特許第6097997号(P6097997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097997
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20170313BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20170313BHJP
【FI】
   B41M3/14
   B42D15/10 300
【請求項の数】2
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-242485(P2013-242485)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-100977(P2015-100977A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−126028(JP,A)
【文献】 特開2009−090531(JP,A)
【文献】 特開2007−106116(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139396(WO,A1)
【文献】 特開2015−074159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B42D 25/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に印刷画像領域を備え、
前記印刷画像領域は、第一の印刷層の上に第二の印刷層が積層して成り、
前記第一の印刷層は、正反射光下で明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を備えた盛り上がりを有する蒲鉾状要素が第一の方向に第一のピッチで複数配置された蒲鉾状要素群を有し、
前記第二の印刷層は、前記蒲鉾状要素の正反射光下における色彩と異なる色彩を有したIP画線群及びカモフラージュ画線群とを有し、
前記IP画線群は、基画像を分割して圧縮したそれぞれ形状が異なるIP画線が前記第一の方向に前記第一のピッチで複数配置されて成り、
前記カモフラージュ画線群は、前記基画像と異なる画像のカモフラージュ情報を分割したカモフラージュ画線を前記第一の方向に前記第一のピッチで複数配置して成り、
前記IP画線群と前記カモフラージュ画線群は、前記第一の方向に交互に重なり合うことはなく配置され、
正反射光下で特定の観察角度で観察した場合には、前記基画像が出現し、正反射光領域の範囲内で観察角度を変化させると前記基画像が動的に視認される中で、前記基画像が消失した際に前記カモフラージュ情報が出現することを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
基材上の少なくとも一部に印刷画像領域を備え、
前記印刷画像領域は、第一の印刷層の上に第二の印刷層が積層して成り、
前記第一の印刷層は、正反射光下で明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を備えた盛り上がりを有する画素状の曲面状要素が第一の方向及び第一の方向に交差する第二の方向に市松模様状に複数配列されて成り、
前記第一の方向に隣り合う前記曲面状要素同士に対し、斜め方向に隣り合う前記曲面状要素は、前記第一の方向に隣り合う前記曲面状要素同士の間の前記第一の方向における中心の位相と、前記斜め方向に隣り合う前記曲面状要素の前記第一の方向における中心の位相とが一致し、更に、前記第一の方向に隣り合う前記曲面状要素と、前記斜め方向に隣り合う前記曲面状要素は、前記第一の方向に重複領域を有して配置され、
前記斜めに隣り合う前記曲面状要素同士は、前記第一の方向に第一のピッチでずれて配置され、前記第一のピッチが、前記曲面状要素の前記第一の方向における長さ以下であって、
前記第二の印刷層は、前記曲面状要素の正反射光下における色彩と異なる色彩を有したIP画線群及びカモフラージュ画線群とを有し、
前記IP画線群は、基画像を分割して圧縮したそれぞれ形状が異なるIP画線が前記第一の方向に前記第一のピッチで複数配置されて成り、
前記カモフラージュ画線群は、前記基画像と異なる画像のカモフラージュ情報を分割したカモフラージュ画線を前記第一の方向に前記第一のピッチで複数配置して成り、
前記IP画線群と前記カモフラージュ画線群は、前記第一の方向に交互に重なり合うことはなく配置され、
正反射光下で特定の観察角度で観察した場合には、前記基画像が出現し、正反射光領域の範囲内で観察角度を変化させると前記基画像が動的に視認される中で、前記基画像が消失した際に前記カモフラージュ情報が出現することを特徴とする潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポ−ト、有価証券、身分証明書、カ−ド、通行券等の貴重印刷物の分野において、正反射光下で画像の色彩が大きく変化して、動いているように見える潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポ−ト、有価証券、身分証明書等に代表されるセキュリティ印刷物には、複製や偽造を防止するために、偽造防止技術が必要とされている。また、偽造防止技術の中でも、すかしやホログラム等に代表される、道具を必要とせず、印刷物を手にした全ての人が真偽判別に利用できる偽造防止技術が特に必要とされている。
【0003】
この中でも、画像が動いて見える、いわゆる「動画的な視覚効果」を備えた偽造防止技術が特に注目されている。画像が動いて見える動画的な視覚効果(以下、「動画効果」という。)は、人目を惹きやすく、また偽造することが困難であることから、近年、セキュリティ印刷物の真偽判別要素として多く用いられる傾向にある。動画効果を実現可能な公知技術としてホログラム、パララックスバリアやレンチキュラー等を用いた技術が存在し、これらの技術が備える、わずかな角度変化で画像を変化させられるという特徴を活かして、画像が立体的に視認できる効果や、動画効果を備えたセキュリティ印刷物は、すでに広く存在している。
【0004】
しかし、一般的なパララックスバリアやレンチキュラーを用いて動画的効果を実現した場合、クリア層かレンズが必要となることから、基材がほぼプラスティックに限定される上、印刷物には一定の厚み(少なくとも150μm程度)が必要となり、一般に流通する印刷物に許される厚さを超えるため、厚さに制限のある印刷物には用いることができず、一定の厚みが許されるプラスティック製カード以外には採用されない傾向にある。また、ホログラムは極めて薄く仕上げることは可能であり、銀行券を代表とする各種セキュリティ印刷物に用いられているものの、一般的な印刷物と比較すると、製造工程の複雑さと高い製造コストに大きな問題がある。
【0005】
以上の問題を解決するため、本出願人は、高い光沢及び盛り上がりを有する蒲鉾状の画線に光が入射した場合に、盛り上がりを有する蒲鉾状の画線のうち、入射する光と法線を成す面のみが強く光を反射する現象を利用した、立体効果及び動画効果を形成することが可能な印刷技術をすでに出願している。特許文献1に記載の技術は、インテグラルフォトグラフィと呼ばれる立体画像の撮像方法によって得られる画像を画像処理によって形成したもので、特許文献1に記載の技術同様に優れた動画効果を実現できる技術である。これらの技術は、パララックスバリアやレンチキュラーの10分の1程度の厚さで形成することが可能であって、製造技術も従来からある製版技術と印刷技術を活用することで容易に実施可能であり、かつ、一般的な印刷物と同じコストで動画効果を備えた印刷画像を形成することができるという優れた特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−126028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は入射した光を強く正反射する特性を有し、かつ、盛り上がりを有した蒲鉾状の画線や画素で形成された蒲鉾状画線群の上に、基画像を分割、圧縮して形成した潜像画線群(本発明でいうIP画線群)を重ね合わせて形成する技術であり、正反射光下で蒲鉾状画線群と潜像画線群が干渉することで潜像として基画像が出現し、印刷物の傾きを変化させることで基画像が動いて見える効果を有する技術である。この技術は動画効果に特に優れた技術であり、出現した基画像は連続的にスムーズに動くことを特徴とするが、その一方で蒲鉾状画線群と潜像画線群の重ね合わせの位置が適正な位置からずれて形成された場合には、出現する基画像がある特定の位置から全く異なる位置へと突然位相を変化させる(以下、本明細書内のおいてこの現象を「ジャンプ」という。)現象が生じ、観察者に違和感を生じさせてしまうという問題があった。
【0008】
この問題について以下に具体的に説明する。図27に示すのは、蒲鉾状画線群と潜像画線群の重ね合わせの位置関係が適正である場合の正反射光下での基画像の動きを示した図である。図27の例では、それぞれの潜像画線のA側の端からA´側の端に向かって順に、基画像がA→B→C方向に動く連続した画像情報の一部が付与されている。特許文献1の技術は、潜像画線の画像情報が一部サンプリングされることで基画像が可視化され、傾きを変化させることで、潜像画線の画像情報がサンプリングされる位置が変化し、それによって出現する基画像の位相が変化する構成である。そのため、図27(a)に示すように、一つの蒲鉾状画線に対して、一つの潜像画線が一対で対応した適正な重ね合わせの位置関係が構成されている場合には、図27(b)から図27(c)をへて図27(d)へと潜像印刷物の傾きを変化させた場合、それぞれの潜像画線の画像情報をサンプリングされる位置は、蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って潜像画線のA側から潜像画線のA´側へ移動するため、その結果再生される基画像はそれぞれの画像情報に対応してAからBを経てCの位置へと、同じ左(A´→A)方向に移動する。これがこの技術の基画像の最も望ましい動き方の一例である。
【0009】
一方、図28に示すのは、蒲鉾状画線群と潜像画線群の重ね合わせの位置関係が適正な状態からずれた場合の正反射光下での基画像の動きを示した図である。図28の例でも、図27の例と同様にそれぞれの潜像画線のA側の端からA´側の端に向かって順に、基画像がA→B→C方向に動く連続した画像情報の一部が付与されている。しかし、図28(a)の例では、図27(a)とは異なり、一つの蒲鉾状画線に対して、二つの別の潜像画線が配された位置関係で構成されている。この潜像印刷物に対して、図28(b)から図28(c)をへて図28(d)へと傾きを変化させた場合、それぞれの潜像画線のサンプリングされる位置は、蒲鉾状画線の画線表面の盛り上がりに沿って変化するが、蒲鉾状画線の画線表面には二つの別の潜像画線が配置されているため、まず蒲鉾状画線のA側の画線表面に重ねられた潜像画像の情報が再生され、一旦ブランクを挟んで蒲鉾状画線のA´側の画線表面に重ねられた別の潜像画像の情報が再生される。そのため、まず基画像はCの位置に出現して左方向へと少し移動したのち、一旦完全に消失し、そののち再びAの位置に出現する。これが「ジャンプ」と呼ばれる現象であり、適正な一つの蒲鉾状画線に対して二つの別の潜像画線が重なった場合に生じる。
【0010】
この「ジャンプ」現象を避けるためには、蒲鉾状画線群と潜像画線群とが一対に重なるように刷り合わせを制御する必要があるが、蒲鉾状画線群と潜像画線群とは別々の印刷方式の印刷機で形成される場合がほとんどであり、この場合、蒲鉾状画線群と潜像画線群の刷り合わせを正確に合わせることは難しく、「ジャンプ」現象を完全に無くすことは困難であった。そのため、「ジャンプ」現象によって生じる違和感を低減させるために、潜像画線群の中に同じ基画像を別の場所にも複数配置した「散らし模様」と呼ばれる画像構成を用い、かつ、それぞれの基画像の第一の方向への位相をわずかずつずらし、いずれかの基画像に「ジャンプ」が生じた場合でも、それ以外の基画像は「ジャンプ」していない状態を作り出し、必ずいずれかの基画像が動いている効果を見せることで「ジャンプ」への違和感を低減する構成を用いることが一般的であった。しかし、この「散らし模様」の構成では印刷画像中に基画像を複数配置する必要があり、印刷画像として大きな面積を必要とするため、製品デザイン上の大きな制約となることがあった。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、正反射光下で出現する基画像の「ジャンプ」現象による違和感を低減させることを目的とし、観察者が「ジャンプ」現象を認識し難い潜像印刷物を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の潜像印刷物は、基材上の少なくとも一部に印刷画像領域を備え、印刷画像領域は、第一の印刷層の上に第二の印刷層が積層して成り、第一の印刷層は、正反射光下で明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を備えた盛り上がりを有する蒲鉾状要素が第一の方向に第一のピッチで複数配置された蒲鉾状要素群を有し、第二の印刷層は、蒲鉾状要素の正反射光下における色彩と異なる色彩を有したIP画線群及びカモフラージュ画線群とを有し、IP画線群は、基画像を分割して圧縮したそれぞれ形状が異なるIP画線が第一の方向に第一のピッチで複数配置されて成り、カモフラージュ画線群は、基画像と異なる画像のカモフラージュ情報を分割したカモフラージュ画線を第一の方向に第一のピッチで複数配置して成り、IP画線群とカモフラージュ画線群は、第一の方向に交互に重なり合うことはなく配置され、正反射光下で特定の観察角度で観察した場合には、基画像が出現し、正反射光領域の範囲内で観察角度を変化させると基画像が動的に視認される中で、基画像が消失した際にカモフラージュ情報が出現することを特徴とする。
【0013】
本発明の潜像印刷物は、基材上の少なくとも一部に印刷画像領域を備え、印刷画像領域は、第一の印刷層の上に第二の印刷層が積層して成り、第一の印刷層は、正反射光下で明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を備えた盛り上がりを有する画素状の曲面状要素が第一の方向及び第一の方向に交差する第二の方向に市松模様状に複数配列されて成り、第一の方向に隣り合う曲面状要素同士に対し、斜め方向に隣り合う曲面状要素は、第一の方向に隣り合う曲面状要素同士の間の第一の方向における中心の位相と、斜め方向に隣り合う曲面状要素の第一の方向における中心の位相とが一致し、更に、第一の方向に隣り合う曲面状要素と、斜め方向に隣り合う曲面状要素は、第一の方向に重複領域を有して配置され、斜めに隣り合う曲面状要素同士は、第一の方向に第一のピッチでずれて配置され、第一のピッチが、曲面状要素の第一の方向における長さ以下であって、第二の印刷層は、曲面状要素の正反射光下における色彩と異なる色彩を有したIP画線群及びカモフラージュ画線群とを有し、IP画線群は、基画像を分割して圧縮したそれぞれ形状が異なるIP画線が第一の方向に第一のピッチで複数配置されて成り、カモフラージュ画線群は、基画像と異なる画像のカモフラージュ情報を分割したカモフラージュ画線を第一の方向に第一のピッチで複数配置して成り、IP画線群とカモフラージュ画線群は、第一の方向に交互に重なり合うことはなく配置され、正反射光下で特定の観察角度で観察した場合には、基画像が出現し、正反射光領域の範囲内で観察角度を変化させると基画像が動的に視認される中で、基画像が消失した際にカモフラージュ情報が出現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の潜像印刷物では基画像が動きの終点に達して消失した瞬間にカモフラージュ情報が一旦出現し、また、カモフラージュ情報が消失した瞬間に基画像が消失した地点とは別の位置に再び現れる。すなわち基画像の位相が一気に変化する「ジャンプ」現象自体は生じているものの、「ジャンプ」する瞬間に基画像とは別の画像が一旦出現するため、視認される画像がチェンジすることに意識が集中し、基画像の位置が変わったことに気が付かない。これによって「ジャンプ」現象を観察することによる違和感が生じなくなった。また、動画効果に加えて、画像のチェンジ効果も備えるため、従来の動画効果しか備えない技術と比較して画像の変化に富み、真偽判別性及び偽造抵抗力ともに向上した。
【0015】
「ジャンプ」現象の発生を避けるために、蒲鉾状画線群と潜像画線群とを一対に重なるように刷り合わせを制御する必要がなくなった。これによって、製造難度が大きく低下し、より製造しやすくなった。
【0016】
本発明の潜像印刷物はホログラムのように専用の作製装置や機械は必要とせず、一般的な機能性材料と、既存の印刷機を用いることで作製可能であり、また、特に高い刷り合わせ精度も要求しないことから生産が容易であり、コストパフォーマンスが高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は本発明における潜像印刷物の正面図を示し、(B)は側面図を示す。
図2】本発明における潜像印刷物の構成の概要を示す。
図3】本発明における第一の印刷層を示す。
図4】本発明における第二の印刷層の構成を示す。
図5】本発明におけるIP画線群を示す。
図6】本発明におけるIP画線の構成と作製方法を示す。
図7】本発明におけるカモフラージュ画線群を示す。
図8】本発明における蒲鉾状要素とIP画線及びカモフラージュ画線の重ね合わせの位置関係の一例を示す。
図9図8の本発明における潜像印刷物の傾きを変えて観察した場合の効果を示す。
図10】本発明における蒲鉾状要素とIP画線及びカモフラージュ画線の重ね合わせの位置関係の一例を示す。
図11図10の本発明における潜像印刷物の傾きを変えて観察した場合の効果を示す。
図12】(A)は本発明における潜像印刷物の正面図を示し、(B)は側面図を示す。
図13】本発明における潜像印刷物の構成の概要を示す。
図14】本発明における第一の印刷層を示す。
図15】本発明における第一の印刷層の具体的な構成を示す。
図16】本発明における第二の印刷層の構成を示す。
図17】本発明における蒲鉾状要素とIP画線及びカモフラージュ画線の重ね合わせの位置関係の一例を示す。
図18図17の本発明における潜像印刷物の傾きを変えて観察した場合の効果を示す。
図19】本発明における蒲鉾状要素とIP画線及びカモフラージュ画線の重ね合わせの位置関係の一例を示す。
図20図19の本発明における潜像印刷物の傾きを変えて観察した場合の効果を示す。
図21】(A)は本発明における潜像印刷物の正面図を示し、(B)は側面図を示す。
図22】本発明における潜像印刷物の構成の概要を示す。
図23】本発明における第一の印刷層を示す。
図24】本発明における第二の印刷層の構成を示す。
図25】本発明における蒲鉾状要素とIP画線及びカモフラージュ画線の重ね合わせの位置関係の一例を示す。
図26図25の本発明における潜像印刷物の傾きを変えて観察した場合の効果を示す。
図27】従来の技術における問題点を示す。
図28】従来の技術における問題点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0019】
第一の実施の形態では、蒲鉾状要素(8)が画線形状である場合の構成について説明する。図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。
【0020】
潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像領域(3)が形成されて成る。基材(2)は印刷画像領域(3)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像領域(3)は、いかなる色彩であっても良く、また透明や半透明であっても良い。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
【0021】
本発明の印刷画像領域(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像領域(3)は、第一の印刷層(4)及び第二の印刷層(5)から成る。積層順としては、第一の印刷層(4)の上に第二の印刷層(5)が重なって成る。また、第二の印刷層(5)はIP画線群(6)とカモフラージュ画線群(7)を有する。
【0022】
まず、第一の印刷層(4)について具体的に説明する。図3に示すのは第一の印刷層(4)であり、盛り上がりを有する、特定の画線幅(W1)の蒲鉾状要素(8)が第一の方向(図中S1方向)に第一のピッチ(P1)で複数配置されることで形成された蒲鉾状要素群(15)を備えて成る。第一の印刷層(4)の中には、蒲鉾状要素群(15)以外の画像も構成し得るが、第一の実施の形態において、第一の印刷層(4)の中には蒲鉾状要素群(15)のみが存在するため、本例においては第一の印刷層(4)と蒲鉾状要素群(15)は同じである。以下、蒲鉾状要素群(15)は、第一の印刷層(4)として説明する。
【0023】
図3において、蒲鉾状要素(8)の中に縦縞の線が複数配列されているように示されているが、これは他の線と区別するためのパターンであり、実際には単純な一本の線である(以下、他の画線も同様。)拡散反射光下において、蒲鉾状要素(8)の色彩は問わず、いかなる色彩であっても良く、透明であっても半透明であっても良い。
【0024】
また、蒲鉾状要素(8)は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、正反射光下では強い反射光を発する特性を有する必要がある。本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度が変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、あるいは白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。
【0025】
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。蒲鉾状要素(8)は、以上のような光学特性を備える必要がある。
【0026】
それぞれの蒲鉾状要素(8)には一定の盛り上がり高さが必要であり、少なくとも3μm以上の盛り上がり高さを有することが好ましい。3μmより低い高さで形成した場合でも、要素のピッチを狭く形成することで本発明の効果を再現することは可能であるものの、潜像画像の視認性が極端に低くなったり、前述のように出現する潜像画像がぼやけた感じで再生されたりする場合が多いため好ましい形態とはいえない。また、盛り上がりの高さの上限に関しては性能上の上限は存在しないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適正等を考慮し50μm以下とする。
【0027】
本発明における第一の印刷層(4)は、構成する要素に盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷、インクジェットプリンタ等で形成してもよい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材上に凹凸構造を形成して、その上に印刷被膜を形成したり、フィルムを貼付して第一の印刷層(4)としたりしてもよい。
【0028】
また、蒲鉾状要素(8)に高いカラーフリップフロップ性を付与したい場合には、蒲鉾状要素(8)の画線の表面にカラーフリップフロップ性を有する顔料が揃って配向していることが望ましい。このような状態は一般にリーフィングと呼ばれ、優れたリーフィング効果を得る方法としては、例えば特開2001−106937号公報に記載の技術のように顔料に撥水及び撥油性を付与する方法がある。この方法を用いた場合には、蒲鉾状要素(8)が正反射光下で発する反射光の色彩をより豊かにすることができるため望ましい。前述のようなリーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料を単一のインキ中に配合した場合、単一のインキで印刷したにも関わらず、リーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料が蒲鉾状要素(8)の上層と下層に別々の層構造を形成するため、あたかも着色インキ層と機能性顔料層を別々のインキで印刷した場合と同等の、極めて高いカラーフリップフロップ性を発揮するため、特に有効である。
【0029】
次に、第二の画像(5)について具体的に説明する。図4に示すのは、第二の印刷層(5)であり、第二の印刷層(5)は、図5に示すIP画線群(6)と、図7に示すカモフラージュ画線群(7)とを有し、それぞれの画線が重なり合わないように第一の方向(S1方向)に位相をずらして交互に配置されることで構成されて成る。第二の印刷層(5)を構成するすべての画線には、盛り上がり高さは特に必要ない。
【0030】
まず、第二の印刷層(5)を構成する二つの画線群のうち、IP画線群(6)について説明する。なお、IP画線のIPとは、Integral Photographyの略であり、古典的な立体画像の形成方法の略である。本技術の潜像を構成する画線群の基本的な構造がこの古典的な立体画像の形成方法から得られる画線構造に似ているため、この呼称を用いている。図5に示すIP画線群(6)は、特定の画線幅(W2)を有し、それぞれ形状の異なるIP画線(9)が特定のピッチP1で第一の方向(S1方向)に複数配されて成る。このIP画線群(6)と蒲鉾状要素群(15)が干渉することによって、本発明の特徴である正反射光下で動く画像が出現する効果が生じる。なお、IP画線(9)や後述するカモフラージュ画線(10)とは、黒く塗りつぶされた画像のみをさすのではなく、画像が存在し無い空白も含んだ一定の大きさの領域全体を指す。本IP画線群(6)の具体的な構成と作製方法について図6を用いて説明する。
【0031】
図6に示すのは、正反射光下で動画効果を有する潜像画像として出現させようと製作者が意図する画像、すなわち基画像(11)である。この基画像(11)は文字や数値、記号、マーク、図形等であってもよく、何らかの任意の情報を表せば良い。第一の実施の形態における基画像(11)は、桜の花びらの画像である。また、本例では基画像(11)として階調表現の乏しい二値画像を用いたが、写真や顔画像のような階調画像を用いても良い。この基画像(11)を以下の手順でIP画線化する。
【0032】
基画像(11)を選定したら、基画像(11)の第一の方向(S1方向)の幅よりも短い幅(W3)、第一の方向と直交する第二の方向(S2方向)の基画像(11)の高さよりも長い高さ(H)の大きさのフレーム(12)を基画像(11)に対して当てはめ、フレーム内に含まれた基画像(11)のみを取り出して、特定の画線幅(W2)に圧縮する。W2をW3で割った値を圧縮率と呼ぶ。この圧縮率が小さければ小さいほど潜像画像として出現する基画像(11)の動きの大きさと速さ、遠近感等は大きくなる。
【0033】
一つのIP画線(9i)が完成したら、続いて、基画像(11)に対するフレームの位置を第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけずらして、再びフレーム内に含まれた基画像(11)のみを取りだして、特定の画線幅(W2)に圧縮する。出来上がったIP画線(9i+1)は、先のIP画線(9i)から第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)だけ平行移動させた位置に配置する。この作業をフレーム(12)内に基画像(11)が含まれない位置までフレーム(12)が第一の方向(S1方向)に移動するまで続けることによって、IP画線群(6)が完成する。隣り合うIP画線(9)同士は、基画像(11)に対してフレーム(12)を当てはめる位置が第一の方向(S1方向)に特定のピッチ(P1)分だけずれた画像を圧縮して成るため、それぞれのIP画線(9)はわずかずつ異なっている。
【0034】
なお、このIP画線群(6)の作製方法とその構成、また圧縮率を変化させることで生じる効果等は、特開2011−126028号公報に記載のとおりであり、特開2011−126028号公報記載の様々な構成を応用しても良い。
【0035】
続いて、カモフラージュ画線群(7)について説明する。カモフラージュ画線群(7)とは、潜像画像として出現させたいと意図するカモフラージュ情報を特定の画線で分断して表現した画線群である。図7に示すように、「JAPAN」の文字と日の丸をデフォルメした模様が第一の実施の形態におけるカモフラージュ情報であり、このカモフラージュ情報を特定の画線幅(W4)の画線を特定のピッチ(P1)で連続して配置することによってカモフラージュ画線群(7)を構成して表現している。
【0036】
本発明のカモフラージュ情報とは文字や数値、記号、マーク、図形等であってもよく、任意の情報を表せば良い。また、本例ではカモフラージュ情報として階調表現の乏しい二値画像を用いたが、写真や顔画像のような階調画像を用いても良い。詳細な構成や作製方法は、特許第4682283号公報や特許第4660775号公報に記載の事項を応用しても良い。また、カモフラージュ情報に別の基画像(11)を分断して圧縮した別のIP画線をカモフラージュ画線(10)としても良い。
【0037】
なお、IP画線(9)の画線幅(W2)と、カモフラージュ画線(10)の画線幅(W4)は、蒲鉾状要素(8)と蒲鉾状要素(8)の間に存在する非画線の幅(P1−W1)よりも大きいことが望ましい。これは、蒲鉾状要素(8)と蒲鉾状要素(8)の間に存在する非画線の中にIP画線(9)やカモフラージュ画線(10)が完全に入り、蒲鉾状要素(8)の上に重ならなかった場合、それらの画線は潜像画像として正反射光下で出現することができないためである。
【0038】
以上のような構成のIP画線群(6)及びカモフラージュ画線群(7)を有する第二の印刷層(5)は、正反射光下で蒲鉾状要素(8)が発する色彩と異なる色彩である必要がある。この特性は、正反射光下で潜像画像を一定のコントラストで可視化させるために必要となる特性である。また、拡散反射光下で第二の印刷層は不可視であることが好ましいため、透明や半透明であるか、あるいは淡い色彩であることが望ましい。本明細書でいう半透明とは完全な透明ではないが、下地を完全に隠蔽しない程度の透過性を有する状態を指す。
【0039】
また、第二の印刷層(5)は、正反射光下において第二の印刷層(5)の下に存在する第一の印刷層(4)に光が入射するのを防ぎ、結果として印刷画像領域(3)内に反射光の強弱を作り出して潜像画像を出現させる働きを成すために、低光沢(マット)であるか、光遮断性に優れる特性を有することが望ましい。なお、第二の印刷層(5)には、蒲鉾状要素(8)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても問題ない。
【0040】
第二の印刷層は、特に盛り上がりは必須ではなく平坦な構造でよいが、盛り上がりを有していても良い。すなわち、オフセット印刷や凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷やスクリ−ン印刷等で形成してもよく、インクジェットプリンタやレーザープリンタ等で形成しても問題ない。
【0041】
以上のような構成の第一の印刷層(4)の上に、第二の印刷層(5)を重ね合わせて、本発明の潜像画像(1)を形成する。第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの位置関係が変化することで効果が変化するが、まず、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの最も望ましい位置関係と、その場合の効果及びその効果が生じる原理について説明する。図8に示すのは、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)が最も望ましい位置関係で重なり合った図である。図8に示すように、一つの蒲鉾状要素(8)の上にIP画線(9)及びカモフラージュ画線(10)がそれぞれ一つずつ重なる関係が最も望ましい第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの位置関係である。
【0042】
図8の位置関係で二つの印刷層が重なった場合の効果について図9に示す。拡散反射光下において、印刷画像領域(3)中には基画像(11)もカモフラージュ情報も出現せず、完全に不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において図9(a)のようにA辺側が上がって傾いた状態で観察した場合、蒲鉾状要素(8)の上のA辺側に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、カモフラージュ情報である「JAPAN」の文字が出現する。
【0043】
次に、正反射光下において図9(b)のように潜像印刷物(1)が水平な状態で観察した場合、蒲鉾状要素(8)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、蒲鉾状要素(8)の上の盛り上がり部分の頂点に存在するのはIP画線群(6)の画像情報のうち、A´辺側に基画像(11)が存在する情報であるため、基画像(11)がA´辺側に出現する。
【0044】
続いて、正反射光下において図9(c)のように潜像印刷物(1)のA´辺側が上がった状態で観察した場合、蒲鉾状要素(8)のA辺側に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、蒲鉾状要素(8)の上のA´辺側に存在するのはIP画線群(6)の画像情報のうち、A辺側に基画像(11)が存在する情報であるため、基画像(11)がA辺側に出現する。なお、図9(b)から図9(c)までの角度の間で基画像(11)の動きは連続しており、潜像印刷物(1)の傾きを変化させると、その変化に対応して連続的に基画像(11)が第一の方向に平行にスムーズに動く。
【0045】
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下では第一の印刷層(4)及び第二の印刷層(5)に直接入射する光が存在せず、強い正反射光を発することがないことから、基画像(11)及びカモフラージュ情報がサンプリングされることはなく、それぞれの画像は完全に不可視か、ほぼ不可視である。
【0046】
次に、正反射光下のある特定の観察角度においてカモフラージュ情報や基画像(11)が出現して、観察角度を変えることでそれぞれの画像がチェンジしたり、動いて見えたりする原理について説明する。第一の印刷層(4)を構成する蒲鉾状要素(8)は、カラーフリップフロップ性か、明暗フリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有することから、印刷画像領域(3)に光が入射した場合、蒲鉾状要素(8)は、光を強く正反射する。なお、蒲鉾状要素(8)は、立体的な盛り上がりを有するため、光が入射した場合、蒲鉾状要素(8)の画線表面全体が光を反射するのではなく、入射した光と法線を成す画線表面のみが強く光を反射する。また、それぞれの蒲鉾状要素(8)の画線表面にはカモフラージュ画線(10)や基画像(11)を第一の方向(S1)に圧縮したIP画線(9)が重なっており、第二の印刷層(5)を構成する各画線は、蒲鉾状要素(8)とは異なり、光を強く反射する特性を有さないため、入射した光と法線を成す蒲鉾状要素(8)の極めて狭い画線表面が光を反射する一方、その上に重なった第二の印刷層(5)の各画線が光の反射を抑制するため、蒲鉾状要素(8)上に反射光の強弱が生じる。結果として、入射した光と法線を成した、極めて狭い範囲の蒲鉾状要素(8)の上に重なった第二の印刷層(5)の情報のみが光の強弱によってサンプリングされて可視化される。蒲鉾状画線群(4)は、盛り上がりを有する蒲鉾状要素(8)がピッチP1で連続して配置されており、入射光と法線を成す画線表面は、ピッチP1おきに存在するため、結果として、蒲鉾状要素(8)の上に重なった第二の印刷層(5)のカモフラージュ画線(10)か、IP画線(9)がピッチP1の周期でサンプリングされて反射光の強弱によって可視化される。
【0047】
カモフラージュ画線群(7)はカモフラージュ画線(10)をピッチP1の周期で複数配置して成るため、カモフラージュ画線群(7)をピッチP1の周期でサンプリングした場合には、カモフラージュ情報が再生される。また、一方のIP画線群(6)は、IP画線(9)をピッチP1の周期で複数配置して成り、またそれぞれのIP画線(9)は基画像(11)の画像情報をそれぞれピッチP1ずつずらして圧縮した情報から構成されて成るため、IP画線群(6)をピッチP1の周期でサンプリングした場合には、基画像(11)が再生される。以上のように、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)が干渉することによって、カモフラージュ画線群(7)からはカモフラージュ情報がサンプリングされ、IP画線群(6)からは基画像(11)がサンプリングされる構造を有する。
【0048】
図9(a)から図9(b)、図9(c)のように、正反射光下で観察角度を変えた場合、潜像印刷物(1)に入射する光の角度が変化する。この場合、入射光と法線を成す蒲鉾状要素(8)の画線表面が、入射光の角度の変化と共に変わり、それに伴ってサンプリングされる第二の印刷層(6)の位相もずれる。仮に入射する光がカモフラージュ画線群(7)が重なった蒲鉾状要素(8)の画線表面に直交する角度で入射した場合には、カモフラージュ情報が再生され、IP画線群(6)が重なった蒲鉾状要素(8)の画線表面と直交する角度で入射した場合には基画像(11)が再生される。また、IP画線(9)とは、基画像(11)全体を第一の方向に圧縮した情報から成るが、この情報は、基画像(11)を第一の方向にフレームの幅分だけ移動させた画像情報にあたるため、潜像画線(7)に対してサンプリングする位相をずらした場合、再生される基画像(11)の位相は第一の方向に変化する。このため、正反射光下で観察角度を変えると出現した基画像(11)が第一の方向と平行に動く効果が生じる。
【0049】
以上が、正反射光下のある特定の観察角度においてカモフラージュ情報や基画像(11)が出現して、観察角度を変えることでそれぞれの画像がチェンジしたり、動いて見えたりする原理である。
【0050】
以上のように、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの最も望ましい位置関係であった場合には、従来の技術の問題であった「ジャンプ」現象は発生せず、カモフラージュ情報と基画像(11)が特定の観察角度でチェンジし、基画像(11)が出現した場合には観察角度の変化に伴って特定の角度(S1方向)へと連続的に動く効果が生じる。
【0051】
続いて、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの最も望ましい位置関係からずれた場合の効果について説明する。図10に示すのは、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)が最も望ましい位置からずれて形成されて例であり、一つの蒲鉾状要素(8)に、一つのカモフラージュ画線(10)と二つの別のIP画線(9A、9B)が重なった例である。
【0052】
図10に示す重ね合わせの位置関係で第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)を積層した場合に、本発明の潜像印刷物(1)において生じる効果について図11を用いて説明する。拡散反射光下において、印刷画像領域(3)中には基画像(11)もカモフラージュ情報も出現せず、完全に不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において図9(a)のようにA辺側が上がって傾いた状態で観察した場合、蒲鉾状要素(8)の上のA辺側に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、蒲鉾状要素(8)のA辺側に存在するのは二つのIP画線(9A、9B)のうち、9AのIP画線(9A)の情報であり、その情報とはA辺側に基画像(11)が存在する情報であるため、基画像(11)がA辺側に出現する。図11(a) に示す角度から図11(b)に示す水平な角度近くまで、潜像印刷物(1)を傾けた場合、基画像(11)はA辺よりへと動くが、A辺側の特定の場所(消失点)において突然不可視となる。
【0053】
次に、正反射光下において図11(b)のように潜像印刷物(1)が水平な状態で観察した場合、蒲鉾状要素(8)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、蒲鉾状要素(8)の上の盛り上がり部分の頂点に存在するのはカモフラージュ画線群(10)であるため、カモフラージュ情報が出現する。
【0054】
続いて、正反射光下において図11(c)のように潜像印刷物(1)のA´辺側が上がった状態まで傾けて観察した場合、蒲鉾状要素(8)のA´辺側に存在する第二の印刷層(5)の情報が再生される。すなわち、蒲鉾状要素(8)のA´辺側に存在するのは二つのIP画線(9A、9B)のうち、9BのIP画線(9B)の情報であり、その情報とはA´辺側に基画像(11)が存在する情報であるため、カモフラージュ情報が消失して基画像(11)がA´辺側に出現する。この場合、基画像(11)が出現する位置と、図11(a)において基画像(11)が不可視となった消失点とはその位相が大きく異なるが、観察者がそれを意識することはない。また、図11(a)や図11(b)に示すように、一旦基画像(11)が出現した場合には、潜像印刷物(1)の傾きを変化させると、その変化に対応して連続的に基画像(11)の位相が第一の方向と平行に基画像(11)が消失するまで動く。これらの効果が生じる原理については図9の例で説明した原理と同じであるため省略する。
【0055】
以上のように、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)の重ね合わせの最も望ましい位置関係から外れ、一つの蒲鉾状要素(8)に対して異なる別のIP画線(9A,9B)が重なった場合には、「ジャンプ」現象自体は生じるものの、基画像(11)が消失してから再び異なる位置に出現するまでに、一旦カモフラージュ情報が出現する。
【0056】
すなわち基画像の位相が一気に変化する「ジャンプ」現象自体は生じているものの、「ジャンプ」する瞬間に基画像(11)と違うカモフラージュ情報が一旦出現するため、「ジャンプ」が生じても画像がチェンジした(基画像が再び現れた)ことに意識が集中し、基画像(11)の位置が変わったことに気が付かない効果が生まれる。これによって観察者には、「ジャンプ」現象によって基画像(11)の位置が突然変化したことによる違和感が生じなくなった。
【0057】
この効果によって、従来の技術のように「ジャンプ」現象の発生を避けるために、第一の印刷層(4)と第二の印刷層(5)とを一対に重なるように刷り合わせを制御する必要がなくなり、製造難度が大きく低下する効果を得ることができる。
【0058】
第一の実施の形態において、正反射光下で出現するIP画線群(9)が一種類の基画像(11)から成る例で説明したが、複数の異なる基画像(11)から成っても良い。IP画線群(6)の具体的な構成については、特開2011−126028号公報に記載の様々な構成を用いることができる。
【0059】
第一の実施の形態において、第一の印刷層(4)の蒲鉾状要素(8)を単純な画線としたが、これに限定するものではなく、画素形状として単純に上下左右に等ピッチにマトリクス状に配置して第一の印刷層(4)としても良い。また、画素形状の蒲鉾状要素(8)を用いて、単純にマトリクス状に配置するのではなく、特殊な市松模様を形成する例については第二の実施の形態で説明する。また、第一の実施の形態においてすべての蒲鉾状要素(8)の画線幅を同じとしたが、20%を超えない範囲で画線幅を変え、第一の印刷層(2)の中に濃淡を作り出して有意情報を表現しても良い。
【0060】
本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位の小さな点である網点を特定の方向に一定の距離連続して配置した点線や破線の分断線、直線、曲線及び破線等を指し、少なくとも一つの印刷網点又は印刷網点を複数集めて一塊にした円や三角形、四角形を含む多角形、星形等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等を画素とする。
【0061】
なお、本明細書中で言う正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
【0062】
(第二の実施の形態)
続いて、第二の実施の形態として、第一の実施の形態では画線形状であった蒲鉾状要素(8)を円形の画素によって形成し、かつ、それらを特殊な市松模様状に配置した例であって、正反射光下において、第二の印刷層(5)内に含まれるIP画線群(6)及びカモフラージュ要素群(7)の画像情報が必ず再生される効果を担保できる形態について説明する。
【0063】
図12に、第二の実施の形態における潜像印刷物(1´)を示す。図12(a)に示すのは、潜像印刷物(1´)の正面図であり、図12(b)に示すのは、潜像印刷物(1´)のAA´ラインにおける断面図である。
【0064】
潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の上に、印刷画像領域(3´)が形成されて成る。基材(2´)は印刷画像領域(3´)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像領域(3´)は、いかなる色彩であっても良く、また透明や半透明であっても良い。また、基材(2´)の大きさについても、特に制限はない。
【0065】
本発明の印刷画像領域(3´)の構成の概要を図13に示す。印刷画像領域(3´)は、第一の印刷層(4´)及び第二の印刷層(5´)から成る。積層構成としては、第一の印刷層(4´)の上に第二の印刷層(5´)が重なって成る。また、第二の印刷層(5´)はIP画線群(6´)とカモフラージュ画線群(7´)を有する。
【0066】
第一の印刷層(4´)について具体的に説明する。図14に示すのは第一の印刷層(4´)であり、第一の印刷層(4´)は、盛りあがりを有する画素状の曲面状要素(8´)を所定の方向に、所定のピッチで複数配置して成る。第二の実施の形態における曲面状要素(8´)は、盛り上がりを有した円の形状を有しているが、この形状に限定されるわけではなく、曲面状要素(8´)の形状とは、断面が立体的な曲面形状、すなわち盛り上がりを有する構造であって、かつ、平面形状が少なくとも一つの特定の方向に対して左右対称な形状であれば如何なる形状であっても良い。中心が盛り上がりを有する半球形状のみならず、半楕円球、蒲鉾形状等の一定の曲率を持った左右対称な形状、三角柱、五角柱、六角柱等の多角柱などの立体的な曲面形状を有し、平面形状が円形状や楕円状等の曲線を有する形状、三角形、五角形、六角形等の多角形等であっても良い。なお、第一の印刷層(4´)を構成するすべての曲面状要素(8´)の三次元構造は相似形状である必要がある。
【0067】
第一の印刷層(4)は、曲面状要素(8´)が市松模様に準じた形状である「市松模様状に配列」して成る。本明細書中で言う「市松模様状に配列」とは、一般的な市松模様に似た構成の模様に配列された状態ではあるが、完全な市松模様で配列された状態とは異なる。「市松模様状に配列する」とは、具体的には「同じ形状の曲面状要素(8´)が市松模様のように所定のピッチで互い違いに配列され、特定の方向(実施の形態においては、第一の方向(S1))に隣り合う曲面状要素(8´)と曲面状要素(8´)の間の特定の方向の中間位置に、斜め上、斜め下に隣り合う曲面状要素(8´)の特定の方向の中心が位置する構成であって、かつ、それぞれの曲面状要素(8´)のいずれの辺や端部も互いに接することがない構成で配列した状態」を指す。その他、曲面状要素(8´)を構成する曲面状要素(8´)の配列において、この他に満たさなければならない条件については後述する。なお、実施の形態における具体的な構成の説明では、特定の方向を第一の方向(水平方向:図中S1方向)とし、特定の方向と直交する方向を第二の方向(垂直方向:図中S2方向)とする。なお、本実施の形態では、第一の方向を水平方向、第二の方向を垂直方向としているが、第一の方向と第二の方向は、交差する関係であれば任意の方向でよい。
【0068】
第一の印刷層(4´)は、第一の方向(図中S1方向)の要素長さがW1で、第二の方向(図中S2方向)の要素の長さがW2の大きさを有する円形の曲面状要素(8´)が第一の方向(S1)に特定のピッチ(P1)で、かつ、第二の方向(S2)に特定のピッチ(P2)で市松模様状に配列されて成る。また、曲面状要素(8´)は、如何なる色彩であっても良く、透明や半透明であっても良い。ピッチ(P1)とピッチ(P2)は、同じ値で有っても良いし、異なる値であっても良い。なお、印刷での画線再現性や、潜像画像に要求される画像解像度等を考慮すると、曲面状要素(8´)の第一の方向における長さ及び各ピッチ(P1、P2)ともに、0.05mmから5mmの範囲で形成することが望ましい。
【0069】
第一の印刷層(4´)を構成する曲面状要素(8´)の配列において、市松模様状の配列以外に、満たさなければならない条件について具体的に説明する。まず、曲面状要素(8 ´)を市松模様状に配列するほかに、少なくとも一つの特定の方向に対して以下に述べる位置関係を満たさなくては成らない。曲面状要素(8´) の要素長さ(W1)と第一の方向(S1)における配置ピッチ(P1)が満たさなければならない位置関係について、図15を用いて具体的に説明する。図15(b)に市松模様状の配列における基本的な繰り返し構造である、互いに斜め方向に隣り合う三つの曲面状要素(8A´、8B´、8C´)を例として拡大して示す。第二の実施の形態における第一の印刷層(4´)とは、図15(b)に示す基本的な構造が上下左右に繰り返されて配置されることで形成されると考えることができる。
【0070】
三つの曲面状要素(8A´ 、8B´、8C´)のうち、左端の曲面状要素(8A´)と右端の曲面状要素(8C´)とは、ピッチ(P1)×2(2倍)だけ第一の方向(S1)に位相をずらして配置され、第二の方向(S2)へのずれはない。この左端の曲面状要素(8A´)と右端の曲面状要素(8C´)の位置関係を、本明細書中において「第一の方向に隣り合う」位置関係と呼ぶ。一方、一番上に位置する曲面状要素(8B´)の第一の方向(S1)における中心は、左端の曲面状要素(8A´)の第一の方向(S1)における中心と右端の曲面状要素(8C´)の第一の方向(S1)における中心から等距離にある点を通って、第二の方向に伸びる直線の延長線上に位置する。すなわち、一番上に位置する曲面状要素(8B´)は、左端の曲面状要素(8A´)の中心を基準として、第一の方向(S1)にピッチ(P1)だけ要素の中心がずれ、第二の方向(S2)へは、ピッチ(P2)だけ位相をずれて配置されて成る。曲面状要素(8B´)と曲面状要素(8A´) の位置関係や、曲面状要素(8B´)と曲面状要素(8C´)の位置関係を、本明細書中において「斜めに隣り合う」位置関係と呼ぶ。
【0071】
第一の印刷層(4´)を構成するにあたっては、隣り合う三つの曲面状要素(8A´、8B´、8C´)の位置関係において少なくとも一つの方向(第一の実施の形態では、第一の方向(S1))に対して、隣り合う曲面状要素(8A´、8B´、8C´)の第一の方向(S1)上のそれぞれの端部の位相が、完全に接するか、一部に重なる位置関係にあることが必須となる。具体的には、左端の曲面状要素(8A´)の右端(8AR´)の第一の方向(S1)の位相は、一番上に位置する曲面状要素(8B´)の左端(8BL´)と同じ位置か、あるいはより右側に存在し、上の曲面状要素(8B´)の右端(8BR´) の第一の方向(S1)の位相は、一番右に位置する曲面状要素(8C´)の左端(8CL´)と同じ位置か、あるいはより右側に存在する必要がある。完全に接する場合、8AR´と8BL´、8BR´と8CL´の第一の方向(S1)に対する位相は一致し、一例である図15(b)に示すように、一部に重なる位置関係の場合は、8BL´が8AR´よりも左側(8AR´を有する曲面状要素(8A´)のある方向)に位置することにより8BL´と8AR´のそれぞれ一部に重複する領域を有し、8CL´は8BR´よりも左側(8BR´を有する曲面状要素(8B´)のある方向)に位置することによって、8CL´は8BR´のそれぞれ一部に重複する領域を有する。なお、この位置関係を満たすためには、斜めに隣り合う曲面状要素(8´)間(例えば、曲面状要素(8A´)と曲面状要素(8B´))の第一の方向(S1)における位相差(ピッチ(P1))が、曲面状要素(8´)の第一の方向(S1)における長さ(要素長さ(W1))以下である必要がある。これが第一の印刷層(4´)を形成する曲面状要素(8´)の配置において、市松模様状に配列する以外に必須と成る条件である。更に、本発明における重複領域とは、一部が重なる領域のみならず、接する場合、すなわち8AR´と8BL´の第一の方向(S1)の位相が完全に同じ位相となる場合も含む意である。
【0072】
以上をまとめると、第一の印刷層(4´)における曲面状要素(8)の配列における要件とは、曲面状要素(8)が市松模様状に配列されること、すなわち、「同じ形状の曲面状要素(8)が市松模様のように上下左右に互い違いに配列され、左右に隣り合う曲面状要素(8)の間の特定の方向の中間の位相上に、斜め上、斜め下に隣り合う曲面状要素(8) の中心が位置する構成であって、かつ、それぞれの曲面状要素(8)のいずれの辺や端部も互いに接することがない構成で配列した状態」であって、かつ「斜めに隣り合う曲面状要素(8)間の特定の方向における位相差(ピッチ(P1))が、曲面状要素(8)の特定の方向における長さ(要素長さ(W1))以下である」という二つの条件を満たせばよい。第二の実施の形態における第一の印刷層(4´)のその他の要求される構成や特性は、第一の実施の形態における第一の印刷層(4)と同じであるため、説明を省略する。
【0073】
図16に示すのは、第二の印刷層(5´)である。第一の実施の形態と同様にIP画線(9´)から成るIP画線群(6´)と、カモフラージュ画線(10´)から成るカモフラージュ画線群(7´)を有する。その他具体的な構成や特性、作製方法等は、第一の実施の形態における第一の印刷層(4)と同じであるため、説明を省略する。
【0074】
以上のような構成の第一の印刷層(4´)の上に、第二の印刷層(5´)を重ね合わせることで第二の実施の形態における潜像印刷物(1´)を得ることができる。図17に最も望ましい位置関係で第一の印刷層(4´)に第二の印刷層(5´)が重なった例を示し、図18にその場合の効果を示す。図17に示すのは、一つの曲面状要素(8´)に、一つのカモフラージュ画線(10´)と一つのIP画線(9´)が重なった例である。
【0075】
拡散反射光下において、印刷画像領域(3´)中には基画像(11´)もカモフラージュ情報も出現せず、完全に不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において図18(a)のようにA辺側が上がって傾いた状態で観察した場合、曲面状要素(8´)の上のA辺側に存在するカモフラージュ情報、「JAPAN」の文字が出現する。
【0076】
次に、正反射光下において図18(b)のように、潜像印刷物(1´)が水平な状態で観察した場合、曲面状要素(8´)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する第二の印刷層(5´)の情報が再生される。すなわち、曲面状要素(8´)の上の盛り上がり部分の頂点に存在するのはIP画線群(6´)の画像情報のうち、A´辺側に基画像(11´)が存在する情報であるため、基画像(11)がA´辺側に出現する。
【0077】
続いて、正反射光下において図18(c)のように、潜像印刷物(1´)のA´辺側が上がった状態で観察した場合、曲面状要素(8´)のA辺側に存在する第二の印刷層(5´)の情報が再生される。すなわち、曲面状要素(8´)の上のA´辺側に存在するのはIP画線群の画像情報のうち、A辺側に基画像(11´)が存在する情報であるため、基画像(11´)がA辺側に出現する。なお、図18(b)から図18(c)までに示す角度のように、一旦基画像(11´)が出現した場合には、潜像印刷物(1´)の傾きを変化させると、その変化に対応して連続的に基画像(11´)が第一の方向に平行に移動する、スムーズな動画効果が生じる。
【0078】
以上のように、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)の重ね合わせの最も望ましい位置関係であった場合には、従来の技術の問題であった「ジャンプ」現象は発生せず、カモフラージュ情報と基画像(11´)が特定の観察角度でチェンジし、基画像(11´)が出現した場合には観察角度の変化に伴って特定の角度(S1方向)へと連続的に動く効果が生じる。
【0079】
続いて、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)の重ね合わせの最も望ましい位置関係からずれた場合の効果について説明する。図19に示すのは、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)が最も望ましい位置からずれて形成された例であり、一つの曲面状要素(8´)に、一つのカモフラージュ画線(10´)と二つの別のIP画線(9A´、9B´)が配置された例である。
【0080】
拡散反射光下において、印刷画像領域(3´)中には基画像(11´)もカモフラージュ情報も出現せず、完全に不可視である(図示せず)。一方、正反射光下において図20(a)のように、A辺側が上がって傾いた状態で観察した場合、曲面状要素(8´)の上のA辺側に存在する第二の印刷層(5´)の情報が再生される。すなわち、曲面状要素(8´)のA辺側に存在するのは、二つのIP画線(9A´、9B´)のうち、9A´のIP画線(9A´)の情報であり、その情報とはA辺側に基画像(11´)が存在する情報であるため、基画像(11´)がA辺側に出現する。図20(a) に示す角度から図20(b)に示す水平な角度近くまで、潜像印刷物(1)を動かした場合、基画像(11)はA辺へより近づくが、A辺側の特定の場所(消失点)において突然不可視となる。
【0081】
次に、正反射光下において図20(b)のように、潜像印刷物(1´)が水平な状態で観察した場合、曲面状要素(8)の上の盛り上がり部分の頂点に存在する第二の印刷層(5´)の情報が再生される。すなわち、曲面状要素(8´)の上の盛り上がり部分の頂点に存在するのはカモフラージュ画線群(10´)であるため、カモフラージュ情報が出現する。
【0082】
続いて、正反射光下において図20(c)のように、潜像印刷物(1´)のA´辺側が上がった状態で観察した場合、曲面状要素(8´)のA´辺側に存在する第二の印刷層(5´)の情報が再生される。すなわち、曲面状要素(8´)のA´辺側に存在するのは、二つのIP画線(9A´、9B´)のうち、9B´のIP画線(9B´)の情報であり、その情報とはA´辺側に基画像(11´)が存在する情報であるため、カモフラージュ情報は消失して、基画像(11´)がA´辺側に出現する。この場合、基画像(11´)が出現する位置と、図20(a)において基画像(11´)が不可視となった消失点とはその位相が大きく異なるが、観察者がそれを意識することはない。また、図20(a)や図20(b)に示すように、一旦基画像(11´)が出現した場合には、潜像印刷物(1)の傾きを変化させると、その変化に対応して連続的に基画像(11´)の位相が第一の方向に変化する、スムーズな動画効果が生じる。
【0083】
以上のように、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)の重ね合わせの最も望ましい位置関係から外れ、一つの曲面状要素(8´)に対して異なる別のIP画線(9A´,9B´)が重なった場合には、「ジャンプ」現象自体は生じるものの、基画像(11´)が消失してから再び異なる位置に出現するまでに、一旦カモフラージュ情報が出現する。
【0084】
第一の実施の形態と同様に基画像(11´)の位相が一気に変化する「ジャンプ」現象自体は生じているものの、「ジャンプ」する瞬間に基画像(11´)と違うカモフラージュ情報が一旦出現するため、「ジャンプ」が生じても画像がチェンジした(基画像が再び現れた)ことに意識が集中し、基画像(11´)の位置が変わったことに気が付かない効果が生まれる。以上のように、第一の実施の形態と第二の実施の形態においては、第一の印刷層(4)の構成が大きく異なるものの、同じ効果を得ることができる。
【0085】
以上のように、第一の実施の形態における第一の印刷層(4)と第二の実施の形態における第一の印刷層(4´)の違いとは、画線状の蒲鉾状要素(8)と蒲鉾状要素(8)の間の基材(2)が露出した領域、すなわち第二の方向(S2方向)に印刷画像領域(3´) 全体を貫く非画線領域が、画素状の曲面状要素(8´)と曲面状要素(8´)の間の基材(2)が露出した領域には、存在しないことである。
【0086】
印刷画像領域(3´)全体を貫く非画線領域が存在しない第一の印刷層(4´)を形成することの利点は以下の通りである。本発明の潜像印刷物(1´)の構成上、第一の印刷層(4´)の上に重ねられた第二の印刷層(5´)中に含まれる各画線は、第一の印刷層(4´)の曲面状要素(8´)の上に重なって、はじめて正反射光下で潜像画像として可視化される効果を得ることができる。言い変えると、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)の刷り合わせがずれることによって、曲面状要素(8´)と曲面状要素(8´)の間の非画線領域に重なり、曲面状要素(8´)の上に重ならなかった第二の印刷層(5´)の各画線は正反射光下で可視化されない。そのため、例えば、刷り合わせがずれた場合でも画線全体が非画線領域に入り込まないように、非画線領域の画線幅よりも第二の印刷層のカモフラージュ画線(10´)やIP画線(9´)の画線幅を大きく設計することで、すべての潜像画像が正反射光下で可視化される効果を担保する必要がある。
【0087】
また、第一の実施の形態や第二の実施の形態のカモフラージュ情報のように、固定された情報の場合、正反射光下の特定の角度で一瞬でもカモフラージュ情報が出現すれば良いために、非画線領域の画線幅よりも第二の印刷層のカモフラージュ画線(10´)を大きく設計すればカモフラージュ情報が可視化される効果を担保することができる。しかしながら、IP画線群(6´)のように各IP画線(9´)の画線幅全体に基画像(11´)が異なる位相に存在する画像情報が含まれた画線の場合、曲面状要素(8´)の上に重ならなかったIP画線(9´)の情報は再生されないため、動きの情報が破棄されてしまい、結果として出現する基画像(11´)の動きの大きさは小さくなってしまう。
【0088】
第二の実施の形態における市松模様状に構成された第一の印刷層(4´)においては、第二の実施の形態における画線状の第一の印刷層(4´)に存在した印刷画像領域(3´)全体を第二の方向に貫く非画線領域が存在しないため、第二の印刷層(5´)の刷り合わせが大きくずれた場合でも、すべてのIP画線(9´)及びカモフラージュ画線(10´)の画線幅全体が、必ずいずれかの曲面状要素(8´)の上に重なる。これによって、すべてのIP画線(9´)及びカモフラージュ画線(10´)の第一の方向に含まれるすべての画像情報が再生される効果を得ることができる。市松模様状の第一の印刷層(4´)の第二の方向の曲面状要素(8´)の充填率(基材上に占める曲面状要素の占める割合)は第一の実施の形態の第一の印刷層(4)よりも低くなることが多いため、正反射光下で出現する潜像画像の画像解像度や視認性は低くなる傾向にあるものの、第一の方向の画像情報をすべて再生することに特化した構成として有効である。
【0089】
以上のように、第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)においては、第一の印刷層(4´)と第二の印刷層(5´)の刷り合わせが大きくずれたとしても、第二の印刷層に含まれる画像情報のすべてが再生される効果を担保することができる。
【0090】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0091】
図21に潜像印刷物(1−1)を示す。図21(a)に示すのは、潜像印刷物(1−1)の正面図であり、図21(b)に示すのは、潜像印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、印刷画像領域(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
【0092】
本発明の印刷画像領域(3−1)の構成の概要を図22に示す。印刷画像領域(3−1)は、第一の印刷層(4−1)と第二の印刷層(5−1)を有する。第二の印刷層(5−1)の中には、IP画線群(6−1)とカモフラージュ画線群(7−1)が存在する構成とした。
【0093】
図23に示すのは第一の印刷層(4−1)であり、第一の印刷層(4−1)は、第一の方向(S1方向)の幅0.5mmで、第二の方向の高さ0.5mmの直径0.5mmの円である曲面状要素(8−1)が、斜めに隣り合う要素同士の第一の方向(S1方向)のピッチが0.4mm、第二の方向(S2方向)のピッチが0.4mmで連続して複数配置された市松模様状の曲面状要素群(−1)を備えて成る。また、図24に示すのは、第二の印刷層(5−1)であり、画線幅0.25mmのIP画線が第一の方向に0.4mmピッチで連続して配されたIP画線群(6−1)と、画線幅0.08mmカモフラージュ画線(10−1)がピッチ0.4mmでS1方向に連続して配されたカモフラージュ画線群(7−1)を有し、各IP画線(9−1)と各カモフラージュ画線(10−1)は、位相が第一の方向に0.2mmずれた位置関係にあり、それぞれの画線が重なることはない配置とした。
【0094】
本実施例におけるIP画線(9−1)のフレーム(図示せず)は、第一の方向(S1方向)の長さを4mm、第二の方向(S2方向)の高さを5mmとし、圧縮率は0.0625とした。その他、第一の印刷層(4−1)及び第二の印刷層(5−1)におけるその他の具体的な構成は、第二の実施の形態で説明した通りであり、説明を省略する。
【0095】
以上の構成の二つの画像を、まず基材(2−1)上に第一の印刷層(4−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。インキは、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。本インキは、拡散反射光下では半透明であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。最後に、第一の印刷層(4−1)の上に第二の印刷層(5−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。インキは、透明なマットニス(マットメジュウムT&KTOKA製)を使用した。また、曲面状要素(8−1)の盛り上がり高さは約12μmであった。
【0096】
【表1】
【0097】
二つの画像の重なり合いの位置関係については、図25に示した位置関係になるようにそれぞれの画像を重ね合わせた。
【0098】
以上の構成で形成した実施例1の潜像印刷物(1−1)の効果について図26を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1−1)を拡散反射光下で観察した場合拡散反射光下において、印刷画像領域(3−1)中には基画像(11−1)もカモフラージュ情報も出現せず、完全に不可視であった(図示せず)。一方、正反射光下において図26(a)のようにA辺側が上がって傾いた状態で観察した場合、緑色の印刷画像領域(3)の中に灰色の基画像(11−1)がA辺側に出現した。次に、正反射光下において図26(b)のように潜像印刷物(1−1)が水平な状態で観察した場合、緑色の印刷画像領域(3)の中に灰色のカモフラージュ情報が出現した。続いて、正反射光下において図26(c)のように潜像印刷物(1−1)のA´辺側が上がった状態で観察した場合、緑色の印刷画像領域(3)の中に灰色の基画像(11−1)がA´辺側に出現した。また、基画像(11−1)は、図26(b)の角度において一旦消失してカモフラージュ情報が出現するものの、それ以外の観察角度では傾きの変化に対応して連続的に第一の方向と平行に変化することが確認できた。
【0099】
以上のように、第一の印刷層(4−1)と第二の印刷層(5−1)の重ね合わせの最も望ましい位置関係から外れ、一つの曲面状要素(8−1)に対して異なる別のIP画線(9A−1、9B−1)が重なった場合には、「ジャンプ」現象自体は生じるものの、基画像(11−1)が消失してから再び異なる位置に出現するまでに、一旦カモフラージュ情報が出現し、「ジャンプ」が生じても画像がチェンジしたことに意識が集中し、基画像(11−1)の位置が変わったことに気が付かない効果が生まれることが確認できた。
【符号の説明】
【0100】
1、1´、1−1 潜像印刷物
2、2´、2−1 基材
3、3´、3−1 印刷画像領域
4、4´、4−1 第一の印刷層
5、5´、5−1 第二の印刷層
6、6´、6−1 IP画線群
7、7´、7−1 カモフラージュ画線群
8、8´、8A´、8B´、8C´ 8−1 蒲鉾状要素(曲面状要素)
9、9i、9i+1、9´、9A´、9B´、9−1、9A−1、9B−1 IP画線
10、10´、10A−1 カモフラージュ画線
11、11´、11−1 基画像
12 フレーム
13、13´、13−1 光源
14、14´、14−1 観察者の視点

図1
図2
図3
図4
図5
図6
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