(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る波長変換部材の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張して示すことがある。さらに、以下の説明において、同一の名称、符号については同一若しくは同質の部材を示しており、説明を適宜省略する。
【0016】
(波長変換部材1)
図1に示すように、波長変換部材1は、発光素子20の光取り出し側に配置され(
図2参照)、発光素子20から出射された光の波長を長波長に変換するためのものである。
波長変換部材1は、貫通孔3が形成された平板状の波長変換板2と、貫通孔3を臨む波長変換板2の内周面2aに固着する透明層4と、貫通孔3内に設けられたビアフィル電極5とを備え、各構成が一体となった部材である。
【0017】
(波長変換板2)
波長変換板2は、ガラス、セラミックス、樹脂などの光透過性を有する母材に、蛍光体、蛍光顔料、蛍光染料(以下、これらを総称して「蛍光体」という)を混合してなるもの、又は母材を用いることなく蛍光体のみを焼結してなるものである。
【0018】
(貫通孔3)
貫通孔3は、波長変換板2内にビアフィル電極5を形成するための孔であり、波長変換板2の板厚方向に貫通している。貫通孔3が形成される位置は、波長変換部材1を発光素子の光取り出し側に配置した場合、発光素子20のパッド電極25に対応するようになっている(
図2参照)。
【0019】
(透明層4)
図1に示すように、透明層4は、波長変換板2の内周面2aに固着して、内周面2aを被覆する層である。
透明層4は、波長変換板2がガラス、セラミックス、樹脂などの母材を含んで構成されている場合、母材の屈折率よりも屈折率が低い材料で構成されている。または、波長変換板2が母材を用いることなく蛍光体のみを焼結してなる場合、透明層4は、たとえばYAGなどの蛍光体そのもののよりも屈折率が低い材料で構成されている。
この透明層4によれば、波長変換板2の内部にからビアフィル電極5に向かう光が、波長変換板2の内周面2aと透明層4との界面で全反射し易くなる(
図2に示す矢印Aを参照)。このため、ビアフィル電極5に向かって光が照射されても、ビアフィル電極5に吸収される光量が抑制される。この結果、波長変換板2の光取り出し量の低減を抑制することができる。
なお、透明層4を構成する材料としては、たとえばMgF
2、SiO
2などが挙げられる。また、透明層4の厚みは、少なくとも0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以上である。
【0020】
(ビアフィル電極5)
図1に示すように、ビアフィル電極5は、導電性材料を貫通孔3に充填することで形成された電極である。このため、波長変換板2の貫通孔3内が導電性材料で塞がれており、ビアフィル電極5と波長変換板2との間に隙間が生じないようになっている。
また、ビアフィル電極5は、貫通孔3に沿って上下方向に延びている。このため、ビアフィル電極5の上面は、波長変換板2の上面側に露出し、ワイヤボンディングを行うことができるようになっている(
図2参照)。一方で、ビアフィル電極5の下面は、波長変換板2の下面側に露出し、発光素子の電極との接合可能となっている(
図2参照)。
【0021】
つぎに、波長変換部材1を用いた発光装置30について説明する。
図2に示すように、発光装置30は、光取り出し側にパッド電極24、24を有する発光素子20と、発光素子20の光取り出し側に配置された波長変換部材1と、パッド電極24、24とビアフィル電極5,5との間に設けられた金属接合部25、25と、発光素子20と波長変換部材1との間に充填された透明樹脂層26とを備えている。
【0022】
(発光素子20)
発光素子20は、図示しない基板上に設けられたn型半導体層21と、n型半導体層場に設けられた活性層22と、活性層22上に設けられたp型半導体層23と、n型半導体層21とp型半導体層23とのそれぞれに設けられた一対のパッド電極24、24とを備えている。
なお、実施形態の発光素子20では、パッド電極24、24が光取り出し側にあるフェイスアップ型となっているが本発明はこれに限定されず、電極が上下に分かれて配置される張り合わせ型であってもよい。
【0023】
金属接合部25は、発光素子20のパッド電極24の上面と波長変換部材1のビアフィル電極5の下面とに金属接合して、パッド電極24とビアフィル電極5とを電気的に接続させるためのものである。
また、透明樹脂層26は、発光素子20と波長変換部材1とのそれぞれに接着して、発光素子20と波長変換部材1との接合を強固とするためのものである。これによれば、金属接合部25によるビアフィル電極5とパッド電極24との電気的接続が断絶し難くすることができる。
以上の構成により、光取り出し側に設けられたパッド電極24と、波長変換部材1の表面側に配置されるワイヤWとを電気的に接続することができる。
【0024】
(波長変換部材1の製造方法)
実施形態に係る波長変換部材1の製造方法について説明する。
まず、波長変換板2の製造について説明する。波長変換板2は、製造効率の向上を図るために、
図3に示すように複数の波長変換板2を含む大きさの波長変換原板10をダイシング加工することで所望の大きさの波長変換板2を得ることができる。
本発明では、波長変換原板10をダイシング加工する時期について特に限定されない。すなわち、波長変換原板10に透明層4とビアフィル電極5を形成した後に、波長変換原板10をダイシング加工してもよい。あるいは、波長変換原板10をダイシング加工した後に、その波長変換原板10に透明層4とビアフィル電極5を形成してもよい。以下では、波長変換原板10に透明層4、ビアフィル電極5を形成した後に、波長変換原板10をダイシング加工する場合について説明する。
【0025】
つぎに、
図3に示すように、波長変換原板10の板厚方向に貫通する貫通孔3を形成する。貫通孔3の形成方法として、切削加工、ショットブラスト、レーザ加工などが挙げられる。なお、貫通孔3の形状に関し、本発明においては特に限定されないが、後述するように波長変換原板10の内周面2aに透明層4や後記するシード層を形成し易くするために、貫通孔3をテーパ状としても良い。
【0026】
つぎに、貫通孔3を臨む波長変換原板10の内周面2aに透明層4を形成する(
図1参照)。透明層4の形成方法として、スピンオングラス塗布、CVD(Chemical Vapor Deposition)、ALD(Atomic Layer Deposition)、スパッタ、蒸着のいずれかの成膜方法が挙げられる。
また、透明層4の内周面側は、ビアフィル電極5を形成するための内部空間が存在している必要がある。そのため、上記する成膜方法により、透明層4の内部空間が狭小となっている場合には、所望の大きさとなるように透明層4の内周面側を切削加工してもよい。
そのほか、透明層4の形成方法としては、スピンオングラス塗布、CVD,ALD、スパッタ、蒸着などの方法で貫通孔3を塞ぎ、その後に切削加工によりビアフィル電極5を形成するための内部空間を形成する方法が挙げられる。
【0027】
つぎに、波長変換原板10の貫通孔3に導電性材料を充填してビアフィル電極5を形成する(
図1参照)。ビアフィル電極5を形成するために導電性材料を充填する方法として、つぎの2通りが挙げられる。
【0028】
導電性材料を貫通孔3に充填する第1の方法として、CVD、スパッタ、蒸着などにより透明層4の内周面に図示しないシード層を形成し、その後、めっき処理によりシード層の内周面に導電性材料を付着させ、貫通孔3を塞ぐ方法が挙げられる。
なお、導電性材料から構成される部分に光が吸収されることを抑制するために、シード層がAl、Agなどの高反射の金属から構成されることが好ましい。また、このシード層は、特許請求の範囲に記載される「金属層」に含まれるものである。
【0029】
導電性材料を貫通孔3に充填する第2の方法として、導電性材料を含む導電性ペーストにて貫通孔3を塞ぎ、その後に焼成する方法がある。また、波長変換板2の母材としてガラス、セラミックを用いる場合において、波長変換板2の母材であるガラス、セラミックの焼成時に、上記貫通孔3内に充填させた導電性ペーストの焼成を併せて行ってもよい。
また、第2の方法によりビアフィル電極5を形成する場合であっても、導電性材料から構成される部分に光が吸収されることを抑制するために、CVD、スパッタ、蒸着などによりAl、Agなどの高反射の金属を用いて金属層を形成してもよい。
【0030】
つぎに、ビアフィル電極5を波長変換原板10に形成した後に、波長変換原板10の表裏面を研磨し、仕上げる。
そして、ワイヤボンディングによる金属接合を容易するため、仕上げ後の波長変換原板10のビアフィル電極5の上面に、金、銀、銅、白金、又はこれらの合金のフラッシュめっきやキャップパターン形成を行い、ボンディングパッド27(
図2、
図4参照)を形成する。なお、本発明において、ボンディングパッド27を形成する工程は、後記する発光装置30の製造方法で行ってもよい工程である。
つぎに、波長変換原板10をダイシング加工することで所望の大きさの波長変換板2が形成され、
図1に示すような個片化された波長変換部材1を製造できる。なお、
図2に示すように、波長変換部材1は、発光素子20よりも大きくなるようにダイシング加工され、発光素子20の光取り出し側を覆うように構成されている。
さらに、波長変換原板10をダイシング加工する際に、ビアフィル電極5に接するように切削することで、外周端部側に電極が配置された波長変換部材1を製造することができる。
【0031】
以上、説明した実施形態では、波長変換原板10のみのダイシング加工により、波長変換部材1を製造する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、波長変換原板10を、半導体層の成長用基板上に複数の発光素子20が設けられた発光素子群に接着し固定した後に、波長変換原板10と、半導体層や成長用基板とを一緒にダイシング加工して発光素子および波長変換部材を備えた発光装置を製造することにより、その発光装置の一部として波長変換部材1が製造されることとしてもよい。これによれば、ダイシング加工が一回で済み、生産効率を高めることができる。
【0032】
(発光装置30の製造方法)
次に、波長変換原板10と、半導体層の成長用の基板上に複数の発光素子20が設けられた発光素子群とを用いて、発光装置30を製造する製造方法について、図面を参照しながら説明する。発光装置30の製造方法は、金属接合工程と、接着工程と、ダイシング工程と、ワイヤボンディング工程とを含む。
【0033】
(金属接合工程)
図4に示すように、金属接合工程は、波長変換原板10のビアフィル電極5と発光素子群のパッド電極24との間に金属接合部25を形成することで、ビアフィル電極5とパッド電極24とを金属接合させるための工程である。
金属接合工程は、まず、ビアフィル電極5の下面と一対のパッド電極24の上面とのそれぞれに、突起上の金属であるバンプを形成する。つぎに、ビアフィル電極5の下面とパッド電極24の上面とが当接するように波長変換原板10と発光素子群とを重ね合わせ、加熱処理によりバンプを溶融させる。つぎに、バンブを凝固させることで、
図3に示すように、ビアフィル電極5の下面とパッド電極24の上面とに固着する金属接合部25が形成される。
【0034】
(接着工程)
図5に示すように、接着工程は、発光素子20と波長変換原板10との隙間に透明樹脂層26を形成することで、発光素子20と波長変換原板10とを接着させるための工程である。接着工程は、まず、熱硬化型のエポキシ樹脂などのアンダーフィル材を発光素子20のn型半導体層21上に塗布し、毛細管現象により発光素子20と波長変換原板10との隙間に浸透させる。そして、加熱処理を行ってアンダーフィル材を硬化させることで、
図4に示すように、発光素子20と波長変換原板10とに固着した透明樹脂層26が形成される。
【0035】
(ダイシング工程)
図2に示すように、ダイシング工程は、ダイシングブレードにより、一体化された発光素子20と波長変換原板10とを所定の大きさに切り分けて個片化して、発光装置30が製造される。
【0036】
(ワイヤボンディング工程)
ワイヤボンディング工程は、
図2に示すように、ワイヤWの両端をビアフィル電極5の上面と外部電源とに接合することで、発光素子20と外部電源を電気的に接続させるための工程である。
ワイヤWの接合方法として、ビアフィル電極5の上面のボンディングパッド27にワイヤWの一端を当てて、加熱しながら上方から加圧するとともに超音波振動を加える方法が挙げられる。これによれば、ボンディングパッド27とワイヤWとを接合するボールBが形成される。なお、ワイヤWの素材としては、金、銀、銅、白金、又はこれらの合金が挙げられる。
【0037】
以上、実施形態に係る波長変換部材1によれば、波長変換板2とビアフィル電極5との間に隙間がないため、ビアフィル電極5周辺から未変換の光が漏出するおそれがない。
また、実施形態に係る波長変換部材1によれば、1枚の波長変換板2により構成されているため、従来技術で説明したような複数の波長変換板2の繋ぎ目から未変換の光が漏出するおそれがない。
よって、実施形態に係る波長変換部材1によれば、未変換の光が漏出するということが抑制される。
【0038】
また、実施形態に係る波長変換部材1によれば、ボンディングパッド27が形成されるビアフィル電極5の上面が波長変換部材1の上面側に位置している。
そのため、波長変換部材1を発光素子20に接着固定させるために、波長変換部材1の下面側や発光素子20の光取り出し面に接着材を塗布しても、ビアフィル電極5の上面に接着材が付着するおそれがない。
よって、実施形態に係る波長変換部材1によれば、ボンディングパッド27が汚染することが抑制され、ワイヤWが接着しないという事態を回避できるようになっている。
【0039】
また、実施形態に係る波長変換部材1によれば、ビアフィル電極5周辺から未変換の光が漏出するおそれがないとともに、外周端部側に電極が配置された波長変換部材1を製造することができる。そのため、パッド電極24、24を発光素子20の外周端部側に設けることができないという問題が解消される。
【0040】
以上、実施形態について説明したが、本発明は実施形態で示した例に限定されるものではない。たとえば、実施形態では、一対のパッド電極24、24が光取り出し側(上面側)に設けられたフェイスアップ型の発光素子20を用いているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、上面側と下面側とに電極を備えた上下導通型の発光素子であってもよい。
なお、上下導通型の発光素子の例として、支持基板31が張り合わせられた貼り合わせ型の発光素子20a(
図7参照)や、上面側に設けられたパッド電極が一つのためボンディングされるワイヤが一つであるワンワイヤ型の発光素子20b(
図8参照)が挙げられる。
構成についてより詳細に説明すると、貼り合わせ型の発光素子20aとして、支持基板31上に反射電極32と、p型半導体層23aと、活性層22aと、n型半導体層21aと、保護層33とが順に積層され、さらに、n型半導体層23aの上面に、複数のnパッド電極34、34が設けられているものが挙げられる。
また、ワンワイヤ型の発光素子20bは、下方から順に、反射電極35と、n型半導体21bと、活性層22bと、p型半導体層23bと、全面電極36と、pパッド電極37とが積層されてなるものが挙げられる。
そして、本発明に係る波長変換部材1を、貼り合わせ型の発光素子20aやワンワイヤ型の発光素子20bに組み合せて発光装置を製造する方法によっても、未変換の光の漏出が抑えられた発光装置を提供することができ、ボンディングパッド27の汚染を回避できる。
そのほか、上述の貼り合わせ型の発光素子20aやワンワイヤ型の発光素子20bを用いた場合であっても、光の取り出し効率の観点から、金属接合後に発光素子と波長変換部材1との間に樹脂を充填することが望ましい。
【0041】
また、実施形態では、ビアフィル電極5の下面とパッド電極24の上面との間に金属接合部25を設けることで、波長変換部材1の電極面と発光素子20の電極面とを接合させているが、本発明はこれに限定されない。
さらに、実施形態では、波長変換板2の下面と半導体構造の上面との間に透明樹脂層26を設けることで、波長変換部材1の非電極面と発光素子20の非電極面とを接合させているが、本発明はこれに限定されない。
たとえば、
図6に示すように、波長変換部材1の電極面及び非電極面を、発光素子20の電極面及び非電極面に直接接合させて、発光装置30を製造してもよい。ここで、直接接合とは、表面活性化接合、原子拡散接合、水酸基接合等の常温接合法を指す。
なお、表面活性接合とは、接合面を真空中で表面処理することで接合面の原子が化学結合を形成しやすい活性な状態にし、重ね合わせて接合させる方法を指す。
原子拡散接合は、接合面に超高真空中で微細結晶膜を形成し、その微細結晶膜を真空中で重ね合わせることで接合させる方法を指す。
水酸基接合とは、薄い酸化膜が形成された接合面に多数の水酸基を付着させて親水化処理し、そして、親水化処理した接合面同士を重ね合わせて接合させる方法を指す。
ただし、直接接合させる場合には、発光素子20の上面側の平坦化を図るために、埋め込み材を埋め込み、パッド電極24、24の上面と同じ高さの埋め込み層28を形成する必要がある。この場合、埋め込み層28としては、SiO
2、SiO
xN
(1−x)、Al
2O
3などの透明な中屈折材料が挙げられる。
または、埋め込み層28の代わりに、パッド電極24の上面と同じ高さ保護層が形成されて平坦化された発光素子を用いて、波長変換部材1と直接接合させてもよい。この直接接合により、発光素子から蛍光体層への光取り込みの向上、蛍光体の放熱向上を図ることができ、結果として明るさを向上させることができる。また、発光素子直上の樹脂材料が無くなることにより、短波の励起光による光劣化が抑制され、長寿命の発光素子を得ることができる。