特許第6097544号(P6097544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097544
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】風味油の風味を維持する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   A23D9/00 506
   A23D9/00 504
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-270929(P2012-270929)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2014-113116(P2014-113116A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】粟江 敬子
(72)【発明者】
【氏名】井上 賀美
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐三
(72)【発明者】
【氏名】白砂 尋士
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−181687(JP,A)
【文献】 特開2009−072163(JP,A)
【文献】 特開平06−014711(JP,A)
【文献】 特開平11−075690(JP,A)
【文献】 特開2003−092987(JP,A)
【文献】 特開平10−113145(JP,A)
【文献】 特開平10−234325(JP,A)
【文献】 特開2000−333604(JP,A)
【文献】 特開2002−119242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
FROSTI(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風味油にHLB 1〜15 である乳化剤を0.01〜7重量%添加することを特徴とする加熱時の風味を維持する方法であって、前記乳化剤がクエン酸モノオレイン酸グリセリンである前記方法。
【請求項2】
前記風味油が100℃以上で使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記風味油がバターフレーバーオイル、ガーリックオイル、または、ねぎ油である請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味油の加熱時の風味を維持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーバー等を添加した油脂やガーリック等の香味を有する野菜等を油脂中で加熱することで当該野菜等の風味を有する油脂を風味油という。一般的に、これら風味油に使用される油脂は、オリーブオイル等と異なり、油脂そのものは、風味を有していない。そのため、これら風味油は、加熱等により風味を消失されやすい欠点を有していた。
【0003】
一方、乳化剤は、一般的に消泡や低温時の油脂の析出防止等に使用されている。また、乳化剤は、乳化油脂組成物(マーガリン、ホイップクリーム等)に使用され、油脂の水への分散性改善等に用いられている。
【0004】
特許文献1には、A成分としてトリグリセリン不飽和脂肪酸エステルおよび/またはテトラグリセリン不飽和脂肪酸エステル、および、B成分としてポリグリセリン縮合リシノール酸エステルおよび/またはプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有する香味油組成物が開示されている。発明の詳細な説明によれば、当該油脂組成物は、水相への分散性の改善を目的としたものであり、香味油の風味持続性を目的としたものではない。また水相への添加を目的としていることから、実施例においても100℃以上の加熱時に風味が維持されることは開示も示唆もされていない。
【0005】
【特許文献1】特開2009−72163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、風味油は、加熱等により風味を消失されやすい欠点を有していたにもかかわらず、風味油の加熱時の風味を維持する方法は、まだ、見出されていない。従って、本発明は、このような問題点に鑑み、風味油の加熱時の風味を維持する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、風味油に所定の乳化剤を所定量含有することにより、加熱時の風味を持続できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、風味油に、HLB 1〜15 である乳化剤を0.01〜7重量%含有させることを特徴とする、当該風味油の加熱時の風味を維持する方法である。
【0009】
前記風味油は、100℃以上で使用することが好ましく、105℃以上で使用することがより好ましい。上限は特にないが、通常の油脂の使用できる温度から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。
【0010】
前記乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドのいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0011】
前記風味油は、バターフレーバーオイル、ガーリックオイル、または、ねぎ油であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、風味油の加熱時の風味を持続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、風味油にHLB 1〜15 である乳化剤を0.01〜7重量%含有させることを特徴とする風味油の加熱時の風味を維持する方法である。
【0014】
本発明の風味油とは、第一の風味油としては、フレーバー等の香料を添加した油脂である。例えば、バターフレーバーオイル等である。第二の風味油としては、ねぎ、ガーリック等の香味を有する野菜等を油脂中で加熱することで得られる当該野菜等の風味を有する油脂である。例えば、ねぎ油、ガーリックオイル等である。風味油としては、バターフレーバーオイル、ねぎ油、ガーリックオイルであることが好ましく、風味持続性の点で、特にバターフレーバーオイルが好ましい。また、2種以上の風味油を混合していても良い。
【0015】
風味油に使用される油脂には、焙煎ごま油やオリーブオイル等のように油脂そのものが風味を有しているものと異なり、風味を有していない、あるいは、風味の少ない油脂が使用される。例えば、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油等であり、また、これらの水添油、分別油、エステル交換油、さらにはこれらの油を1種あるいは2種以上配合した油脂等である。
【0016】
本発明で使用する乳化剤は、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)が1〜15である。好ましくは4〜13であり、より好ましくは6.0〜12.5であり、さらに好ましくは6.5〜12である。15より大きいと加熱時の十分な風味持続性を得ることができない。
また、乳化剤の配合量は、0.01〜7重量%であり、好ましくは0.08〜7重量%であり、より好ましくは0.8〜7重量%であり、さらに好ましくは0.8〜5重量%である。
【0017】
また、乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を使用することができる。好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリドのいずれか1種または2種以上であり、より好ましくは、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステルまたはクエン酸モノオレイン酸グリセリンのいずれか1種または2種であり、さらに好ましくは、クエン酸モノオレイン酸グリセリンである。また、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドを併用することで、より効果が得られ、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル及びクエン酸モノオレイン酸グリセリンを併用することで、さらに効果を得ることができる。
【0018】
本発明の油脂組成物には、機能を阻害しない限り、通常の油脂に用いられる添加剤を適宜配合することができる。具体的には、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、トコフェロール等が挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0020】
実施に際しては、以下のものを使用した。
【0021】
(使用油脂)
バターフレーバーオイル
Savor Up バターフレーバーオイル(株式会社J−オイルミルズ社製)
ガーリックオイル
Savor Up ガーリックオイル(株式会社J−オイルミルズ社製)
ねぎ油
Savor Up ねぎ油(株式会社J−オイルミルズ社製)
【0022】
(使用乳化剤)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(CRS−75 HLB 1 阪本薬品工業株式会社製)
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(CR−ED HLB 3 阪本薬品工業株式会社製)
ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル(PO−5S HLB 4.9 阪本薬品工業株式会社製)
蒸留ジグリセリンモノオレイン酸エステル(DO−100V HLB 7.3 理研ビタミン株式会社製)
テトラグリセリンモノラウリン酸エステル(ML−310 HLB 10.3 阪本薬品工業株式会社製)
ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル(MO−5S HLB 11.6 阪本薬品工業株式会社製)
デカグリセリンモノミリスチン酸エステル(MM−750 HLB 15.5 阪本薬品工業株式会社製)
ショ糖エルカ酸エステル(ER−290 HLB 2 三菱化学フーズ株式会社製)
クエン酸モノオレイン酸グリセリン(623M HLB 7 太陽化学株式会社製)
【0023】
<評価方法1>
ステンレスシャーレ(直径5cm、高さ1.5cm)に各風味油を2ml添加し、ホットプレートに乗せ、200℃になるまで加温した。2分後、4分後、6分後ににおいをかぎ、その強弱を以下の基準に基づいて評価した。

◎:非常に強い(初期臭と同等)
○:強い
△:弱い
×:香りがしない
【0024】
<評価方法2>
ステンレスシャーレ(直径5cm、高さ1.5cm)をホットプレートに乗せ、200℃になるまで加温した。ステンレスシャーレに各風味油を2ml添加した。風味油特有の匂いが消失するまでの時間を測定した。2回測定し、その平均値を算出した。
【0025】
(1−1)乳化剤の種類
表1に示すようにバターフレーバーオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法1に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示すように、乳化剤のHLBが1以上の場合に、加熱時の風味持続性効果が得られた。特に、4.9以上でその効果が高く、さらに、7以上では、加熱6分後であっても風味を有していた。一方、乳化剤のHLBが15.5の場合に、4分経過時に風味が消失しており、加熱時の風味持続性効果を得ることができなかった。
【0028】
(1−2)乳化剤の添加量
表2に示すようにバターフレーバーオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法1に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示すように、乳化剤は、0.01重量%以上添加することで、加熱時の風味持続性の効果が得られ、0.1重量%以上でその効果が大きく、1重量%以上で、さらにその効果が大きかった。一方、0.005重量%の添加では、効果を得ることができなかった。
【0031】
(1−3)乳化剤の組み合わせ
表3に示すようにバターフレーバーオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法1に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示すように、2種類の乳化剤を組み合わせても、加熱時の風味持続性効果を得ることができた。特に623MとMO−5Sの組合せが好ましく、加熱4分後まで、相乗効果を得ることができた。
【0034】
(2−1)
表4に示すようにガーリックオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法1に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
(2−2)
表5に示すようにガーリックオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法1に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表5に示す。
【0037】
【表5】
【0038】
(3−1)
表6に示すようにバターフレーバーオイルに乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法2に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表6に示す。
【0039】
【表6】
【0040】
表6に示すように、200℃加熱時の風味消失時間を、無添加のときに比べ1.8倍に延長することができた。
【0041】
(3−2)
表7に示すようにねぎ油に乳化剤を添加した風味油を調製した。評価方法2に従い、加熱時の風味の持続性を測定した。その結果を表7に示す。
【0042】
【表7】
【0043】
表7に示すように、200℃加熱時の風味消失時間を無添加のときに比べ1.7倍に延長することができた。
【0044】
(4−1)スクランブルエッグ
卵(100g)、牛乳(15g)、食塩(0.5g)を混合し、スクランブルエッグの生地を作製した。表面温度約110℃にあたためたフライパンに実施例2−5の油脂8gをひいた。20秒後、スクランブルエッグの生地を加え、スクランブルエッグを調理した。同様に対照(乳化剤無添加)の油脂で調理した。スクランブルエッグを食したところ、実施例2−5の油脂で調理したときは、対照の油脂に比べ、バター様の風味が強く、コクも強かった。
【0045】
(4−2)パスタ
120℃に加熱したフライパンに実施例4−1の油脂15gをひいた。10秒後、1%塩水で茹でたパスタ100g、茹で汁20cc、食塩、こしょうを加え、炒めて、ガーリック風味パスタを調理した。同様に実施例4−2、対照(乳化剤無添加)の油脂で調理した。ガーリック風味パスタを食したところ、実施例4−1の油脂で調理したときは、対照の油脂に比べ、ガーリックの風味、香りが強かった。また、乳化剤の添加量が多い実施例4−2の油脂のほうが、実施例4−1の油脂に比べ、ガーリックの風味、香りが強かった。
【0046】
(4−3)スープ
鶏がらスープ(粉末)(ユウキ食品株式会社製)3.5g、水200cc、表8に記載の実施例8−1の油脂3gを片手なべに加え、加熱沸騰した。沸騰10秒間加熱し、スープを調製した。同様に対照(乳化剤無添加)の油脂でスープを調製した。スープを食したところ、実施例8−1の油脂で調製したときは、対照の油脂に比べ、口に入れたときのねぎ風味が強かった。
【0047】
【表8】
【0048】
このように、実際に調理した食品においても、風味が維持できることが確認された。