【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光通信インフラの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記収容部と前記光ファイバ保持部材との間にはクリアランスが設けられず、前記回転抑制部によって、前記光ファイバ保持部材の回転が許容されないことを特徴とする請求項1記載の多心コネクタ。
前記回転抑制部は、前記光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された平坦部であり、前記平坦部が、前記収容部の基準面と接触することで、前記光ファイバ保持部材の回転が抑制されることを特徴とする請求項1記載の多心コネクタ。
前記回転抑制部は、前記光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された凸部または凹部であり、前記凸部または凹部が、前記収容部に形成された凹部または凸部と嵌合することで、前記光ファイバ保持部材の回転が抑制されることを特徴とする請求項1記載の多心コネクタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のように非円形のマルチコアファイバは製造性が悪く、また、製造上、外形とコア配置とをマルチコアファイバの全長にわたって一定にすることは困難である。
【0009】
一方、多心コネクタのフェルールに対して、1本ずつ回転調芯を行いながら固定する方法では、調芯不良による歩留まり低下が懸念される。例えば、一本のマルチコアファイバの調芯歩留まりが90%であるとする(すなわち、調芯不良が10%発生する)。
【0010】
単心のコネクタであれば、コネクタの歩留まりは90%となる。しかし、複数本のマルチコアファイバをすべて調芯する必要がある多心コネクタでは、コネクタの歩留まりが大幅に低下する。例えば、8心の多心コネクタの場合、全てのマルチコアファイバの調芯がうまくいく確率は、90%の8乗となる。このように、多心コネクタの場合、1本でも調芯不良となれば、コネクタ全体の不良となる。
【0011】
また、特許文献2のような、マルチコアファイバ同士の接続では、マルチコアファイバの全てのコア同士がフィジカルコンタクトによって光接続される必要がある。しかし、コネクタの先端部において、マルチコアファイバの突出高さを完全に一致させることは困難であり、この場合には突出高さの少ないマルチコアファイバ同士を確実にフィジカルコンタクトさせることが困難である。したがって、確実に接続対象とフィジカルコンタクトさせることが可能なコネクタ等が望まれる。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、例えばマルチコアファイバのような回転調芯が必要な複数の光ファイバを有する場合であっても、歩留まり低下を最低限に抑えることが可能な多心コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、複数の光ファイバと、少なくとも1本の前記光ファイバを保持する光ファイバ保持部材と、複数の前記光ファイバ保持部材が収容される収容部と、前記光ファイバ保持部材の端面から突出する前記光ファイバの先端の位置決めを行う位置決め機構と、を有するフェルールと、を具備し、前記光ファイバは、長手方向に垂直な断面において特定の対称軸を有し、長手方向を軸とする回転方向に対して方向性を有し、前記光ファイバ保持部材には、前記光ファイバ保持部材の長手方向を軸とした、前記収容部における前記光ファイバ保持部材の回転を抑制する回転抑制部が設けられ
、1つの前記光ファイバ保持部材には、2本以上の前記光ファイバが保持されることを特徴とする多心コネクタである。
【0014】
前記光ファイバ保持部材には、前記光ファイバ保持部材の長手方向から見た際に、収容される前記光ファイバの前記対称軸と平行または垂直な目印が形成されることが望ましい。
【0015】
前記光ファイバ保持部材は、略角柱形状であり、前記光ファイバ保持部材の長手方向に垂直な断面における、前記光ファイバ保持部材の幅をah、高さをbhとすると、前記収容部の高さhsは、前記光ファイバ保持部材の高さbhよりも大きく、ah・sinθ+bh・cosθ=hsの関係において、θが1度以下であってもよい。
【0016】
前記収容部には、ガイド部が設けられ、前記光ファイバ保持部材と前記ガイド部とがクリアランスを有して嵌りあい、前記ガイド部に対して前記光ファイバ保持部材が回転可能な角度が1度以下となるように前記クリアランスが設定されてもよい。
【0017】
前記収容部と前記光ファイバ保持部材との間にはクリアランスが設けられず、前記回転抑制部によって、前記光ファイバ保持部材の回転が許容されなくてもよい。
【0018】
前記回転抑制部は、前記光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された平坦部であり、前記平坦部が、前記収容部の基準面と接触することで、前記光ファイバ保持部材の回転が抑制されてもよい。
【0019】
前記回転抑制部は、前記光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された凸部または凹部であり、前記凸部または凹部が、前記収容部に形成された凹部または凸部と嵌合することで、前記光ファイバ保持部材の回転が抑制されてもよい。
【0020】
前記光ファイバ保持部材に設けられた
2本以上の前記光ファイバのうち、少なくとも1本はダミー棒またはダミーファイバであり、前記ダミー棒またはダミーファイバは、前記光ファイバと同一方向に、前記光ファイバ保持部材の端面から突出し、前記ダミー棒またはダミーファイバが、前記位置決め機構に配置されることで、前記光ファイバ保持部材の回転が抑制されてもよい。
【0021】
前記フェルールの端面から、それぞれの前記光ファイバが所定量だけ突き出していることが望ましい。
【0022】
前記光ファイバ保持部材は、前記フェルールに接着剤で固定され、前記位置決め機構の内面と前記光ファイバとは接着されていないことが望ましい。
【0023】
前記フェルールの端面から突出する前記光ファイバの端面が研磨されていてもよい。
【0024】
前記位置決め機構のすべてに前記光ファイバが配置されず、空の位置決め機構が設けられてもよい。
【0025】
前記光ファイバ
のうち少なくとも1本は、複数のコアを有するマルチコアファイバであってもよい。
【0026】
それぞれの前記光ファイバにおいて、前記フェルールの端面から、前記マルチコアファイバのそれぞれのコアの端面までの距離の最大差が0.3μm以下であることが望ましい。
【0028】
1つの前記光ファイバ保持部材には、2本の前記光ファイバが保持されてもよい。
【0029】
複数の前記光ファイバの両側にはガイドピンまたはガイド穴が設けられてもよい。
【0030】
第1の発明によれば、回転調芯が必要な光ファイバが、直接フェルールに固定されるのではなく、光ファイバ保持部材に保持される。したがって、光ファイバの回転調芯は、光ファイバ保持部材に対して行えばよい。このため、仮に調芯に失敗しても、対象となる光ファイバ保持部材のみを廃棄すればよいため、コネクタ全体が不良とならず、歩留まりの低下を抑えることができる。
【0031】
また、光ファイバ保持部材には、回転抑制部が形成される。このため、光ファイバ保持部材をフェルールの収容部に固定する際には、容易に回転方向の向きをそろえて配置することができる。
【0032】
また、光ファイバ保持部材の長手方向から見た際に、収容される光ファイバの方向性を示す目印が形成されれば、光ファイバと光ファイバ保持部材との調芯が容易である。
【0033】
また、光ファイバ保持部材は、略角柱形状であり、光ファイバ保持部材の幅をah、高さをbh、収容部の高さをhsとすると、ah・sinθ+bh・cosθ=hsの関係において、θが1度以下となるように設定することで、収容部内において、光ファイバ保持部材が回転したとしても、回転角度を一度以下に抑えることができる。
【0034】
また、収容部にガイド部を設け、ガイド部に対する光ファイバ保持部材の回転角度を1度以下としても、同様の効果を得ることができる。
【0035】
なお、収容部と光ファイバ保持部材との間にクリアランスを設けずに、光ファイバ保持部材の回転を許容しないようにすることで、光ファイバの回転方向のずれをより確実に抑えることができる。
【0036】
また、回転抑制部が、光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された平坦部であれば、製造が容易であり、収容部の基準面との接触によって、光ファイバ保持部材の回転を抑制することができる。
【0037】
また、回転抑制部が、光ファイバ保持部材の外面の少なくとも一部に形成された凸部または凹部であり、凸部または凹部が、収容部に形成された凹部または凸部と嵌合するようにしても、光ファイバ保持部材の回転を抑制することができる。
【0038】
また、回転抑制部が、光ファイバ保持部材に設けられたダミー棒またはダミーファイバであり、ダミー棒またはダミーファイバをフェルールの位置決め機構に配置しても、同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、フェルールの端面から、光ファイバが所定量だけ突き出しているようにすることで、接続対象と確実に光接続を行うことができる。
【0040】
また、光ファイバ保持部材は、フェルールに接着剤によって固定され、この際、位置決め機構の内面と光ファイバとが接着されないようにすることで、光ファイバの弾性圧縮可能長を確保することができる。このため、フェルールの端面からの光ファイバの突出量に多少のばらつきがある場合でも、接続対象にそれぞれの光ファイバが押し付けられた際に、光ファイバが弾性圧縮変形によってこのばらつきを吸収し、確実に各光ファイバと接続対象との間の必要な押圧力を確保することができる。
【0041】
また、フェルールの先端から突出する光ファイバの先端が研磨されていることで、光ファイバの先端の傷等が除去されるとともに、光ファイバの先端縁部が除去され、フィジカルコンタクトに好ましい光ファイバの端面形状となる。
【0042】
また、フェルールの位置決め機構のすべてに光ファイバが配置されていなくてもよい。フェルールには、所定のピッチで位置決め機構を形成しておき、使用する位置決め機構にのみ光ファイバを配置するようにすることで、光ファイバの配置によらず、フェルールを共通化することができる。
【0043】
また、光ファイバが複数のコアを有するマルチコアファイバであれば、多心のマルチコアファイバを一括して接続することが容易となる。
【0045】
また、1つの光ファイバ保持部材に、2本の光ファイバが保持されるようにすることで、2本の光ファイバと、フェルールの孔とで、回転位置決めを行うことができる。
【0046】
また、光ファイバの両側にガイドピンまたはガイド穴を設けることで、ガイド機構を有するいわゆるMTコネクタ(Mechanically Transferable Splicing Connector)として使用可能である。したがって、従来のコネクタと同様に取り扱うことが可能である。
【発明の効果】
【0066】
本発明によれば、例えばマルチコアファイバのような回転調芯が必要な複数の光ファイバを有する場合であっても、歩留まり低下を最低限に抑えることが可能な多心コネクタを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0068】
<多心コネクタ>
以下、本発明の実施の形態にかかる多心コネクタ1について説明する。
図1〜
図3は、多心コネクタ1を示す図であり、
図1は分解斜視図、
図2は組立斜視図、
図3は平面図である。多心コネクタ1は、主に、フェルール3、光ファイバ保持部材11、光ファイバ13等から構成される。
【0069】
フェルール3には位置決め機構としての複数の孔7が形成される。孔7は、光ファイバ13の先端が挿通される部位である。なお、位置決め機構としては、孔7に代えて、例えば溝であってもよい。すなわち、複数の位置決め機構に対して、複数の光ファイバ13が配置される。以下の説明では、フェルール3の位置決め機構が孔であるとして説明する。また、フェルール3の端面において、複数の孔7の両側部にはガイド機構であるガイド穴5が形成される。ガイド穴5には、ガイドピン15が挿入される。ガイドピン15によって、接続対象のコネクタ等との位置決めがなされる。
【0070】
フェルール3の上面には、開口部9が形成され、開口部9から、内部の収容部21が露出する。収容部21は、光ファイバ保持部材11が収容される部位である。
【0071】
光ファイバ保持部材11には、光ファイバ13が保持されている。光ファイバ13は、断面円形のマルチコアファイバである。すなわち、光ファイバ13は、光ファイバ13の長手方向に垂直な断面において特定の対称軸を有し、長手方向を軸とする回転方向に対して方向性を有する。したがって、光ファイバ13は回転調芯が必要である。
【0072】
図3に示すように、複数の光ファイバ保持部材11は、収容部21に整列して収容される。光ファイバ保持部材11の端面からは、所定長の光ファイバ13が突出する。光ファイバ保持部材11から突出した光ファイバは、フェルール3に形成された孔7を貫通し、フェルール3の端面から所定長さだけ突出する。したがって、光ファイバ保持部材11の端面から突出した光ファイバの先端が、位置決め機構である孔7によって位置決めされる。
【0073】
図4は、
図3のB部拡大図である。このように、光ファイバ13の先端をフェルール3の端面から突出させる方法としては、光ファイバ13をフェルール3に固定した後、フェルール3の端面を研磨する方法がある。樹脂製のフェルール3が優先的に研磨されることで、ガラス製の光ファイバのみをフェルール3の端面から突出させることができる。
【0074】
ここで、フェルール3の端面から突出する光ファイバ13の長さFは、ある程度大きくする必要がある。これは、フェルール3に含まれるガラスフィラーなどの影響を受けにくくするためである。しかし、フェルール3の研磨量を大きくすると、光ファイバ13の先端部の縁部の研磨ダレ(略球面形状)が大きくなる。
【0075】
通常の、シングルコアファイバであれば、光ファイバ縁部に多少の研磨ダレが生じても、中心のコアには大きく影響しない。しかし、マルチコアファイバの場合には、光ファイバ先端部が球面状になると、1本の光ファイバの中でも、コア19の位置によって、フェルールの端面からコアの端面までの距離が異なることとなる。この距離の差が大きくなると、全てのコア19を確実に光接続することが困難となる。
【0076】
本発明では、それぞれの光ファイバ13において、フェルール3の端面から、マルチコアファイバのそれぞれのコア19の端面までの距離の最大差(図中G)が0.3μm以下となるようにすることが望ましい。0.3μmを超えると、フェルール3の端面から最も距離の短いコア19を、接続対象と接触させることが困難となるためである。なお、光ファイバ13の先端縁部の研磨ダレを抑えて、光ファイバ13の突出量Fを確保するための方法は後述する。
【0077】
次に、光ファイバ保持部材11について詳細に説明する。
図5(a)、
図5(b)は、光ファイバ13を、光ファイバ保持部材11に対して固定する工程を示す図である。光ファイバ保持部材11の先端部には、段差17が形成され、長尺面12aと短尺面12bが形成される。また、光ファイバ保持部材11には、長手方向に貫通する孔が形成される。一つの光ファイバ保持部材11には、1本の光ファイバ13が挿通される。光ファイバ13は、光ファイバ保持部材11の先端から所定長だけ突出する。なお、光ファイバ保持部材11を先端部から見た場合の段差17の長尺面12aと短尺面12bの境界線は、孔(光ファイバ13)の中心を通る位置に直線状に形成される。
【0078】
また、光ファイバ保持部材11の少なくとも一方の側面は平坦部23となる。なお、図示した例では、光ファイバ保持部材11は、略角柱形状であり、断面が略矩形であるため、4つの側面の全てに平坦部が形成される。平坦部23は、フェルール3の収容部21に収容された際に、収容部21の基準面(例えば内面)と接触する部位である。このように、平坦部23が収容部21の内面と接触することで、光ファイバ保持部材11が収容部21内で回転することを抑制することができる。すなわち、平坦部23が、収容部21内部における光ファイバ保持部材11の回転抑制部として機能する。回転抑制部によって、光ファイバ保持部材11の長手方向を軸とした、収容部21における光ファイバ保持部材11の回転を抑制することができる。なお、収容部21における光ファイバ保持部材11の収容状態については詳細を後述する。
【0079】
図5(b)に示すように、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11に挿通した状態で、光ファイバ13を回転させることで、光ファイバ保持部材11に対して、光ファイバ13の回転方向の調芯を行うことができる。
【0080】
図6(a)は、
図5(b)のD矢視図であり、光ファイバ保持部材11の正面から見た図である。
図6(a)に示すように、光ファイバ保持部材11の正面からの拡大画像をモニタ上に表示させる。この際、前述した平坦部23を基準とすると、図示した例では、段差17の長尺面12aと短尺面12bの境界線は、平坦部23と垂直に形成される。
【0081】
ここで、光ファイバ13は、複数のコア19を有するマルチコアファイバである。図示した例では、中心のコアと周囲の六つのコア19が、等間隔に配置される。すなわち、長手方向に垂直な断面において、コア19の配列に周方向(回転方向)の方向性を有する。なお、光ファイバ13のコア19の配置は、図示した例には限られない。
【0082】
例えば、光ファイバ13の中心線の内、三つのコア19が直線状に並ぶ中心線を、特定の対称軸Eとする。この際、対称軸Eが、段差17の長尺面12aと短尺面12bの境界線と一致するように、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11に対して回転させ(
図5(b)の矢印C)、モニタ上で、完全に段差17の境界線と対称軸Eとが一致した状態で、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11に接着剤で固定する。このように、段差17と対称軸Eとが一致するように回転調芯を行うことで、調芯作業が容易である。
【0083】
なお、段差17の境界線と対称軸Eとが一致するのではなく、
図6(b)に示すように、互いに直交するように回転調芯してもよい。この場合、例えば、モニタ上に、段差17と一致させるカーソル線と、これと直交するカーソル線とを表示させておき、段差17の線と一方のカーソル線とを一致させた状態で、他方のカーソル線と対称軸Eとが一致するように回転調芯を行えばよい。
また、段差17の境界線はこれらに限らず、長手方向に垂直な断面において、長手方向を軸とする回転方向に対して方向性を有する光ファイバに対して、その方向性を示すものであればよい。
【0084】
このように、光ファイバ保持部材11の先端から見た際に、段差17の境界線を基準線とすることができるため、光ファイバ13の回転調芯を容易に行うことができる。すなわち、段差17の境界線が、光ファイバ13の方向性を示す目印として機能する。なお、このような目印としては、段差17以外にも、溝や突起などの他の構造としてもよい。
【0085】
図7は、多心コネクタ1の正面図であり、光ファイバ13の端面を拡大した図である。前述した様に、各光ファイバ13は、光ファイバ保持部材11に保持されており、光ファイバ保持部材11に対する光ファイバ13の回転方向の位置が一定となるように回転調芯されている。したがって、本発明では、多心コネクタ1の端面から露出するそれぞれの光ファイバ13の対称軸Eがすべて同一方向に向くように配置することができる。
【0086】
図8(a)は、
図3のA−A線断面図である。前述した様に、光ファイバ保持部材11の平坦部23が、収容部21の内面(平坦部)と接触することで、光ファイバ保持部材11の回転方向の位置決めがなされる。一方、収容部21のサイズは、光ファイバ保持部材11の挿入性を確保するため、光ファイバ保持部材11のサイズよりもやや大きい。すなわち、光ファイバ保持部材11と収容部21内面との間には、一部にクリアランスが形成される。
【0087】
図8(b)は、
図8(a)のH部を抽出して拡大した模式図である。収容部21の高さをhsとする。また、光ファイバ保持部材11の幅をahとし、高さをbh(hsよりも大きい)とする。平坦部23が収容部21の内面と面接触している場合には、光ファイバ保持部材11の回転を考慮する必要はない。すなわち、光ファイバ保持部材11の平坦部23は収容部21内面と接触して、収容部21に対する光ファイバ保持部材11の回転が規制される。しかし、前述した様に、光ファイバ保持部材11と収容部21内面との間には、一部にクリアランスが形成される。このため、収容部21内において、光ファイバ保持部材11はわずかに回転が許容される(図中θ)。
【0088】
この回転許容角度θが大きくなると、収容部21内における光ファイバ保持部材11の回転によって、フェルール3に対する光ファイバ13の回転調芯がずれる恐れがある。このため、回転許容角度θが1度以下となるように各部の寸法を設定することが望ましい。具体的には、ah・sinθ+bh・cosθ=hsの関係において、θが1度以下となるように、各部の寸法を設定することが望ましい。このようにすることで、光ファイバ保持部材11の回転を最低限に抑えることができる。
【0089】
次に、多心コネクタ1の製造方法について説明する。まず、前述したように、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11に固定する。この際、光ファイバ保持部材11の基準面に対して、光ファイバ13が所定の回転位置となるように回転調芯する。なお、回転調芯不良が生じた場合には、対象となる光ファイバ保持部材11のみを廃棄すればよい。
【0090】
次に、所望の精度で回転調芯が完了した光ファイバ保持部材11のみを、フェルール3の収容部21に挿入する。また、光ファイバ保持部材11の先端から突出する光ファイバ13の先端を、フェルール3の孔7に挿入し、先端をフェルール3の端面から突出させる。
【0091】
次に、
図9(a)に示すように、フェルール3の接続方向(光ファイバ13先端の突出方向)に突き当て部材33を配置し、フェルール3に突き当てる(図中矢印I)。突き当て部材33は、例えば、ガイドピン15と嵌合するガイド孔を有し、光ファイバ13の突出範囲に凹部35が形成された部材である。
【0092】
図9(b)に示すように、突き当て部材33をフェルール3に突き当てると、フェルール3の端面と突き当て部材33との間に凹部35によるクリアランスが形成される。ここで、フェルール3の先端方向に光ファイバ保持部材11を押し込むことで、それぞれの光ファイバ13の先端が突き当て部材33に突き当たる。したがって、凹部35に応じた所定の突出し量で、光ファイバ13の先端をフェルール3の端面から突き出させることができる。
【0093】
図10は、この状態における
図9(b)のJ−J線断面図である。フェルール3の上面には開口部9が形成される。開口部9からは、接着剤37を塗布することが可能である。接着剤37によって、光ファイバ保持部材11をフェルール3(収容部21)に固定することができる。
【0094】
孔7が形成される側の収容部21の内面と、光ファイバ保持部材11の端面とは接触せず、クリアランスが形成される(図中K)。このようにすることで、収容部21に滴下した接着剤37が、孔7に付着することを防止することができる。すなわち、本発明では、光ファイバ13は、孔7において、フェルール3とは接着されないことが望ましい。
【0095】
ここで、光ファイバ13を他の光ファイバ等と光接続させるためには、他の光ファイバ等と光ファイバ13とをフィジカルコンタクトさせる必要がある。すなわち、所定の押圧力で光ファイバ13の端面を接続対象に押し付ける必要がある。前述した様に、突き当て部材33を用いることで、それぞれの光ファイバ13の突出量は略一定になるが、完全に一致させることは困難であるため、わずかに突出量にばらつきが生じる。このようなばらつきが生じると、相対的に突出量の少ない光ファイバ13を接続対象に押し付けることが困難となる。
【0096】
突出量のばらつきのある複数の光ファイバ13を確実に接続対象とフィジカルコンタクトさせるためには、所定の押圧力で光ファイバ13を接続対象に押し付け、相対的に突出量の大きな光ファイバ13を弾性圧縮させればよい。このようにすることで、相対的に突出量の大きな光ファイバ13を縮めて突出量を小さくし、他の光ファイバ13の突出量との差を小さくすることができる。
【0097】
ここで、所定の押圧力(応力)により生じる歪は、(長さ変化量)/(初期長さ)で与えられる。このため、同一の歪であれば、初期長さが長い方が、より大きな長さ変化量を得ることができる。
【0098】
もし、接着剤37によって光ファイバ13が孔7に固定されると、光ファイバ13がフリーな状態となるのはフェルール3の端面から突出する長さLに限定される。このため、光ファイバ13を弾性圧縮させることができる初期長さがLとなる。
【0099】
一方、光ファイバ13と孔7とが接着されていないと、光ファイバ13がフリーな状態となるのは光ファイバ保持部材11の端面から突出する長さMとなる。このため、光ファイバ13を弾性圧縮させることができる初期長さがMとなる。このように、光ファイバ13を孔7に接着した場合と比較して、初期長さが長いため、所定の押圧力によって得られる長さ変化量が大きくなる。すなわち、光ファイバ13の突出量にばらつきが生じても、これを吸収することが可能となる。したがって、本発明では、光ファイバ13は、孔7において、フェルール3とは接着されないことが望ましい。
【0100】
以上、本実施の形態によれば、MTコネクタタイプの多心コネクタ1を得ることができる。また、光ファイバ13は、回転調芯が必要であるが、それぞれの光ファイバ13毎に別個の光ファイバ保持部材11を用いるため、回転調芯不良のリスクを、各光ファイバ保持部材11に分散させることができる。このため、全ての光ファイバ13を直接フェルール3に固定する場合と比較して、回転調芯不良に伴うコネクタの歩留まり低下を抑制することができる。
【0101】
また、光ファイバ保持部材11には、回転抑制部である平坦部23が設けられる。このため、光ファイバ保持部材11が収容部21内で回転することを抑制し、回転方向の位置決めを容易に行うことができる。
【0102】
さらに、収容部21の内寸と、光ファイバ保持部材11の寸法を適切に設定することで、収容部21内の光ファイバ保持部材11の回転許容角度を1度以下とすることができる。
【0103】
また、光ファイバ保持部材11には、光ファイバ13の回転調芯時に利用される基準線である段差17が形成される。このため、モニタ上で光ファイバ13の回転位置と基準線とを一致させることが容易である。
【0104】
また、突き当て部材33を用いることで、光ファイバ13の先端を容易に所定量だけフェルール3の端面から突出させることができる。このため、フェルール3の端面を研磨する必要がない。この結果、光ファイバ13の端面縁部の研磨ダレの発生を抑制することができる。また、フェルール3の端面から、マルチコアファイバのそれぞれのコア19の端面までの距離の最大差を0.3μm以下とすることで、全てのコア19について、確実に接続対象と光接続させることができる。詳細については、後述する「コネクタおよびコネクタ接続構造」で説明する。
【0105】
また、光ファイバ保持部材11のみがフェルール3に固定され、光ファイバ13は、フェルール3(孔7)には直接固定されない。このため、十分な光ファイバ13の弾性圧縮変形長を確保することができる。この結果、フェルール3の端面からの光ファイバ13の突出量にばらつきがある場合でも、このばらつきを吸収することができる。
【0106】
なお、フェルール3から光ファイバ13を所定量突出させる際には、必ずしも突き当て部材33を用いる必要はない。光ファイバ13の突出量をある程度そろえることができれば、他の方法でも良い。この場合、フェルール3から光ファイバ13を所定量突出させた状態で、フェルール3に光ファイバ保持部材11を固定した後、フェルール3から突出する光ファイバ13の先端を研磨してもよい。
【0107】
図11(a)は、光ファイバ13の研磨前における、フェルール3から光ファイバ13が突出している状態を示す概略図であり、
図11(b)は、光ファイバ13の先端を研磨した状態を示す概略図である。例えば、光ファイバ保持部材11をフェルール3に固定した直後は、フェルール3からの光ファイバ13の突出量は、Δh
0だけばらつきが生じる。これに対し、光ファイバ13の先端を研磨することで、このばらつき(Δh
1)を小さくすることができる。
【0108】
このように、フェルール3の端面から突出した光ファイバ13の先端を研磨し、突出量を減少させることで、光ファイバ13の突出量のばらつきを減少させることができる。この結果、十分な光ファイバ13の弾性変形長を確保するのに必要な押圧力を低減することができる。
【0109】
なお、突き当て部材33を用いて光ファイバ13の突出代を揃えた状態で、光ファイバ保持部材11をフェルール3に固定した後、さらに、光ファイバ13の先端を研磨してもよい。このようにすることで、突き当て部材33を用いても生じる突出量ばらつきをさらに低減することができる。また、突き当て部材33に突き当てることによって生じる光ファイバ13の端面のキズや欠けを除去することができる。
【0110】
また、各光ファイバ13を接続対象とフィジカルコンタクトさせる際、光ファイバ13の端面縁部が完全に残っていることは望ましくないため、縁部の一部は研磨等によって除去することが望ましい。このため、突き当て部材33を用いた場合でも、光ファイバ13の先端を研磨することで、研磨の過程で光ファイバ13の端面の縁部を除去することができるため、フィジカルコンタクトに好ましい光ファイバ13の端面の形状を得ることができる。なお、光ファイバ同士のフィジカルコンタクトさせるための条件等の詳細については、後述する「コネクタおよびコネクタ接続構造」で説明する。
【0111】
このように、光ファイバ13のコア19の配置を一定にすることで、多心コネクタ1と光接続される他の光コネクタや光素子と、多心コネクタ1の各コア19とを確実に光接続することができる。
【0112】
次に、他の実施の形態について説明する。
図12(a)〜
図12(c)は、回転抑制部の他の実施形態を示す図である。なお、以下の説明において、
図1〜
図10に示した構成と同一の機能を奏する構成については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図12(a)の光ファイバ保持部材11aは、回転抑制部として、凹部25aが形成される。凹部25aは、収容部21の内面に形成された凸部27aと対応する。凹部25aと凸部27aとが嵌りあうことで、光ファイバ保持部材11aの収容部21内での回転が抑制される。
【0113】
同様に、
図12(b)の光ファイバ保持部材11bは、回転抑制部として、凸部25bが形成される。凸部25bは、収容部21の内面に形成された凹部27bと対応する。凸部25bと凹部27bとが嵌りあうことで、光ファイバ保持部材11bの収容部21内での回転が抑制される。
【0114】
このように、光ファイバ保持部材11a、11bは、互いの凹凸によって回転が抑制される。すなわち、互いの凹凸が回転抑制部として機能する。このため、光ファイバ保持部材11a、11bには、必ずしも、収容部21との接触面に図示したような平坦部が無くてもよい。また、光ファイバ保持部材11a、11bの凹凸と、収容部21の凹凸との間にはクリアランスが形成されてもよい。この場合、収容部21内における光ファイバ保持部材11a、11bの回転許容角度が1度以下となればよい。
【0115】
また、
図12(c)に示すように、収容部21にガイド部29を形成してもよい。また、光ファイバ保持部材11とガイド部29との間にはクリアランスが形成されてもよい。この場合でも、収容部21内における光ファイバ保持部材11の回転許容角度が1度以下となればよい。
【0116】
また、
図13に示すように、押圧部材31を用いてもよい。平坦部23によって、回転が抑制されている光ファイバ保持部材11を上方から押圧部材31によって押圧することで、確実に光ファイバ保持部材11の回転を防止することができる。すなわち、光ファイバ保持部材11と収容部21(押圧部材31下面)との間にクリアランスが形成されないようにすることで、光ファイバ保持部材11の収容部21内での回転を防止することができる。
【0117】
このように収容部21と光ファイバ保持部材とをクリアランスなく完全に固定する方法としては、
図14(a)に示すように、前述した光ファイバ保持部材11aに対して、凹部25aと凸部27aとの間のクリアランスをなくしてもよい。同様に、
図14(b)に示すように、前述した光ファイバ保持部材11bに対して、凸部25bと凹部27bとの間のクリアランスをなくしてもよい。また、
図14(c)に示すように、前述した光ファイバ保持部材11とガイド部29との間のクリアランスをなくしてもよい。これらの構造では、光ファイバ保持部材を収容部21に圧入等によって挿入すればよい。
【0118】
また、
図15(a)に示す光ファイバ保持部材11cを用いてもよい。
図15(a)は、光ファイバ保持部材11cを用いた場合の多心コネクタの長手方向断面図であり、
図15(b)は、
図15(a)のN−N線断面図である。
【0119】
光ファイバ保持部材11cには、複数の孔が形成され、光ファイバ13とダミーファイバ39がそれぞれ挿通される。ダミーファイバ39は光ファイバ13と同一方向に向けて光ファイバ保持部材11cの端面から突出する。ダミーファイバ39は、光の伝送に用いられるものではないが、通常のシングルコアファイバやマルチコアファイバを利用してもよい。また、ファイバではなく、ダミー棒であってもよい。
【0120】
フェルール3の端面には、光ファイバ13が挿通される孔7と、ダミーファイバ39が挿通される孔7aとが設けられる。なお、ダミーファイバ39は、必ずしもフェルール3の端面から突出しなくてもよい。また、孔7aは貫通孔でなくてもよい。
【0121】
このように、光ファイバ保持部材11cを用いれば、光ファイバ13とダミーファイバ39とがそれぞれ孔7、7aに挿通されているため、光ファイバ保持部材11cが収容部21内で回転することを抑制することができる。なお、光ファイバ保持部材11cは、ダミーファイバ39によって回転が抑制される。すなわち、ダミーファイバ39が回転抑制部として機能する。このため、光ファイバ保持部材11cには、必ずしも、収容部21との接触面に図示したような平坦部が無くてもよい。
【0122】
また、前述した実施形態では、1つの光ファイバ保持部材に、1本の光ファイバ13が保持される例について示したが、1つの光ファイバ保持部材に、2本以上の光ファイバ13が保持されてもよい。
【0123】
図16は、1つの光ファイバ保持部材11dに、2本の光ファイバ13が保持された状態を示す図である。光ファイバ保持部材11dは、一対の孔が設けられ、それぞれの孔に光ファイバ13が保持される。前述した様に、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11dに挿通した状態で、光ファイバ13を回転させることで、光ファイバ保持部材11に対して、光ファイバ13の回転方向の調芯を行うことができる(図中矢印P)。
【0124】
図17は、
図16のQ矢視図であり、光ファイバ保持部材11の正面から見た図である。前述した様に、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11dに挿通した状態で、光ファイバ保持部材11の正面からの拡大画像をモニタ上に表示させる。
【0125】
この際、それぞれの光ファイバ13の中心線の内、特定の対称軸をEとする、それぞれの対称軸Eが、段差17の境界線と一致するように、光ファイバ13を光ファイバ保持部材11dに対して回転させ、モニタ上で、完全に段差17の境界線と対称軸Eとが一致した状態で、それぞれの光ファイバ13を光ファイバ保持部材11に接着剤で固定する。このように、段差17の境界線を基準として、それぞれの対称軸Eが一致するように回転調芯を行うことで、2本の光ファイバ13の向きを一致させることができる。
【0126】
図18は、多心コネクタ1dの正面図であり、光ファイバ13の端面を拡大した図である。前述した様に、2本の光ファイバ13が光ファイバ保持部材11dに保持されており、さらに、複数の光ファイバ保持部材11dが互いの回転方向の位置が一定となるように固定されている。したがって、本実施形態では、多心コネクタ1の端面から露出するそれぞれの光ファイバ13の対称軸Eがすべて同一方向に向くように配置することができる。
【0127】
また、このように、2本の光ファイバ13を1つの光ファイバ保持部材11dに保持させることで、一対の光ファイバ13が上下の孔7で位置決めされる。このため、2本の光ファイバ13を、フェルール3の収容部21における光ファイバ保持部材11dの回転を抑制する回転抑制部として機能させることができる。
【0128】
このように、本発明では、一つの光ファイバ保持部材で保持する光ファイバ13は、1本であってもよく複数本であってもよい。
【0129】
また、本発明では、
図19(a)に示すように、複数の形態の光ファイバ保持部材を併用してもよい。例えば、前述した様に、光ファイバ保持部材11dは、上下方向に複数の光ファイバ13を保持する。また、光ファイバ保持部材11eは、幅方向に複数(図では2本)の光ファイバ13を保持する。このようにすることで、光ファイバ保持部材11d、11eを、2本の光ファイバ13の回転抑制部として機能させることができる。
【0130】
また、光ファイバ保持部材11fは、一本の光ファイバ13を保持するが、保持位置が上方にずれて配置される。同様に、光ファイバ保持部材11gは、一本の光ファイバ13を保持するが、保持位置が下方にずれて配置される。
【0131】
また、光ファイバ保持部材11hは、上下方向および幅方向のそれぞれに併設される複数の光ファイバ13を保持する。このように、本発明では、一つの光ファイバ保持部材で保持する光ファイバ13は、1本であってもよく複数本であってもよく、また、その配置は限定されない。また、複数の光ファイバ保持部材を組み合わせることができる。
【0132】
図19(b)は、
図19(a)で構成された多心コネクタ1aの正面図である。図中、光ファイバ13が挿通されている孔7は白色で表し、空孔(光ファイバ13が挿通されていない空の孔7)を黒色で表した。このように、複数の光ファイバ保持部材を組み合わせることで、光ファイバ13の位置を任意に配置することができる。
【0133】
なお、フェルール3に対して、光ファイバ13が挿通されない部位には孔7を形成する必要はない。しかし、図示したように複数の孔7を所定のピッチでフェルール3に配置しておくことで、単一のフェルール3を複数の光ファイバ13の配置に適用させることができる。この場合、不使用の孔7は空孔とすればよい。
【0134】
このように、本発明の光ファイバ保持部材は、様々な光ファイバ13の保持態様に適用することができるとともに、これらを組み合わせた多心コネクタを得ることもできる。
【0135】
また、前述の実施形態では、一対のガイド穴5(ガイドピン15)によって、接続対象との位置決めを行うことが可能なMTコネクタに適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。接続対象に対して、位置決めが可能であれば他の構造としてもよい。
【0136】
図20(a)は、一対の多心コネクタ1bをフェルール調芯部材43で接続した接続構造を示す図であり、
図20(b)は、
図20(a)のO−O線断面図である。多心コネクタ1bは、ガイド穴5を有さない。したがって、多心コネクタ1b同士の接続にはガイドピン15が用いられない。
【0137】
フェルール調芯部材43は、略角筒状であり、両側からフェルール3の先端を挿入可能である。フェルール調芯部材43の内寸は、フェルール3の外寸と略一致するため、フェルール3はフェルール調芯部材43によって位置決めされる。すなわち、光ファイバ13の位置決めがなされる。このため、それぞれの多心コネクタ1bの光ファイバ13同士の位置決めがなされる。前述した様に、各光ファイバ13において、コア19は常に一定の配置となっているため、多心コネクタ1等と同様に、多心コネクタ1bにおいても、コア19同士が光接続される。
【0138】
なお、
図20(c)に示すように、フェルール調芯部材43の一部にスリット45を設けて、フェルール調芯部材43を割り構造とすることで、フェルール3の挿入性が向上するとともに、フェルール3の位置決めを行うことができる。このように、本発明の多心コネクタに対しては、必ずしもガイド穴5やガイドピン15は必要ではない。
【0139】
また、本発明の多心コネクタは、コネクタ同士の接続には限られない。
図21(a)は、多心コネクタ1cの概略図であり、
図21(b)は、これと光接続される受発光素子アレイ47の概略図である。
【0140】
受発光素子アレイ47には、複数の受発光部49が配置される。受発光部49は、受光または発光する部位である。また、受発光素子アレイ47と接続される多心コネクタ1cには、受発光素子アレイ47の受発光部49の配置と対応する位置に、各光ファイバ13のコア19が位置する。したがって、多心コネクタ1cのそれぞれのコア19と受発光素子アレイ47の受発光部49とを光接続することができる。
【0141】
なお、多心コネクタ1c(マルチコアファイバ)と受発光素子アレイ47(受発光部49)は、例えばアクティブ調芯されて、接着剤によって固定される。また、図示を省略するが、多心コネクタ1cと受発光素子アレイ47の位置決め機構を用いてもよい。
【0142】
また、本発明で対象となる光ファイバは、マルチコアファイバには限られない。本発明では、長手方向に垂直な断面において特定の対称軸を有し、長手方向を軸とする回転方向に対して方向性を有する光ファイバであれば、いずれの光ファイバにも適用可能である。すなわち、回転調芯が行われる光ファイバには適用が可能である。
【0143】
例えば、
図22(a)に示す光ファイバ13aに対しても適用可能である。光ファイバ13aは、中央にコア19を一つ有し、その両側に応力付与部41が設けられる。すなわち、光ファイバ13aは、いわゆる偏波保持ファイバである。本発明では、このような光ファイバ13aに対しても、光ファイバ保持部材を用いることで、前述した種々の効果を得ることができる。
【0144】
また、
図22(b)に示す光ファイバ13bに対しても適用可能である。光ファイバ13bは、中央にコア19を一つ有するが、コア19が偏平している。本発明では、このような光ファイバ13bに対しても、光ファイバ保持部材を用いることで、前述した種々の効果を得ることができる。
【0145】
また、本発明は、偏心ファイバにも適用可能である。例えば、単一のコア19を有する光ファイバであって、コア19が、光ファイバの中心位置から偏心した位置に配置された光ファイバに対しても適用可能である。この場合でも、多心コネクタの各光ファイバの偏心方向を揃えることができる。
また、本発明の多心コネクタは光ファイバと石英系ガラスを材料とする平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)素子との接続にも用いることができる。
【0146】
<コネクタおよびコネクタ接続構造>
次に、本発明の実施の形態にかかるコネクタについて説明する。
図23は多心コネクタ100の斜視図、
図24は平面図、
図25は、
図24のA−A線断面図である。多心コネクタ100は、主に、フェルール103、マルチコアファイバ113等から構成される。
【0147】
フェルール103には複数の孔107が形成される。孔107は、マルチコアファイバ113の先端が挿通され、保持される部位である。マルチコアファイバ113の先端は、フェルール103の端面から所定長だけ突出する。また、フェルール103の端面において、複数の孔107の両側部にはガイド機構であるガイド穴105が形成される。ガイド穴105には、ガイドピン115が挿入される。ガイドピン115によって、接続対象のコネクタ等との位置決めがなされる。
【0148】
このように、マルチコアファイバ113の両側にガイドピン115またはガイド穴105を設けることで、前述した様に、いわゆるMTコネクタとして使用可能である。なお、以下の説明においては、本発明のコネクタとして、MTタイプの多心コネクタに適用する例を示すが、本発明はこれに限られない。
【0149】
図25に示すように、マルチコアファイバ113は、フェルール103の孔107には固定されず、フェルール103に対して固定部111で固定される。すなわち、マルチコアファイバ113は、孔107の後方(マルチコアファイバ113の先端とは逆側)においてフェルール103に固定される。このため、マルチコアファイバ113は、固定部111による固定位置から先端までの間(図中長さl)において、フェルール103に対して固定されておらず、マルチコアファイバ113の長手方向に対しては、弾性変形が可能である。
【0150】
前述した様に、マルチコアファイバ113が孔107に固定されると、マルチコアファイバ113が長手方向にフリーな状態となるのは、フェルール103の端面から突出する長さLに限定される。このため、マルチコアファイバ113を弾性圧縮させることができる弾性変形可能な長さがLとなる。
【0151】
一方、マルチコアファイバ113と孔107とが接着されていないと、マルチコアファイバ113がフリーな状態となるのは固定部111の端面から突出する長さlとなる。このため、マルチコアファイバ113を弾性圧縮させることができる長さがlとなる。このように、マルチコアファイバ113を孔107に接着した場合と比較して、弾性変形可能な長さが長いため、所定の押圧力によって得られる長さの変化量が大きくなる。すなわち、マルチコアファイバ113の突出高さにばらつきが生じても、これを吸収することが可能となる。
【0152】
なお、マルチコアファイバ113が先端側から押圧されると、マルチコアファイバ113は、弾性圧縮歪だけではなく、座屈する恐れがある。ここで、座屈を生じる座屈荷重Fbは、以下の式で与えられる。
Fb=(π
3・E・d
4)/(16・l’
2)
(但し、Eはマルチコアファイバのヤング率、dはマルチコアファイバのクラッド径、l’は座屈長であって、孔107の後端から固定部111までの長さ)
【0153】
ここで、マルチコアファイバ1本当たりに想定される最大荷重を4Nとする。これに安全率を見て、座屈荷重を6Nとすると、
Fb≧6N
を満たすことで、座屈の発生を抑えることができる。
したがって、マルチコアファイバがシリカガラスからなるE≒71.5GPaを用いると、上式は、
l’≦151.96d
2(mm)
となる。したがって、クラッド径が125μmの場合には、l’を2.37mm以下とすればよく、クラッド径が180μmの場合には、l’を4.92mm以下とすればよい。
【0154】
次に、多心コネクタ100同士の接続構造について説明する。まず、フェルール103からのマルチコアファイバ113の突出代のばらつきについて検討する。
図26(a)は、それぞれの多心コネクタ100のマルチコアファイバ113同士を対向させた状態を示す図である。前述した様に、多心コネクタ100において、マルチコアファイバ113の先端は、フェルール103の端面から所定長だけ突出する。
【0155】
ここで、それぞれのマルチコアファイバ113の突出高さ(
図25のL)をh
ijとする。iは、多心コネクタを示すもので、図中左側のコネクタをi=1とし、図中右側のコネクタをi=2とする。また、jは、それぞれのコネクタにおけるマルチコアファイバのIDを示し、図中上から順に、j=1、2、・・・、nとする。
【0156】
この状態から、
図26(b)に示すように、それぞれの多心コネクタ100同士(マルチコアファイバ113同士)を押圧していくと(図中Fp)、まず、h
1j+h
2jが最も大きいマルチコアファイバ113同士が当接し、その後、押圧力を増していくことで、当接したマルチコアファイバ113が弾性圧縮歪によって変形しながら、h
1j+h
2jが大きい順に、順次マルチコアファイバ113同士が当接する。
【0157】
ここで、H=h
1j+h
2j(j=1〜n)とし、H
kをk番目に大きなHとすると、最もHが小さいH
nのマルチコアファイバ同士が接触するために必要な押圧力F
1は、[数1]式のように表すことができる。但し、Aはマルチコアファイバのクラッドの断面積、Eはマルチコアファイバのヤング率、lは弾性変形可能長(
図25のl)である。
【0159】
次に、それぞれのマルチコアファイバ113について、全てのコアがフィジカルコンタクトするための条件を検討する。
図27(a)は、
図24のB部拡大図であって、マルチコアファイバ113の先端部の拡大図であり、
図27(b)は、マルチコアファイバ113の正面図である。
【0160】
図27(b)に示すように、マルチコアファイバ113は、断面が略円形であり、複数のコア119が所定の間隔で配置され、周囲を複数のコアよりも屈折率が低いクラッド121で覆われた光ファイバである。例えば、全部で7つのコア119は、マルチコアファイバ113の中心と、その周囲に正六角形の各頂点位置に配置される。すなわち、中心のコア119と周囲の6つのコア119とは全て一定の間隔となる。また、6つのコア119において、隣り合う互いのコア119同士の間隔も同一となる。コア119は、信号光の導波路となる。なお、コア119の配置は、図示した例には限られない。
【0161】
前述した様に、複数のマルチコアファイバ113は、フェルール103の端面から、その先端が所定長だけ突出する。
図27(a)に示すように、マルチコアファイバ113の突出高さ(図中h)は、ある程度大きくする必要がある。これは、光接続部に対する、フェルール103に含まれるフィラー117などの影響を小さくするためである。このように、フィラー117の影響を受けにくくするためには、マルチコアファイバ113の突出高さhは、全て5μm以上とすることが望ましい。このように、マルチコアファイバ113の突出高さhを十分に確保することで、介在物に阻害されずに確実にマルチコアファイバ113同士のフィジカルコンタクトを担保することができる。
【0162】
一方、マルチコアファイバ113の突出高さhを大きくしすぎると、コネクタの繰り返しの脱着時などにおけるマルチコアファイバ113の耐久性の観点から望ましくない。したがって、マルチコアファイバ113の突出高さhは、20μm以下とすることが望ましい。
【0163】
ここで、マルチコアファイバ113の先端をフェルール103の端面から突き出させる方法としては、マルチコアファイバ113をフェルール103に固定した後、フェルール103の端面をバフ研磨する方法がある(以下、「突き出し研磨」とする)。バフ研磨は、ペースト状の研磨剤や懸濁液を布製やペーパー製の研磨布にしみ込ませて研磨を行うものである。研磨樹脂製のフェルール103が優先的に研磨されることで、ガラス(たとえば石英ガラス)製のマルチコアファイバ113のみをフェルール103の端面から突き出させることができる。なお、研磨剤としては、例えばアルミナが用いられる。
【0164】
このようにフェルール103を突き出し研磨すると、マルチコアファイバ113の先端部の縁部の研磨ダレ(略球面形状)が生じやすい。すなわち、マルチコアファイバ113の先端面のR(曲率半径)が小さくなる。
【0165】
ここで、
図27(b)に示すように、マルチコアファイバ113の正面視において、マルチコアファイバ113の中心を中心として、全てのコア119のモードフィールド径を包含する最小の円を基準円123とする。すなわち、少なくとも全てのコア119は、基準円123の内部に包含される。ここで、基準円123の半径をaとした際に、基準円123の内部での最も突出代の大きな部位と、最も突出代の小さな部位の突出代の差(以下、単に突出代差)をΔとする。
【0166】
なお、突き出し研磨量を増やして、突出高さhを高くしていくと、突出代差Δは線形で大きくなる。すなわち、所定量以上の突出高さhを確保しようとすると、それに応じて、マルチコアファイバ113の先端部の突出代差Δが大きくなる。
【0167】
図28(a)は、マルチコアファイバ113同士を対向して突き合せた状態を示す図である。一対のマルチコアファイバ113の先端面の曲率半径をそれぞれ、R
1、R
2とする。また、一対のマルチコアファイバ113の先端の突出代差をそれぞれ、Δ
1、Δ
2(μm)とする。また、それぞれの基準円123(不図示)の半径をa(μm)とする。
【0168】
この状態から、
図28(b)に示すように、マルチコアファイバ113の先端同士を押圧し、全てのコア119同士をフィジカルコンタクトさせるために必要な押圧力Fpc(N)はHertzの式により(1)式で表される。
Fpc=(4a
3E)/(3(1−ν
2))・(R
1+R
2)/(2R
1R
2)・・・(1)
(但し、E:マルチコアファイバ113のヤング率、ν:マルチコアファイバ113のポアソン比)
なお、マルチコアファイバ113の先端同士は、コネクタに含まれるコネクタスプリングなどの弾性部材(図示省略)によって押圧される。すなわち、弾性部材によって、フェルールは先端方向に押し付けられる。
【0169】
マルチコアファイバ113の先端においては、R>>a>>Δが成り立つため、R≒a
2/2Δと表すことができ、これを(1)式に代入すると、(2)式を得ることができる。(2)式より、Fpcは、(Δ
1+Δ
2)に対して線形であると言える。
Fpc=(4aE)/(3(1−ν
2))・(Δ
1+Δ
2)・・・(2)
【0170】
一方、
図29に示すように、コネクタスプリングの押圧力Fpを変化させて、Δ
1+Δ
2との相関を評価した。図中の白丸(図中X)は、フィジカルコンタクトしなかったものであり、黒丸(図中Y)は、フィジカルコンタクトしたものである。なお、用いたマルチコアファイバ113(クラッド121)の外径は181.5μm、コアピッチは44.5μmであった。また、1550nmに対するモードフィールド径は10.2μmであり、基準円123の半径は約50μmであった。また、簡単のため、
図29に示す例では、単心のマルチコアファイバ113同士のフィジカルコンタクトの可否を評価したものである。
【0171】
図中の直線Vは、マルチコアファイバ113のヤング率E=71.5GPa、ポアソン比ν=0.14として、(2)式で計算される理論上の直線である。すなわち、理論上は、直線Vよりも上側(コネクタスプリングによる押圧力の強い側)であれば、フィジカルコンタクトすることが期待される。しかし、発明者らが実際に評価を行うと、フィジカルコンタクトの可否の境界は、直線Wであることが分かった。
【0172】
理論上の直線Vに対して実際のフィジカルコンタクトの可否の境界である直線Wがずれる理由は以下のように考えられる。まず、Δ
1+Δ
2=0においてネクタスプリングによる押圧力Fpが0ではない点は、コネクタ同士のガイドピンの挿入抵抗などによって、コネクタスプリングの押圧力Fpの全てが、マルチコアファイバ113の先端の押圧力に利用されないためと考えられる。すなわち、コネクタスプリングの押圧力Fp=マルチコアファイバに加わる押圧力Fpc+コネクタの抵抗力Frと言える。
【0173】
今回用いたコネクタの抵抗力Frは、約4Nであった。コネクタの抵抗力Frは、用いられるコネクタに依存する。したがって、コネクタスプリングの押圧力の設定時には、予めFrを評価して、マルチコアファイバ113のフィジカルコンタクトに必要な押圧力にFrを加えたFpを設定すればよい。
【0174】
次に、直線Vと直線Wとの傾きのずれについて考察する。理論上の直線Vに対して実際のフィジカルコンタクトの可否の境界である直線Wの傾きが大きい理由としては、例えば、マルチコアファイバ113の先端形状が、
図27(a)に示したような理想形状ではなく、中心と突出代の最高点とのずれや、Δが基準円の周方向に一定ではないなどによるものと考えられる。このため、Δ
1+Δ
2が大きくなるほど、理論値からのずれ量が大きくなり、この結果、必要な押圧力Fpcが大きくなったものと考えられる。
【0175】
そこで、発明者らは、理論上の直線Vの傾きに対して、実際の直線Wの傾きとなるように補正係数αを算出したところ、α=1.39であった。
【0176】
したがって、マルチコアファイバの本数をn本とすると、フィジカルコンタクトが可能な条件は、(3)式で表される。
Fp≧(4aEαn)/(3(1−ν
2))・(Δ
1+Δ
2)+Fr・・・(3)
【0177】
ここで、Fp=Fr+Fpcである。したがって、フィジカルコンタクトが可能な条件は、(4)式で表される。
Fpc≧(4aEαn)/(3(1−ν
2))・(Δ
1+Δ
2)・・・(4)
【0178】
このように、マルチコアファイバ113同士が接触した状態から、全てのコアをフィジカルコンタクトさせるための押圧力は、(4)式で与えられる。したがって、前述した、マルチコアファイバ113の突出代のばらつきを考慮して、全てのマルチコアファイバ113同士を接触させ、かつ、マルチコアファイバ113の全てのコア同士がフィジカルコンタクトする条件は、フェルールに加える押圧力をFpとすると、(5)式で表される。
(Fp−F1)/n≧Fpc・・・(5)
【0179】
なお、マルチコアファイバ113の先端にかける押圧力Fpcを大きくしていくと、コア同士をフィジカルコンタクトさせることが可能であるが、マルチコアファイバ113の先端に付与できる押圧力には限界がある。実際には、マルチコアファイバ113の一本あたりに付与可能な押圧力は4N程度である。マルチコアファイバ113の1本当たりの押圧力が4Nを超えると、先端の破損の恐れがある。すなわち、Fpc(N)=4nと表される。
【0180】
したがって、(3)式に対して、マルチコアファイバ113のヤング率E=71.5GPa、ポアソン比ν=0.14、α=1.39を代入すると、(6)式で表される。
(Δ
1+Δ
2)(μm)≦29.6/a・・・(6)
【0181】
また、Δ
1とΔ
2が同じΔであるとすると、(7)式の条件を満たせば、全てのコアについてフィジカルコンタクトさせることができる。
Δ(μm)≦14.8/a・・・(7)
ここで、例えば、a=50μmの場合には、Δ(μm)≦0.296μm≒0.3μmの条件を満たすことで、全てのコアについてフィジカルコンタクトさせることができることとなる。
【0182】
さらに、マルチコアファイバ113の一本あたりに付与可能な押圧力を、実現性や測定の可能性を考慮して2N程度であるとすれば、(8)式の条件を満たすことがより望ましい。
Δ(μm)≦10.3/a・・・(8)
【0183】
次に、前述したフェルール103からのマルチコアファイバ113の突出代のばらつきを考慮した押圧力F1について、より詳細に検討する。
図30は、マルチコアファイバ113同士を対向して配置した状態を示す概念図である。
【0184】
多心コネクタ100を製造する際、マルチコアファイバ113の端面を前述した突き出し研磨を行ったり、レーザカッタなどによって切断した場合には、図示した様に、マルチコアファイバ113の突出高さが階段状に略等間隔で変化する形態になりやすい。したがって、以下、
図30に示したステップ型のモデルを用いて検討する。
【0185】
なお、このようなモデルは、F1が最も大きくなる条件(1心のみ突出高さが小さい場合)と、理想条件(全ての突出高さが同じ)の中間の条件と言える。また、図では、最も突出高さの小さなマルチコアファイバ同士を突き合わせるため、より、悪い条件でのモデルと言える。
【0186】
それぞれのフェルール103からの突出高さの最大と最小の差をδh
1、δh
2とする。すると、前述した[数1]より、F1は、(9)式となる。
F1=AE・(n/2)・(δh
1+δh
2)/2l・・・(9)
【0187】
ここで、δh
1=δh
2=δhの場合、F1は、(10)式となる。
F1=AE・(n/2)・(δh/l)・・・(10)
【0188】
また、マルチコアファイバ113の断面積Aは、πd
2/4であるので、F1は、(11)式となる。
F1=(πE/8)・(δh・d
2・n/l)・・・(11)
【0189】
ここで、(5)式より、F1+nFpc≦Fpの場合に、全てのコアのフィジカルコンタクトが達成される。この際、マルチコアファイバ113同士を押圧可能な押圧力Fpは、コネクタ内部の弾性部材によって決定される。すなわち、Fpは、弾性部材によって得られる実効押圧力以下となる。ここで、実効押圧力とは、弾性部材によって発生可能な弾性力の80%の押圧力とする。すなわち、弾性部材が弾性変形可能範囲で変形した際、最大変位の80%の変位における押圧力とする。
【0190】
したがって、弾性部材の実効押圧力をXとし、F1とFpcを代入すると、上式は、(12)式となる(但しαは考慮せず)。
(πE/8)・(δh・d
2・n/l)+(8aEΔn)/(3(1−ν
2))≦X・・・(12)
【0191】
ここで、前述した様に、マルチコアファイバ113の一本あたりに付与可能な押圧力を、実現性や測定の可能性を考慮して2Nであるとし、Fpc=2(N)(Δ=10.3/a)を代入すると、(12)式は、(13)式で表される。
(πE/8)・(δh・d
2・n/l)+2n≦X・・・(13)
【0192】
したがって、ヤング率E=71.5GPaを代入し、(13)式を整理すると、(14)式となる。
δh・d
2/l≦(X/n−2)×35.2・・・(14)
【0193】
このように、(14)式を満たす場合には、確実に全てのマルチコアファイバ113のフィジカルコンタクトを取ることができる。言い換えれば、(14)式を満たすように、コネクタの設計を行う必要がある。
【0194】
なお、コネクタハウジングの強度を考慮すると、Xは最大で40N程度であると考えられる。また、従来のコネクタに持ちられている弾性部材を考慮すれば、Xはおおよそ22N程度であると言える。したがって、上記Xに対して、(14)式を満たすように、δhやlを設定する必要がある。
【0195】
次に、多心コネクタ100の製造方法について説明する。前述した様に、突き出し研磨によって、マルチコアファイバ113をフェルール103から突出してもよいが、本発明では以下のようにしてマルチコアファイバ113を突出させてもよい。まず、
図31(a)に示すように、フェルール103の接続方向(マルチコアファイバ113先端の突出方向)に突き当て部材133を配置し、フェルール103に突き当てる(図中矢印I)。突き当て部材133は、例えば、ガイドピン115と嵌合するガイド孔を有し、マルチコアファイバ113の突出範囲に凹部135が形成された部材である。
【0196】
図31(b)に示すように、突き当て部材133をフェルール103に突き当てると、フェルール103の端面と突き当て部材133との間に凹部135によるクリアランスが形成される。ここで、フェルール103の先端方向にマルチコアファイバ113を押し込むことで、それぞれのマルチコアファイバ113の先端が突き当て部材133に突き当たる。したがって、凹部135に応じた所定の突出高さで、マルチコアファイバ113の先端をフェルール103の端面から突出させることができる。
【0197】
この状態で、固定部111(
図23等)によってマルチコアファイバ113とフェルール103とを接合する。例えば、固定部111の配置される部位に、接着剤を塗布し、固定部111を押し付ければよい。
【0198】
さらに、その後、マルチコアファイバ113のフェルール103からの突出高さを研磨によって揃えてもよい。または、マルチコアファイバ113のフェルール103からの突出高さをレーザカッタによる切断によって揃えてもよい。このようにすることで、前述した様に、マルチコアファイバ113の突出高さが、ステップ状に略等間隔に形成することができる。
【0199】
また、この他にも、マルチコアファイバ113のフェルール103からの突出高さをケミカルエッチングによって揃えることもできる。このように、本発明では、いずれの方法でマルチコアファイバ113のフェルール103からの突出高さを揃えてもよい。このような方法によれば、突出高さhを、突き当て部材133の凹部135の深さによって制御することができる。
【0200】
以上、本実施の形態によれば、マルチコアファイバ113がフェルール103の孔107には接着されず、孔107の後方で固定されるため、マルチコアファイバ113の弾性変形可能長lを長くすることができる。このため、フェルール103の端面からのマルチコアファイバ113の突出高さにばらつきがある場合でも、より小さな力でこのばらつきを吸収することができる。
【0201】
また、突出代差Δ(μm)≦14.8/aとすることで、接続対象とのフィジカルコンタクトを確実に確保することが可能なコネクト構造を得ることができる。また、突出高さhを十分に確保することで、マルチコアファイバ113の先端の接続部に対して、フェルール103の端面のフィラー117等による影響を抑制することができる。
【0202】
また、δh・d
2/l≦(X/n−2)×35.2を満たすことで、確実に全てのマルチコアファイバ113のフィジカルコンタクトを取ることができる。このように、マルチコアファイバ113を接続対象と突き合せた際に、マルチコアファイバ113を座屈させずに弾性圧縮歪によって接続対象に押圧することができる。
【0203】
また、突き当て部材133を用いることで、マルチコアファイバ113の先端を容易に所定量だけフェルール103の端面から突出させることができる。このため、突き出し研磨のみでマルチコアファイバ113の突出高さhを形成する場合と比較して、マルチコアファイバ113の研磨ダレを小さくすることができる。また、さらに、その後、研磨やレーザカッタでの切断、またはケミカルエッチングを行うことで、フェルール103の端面からのマルチコアファイバ113の突出高さにばらつきを小さくすることができる。
【0204】
なお、本発明にかかるコネクタ接続構造は、多心コネクタ100同士が接続される場合のみではなく、接続される少なくとも一方のコネクタが、多心コネクタ100のコネクタであればよい。例えば、多心コネクタ100と接続される他のコネクタは、従来通り、マルチコアファイバ113とフェルール103の孔107とを接着してもよい。
【0205】
この場合、
図32に示すように、多心コネクタ100(図中右側)と、接続対象の他のコネクタのうち、他のコネクタの突出高さh
1、突出代差Δ
1をほぼ0としてもよい。このような突出高さh
1、突出代差Δ
1がほぼ0のマルチコアファイバ113の端面形状は、フェルール103を、平坦研磨することで得ることができる。平坦研磨としては、例えば、定盤上に研磨シートなどを配置して、マルチコアファイバ113の先端部を、マルチコアファイバ113の長手方向に対して垂直に研磨すればよい。すなわち、バフ等を用いずに研磨を行う。
【0206】
このように平坦研磨を行うことで、製造性が良好である。また、突出代差Δ
1がほぼ0であるため、前述したFpcを小さくすることができる。
【0207】
なお、この場合、多心コネクタ100のマルチコアファイバ113の突出代差Δ
2がΔ
2(μm)≦29.6/aを満たせばよく、より望ましくは、Δ
2(μm)≦20.6/aを満たせばよい。
【0208】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。