエステル結合を、加水分解又は加アルコール分解する方法が簡便であり好ましく用いられ、以下この方法について説明する。
【0093】
ビニルエステルとチオエステル系単量体(II)との共重合は、ビニルエステルを単独重合する際の公知の方法及び条件を採用して行うことができる。
【0094】
なお、共重合の際、ビニルエステル及びチオエステル系単量体(II)と共重合可能な単量体をさらに共重合させてもよい。当該共重合可能な単量体は、前記のエチレン性不飽和単量体と同様である。
【0095】
得られた共重合体のビニルエステル単位のエステル結合と、チオエステル系単量体(II)由来の構成単位のチオエステル結合は、ほぼ同じ条件で加水分解又は加アルコール分解可能である。したがって、得られた共重合体のビニルエステル単位のエステル結合及びチオエステル系単量体(II)由来の構成単位のチオエステル結合の加水分解又は加アルコール分解は、ビニルエステルの単独重合体をけん化する際の公知の方法及び条件を採用して行うことができる。
【0096】
このようにして得られる側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体と、重合性不飽和単量体とを用いてビニルアルコール系グラフト共重合体を得る方法としては、例えば、特開昭59−189113号公報などに記載された、ブロック共重合体の合成方法を応用することができる。すなわち、ビニルアルコール系グラフト共重合体は、前記側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を準備する工程と、この側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体に対して、重合性不飽和単量体をグラフト結合させるグラフト化工程と、を経て製造することができる。前記グラフト重合は、側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の存在下に重合性不飽和単量体をラジカル重合させることにより行われる。このラジカル重合は公知の方法、例えば水やジメチルスルホキシドを主体とする媒体中で行うのが好ましい。また、重合プロセスとしては、回分法、半回分法、連続法のいずれをも採用することができる。
【0097】
上記ラジカル重合は、通常のラジカル重合開始剤、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド]、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の中から重合系に適したものを使用して行うことができるが、水系での重合の場合、ビニルアルコール系重合体側鎖のメルカプト基と臭素酸カリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の酸化剤によるレドックス反応によって重合を開始することも可能である。
【0098】
側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体の存在下に重合性不飽和単量体をラジカル重合させるに際し、重合系が中性または酸性であることが望ましい。これはメルカプト基が、塩基性下においては、単量体の二重結合へイオン的に付加し消失する速度が大きく、重合効率が著しく低下するためである。また、水系の重合であれば、すべての重合操作をpH4以下で実施することが好ましい。
【0099】
本発明のPVAを幹とするグラフト共重合体のグラフト鎖をなす重合体は、ラジカル重合可能な重合性不飽和単量体の単独重合体あるいはランダム共重合体によって構成され、組成、分子量、分子量分布等には特に制限はないが、重合性不飽和単量体の含有量がグラフト共重合体の全構成単位に対し1〜90モル%であることが好ましく、2〜50モル%であることがより好ましく、3〜3
0モル%であることが特に好ましい。含有量がこれらの好ましい範囲にある場合皮膜の耐屈曲性が発現しやすい。含有量が1モル%未満であると、グラフト鎖導入によってPVAが変性される効果が不十分となることがある。含有率が90モル%を超えると、皮膜の強度が低下する。
【0100】
本発明のPVA系グラフト共重合体は、側鎖メルカプト基含有PVA系重合体の重合度、けん化度、式(I)に示される構成単位の含有量等を変化させることと、グラフト鎖成分の重合体の組成、分子量をラジカル重合可能な重合性不飽和単量体群から任意に選択し組み合わせることにより、きわめて広範囲の性質を付与することができる。
【0101】
上記した方法によってグラフト共重合体を合成する際に用いられる、重合性不飽和単量体としては、目的とする性質に応じて適宜設定することができるが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオライド等のハロゲン化オレフィン類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸もしくはその塩、又はアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸もしくはその塩、又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のその他の不飽和カルボン酸又はその誘導体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシル基含有ビニルエーテル類;アリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシル基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸又はその塩、アリルスルホン酸又はその塩、メタアリルスルホン酸又はその塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はその塩等のスルホン酸基を有する単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸又はその塩等のホスホン酸基を有する単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸又はその塩等のカルボン酸基を有する単量体;ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン性基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のシリル基を有する単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸またはその塩、α−メチル−p−スチレンスルホン酸又はその塩、p−スチレンカルボン酸又はその塩、α−メチル−p−スチレンカルボン酸又はその塩、p−スチレンホスホン酸又はその塩、α−メチル−p−スチレンホスホン酸又はその塩等のスチレン系単量体;2−ビニルナフタレンスルホン酸又はその塩、2−ビニルナフタレンカルボン酸又はその塩、2−ビニルナフタレンホスホン酸又はその塩等のビニルナフタレン系単量体;その他N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらの重合性不飽和単量体は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0102】
グラフト鎖成分重合体を与える重合性不飽和単量体として、水溶性の重合性不飽和単量体を使用すると、得られるPVA系グラフト共重合体は水溶性であり、重合後そのままグラフト共重合体の水溶液として使用できる。
なお、水に不溶または難溶性である重合性不飽和単量体を使用する場合、重合条件次第では、重合後にエマルション状の分散液とすることも可能であるが、条件設定および製造容易性の観点から、水溶性の重合性不飽和単量体を用いることが好ましい。
【0103】
上記ラジカル重合の反応温度については特に制限はないが、通常0〜200℃が適当である。重合の経過を各種クロマトグラフィー、NMRスペクトル等による残存モノマーの定量により追跡して重合反応の停止を判断することで、ビニルアルコール系重合体の幹と重合体の枝とを所望の割合に調製できる。重合反応の停止は公知の手法、例えば重合系の冷却により重合を停止する。
【0104】
本発明のビニルアルコール系グラフト共重合体は、その特性を利用して、単独で又は他の成分を添加した組成物として、成形、紡糸、エマルション化等の公知方法に従い、ビニルアルコール系重合体が用いられる各種用途に使用可能である。例えば、各種用途の界面活性剤、紙用コーティング剤、紙用内添剤および顔料バインダーなどの紙用改質剤、木材、紙、アルミ箔および無機物などの接着剤、不織布バインダー、塗料、経糸糊剤、繊維加工剤、ポリエステルなどの疎水性繊維の糊剤、その他各種フィルム、シート、ボトル、繊維、増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜などに使用できる。
【0105】
本発明のビニルアルコール系グラフト共重合体を成形する方法は限定されない。成形方法は、例えば当該重合体の溶媒である水又はジメチルスルホキシドなどに溶解した溶液の状態から成形する方法(例えばキャスト成形法);加熱により当該重合体を可塑化して成形する方法(例えば押出成形法、射出成形法、インフレ成形法、プレス成形法、ブロー成形法)である。これらの成形方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトルなどの任意の形状を有する成形品が得られる。
【0106】
特に、幹であるビニルアルコール単位に対する式(I)の構成単位の割合や、グラフト共重合体を形成するための重合性不飽和単量体の種類やその含有量などを制御することにより、ポリマーの結晶性に由来して、成形品の耐水性および耐屈曲性を制御することが可能である。
例えば、成形品は、25℃の水に24時間浸漬した場合の溶出率を、10質量%以下とすることができ、好ましくは9.5質量%以下、より好ましくは9質量%以下とすることができる。なお、ここで溶出率とは、後述する実施例に記載した方法により測定される値である。
【0107】
(イオン交換膜)
本発明に係るビニルアルコール系グラフト共重合体により好適に形成されるイオン交換膜について以下に記載する。イオン交換膜に用いられるビニルアルコール系共重合体は、
イオン性重合体がグラフト結合しているビニルアルコール系グラフト共重合体である。
【0108】
(イオン性重合体がグラフト結合しているビニルアルコール系グラフト共重合体)
上記のようにして得られる側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を幹として、カチオン性単量体を重合してなるカチオン性重合体、又はアニオン性単量体を重合してなるアニオン性重合体がグラフト結合することによって、イオン性重合体がグラフト結合しているビニルアルコール系グラフト共重合体を得ることができる。側鎖メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体と、カチオン性単量体又はアニオン性単量体とを用いてビニルアルコール系グラフト共重合体を得る方法は、前述の方法がそのまま適用される。
【0109】
本発明のイオン交換膜を構成するPVAを幹とするグラフト共重合体のグラフト鎖をなす重合体は、ラジカル重合可能な、カチオン性単量体又はアニオン性単量体の単独重合体あるいはランダム共重合体によって構成され、組成、分子量、分子量分布等には特に制限はないが、カチオン性単量体又はアニオン性単量体の含有量がグラフト共重合体の全構成単位に対し1〜90モル%であることが好ましく、2〜50モル%であることがより好ましく、2.5〜40
モル%であることがさらに好ましく、3〜30
モル%であることが特に好ましい。含有量がこれらの好ましい範囲にある場合皮膜の耐屈曲性が発現しやすい。含有量が1モル%未満であると、イオン交換膜中の有効荷電密度が低下し、膜の対イオン選択性が低下する恐れがある。含有率が90モル%を超えると、膜の強度が低下する。
【0110】
(カチオン性単量体)
上記した方法によってグラフト共重合体を合成する際に用いられる、カチオン性単量体の有するカチオン基としては、アンモニウム基、イミニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基などが例示される。また、アミノ基やイミノ基のように、水中においてその一部が、アンモニウム基やイミニウム基に変換し得る官能基を含有する単量体も、本発明のカチオン性単量体に含まれる。この中で、工業的に入手し易い観点から、アンモニウム基が好ましい。アンモニウム基としては、1級アンモニウム基(アンモニウム基)、2級アンモニウム基(アルキルアンモニウム基等)、3級アンモニウム基(ジアルキルアンモニウム基等)、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)のいずれを用いることもできるが、4級アンモニウム基(トリアルキルアンモニウム基等)がより好ましい。また、カチオン基の対アニオンは特に限定されず、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンなどが例示される。この中で、入手の容易性の点から、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。
【0111】
カチオン性単量体としては、以下の一般式(b−1)〜(b−7)で表されるものが例示される。
【0113】
[式中、R
7は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R
8、R
9、R
10はそれぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基、アリール基若しくはアラルキル基を表す。R
8、R
9、R
10は、相互に連結して飽和若しくは不飽和環状構造を形成していてもよい。Zは−O−、−NH−、または−N(CH
3)−を表し、Yは酸素、窒素、硫黄またはリン原子を含んでもよい総炭素数1〜8の二価の連結基を表す。X
−はアニオンを表す。]
【0114】
一般式(b−1)中の対アニオンX
−としては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、カルボン酸イオンなどが例示される。一般式(b−1)で表されるカチオン性単量体としては、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタ)アクリルアミド−アルキルトリアルキルアンモニウム塩などが例示される。
【0116】
[式中、R
11は水素原子またはメチル基を表す。R
8、R
9、R
10、およびX
−は一般式(b−1)と同義である。]
【0117】
一般式(b−2)で表されるカチオン性単量体としては、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどビニルベンジルトリアルキルアンモニウム塩などが例示される。
【0119】
[式中、R
8、R
9、およびX
−は一般式(b−1)と同義である。]
【0120】
一般式(b−3)で表されるカチオン性単量体としては、ジアリルジメチルアンモニウ
ムクロライドなどジアリルジアルキルアンモニウム塩が例示される。
【0122】
[式中、nは0または1を表す。R
8およびR
9は一般式(b−1)と同義である。]
【0123】
一般式(b−4)で表されるカチオン性単量体としては、アリルアミンまたはビニルアミンなどが例示される。
【0125】
[式中、nは0または1を表す。R
8、R
9、R
10、およびX
−は一般式(b−1)と同義である。]
【0126】
一般式(b−5)で表されるカチオン性単量体としては、アリルアミン塩酸塩またはビニルアミン塩酸塩などアリルアンモニウム塩またはビニルアンモニウム塩などが例示される。
【0128】
[式中、R
11は水素原子またはメチル基を表し、Aは−CH(OH)CH
2−、−CH
2CH(OH)−、−C(CH
3)(OH)CH
2−、−CH
2C(CH
3)(OH)−、−CH(OH)CH
2CH
2−、または−CH
2CH
2CH(OH)−を表す。Eは−N(R
12)
2または−N
+(R
12)
3・X
−を表し、R
12は水素原子またはメチル基を表す。]
【0129】
一般式(b−6)で表されるカチオン性単量体として、N−(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミンまたはその4級アンモニウム塩、N−(4−アリルオキシ−3−ヒドロキシブチル)ジエチルアミンまたはその4級アンモニウム塩が例示される。
【0131】
[式中、R
11は水素原子またはメチル基、R
13は水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基またはi−プロピル基、R
14は水素原子、メチル基、およびエチル基をそれぞれ表す。]
【0132】
一般式(b−7)で表されるカチオン性単量体として、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
【0133】
前記カチオン性単量体は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0134】
(アニオン性単量体)
上記した方法によってグラフト共重合体を合成する際に用いられる、アニオン性単量体の有するアニオン基としては、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基などが例示される。また、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基のように、水中においてその一部が、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基に変換し得る官能基を含有する単量体も含まれる。この中で、イオン解離定数が大きい点から、スルホネート基が好ましい。また、アニオン基の対イオンは特に限定されず、水素イオン、アルカリ金属イオンなどが例示される。この中で、設備の腐食問題が少ない点から、アルカリ金属イオンが好ましい。
【0135】
アニオン性単量体としては、以下の一般式(b−8)および(b−9)で表されるものが例示される。
【0137】
[式中、R
15は水素原子またはメチル基を表す。Gは−SO
3H、−SO
3−M
+、−PO
3H、−PO
3−M
+、−CO
2Hまたは−CO
2−M
+を表す。M
+はアンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンを表す。]
【0138】
一般式(b−8)で表されるアニオン性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はその塩等のスルホン酸基を有する単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸又はその塩等のホスホン酸基を有する単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸又はその塩等のカルボン酸基を有する単量体などが例示される。
【0140】
[式中、R
15は水素原子またはメチル基を表し、Tはメチル基で置換されていてもよいフェニレン基またはナフチレン基を表す。Gは一般式(b−8)と同義である。]
【0141】
一般式(b−9)で表されるアニオン性単量体としては、p−スチレンスルホン酸またはその塩、α−メチル−p−スチレンスルホン酸又はその塩、p−スチレンカルボン酸又はその塩、α−メチル−p−スチレンカルボン酸又はその塩、p−スチレンホスホン酸又はその塩、α−メチル−p−スチレンホスホン酸又はその塩等のスチレン系単量体;2−ビニルナフタレンスルホン酸又はその塩、2−ビニルナフタレンカルボン酸又はその塩、2−ビニルナフタレンホスホン酸又はその塩等のビニルナフタレン系単量体などが例示される。
【0142】
また、アニオン性単量体としては、アクリル酸もしくはその塩;メタクリル酸もしくはその塩;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のその他の不飽和カルボン酸又はその誘導体;エチレンスルホン酸又はその塩、アリルスルホン酸又はその塩、メタアリルスルホン酸又はその塩なども例示される。
【0143】
一般式(b−8)または(b−9)において、Gは、より高い荷電密度を与えるスルホネート基、スルホン酸基、ホスホネート基、またはホスホン酸基であることが好ましい。また一般式(b−8)および一般式(b−9)中、M
+で表されるアルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等が挙げられる。
【0144】
前記アニオン性単量体は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0145】
(その他のエチレン性不飽和単量体)
本発明のイオン交換膜を構成するPVAを幹とするグラフト共重合体のグラフト鎖をなす重合体は、本発明の効果が得られる限り、前記カチオン性単量体またはアニオン性単量体以外に由来する構成単位をさらに有することができる。当該構成単位は、例えば、前記カチオン性単量体またはアニオン性単量体と共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来する構成単位である。エチレン性不飽和単量体は、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n―プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルである。
【0146】
本発明のイオン交換膜を構成するPVAを幹とするグラフト共重合体のグラフト鎖をなす重合体における前記カチオン性単量体またはアニオン性単量体に由来する構成単位及びその他の任意の構成単位の配列順序には特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。
【0147】
(イオン交換膜)
本発明のイオン交換膜は、ビニルアルコール系グラフト共重合体を用いて形成され、その成形方法は、製膜可能である限り、例えば当該重合体の溶媒に溶解した溶液の状態から成形する方法(例えばキャスト成形法);加熱により当該重合体を可塑化して成形する方法(例えば押出成形法、インフレ成形
法など)のさまざまな製膜方法を利用することができる。これらの成形方法のうち、キャスト成形が好ましく用いられる。
なお、本発明のイオン交換膜は、ビニルアルコール系グラフト共重合体を主成分として含有しており、各種添加剤など、必要に応じて含んでいてもよい。
【0148】
キャスト成形では、グラフト共重合体の溶液から皮膜を形成することにより、得ることができる。皮膜形成工程としては、グラフト共重合体を、その可溶性溶媒により溶解させた溶液を準備する準備工程と、その溶液を薄膜として流し、その薄膜を乾燥させて製膜する製膜工程とを備えている。
【0149】
グラフト共重合体の溶液に用いられる溶媒としては、通常、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの低級アルコール、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
製膜工程では、通常、キャスティングにより溶液中の溶媒を揮発させることにより得ることができる。製膜工程の際の温度は、特に限定されないが、室温〜100℃程度の温度範囲が適当である。
【0150】
本発明のイオン交換膜の製造方法においては、前記製膜工程に加えて、熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことによって、物理的な架橋が生じ、得られるイオン交換膜の機械的強度が増大する。熱処理の方法は特に限定されず、熱風乾燥機などが一般に用いられる。熱処理の温度は特に限定されないが、50〜250℃であることが好ましい。熱処理の温度が50℃未満であると、得られるイオン交換膜の機械的強度が不足するおそれがある。該温度は80℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがより好ましい。一方、熱処理の温度が250℃を超えると、結晶性重合体が融解するおそれがある。該温度は230℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。
【0151】
本発明のイオン交換膜の製造方法においては、前記製膜工程に加えて、架橋処理を施すことが好ましい。架橋処理を施すことによって、得られるイオン交換膜の機械的強度が増大する。架橋処理の方法は、重合体の分子鎖同士を化学結合によって結合できる方法であればよく、特に限定されない。通常、架橋処理剤を含む溶液に浸漬する方法などが用いられる。該架橋処理剤としては、ホルムアルデヒド、或いはグリオキザールやグルタルアルデヒドなどのジアルデヒド化合物が例示される。本発明においては、熱処理を行った後の上記皮膜を、酸性条件下で、水、アルコール又はそれらの混合溶媒にジアルデヒド化合物を溶解させてなる溶液に浸漬することにより、架橋処理を行うことが好ましい。架橋処理剤の濃度は、通常、溶液に対する架橋処理剤の体積濃度が0.001〜10体積%である。
【0152】
本発明のイオン交換膜の製造方法においては、熱処理と架橋処理の両方を行ってもよいし、そのいずれかのみを行ってもよい。熱処理と架橋処理を両方行う場合、熱処理の後に架橋処理を行ってもよいし、架橋処理の後に熱処理を行ってもよいし、両者を同時に行ってもよい。熱処理の後に架橋処理を行うことが、得られるイオン交換膜の機械的強度の面から好ましい。
【0153】
本発明のイオン交換膜は、電気透析用電解質膜として必要な性能、膜強度、ハンドリング性等を確保する観点から、その膜厚が1〜1000μm程度であることが好ましい。膜厚が1μm未満である場合には、膜の機械的強度が不充分となる傾向がある。逆に、膜厚が1000μmを超える場合には、膜抵抗が大きくなり、充分なイオン交換性が発現しないため、電気透析効率が低くなる傾向となる。膜厚はより好ましくは5〜500μmであり、更に好ましくは7〜300μmである。
特に、本発明のイオン交換膜は、膜としての耐屈曲性が高いため、支持体を利用しない自立膜として、単一層から形成することが可能である。単一層として用いられる場合、膜厚としては、例えば、30μm以上であってもよく、好ましくは50μm以上であってもよい。
【0154】
電気透析用のイオン交換膜として使用するのに十分なイオン交換性を発現するためには、イオン交換膜のイオン交換容量は0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.5mmol/g以上であることがより好ましい。グラフト共重合体のイオン交換容量の上限については、イオン交換容量が大きくなりすぎると親水性が高まり膨潤度の制御が困難となるので、5.0mmol/g以下であることが好ましく、4.0mmol/g以下であることがより好ましい。
【0155】
イオン交換膜は、水中での膨潤度を抑制することが可能であり、例えば、下記式で表される膨潤度が、1.00〜1.68であるのが好ましく、1.10〜1.66以下であるのがより好ましく、1.20〜1.63であるのが特に好ましい。
膨潤度=[W1]/[W2]
(式中、W1は、25℃でのイオン交換水中、膨潤平衡に到達した膜の質量であり、W2は、W1で測定した膜を40℃12時間で真空乾燥した後の質量を表す。)
【実施例】
【0156】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0157】
[側鎖メルカプト基含有PVAの合成]
<PVA−1>
(1) 攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル450質量部、コモノマーとして下記式(II−2)で示されるチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステル9.9質量部、及びメタノール121質量部を仕込み、アルゴンバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.36質量部を添加し重合を開始した。60℃で4時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の重合率は38%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、(II−2)で示されるチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステルが導入されたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度35.6%)を得た。なお、(II−2)で示されるチオ酢酸S−7−オクテン−1−イルエステルは、米国特許3632826号明細書に記載の方法で合成した。
【0158】
【化44】
【0159】
(2)上記(1)で得られたチオエステル基を有するポリ酢酸ビニルのメタノール溶液280.9質量部にメタノール39.7質量部を加え(溶液中のチオエステル基を有するポリ酢酸ビニルは100質量部)、さらに、12.7質量部の水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度12.8%)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液のチオエステル基を有するポリ酢酸ビニル濃度30%、チオエステル基を有するポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.035)。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加後約8分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で52分間放置してけん化を進行させた。これに酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した後、メタノールでよく洗浄し、真空乾燥機中40℃で12時間乾燥することにより側鎖メルカプト基含有PVA(PVA−1)を得た。合成条件を表1に示す。また、
1H−NMR測定により得られた化学シフト値を以下に示す。また、
1H−NMR測定により求めた式(I)で表される構成単位の含有量(変性量)とビニルアルコール単位の含有量(けん化度)を表1に示す。さらに、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度を表1に示す。
【0160】
1H−NMR(270MHz,D
2O(DSS含有),60℃) δ(ppm):1.3−1.9(−CH
2CH(OH)−、および、−CH
2CH(CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2SH)−)、2.05−2.15(−CH
2CH(OCOCH
3)−)、2.51−2.61(−CH
2CH(CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2SH)−)、3.9−4.2(−CH
2CH(OH)−)
【0161】
(チオエステル系単量体(a−9)の合成)
反応器に1−アミノ−7−オクテン塩酸塩14.6質量部、チオ酢酸10.2質量部、及びテトラヒドロフラン100質量部を仕込み、20分間アルゴンを吹き込んだ。その後、アルゴン雰囲気のまま2,2−アゾビスイソブチロニトリル1.5質量部を添加し、2時間加熱還流した。室温まで冷却し、ヒドロキノン1.5質量部を添加した後、溶媒を減圧留去した。得られた固体を酢酸メチルで再結晶精製し、チオ酢酸S−アミノオクチル塩酸塩15.4質量部を得た。
【0162】
次に、得られたチオ酢酸S−アミノオクチル塩酸塩15.4質量部、トリエチルアミン19.7質量部、ヒドロキノン0.3質量部、及びテトラヒドロフラン100質量部を別の反応器に仕込み、30分間加熱還流した。その後0℃まで冷却し、メタクリル酸クロリド7.5質量部を2時間かけて滴下した。その後室温まで昇温してさらに30分間攪拌し、反応を完結させた。溶媒を減圧留去した後、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度5質量%)で分液処理を行い、抽出した酢酸エチル層を濃縮して粗体を得た。得られた粗体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで単離精製し、チオエステル系単量体(a−9)を得た。
1H−NMRの分析結果を以下に示す。
【0163】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d
6,TMS) δ(ppm):1.2−1.5(12H,SCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2NH)、1.82(3H,CH
2CCH
3)、2.30(3H,SCOCH
3)、2.81(2H,SCH
2CH
2)、3.05(2H,CH
2CH
2NH)、5.27(1H,CH
2CCH
3)、5.60(1H,CH
2CCH
3)、7.86(1H,CH
2NH)
【0164】
<PVA−2>
(1)攪拌機、還流冷却管、アルゴン導入管、コモノマー添加口及び重合開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル450質量部、コモノマーとしてチオエステル系単量体(a−9)0.61質量部、及びメタノール302質量部を仕込み、アルゴンバブリングをしながら30分間系内をアルゴン置換した。これとは別に、コモノマーの逐次添加溶液(以降ディレー溶液と表記する)としてチオエステル系単量体(a−9)のメタノール溶液(濃度4質量%)を調製し、30分間アルゴンをバブリングした。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を添加し重合を開始した。重合反応の進行中は、調製したディレー溶液を系内に滴下することで、重合溶液におけるモノマー組成(酢酸ビニルとチオエステル系単量体(a−9)のモル比率)が一定となるようにした。60℃で210分間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止時の重合率は40%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応のモノマーの除去を行い、チオエステル系単量体(a−9)が導入されたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液(濃度38.5%)を得た。
【0165】
(2)上記(1)で得られたチオエステル系単量体(a−9)が導入されたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液259.7質量部にメタノール59.1質量部を加え(溶液中のチオエステル系単量体(a−9)が導入されたポリ酢酸ビニルは100質量部)、さらに、水酸化ナトリウムメタノール溶液(濃度12.8%)を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液のチオエステル系単量体(a−9)が導入されたポリ酢酸ビニル濃度30%、チオエステル系単量体(a−9)が導入されたポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比0.040)。水酸化ナトリウムメタノール溶液を添加後約8分でゲル化物が生成したので、これを粉砕機にて粉砕し、さらに40℃で52分間放置してけん化を進行させた。これに酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した後、メタノールでよく洗浄し、真空乾燥機中40℃で12時間乾燥することにより、側鎖メルカプト基含有PVA(PVA−2)を得た。合成条件を表1に示す。また、
1H−NMR測定により得られた化学シフト値を以下に示す。また、
1H−NMR測定により求めた式(I)で表される構成単位の含有量(変性量)とビニルアルコール単位の含有量(けん化度)を表1に示す。さらに、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度を表1に示す。
【0166】
1H−NMR(270MHz,D
2O(3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(DSS)含有),60℃) δ(ppm):0.9−1.1(−CH
2CCH
3)、1.3−1.9(−CH
2CH(OH)−,NHCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2SH)、2.0−2.2(−CH
2CH(OCOCH
3)−)、2.5−2.6(CH
2CH
2SH)、3.5−4.2(−CH
2CH(OH)−,CONHCH
2CH
2)
【0167】
<PVA−3〜PVA−7>
重合条件(酢酸ビニルモノマー、メタノール及びコモノマーの初期仕込み量ならびに重合時に使用するコモノマーの種類)とけん化条件(変性ポリビニルアセテートの濃度及び酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比)を表1に示すように変更したこと以外はPVA−2と同様にして、側鎖メルカプト基含有PVA(PVA−3〜PVA−7)を合成した。なお、チオエステル系単量体(a−11)は、下記の方法により合成した。PVA−4〜7について、
1H−NMR測定により得られた化学シフト値を以下に示す。また、
1H−NMR測定により求めた式(I)で表される構成単位の含有量(変性量)とビニルアルコール単位の含有量(けん化度)を表1に示す。さらに、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度を表1に示す。
【0168】
(チオエステル系単量体(a−11)の合成)
反応器に2−アミノエタンチオール塩酸塩3.1質量部、及び塩化メチレン20質量部を仕込み、室温で塩化アセチル4.3質量部を滴下し、4時間加熱還流した。室温まで冷却し、析出した固体をろ別した後、塩化メチレンで洗浄し、チオ酢酸S−アミノエチル塩酸塩4.1質量部を得た。
【0169】
次に、得られたチオ酢酸S−アミノエチル塩酸塩1.5質量部、無水マレイン酸1.0質量部、酢酸ナトリウム0.8質量部、及び酢酸50質量部を別の反応器に仕込み、室温で4時間攪拌した。ここに水100質量部を添加し、室温で5時間攪拌した後、析出した固体をろ別し、チオエステル系単量体(a−11)1.4質量部を得た。
1H−NMRの分析結果を以下に示す。
【0170】
1H−NMR(270MHz,DMSO−d
6,TMS) δ(ppm):2.33(3H,SCOCH
3)、3.07(2H,SCH
2CH
2NH)、3.45(2H,SCH
2CH
2NH)、4.89(1H,SCH
2CH
2NH)、6.24(1H,COCHCHCO)、6.42(1H,COCHCHCO)
【0171】
<PVA−4〜7>
1H−NMR(270MHz,D
2O(DSS含有),60℃) δ(ppm):1.3−1.9(−CH
2CH(OH)−)、2.0−2.2(−CH
2CH(OCOCH
3)−)、2.5−2.6(CONHCH
2CH
2SH)、3.5−4.2(−CH
2CH(OH)−,−CH(COOH)CH−,CONHCH
2CH
2SH)
【0172】
【表1】
【0173】
[末端メルカプト基含有PVAの合成]
<PVA−8>
特開昭59−187005号公報に記載の方法で、末端にメルカプト基を有するビニルアルコール系重合体(PVA−8)を合成した。
1H−NMR測定により求めたビニルアルコール単位の含有量(けん化度)は98.5モル%、JIS K6726に準拠して測定した粘度平均重合度は1500であった。
【0174】
実施例1−1〜1−4、比較例1−1〜1−2において、以下の膜特性を評価した。
【0175】
[耐水性評価]
下記の実施例又は比較例で得られた水溶性重合体水溶液15質量部をポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、室温大気圧下で溶媒を充分に揮発させ、120℃で10分間熱処理して厚さ約100μmの評価用フィルムを作製した。
【0176】
得られた評価用フィルムを室温水中に24時間浸漬し、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(Wa)を測定した。得られた質量(Wa)と浸漬前の質量(Wb)とから、以下の式に従って溶出率を算出した。そして、これら溶出率を耐水性の指標とした。
溶出率(質量%)=100×([Wb]−[Wa])/[Wb]
【0177】
[耐屈曲性試験(1)]
評価用フィルムを5cm×10cmの大きさに切り出し、両端を指でつまんで90度折り曲げて戻す操作を10回繰り返し、フィルムの耐屈曲性評価を行った。評価は以下の基準により3段階で行った。
○:10回折り曲げても割れなかった。
△:5〜10回の折り曲げで割れてしまった。
×:1〜4回の折り曲げで割れてしまった。
【0178】
実施例2−1〜2−11及び比較例2−1〜2−2において、以下のイオン交換膜の特性を評価した。
[耐屈曲性試験(2)]
得られたイオン交換膜を5cm×10cmの大きさに切り出し、直径2mmの丸棒に180度巻き付けて戻す操作を繰り返し、膜が割れるまでの回数を計測した。3回評価を行った平均値を評価結果とした。3回とも10回以上繰り返しても割れなかった場合は○と評価した。
【0179】
[陽イオン交換容量の測定]
陽イオン交換膜を0.1mol/LのKCl水溶液に10時間以上浸漬して対イオンをカリウムイオンに置換し、イオン交換水で洗浄する。その後、0.1mol/LのNaNO
3水溶液でカリウムイオン型をナトリウムイオン型に置換させ、遊離したカリウムイオンの量A(mol)をイオンクロマトグラフィー装置(ICS−1600;日本ダイオネクス株式会社製)で定量した。
【0180】
次に、同じ陽イオン交換膜を1×10
−4mol/LのNaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分に水洗したのち膜を取り出し、真空乾燥機で十分に乾燥させ、乾燥重量W
1(g)を測定した。イオン交換容量は次式により算出した。
・イオン交換容量=A×1000/W
1[mmol/g−乾燥膜]
【0181】
[陰イオン交換容量の測定]
陰イオン交換膜を0.1mol/LのKCl水溶液に10時間以上浸漬して塩化物イオン型に置換し、イオン交換水で洗浄する。その後、0.1mol/LのNaNO
3水溶液で塩化物イオン型を硝酸イオン型に置換させ、遊離した塩化物イオンの量B(mol)をイオンクロマトグラフィー装置(ICS−1600;日本ダイオネクス株式会社製)で定量した。
【0182】
次に、同じ陰イオン交換膜を0.1mol/LのNaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分に水洗したのち膜を取り出し、真空乾燥機で十分に乾燥させ、乾燥重量W
2(g)を測定した。イオン交換容量は次式により算出した。
・イオン交換容量=B×1000/W
2[mmol/g−乾燥膜]
【0183】
[動的輸率の測定]
イオン交換膜の動的輸率は、
図1に示される動的輸率試験装置を用いて測定した。該装置には、電源1、アンペアメーター2、クーロンメーター3、ボルトメーター4、およびモーター5を用いて回転するスターラー6が備えられている。カソード電極(AgCl電極)7およびアノード電極(Ag電極)8となる2枚の電極板を有する2室セル9の中に、イオン交換膜10を挟み、該膜の両側に0.5mol/LのNaCl溶液を満たした。所定時間(t)の間、所定電流密度(J=10mA・cm
−2)で電気透析を行った。用いた2室セル9におけるイオン交換膜10の有効膜面積は8.0cm
2(2cm×4cm)であった。その後、測定溶液を取り出し、その溶液を300mLメスフラスコを用いて希釈した。得られた希釈溶液の伝導度を伝導度計にて測定し、得られた伝導度の値を下式に代入することで動的輸率td+を算出した。
td+=Δm/Ea
・td+: 動的輸率
・Δm:移動当量
・Ea:理論当量=I×t/F
・I:流した電流
・t:測定時間(通電時間)
・F:Faraday定数
【0184】
[膜抵抗の測定]
前処理として、測定試料をあらかじめ0.5mol/LのNaCl溶液中に平衡に達するまで浸漬させた。
図2に示される膜抵抗試験装置を用いて測定した。水浴11中に設置された、電極12となる2枚の白金黒電極板を有する2室セル13の中にイオン交換膜14を挟み、該膜の両側に0.5mol/LのNaCl溶液を満たした。両電極にLCRメーター15を接続し、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/s)により25℃における電極間の抵抗値を測定した。用いた2室セル13におけるイオン交換膜14の有効膜面積は1.0cm
2である。得られた電極間抵抗値とイオン交換膜14を設置しない場合の電極間抵抗値との差を求め、膜抵抗の値とした。
【0185】
[膨潤度評価]
下記の実施例及び比較例で得られたイオン交換膜を5cm×10cmの大きさに切り出し、表面の水分をティッシュペーパーで拭き取った後、質量(W1)を測定した。該膜を40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W2)を測定し、以下の式に従って膨潤度を算出した。
膨潤度(倍)=[W1]/[W2]
【0186】
(実施例P−1)
還流冷却管、攪拌翼を備え付けた1Lの四つ口セパラブルフラスコに、水407g、側鎖メルカプト基含有ポリビニルアルコールとしてPVA−1を110g仕込み、攪拌下95℃まで加熱して該ポリビニルアルコールを溶解した後、室温まで冷却した。該水溶液に1/2規定の硫酸を添加してpHを3.0に調製した。これに、アクリル酸(AA)18.1gを攪拌下添加した後、該水溶液中に窒素をバブリングしつつ70℃まで加温し、さらに70℃で30分間窒素のバブリングを続けることで、窒素置換した。窒素置換後、上記水溶液に過硫酸カリウム(KPS)の2.5%水溶液88.8mLを1.5時間かけて逐次的に添加してグラフト共重合を開始させ、進行させた後、系内温度を75℃に1時間維持して重合をさらに進行させ、ついで冷却して、固形分濃度20%のポリビニルアルコール−ポリAAのグラフト共重合体である水溶性重合体(P−1)の水溶液を得た。得られた水溶液の一部を乾燥した後、重水に溶解し、
1H−NMR測定を行ったところ、該グラフト共重合体中の重合性不飽和単量体含有量、すなわち、該重合体中の単量体単位の総数に対するAA単量体単位の数の割合は10モル%であった。
【0187】
(実施例P−2〜23)
実施例P−1において、PVAの種類、重合性不飽和単量体の種類および仕込み量ならびに水の量を表2に示すように変更したこと以外は実施例P−1と同様にして、各種グラフト共重合体(P−2〜P−23)を合成した。
1H−NMRから求めたグラフト共重合体中の重合性不飽和単量体含有量を表2に示す。
【0188】
(比較例P−24)
実施例P−1において、PVAの種類、重合性不飽和単量体の種類および仕込み量ならびに水の量を表2に示すように変更したこと以外は実施例P−1と同様にして、水溶性重合体(P−24)を合成した。なお、比較例P−24で用いたPVAは、メルカプト基を含有しないPVA(株式会社クラレ製、PVA110)である。
1H−NMRから求めた水溶性重合体中の重合性不飽和単量体含有量を表2に示す。
【0189】
(比較例P−25)
特許文献3に記載の方法で、PVAを幹、ポリアクリル酸をグラフト鎖とする繊維状のグラフト共重合体を合成した。まず、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン8mL、水172mLを含む乳化溶液中にPVA繊維を浴比20:1、温度80℃で、2時間処理後、水洗し、カップリング処理繊維を得た。
【0190】
次に、カップリング処理繊維を絞り率約100%に調整した後、AA25mL、水475mLおよび0.2%過硫酸カリウムを含むグラフト反応溶液中、浴比20:1、60℃にて2時間処理した。処理後、水洗し、乾燥してグラフト共重合体(P−25)を得た。重量増加から算出した、該グラフト共重合体中の単量体単位の総数に対するAA単量体単位の数の割合は7モル%であった。
【0191】
(比較例P−26〜P−27)
実施例P−1において、PVAの種類、重合性不飽和単量体の種類および仕込み量ならびに水の量を表2に示すように変更したこと以外は実施例P−1と同様にして、水溶性重合体(P−26、P−27)を合成した。なお、比較例P−26〜P−27で用いたPVAは、末端にメルカプト基を含有するPVA(PVA−8)である。
【0192】
【表2】
【0193】
(実施例1−1〜1−4)
上記実施例で得たサンプルP−1〜P−23のうち、重合性不飽和単量体含有量が10モル%であったサンプルP−1、P−16、P−18、P−19について、上記した方法で耐水性と耐屈曲性を評価した。結果を表3に示す。
【0194】
(比較例1−1)
上記比較例で得たサンプルP−24について、上記した方法で耐水性と耐屈曲性を評価した。結果を表3に示す。
(比較例1−2)
上記比較例で得たサンプルP−25について、上記した方法で耐水性と耐屈曲性を評価するため、得られたグラフト共重合体を水に溶解することを試みたが、ゲル化物が含まれていたため、評価を中止した。
【0195】
【表3】
【0196】
表3に示すように、本発明のビニルアルコール系グラフト共重合体は、高い耐水性を発現し、かつ耐屈曲性に優れる。比較例
1−1のように、メルカプト基を含有しないPVAを用いて作製した、PVAと重合体のホモポリマー混合物は、耐水性、耐屈曲性ともに低い。比較例
1−2のように、シランカップリング剤を用いてメルカプト基を導入したPVAを用いてグラフト共重合体を合成すると、水溶性不飽和単量体を用いたにもかかわらず、ゲル化物を生じ、水溶性のグラフト共重合体を得ることができなかった。
【0197】
(実施例2−1)
[イオン交換膜の作製]
200mLの三角フラスコに、カチオン性重合体P−3の水溶液を50g入れ、イオン交換水を加えて固形分濃度15%に調製した。この水溶液をポリエチレンテレフタレート膜上にアプリケーターを用いてキャスト製膜し、80℃で30分間乾燥した。こうして得られた膜を、170℃で30分間熱処理し、物理的な架橋を生じさせた。ついで、該膜を2mol/Lの硫酸ナトリウムの電解質水溶液に24時間浸漬させた。該水溶液にそのpHが1になるように濃硫酸を加えた後、0.05体積%グルタルアルデヒド水溶液に該膜を浸漬し、25℃で24時間スターラーを用いて撹拌し、架橋処理を行なった。ここで、グルタルアルデヒド水溶液としては、石津製薬株式会社製「グルタルアルデヒド」(25体積%)を水で希釈したものを用いた。架橋処理の後、該膜をイオン交換水(25℃)に浸漬し、途中数回イオン交換水を交換しながら、該膜が膨潤平衡に達するまで浸漬させ、イオン交換膜を得た。
【0198】
[イオン交換膜の評価]
このようにして作製したイオン交換膜を、所望の大きさに裁断し、測定試料を作製した。得られた測定試料を用い、上記方法に従って、厚み、イオン交換容量、動的輸率、膜抵抗、耐屈曲性、膨潤度を評価した。得られた結果を表4に示す。
【0199】
(実施例2−2〜2−11)
実施例2−1において、カチオン性重合体P−3を用いる代わりにP−4〜P−6;P−9〜P−11;P−20〜P−23を用いた以外は実施例
2−1と同様にしてイオン交換膜を作製し、評価を行なった。得られた結果を表4に示す。
【0200】
(比較例2−1〜2−2)
実施例
2−1において、カチオン性重合体P−3を用いる代わりにP−26〜P−27を用いた以外は実施例
2−1と同様にしてイオン交換膜を作製し、評価を行なった。得られた結果を表4に示す。
【0201】
【表4】
【0202】
表4に示すように、本発明のイオン交換膜は、耐屈曲性に優れ、かつ膨潤が少ない。比較例
2−1〜比較例
2−2のように、末端メルカプト基含有ビニルアルコール系重合体を用いて合成したP−26〜P−27を含むイオン交換膜は、耐屈曲性が低く、また膨潤も大きい。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明のビニルアルコール系グラフト共重合体は、従来のビニルアルコール系重合体と同様の用途に使用できる。用途は、例えば紙用コーティング剤;紙用内添剤及び顔料バインダーなどの紙用改質剤;木材用、紙用、アルミ箔用、無機物用の接着剤;各種用途の界面活性剤;不織布バインダー;塗料;経糸糊剤;繊維加工剤;ポリエステルなどの疎水性繊維糊剤;各種フィルム、シート、ボトル、繊維;増粘剤、凝集剤、土壌改質剤、イオン交換樹脂、イオン交換膜など、従来のビニルアルコール系重合体と同様、各種用途に利用できる。
【0204】
本発明のイオン交換膜は、電気透析などの種々の用途に用いることができる。従って、このようなイオン交換膜は、有機物(食品、医薬原材料など)の脱塩、塩の濃縮、糖液の脱塩、海水やかん水の脱塩、淡水化などに適している。
【0205】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0206】
1 電源
2 アンペアメーター
3 クーロンメーター
4 ボルトメーター
5 モーター
6 スタ−ラー
7 カソード電極
8 アノード電極
9 セル
10 イオン交換膜
11 水浴
12 電極
13 セル
14 イオン交換膜
15 LCRメーター