特許第6098421号(P6098421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6098421含酸素五員環を有する重合性化合物、液晶組成物および液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098421
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】含酸素五員環を有する重合性化合物、液晶組成物および液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 271/10 20060101AFI20170313BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20170313BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20170313BHJP
   C07D 307/42 20060101ALI20170313BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C07D271/10CSP
   C09K19/54 Z
   C09K19/34
   C07D307/42
   G02F1/13 500
【請求項の数】16
【全頁数】85
(21)【出願番号】特願2013-158617(P2013-158617)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-30668(P2015-30668A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 禎治
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−541159(JP,A)
【文献】 米国特許第05387657(US,A)
【文献】 米国特許第05290887(US,A)
【文献】 特開2000−077185(JP,A)
【文献】 特開平07−160023(JP,A)
【文献】 特開2004−002288(JP,A)
【文献】 特開2007−204705(JP,A)
【文献】 特開2007−057609(JP,A)
【文献】 特開2005−317440(JP,A)
【文献】 ZHANG,Xin,et al.,"Synthesis and fluorescence behavior of 2,5-diphenyl-1,3,4-oxadiazole-containing bismaleimides and bissuccinimides",FRONTIERS OF CHEMICAL SCIENCE AND ENGINEERING,2013年,VOL.7,NO.4,PP.381-387
【文献】 PARK,Ji Young,et al.,"Photopatternable electroluminescent blends of polyfluorene derivatives and charge-transporting molecules",EUROPEAN POLYMER JOURNAL,2008年,VOL.44,NO.12,PP.3981-3986
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C09K 19/
G02F 1/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。


式(1)において、
およびPは独立して、式(P−1)で表される基であり;

(P−1): −OCO−(M)C=CH

式(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFであり;
式(1)において、
およびSは独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、−OCH=CH−、または−C≡C−であり;
環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、テトラヒドロピラニレン、ジオキサニレン、ピリミジニレン、またはピリジニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルコキシで置き換えられてもよく、1つまたは2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一であり;
2つGは同一として、−CH=または−N=であり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【請求項2】
式(1−1)〜(1−6)のいずれか1つで表される、請求項に記載の化合物。


式(1−1)〜(1−6)において、
およびPは独立して、式(P−1)で表される基であり、

(P−1): −OCO−(M)C=CH

基(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFであり;
式(1−1)〜(1−6)において、
およびSは独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、−OCH=CH−、または−C≡C−であり;
環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、またはフェニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、炭素数1から10のアルキル、炭素数1から10のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から10のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から10のアルコキシで置き換えられてもよく、1つ、または2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一であり;
2つのGは同一として、−CH=または−N=であり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【請求項3】
請求項3に記載の式(1−1)〜(1−6)において、aが0である、請求項に記載の化合物。
【請求項4】
式(1−a)〜(1−f)のいずれかで表される、請求項に記載の化合物。


式(1−a)〜(1−f)において、
およびPは独立して、式(P−1)で表される基であり、

(P−1): −OCO−(M)C=CH

式(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFであり:
式(1−a)〜(1−f)において、
およびSは独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、−OCH=CH−、または−C≡C−であり;
2つのGは同一として、−CH=または−N=であり;
11、T12、T13、T14、T15、T16、T17、T18、T19、T20、T21、T22、T23、およびT24は独立して、水素、フッ素、−CH、−CHF、または−CFであり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【請求項5】
請求項に記載の式(1−a)〜(1−f)において、aが0である、請求項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項に記載の式(1−a)〜(1−f)において、PおよびPが独立して、−OCO−CH=CH、または−OCO−(CH)C=CHであり;SおよびSが独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、または−OCH=CH−であり;2つのGが−CH=または−N=であり;T11、T12、T13、T14、T15、T16、T17、T18、T19、T20、T21、T22、T23、およびT24が独立して、水素またはフッ素であり;ZおよびZが、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、または−C≡C−であり;aが0である、請求項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項に記載の式(1−a)において、PおよびPが独立して、−OCO−CH=CH、または−OCO−(CH)C=CHであり;SおよびSが単結合であり;2つのGが−CH=または−N=であり;T11、T12、T15、T16、T19、T20、T23、およびT24が水素であり;ZおよびZが単結合であり;aが0である、請求項に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の化合物を少なくとも1つを含有する重合性組成物。
【請求項9】
式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項に記載の重合性組成物。


式(2)〜(4)において、
11は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
11は、フッ素、塩素、−OCF、−OCHF、−CF、−CHF、−CHF、−OCFCHF、または−OCFCHFCFであり;
環B、環Bおよび環Bは独立して、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
11、Z12およびZ13は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、−CHO−、または−(CH−であり;
11およびL12は独立して、水素またはフッ素である。
【請求項10】
式(5)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項に記載の重合性組成物。


式(5)において、
12は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環Cは、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
14は、単結合、−CHCH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、または−CHO−であり;
13およびL14は独立して、水素またはフッ素であり;
iは、1、2、3、または4である。
【請求項11】
式(6)〜(12)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項に記載の重合性組成物。


式(6)〜(12)において、
13およびR14は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
15は、水素、フッ素、炭素数1から10のアルキル、または炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環D、環D、環Dおよび環Dは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
環Dおよび環Dは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
15、Z16、Z17およびZ18は独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、−CHO−、−OCF−、または−OCFCHCH−であり;
15およびL16は独立して、フッ素または塩素であり;
11は、水素または−CHであり;
Xは、−CHF−または−CF−であり;
j、k、m、n、p、q、rおよびsは独立して、0または1であり、k、m、nおよびpの和は、1または2であり、q、rおよびsの和は、0、1、2、または3であり、tは、1、2または3である。
【請求項12】
式(13)〜(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、請求項から1のいずれか1項に記載の重合性組成物。


式(13)〜(15)において、
16およびR17は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環E、環E、環Eおよび環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
19、Z20およびZ21は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、または−COO−である。
【請求項13】
請求項から1のいずれか1項に記載の重合性組成物の重合によって生成する液晶複合体。
【請求項14】
請求項から1のいずれか1項に記載の重合性組成物の重合によって生成する光学異方性体。
【請求項15】
請求項から1のいずれか1項に記載の重合性組成物または請求項1に記載の液晶複合体を含有する液晶表示素子。
【請求項16】
液晶表示素子において、請求項1からのいずれか1項に記載の化合物、請求項から1のいずれか1項に記載の重合性組成物および請求項1に記載の液晶複合体の群から選択される少なくとも1つの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物、この重合性化合物と液晶組成物とを含む重合性組成物、この重合性組成物から調製した液晶複合体および液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、液晶組成物中の液晶分子が有する光学異方性、誘電率異方性などを利用したものである。液晶分子の動作モードに基づいた分類は、PC(phase change)モード、TN(twisted nematic)モード、STN(super twisted nematic)モード、BTN(bistable twisted nematic)モード、ECB(electrically controlled birefringence)モード、OCB(optically compensated bend)モード、IPS(in-plane switching)モード、FFS(fringe field switching)モード、VA(vertical alignment)モードなどである。
【0003】
液晶組成物に重合体を組み合わせたモードの液晶表示素子が知られている。これが、例えばPSA(polymer sustained alignment)モードまたはPS(polymer stabilized)モードである。このモードの液晶表示素子では、重合性化合物を添加した液晶組成物を表示素子に注入する。電極間に電圧を印加した状態で紫外線を照射して、重合性化合物を重合させることによって、液晶組成物の中に重合体を生成させる。この方法によって、応答時間が短縮され、画像の焼き付きが改善された液晶表示素子が得られる。
【0004】
この方法は様々な動作モードの液晶表示素子に適用することができ、PS−TN、PS−IPS、PS−FFS、PSA−VA、PSA−OCBなどのモードが知られている。このようなモードの素子で使用される重合性化合物は、液晶分子を配向させる能力が高いと考えられるが、液晶組成物への溶解度が高いとはいえない。これまでに液晶組成物への溶解度を改善する試みがなされたが、溶解度が向上すると重合反応性が低下する傾向にある。従って、溶解度と重合反応性との間で適切なバランスとを有する重合性化合物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国出願公開2003/0143343号明細書
【特許文献2】特開2004−131704号公報
【特許文献3】特開2004−35722号公報
【特許文献4】特表2010−536894号公報
【特許文献5】特表2010−537256号公報
【特許文献6】国際公開2006/093351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第一の課題は、高い重合反応性、高い転化率、および液晶組成物への高い溶解度を有する重合性化合物を提供することである。第二の課題は、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、大きな誘電率異方性、適切な弾性定数、大きな比抵抗、適切なプレチルトなどの物性の少なくとも1つを充足する液晶複合体を提供することである。この課題は、少なくとも2つの物性に関して適切なバランスを有する液晶複合体を提供することである。第三の課題は、素子を使用できる広い温度範囲、短い応答時間、高い電圧保持率、低いしきい値電圧、大きなコントラスト比、および長い寿命を有する液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、式(1)で表される化合物、この化合物と液晶組成物とを含む重合性組成物、この重合性組成物から調製した液晶複合体、およびこの液晶複合体を有する液晶表示素子に関する。

式(1)において、
およびPは独立して重合性基であり;
およびSは独立して、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は、−O−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;
環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、テトラヒドロピラニレン、ジオキサニレン、ピリミジニレン、またはピリジニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルコキシで置き換えられてもよく、1つまたは2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一であり;
2つのGは−CH=または−N=であり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第一の長所は、重合性化合物が高い重合反応性、高い転化率、および液晶組成物への高い溶解度を有することである。第二の長所は、液晶複合体が、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、大きな誘電率異方性、適切な弾性定数、大きな比抵抗、適切なプレチルトなどの物性の少なくとも1つを充足することである。この長所は、液晶複合体が少なくとも2つの物性に関して適切なバランスを有することである。第三の長所は、液晶表示素子が、素子を使用できる広い温度範囲、短い応答時間、高い電圧保持率、低いしきい値電圧、大きなコントラスト比、および長い寿命を有することである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。液晶性化合物は、ネマチック相、スメクチック相などの液晶相を有する非重合性の化合物および液晶相を有しないが、上限温度、下限温度、粘度、誘電率異方性のような組成物の物性を調整する目的で混合される非重合性の化合物の総称である。これらの化合物は、1,4−シクロヘキシレンや1,4−フェニレンのような六員環を有し、その分子構造は棒状(rod like)である。液晶組成物は、液晶性化合物の混合物である。重合性化合物は、重合体を生成させる目的で組成物に添加する化合物である。重合性組成物は、重合性化合物、液晶組成物、添加物などの混合物である。液晶複合体は、この重合性組成物の重合によって生成する複合体である。液晶表示素子は、液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。ネマチック相の上限温度は、液晶組成物、重合性組成物または液晶複合体におけるネマチック相−等方相の相転移温度であり、上限温度と略すことがある。ネマチック相の下限温度は、下限温度と略すことがある。重合反応性は、反応物が重合するときの容易さの度合いを指す。転化率は、反応物に対する、化学反応によって消費された反応物の重量比である。
【0010】
液晶組成物は、液晶性化合物を混合することによって調製される。液晶性化合物の割合(含有量)は、この液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。この組成物に光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、消泡剤のような添加物が必要に応じて添加される。添加物の割合(添加量)は、液晶性化合物の割合と同様に、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。重量百万分率(ppm)が用いられることもある。重合開始剤および重合禁止剤の割合は、例外的に重合可能な化合物の重量に基づいて表される。
【0011】
式(1)で表される化合物を化合物(1)と略すことがある。この略記は、式(2)などで表される化合物にも適用される。化合物(1)は、式(1)で表される1つの化合物または2つ以上の化合物を意味する。化合物(1)の環A(またはA)において、六角形を横切る斜線は、−S−P(または−S−P)が六員環上の結合位置を任意に選択できることを意味する。式(1)〜(15)において、六角形で囲んだA、B、Cなどの記号はそれぞれ環A、環B、環Cなどに対応する。R13の記号を式(6)、式(7)などの複数の式に使用する。これらの化合物において、任意の2つのR13が表す2つの末端基は、同一であってもよいし、または異なってもよい。式(9)において、jが2のとき、2つの記号Dが1つの式に存在する。この化合物において、2つの記号Dが表す2つの環は、同一であってもよいし、または異なってもよい。このルールは、Z15、C、Pなどの記号にも適用される。
【0012】
「少なくとも1つの“A”は、“B”で置き換えられてもよい」の表現は、“A”の数が1つのとき、“A”の位置は任意であり、“A”の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく自由に選択できることを意味する。「少なくとも1つのAが、B、C、またはDで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも一つのAがBで置き換えられる場合、少なくとも一つのAがCで置き換えられる場合、および少なくとも一つのAがDで置き換えられる場合、さらに複数のAがB、C、Dの少なくとも2つで置き換えられる場合を含むことを意味する。例えば、少なくとも1つの−CH−(または−CHCH−)が−O−(または−CH=CH−)で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルケニル、アルケニルオキシアルキルが含まれる。なお、連続する2つの−CH−が−O−で置き換えられて、−O−O−のようになることは好ましくない。アルキルなどにおいて、メチル部分(−CH−H)の−CH−が−O−で置き換えられて−O−Hになることも好ましくない。
【0013】
2−フルオロ−1,4−フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。化学式において、フッ素は左向き(L)であってもよいし、右向き(R)であってもよい。このルールは、テトラヒドロピラン−2,5−ジイルのような、非対称の二価の環にも適用される。
【0014】
本発明は、下記の項に記載された内容を包含する。
【0015】
項1. 式(1)で表される化合物。

式(1)において、
およびPは独立して、重合性基であり;
およびSは独立して、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は、−O−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;
環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、テトラヒドロピラニレン、ジオキサニレン、ピリミジニレン、またはピリジニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルコキシで置き換えられてもよく、1つまたは2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一であり;
2つのGは−CH=または−N=であり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【0016】
項2. 項1に記載の式(1)において、P、PおよびPが、式(P−1)で表される基である、項1に記載の化合物。

(P−1): −OCO−(M)C=CH

式(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFである。
【0017】
項3. 式(1−1)〜(1−6)のいずれか1つで表される、請求項1に記載の化合物。

式(1−1)〜(1−6)において、
およびPは独立して、式(P−1)で表される基であり、

(P−1): −OCO−(M)C=CH

基(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFであり;
式(1−1)〜(1−6)において、
およびSは独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、−OCH=CH−、または−C≡C−であり;
環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、またはフェニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、炭素数1から10のアルキル、炭素数1から10のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から10のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から10のアルコキシで置き換えられてもよく、1つ、または2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一であり;
2つのGは−CH=または−N=であり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【0018】
項4. 項3に記載の式(1−1)〜(1−6)において、aが0である、項3に記載の化合物。
【0019】
項5. 式(1−a)〜(1−f)のいずれかで表される、項2に記載の化合物。

式(1−a)〜(1−f)において、
およびPは独立して、式(P−1)で表される基であり、

(P−1): −OCO−(M)C=CH

式(P−1)において、Mは、水素、フッ素、−CH、または−CFであり:
式(1−a)〜(1−f)において、
およびSは独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、−OCH=CH−、または−C≡C−であり;
2つのGは−CH=または−N=であり;
11、T12、T13、T14、T15、T16、T17、T18、T19、T20、T21、T22、T23、およびT24は独立して、水素、フッ素、−CH、−CHF、または−CFであり;
、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−であり;
aは0または1である。
【0020】
項6. 項5に記載の式(1−a)〜(1−f)において、aが0である、項5に記載の化合物。
【0021】
項7. 項5に記載の式(1−a)〜(1−f)において、PおよびPが独立して、−OCO−CH=CH、または−OCO−(CH)C=CHであり;SおよびSが独立して、単結合、−CHO−、−OCH−、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、または−OCH=CH−であり;2つのGが−CH=または−N=であり;T11、T12、T13、T14、T15、T16、T17、T18、T19、T20、T21、T22、T23、およびT24が独立して、水素またはフッ素であり;ZおよびZが、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、または−C≡C−であり;aが0である、項5に記載の化合物。
【0022】
項8. 項5に記載の式(1−a)において、PおよびPが独立して、−OCO−CH=CH、または−OCO−(CH)C=CHであり;SおよびSが単結合であり;2つのGが−CH=または−N=であり;T11、T12、T15、T16、T19、T20、T23、およびT24が水素であり;ZおよびZが単結合であり;aが0である、項5に記載の化合物。
【0023】
項9. 項1から8のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも1つを含有する重合性組成物。
【0024】
項10. 式(2)〜(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項9に記載の重合性組成物。

式(2)〜(4)において、
11は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
11は、フッ素、塩素、−OCF、−OCHF、−CF、−CHF、−CHF、−OCFCHF、または−OCFCHFCFであり;
環B、環Bおよび環Bは独立して、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
11、Z12およびZ13は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、−CHO−、または−(CH−であり;
11およびL12は独立して、水素またはフッ素である。
【0025】
項11. 式(5)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項9に記載の重合性組成物。

式(5)において、
12は炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、アルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
12は−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nであり;
環Cは、1,4−シクロヘキシレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
14は、単結合、−CHCH−、−C≡C−、−COO−、−CFO−、−OCF−、または−CHO−であり;
13およびL14は独立して、水素またはフッ素であり;
iは、1、2、3、または4である。
【0026】
項12. 式(6)〜(12)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項9に記載の重合性組成物。

式(6)〜(12)において、
13およびR14は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
15は、水素、フッ素、炭素数1から10のアルキル、または炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルおよびアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環D、環D、環Dおよび環Dは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられてもよい1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
環Dおよび環Dは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキセニレン、1,4−フェニレン,テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり;
15、Z16、Z17およびZ18は独立して、単結合、−CHCH−、−COO−、−CHO−、−OCF−、または−OCFCHCH−であり;
15およびL16は独立して、フッ素または塩素であり;
11は、水素または−CHであり;
Xは、−CHF−または−CF−であり;
j、k、m、n、p、q、rおよびsは独立して、0または1であり、k、m、nおよびpの和は、1または2であり、q、rおよびsの和は、0、1、2、または3であり、tは、1、2または3である。
【0027】
項13. 式(13)〜(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有する、項10から12のいずれか1項に記載の重合性組成物。

式(13)〜(15)において、
16およびR17は独立して、炭素数1から10のアルキルまたは炭素数2から10のアルケニルであり、このアルキルまたはアルケニルにおいて、少なくとも1つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく;
環E、環E、環Eおよび環Eは独立して、1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、またはピリミジン−2,5−ジイルであり;
19、Z20およびZ21は独立して、単結合、−CHCH−、−CH=CH−、−C≡C−、または−COO−である。
【0028】
項14. 項9から13のいずれか1項に記載の重合性組成物の重合によって生成する液晶複合体。
【0029】
項15. 項9から13のいずれか1項に記載の重合性組成物の重合によって生成する光学異方性体。
【0030】
項16. 項9から13のいずれか1項に記載の重合性組成物または項14に記載の液晶複合体を含有する液晶表示素子。
【0031】
項17. 液晶表示素子において、項1から8のいずれか1項に記載の化合物、項9から13のいずれか1項に記載の重合性組成物および項14に記載の液晶複合体の群から選択される少なくとも1つの使用。
【0032】
本発明は、次の項も含む。1)少なくとも1つの光学活性化合物をさらに含有する、上記の重合性組成物、2)少なくとも1つの酸化防止剤、紫外線吸収剤および/または消泡剤をさらに含有する、上記の重合性組成物、3)式(1)で表される化合物とは異なる重合性化合物をさらに含有する、上記の重合性組成物、4)PSAモードを有する液晶表示素子において、化合物(1)の使用、5)PSAモードを有する液晶表示素子において、化合物(1)の使用、6)PSAモードを有する液晶表示素子において、式(1−1)〜(1−6)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物の使用、7)PSAモードを有する液晶表示素子において、上記の化合物の少なくとも1つを含有する重合性組成物の使用、8)PSAモードを有する液晶表示素子において、上記の重合性組成物の重合によって生成する液晶複合体の使用、9)PS−TN、PS−IPS、PS−FFS、PSA−VA、またはPSA−OCBのモードを有する液晶表示素子において、上記の化合物、上記の重合性組成物または上記の液晶複合体の使用
【0033】
本発明は、次の項も含む。10)PSAモードを有する液晶表示素子において、式(1)で表される化合物と、式(2)、(3)、または(4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物とを含有する組成物の使用。11)PSAモードを有する液晶表示素子において、式(1)で表される化合物と、式(5)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物とを含有する組成物の使用。12)PSAモードを有する液晶表示素子において、式(1)で表される化合物と、式(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、または(12)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物とを含有する組成物の使用。13)PSAモードを有する液晶表示素子において、式(1)で表される化合物と、式(13)、(14)、または(15)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物とを含有する組成物の使用。
【0034】
化合物(1)についてまず説明し、そのあとに、合成法、重合性組成物、液晶複合体、液晶表示素子の順で説明をする。
【0035】
1.化合物(1)
本発明は、含酸素五員環を有する重合性化合物(1)である。化合物(1)は、液晶性化合物に類似した棒状の分子構造を有するので、液晶組成物への溶解度は高い。
【0036】
化合物(1)における重合性基(P〜P)、連結基(S〜S)、環(A〜A)、または結合基(Z〜Z)の好ましい例は、以下のとおりである。この例は、化合物(1)の下位式にも適用される。
【0037】

式(1)において、PおよびPは独立して重合性基である。重合性基の例は、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルオキシ、ビニルカルボニル、アリルオキシ、アリルカルボニル、オキシラニル、オキセタニル、3,4−エポキシシクロヘキシル、またはマレイミドである。これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、−CHまたは−CFで置き換えられてもよい。好ましいPまたはPは、−OCO−(M)C=CH(M)であり、ここでMおよびMは独立して、水素、フッ素、−CH、または−CFである。さらに好ましいPまたはPは、−OCO−(M)C=CHであり、ここでMは、水素、フッ素、−CH、または−CFである。好ましいMは、水素、フッ素または−CHである。さらに好ましいMは水素または−CHである。特に好ましいPまたはPは、−OCO−HC=CHまたは−OCO−(CH)C=CHである。
【0038】
式(1)において、SおよびSは独立して、単結合または炭素数1から6のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの−CH−は、−O−、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよい。好ましいSまたはSは、単結合、−CH=CH−、−C≡C−、または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、1つまたは2つの−CH−は、−O−、−COO−、−OCO−、−OCOO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよい。さらに好ましいSまたはSは、単結合、−CHCHO−、−OCHCH−、−CH=CHO−、または−OCH=CH−である。最も好ましいSまたはSは、単結合である。
【0039】
式(1)において、環A、環Aおよび環Aは独立して、シクロへキシレン、シクロヘキセニレン、フェニレン、ナフチレン、アントラセニレン、テトラヒドロピラニレン、ジオキサニレン、ピリミジニレン、またはピリジニレンであり、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲン、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルキルまたは少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から12のアルコキシで置き換えられてもよく、1つまたは2つの水素は、−S−Pで置き換えられてもよく、ここでPの定義はPまたはPの定義と同一であり、Sの定義はSまたはSの定義と同一である。少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられたアルキルの好ましい例は、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルキルである。さらに好ましい例は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられたアルキルである。少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられたアルコキシの好ましい例は、少なくとも1つの水素がフッ素または塩素で置き換えられたアルコキシである。さらに好ましい例は、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられたアルコキシである。
【0040】
好ましい環A、環Aまたは環Aは、1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、またはピリジン−2,5−ジイルであり、これらの環において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1から3のアルキル、または少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられた炭素数1から3のアルキルで置き換えられてもよい。さらに好ましい環A、環Aまたは環Aは、1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2−クロロ−3−フルオロ−1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレン、ナフタレン−2,6−ジイル、テトラヒドロピラン−2,5−ジイル、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、またはピリミジン−2,5−ジイルである。特に好ましい環A、環Aまたは環Aは、1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、または2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンである。最も好ましい環A、環Aまたは環Aは、1,4−フェニレンである。
【0041】
式(1)において、2つのGは−CH=または−N=である。2つのGが−CH=であるとき、この環はフラン−2,5−ジイルである。2つのGが−N=であるとき、この環は1,3,4−オキサジアゾール−2,5−ジイルである。好ましいGは−CH=である。
【0042】
式(1)において、Z、ZおよびZは独立して、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、−C(CH)=C(CH)−、−CH=CH−CHO−、−OCH−CH=CH−、−CH=CH−OCH−、−CHO−CH=CH−、または−CO−である。好ましいZ、ZまたはZは、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、−CH=CH−COO−、−OCO−CH=CH−、−C(CH)=CH−COO−、−OCO−CH=C(CH)−、−CH=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=CH−、−C(CH)=C(CH)−COO−、−OCO−C(CH)=C(CH)−、−C≡C−、−COCH=CH−、−CH=CHCO−、または−CO−である。さらに好ましいZ、ZまたはZは、単結合、−COO−、−OCO−、−CH=CH−、または−C≡C−である。特に好ましいZ、ZまたはZは、単結合である。これらの結合基が−CH=CH−を有するとき、立体配置はシス型であってもよくまたはトランス型であってもよい。好ましい立体配置はトランス型である。
【0043】
式(1)において、aは0または1である。Gが−CH=であるとき、好ましいaは0または1である。さらに好ましいaは0である。Gが−N=であるとき、好ましいaは0である。
【0044】
上記の好ましい例を参照しながら、重合性基(P〜P)、連結基(S〜S)、環(A〜A)、環(フランまたはオキサジアゾール)、および結合基(Z〜Z)の組み合わせを適切に選択することによって、目的とする物性を有する重合性化合物を得ることができる。−S−Pにおいて、Pに結合するSの元素が酸素であるのは好ましくない。−CHO−OCO−CH=CHのような−O−O−結合が生じるからである。化合物の物性に大きな差異がないので、化合物(1)は、H(重水素)、13Cなどの同位体を天然存在比の量より多く含んでもよい。
【0045】
化合物(1)の好ましい例は、化合物(1−1)〜(1−6)である。これらの中では化合物(1−1)、(1−2)または(1−3)が好ましい。さらに好ましい例は、化合物(1−a)〜(1−f)である。これらの中では、化合物(1−a)、(1−b)または(1−c)が好ましい。これらの中では化合物(1−a)が好ましい。化合物(1)の具体的な例は、化合物(No.1)から化合物(No.243)であり、これらの化合物は実施例の中で示される。これらの中で好ましい例は、化合物(No.1)〜化合物(No.14)、化合物(No.163)、化合物(No.164)、化合物(No.167)、または化合物(No.168)である。さらに好ましい例は、化合物(No.1)または化合物(No.8)である。最も好ましい例は、化合物(No.1)である。
【0046】
2.合成法
化合物(1)の合成法を説明する。化合物(1)は、有機合成化学の方法を適切に組み合わせることにより合成できる。出発物質に目的の末端基、環、または結合基を導入する方法は、フーベン−ヴァイル(Houben-Wyle, Methoden der Organische Chemie, Georg-Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・シンセシズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載されている。
【0047】
2−1.結合基Zの生成
化合物(1)における結合基Z〜Zを生成する方法の例は、下記のスキームの通りである。このスキームにおいて、MSG(またはMSG)は、少なくとも1つの環を有する一価の有機基である。複数のMSG(またはMSG)が表す一価の有機基は、同一であってもよいし、または異なってもよい。化合物(1A)〜(1M)は、化合物(1)に相当する。エステルの生成においては、−COO−を有する化合物の合成法を示した。−OCO−を有する化合物もこの合成法によって合成することが可能である。他の非対称な結合基についても同様である。
【0048】
(1)単結合の生成

アリールホウ酸(11)と公知の方法で合成される化合物(12)とを、炭酸塩水溶液中、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させて化合物(1A)を合成する。この化合物(1A)は、公知の方法で合成される化合物(13)にn−ブチルリチウムを、次いで塩化亜鉛を反応させ、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で化合物(12)を反応させることによっても合成される。
【0049】
(2)−COO−の生成

化合物(13)にn−ブチルリチウムを、続いて二酸化炭素を反応させてカルボン酸(14)を得る。化合物(14)と、公知の方法で合成されるフェノール(15)とをDCC(1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド)とDMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン)の存在下で脱水縮合させて化合物(1B)を合成する。
【0050】
(3)−CH=CH−の生成

化合物(12)をn−ブチルリチウムで処理した後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などのホルムアミドと反応させてアルデヒド(16)を得る。公知の方法で合成されるホスホニウム塩(17)をカリウムtert−ブトキシドのような塩基で処理して発生させたリンイリドを、アルデヒド(16)に反応させて化合物(1C)を合成する。反応条件によってはシス体が生成するので、必要に応じて公知の方法によりシス体をトランス体に異性化する。
【0051】
(4)−CH=CH−COO−の生成

水素化ナトリウムなどの塩基をジエチルホスホノ酢酸エチルに作用させてリンイリドを調製し、このリンイリドをアルデヒド(18)と反応させてエステル(19)を得る。エステル(19)を水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下で加水分解してカルボン酸(20)を得る。この化合物と化合物(15)とを脱水縮合させて化合物(1D)を合成する。
【0052】
(5)−C(CH)=CH−COO−の生成

水素化ナトリウムなどの塩基をジエチルホスホノ酢酸エチルに作用させてリンイリドを調製し、このリンイリドをメチルケトン(21)と反応させてエステル(22)を得る。次にエステル(22)を水酸化ナトリウムなどの塩基の存在下で加水分解してカルボン酸(23)を得たのち、化合物(15)との脱水縮合によって化合物(1E)を合成する。
【0053】
(6)−CH=C(CH)−COO−の生成

公知の方法で合成される化合物(24)と公知の方法で合成される化合物(25)とをN,N−ジシクロヘキシルメチルアミン(CyNMe)のような塩基およびビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウムのような触媒の存在下で反応させて化合物(1F)を合成する。
【0054】
(7)−C(CH)=C(CH)−COO−の生成

化合物(15)とピルビン酸との脱水縮合によって化合物(26)を得る。亜鉛および四塩化チタンの存在下、化合物(26)を化合物(21)と反応させることにより、化合物(1G)を合成する。
【0055】
(8)−C≡C−の生成

ジクロロパラジウムとハロゲン化銅との触媒存在下で、化合物(13)に2−メチル−3−ブチン−2−オールを反応させたのち、塩基性条件下で脱保護して化合物(27)を得る。ジクロロパラジウムとハロゲン化銅との触媒存在下、化合物(24)を化合物(12)と反応させて、化合物(1H)を合成する。
【0056】
(9)−COCH=CH−の生成

化合物(21)をジエチルアミンのような塩基の存在下で、化合物(16)と反応させて、化合物(1I)を合成する。
【0057】
(10)−C(CH)=C(CH)−の生成

化合物(21)と化合物(28)とを四塩化チタンの存在下で反応させて、化合物(1J)を合成する。
【0058】
(11)−CH=CH−CHO−の生成

化合物(29)を炭酸カリウムのような塩基の存在下、化合物(15)と反応させることにより、化合物(1K)を合成する。
【0059】
(12)−CH=CH−OCH−の生成

化合物(27)を水酸化セシウムのような塩基の存在下、化合物(30)と反応させることにより、化合物(1L)を合成する。
【0060】
(13)−CO−の生成

化合物(13)をマグネシウムと反応させて、グリニャール試薬を調製する。この試薬に化合物(16)を反応させて、化合物(31)を得る。これをコリンズ試薬などの酸化剤と反応させ、化合物(1M)を合成する。
【0061】
2−2.連結基Sの生成
重合性基が−OCO−(M)C=CH(M)である化合物において、連結基Sの生成法を項(1)〜(5)で説明する。
(1)単結合
連結基Sが単結合である化合物(1)を生成する方法の例は、下記のスキームのとおりである。このスキームにおいて、MSGは、少なくとも1つの環を有する一価の有機基である。化合物(1N)〜(1P)は、化合物(1)に相当する。
【0062】

およびMがともに−CFではない場合、Mがフッ素であり、Mが−CFではない場合、またはMが−CFであり、Mがフッ素ではない場合は、上のスキームに示したカルボン酸(41)が市販されている。このカルボン酸(41)と化合物(30)をDCCとDMAPの存在下で脱水縮合させて化合物(1N)を合成する。
【0063】

およびMがともに−CFである場合は、カルボン酸(42)と化合物(30)とをDCCとDMAPの存在下で脱水縮合させて化合物(43)を得る。ヨウ化銅の触媒の存在下、化合物(43)と2,2−ジフルオロ−2−(フルオロスルホニル)酢酸メチルとを反応させて化合物(1O)を合成する。
【0064】

がフッ素であり、Mが−CFである場合は、カルボン酸(44)と化合物(30)をDCCとDMAPの存在下で脱水縮合させて化合物(45)を得る。化合物(45)をDASTなどのフッ素化剤でフッ素化し、化合物(46)を得る。ヨウ化銅の触媒の存在下、化合物(46)と2,2−ジフルオロ−2−(フルオロスルホニル)酢酸メチルとを反応させて化合物(1P)を合成する。
【0065】

が−CFであり、Mがフッ素である場合は、カルボン酸(47)を出発物質に用い、前記の方法に従って化合物(1Q)を合成する。
【0066】
化合物(1)における連結基(S≠単結合)を生成する方法の例は、下記のスキームのとおりである。このスキームにおいて、MSGは、少なくとも1つの環を有する一価の有機基である。化合物(1R)〜(1U)は、化合物(1)に相当する。
【0067】
(2)−(CH−O−の生成

炭酸カリウムなどの存在下で、公知の方法で合成される化合物(49)と化合物(30)とを反応させて化合物(50)を得る。化合物(50)を水素化リチウムアルミニウムなどの還元剤で還元し、化合物(51)を得る。化合物(51)とカルボン酸(41)との脱水縮合によって化合物(1R)を得る。
【0068】
(3)−(CH−CH=CH−の生成

公知の方法で合成されるホスホニウム塩(52)をカリウムtert−ブトキシドのような塩基で処理して発生させたリンイリドを、アルデヒド(32)に反応させて化合物(53)を得る。化合物(53)とカルボン酸(41)との脱水縮合によって化合物(1S)を得る。
【0069】
(4)−CH=CH−の生成

炭酸カリウムなどの存在下で、公知の方法で合成されるアルデヒド(54)と酸無水物(55)とカルボン酸ナトリウム(56)とを反応させることによって化合物(1T)を得る。
【0070】
(5)−(CH)g−CHCH−の生成

化合物(53)をパラジウム炭素のような触媒の存在下で水素化することにより、アルコール(57)を合成する。このアルコールとカルボン酸(41)とを脱水縮合させることによって化合物(1U)を得る。
【0071】
3.重合性組成物
重合性組成物は、化合物(1)の少なくとも1つを第一成分として含む。組成物の成分が第一成分だけであってもよい。組成物は、第二成分、第三成分などを含んでもよい。第二成分などの種類は、目的とする重合体の種類や用途に依存する。この重合性組成物は、第二成分として、化合物(1)とは異なる、その他の重合性化合物をさらに含んでもよい。その他の重合性化合物の好ましい例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エチレンオキシド(オキシラン、オキセタン)、またはビニルケトンである。さらに好ましい例は、少なくとも1つのアクリロイルオキシを有する化合物または少なくとも1つのメタクリロイルオキシを有する化合物である。さらに好ましい例には、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシとを有する化合物も含まれる。
【0072】
その他の重合性化合物の追加例は、化合物(M−1)〜(M−12)である。化合物(M−1)〜(M−12)において、R25、R26およびR27は独立して、水素またはメチルであり;u、xおよびyは独立して、0または1であり;vおよびwは独立して、1から10の整数であり;L21、L22、L23、L24、L25、およびL26は独立して、水素またはフッ素である。
【0073】
【0074】
重合性組成物の第二成分が液晶相を有する重合性化合物であるとき、液晶分子の配向を制御しながら重合させることによって光学異方性体が生成する。この光学異方性体は、位相差膜、偏光素子、円偏光素子、楕円偏光素子、反射防止膜、選択反射膜、色補償膜、視野角補償膜などに用いることができる。光学異方性体の物性を調整する目的で重合開始剤などの添加物を重合性組成物に添加してもよい。
【0075】
重合性組成物は、第二成分として液晶組成物を含んでもよい。PS−TN、PS−IPS、PS−FFS、PSA−VA、PSA−OCBなどのモード用の液晶表示素子を目的とする場合、重合性組成物は、化合物(1)を成分Aとして含み、下に示す成分B、C、D、またはEから選択された化合物をさらに含むことが好ましい。成分Bは、化合物(2)〜(4)である。成分Cは化合物(5)である。成分Dは、化合物(6)〜(12)である。成分Eは、化合物(13)〜(15)である。このような重合性組成物を調製するときには、正または負の誘電率異方性、誘電率異方性の大きさなどを考慮して成分B、C、D、またはEを選択することが好ましい。成分を適切に選択した重合性組成物は、高い上限温度、低い下限温度、小さな粘度、適切な(大きな、または小さな)光学異方性、正または負に大きな誘電率異方性、および適切な(大きな、または小さな)弾性定数を有する。
【0076】
液晶組成物を含む重合性組成物において、化合物(1)、すなわち成分Aの添加量は、液晶組成物に基づいて0.05重量%から20重量%の範囲である。より好ましい添加量は、0.1重量%から10重量%の範囲である。さらに好ましい添加量は、0.2重量%から1重量%の範囲である。化合物(1)とは異なる、その他の重合性化合物の少なくとも1つをさらに添加してもよい。この場合、化合物(1)とその他の重合性化合物の合計の添加量は、上記の範囲内であることが好ましい。その他の重合性化合物を適切に選択することによって、生成する重合体の物性を調整することができる。その他の重合性化合物の例は、先に説明したとおり、アクリレート、メタクリレートなどである。この例には、化合物(M−1)〜(M−12)も含まれる。
【0077】
成分Bは、右末端にハロゲンまたはフッ素含有基を有する化合物である。成分Bの好ましい例として、化合物(2−1)〜(2−16)、化合物(3−1)〜(3−113)、または化合物(4−1)〜(4−57)を挙げることができる。
【0078】
【0079】

【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
これらの化合物(成分B)において、R11およびX11の定義は、前記の項10と同一である。
【0085】
成分Bは、誘電率異方性が正であり、熱、光などに対する安定性が非常に優れているので、PS−IPS、PS−FFS、PSA−OCBなどのモード用の組成物を調製する場合に用いられる。成分Bの含有量は、液晶組成物に基づいて1重量%から99重量%の範囲が適しており、好ましくは10重量%から97重量%の範囲、より好ましくは40重量%から95重量%の範囲である。この組成物は、化合物(13)〜(15)(成分E)をさらに添加することにより粘度を調整することができる。成分Bを誘電率異方性が負である組成物に添加する場合、成分Bの含有量は液晶組成物に基づいて30重量%以下が好ましい。成分Bを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0086】
成分Cは、右末端基が−C≡Nまたは−C≡C−C≡Nである化合物(5)である。成分Cの好ましい例として、化合物(5−1)〜(5−64)を挙げることができる。
【0087】
【0088】
これらの化合物(成分C)において、R12およびX12の定義は、前記の項11と同一である。
【0089】
成分Cは、誘電率異方性が正であり、その値が大きいのでPS−TNなどのモード用の組成物を調製する場合に主として用いられる。この成分Cを添加することにより、組成物の誘電率異方性を大きくすることができる。成分Cは、液晶相の温度範囲を広げる、粘度を調整する、または光学異方性を調整する、という効果がある。成分Cは、素子の電圧−透過率曲線の調整にも有用である。
【0090】
PS−TNなどのモード用の組成物を調製する場合には、成分Cの含有量は、液晶組成物に基づいて1重量%から99重量%の範囲が適しており、好ましくは10重量%から97重量%の範囲、より好ましくは40重量%から95重量%の範囲である。この組成物は、成分Eをさらに添加することにより液晶相の温度範囲、粘度、光学異方性、誘電率異方性などを調整できる。成分Cを誘電率異方性が負である組成物に添加する場合、成分Cの含有量は液晶組成物に基づいて30重量%以下が好ましい。成分Cを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0091】
成分Dは、化合物(6)〜(12)である。これらの化合物は、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレンのように、ラテラル位が2つのハロゲンで置換されたベンゼン環を有する。成分Dの好ましい例として、化合物(6−1)〜(6−8)、化合物(7−1)〜(7−17)、化合物(8−1)、化合物(9−1)〜(9−3)、化合物(10−1)〜(10−11)、化合物(11−1)〜(11−3)、または化合物(12−1)〜(12−3)を挙げることができる。
【0092】
【0093】

【0094】
これらの化合物(成分D)において、R13、R14およびR15の定義は、前記の項12と同一である。
【0095】
成分Dは、誘電率異方性が負の化合物である。成分Dは、PS−IPS、PS−FFS、PSA−VAなどのモード用の組成物を調製する場合に用いられる。成分Dの含有量を増加させると組成物の誘電率異方性が負に大きくなるが、粘度が大きくなる。そこで、素子のしきい値電圧の要求値を満たす限り、含有量は少ないほうが好ましい。したがって、誘電率異方性の絶対値が5程度であることを考慮すると、充分な電圧駆動をさせるには、含有量が40重量%以上であることが好ましい。
【0096】
成分Dのうち、化合物(6)は2環化合物であるので、主として、粘度の調整、光学異方性の調整、または誘電率異方性の調整の効果がある。化合物(7)および(8)は3環化合物であるので、上限温度を高くする、光学異方性を大きくする、または誘電率異方性を大きくするという効果がある。化合物(9)〜(12)は、誘電率異方性を大きくするという効果がある。
【0097】
PS−IPS、PS−FFS、PSA−VAなどのモード用の組成物を調製する場合には、成分Dの含有量は、液晶組成物に基づいて、好ましくは40重量%以上であり、より好ましくは50重量%から95重量%の範囲である。成分Dを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。成分Dを誘電率異方性が正である組成物に添加する場合は、成分Dの含有量が液晶組成物に基づいて30重量%以下が好ましい。成分Dを添加することにより、組成物の弾性定数を調整し、素子の電圧−透過率曲線を調整することが可能となる。
【0098】
成分Eは、2つの末端基がアルキルなどである化合物である。成分Eの好ましい例として、化合物(13−1)〜(13−11)、化合物(14−1)〜(14−19)、または化合物(15−1)〜(15−7)を挙げることができる。
【0099】
【0100】
これらの化合物(成分E)において、R16およびR17の定義は、前記の項13と同一である。
【0101】
成分Eは、誘電率異方性の絶対値が小さいので、中性に近い化合物である。化合物(13)は、主として粘度の調整または光学異方性の調整の効果がある。化合物(14)および(15)は、上限温度を高くすることによってネマチック相の温度範囲を広げる効果または光学異方性の調整の効果がある。
【0102】
成分Eの含有量を増加させると組成物の粘度が小さくなるが、誘電率異方性が小さくなる。そこで、素子のしきい値電圧の要求値を満たす限り、含有量は多いほうが好ましい。したがって、PS−IPS、PSA−VAなどのモード用の組成物を調製する場合には、成分Eの含有量は、液晶組成物に基づいて、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上である。
【0103】
重合性組成物の調製は、必要な成分を室温よりも高い温度で溶解させるなどの方法により行われる。用途に応じて、この組成物に添加物を添加してよい。添加物の例は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤などである。このような添加物は当業者によく知られており、文献に記載されている。
【0104】
光学活性化合物は、液晶分子にらせん構造を誘起して必要なねじれ角を与えることによって逆ねじれを防ぐ、という効果を有する。光学活性化合物を添加することによって、らせんピッチを調整することができる。らせんピッチの温度依存性を調整する目的で2つ以上の光学活性化合物を添加してもよい。光学活性化合物の好ましい例として、下記の化合物(Op−1)〜(Op−18)を挙げることができる。
【0105】
化合物(Op−18)において、環Jは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、R28は炭素数1から10のアルキルである。
【0106】
酸化防止剤は、大きな電圧保持率を維持するために有効である。酸化防止剤の好ましい例として、下記の化合物(AO−1)、化合物(AO−2)、IRGANOX 415、IRGANOX 565、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 3114、またはIRGANOX 1098(商品名:BASF社)を挙げることができる。紫外線吸収剤は、上限温度の低下を防ぐために有効である。紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などであり、具体例として下記の化合物(AO−3)、(AO−4)、TINUVIN 329、TINUVIN P、TINUVIN 326、TINUVIN 234、TINUVIN 213、TINUVIN 400、TINUVIN 328、TINUVIN 99−2(商品名:BASF社)、または1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を挙げることができる。立体障害のあるアミンのような光安定剤は、大きな電圧保持率を維持するために好ましい。光安定剤の好ましい例として、下記の化合物(AO−5)、(AO−6)、TINUVIN 144、TINUVIN 765、またはTINUVIN 770DF(商品名:BASF社)を挙げることができる。また、熱安定剤も大きな電圧保持率を維持するために有効であり、好ましい例としてIRGAFOS 168(商品名:BASF社)を挙げることができる。消泡剤は、泡立ちを防ぐために有効である。消泡剤の好ましい例は、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどである。
【0107】
【0108】
化合物(AO−1)において、R25は炭素数1から20のアルキル、炭素数1から20のアルコキシ、−COOR26、−CHCHCOOR26であり、R26は炭素数1から20のアルキルであり、化合物(AO−2)および化合物(AO−5)において、R27は炭素数1から20のアルキルであり、化合物(AO−5)において、環Fおよび環Gは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、xは、0、1または2であり、R28は、水素、−CHまたはO(酸素ラジカル)である。
【0109】
4.液晶複合体
化合物(1)は、高い重合反応性、高い転化率および液晶組成物への高い溶解度を有する。化合物(1)と液晶組成物とを含む重合性組成物を重合させることによって液晶複合体が生成する。化合物(1)は、重合によって液晶組成物の中に重合体を生成する。この重合体は、液晶分子にプレチルトを生じさせる効果がある。重合は、重合性組成物が液晶相を示す温度で行うのが好ましい。重合は、熱、光などによって進行する。好ましい反応は光重合である。光重合は、熱重合が併起するのを防ぐために、100℃以下で行うのが好ましい。電場または磁場を印加した状態で重合させてもよい。
【0110】
化合物(1)の重合反応性および転化率は調整することができる。化合物(1)はラジカル重合に適している。化合物(1)は、重合開始剤を添加することによって、速やかに重合させることができる。反応温度を最適化することによって、残存する化合物(1)の量を減少させることができる。光ラジカル重合開始剤の例は、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)のダロキュアシリーズから、TPO、1173または4265であり、イルガキュアシリーズから184、369、500、651、784、819、907、1300、1700、1800、1850、または2959である。
【0111】
光ラジカル重合開始剤の追加例は、4−メトキシフェニル−2,4−ビス(トリクロロメチル)トリアジン、2−(4−ブトキシスチリル)−5−トリクロロメチル−1,3,4−オキサジアゾール、9−フェニルアクリジン、9,10−ベンズフェナジン、ベンゾフェノン/ミヒラーズケトン混合物、ヘキサアリールビイミダゾール/メルカプトベンズイミダゾール混合物、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2,4−ジエチルキサントン/p−ジメチルアミノ安息香酸メチル混合物、ベンゾフェノン/メチルトリエタノールアミン混合物である。
【0112】
重合性組成物に光ラジカル重合開始剤を添加したあと、電場を印加した状態で紫外線を照射することによって重合を行うことができる。しかし、未反応の重合開始剤または重合開始剤の分解生成物は、素子に焼き付きなどの表示不良を引き起こすかもしれない。これを防ぐために重合開始剤を添加しないまま光重合を行ってもよい。照射する光の好ましい波長は150nmから500nmの範囲である。より好ましい波長は250nmから450nmの範囲であり、最も好ましい波長は300nmから400nmの範囲である。
【0113】
5.液晶表示素子
液晶表示素子における重合体の効果は、次のように解釈される。重合性組成物は、液晶性化合物、重合性化合物などの混合物である。この組成物に電場を印加することによって、液晶分子が電場の方向に配向する。この配向に従って、重合性化合物も配向する。組成物に紫外線を照射して、配向を維持したまま重合性化合物を重合させ、三次元の網目構造を形成させる。電場を除去した場合でも、重合体の配向は維持される。液晶分子は、この重合体の効果によって電場の方向に配向した状態で安定化される。したがって、素子の応答時間が短縮されることになる。
【0114】
重合性組成物の重合は、表示素子の中で行うのが好ましい。一例は次のとおりである。透明電極と配向膜とを備えた二枚のガラス基板を有する表示素子を用意する。化合物(1)、液晶組成物、添加物などを成分とする重合性組成物を調製する。この組成物を表示素子に注入する。この表示素子に電場を印加しながら紫外線を照射して化合物(1)を重合させる。この重合によって液晶複合体が生成する。この方法によって液晶複合体を有する液晶表示素子を容易に作製することができる。この方法では、配向膜のラビング処理を省略してもよい。なお、電場がない状態で液晶分子を安定化させる方法を採用してもよい。
【0115】
重合体の添加量が液晶組成物に基づいて0.1重量%から2重量%の範囲であるとき、PSAモードの液晶表示素子が作製される。PSAモードの素子は、AM(active matrix)、PM(passive matrix)のような駆動方式で駆動させることができる。このような素子は、反射型、透過型、半透過型のいずれのタイプにも適用ができる。重合体の添加量を増やすことによって、高分子分散(polymer dispersed)モードの素子も作製することができる。
【実施例】
【0116】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0117】
1.化合物(1)の実施例
化合物(1)は、実施例1などに示した手順により合成した。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物の物性は、下記に記載した方法により測定した。
【0118】
NMR分析
測定装置は、DRX−500(ブルカーバイオスピン(株)社製)を用いた。H−NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F−NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0119】
HPLC分析
測定装置は、島津製作所製のProminence(LC−20AD;SPD−20A)を用いた。カラムはワイエムシー製のYMC−Pack ODS−A(長さ150mm、内径4.6mm、粒子径5μm)を用いた。溶出液はアセトニトリルと水を適宜混合して用いた。検出器としてはUV検出器、RI検出器、CORONA検出器などを適宜用いた。UV検出器を用いた場合、検出波長は254nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.1重量%の溶液となるように調製し、この溶液1μLを試料室に導入した。記録計としては島津製作所製のC−R7Aplusを用いた。
【0120】
紫外可視分光分析
測定装置は、島津製作所製のPharmaSpec UV−1700用いた。検出波長は190nmから700nmとした。試料はアセトニトリルに溶解して、0.01mmol/Lの溶液となるように調製し、石英セル(光路長1cm)に入れて測定した。
【0121】
測定試料
相構造および転移温度(透明点、融点、重合開始温度など)を測定するときには、化合物そのものを試料として用いた。ネマチック相の上限温度、粘度、光学異方性、誘電率異方性などの物性を測定するときには、化合物と母液晶との混合物を試料として用いた。
【0122】
測定方法
物性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA;Japan Electronics and Information Technology Industries Association)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED−2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0123】
(1)相構造
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレート(メトラー社FP−52型ホットステージ)に試料を置き、3℃/分の速度で加熱しながら相状態とその変化を偏光顕微鏡で観察し、相の種類を特定した。
【0124】
(2)転移温度(℃)
パーキンエルマー社製の走査熱量計、Diamond DSCシステムまたはエスエスアイ・ナノテクノロジー社製の高感度示差走査熱量計、X−DSC7000を用いて測定した。試料は、3℃/分の速度で昇降温し、試料の相変化に伴う吸熱ピークまたは発熱ピークの開始点を外挿により求め、転移温度を決定した。化合物が固体からスメクチック相、ネマチック相などの液晶相に転移する温度を「液晶相の下限温度」と略すことがある。化合物が液晶相から液体に転移する温度を「透明点」と略すことがある。化合物の融点、重合開始温度もこの装置を使って測定した。
【0125】
結晶はCと表した。結晶の種類の区別がつく場合は、それぞれをC、Cのように表した。スメクチック相はS、ネマチック相はNと表した。スメクチック相の中で、スメクチックA相、スメクチックB相、スメクチックC相、またはスメクチックF相の区別がつく場合は、それぞれS、S、SまたはSと表した。液体(アイソトロピック)はIと表した。転移温度は、例えば、「C 50.0 N 100.0 I」のように表記した。これは、結晶からネマチック相への転移温度が50.0℃であり、ネマチック相から液体への転移温度が100.0℃であることを示す。
【0126】
(3)ネマチック相の上限温度(TNIまたはNI;℃)
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。試料が化合物と母液晶との混合物であるときは、TNIの記号で示した。試料が化合物と成分B、C、DまたはEとの混合物であるときは、NIの記号で示した。
【0127】
(4)ネマチック相の下限温度(T;℃)
ネマチック相を有する試料を、0℃、−10℃、−20℃、−30℃、および−40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が−20℃ではネマチック相のままであり、−30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、Tを≦−20℃と記載した。
【0128】
(5)粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s)
東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いて測定した。
【0129】
(6)光学異方性(屈折率異方性;25℃で測定;Δn)
測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率(n‖)は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率(n⊥)は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性(Δn)の値は、Δn=n‖−n⊥、の式から計算した。
【0130】
(7)比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm)
電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
【0131】
(8)電圧保持率(VHR−1;25℃で測定;%)
測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率で表した。
【0132】
(9)電圧保持率(VHR−2;80℃で測定;%)
25℃の代わりに、80℃で測定した以外は、上記と同じ手順で電圧保持率を測定した。得られた結果をVHR−2の記号で示した
【0133】
誘電率異方性が正の試料と負の試料とでは、物性の測定法が異なることがある。そこで、(10−1)〜(14−1)では、誘電率異方性が正であるときの測定法を示す。誘電率異方性が負の場合は、(10−2)〜(14−2)に示す。
【0134】
(10−1)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s)
測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。ツイスト角が0度であり、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5μmであるTN素子に試料を入れた。この素子に16Vから19.5Vの範囲で0.5V毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM.Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算で必要な誘電率異方性の値は、この回転粘度を測定した素子を用い、下に記載した方法で求めた。
【0135】
(11−1)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(10V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
【0136】
(12−1)弾性定数(K;25℃で測定;pN)
測定には横河・ヒューレットパッカード株式会社製のHP4284A型LCRメータを用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである水平配向素子に試料を入れた。この素子に0ボルトから20ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。測定した静電容量(C)と印加電圧(V)の値を「液晶デバイスハンドブックク」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.99)からK11およびK33の値を得た。次に171頁にある式(3.18)に、先ほど求めたK11およびK33の値を用いてK22を算出した。弾性定数Kは、このようにして求めたK11、K22およびK33の平均値で表した。
【0137】
(13−1)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V)
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が0.45/Δn(μm)であり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に印加する電圧(32Hz、矩形波)は0Vから10Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が90%になったときの電圧で表した。
【0138】
(14−1)応答時間(τ;25℃で測定;ms)
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5.0μmであり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に矩形波(60Hz、5V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である。立ち上がり時間(τr:rise time;ミリ秒)は、透過率が90%から10%に変化するのに要した時間である。立ち下がり時間(τf:fall time;ミリ秒)は透過率10%から90%に変化するのに要した時間である。応答時間は、このようにして求めた立ち上がり時間と立ち下がり時間との和で表した。
【0139】
(10−2)粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s)
測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995) に記載された方法に従った。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmのVA素子に試料を入れた。この素子に30ボルトから50ボルトの範囲で1ボルト毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM.Imaiらの論文、40頁の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算に必要な誘電率異方性は、下記の誘電率異方性の項で測定した値を用いた。
【0140】
(11−2)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε‖およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε‖)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミド溶液を塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
【0141】
(12−2)弾性定数(K11およびK33;25℃で測定;pN)
測定には株式会社東陽テクニカ製のEC−1型弾性定数測定器を用いた。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が20μmである垂直配向素子に試料を入れた。この素子に20ボルトから0ボルト電荷を印加し、静電容量および印加電圧を測定した。静電容量(C)と印加電圧(V)の値を、「液晶デバイスハンドブック」(日刊工業新聞社)、75頁にある式(2.98)、式(2.101)を用いてフィッティングし、式(2.100)から弾性定数の値を得た。
【0142】
(13−2)しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V)
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧で表した。
【0143】
(14−2)応答時間(τ;25℃で測定;ms)
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が3.2μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のPVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤を用いて密閉した。この素子にしきい値電圧を若干超える程度の電圧を1分間印加し、次に5.6Vの電圧を印加しながら23.5mW/cmの紫外線を8分間照射した。この素子に矩形波(60Hz、10V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である。応答時間は透過率90%から10%に変化するのに要した時間(立ち下がり時間;fall time;ミリ秒)で表した。
【実施例1】
【0144】
化合物(No.1)フラン−2,5−ジイルビス(4,1−フェニレン)ビス(2−メチルアクリレート)の合成
【0145】
第1工程:
フラン(T−1)(15.0g、0.22mol)のアセトニトリル(100ml)溶液に、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(82.0g、 0.461mol)のアセトニトリル(300ml)溶液を25℃で滴下し、25℃で3時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮したのち、ジクロロメタン(200ml)を加え濾過した。濾液を水(150ml)で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサンで溶離)により精製することによって化合物(T−2)(16.0g、0.071mol、32.2%)を得た。
【0146】
第2工程:
化合物(T−2)(10.0g、0.043mol)と4−t−ブトキシフェニルボロン酸(17.0g、0.088mol)とPd(PPh(1.0g)とフッ化カリウム(10.0g、0.172mol)とKPO(19.0g、0.090mol)とエタノール(300ml)の混合物を2時間還流させた。反応混合物を40℃に冷却したのち、濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1(容量比))で精製し、エタノールから再結晶することにより化合物(T−3)(9.0g、0.0247mol、55.8%)を得た。
【0147】
第3工程:
化合物(T−3)(9.0g、0.0247mol)とエタノール(200ml)と40%HBr(50.0g、0.247mol)の混合物を終夜攪拌した。反応混合物に水(200ml)を加え、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。エタノールを減圧下で留去した後、濾過した。濾紙上の残渣を水(100ml)、ヘキサン(100ml)で洗い化合物(T−4)(6.0g、0.0238mol、96.3%)を得た。
【0148】
第4工程:
化合物(T−4)(5.5g、0.022mol)とメタクリル酸(4.5g、0.052mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)(0.3g、0.002mol)とBHT(0.2g)を塩化メチレン(150ml)に溶かし、氷冷した。この溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(11.0g、0.053mol)の塩化メチレン(50ml)溶液を2時間かけて滴下した。室温で3時間撹拌した。反応混合物を水でクエンチし濾過した。濾紙上の残渣を塩化メチレン(50ml×2)で洗い、濾液を減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=15:1(容量比))で精製することにより化合物(No.1)フラン−2,5−ジイルビス(4,1−フェニレン)ビス(2−メチルアクリレート)(4.5g、0.012mol、53.1%)を得た。
【0149】
H−NMR(δppm;CDCl):7.78(d,J=4.4Hz,2Hx2)、7.21(d,J=4.4Hz,2Hx2)、6.74(s,2H)、6.40(s,1Hx2)、5.80(t,J=1.5Hz、1Hx2)、2.11(s,3Hx2).
【0150】
化合物(No.1)の物性は、次の通りであった。融点:158℃、重合開始温度:193℃.
【実施例2】
【0151】
化合物(No.228)(1,3,4−オキサジアゾール−2,5−ジイル)ビス(4,1−フェニレン)ビス(2−メチルアクリレート)の合成
【0152】
第1工程:
化合物(T−1)(60.0g、0.434mol)と硫酸(0.8ml)を無水酢酸(250ml)に溶解させ、25℃で12時間攪拌した。水(600ml)を加えた後、濾過した。濾紙上の残渣を水(500ml)で洗浄後、乾燥させることによって化合物(T−2)(65.2g、0.362mol、83.3%)を得た。
【0153】
第2工程:
化合物(T−2)(55.0g、0.305mol)とDMF(0.1ml)とSOCl(250ml)の混合物を4時間還流させた。SOClを留去させることで化合物(T−3)を得た。化合物(T−3)のTHF(400ml)溶液に、85%ヒドラジン一水和物(9.0g、0.153mol)を0℃で1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で10時間攪拌し、濾過した。濾紙上の残渣を塩化メチレン(100ml)で洗い化合物(T−4)(25.0g、0.070mol、46.0%)を得た。
【0154】
第3工程:
化合物(T−4)(25.0g、0.070mol)とSOCl(150ml)を9時間還流させた。SOClを留去した後、水(10ml)とTHF(200ml)を加え濾過した。濾紙上の残渣をエタノール(50ml)で洗い乾燥させることによって化合物(T−5)(14.0g)を得た。この化合物をエタノール(100ml)に懸濁させ、10%水酸化ナトリウム水溶液(74g)を加えた後、25−30℃で2時間攪拌した。エタノールを留去した後、塩酸で中和した。濾過後、残渣を乾燥させることにより化合物(T−6)(8.0g、0.031mol、44.9%)を得た。
【0155】
第4工程:
化合物(T−6)(8.0g、0.031mol)とメタクリル酸(6.0g、0.070mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)(0.43g、0.004mol)とBHT(0.2g)を塩化メチレン(150ml)に溶かし、氷冷した。この溶液にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(16.0g、0.078mol)の塩化メチレン(50ml)溶液を2時間かけて滴下した後、室温で3時間撹拌した。反応混合物を水でクエンチし濾過した。濾紙上の残渣を塩化メチレン(50ml×2)で洗い、濾液を減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=15:1(容量比))で精製することにより化合物(No.228)(1,3,4−オキサジアゾール−2,5−ジイル)ビス(4,1−フェニレン)ビス(2−メチルアクリレート)(8.0g、0.020mol、65.1%)を得た。
【0156】
H−NMR(δppm;CDCl):8.19(d,J=4.4Hz,2Hx2)、7.33(d,J=4.4Hz,2Hx2)、6.40(s,1Hx2)、5.82(t,J=1.2Hz、1Hx2)、2.09(s,3Hx2).
【0157】
化合物(No.228)の物性は、次の通りであった。融点:159.0℃、重合開始温度:162℃.
【0158】
実施例1および実施例2に記載された実験操作と「2.合成法」とを参照することによって、以下に示す化合物(No.1)から化合物(No.243)を合成することが可能である。
【0159】

【0160】
【0161】

【0162】

【0163】

【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
【0183】
[比較例1]
比較のために、化合物(R−1)を下記のスキームに従って合成した。
【0184】
第1工程:化合物(T−9)の合成
化合物(T−1)(40.0g、0.133mol)と4−メトキシフェニルボロン酸(42.42g、0.279mol)、5%Pd−C(1.2g;エヌ・イーケムキャット株式会社製)、テトラブチルアンモニウムブロミド(17.4g、0.054mol)、炭酸カリウム(73.49g、0.532mol)にトルエン:2−プロパノール:水=1:1:1(容量比)(360ml)を加えて加熱還流した。32時間後、Pd−Cを濾過し、濾液をトルエンで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄後、乾燥して減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(体積比、トルエン/酢酸エチル=19/1)で精製し、化合物(T−9;3g、0.010mol、収率7.3%)を無色結晶として得た。
【0185】
第2工程:化合物(T−10)の合成
化合物(T−9)(8.62g、0.028mol)の塩化メチレン(100ml)溶液を、−20℃以下で三臭化ホウ素(1.0mol/l塩化メチレン溶液;70.0ml)を滴下し、室温で一晩撹拌した。反応混合物を氷水(100ml)に注ぎ、塩化メチレン(100ml)で抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄後、乾燥して減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製して化合物(T−10)(4.2g、0.015mol、収率53.6%)を茶色結晶として得た。
【0186】
第3工程:(R−1)の合成
化合物(T−10)(4.0g、0.014mol)を実施例1と同様に反応を行い、比較化合物(R−1)の無色結晶(3.4g、0.008mol、収率57.2%)を得た。
【0187】
H−NMR(δppm;CDCl):7.64−7.64(m,4H)、7.50(dd,J=8.1,8.0Hz,1H)、7.43(dd,J=8.0,1.7Hz,1H)、7.38(dd,J=11.9,1.7Hz,1H)、7.23(d,J=8.5Hz、2Hx2)、6.38(s,1Hx2)、5.79−5.78(m,1Hx2)、2.09(s,3Hx2).19F−NMR(δppm;CDCl):−118.10(dd,J=11.9,8.1Hz,1F).
【0188】
比較化合物(R−1)の物性は、次の通りであった。融点:179.11℃、重合開始温度:184.15℃.
【0189】
[比較実験]
比較実験には、下記の液晶組成物Aを用いた。
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 18%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 17%
3−HH1OCro(7F,8F)−5 (10−6) 6%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 10%
4−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 6%
5−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 6%
2−HH−3 (13−1) 14%
3−HH−4 (13−1) 8%
3−HHB−1 (14−1) 5%
3−HHB−3 (14−1) 6%
3−HHB−O1 (14−1) 4%
【0190】
この液晶組成物Aに重合性化合物を0.3重量%の割合で添加した。この組成物に75mW/cmの紫外線を200秒照射した(15,000mJ)。紫外線の照射には、HOYA CANDEO OPTRONICS社製の水銀キセノンランプ、EXECURE4000−Dを用いた。組成物中に残存した重合性化合物の量をHPLCで測定した。紫外線を400秒照射(30,000mJ)した結果もあわせて、表1にまとめた。「未反応物」は、添加した重合性化合物の重量に基づいた未反応の重合性化合物の割合で表した。「2%以下」は、未反応の重合性化合物が検出できなかったことを示す。表1から、比較化合物(R−1)では未反応物が検出されたが、本発明の化合物(No.1)は、重合によって消費されたことが分る。したがって、本発明の化合物は、高い反応性の観点から優れていると結論できる。
【0191】
表1.未反応の重合性化合物の量
【0192】
2.重合性組成物の実施例
実施例における化合物は、下記の表2の定義に基づいて記号により表した。表2において、1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は化合物の番号に対応する。(−)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の含有量(百分率)は、液晶組成物に基づいた重量百分率(重量%)である。最後に、重合性組成物の物性値をまとめた。物性は、先に記載した方法にしたがって測定し、測定値を(外挿することなく)そのまま記載した。
【0193】
【0194】
[使用例1]
3−HB−O1 (13−5) 15%
3−HH−4 (13−1) 2%
3−HH−V (13−1) 3%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 12%
2−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−1 (7−1) 12%
3−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
5−HHB(2F,3F)−O2 (7−1) 13%
3−HHB−1 (14−1) 6%
上記組成物に下記化合物(No.1)を0.3重量%の割合で添加した。

NI=86.5℃;Δn=0.090;Δε=−3.4;η=35.3mPa・s.
【0195】
[使用例2]
2−HB−C (5−1) 5%
3−HB−C (5−1) 12%
3−HB−O2 (13−5) 18%
3−HHB−F (3−1) 4%
3−HHB−1 (14−1) 8%
3−HHB−O1 (14−1) 5%
3−HHB−3 (14−1) 14%
3−HHEB−F (3−10) 4%
5−HHEB−F (3−10) 4%
2−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F)−F (3−2) 7%
5−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (3−3) 5%
上記組成物に下記化合物(No.228)を0.25重量%の割合で添加した。

NI=100.7℃;Δn=0.095;Δε=4.5;η=18.1mPa・s.
【0196】
[使用例3]
2−HH−5 (13−1) 3%
3−HH−4 (13−1) 15%
3−HH−5 (13−1) 4%
3−HB−O2 (13−5) 12%
3−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
5−H2B(2F,3F)−O2 (6−4) 15%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 5%
3−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 12%
5−HBB(2F,3F)−O2 (7−7) 9%
3−HHB−1 (14−1) 3%
3−HHB−3 (14−1) 4%
3−HHB−O1 (14−1) 3%
上記組成物に下記化合物(No.13)を0.2重量%の割合で添加した。

NI=76.5℃;Δn=0.093;Δε=−4.1;η=19.4mPa・s.
【0197】
[使用例4]
2−HH−3 (13−1) 16%
3−HH−V (13−1) 5%
7−HB−1 (13−5) 5%
5−HB−O2 (13−5) 8%
3−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 17%
5−HB(2F,3F)−O2 (6−1) 16%
3−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 3%
4−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 3%
5−HHB(2F,3CL)−O2 (7−12) 2%
3−HH1OCro(7F,8F)−5 (10−6) 5%
5−HBB(F)B−2 (15−5) 10%
5−HBB(F)B−3 (15−5) 10%
上記組成物に下記化合物(No.163)を0.3重量%の割合で添加した。

NI=78.1℃;Δn=0.103;Δε=−2.5;η=22.0mPa・s.
【0198】
[使用例5]
5−HB−CL (2−2) 13%
3−HH−4 (13−1) 12%
3−HH−5 (13−1) 7%
3−HHB−F (3−1) 4%
3−HHB−CL (3−1) 3%
4−HHB−CL (3−1) 4%
3−HHB(F)−F (3−2) 10%
4−HHB(F)−F (3−2) 9%
5−HHB(F)−F (3−2) 9%
7−HHB(F)−F (3−2) 8%
5−HBB(F)−F (3−23) 4%
1O1−HBBH−5 (15−1) 3%
3−HHBB(F,F)−F (4−6) 2%
4−HHBB(F,F)−F (4−6) 3%
5−HHBB(F,F)−F (4−6) 3%
3−HH2BB(F,F)−F (4−15) 3%
4−HH2BB(F,F)−F (4−15) 3%
上記組成物に下記化合物(No.205)を0.2重量%の割合で添加した。

NI=117.3℃;Δn=0.090;Δε=3.6;η=19.3mPa・s.
【0199】
[使用例6]
5−HB−CL (2−2) 11%
3−HH−4 (13−1) 8%
3−HHB−1 (14−1) 8%
3−HHB(F,F)−F (3−3) 8%
3−HBB(F,F)−F (3−24) 20%
5−HBB(F,F)−F (3−24) 15%
3−HHEB(F,F)−F (3−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (3−12) 3%
5−HHEB(F,F)−F (3−12) 3%
2−HBEB(F,F)−F (3−39) 3%
3−HBEB(F,F)−F (3−39) 5%
5−HBEB(F,F)−F (3−39) 3%
3−HHBB(F,F)−F (4−6) 3%
上記組成物に下記化合物(No.1)を0.4重量%の割合で添加した。

NI=79.3℃;Δn=0.102;Δε=8.4;η=20.9mPa・s.
【0200】
[使用例7]
5−HB−CL (2−2) 15%
7−HB(F,F)−F (2−4) 3%
3−HH−4 (13−1) 10%
3−HH−5 (13−1) 5%
3−HB−O2 (13−5) 15%
3−HHB−1 (14−1) 8%
3−HHB−O1 (14−1) 5%
2−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F)−F (3−2) 7%
5−HHB(F)−F (3−2) 7%
3−HHB(F,F)−F (3−3) 6%
3−H2HB(F,F)−F (3−15) 7%
4−H2HB(F,F)−F (3−15) 5%
上記組成物に下記化合物(No.228)を0.35重量%の割合で添加した。

NI=72.3℃;Δn=0.074;Δε=2.9;η=14.3mPa・s.
【0201】
[使用例8]
5−HB−CL (2−2) 6%
7−HB(F)−F (2−3) 4%
3−HH−4 (13−1) 9%
3−HH−EMe (13−2) 23%
3−HHEB−F (3−10) 8%
5−HHEB−F (3−10) 8%
3−HHEB(F,F)−F (3−12) 10%
4−HHEB(F,F)−F (3−12) 5%
4−HGB(F,F)−F (3−103) 5%
5−HGB(F,F)−F (3−103) 6%
2−H2GB(F,F)−F (3−106) 4%
3−H2GB(F,F)−F (3−106) 5%
5−GHB(F,F)−F (3−109) 7%
上記組成物に下記化合物(No.13)を0.15重量%の割合で添加した。

NI=80.9℃;Δn=0.066;Δε=5.7;η=19.9mPa・s.
【0202】
[使用例9]
1−BB−3 (13−8) 10%
3−HH−V (13−1) 26%
3−HB−O2 (13−5) 3%
3−BB(2F,3F)−O2 (6−3) 13%
2−HH1OB(2F,3F)−O2 (7−5) 14%
3−HH1OB(2F,3F)−O2 (7−5) 20%
3−HHB−1 (14−1) 8%
5−B(F)BB−2 (14−8) 6%
上記組成物に下記化合物(No.164)を0.25重量%の割合で添加した。

NI=74.3℃;Δn=0.108;Δε=−3.1;η=15.4mPa・s.
【0203】
[使用例10]
3−GB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (4−57) 5%
5−HB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (4−41) 3%
3−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (4−47) 3%
4−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (4−47) 7%
5−BB(F)B(F,F)XB(F,F)−F (4−47) 3%
3−HH−V (13−1) 41%
3−HH−V1 (13−1) 7%
3−HHEH−5 (14−13) 3%
3−HHB−1 (14−1) 4%
V−HHB−1 (14−1) 5%
V2−BB(F)B−1 (14−6) 5%
1V2−BB−F (2−1) 3%
3−BB(F,F)XB(F,F)−F (3−97) 3%
3−GB(F,F)XB(F,F)−F (3−113) 5%
3−HHBB(F,F)−F (4−6) 3%
上記組成物に下記化合物(No.222)を0.3重量%の割合で添加した。

NI=84.4℃;Δn=0.104;Δε=7.4;η=13.5mPa・s.
【産業上の利用可能性】
【0204】
化合物(1)と液晶組成物とを含む重合性組成物を重合させることによって、PSAなどのモードを有する液晶表示素子を作製することができる。この重合性化合物は、光学異方性体の原料として用いることもできる。