(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)、多官能アクリレートモノマー(b)および光酸発生剤(c)を含有する。
本発明の接着剤組成物は、光(好ましくは紫外線であり、以降においても同様である。)照射前は低粘度であるため、スプレーやインクジェット塗布など様々な方法により被着体に塗布することが可能である。また、塗布された接着剤組成物の被着体への凹凸追従性に優れる。さらに、本発明の接着剤組成物は、紫外線照射により開始される硬化反応が緩やかに進行する(すなわち、遅延硬化性を有する)、遅延硬化型接着剤であるため、紫外線照射後にも十分な可使時間(光照射による接着剤組成物の硬化開始後、作業が可能な時間)を確保することができ、且つ、加熱により硬化反応を加速することが可能である。従って、例えば、ディスプレイ基板表面に本発明の接着剤組成物を塗布した後に接着剤組成物に紫外線照射を行い、その後、偏光板と紫外線照射を行った接着材組成物を貼り合せ、さらに加熱することで両者を貼り合わせることができる。よって、光透過性の低い基板や部材の貼り合わせが可能となる。また、本発明の接着剤組成物を貼合用部材に塗布し、光酸発生剤を活性化させる光照射をした後、その可使時間内に部材をディスプレイ基板に貼り合せることもできるので、部材貼り合わせの際にディスプレイが紫外線や熱にさらされる程度が軽減し、ディスプレイ基板に与えるダメージを軽減することもできる。
以下、本発明の接着剤組成物中の各成分について説明する。
【0016】
(ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a))
本発明に用いられるポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)は、下記一般式(A)で表される。
【0018】
(上記式中、Rは低級アルキレン基(例えば炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい)、Xは環状構造を有する炭素数6〜20の2価の基または低級アルキレン基(例えば炭素数1〜4のアルキレン基が好ましい)を示す。mおよびnはそれぞれ独立に0または正の数である
が、本発明では、mおよびnはそれぞれ独立に正の数である。)
【0019】
Rにおける炭素数は、2または3がより好ましく、2が最も好ましい。Rにおける炭素数1〜4のアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン、1,2−プロピレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、2,4−ブチレンが挙げられ、エチレン、1,3−プロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。
Rがエチレン基であるポリエチレンオキサイド付加エポキシ化合物は良好な遅延硬化性を発現することができる。Rが1,3−プロピレン基であるポリプロピレングリコール付加エポキシ化合物は、メチル基の立体効果によりポリエチレンオキサイド付加エポキシ化合物よりも低い遅延硬化性を示す。
【0020】
ここで、本発明に用いられるポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)は、アルキレンオキサイド構造の繰り返し数が異なる上記一般式(A)で表される化合物の混合物であってもよい。この場合、上記一般式(A)で表される化合物1分子中のアルキレンオキサイド構造の推定平均繰り返し数をm+nとして表すため、m+nは整数を取らないことがある。なお、推定平均繰り返し数は、試料のフラグメンテーションが起こりにくいソフトなイオン化による質量分析法(例えば、FAB(fast atom bombardment)質量分析法)により、算出することができる。
良好な遅延硬化発現の観点から、m+nは12以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。また、硬化完了後の接着剤組成物(以下、単に硬化体と称す。)における良好な屈曲性発現の観点から、m+nは2以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。
【0021】
Xにおける炭素数1〜4のアルキレン基としては、Rにおける炭素数1〜4のアルキレン基の記載を好ましく適用することができる。
【0022】
Xにおける環状構造を有する炭素数6〜20の2価の連結基は、炭素数は6〜18が好ましく、6〜15がより好ましい。また、構成原子としては炭素原子、酸素原子、窒素原子等が挙げられるが、炭素原子が好ましい。
環状構造としては、芳香族環および脂肪族環のいずれでもよい。芳香族環としては、炭素数6〜14が好ましく、例えば、ベンゼン環が好ましい。脂肪族環としては、炭素数3〜14が好ましく、例えば、シクロヘキサン環が好ましい。
Xにおける環状構造を有する炭素数6〜20の2価の連結基としては、硬化体中での自由体積が大きく、大きな空隙を形成できる点から、シクロヘキサン構造、下記一般式(Aa)で表されるビスフェノール型構造、ジシクロペンタジエン構造、およびこれらの水添体構造を有する連結基が好ましい。
【0024】
(上記式中、R
1は、アルキル基(炭素数は1〜10が好ましく、1〜3がより好ましく、1がさらに好ましい。)を示し、R
2は、水素原子、アルキル基(炭素数は1〜5が好ましく、1〜3がより好ましく、1がさらに好ましい。)またはシクロアルキル基(炭素数は3〜5が好ましく、3がより好ましい。)を示す。pは0〜4の整数(0または1が好ましく、0がより好ましい。)である。*は、結合部を示す。)
【0025】
なかでも、上記一般式(Aa)において、R
2がメチル基で、pが0である2価の連結基、すなわち、ビスフェノール−A型の連結基が好ましい。
【0026】
ここで、エポキシ系接着剤として広く用いられるビスフェノールAジグリシジルエーテルやビスフェノールFジグリシジルエーテル等は、ポリアルキレンオキサイド構造を有しないため、これらを用いた接着剤組成物の硬化体は十分な屈曲性を示さず、かつ接着剤組成物は遅延硬化を発現しない。
【0027】
本発明の接着剤組成物および硬化体の被着体への追従性を高める観点からは、ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)の分子量または重量平均分子量は1,000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。下限値は、特に制限されないが、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。
なお、重量平均分子量は、例えば、Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工社製「Shodex K−804(商品名)」(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)を使用して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算の分子量として測定(または算出)することができる。
市販品として入手可能なポリアルキレンオキシド付加多官能エポキシ化合物(a)としては、例えば、新日本理化社製の商品名「リカレジンBPO−20E(分子量457)」、「リカレジンBEO−60E(分子量541)」等の「リカレジン」シリーズが挙げられる。
【0028】
接着剤組成物中のポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシの含有量は、5質量%〜90質量%が好ましい。硬化体の良好な耐屈曲性の観点からは20質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、被着体への塗布性の観点からは、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
(多官能(メタ)アクリレートモノマー(b))
本発明に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)は、1分子中に2つ以上の重合性基を有する。このため、本発明の接着剤組成物は光照射による高い増粘性を示す。ここで、重合性基とは、光酸発生剤(c)により光ラジカル重合可能な基を意味し、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などの炭素−炭素不飽和二重結合を有する基が挙げられる。なお、単官能の(メタ)アクリレートモノマーでは光(紫外線)照射による十分な増粘効果が得られない。
多官能(メタ)アクリレートモノマー1分子中の重合性基の数は、2〜4個が好ましく、2または3個がより好ましく、2個がさらに好ましい。なかでも、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2個有する多官能(メタ)アクリレートモノマーが特に好ましい。
【0030】
また、多官能(メタ)アクリレートモノマーが、分子中に嵩高い構造を有することも好ましい。嵩高い構造としては、シクロヘキサン骨格やジシクロペンタジエン骨格、ビスフェノール−A骨格、及びこれらの水添体などが挙げられる。上記嵩高い構造を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは少量でも増粘効果が大きい。
一方、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートや1,9−ノナンジオールジアクリレート等の、嵩高い構造を含まず、直鎖オレフィン構造を分子内に有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは、光(紫外線)照射による増粘効果は小さく、照射後の粘度上昇は穏やかである。なお、上記の嵩高い構造を有さず、直鎖オレフィン構造を分子内に有する多官能(メタ)アクリレートモノマーに比べて、上記嵩高い構造を分子内に有する多官能(メタ)アクリレートモノマーは、ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)に対する相溶性が良好であるため、好ましい。ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)に対する相溶性が良好であると、硬化体における相分離を抑制することができる。
【0031】
また、本発明に用いられる多官能(メタ)アクリレートモノマーは、エポキシ基と非反応性である化合物が貯蔵安定性を高める点から好ましい。すなわち、エポキシ基と反応しやすいヒドロキシ基、カルボキシル基または酸無水骨格を有さないことが、長期保管により接着剤組成物の粘度上昇を抑制できるため好ましい。
【0032】
接着剤組成物中の多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、光(紫外線)照射後の増粘によって液だれが起きない粘度に調製する点から、下限値は1質量%以上が好ましい。塗布後に多官能(メタ)アクリレートモノマーの効果によって接着剤組成物の厚み変動を抑える点から、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、硬化体における相分離の発生を抑制する点から、上限値は20質量%以下が好ましい。被着体への十分な凹凸追従性を確保する点からも、上限値は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有量が上記好ましい上限値内であると、紫外線照射により即座に接着剤組成物が硬化することなく、光照射後に十分な可使時間を確保可能な、遅延硬化型の接着剤組成物を調製することが可能となる。
ただし、本発明では、接着剤組成物中の多官能(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、25質量%以下である。
【0033】
多官能(メタ)アクリレートモノマーの分子量は、他の構成材料との相溶性の観点から、150以上が好ましく、200以上がより好ましい。接着剤組成物の粘度の観点からは、500以下が好ましく、350以下がより好ましい。
【0034】
(光酸発生剤(c))
本発明に用いられる光酸発生剤は、光照射によりエネルギーを吸収することで、光酸発生剤が分解してブレンステッド酸またはルイス酸、およびラジカルを発生し、このラジカルにより(メタ)アクリレートモノマーが重合し、カチオンによりエポキシ基が重合すると考えられる。そのため、本発明において(メタ)アクリレート成分を重合させるためにさらなるラジカル発生剤を添加することなく、(メタ)アクリレート成分を重合させることが可能となる。
【0035】
代表的なトリアリールスルホニウム塩の場合、光酸発生剤の光分解機構は、下記式により進行すると考えられる。下記式(1)および(2)では、光酸発生剤が光を吸収して分解する反応を示す。下記式(3)および(4)では、下記式(2)で発生したAr
2S
+・がアルカン類から水素を引き抜いて酸を発生する反応を示す。下記式(5)および(6)では、下記式(2)で発生したAr・の反応を示す。なお、下記式において、Arはアリール基、Xはアニオン成分、YHはアルカン類を示す。
【0037】
特に、本発明の接着剤組成物は、上記一般式(A)で表されるポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)、多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)および光酸発生剤(c)を含有するため、光照射により以下の反応が進むことで、十分な可使時間を確保することができると推定される。
すなわち、光照射により光酸発生剤(c)が分解することで、ラジカルとカチオンを生成し、ラジカルが多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)の重合を促進し、カチオンがポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)や後述するオキシラン環以外の環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)の重合を促進する。ここで、多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)は、光照射によるラジカル重合が極めて速やかに進むことで高分子量化する。そのため、本発明の接着剤組成物の粘度が適度に上昇される。一方、ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)は、カチオン重合が常温では緩やかに進むため、本発明の接着剤組成物の粘度上昇には大きく寄与しない。このため、本発明の接着剤組成物は十分な可使時間を確保することができる。
さらに、光照射により多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)がラジカル重合し、液だれや厚み変動の抑制された本発明の接着剤組成物が塗布された被着体と、その他の被着体とを貼り合わせた後、加熱することで、ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)のカチオン重合が促進されて重合・硬化が進行し、被着体が接合されるものと推定される。
【0038】
光酸発生剤は、本発明の接着剤組成物中に0.1〜10質量%含有されることが好ましい。十分な硬化度を得るためには0.5質量%以上が好ましい。また、透明性が要求される用途では光酸発生剤による着色を抑制する点からに5質量%以下が好ましい。
【0039】
光酸発生剤は、主にオニウムイオン(カチオン成分)と非求核性のアニオン成分からなる塩である。
【0040】
カチオン成分としては、例えば、アンモニウム化合物イオン、ピリジニウム化合物イオン、トリフェニルホスホニウム化合物イオンなどの周期表15族元素のイオン、スルホニウム化合物イオン(トリアリールスルホニウムイオン、芳香族スルホニウム化合物イオン、脂肪族スルホニウム化合物イオン等を含む)、セレニウム化合物イオンなどの16族元素のイオン、ジアリールクロロニウム化合物イオン、ブロモニウムイオン、ヨードニウムイオンなど17族元素のイオンおよび鉄−アレーン錯体が挙げられる。
この中でもヨードニウムイオン、スルホニウム化合物イオン、アンモニウム化合物イオン等のイオン成分が好ましく、スルホニウム化合物イオンがより好ましく、塩としての熱安定性に優れる点でトリアリールスルホニウムイオンがさらに好ましい。
【0041】
スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤の光吸収域は、メタノール溶液では360nm付近までである。そのため、本発明の接着剤組成物を硬化する際には、360nm以上の紫外線をカットして光照射することで、360nm以上の波長を吸収する色素への影響を低減することができ、好ましい。
【0042】
アニオン成分としては、BF
4−、B(C
6F
5)
4−、Ga(C
6F
5)
4−、PF
6−、PF
lRf
(6−l)−(Rf:パーフロロアルキル基、l=0〜5の整数)、AsF
6−、SbF
6−、などの周期表13族および15族元素の過フッ化物(超強酸のアニオン残基)が挙げられる。
この中でも、SbF
6−、PF
6−、PF
lRf
(6−l)−およびGa(C
6F
5)
4−が好ましい。
【0043】
光酸発生剤は塩であるため、有機化合物に対する溶解性の観点からは、アリールスルホニウム塩が好ましく、アニオン成分に過フッ化物(特に好ましくは、PF
lRf
(6−l)−)を用いた光酸発生剤がより好ましい。
【0044】
光酸発生剤の市販品としては、CPI−100P、CPI−101A、CPI−110S、CPI−200K、CPI−210SおよびCPI−500K(いずれも商品名、トリアリールスルホニウム塩、サンアプロ社製)、アデカオプトマー SPシリーズ(商品名、芳香族スルホニウム塩、ADEKA社製)、CPシリーズ(商品名、脂肪族スルホニウム塩、ADEKA社製)、K−PURE(登録商標)TAGおよびCXCシリーズ(いずれも商品名、KING INDUSTRIES社製)、サンエイドSIシリーズ、SI−150L、SI−110L、SI−60L、SI−80LおよびSI−100L(いずれも商品名、芳香族スルホニウム塩、三新化学工業社製)が挙げられる。
【0045】
(オキシラン環以外の環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d))
本発明の接着剤組成物はさらに、オキシラン環以外の環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)を含有することも、剥離接着力向上の観点から好ましい
。
このオキシラン環以外の環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)の分子量は、150以上が好ましい。上限値に特に制限はないが、1,000以下が好ましく、接着剤組成物の粘度が低くなるので500以下がより好ましい。
オキシラン環以外の環状構造としては、単環式化合物、多環式化合物のいずれでもよいが、多環式化合物がより好ましい。また、環状構造を構成する原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子)を含むことも好ましく、オキシラン環以外の環状構造として複素環式化合物の構造を有することが、ヘテロ原子により接着力が向上するため好ましい。
環状構造を構成する原子数は、3〜20が好ましく、5〜18がより好ましく、6〜16がさらに好ましい。
具体的には、ベンゼン環、ビフェニル環、フタル酸骨格等が挙げられる。
【0046】
このようなオキシラン環以外の環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)としては、日油株式会社製の「エピオールTB(p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル;分子量206)」、阪本薬品工業株式会社製の「PGE(フェニルグリシジルエーテル;分子量152)」、「SY−OCG(オルソクレジルグリシジルエーテル;分子量180」、「m,p−CGE(メタパラクレジルグリシジルエーテル;分子量165)」および「SY−OPG(オルソフェニルフェノールグリシジルエーテル;分子量230)」、三光株式会社製の「OPP−G(2−フェニルフェノールグリシジルエーテル;分子量226)」、ナガセケムテックス株式会社製の「EX−142(2−フェニルフェノールグリシジルエーテル;分子量226)」および「EX−731(N−グリシジルフタルイミド;分子量203)」などが挙げられる。ここで、「」は商品名を、()は化合物名をそれぞれ表す。
【0047】
本発明の接着剤組成物中における環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)の含有量は、5質量%〜70質量%が好ましい。屈曲時の剥離防止の観点からは15質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。単官能エポキシ化合物(d)の添加による硬化体の強度低下および凝集破壊を防止する観点からは、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
(添加剤)
本発明ではさらに各種の添加剤を本発明の接着剤組成物の効果を損なわない範囲の量で適宜使用することができる。
例えば、硬化体に柔軟性を付与するために、柔軟性付与剤として、分子量が1,000〜100,000の、ポリブタジエン等のポリオレフィン末端がウレタン結合、エステル結合またはエーテル結合を介して(メタ)アクリレート化された(メタ)アクリレート化合物を適宜配合してもよい。これらポリオレフィンの(メタ)アクリレート化合物の含有量は、相溶性の観点から本発明の接着剤組成物中30質量%以下が好ましい。
市販の柔軟性付与剤としては、例えば、CN307、CN308、CN309、CN310およびCN9014(いずれも商品名、アルケマ社製)、TEAI−1000、TE−2000およびEMA3000(いずれも商品名、日本曹達社製)、BAC−45およびSPBDA−S30(いずれも商品名、大阪有機化学工業社製)、DENALEX R−45EPT(商品名、ナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0049】
さらに、低分子の粘着付与剤を適宜添加しても構わない。
粘着付与剤としては、天然樹脂のロジン、テルペン樹脂やロジンを重合、変性した重合ロジン、ロジンエステル、水添ロジンや石油樹脂などが用いられる。
【0050】
この他、光ラジカル重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、希釈剤、可塑剤、架橋助剤、消泡剤、難燃剤、重合禁止剤、フィラー、カップリング剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0051】
本発明の接着剤組成物を用いた際の硬化条件、可使時間は、後述の被着体の接合方法および積層体の製造方法における記載が好ましく適用される。
【0052】
本発明の接着剤組成物の調製方法は特に限定されるものではなく、例えば、上記一般式(A)で表されるポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)、多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)および光酸発生剤(c)ならびに添加剤を配合し、均一になるまで撹拌する等の常法により調製することができる。なお、光酸発生剤(c)の分解を防ぐため、遮光条件で調製することが好ましい。
また、調製後の本発明の接着剤組成物も、光酸発生剤(c)の分解を防ぐため、遮光して保存しておくことが好ましい。
【0053】
<被着体の接合方法>
本発明の接着剤組成物を用いた被着体AとBの接合方法は、下記工程AおよびBをこの順に含む。
工程A:被着体Aに本発明の接着剤組成物を塗布する工程
工程B:(i)光酸発生剤(c)を活性化する光を照射することで、接着剤組成物の25℃における粘度を1Pa・s以上に増粘させる工程および(ii)増粘させた接着剤組成物上に被着体Bを貼り合わせる工程
【0054】
本発明の被着体の接合方法により、被着体A(2)/硬化された接着剤組成物(硬化体3)/被着体B(4)の積層構造を有する、
図1の接着済フィルム(1)が得られる。
【0055】
<積層体の製造方法>
本発明の接着剤組成物を用いた被着体AとBを接合してなる積層体の製造方法は、下記工程AおよびBをこの順に含む。
工程A:被着体Aに本発明の接着剤組成物を塗布する工程
工程B:(i)光酸発生剤(c)を活性化する光を照射することで、接着剤組成物の25℃における粘度を1Pa・s以上に増粘させる工程および(ii)増粘させた接着剤組成物上に被着体Bを貼り合わせる工程
【0056】
本発明の積層体の製造方法により、被着体A(2)/硬化された接着剤組成物(硬化体3)/被着体B(4)の積層構造を有する、
図1の積層体(接着済フィルム1)が得られる。
【0057】
以下、被着体の接合方法および積層体の製造方法で記載した、被着体AおよびBならびに工程(A)および(B)について詳細を説明する。
【0058】
被着体AおよびBの部材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィン・コポリマー(COC)、ガラス、金属箔等の素材からなる部材や、タッチパネル、カラーフィルター、偏光板、保護フィルム、ディスプレイ基板、フレキシブルプリント基板、柔軟性電池等の部材が、本発明の接合方法により接着することができる。なかでも、被着体AおよびBが屈曲性を有する部材であり、遮光性の部材を接合する際に、本発明の接着剤組成物を用いた接合方法および製造方法による効果がより発揮され、例えば、折り曲げ可能なディスプレイ基板と部材との接合およびこれらを接合してなる積層体の製造に好ましく用いられる。
【0059】
(工程A)
被着体Aへの本発明の接着剤組成物の塗布は、常法により行うことができる。特に本発明の接着剤組成物は低粘度の液状であるため、スリットコートやインクジェット方式、スプレー方式、ディスペンス方式などが好適に用いられる。ここで、本発明の接着剤組成物が液状であるとは、5℃〜200℃において液状(好ましくは、0.01Pa・s〜50Pa・s)であることを意味する。また、被着体Aへ本発明の接着剤組成物を塗布した後、工程Bで被着体Bを貼り合わせる観点から、本発明の接着剤組成物が液状であるとは、溶媒を含まない状態での接着剤組成物が液状であることを意味する。
本発明の接着剤組成物の塗布厚みは目的により適宜選択されるが、屈曲を目的とする部材に適応する場合、塗布厚みは薄いほうが屈曲の内側と外側で発生する応力ひずみが小さくなり、剥離しにくくなるので好ましい。具体的には、塗布厚みは100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。また、被着体AおよびBへの凹凸追従性の点では、塗布厚みは厚いほうが好ましい。具体的には2μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
【0060】
(工程B)
(i)光酸発生剤(c)を活性化する光の照射条件は、接着剤組成物中の光酸発生剤(c)の含有量、接着剤組成物の塗布厚み、接着剤組成物に含有される水分量等により適宜選択されるが、充分な可使時間が得られる点から以下のような条件が好ましく挙げられる。
すなわち、被着体Aに塗布された本発明の接着剤組成物に対し、照射強度(光出力)5〜100mW/cm
2、照射量100〜5,000mJ/cm
2の紫外線を照射することが好ましい。
硬化速度を加速したい場合には、紫外線照射後、(ii)被着体Bの貼り合わせ後にさらに加熱することも好ましく、かかる形態も工程Bとして好ましい態様である。加熱温度は50〜150℃が好ましく、加熱時間は0.5〜24時間が好ましい。加熱は常法により行うことができ、例えば、加熱炉を用いて加熱することができる。
紫外線照射量を上記範囲内とすることで、被着体等の周辺材料を劣化させることなく、十分な硬度の硬化体を得ることが可能となるため好ましい。空気中や被着体表面に存在する水分や硬化阻害特性を持つ物質の影響を排除し、安定して硬化体を得る点からは、照射量は1,000mJ/cm
2以上であることがより好ましい。
【0061】
被着体Aに塗布後の本発明の接着剤組成物は、光照射により、接着剤組成物の25℃における粘度(以下、粘度(25℃)と称す。)は1Pa・s以上に増粘される。これにより、接着剤組成物塗布後の移動(搬送)などで発生する振動等により塗布後の接着剤組成物の厚みが変動することもなく、被着体AとBの貼合厚みを均一に保つことが可能となる。光照射を終えた後、0.5分後(好ましくは1分後)の粘度(25℃)は1Pa・s以上であることが好ましい。凹凸追従性良く被着体Bに加熱貼合する観点からは、光照射を終えた後、0.5分後(好ましくは1分後)の粘度(25℃)は1,000Pa・s以下が好ましく、加熱することなく凹凸追従性良く被着体Bに貼合する観点からは、光照射を終えた後、0.5分後(好ましくは1分後)の粘度(25℃)は100Pa・s以下がより好ましい。なお、光照射を終えた後、6時間後までの粘度が上記上限値以下であることが好ましい。
ここで、粘度とは、実施例に記載の装置、方法により測定される複素粘度n
*である。
【0062】
本発明の接合方法および製造方法における可使時間(光照射による接着剤組成物の硬化開始後、作業が可能な時間)とは、すなわち、工程Bにおける(i)光照射を終えた後から(ii)被着体Bの貼り合わせを行うことが可能な時間である。光照射の条件、接着剤組成物の塗布厚さによって異なるが、本発明における可使時間は、0.5分〜6時間であり、被着体AとBの割り貼り合わせにおいて良好な作業性を確保することができる。
【0063】
(ii)接着剤組成物上への被着体Bの貼り合わせは、(i)の光照射により被着体Aに塗布した接着剤組成物を増粘させた後に行う。ここで被着体AおよびBのいずれかが透光性である場合には、本発明の接着剤組成物を塗布した後、被着体AとBとを塗布した接着剤組成物を介して貼り合わせ、透光性被着体側から光照射を行い、加熱することで接着することもできる。
もちろん、遮光性の部材や、光反応性の化合物を含有する被着体(部材)の貼り合わせる際にも、好ましく適用することができる。
【0064】
本発明の被着体の接合方法によれば、被着体A(2)/硬化された接着剤組成物(硬化体3)/被着体B(4)の積層構造を有する、
図1の接着済フィルム(1)に対して、被着体Aおよび/またはB上にさらに1つ又は2つ以上の被着体を接合することも可能である。
また、本発明の積層体の製造方法によれば、被着体A(2)/硬化された接着剤組成物(硬化体3)/被着体B(4)の積層構造を有する、
図1の積層体(接着済フィルム1)に対して、被着体Aおよび/またはB上にさらに、硬化体3を介して被着体を1つ又は2つ以上貼り合わせた積層体を製造することも可能である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0066】
[
実施例1]
ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)としてリカレジン BEO−60E(商品名、新日本理化社製)、多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)としてA−NOD−N(商品名、新中村化学工業社製)、光酸発生剤(c)としてCPI−200K(商品名、サンアプロ社製)を表1の質量比で配合し、均一になるまで撹拌し接着剤組成物を調製した。
調製した接着剤組成物を厚さ25μmのPETフィルム(商品名「G2」、帝人デュポン株式会社製)に厚さ20μmとなるように塗布し、紫外線照射装置(商品名:US5−0151、アイグラフィック社製)を用いて、50mW/cm
2で60秒(照射量:2000mJ/cm
2)紫外線を照射した。さらに、塗布した接着剤組成物上に厚さ25μmのPETフィルム(商品名「G2」、帝人デュポン株式会社製)を、紫外線照射を終えてから1時間後に貼り合わせた。このようにして得られた2枚のPETフィルムで挟んだ接着剤組成物を、90℃の加熱炉に60分投入し、2枚のPETフィルムを硬化完了後の接着剤組成物(3)で接着した、
図1に記載の構成を有する接着済フィルム(1)を得た。このようにして得た接着済フィルムを25mm×100mmにカットし、以下の試験用フィルムとして用いた。
【0067】
[実施例1〜
10、比較例1〜3]
実施例1において、接着剤組成物の成分を下記表1に記載の種類、質量配合比に代えた以外は実施例1と同様にして
、実施例1〜
10、比較例1〜3の接着剤組成物を調製した。得られた接着剤組成物を用いた以外は
実施例1と同様にして、
図1に記載の構成を有する接着済フィルム(1)、および試験用のフィルムを得た。
ここで、実施例1〜
10で調製した接着剤組成物は、いずれも23℃で液状であった。
【0068】
[試験例1] 増粘特性評価
上記で調製した接着剤組成物を厚さ25μmのPETフィルム(商品名「G2」、帝人デュポン株式会社製)に厚さ20μmで塗布し、紫外線照射装置(商品名:US5−0151、アイグラフィック社製)を用いて、50mW/cm
2で60秒(照射量:2000mJ/cm
2)紫外線を照射した。紫外線照射後の接着剤組成物を、動的粘弾性測定装置(装置名「ARES」、レオメトリック・サイエンティフィック社製)において、コーン直径25mm、コーン角度0.1radのコーンプレートを用いて、せん断速度1s
−1の角速度で常温(25℃)、紫外線照射を終えてから1分後の複素粘度n
*を測定した。紫外線照射後の複素粘度n
*が1Pa・s未満であるものを「×」、粘度上昇により1Pa・s以上となったものを「○」として評価した。
【0069】
[試験例2] 剥離接着強さの評価
上記試験用フィルムの剥離接着強さは、JIS K6854−3(接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部:T形はく離)に準じて測定した。剥離接着強さは「N/25mm」として測定した。下表においては、単位を省略して記載した。
【0070】
[試験例3] 屈曲強さの評価
屈曲強さはマンドレル屈曲試験で評価を行った。上記25mm×100mmの試験用フィルムを25mm×50mmとなるよう、
図2のように、直径1mmの鉄軸に沿って半分に折り曲げ、亀裂及び剥がれの発生を観察した。亀裂及び剥がれがある試験片を「×」、亀裂及び剥がれが無い試験片を「○」として評価した。
【0071】
試験例1〜3の結果を下表に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
<表の注>
(A)エポキシ化合物
・ポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)
リカレジンBEO−60E:商品名、新日本理化社製、ビスフェノールAビス(トリエチレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、分子量541
リカレジンBPO−20E:商品名、新日本理化社製、ビスフェノールAビス(プロピレングリコールグリシジルエーテル)エーテル、分子量457
エポライト200E:商品名、共栄社化学社製、ポリエチレングリコール#200ジグリシジルエーテル、分子量322
エポゴーセーPT(一般グレード):商品名、共栄社化学社製、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、分子量870
・ポリアルキレンオキサイド構造を有さないエポキシ化合物
エピコート828:商品名、三菱化学社製、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、分子量340
(B)(メタ)アクリレートモノマー
・多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)
A−DCP:商品名、新中村化学工業社製、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、分子量304
A−HD−N:商品名、新中村化学工業社製、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、分子量226
A−NOD−N:商品名、新中村化学工業社製、1,9−ノナンジオールジアクリレート、分子量268
・単官能(メタ)アクリレートモノマー
プラクセル FM2D:商品名、ダイセル社製、(単官能)不飽和脂肪酸ヒドロキシアルキルエステル修飾ε−カプロラクトン、分子量358
(C)光酸発生剤(c)
CPI−200K:商品名、サンアプロ社製、トリアリールスルホニウム塩(プロピレンカーボネート50wt%溶液)
(D)単官能エポキシ化合物
・環状構造を有する単官能エポキシ化合物(d)
PGE:商品名、阪本薬品工業社製、フェニルグリシジルエーテル、分子量152
EX−731:商品名、ナガセケムテックス社製、N−グリシジルフタル酸イミド、分子量203
エピオールTB:商品名、日油社製、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、分子量206
OPP−G:商品名、三光社製、2−フェニルフェノールグリシジルエーテル、分子量226
・環状構造を有さない単官能エポキシ化合物
エポライトM−1230:商品名、共栄社化学社製、高級アルコールグリシジルエーテル、分子量295〜320
【0074】
上記各試験例の結果、ポリアルキレンオキサイド構造を有さない多官能エポキシ化合物を用いた比較例1では、屈曲強さが十分でなく、単官能(メタ)アクリレートモノマーを用いた比較例2および多官能(メタ)アクリレートモノマーを含有しない比較例3では、いずれも充分な増粘特性が得られなかった。
これに対して、本発明の接着剤組成物は、増粘特性、剥離接着強さおよび屈曲強さのいずれにも優れることがわかる。また、本発明の接着剤組成物を用いた被着体の接合方法により、遮光性の部材や光反応性の化合物を含有する部材を接合することができる。本発明の接着剤組成物を用いた積層体の製造方法により、遮光性の部材や光反応性の化合物を含有する部材を接合してなる積層体を製造することができる。
【0075】
実施例1〜
10において、紫外線を照射した接着剤組成物上へのPETフィルムの貼り合わせを、紫外線照射を終えてから1時間後から、紫外線照射を終えてから0.5分後に代えた以外は実施例1〜
10と同様にして、
図1に記載の構成を有する接着済フィルム(1)、および試験用フィルムを得た。これらは、試験例1〜3のいずれにおいても、成分を同じとする接着剤組成物を用いた各実施例と比べて、それぞれ同等のレベルの結果が得られることがわかった。
また、紫外線照射を終えてからの時間を6時間後とした場合にも、上記0.5分後とした場合と同様、試験例1〜3のいずれにおいても、成分を同じとする接着剤組成物を用いた各実施例と比べて、それぞれ同等のレベルの結果が得られることがわかった。
【課題】被着体への凹凸追従性に優れ、塗布後は紫外線照射により接着剤組成物の液だれや塗布厚みの変動が抑制され、十分な可使時間が確保され、硬化後には各種被着体に追従して折れ曲がり、剥離しない接着剤組成物、折り曲げ可能な部材の作製において、各種被着体の接合を効率的に行いうる被着体の接合方法及び積層体の製造方法の提供。
【解決手段】式(A)で表されるポリアルキレンオキサイド付加多官能エポキシ化合物(a)、多官能(メタ)アクリレートモノマー(b)光酸発生剤(c)を含有する接着剤組成物、前記組成物を用いた被着体の接合方法及び積層体の製造方法。